『ひょひょいの憑依っ!』Act.12


玄関に立つ眼帯娘を目にするなり、金糸雀は凍りついてしまいました。
そんな彼女に、「おいすー」と気の抜けた挨拶をして、右手を挙げる眼帯娘。
ですが、暢気な口調に反して、彼女の隻眼は冷たく金糸雀を射竦めています。

「あ、貴女……どうし……て」

辛うじて訊ねた金糸雀に、眼帯娘は嘲笑を返して、土足で廊下に上がりました。
ヒールの高いブーツが、どかり! と、フローリングを踏み鳴らす。
その重々しい音は、ピリピリした威圧感を、金糸雀にもたらしました。


「……お久しぶり。元気そう……ね?」

どかり……どかり……。
眼帯娘は、一歩、また一歩と、竦み上がったままの金糸雀に近づきます。
妖しい笑みを湛えた唇を、ちろりと舌で舐める仕種が、艶めかしい。
その眼差しは、小さな鳥を狙うネコのように、爛々と輝いて――

「……イヤ。こ、こないで……かしら」

金糸雀にとっては、眼帯娘の一挙一動に至るまで畏怖の対象らしく、
ガクガク震える脚を、なんとか気力で動かし、後ずさろうとします。

そんな金糸雀の足掻きに憫笑を送りながら、眼帯娘は、早足に間合いを詰めました。
黒いローブを割って、白い細腕が、するすると金糸雀の頚へと伸びてくる。
とうとう恐怖に堪えられなくなった彼女は、悲鳴を上げて踵を返すと、
這々の体でリビングに駆け込み、ベランダへと逃れようとしたのです。


脚が縺れる。ベランダに続く窓が遠い。この部屋、こんなに広かった?
金糸雀は歯を食いしばって、目一杯、腕を伸ばします。

しかし――
フローリングの床から、突如として紫水晶の柱がザクザクと林立して、
金糸雀の行く手を遮断してしまいました。
ばかりか、ビックリして立ち竦んだ金糸雀の左右にも、水晶柱の壁が構築され、
彼女はすっかり退路を断たれてしまったのです。

残る脱出路は、もう眼帯娘を倒して、切り開くしかありません。
ハッキリ言って、勝算は、限りなくゼロに近い。
しかし、それでも……
もう一度、ジュンに逢って、幸せな愛の夢を見続けるためには、やるしかない。

「行くかしら、ピチカート!」

いつでも彼女に従順な火の玉が、火勢を強めて、眼帯娘に迫ります。
けれど、当の眼帯娘は薄ら笑ったまま、左手ひとつで火の玉を鷲掴みにして、
呆気なく……本当に止める暇もなく、ぷちっ! と、握り潰してしまいました。
かつて、金糸雀が真紅にした仕打ちと、同じコトを。

「イヤぁぁぁっ!!」

彼女にとって、ピチカートは単なる火の玉ではなく、たった一人の親友でした。
その親友が、いま……目の前で、無惨に消されてしまったのです。
金糸雀は悲痛な叫びをあげて、ぺたりと腰を落としてしまいました。
喘ぐように開けた口を閉ざすことも忘れた彼女に浴びせられる、眼帯娘の声。

「まだ……未練があるの?」

その声は、我が子に訊ねる母親のように穏やか、かつ、威厳に満ちて、
裏側に『もう諦めなさい』というニュアンスが縫いつけてありました。


「貴女が懇願したから…………私は、5年の猶予を与えた。
 もう……充分でしょう?」
「……そのコトについては、感謝……してるかしら」

我に返った彼女は、呻きながら応じました。

――5年前、不慮の事故によって、身体を失ってしまった金糸雀。
本来ならば、彼女の魂は、戻るべき場所に連れて行かれるハズでした。
けれど、金糸雀とて、ステキな恋愛を夢見る女の子。
若い身空で、恋のひとつもできずに死んでしまったことが、心残りだったのです。

それ故に、あの時、目の前に現れた眼帯娘に、金糸雀は嘆願しました。
いま暫く、恋をする時間を与えて欲しい――と。


「でも、カナは……まだ逝きたくなんてないかしらっ!
 やっと……やっと、カナと対等に付き合ってくれる彼と、巡り会えたの。
 ずっと待ち望んでた幸せな恋に、この指が触れたんだからっ」

金糸雀は血を吐きそうなほど叫んで、形振り構わず、眼帯娘の脚に縋りました。

「お願いかしらっ! もう少しだけ……1日だけでいいから、待ってっ!
 それがダメなら、せめてジュンが帰ってくるまで、待ってっ!
 このまま消えるのはイヤかしらっ! まだ消えたくないかしらっ!
 ジュンと、もう一度だけ、お喋りする時間が欲しいかしらぁっ!」

涙を流し、必死に喚き散らす彼女を見下して、眼帯娘は――
ふっ……と鼻で吐息するや、いきなり金糸雀を蹴り飛ばしたのです。
金糸雀はアメジストの柱に背中を打ち付けて、小さな悲鳴をあげました。


「愉しい戯れの時間は……おしまい。いい夢……見れたでしょ?」


言って、黒いローブから突き出された眼帯娘の手に、光の粒子が集まり、
一秒の後には、巨大な草刈り鎌を象っていました。
その刃は、アメジストの如く、鋭く冷たく透き通っています。

「貴女は――」
金色の隻眼が、ギラリと光るやいなや、金糸雀は身動きを封じられてしまいました。
「恋愛の真似事がしたいばかりに……『恋』と名付けた妄想を……愛でていただけ。
 そして、結果を焦るあまり……禁忌に触れた。到底、看過できない……禁忌に」

禁忌。それは、何について宛われた言葉なのか?
なんとなく、金糸雀には、予想がつきました。

「真紅の身体を、奪おうとしたコト――かしら?」
「そう。貴女は……彼女を傷つけた。
 彼が大切に想っていた存在に……危害を加えた」
「だ、だって……そうしなきゃ、カナはジュンと一緒に居られないから――」
「まだ……解らないの? 可哀相……貴女は、とても」

そう告げた声には、蔑みも、呆れも、嘲りすらもなく、
哀憐の情ただ一色に彩られておりました。

「貴女は、身勝手な欲望によって……彼の愛する者を奪おうとした。
 それは彼のココロを抉り、傷つけるコトなのに……罪悪感すら、抱かなかった」
「だ、だけどっ! カナにはもう、それしか方法がなかったかしら!
 ジュンの隣で幸せに暮らすためには、もう、それしか――」
「……ウソつき。貴女は、ただ……真紅のことが嫌いだっただけ。
 彼女は……知性も、財力も、美貌も……貴女にないモノ全てを、持っていたから。
 だから貴女は……羨んで、妬んで、憎悪した。
 彼の側に居るためと、自分すら偽って……真紅から、全てを奪おうとした」
「そんなっ! 違うかしらっ!」

金糸雀は、ブンブンと頭を振って否定しますが、すぐにチカラを失いました。
眼帯娘に言われるまでもなく、彼女自身、薄々と気づいていたのです。
真紅に抱いていた敵愾心の、本当の理由を。

こんなにも醜い自分の性根が、どうしようもなく恥ずかしくて、
がっくりと項垂れた金糸雀は、確かに――と。
嗚咽に肩を震わせながら、苦しげに言葉を絞り出しました。

「確かに、最初は……ただの恋愛ゴッコだったかも知れないかしら。
 でも、ジュンのことを知るほど……彼の優しさに触れるほど……
 カナは本気で、ジュンと一緒に居たいと思うようになったかしら。
 この気持ちは、絶対に、妄想や錯覚なんかじゃないかしらっ!」
「…………貴女に、誰かを愛する資格なんて……無い」


冷たく言い捨てて、眼帯娘は巨大な草刈り鎌を、高々と振り翳す。

「私は言った。あまり……深入りしない方が、いい……と。
 でも、貴女たちには目先にある『たまご焼き』しか……見ていなかった。
 ふんわりふわふわ……恋と言う名の、甘~い『たまご焼き』しか、ね。
 優しさの安売りが、互いのココロを形骸に変えると教えたのに……
 貴女たちは、私の忠告を聞かずに……馴れ合いを続けた」

眼帯娘は、珍しく饒舌になったことで息苦しくなったのか、
口を噤んで、深く息を吸い込みました。
夜のしじまに、異様なほど大きく響き渡ったその音は、
もしかしたら、眼帯娘の歎息だったのかも知れません。


「でも――彼は気付いた。その『たまご焼き』が……いつか腐ることに。
 だから……彼は捨てようとした。餓えていた貴女は、食べちゃったけどね」
 
そう。ジュンは、めぐと水銀燈に依頼して、金糸雀を祓おうとした。
あの時、金糸雀は既に、恋という甘い『たまご焼き』を口にしていたとも悟らずに。
結果、もたらされたのが、この現実でした。

「私が彼に渡した、あの……お人形。
 貴女は……あの身体を得て、人形として生きる道で……満足すべきだった。
 彼も、ただの人形として……貴女を愛でるべきだった。
 それなのに……眠れる稚児は、起きてしまった。
 幸福を掴もうとして……腕を伸ばした先に、奈落があるとも知らないで」

金糸雀は、項垂れていたアタマを、億劫そうに上げました。
「カナにはもう……チャンスは与えられないの?」

その問いに、眼帯娘は、こくんと頷く。
「言ったでしょう。そろそろ……夢の終わり。眠りを覚ます夜明けは、必ず訪れる。
 貴女は今まで、ずっと……ただ『愛の夢』を見てきただけ。
 ホントは全て……5年前に終わっていた。
 私が、情にほだされ……貴女に猶予さえ与えなければ……それで」

でも、死者の魂を導く役目を司る彼女も、やはり女の子でした。
金糸雀の気持ちが、痛いほど解ってしまうから、非情に徹しきれなかったのです。

そうね。金糸雀は相槌を打つと、涙に濡れた瞳で、眼帯娘を見据えました。
口元には、清々しいほどの微笑みを浮かべながら。
瞳の奥には、黒々とした炎を、燃え上がらせながら。

「元はと言えば、カナが頼んだことだけど……
 そんな筋合いじゃないって、解ってるけれど……
 だけど……カナは――――貴女を怨むかしら。
 こんなにも辛く、苦い夢に遭わせた貴女を、ココロの底から憎むかしら」
「…………ごめん…………なさい」


眼帯娘の唇から、ブツ切りの謝辞が零れた直後――
ひゅっ! 空を斬る音がして、巨大な草刈り鎌が、振り下ろされました。
それは、あやまたず金糸雀の鳩尾を刺し貫いて、
彼女が背にしていた水晶柱を、数多の結晶に変えてしまったのです。

ほどなく、金糸雀の姿は、砕け散った水晶柱と同様に、
小さな光の粒子になって散り始めました。


「あ…………あぁ…………。
 ジュン…………カナ、は……本……当…………好」

言葉に出来たのは、そこまで。
金糸雀の身体が、彼女の未練を代弁するように、ひときわ輝いた直後――
すべては春の夜のホタルみたいに、幻と消えてしまったのです。


「死者の想いが辿る先は…………いつだって同じ。
 どうせ叶わぬ恋なのに、ね」

紡がれた眼帯娘の声は、涙声でした。
でも、彼女の頬は、決して濡れることなく――

「……『愛の夢』3つの夜想曲。その旋律は……夢見るように」

ポツリと口にすると同時に、草刈り鎌を宙に融かしました。
そして、ローブの裾をバサリと翻し、くるりと踵を返すと、
高らかにブーツのヒールを鳴らしながら、玄関に向かったのです。

「さあ……行きましょう。貴女が……居るべき場所へ」

玄関のドアを開ける矢先、惨劇の現場を振り返ることなく、彼女が囁く。
すると、彼女の黒いローブが、ふわり……と揺れました。

――風もないのに。




その頃、めぐは、

「あったわよ、水銀燈。『愛の夢 3つの夜想曲』について」

帰宅するなりパソコンで検索をかけて、答えに辿り着いていました。
あまりにもアッサリ見付かって、拍子抜けするほどでしたが、
裏を返せば、それだけ有名と言うことなのでしょう。

「元々は歌曲で、第一番、第二番は、ドイツの詩人ウーラントの作詩ですって。
 第三番だけが、フライリヒラートの詩なのね」
「誰の作だって良いわよ。問題は、そこに何の意味があるかってことでしょぉ?
 特に、私たちが言われた『第一番』の意味が、ねぇ」
「あ、そうよね。ええっと――
 第一番は【高貴なる愛】というサブタイトルよ。
 『地上の幸福を捨て、天上の愛を求めて生きる』って意味らしいわ」

あの眼帯娘が、めぐと水銀燈を『第一番』と呼んだのは、つまり……
人間と禍魂の関係に、詩の意味を当てはめてのコトでしょう。
とすると、残り二曲の意味も、気になってしまいます。

「最初に、彼女が言ってた『第三番』は【おお、愛し得る限り愛せ】ね。
 要は、死が二人を分かつ時まで、愛せる限り、懸命に愛し合えって意味よ。
 あらまぁ、なかなかに意味深長だこと」
「…………なによ、その物欲しげな流し目は。バカじゃない?」
「あちゃー。水銀燈ったら、イケズぅ~。
 ……とまあ、冗談はさておき、第二番は――――え? なに……これ」
「なぁに? イカレた貴女が驚くほど、イカレたことでも書いてあ――」

液晶ディスプレイを覗き込むなり、水銀燈は言いかけた台詞を引っこめて、
めぐと神妙な顔を突き合わせました。
そこに浮かぶ、ひどく物騒な単語。

  【私は死んだ】

その詩が歌う内容は――

  『私は死ぬことによって、あの人の腕に抱かれ、愛の夢を見る』




それから、更に数時間が経った明け方。
ジュンは、眠っている真紅を起こさないようにベッドを抜け出して、
静かに彼女の部屋を出ました。
このマンションは、全室オートロックなので、ドアを閉めれば勝手に施錠されます。


「なんか……まだ、夢を見てるみたいだ」

言って、ジュンは締まりなく相好を崩しました。
我ながら、だらしないと思うのですが、どうにも幸せすぎて、
口元のニヤケを、堪えることが出来ません。

「巧く言えないけど、この感覚は……嬉しくて怖いな」

今までも、ジュンにとって真紅は『特別』な存在でした。
しかし、それは親友としての『特別』という意味で、早い話が筒井筒。
より以上の、性別に起因する強い絆とは、根本的に違っていたのです。
昨夜、二人して人生の分水嶺を越えるまでは――

「これからは、もっと頑張らなきゃいけないんだよな、僕は」

一度でも手にしたモノは、失いたくない。それは、素直なワガママ。
真紅が言っていた、3つの見えない翼を持つモノが、思い出されます。
『お金』と『人のココロ』と『幸福』と。


  『人のココロ』は目を離すと、すぐに飛び去ってしまう。

それは多分、本質でしょう。この世界に数多ある定義を保証する、ひとつの本質。
言うなれば【1+1=2】を証明する、数学的定理。

本質は不変。つまり、人の心変わりもまた、避けられないと言うこと。
故に、ずっと真紅に好きでいてもらいたければ、今よりもっと彼女を好きになって、
あらゆる幸せを分かち合う努力を、続けなければなりません。
愛は、甘いばかりの恋と違って、苦みも渋みもある味わい深いものですから。


「差し当たって、まずは金糸雀とのこと……か」

災い転じて福となす――ではありませんが、縁は異なモノ、味なモノ。
なにが禍福を決めるファクターとなり得るか、なかなか判らないモノです。
真紅との関係も、金糸雀が居てくれたからこそ、転機が訪れたのでしょう。
彼女に出逢わなかったら、おそらく今も、ジュンと真紅は平行線のまま、
くっつくことも、離れることも、なかったハズですから。
その意味では、金糸雀はキューピッドでした。御礼ぐらいは、すべきかも。

「……手ぶらで帰るのは、気が引けるな」

独りごちて、ジュンはコンビニに立ち寄り、出汁巻き卵と線香を買いました。
真紅の部屋から、忽然と居なくなってしまった彼女は、地縛霊。
だから、きっと、あの部屋に戻っている。そう信じて疑わなかったのです。
もしかしたら、一晩中、泣いてたんじゃないか――とすら。




けれど、浮ついていたジュンのココロは、帰宅するや凍てつきました。
リビングに林立する水晶柱。床に散乱する、アメジストのカケラ。
そして――キッチンに残された、作りかけの料理。
部屋中のモノ全てが、冷え冷えとした雰囲気を放っていたのですから。

「なんだ、これ? 金糸雀…………おい、居るんだろ?」

問いかける声に答えるのは、壁に跳ね返った彼の言葉のみ。
ジュンは居ても立ってもいられずに、彼女を探し始めました。
浴室も、トイレも、押入も……

しかし、どれだけ隈無く探しても、金糸雀は見つかりませんでした。

「なんなんだよ……散らかしっぱなしで。あいつ、どこ行ったんだ」

不機嫌そうに吐き捨てる、ジュン。
金糸雀は、辛くても明るく振る舞って、出迎えてくれると――
あまりに虫のいい考えを、どこかで期待していたのかも知れません。

「居なくなるんなら、せめて、片づけていけよな」

ぎゅっと拳を握り、強く歯を食いしばって……
ジュンは、胸がズキズキ疼くのも構わず、強がりを口にしました。


――と、その時です。ベランダに続くガラス戸が、コツコツ鳴りました。
なにか小さなモノで……指先で、軽くノックするように。
沈んでいたジュンの表情が、矢庭に輝きを取り戻します。

「な、なんだ……ベランダに隠れてたのかよ。
 僕を焦らせようって魂胆だったのか? この性悪自爆霊め」

あんなコトがあった直後ですから、面と向かうのが照れくさかったのかも。
そんな推測をしつつ、ジュンは嬉々として、ガラス戸を開きました。
その途端――――


ジュンの胸元に、ナニかが飛び込んできたのです。
驚いた彼が、咄嗟に腕を翳すと、そのナニかは、彼の腕に乗りました。
よくよく見れば、それは小さな黄色い小鳥――――カナリアでした。

「え? え? な、なんだよ……こいつ」

よほど人慣れしているのか、少し腕を振っただけでは、逃げません。
戸惑いを隠しきれないジュンを、カナリアは小さな黒い瞳で見上げながら、
チッチッ……と。
頻りに小首を傾げつつ、甲高く、可愛らしい声で謡いました。
音が同じだからでしょうか。その小鳥を見ていたら、なんだか――


  ジュンったら、カナのことが判らないなんて、ヒドイかしらー。


金糸雀が、そう言った気がして。
ジュンは不覚にも、胸を締め付ける痛みに、呻いてしまいました。
そして、どういう心境の変化か――
逃げようとしないカナリアの背中を、そっ……と、指先で撫でたのです。
言葉もなく、声すら出さずに、静かな涙を流しながら。


彼に撫でられることが、よほど気持ちいいのか。
カナリアは薄い瞼を閉ざして、じっと……されるがままです。



その仕種は、まるで――
愛しい人の腕に抱かれて、いっときの愛の夢に、微睡んでいるようでした。
最終更新:2007年05月29日 01:14