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「『祭りの余韻』」(2007/01/12 (金) 10:19:13) の最新版変更点
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<p><br>
『祭りの余韻』<br>
<br>
<br>
薔薇学園三大祭りのひとつ――バレンタインデー<br>
だんじり祭りにも例えられる過激なイベントは、さしたる大事故もなく、<br>
終わりを迎えた。<br>
例年、流血の惨事が起きていただけに、教員の安堵もひとしおだろう。<br>
<br>
本命から貰えた者。縋り付いて義理チョコを掴んだ者。全く貰えなかった者。<br>
悲喜こもごも織り交ぜ、喧噪に沸いた学園は静寂を取り戻していく。<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
夕日射す校舎の屋上で、水銀燈は独り、フェンスに背をもたせ掛けていた。<br>
別に、待ち合わせの約束をしていた訳ではない。<br>
正確に言えば、呼び出されたのだ。<br>
<br>
『部活が終わったら、屋上に来てください』<br>
<br>
玄関で靴を履き替えようとした時、下駄箱から零れ落ちた一通の手紙。<br>
女の子っぽい丸文字の筆跡には、ところどころに堅さが見えた。<br>
よほど緊張して書いたらしい。<br>
<br>
(誰かしらぁ? 殆どの人には上げたし、もらってもいるわよねぇ)<br>
<br>
面倒見の良さからか、水銀燈は女子からも人気があり、<br>
蒼星石ともども少なからぬ量のチョコレートを貰うことが恒例となっていた。<br>
<br>
「これから寄りたい場所が有ったんだけどなぁ」<br>
<br>
そもそも、こちらの都合を無視した無礼な行為だ。行かずとも問題はない。<br>
しかし、それで逆恨みされるのも気分が悪かった。<br>
仕方なく屋上に来てみたものの誰も居らず、もう三十分近くが過ぎていた。 <br>
<br>
「呼び出しておいて遅刻だなんて、失礼ねぇ。帰っちゃおうかしらぁ」<br>
<br>
冷えてきた風に身を震わせて、水銀燈が階段へと歩き出した矢先、<br>
扉が開いて一人の女生徒が姿を現した。<br>
颯爽と登場したのは、プラチナブロンドの同級生。<br>
<br>
「待たせたわね、水銀燈」<br>
「真紅? まさか、呼び出したのって、貴女なのぉ?」<br>
<br>
ハッキリ言って予想外だった。この展開は全く考えていなかった。<br>
確かに、小学生の頃には友達同士としてチョコレートを交換していたりもした。<br>
だが、その習慣も中学に進んで以降、どちらからともなく止めてしまった。<br>
<br>
「珍しいわねぇ。貴女が、わざわざ私を呼び出すなんてぇ。<br>
もしかして、私に手作りチョコレートをくれるのかしらぁ?」<br>
「貴女に上げるチョコなんて無いわ」<br>
「あぁら、残念。昔みたいに、何かくれるのかと期待しちゃったわぁ」<br>
「そうね。昔みたいに――」<br>
<br>
真紅は水銀燈の側に歩み寄ると、彼女の手を取り、<br>
奇麗にラッピングされた小さな箱を掌に乗せた。ずっしりと、重い感触。<br>
チロルチョコの詰め合わせだろうか?<br>
<br>
「? なぁに、これぇ」 <br>
「開けてみて」<br>
「え、ええ……それじゃあ」<br>
<br>
小箱に掛けられたリボンを解き、蓋を開ける。<br>
すると、更に中から桐の小箱が出てきた。随分と厳重に梱包されている。<br>
チョコレートの類ではなさそうだ。<br>
<br>
水銀燈は何故か緊張しつつ、箱の蓋を押し上げた。<br>
中に収められていたのは――<br>
<br>
「これって……銀のイヤリングじゃないのぉ。これを、私に?」<br>
<br>
驚く水銀燈に、真紅は無垢な微笑みを向けて、頷いた。<br>
<br>
「久しぶりに、昔を思い出しただけよ。他意は無いわ」<br>
「ふふっ…………ありがとう、真紅ぅ。大切にするわねぇ」<br>
「安物よ。大切にする必要なんかないわ」<br>
「ううん。私にとっては、とても素敵な宝物よぅ」<br>
<br>
水銀燈は小箱の蓋を閉じると、しっかりと両手で包み込んだ。<br>
五年ぶりに貰った、真紅からのプレゼント。<br>
今日一日、チョコは勿論、花束やハンカチなど様々な贈り物をされたけれど、<br>
他のどんな物よりも輝いて見えた。<br>
<br>
そして……何故だか無性に嬉しかった。<br>
<br>
<br>
小学校を卒業して以来、どうして止めていたのだろう。<br>
こんなにも嬉しくて……心が温かくなることなのに。<br>
年を経て異性との交友関係が拡がるにつれ、</p>
<p>多くの時間をそちらに取られていたからだろうか。<br>
女の子同士という気恥ずかしさも、有ったのかも知れない。<br>
<br>
「でも、奇遇ねぇ」<br>
「なにが?」 <br>
「実は私も、帰りがけに真紅の家へ寄ろうと思っていたのよぉ」<br>
「そうなの? どうして?」<br>
「私もねぇ、久しぶりに……昔を思い出したからぁ」<br>
<br>
そう言うと、水銀燈は鞄の中から小さな箱を取り出し、真紅に手渡した。<br>
真紅がプレゼントしたのと、同じくらいの大きさ。<br>
それに、ラッピングの仕方も酷似している。全く同じと言ってもいい程だ。<br>
<br>
「開けても……いいのかしら?」<br>
「勿論。受け取ってもらえないなら私、泣いちゃうわよぅ」<br>
「そう。だったら、受け取れないわ。こんな物」<br>
「………………うう…………ぐすっ」<br>
「ちょっ――本当に泣かないでよ。冗談も解らないの?」<br>
「今の口調、絶対に本気だったわ。恨んでやるぅ」<br>
「解ったわよ。今、開けるから――」<br>
<br>
リボンを解いて箱を開けると、出てきたのは、やはり同じ様な桐の小箱。<br>
どうやら同じ店で買ったアクセサリーらしい。<br>
真紅が小箱を開けると、シンプルなデザインながら品の良いシルバーリングが収められていた。<br>
<br>
似た者同士の二人。<br>
やることなすこと、こうも類似すると奇妙を過ぎて愉快ですらある。<br>
二人は顔を見合わせて、小学生に還った様に、無邪気な笑みを浮かべた。<br>
<br>
「本当に奇遇ね。ここ数年、すっかり止めていたのに」<br>
「真紅はもう、忘れていると思ってたんだけどねぇ」<br>
「それは、私の台詞なのだわ。<br>
水銀燈には、沢山の人がプレゼントをくれるんだもの。<br>
私が贈るまでもないと思っていたわ」<br>
「お互い、遠慮してただけなのね。私達って、おばぁかさん」<br>
「……失礼ね。馬鹿なのは貴女だけだわ」<br>
<br>
口を開けば言い争い――けれど、互いを嫌っている訳じゃない。<br>
寧ろ、気心が知れているからこそ、気兼ねなく毒舌を振るう事ができるのだ。<br>
口喧嘩など、親友同士のコミニュケーションにすぎない。<br>
<br>
「まあ……その、なに。これからも……よろしく頼むのだわ」 <br>
「うふふっ。こちらこそ、よろしくぅ。幼馴染の親友さん♪」<br>
<br>
<br>
二人は並んで階段へと歩を進めながら、掛け合いを愉しんだ。<br>
<br>
「来年もまた、待ち合わせ……する?」<br>
「お互い、彼氏ができてなかったらの話ねぇ」<br>
「それなら、貴女の都合は着きそうね」<br>
「あぁら。真紅こそ、今から約束してても大丈夫でしょう?」</p>
<hr>
<p>バレンタインSS祭りの即興SS。</p>
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『祭りの余韻』<br>
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薔薇学園三大祭りのひとつ――バレンタインデー<br>
だんじり祭りにも例えられる過激なイベントは、さしたる大事故もなく、<br>
終わりを迎えた。<br>
例年、流血の惨事が起きていただけに、教員の安堵もひとしおだろう。<br>
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本命から貰えた者。縋り付いて義理チョコを掴んだ者。全く貰えなかった者。<br>
悲喜こもごも織り交ぜ、喧噪に沸いた学園は静寂を取り戻していく。<br>
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夕日射す校舎の屋上で、水銀燈は独り、フェンスに背をもたせ掛けていた。<br>
別に、待ち合わせの約束をしていた訳ではない。<br>
正確に言えば、呼び出されたのだ。<br>
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『部活が終わったら、屋上に来てください』<br>
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玄関で靴を履き替えようとした時、下駄箱から零れ落ちた一通の手紙。<br>
女の子っぽい丸文字の筆跡には、ところどころに堅さが見えた。<br>
よほど緊張して書いたらしい。<br>
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(誰かしらぁ? 殆どの人には上げたし、もらってもいるわよねぇ)<br>
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面倒見の良さからか、水銀燈は女子からも人気があり、<br>
蒼星石ともども少なからぬ量のチョコレートを貰うことが恒例となっていた。<br>
<br>
「これから寄りたい場所が有ったんだけどなぁ」<br>
<br>
そもそも、こちらの都合を無視した無礼な行為だ。行かずとも問題はない。<br>
しかし、それで逆恨みされるのも気分が悪かった。<br>
仕方なく屋上に来てみたものの誰も居らず、もう三十分近くが過ぎていた。 <br>
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「呼び出しておいて遅刻だなんて、失礼ねぇ。帰っちゃおうかしらぁ」<br>
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冷えてきた風に身を震わせて、水銀燈が階段へと歩き出した矢先、<br>
扉が開いて一人の女生徒が姿を現した。<br>
颯爽と登場したのは、プラチナブロンドの同級生。<br>
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「待たせたわね、水銀燈」<br>
「真紅? まさか、呼び出したのって、貴女なのぉ?」<br>
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ハッキリ言って予想外だった。この展開は全く考えていなかった。<br>
確かに、小学生の頃には友達同士としてチョコレートを交換していたりもした。<br>
だが、その習慣も中学に進んで以降、どちらからともなく止めてしまった。<br>
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「珍しいわねぇ。貴女が、わざわざ私を呼び出すなんてぇ。<br>
もしかして、私に手作りチョコレートをくれるのかしらぁ?」<br>
「貴女に上げるチョコなんて無いわ」<br>
「あぁら、残念。昔みたいに、何かくれるのかと期待しちゃったわぁ」<br>
「そうね。昔みたいに――」<br>
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真紅は水銀燈の側に歩み寄ると、彼女の手を取り、<br>
奇麗にラッピングされた小さな箱を掌に乗せた。ずっしりと、重い感触。<br>
チロルチョコの詰め合わせだろうか?<br>
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「? なぁに、これぇ」 <br>
「開けてみて」<br>
「え、ええ……それじゃあ」<br>
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小箱に掛けられたリボンを解き、蓋を開ける。<br>
すると、更に中から桐の小箱が出てきた。随分と厳重に梱包されている。<br>
チョコレートの類ではなさそうだ。<br>
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水銀燈は何故か緊張しつつ、箱の蓋を押し上げた。<br>
中に収められていたのは――<br>
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「これって……銀のイヤリングじゃないのぉ。これを、私に?」<br>
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驚く水銀燈に、真紅は無垢な微笑みを向けて、頷いた。<br>
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「久しぶりに、昔を思い出しただけよ。他意は無いわ」<br>
「ふふっ…………ありがとう、真紅ぅ。大切にするわねぇ」<br>
「安物よ。大切にする必要なんかないわ」<br>
「ううん。私にとっては、とても素敵な宝物よぅ」<br>
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水銀燈は小箱の蓋を閉じると、しっかりと両手で包み込んだ。<br>
五年ぶりに貰った、真紅からのプレゼント。<br>
今日一日、チョコは勿論、花束やハンカチなど様々な贈り物をされたけれど、<br>
他のどんな物よりも輝いて見えた。<br>
<br>
そして……何故だか無性に嬉しかった。<br>
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小学校を卒業して以来、どうして止めていたのだろう。<br>
こんなにも嬉しくて……心が温かくなることなのに。<br>
年を経て異性との交友関係が拡がるにつれ、</p>
<p>多くの時間をそちらに取られていたからだろうか。<br>
女の子同士という気恥ずかしさも、有ったのかも知れない。<br>
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「でも、奇遇ねぇ」<br>
「なにが?」 <br>
「実は私も、帰りがけに真紅の家へ寄ろうと思っていたのよぉ」<br>
「そうなの? どうして?」<br>
「私もねぇ、久しぶりに……昔を思い出したからぁ」<br>
<br>
そう言うと、水銀燈は鞄の中から小さな箱を取り出し、真紅に手渡した。<br>
真紅がプレゼントしたのと、同じくらいの大きさ。<br>
それに、ラッピングの仕方も酷似している。全く同じと言ってもいい程だ。<br>
<br>
「開けても……いいのかしら?」<br>
「勿論。受け取ってもらえないなら私、泣いちゃうわよぅ」<br>
「そう。だったら、受け取れないわ。こんな物」<br>
「………………うう…………ぐすっ」<br>
「ちょっ――本当に泣かないでよ。冗談も解らないの?」<br>
「今の口調、絶対に本気だったわ。恨んでやるぅ」<br>
「解ったわよ。今、開けるから――」<br>
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リボンを解いて箱を開けると、出てきたのは、やはり同じ様な桐の小箱。<br>
どうやら同じ店で買ったアクセサリーらしい。<br>
真紅が小箱を開けると、シンプルなデザインながら品の良いシルバーリングが収められていた。<br>
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似た者同士の二人。<br>
やることなすこと、こうも類似すると奇妙を過ぎて愉快ですらある。<br>
二人は顔を見合わせて、小学生に還った様に、無邪気な笑みを浮かべた。<br>
<br>
「本当に奇遇ね。ここ数年、すっかり止めていたのに」<br>
「真紅はもう、忘れていると思ってたんだけどねぇ」<br>
「それは、私の台詞なのだわ。<br>
水銀燈には、沢山の人がプレゼントをくれるんだもの。<br>
私が贈るまでもないと思っていたわ」<br>
「お互い、遠慮してただけなのね。私達って、おばぁかさん」<br>
「……失礼ね。馬鹿なのは貴女だけだわ」<br>
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口を開けば言い争い――けれど、互いを嫌っている訳じゃない。<br>
寧ろ、気心が知れているからこそ、気兼ねなく毒舌を振るう事ができるのだ。<br>
口喧嘩など、親友同士のコミニュケーションにすぎない。<br>
<br>
「まあ……その、なに。これからも……よろしく頼むのだわ」 <br>
「うふふっ。こちらこそ、よろしくぅ。幼馴染の親友さん♪」<br>
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二人は並んで階段へと歩を進めながら、掛け合いを愉しんだ。<br>
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「来年もまた、待ち合わせ……する?」<br>
「お互い、彼氏ができてなかったらの話ねぇ」<br>
「それなら、貴女の都合は着きそうね」<br>
「あぁら。真紅こそ、今から約束してても大丈夫でしょう?」</p>
<hr>
<p>バレンタインSS祭りの即興SS。</p>