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「『水銀燈員の懊悩』」(2007/03/09 (金) 11:13:55) の最新版変更点
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<p><br>
『水銀燈員の懊悩』<br>
<br>
<br>
我々は銀様が大好きである。<br>
銀様に絶対の忠誠を誓う事こそ、我々の存在意義である。<br>
銀様のためならば、紅蓮の炎が燃え盛る環をくぐることも厭わない。<br>
<br>
東で銀様が悪魔の様な微笑を浮かべれば、行って『ハァ━━;´Д`
━━ン!!!!』して<br>
西で銀様のスカートが風に捲れ上がれば、行って『ハァ━━;´Д`
━━ン!!!!』して<br>
南で銀様がテニスをしていれば、スコートを見て『ハァ━━;´Д`
━━ン!!!!』して<br>
北で銀様が銭湯に入れば、湯上がりを見に行って『ハァ━━;´Д`
━━ン!!!!』する。<br>
<br>
四六時中、銀様に張り付き、悪い虫が付かない様に護衛し続ける。<br>
銀様を護るためならば喜んで自らの身体を盾とする『愛の足軽』!!<br>
それが、我等『水銀党』親衛隊である。<br>
(注:決してストーカーではないので、通報しないように)<br>
<br>
<br>
今日、我々は緊急会議を招集していた。<br>
最近、党員の間で妙な噂が流れていたからだ。<br>
<br>
長「今日、諸君らに集まってもらったのは、他でもない。<br>
ゆゆしき事態を耳にして、対策を講じるためだ」 (親衛隊長)<br>
?「隊長! それは例の『翠星石の呪い』でありますか?」(隊員1:以降イ)<br>
?「それについては調査中っす。どうも本当っぽいっす」 (隊員2:以降ノ)<br>
?「一種の中毒症との報告も上がっておりますが……」 (隊員3:以降チ)<br>
長「党だけでなく、薔薇水省にまで感染の被害が広がっているらしい」<br>
ノ「そしたら隊長。あそこは薔薇『翠』省に改名しなきゃダメっすね」<br>
<br>
えへへ……と、馬鹿みたいに笑う隊員ノに、隊長は罵声を浴びせた。</p>
<p>
長「笑い事ではないっ! 現に、こうしている間にも栄えある『水銀党』員が<br>
洗脳され続けているのだぞ。感染者は速やかに隔離すべきだ!」<br>
チ「その後、再教育というプロセスを踏むわけですな」<br>
イ「被害はまだ一部みたいだから、充分に可能と思われます」<br>
ノ「善は急げっす。俺たち、これから感染者を捕獲しにいくっす」<br>
<br>
うむ。流石は選りすぐりの水銀党員だ。事の危急性が、よく解っている。<br>
隊長は満面の笑みを浮かべ、隊員らを誇りに思った。<br>
<br>
だが、隊長が出撃命令を出す直前、それは起こった。<br>
<br>
ノ「でもぉ~。翠星石も、なんか……イイですぅ」<br>
長「なっ!」<br>
チ「貴様、いま!」<br>
イ「なんと言ったっ!」<br>
<br>
愕然とさせられた。よもや、親衛隊員すらも既に感染していたとは!<br>
隊員ノは、チとイに両腕を押さえ込まれ、隊長の前に跪いた。<br>
<br>
長「貴様から先に、更迭せねばならないようだな」<br>
ノ「でもでも、翠星石の笑顔を思い浮かべると、胸がジーンとするです」<br>
チ「隊長。これはもう末期症状ですぅ」<br>
イ「死ななきゃ治らないです。速やかに処刑してやるです」<br>
長「!! なっ……なぁにぃ?」<br>
<br>
隊長は耳を疑った。この三人、既に中毒症状を起こしているではないか。<br>
<br>
長(ぬぅ……考えてみれば、こいつら命トリオは普段からマブダチ同士)<br>
<br>
今までが潜伏期だったと言う事だ。<br>
つまり、こいつらと共に過ごしてきた隊長もまた、感染している可能性が高い。<br>
<br>
長「馬鹿なっ! 俺は感染などしていないっ!」<br>
<br>
隊長は机の上に置いてあった『ラブラブ銀ちゃん人形』をギュッと抱き締めて、<br>
愛おしげに頬ずりをした。んん~、ヒーリング。<br>
俗世の汚れがボロボロと剥がれ落ちていくような気がした。<br>
<br>
長「貴様ら、それでも栄えある親衛隊員か! 銀様への忠誠を思い出すのだ!」<br>
イ「忠誠心はあるです」<br>
ノ「でも、翠星石もいいかなと、思えるようになったです」<br>
チ「一度、知ったら止められないです。麻薬みたいなモンです」<br>
<br>
こ、こいつら……本当にもう救いがないというのか?!<br>
しかし、自らの手で貴重な戦力を潰すなど、下策の下策。<br>
<br>
長「それならばっ!」<br>
<br>
隊長は会議室の金庫から、割り箸やらおしぼりやら、<br>
薄く口紅の付いたティーカップ等を持ち出して並べた。<br>
それらは全て、銀様が実際に使用した物ばかりだ。<br>
常に影のように寄り添い、数多の障害から銀様を護ってきた隊長だからこそ<br>
入手可能な、貴重なお宝グッズである。<br>
(注:くどいようだが、決してストーカーではないので、通報しないように)<br>
<br>
長「貴様らっ! この『銀ちゃん萌え萌えグッズ』が欲しいかっ!!」<br>
イ「欲しいですぅ!」<br>
ノ「欲しいですぅ!」<br>
チ「欲しいですぅ!」<br>
<br>
言葉遣いはともかく、こいつらの心は、やはり栄光の水銀党員だ。<br>
隊長の頬を、歓喜の涙が一粒、流れ落ちた。<br>
<br>
長「よぅし! それならば、貴様らにやらん事もない。但し、条件がある」<br>
イ「条件きたです」<br>
ノ「条件きたです」<br>
チ「条件きたです」<br>
<br>
お前ら鬱陶しいんだよ! と、心の中で喚き散らしながら、隊長は命トリオの前に、<br>
一枚のポートレートを放り投げた。<br>
それは『ウッフンムラムラ翠星石』ポートレートだった。<br>
<br>
長「………………踏め」 <br>
イ「!」<br>
ノ「!!」<br>
チ「!!!」<br>
長「銀ちゃん萌え萌えグッズが欲しければ、そのポートレートを踏めいっ!!」<br>
<br>
隊長は、ズビシッ! と『ウッフンムラムラ翠星石』を指差した。 <br>
<br>
長「兵法にも有るだろう! 庭には入れるな人二人っ!」<br>
<br>
そりゃ平方根、√8のことだよ隊長、なんてツッコミ入れる者は一人も居ない。<br>
命トリオは三人が三人とも、目の前に置かれた究極の選択に悩んでいたからだ。<br>
銀ちゃん萌え萌えグッズは欲しい。それはもう、喉から手が出るくらいに。<br>
だが、目の前のウッフンムラムラ翠星石のセクシーショットもまた、同じくらい<br>
捨て難かった。<br>
これをベッド真上の天井に貼っておけば、寝ても醒めても翠星石と一緒。<br>
<br>
長「とにかく! 脳内に銀様以外の者を入れるなど、言語道断っ!」<br>
イ「う~」<br>
ノ「うう~」<br>
チ「ううう~」<br>
長「どうした、貴様ら! 何を迷うかっ」<br>
<br>
隊長には理解できなかった。銀ちゃん萌え萌えグッズの方が遙かに希少価値が高い。<br>
銀様がラーメンを食した割り箸で、飯を喰ってみたいと思わんのか、貴様らは!<br>
しかし、焦れる隊長を余所に、命トリオはどちらにすべきか迷い、身悶えていた。<br>
<br>
長「残念だが、貴様らはもう救いが無いようだ。粛正せねばならん」<br>
<br>
どこから取り出したのか、隊長の手にはワルサーP38が握られていた。<br>
銃口で、隊員イの頭をゴリッ……と小突いた。<br>
これ以上、被害を広げる訳にはいかない。<br>
<br>
長「悪く思うなよ」 <br>
ノ「た、隊長! それはダメですぅ」<br>
チ「これは翠星石派の、反間苦肉の策ですぅ」<br>
<br>
隊員ノと隊員チの反駁に力を得たのか、隊員イも隊長の顔をグッ……と睨み返した。<br>
<br>
イ「どうして翠星石がダメなんですか! 隊長だって、翠星石のSS書いて<br>
投下してたじゃないですか! 言動不一致ですぅ」<br>
ノ「なっ! ホントですか、隊長! 自分ばっかりズルいですぅ」<br>
チ「信じられないです! 銀様への裏切り行為ですぅ!」<br>
長「ぬ、ぬぅ…………そ……それは」<br>
<br>
じと~っと白い眼で睨まれ、隊長の額に脂汗が滲み出した。これは拙い。<br>
なんとか誤魔化さなければ――<br>
<br>
長「こうなったら、最後の手段。銀様の御力を頼むほかないっ!」<br>
イ「それは、どういう意味です?」<br>
ノ「銀様に演説を頼むですか?」<br>
チ「わたしは、かつて――ってヤツですか?」<br>
<br>
口々に質問を浴びせる命トリオに、隊長はニヤリと笑い掛けた。<br>
<br>
長「名付けてっ! 銀ちゃんスキンシップ大作戦だっ!!」<br>
<br>
詳細は、こうだ。<br>
今、銀様は剣道部で練習中である。大いに汗を掻いた銀様に抱き付き、<br>
汗に含まれるフェロモンを肺一杯に吸い込みつつ、銀様の鉄拳制裁を受ける。<br>
これによって得た気合いで、翠星石の呪いを吹き飛ばすのである。<br>
<br>
イ「たた、隊長! それ最高ですぅ!」<br>
ノ「妄想で鼻血でそうですぅ!」<br>
チ「早く! 早く行くですぅ!」<br>
<br>
どうやら銀様への愛は不変のようだ。隊長は不敵な笑みを浮かべた。<br>
これならば、きっと『水銀党』親衛隊の栄光を取り戻せる。<br>
<br>
長「よしっ! 出陣じゃっ! 法螺貝をならせっ!」<br>
<br>
法螺貝なんて勿論ないので、隊員イが、代わりに大きな屁をこいた。<br>
<br>
<br>
全「うおぉぉーっ!」<br>
<br>
鬨の声を上げて、一斉に突撃する親衛隊員たち。<br>
その眼は最早、狂信者のそれだった。<br>
<br>
<br>
<br>
剣道場では丁度、練習が終わろうとしていた。<br>
<br>
長「貴様ら、銀様が出ていらしたら、一斉に行くぞ!」<br>
イ「了解です!」<br>
ノ「一気に行くです!」<br>
チ「ジェットストリームアタックです!」<br>
<br>
ぞろぞろぞろ…………<br>
<br>
タオルで汗を拭いながら、女子剣道部員が道場から出てきた。<br>
その中に、銀色の髪の乙女を探す。眼を皿のようにして探す。<br>
瞳から一万ボルトのビームが出そうなくらい凝視して、探す。<br>
<br>
長「? お見えになられないな、銀様」<br>
<br>
待てど暮らせど、麗しの姫君は姿を現さない。<br>
これはもしや『天之岩戸をこじ開けてみよ』という銀様の思し召しなのだろうか。<br>
ちょっと様子を見に行こう。<br>
隊長以下、三名の戦士が道場へと匍匐前進していった。<br>
<br>
扉を少しだけ開けて覗くと、道場の中央には一人の乙女が正座していた。<br>
――が、銀様ではない。柏葉巴さんだ。<br>
<br>
長「柏葉さん。お邪魔して申し訳ないが、ちょっと訊いていいかな?」<br>
<br>
隊長の声に、巴の瞼が、すぅ……っと開く。瞑想中だったらしい。<br>
<br>
長「銀様を探しているのだが、どちらに行かれたかな?」<br>
巴「銀ちゃんなら、裏口から帰ったけれど? 体育館裏で待ち合わせてるとか」<br>
長「たっ! 体育館裏ぁっ!!」<br>
<br>
隊長、一生の不覚。よりによって、肝心なところで警護を怠ってしまうとは。<br>
体育館裏と言えば、告白するためのベストスポット。サイバーショット(意味不明)<br>
このままでは、銀様に悪い虫が付いてしまうではないかっ!!<br>
<br>
<br>
――ドドドドドドドドっ!!<br>
<br>
道場を飛び出した親衛隊は、体育館裏へまっしぐら。<br>
立ち塞がる者は人だろうが樹木だろうが、車だろうが校舎だろうが、全て吹っ飛ばして突撃した。<br>
<br>
長「! 停止しろ。ターゲットを確認した」<br>
<br>
体育館裏に佇む二つの影。一人は勿論、銀様である。<br>
だが、もう一人の方を確認した途端、隊長の表情が凍てついた。<br>
<br>
長「翠星石っ!? なぜ、ヤツが?」<br>
<br>
一体、銀様に何の用が有るというのか。ここからでは遠くて、会話が聞き取れない。<br>
隊長は、何処から取り出したのかカールツァイスの双眼鏡を覗き、読唇術を試みた。<br>
<br>
長「……いきなり……よびだして……ごめんね。<br>
あのね……ぎんちゃん……わたし……ぎんちゃん……のこと……すき?!」<br>
<br>
なな、なんという事だろうか。<br>
翠星石の呪いを解くべく暗躍していた親衛隊員を嘲笑うような、この展開は一体なんだというのだ。<br>
<br>
長「いやいやいや。待て待て。まさか銀様がOKなさる筈があるまい」<br>
<br>
もう一度、読心術。今度は銀様の方を――<br>
<br>
銀様の唇……柔らかそうだなぁ(ハァ━━
;´Д`━━ン!!!!)<br>
<br>
長「じゃなくて! 集中集中。えぇと……あらぁ……ありがとぉ。<br>
じつは……わたしも……すい…………ってええええっ!!」<br>
<br>
隊長の目の前で、銀様の口から思いも寄らなかった返事が紡ぎ出されていた。<br>
そして、徐々に近付いていく二人の距離。<br>
<br>
長(うおっ! や、やべえ……でも、阻止したくても、身体が動かNeee!!)<br>
<br>
銀様と翠星石の唇が触れ合うまで、あと数センチ。<br>
<br>
長(そそそ、それだけはっ! それだけはダメですぅ!)<br>
<br>
夕日の中、繋がり、重なり合う二つの影を見詰める隊長の脳内で、<br>
何かが崩れ去る音がしていた。<br>
――そして。<br>
<br>
<br>
長「貴様ら。我々は今日から『翠銀党』親衛隊を名乗るです」<br>
イ「了解ですぅ!」<br>
ノ「ムチャクチャ、カッコイイです!」<br>
チ「翠銀党バンザイですぅ!」<br>
<br>
<br>
<br>
終わり<br></p>
<hr>
<br>
ごめんなさい。悪ノリしすぎました。
<p><br>
『水銀燈員の懊悩』<br>
<br>
<br>
我々は銀様が大好きである。<br>
銀様に絶対の忠誠を誓う事こそ、我々の存在意義である。<br>
銀様のためならば、紅蓮の炎が燃え盛る環をくぐることも厭わない。<br>
<br>
東で銀様が悪魔の様な微笑を浮かべれば、行って『ハァ━━;´Д` ━━ン!!!!』して<br>
西で銀様のスカートが風に捲れ上がれば、行って『ハァ━━;´Д` ━━ン!!!!』して<br>
南で銀様がテニスをしていれば、スコートを見て『ハァ━━;´Д` ━━ン!!!!』して<br>
北で銀様が銭湯に入れば、湯上がりを見に行って『ハァ━━;´Д` ━━ン!!!!』する。<br>
<br>
四六時中、銀様に張り付き、悪い虫が付かない様に護衛し続ける。<br>
銀様を護るためならば喜んで自らの身体を盾とする『愛の足軽』!!<br>
それが、我等『水銀党』親衛隊である。<br>
(注:決してストーカーではないので、通報しないように)<br>
<br>
<br>
今日、我々は緊急会議を招集していた。<br>
最近、党員の間で妙な噂が流れていたからだ。<br>
<br>
長「今日、諸君らに集まってもらったのは、他でもない。<br>
ゆゆしき事態を耳にして、対策を講じるためだ」 (親衛隊長)<br>
?「隊長! それは例の『翠星石の呪い』でありますか?」(隊員1:以降イ)<br>
?「それについては調査中っす。どうも本当っぽいっす」 (隊員2:以降ノ)<br>
?「一種の中毒症との報告も上がっておりますが……」 (隊員3:以降チ)<br>
長「党だけでなく、薔薇水省にまで感染の被害が広がっているらしい」<br>
ノ「そしたら隊長。あそこは薔薇『翠』省に改名しなきゃダメっすね」<br>
<br>
えへへ……と、馬鹿みたいに笑う隊員ノに、隊長は罵声を浴びせた。</p>
<p> 長「笑い事ではないっ! 現に、こうしている間にも栄えある『水銀党』員が<br>
洗脳され続けているのだぞ。感染者は速やかに隔離すべきだ!」<br>
チ「その後、再教育というプロセスを踏むわけですな」<br>
イ「被害はまだ一部みたいだから、充分に可能と思われます」<br>
ノ「善は急げっす。俺たち、これから感染者を捕獲しにいくっす」<br>
<br>
うむ。流石は選りすぐりの水銀党員だ。事の危急性が、よく解っている。<br>
隊長は満面の笑みを浮かべ、隊員らを誇りに思った。<br>
<br>
だが、隊長が出撃命令を出す直前、それは起こった。<br>
<br>
ノ「でもぉ~。翠星石も、なんか……イイですぅ」<br>
長「なっ!」<br>
チ「貴様、いま!」<br>
イ「なんと言ったっ!」<br>
<br>
愕然とさせられた。よもや、親衛隊員すらも既に感染していたとは!<br>
隊員ノは、チとイに両腕を押さえ込まれ、隊長の前に跪いた。<br>
<br>
長「貴様から先に、更迭せねばならないようだな」<br>
ノ「でもでも、翠星石の笑顔を思い浮かべると、胸がジーンとするです」<br>
チ「隊長。これはもう末期症状ですぅ」<br>
イ「死ななきゃ治らないです。速やかに処刑してやるです」<br>
長「!! なっ……なぁにぃ?」<br>
<br>
隊長は耳を疑った。この三人、既に中毒症状を起こしているではないか。<br>
<br>
長(ぬぅ……考えてみれば、こいつら命トリオは普段からマブダチ同士)<br>
<br>
今までが潜伏期だったと言う事だ。<br>
つまり、こいつらと共に過ごしてきた隊長もまた、感染している可能性が高い。<br>
<br>
長「馬鹿なっ! 俺は感染などしていないっ!」<br>
<br>
隊長は机の上に置いてあった『ラブラブ銀ちゃん人形』をギュッと抱き締めて、<br>
愛おしげに頬ずりをした。んん~、ヒーリング。<br>
俗世の汚れがボロボロと剥がれ落ちていくような気がした。<br>
<br>
長「貴様ら、それでも栄えある親衛隊員か! 銀様への忠誠を思い出すのだ!」<br>
イ「忠誠心はあるです」<br>
ノ「でも、翠星石もいいかなと、思えるようになったです」<br>
チ「一度、知ったら止められないです。麻薬みたいなモンです」<br>
<br>
こ、こいつら……本当にもう救いがないというのか?!<br>
しかし、自らの手で貴重な戦力を潰すなど、下策の下策。<br>
<br>
長「それならばっ!」<br>
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隊長は会議室の金庫から、割り箸やらおしぼりやら、<br>
薄く口紅の付いたティーカップ等を持ち出して並べた。<br>
それらは全て、銀様が実際に使用した物ばかりだ。<br>
常に影のように寄り添い、数多の障害から銀様を護ってきた隊長だからこそ<br>
入手可能な、貴重なお宝グッズである。<br>
(注:くどいようだが、決してストーカーではないので、通報しないように)<br>
<br>
長「貴様らっ! この『銀ちゃん萌え萌えグッズ』が欲しいかっ!!」<br>
イ「欲しいですぅ!」<br>
ノ「欲しいですぅ!」<br>
チ「欲しいですぅ!」<br>
<br>
言葉遣いはともかく、こいつらの心は、やはり栄光の水銀党員だ。<br>
隊長の頬を、歓喜の涙が一粒、流れ落ちた。<br>
<br>
長「よぅし! それならば、貴様らにやらん事もない。但し、条件がある」<br>
イ「条件きたです」<br>
ノ「条件きたです」<br>
チ「条件きたです」<br>
<br>
お前ら鬱陶しいんだよ! と、心の中で喚き散らしながら、隊長は命トリオの前に、<br>
一枚のポートレートを放り投げた。<br>
それは『ウッフンムラムラ翠星石』ポートレートだった。<br>
<br>
長「………………踏め」 <br>
イ「!」<br>
ノ「!!」<br>
チ「!!!」<br>
長「銀ちゃん萌え萌えグッズが欲しければ、そのポートレートを踏めいっ!!」<br>
<br>
隊長は、ズビシッ! と『ウッフンムラムラ翠星石』を指差した。 <br>
<br>
長「兵法にも有るだろう! 庭には入れるな人二人っ!」<br>
<br>
そりゃ平方根、√8のことだよ隊長、なんてツッコミ入れる者は一人も居ない。<br>
命トリオは三人が三人とも、目の前に置かれた究極の選択に悩んでいたからだ。<br>
銀ちゃん萌え萌えグッズは欲しい。それはもう、喉から手が出るくらいに。<br>
だが、目の前のウッフンムラムラ翠星石のセクシーショットもまた、同じくらい<br>
捨て難かった。<br>
これをベッド真上の天井に貼っておけば、寝ても醒めても翠星石と一緒。<br>
<br>
長「とにかく! 脳内に銀様以外の者を入れるなど、言語道断っ!」<br>
イ「う~」<br>
ノ「うう~」<br>
チ「ううう~」<br>
長「どうした、貴様ら! 何を迷うかっ」<br>
<br>
隊長には理解できなかった。銀ちゃん萌え萌えグッズの方が遙かに希少価値が高い。<br>
銀様がラーメンを食した割り箸で、飯を喰ってみたいと思わんのか、貴様らは!<br>
しかし、焦れる隊長を余所に、命トリオはどちらにすべきか迷い、身悶えていた。<br>
<br>
長「残念だが、貴様らはもう救いが無いようだ。粛正せねばならん」<br>
<br>
どこから取り出したのか、隊長の手にはワルサーP38が握られていた。<br>
銃口で、隊員イの頭をゴリッ……と小突いた。<br>
これ以上、被害を広げる訳にはいかない。<br>
<br>
長「悪く思うなよ」 <br>
ノ「た、隊長! それはダメですぅ」<br>
チ「これは翠星石派の、反間苦肉の策ですぅ」<br>
<br>
隊員ノと隊員チの反駁に力を得たのか、隊員イも隊長の顔をグッ……と睨み返した。<br>
<br>
イ「どうして翠星石がダメなんですか! 隊長だって、翠星石のSS書いて<br>
投下してたじゃないですか! 言動不一致ですぅ」<br>
ノ「なっ! ホントですか、隊長! 自分ばっかりズルいですぅ」<br>
チ「信じられないです! 銀様への裏切り行為ですぅ!」<br>
長「ぬ、ぬぅ…………そ……それは」<br>
<br>
じと~っと白い眼で睨まれ、隊長の額に脂汗が滲み出した。これは拙い。<br>
なんとか誤魔化さなければ――<br>
<br>
長「こうなったら、最後の手段。銀様の御力を頼むほかないっ!」<br>
イ「それは、どういう意味です?」<br>
ノ「銀様に演説を頼むですか?」<br>
チ「わたしは、かつて――ってヤツですか?」<br>
<br>
口々に質問を浴びせる命トリオに、隊長はニヤリと笑い掛けた。<br>
<br>
長「名付けてっ! 銀ちゃんスキンシップ大作戦だっ!!」<br>
<br>
詳細は、こうだ。<br>
今、銀様は剣道部で練習中である。大いに汗を掻いた銀様に抱き付き、<br>
汗に含まれるフェロモンを肺一杯に吸い込みつつ、銀様の鉄拳制裁を受ける。<br>
これによって得た気合いで、翠星石の呪いを吹き飛ばすのである。<br>
<br>
イ「たた、隊長! それ最高ですぅ!」<br>
ノ「妄想で鼻血でそうですぅ!」<br>
チ「早く! 早く行くですぅ!」<br>
<br>
どうやら銀様への愛は不変のようだ。隊長は不敵な笑みを浮かべた。<br>
これならば、きっと『水銀党』親衛隊の栄光を取り戻せる。<br>
<br>
長「よしっ! 出陣じゃっ! 法螺貝をならせっ!」<br>
<br>
法螺貝なんて勿論ないので、隊員イが、代わりに大きな屁をこいた。<br>
<br>
<br>
全「うおぉぉーっ!」<br>
<br>
鬨の声を上げて、一斉に突撃する親衛隊員たち。<br>
その眼は最早、狂信者のそれだった。<br>
<br>
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剣道場では丁度、練習が終わろうとしていた。<br>
<br>
長「貴様ら、銀様が出ていらしたら、一斉に行くぞ!」<br>
イ「了解です!」<br>
ノ「一気に行くです!」<br>
チ「ジェットストリームアタックです!」<br>
<br>
ぞろぞろぞろ…………<br>
<br>
タオルで汗を拭いながら、女子剣道部員が道場から出てきた。<br>
その中に、銀色の髪の乙女を探す。眼を皿のようにして探す。<br>
瞳から一万ボルトのビームが出そうなくらい凝視して、探す。<br>
<br>
長「? お見えになられないな、銀様」<br>
<br>
待てど暮らせど、麗しの姫君は姿を現さない。<br>
これはもしや『天之岩戸をこじ開けてみよ』という銀様の思し召しなのだろうか。<br>
ちょっと様子を見に行こう。<br>
隊長以下、三名の戦士が道場へと匍匐前進していった。<br>
<br>
扉を少しだけ開けて覗くと、道場の中央には一人の乙女が正座していた。<br>
――が、銀様ではない。柏葉巴さんだ。<br>
<br>
長「柏葉さん。お邪魔して申し訳ないが、ちょっと訊いていいかな?」<br>
<br>
隊長の声に、巴の瞼が、すぅ……っと開く。瞑想中だったらしい。<br>
<br>
長「銀様を探しているのだが、どちらに行かれたかな?」<br>
巴「銀ちゃんなら、裏口から帰ったけれど? 体育館裏で待ち合わせてるとか」<br>
長「たっ! 体育館裏ぁっ!!」<br>
<br>
隊長、一生の不覚。よりによって、肝心なところで警護を怠ってしまうとは。<br>
体育館裏と言えば、告白するためのベストスポット。サイバーショット(意味不明)<br>
このままでは、銀様に悪い虫が付いてしまうではないかっ!!<br>
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<br>
――ドドドドドドドドっ!!<br>
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道場を飛び出した親衛隊は、体育館裏へまっしぐら。<br>
立ち塞がる者は人だろうが樹木だろうが、車だろうが校舎だろうが、全て吹っ飛ばして突撃した。<br>
<br>
長「! 停止しろ。ターゲットを確認した」<br>
<br>
体育館裏に佇む二つの影。一人は勿論、銀様である。<br>
だが、もう一人の方を確認した途端、隊長の表情が凍てついた。<br>
<br>
長「翠星石っ!? なぜ、ヤツが?」<br>
<br>
一体、銀様に何の用が有るというのか。ここからでは遠くて、会話が聞き取れない。<br>
隊長は、何処から取り出したのかカールツァイスの双眼鏡を覗き、読唇術を試みた。<br>
<br>
長「……いきなり……よびだして……ごめんね。<br>
あのね……ぎんちゃん……わたし……ぎんちゃん……のこと……すき?!」<br>
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なな、なんという事だろうか。<br>
翠星石の呪いを解くべく暗躍していた親衛隊員を嘲笑うような、この展開は一体なんだというのだ。<br>
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長「いやいやいや。待て待て。まさか銀様がOKなさる筈があるまい」<br>
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もう一度、読心術。今度は銀様の方を――<br>
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銀様の唇……柔らかそうだなぁ(ハァ━━ ;´Д`━━ン!!!!)<br>
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長「じゃなくて! 集中集中。えぇと……あらぁ……ありがとぉ。<br>
じつは……わたしも……すい…………ってええええっ!!」<br>
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隊長の目の前で、銀様の口から思いも寄らなかった返事が紡ぎ出されていた。<br>
そして、徐々に近付いていく二人の距離。<br>
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長(うおっ! や、やべえ……でも、阻止したくても、身体が動かNeee!!)<br>
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銀様と翠星石の唇が触れ合うまで、あと数センチ。<br>
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長(そそそ、それだけはっ! それだけはダメですぅ!)<br>
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夕日の中、繋がり、重なり合う二つの影を見詰める隊長の脳内で、<br>
何かが崩れ去る音がしていた。<br>
――そして。<br>
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長「貴様ら。我々は今日から『翠銀党』親衛隊を名乗るです」<br>
イ「了解ですぅ!」<br>
ノ「ムチャクチャ、カッコイイです!」<br>
チ「翠銀党バンザイですぅ!」<br>
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<br>
終わり</p>
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ごめんなさい。悪ノリしすぎました。</p>