開浄水場休止差止請求訴訟-本訴

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本訴-準備書面Ⅲ    7.原告・第3準備書面    8.被告・準備書面(2)
本訴-準備書面Ⅳ    9.原告・第4準備書面
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1. 訴状


訴   状

当事者の表示               別紙当事者目録記載の通り

       平成20年1月16日
        原告ら訴訟代理人
             弁護土 湯 川  二 朗
             弁護土 山 口    智
 開浄水場休止差止等請求事件
 訴訟物の価額 金160万円
 貼用印紙額  金1万3000円

請 求 の 趣 旨

1 被告は原告らに対し、開浄水場から水の供給を受ける地位のあることを確認する。
2 被告は、開浄水場の休止をして、原告らへの給水を京都府営水道に切り替えてはならない。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
 との判決を求める。

当 事 者 目 録

原告 別紙原告一覧表記載の通り

〒604-0981 京都市中京区御幸町通竹屋町上る毘沙門町542
       松屋ビルアネックス3階 湯川法律事務所
              原告ら訴訟代理人 湯 川  二 朗
〒602-8075 京都市上京区寺町丸太町東入る信富町 白浜法律事務所(送達場所)      
              原告ら訴訟代理人 山 口    智     

〒611-0875 宇治市宇治琵琶33番地
         被 告   宇 治 市
        代表者 市長 久保田 勇
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2.  被告・答弁書


平成20年(ワ)第77号開浄水場休止差止等請求事件
原 告 開地区自治連合会外10名
被 告 宇治市

答弁書

平成20年7月9日
京都地方裁判所 第2民事部 合議ろC係 御中

〒604-8161 京都市中京区烏丸通三条下ル大同生命京都ビル8階
烏丸法律事務所(送達場所)
TEL:075-223-2714/ FAX:075-223-2718
被告訴訟代理人 弁護士 小野 誠之
被告訴訟代理人 弁護士 野澤  健

第1  請求の趣旨に対する答弁
 1  原告らの請求をいずれも棄却する。
 2  訴訟費用は原告らの負担とする。
との裁判を求める。

第2  請求の原因に対する答弁 
 1  「第1 当事者」について
 (1) 第1項について,原告開地区自治連合会は,町内会の連合会と思われ,「宇治市開町及び広野町桐生谷に居住する住民及び当該住民らの代表者で構成された連合会」との主張は不知。その余は争わない。
 (2) 第2項については認める。
 (3) 第3項については,原告らが,現在開浄水場(以下「本件浄水場」という。)で浄水された水の供給を受けていることは認める。
 2  「第2 開浄水場から給水を受ける権利」について
 (1) 「(1)開浄水場の歴史」について
概ね認める。ただし,現在の本件浄水場は,昭和53年19月に被告が新たに開設した施設であり, 日産車体から移管を受けた施設により水道水の供給を行ったことはない(但し,水道管の一部については,昭和36年以降に日産車体の負担で新設したものを含んでいる)。
 (2) 「(2)開浄水場と原告地域住民との結びつき。愛着」について甲第1号証の覚書(以下「本件覚書」という。)の締結にあたり,地域住民が本件浄水場で浄水されている井戸水の供給を希望していたことは認める。しかしながら,本件覚書が「井戸水の給水を受ける利益原告らが勝ち取った証」であるとの主張はいずれも争う。 
 また,「地下水(井戸水)を守り,その積極的な活用と自己水源を増やすことを求める」要望書とは,乙第8号証のことであり,本件浄水場の休止に反対する署名ではない。
 (3) 「(3)被告の債務の目的」について
「被告が日産車体から,原告に対して本件浄水場の水を供給する債務を引き継いだ」との事実は否認し,原告らが「本件浄水場で浄水された水の供給を受ける権利」を有しているとの主張も争う。
本件覚書は,被告が開簡易水道の受給者(当時)に対して,今後「給水を行うこと」を約束したものではあるが,「本件浄水場の水を供給する」旨約束したものではない。そもそも, 日産車体においても,開簡易水道受給者に対して給水すべき債務はあっても,本件浄水場の水を供給する債務を負っていたものではない。
 また,現在においても,地方公営企業である水道事業において,「ある特定の水を受ける権利」(ある特定の水を給水すべき義務)を「観念」することなどできないし,ましてや本件覚書締結当時において,かかる権利義務を確認したと考えることは出来ない。
 (4) 「被告による開浄水場休上の計画」について
  本件浄水場の休止は,施設更新費用の負担と原水の水質の悪化を主な理由としている点は認める。さらには,京都府営水道(府営水)の受水量に余裕があることも考慮して決定したものである(甲第8号証添付「地元説明会資料」5~ 13頁参照)。
これらの理由が府営水へ切り替える理由にはならないとの主張については争う(後記「被告の主張」参照)。
 (5)  本件浄水場の休止及び府営水の供給が,厚生労働大臣の認可を受けなければならない事業計画の変更に該当するとの事実は争う。
  厚生労働大臣の認可が必要となるのは,① 給水区域の拡張,② 給水人口または給水量の増加,③ 水源の種別,取水地点または浄水方法の変更であり(水道法10条1項),本件浄水場の休止と府営水への切り替えは,既存の設備の1つを休止させ,別の既存の設備により給水を行うものであって,新たな浄水方法を導入するものではないから,水源の種別や浄水施設の変更には該当しない。
 3 「第3被告による府営水への切り替えの断行」について
  被告が早期に本件浄水場を体止して府営水への切り替えを実施する予定であることは認める。被告は,すでに合計8回にわたつて地元説明会を開催し(甲第14号証参照),地域住民の理解を求めるとともに,その説明を十分に尽くしてきた。
 4 「第4結論」について
  争う。

第3  被告の主張
 1  当事者について
 (1) 本件覚書の当事者「丙」は「開自治会長」「開水道対策委員長」となっている。本申立における原告「開地区自治連合会」との同一性など,法的な関係を明らかにされたい。また,給水を受けてぃる住民個人とは別に,「自治連合会」が原告として申立を行う法的利益は何か,明らかにされたい 。
 (2) 原告らが,本件覚書締結当時に本件浄水場の給水区域内に居住していたことについて,何ら主張・立証がなされていない。したがって,原告らが「本件浄水場の水の供給を受ける権利」を有する旨主張する根拠として,本件覚書を援用する余地はない。
 2  本件覚書締結の経緯(乙第1号証)
 (1) 開簡易水道は,もともとは日産車体の前身である旧日国工業が戦時中,同社の社宅に給水していた施設である。日産車体は,昭和36年8月,京都府知事宛に簡易水道廃止届を提出し,「他の水道施設が完成するまでこれを廃止してはならない」との条件付で,簡易水道事業の廃止を許可された。
 (2) 昭和38年7月には,開簡易水道の水量不足により,同水道により給水を受けていた319世帯のうち, 104世帯が市水道に切り替えられた。切替の際に必要となった費用(本管から各家庭までの引込工事費用)は, 各世帯の負担であった。
 (3) その後も開簡易水道を廃止して,府営水(昭和40年度より供給開始)に切り替えることが検討されたが,地域住民は難色を示し,昭和46年9月には地域住民により開簡易水道継続促進会が発足され,開簡易水道存続の要求が行われるようになった。
 (4) 一方,府営水の受水枠は,(当時)1日あたり5万1000立方メートルとなつていたが,受水枠稼働率は,昭和50年には96.5%に達したため(乙第2号証),府営水への切替が難しい状況となり,被告(宇治市) としても新たな水源の確保が必要に迫られた。
 そこで,被告, 日産車体及び開自治会が協議した結果,昭和50年12月ころ,被告が日産車体から土地の無償貸与等を受けて新たに浄水場を建設すること,給水管引込工事費用は各世帯が負担することで基本的合意に達した。
 (5) ところが,その後も開自治会は,① 日産車体が浄水場用地を被告に譲渡しないこと,あるいは②引込工事費用の負担が高額であることを口実として,開簡易水道の廃上について最終的な了解をしなかった。
 昭和53年1月, 日産車体が被告に2000万円を寄付し,これが引込工事費用(本管からメーターまで)に充当された。各世帯の費用負担はメーターから各家庭内までの引込工事とすることで合意に至り,本件覚書の締結に至った。
 (6) 被告は,本件覚書の記載に従って,新たに浄水場を建設し,昭和53年10月に本件浄水場が完成した。本件浄水場の建設にあたっては,新たに水道管の敷設が行われ(工事の一部については日産車体の負担により本件覚書締結に先行して行われていた),浄水場の設備も全て新たに建設された。取水地点も開簡易水道と本件浄水場では異なる。
 なお,開簡易水道が廃止された昭和53年3月末から本件浄水場が完成する同年10月までの間は,各世帯に対して府営水の供給が行われている。
 (7) 以上のとおり,本件覚書は,① 被告が日産車体から給水,すなわち水道事業を引き継ぎ,本件浄水場を新たに建設すること,② 地域住民は自己の負担においてメーターから各家庭内への引込工事を行うこと,③ 日産車体は被告に2000万円を寄付することなどをそれぞれ約束したものであって,本件浄水場を建設するにあたっての各自の負担を確認したものである。
 本件覚書は,被告が日産車体から水道事業を引き継ぐことを内容としているものであり,地域住民が本件浄水場で浄水された水の供給を受ける権利を有することを認め,これを保障することまでも約束したのではない。
 3  「特定の水を受ける権利」が「観念」出来ないこと
 (1) 水道事業の性格
 水道事業は,原則として市町村が経営するものとされ(水道法第6条2項),事業者(市町村)は給水契約が成立した水道利用者に対して常時給水の義務を負う(同法15条)。
 水道は,電気,ガスなどと同様に, 日常生活に必要不可欠であって,継続的に供給されることが極めて重要であるが,それ以上に,特定の浄水場で浄水された水を供給すべき義務を認める余地はない。
 (2) また,水道事業は地方公営企業法の適用を受け(同法2条1項ユ号),「常に企業の経済性を発揮するとともに,その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない。」と定められている(同法第3条)。すなわち,水道事業の効率的,経済的な観点からの見直しは当然にあり得るものであるから,「本件浄水場で浄水された水の供給を受ける権利」,「地下水の供給を受ける権利」あるいは「府営水の供給を受ける権利」などというものを「観念」した水道事業を運営することは出来ない。
 (3) 宇治市内においては,住民が給水の申出を行う際には,「給水装置(公共下水道)使用開始届」(乙第3号証の1)に署名押印して被告に提出をする。この使用開始届の様式が用いられる以前は,「需要家台帳J(乙第3号証の2)を作成し,給水管理が行われていた。
 上記「使用開始届」あるいは「需要家台帳Jには,給水を受ける水道水の区分(府営水あるいは地下水,浄水場の種類など)はなく,このことからしても,「特定の水を受ける権利」を契約内容とするものではないことは明らかである。
 (4) また,本件浄水場で浄水された水道水と,他の浄水場で浄水された水道水,あるいは府営水の水道水は,いずれも飲料水としての基準内にあって, 安全な水道水である。臭い,色,味などの差異はほとんど無い。本件浄水場で浄水された水を他の浄水場からの水と区別することは困難であり,「本件浄水場で浄水された水の供給を受ける権利」を「観念」する実益はない。
 (5) 以上のとおり,原告らは,「特定の水を受ける権利というものを観念することについては何ら問題はない」と主張するが,水道事業においては,地域住民のライフラインである水の供給を継続的に確保することが重要なのであって,水道事業者である被告の判断により,地下水あるいは府営水のどちらを供給するかを決定出来るというべきである。
 給水契約について,市販されている水(ミネラルウォーター)を購入することと同様に論じることは誤りであって,給水契約の性質に照らして, 「ある特定の水を受ける権利」などというものは「観念」出来ない。
 4  本件浄水場休止の必要性
 (1) 本件浄水場は,昭和53年に新設されてから約30年が経過し,施設設備の更新の時期を迎えており,消毒設備,エアレーション設備,高圧電気設備など,全体的に耐用年数を経過している(乙第4号証)。具体的には, 配水池の壁に水漏れが生じたり,圧カタンクに腐蝕が生じるなどしている(乙第5号証)。取水ポンプの揚水量にも低下が見られ,稼働時間が長くなっている(乙第6号証)。
 施設の更新には7100万円が必要となる見込みであるところ(甲第8号証10頁),本件浄水場は,平成19年9月現在,給水人口2339人, 給水戸数927戸と比較的小規模な浄水場であり,給水収益に照らしても, 上記のような過大な設備投資を行うことは適切でない。
 中・長期整備計画(甲第3号証・平成14年9月に配布)においても, 既存施設の老朽化が問題点として指摘されており,「合理的かつ総合的な水道施設整備Jの観点から,浄水場の統廃合は必要かつ適切な行政施策となっている。
 (2) また,府営水の協定水量(府営水から受水することが出来る最大量)は,1日あたり6万2800立方メートルとされているところ,平均受水量は1日あたり4万2261立方メートルにすぎず〕槇島浄水場(廃止ずみ)及び本件浄水場を休止して府営水に切り替えても,十二分に余裕がある(甲第4号証添付資料3頁目及び乙第7号証)。
 なお,平成17年度における府営水の原価(原水及び浄水費,人件費,諸経費)は, 1立方メートルあたり155円であり,同会計年度の本件浄水場の原価(1立方メートルあたり229円)よりもいるかに経済的である(甲第8号証12証)。
 (3) 原告らも認めているとおり,本件浄水場の原水は,人の健康の保護に関する環境基準に定められている項目の物質が基準値を超えており,年々水質が悪化している。施設の更新にあたり,水質改善の観点から取水場所を変更するとなれば,上記に記載した以上の費用がかかり,仮に浄水場の新設をする場合,用地費を除いても2億1100万円以上の経費が必要となる。
 (4) なお,被告は,平成19年4月,本件浄水場と同様に小規模な浄水場であり,施設の老朽化が進んでいた槇島浄水場を廃止している。本件浄水場の休止は,浄水場の統廃合の一環である。
 (5) 以上のとおり,本件浄水場の休止は,給水収益が悪く,設備も老朽化している施設を廃止し,容量に余裕があり給水収益も良い施設による給水に変更するものである。また,複数ある宇治市の浄水場のうちどの浄水場を休止すべきかについては,水質や収益を考慮の上決定するものであって,本件休止は被告の合理的な施策の範囲内にあるというべきである。
 5  まとめ
 以上のとおり,本件覚書は,本件浄水場で浄水された水の供給を受ける権利を保障しているものとは言えず,そもそも「特定の水を受ける権利」を「観念」することも出来ないのであって,原告らの本訴請求を理由づける余地はない。
 本件浄水場の休止は,被告の施策として合理的な判断であって,何ら違法ではない。したがって,原告らの請求は速やかに棄却されるべきである。
以 上
証拠資料
乙第1号証-1  洛南タイムス(昭和53年1月18日)
乙第1号証-2  城南新報(昭和53年1月18日)
乙第1号証-3  毎日新聞(京都版)(昭和53年1月18日)
乙第1号証-4  洛南タイムス(昭和52年3月23日)
乙第2号証  年度別配水量(昭和30年度~昭和54年度)
乙第3号証-1  需要家台帳
乙第3号証-2  給水装置(公共下水道)使用開始届
乙第4号証-1  水道施設設備台帳
乙第4号証-2  新設費用,更新費用
乙第5号証   開浄水場施設写真(42葉)
乙第6号証   開浄水場取水運転時間
乙第7号証   京都府協定水量・受水水量推移(平成10年度~18年度)
乙第8号証   「地下水(井戸水)の保全・活用を図り,自己水源を増やすことを求める要望書」

添付資料
訴訟委任状1通

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最終更新:2009年03月11日 16:42