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『理想郷 ~イーハトーブ~』」(2007/01/12 (金) 10:26:56) の最新版変更点

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<p><br>   『理想郷 ~イーハトーブ~』<br> <br> <br> 東北自動車道を、北に向かって、ひた走るバイクが一台。<br> 運転するのは、ジュン。<br> そして、彼の後ろに乗っているのは、翠星石。<br> 栗色の長い髪を肩の前に回し、両腕で、しっかりとジュンにしがみついている。<br> 時速百キロ以上の速度で疾駆する単車に乗っているのは、慣れない者にとって、<br> 想像以上に恐ろしい事だ。<br> 翠星石も、御多分に漏れず、緊張に身を強張らせていた。<br> <br> <br> 二人を乗せた単車は、安積P.A(パーキング・エリア)へと滑り込んでいく。<br> 朝早く家を出てから、何度目かの休憩である。高速道路に乗ってからは三度目になる。<br> 翠星石もホッとしたのか、彼女の腕から力が抜けるのを、ジュンは感じた。<br> <br> 駐車場の隅に単車を停めて、二人は窮屈なヘルメットを脱ぎ、吐息した。<br> <br> 「疲れただろ、翠星石?」</p> <p>頭を掻いて髪の乱れを直しながら、ジュンは朗らかに笑った。<br> 翠星石が、ちょっと唇を突き出しながら、拗ねたように応じる。<br> <br> 「解ってるなら、も少し小刻みに休憩しやがれですぅ」<br> 「ははっ……悪い。でも、目的地まで、まだ遠いからさぁ。それに、新幹線じゃなく<br>  バイクで行きたいって言い出したのは、翠星石だろう?」<br> 「う……でも、それは……ジュンに……ですぅ」<br> <br> 抱き付いていたかったから――なんてコトは、口が裂けても言えない。<br> 頬を染め、俯く彼女の頭を、ジュンは優しく叩いた。<br> <br> 「ゴメンな。次からは、短めに休憩を入れるよ。さあ、冷たい物でも飲んでこようぜ」<br> <br> 二人が目指しているのは、岩手。宮沢賢治と理想郷イーハトーブ(花巻市)が有名だ。<br> 或いは、柳田国男と遠野物語の世界か。目的地までは、まだ遠い……。<br> <br> <br> <br> やっとの思いで、予約を入れていた宿に着いた頃には、すっかり日が傾いていた。<br> 腰を伸ばして、深呼吸をする二人。<br> <br> 「んん~。やっぱり、空気が澄んでるですぅ」<br> 「そうだなあ。思えば遠くへきたものだ……って、つくづく感じるよ」<br> 「それにしても、雰囲気の良い宿ですね。鄙びた感じが、特に郷愁を誘うですぅ」<br> 「歴史の長い宿だからな。一年前から予約してる客も居るそうだ」<br> <br> 「ほへ~」と、感心半分、呆れ半分な声を出して、翠星石は再び、宿泊する宿を見上げた。<br> ちょっと、おどろおどろしい気配がする。<br> けれど、それが却って、いかにも民話の郷と言った趣を醸し出している。<br> 来て良かった……心から、そう思った。<br> <br> 「早いとこ記帳を済ませちゃおう。行こうぜ、翠星石」<br> 「はいですぅ」<br> <br> 記帳を済ませ、美味しい料理に舌鼓を打ち、ゆったりとした温泉で旅疲れを癒す。<br> たったそれだけの事なのだが、ジュンも、翠星石も、非常に満ち足りた気分になった。<br> こんなに優雅な気持ちになれたのは、久しぶりだ。<br> <br> 二人が通されたのは、離れの部屋。母屋で行われている宴会の喧噪も、殆ど届かない。<br> 浴衣姿の二人は、肩を寄せ合って、満天の星空を見上げていた。<br> ロマンチックな語らいを愉しんでいた時、急に、翠星石が驚いた様な声を上げた。<br> <br> 「翠星石? どうかしたのか?」<br> 「んん? 今……誰かが、私の髪を引っ張ったです」<br> 「あ、そういや言い忘れてたっけ。あのな、翠星石。実はなあ――」<br> 「なな、なんで……そんな怖い声で話しやがるですか」<br> 「この部屋って、座敷ワラシが出るという部屋なんだ」<br> <br> 遠野の夜空に「なんですとぉー?!」という絶叫が木霊していた。<br> <br> <br> <br> ――その夜。<br> 並んで敷かれた二組の布団で、ジュンと翠星石は就寝していた。<br> 正確には、ジュンだけが、健やかな寝息を立てている。<br> 翠星石はと言えば、座敷ワラシの話を聞いてから、すっかり眠気を失っていた。<br> 真っ暗な部屋の中で、まんじりともせず、遠い遠い夜明けを待っていた。<br> <br> ふと、物音がして、翠星石はビクリと肩を震わせた。<br> 耳を澄ますと……何かが……畳の上を這う音がする。<br> しかも……徐々に、近付いてくる。<br> <br> (!! いひぃいぃ――――っ!!)<br> <br> 声にならない悲鳴を上げて、翠星石は隣の布団に潜り込み、ジュンにしがみついた。<br> <br> 「んあ? な、なにすんだよ……翠星石?」<br> 「でででで、出たですっ! 座敷ワラシですうっ!」<br> 「ホントかよ? 落ち着けって、翠星石。それって、凄くラッキーな事なんだぞ」<br> 「え? そ、そうなのですか?」<br> 「うん。出会えない人は、何泊しても出会えないんだって。とにかく――」<br> <br> 潜り込んでいた布団から、そぉ~っと顔を出すジュンと、翠星石。<br> すると、目の前に小さな子供が立っていて、二人は思いっ切りビクッ! としてしまった。<br> が、それも最初だけのこと。よくよく見ると、その子は二人の良く知る人物に似ていた。<br> <br> 「……なんだか……蒼星石の小さい頃に、似てるですぅ」<br> 「翠星石も、そう思った? 実は、僕も……」<br> <br> そう思ったら、ちっとも怖くなくなってしまった。<br> 座敷ワラシは黙ったまま、お手玉や、あやとりの紐を差し出してくる。<br> 一緒に遊ぼ? という事なのだろう。ジュンと翠星石は小さく微笑むと、一晩中、座敷ワラシと戯れていた。<br> <br> <br> 翌朝、目が覚めると、二人は別々の布団に、きちんと収まっていた。<br> 夜明けまで、座敷ワラシと遊んでいて……それから雑魚寝した筈だが、<br> 詳しいことは何一つ、憶えていなかった。<br> <br> 朝食の席で、翠星石は思い切って、ジュンに話を切りだした。<br> <br> 「ねえ、ジュン。昨夜のこと……憶えてるですか?」<br> 「昨夜の? ああ、座敷ワラシと遊んだことか?」<br> <br> 事も無げに、さらりと言ってのけるジュン。<br> あまりに浮き世離れした事なので、夢と現実の区別がつかなくなっているのだろうか?<br> いや、そうではない。ジュンの眼差しは、正気を保っている者の眼だった。<br> <br> 徐に、ジュンが口を開く。<br> <br> 「あの部屋で座敷ワラシに出会うと、幸福になれるって言い伝えがあるんだ」<br> 「幸福ですか? 例えば、どんなです?」<br> 「宿の案内書きでは、ある男性は一人で宿泊中にワラシ様と出会って、<br>  総理大臣になったそうだぜ。どうやら社会的な成功を、収めるみたいだな」<br> 「ふぅん? じゃあ、男女二人の場合は、どうなるです?」<br> 「さあ? どうなるんだろうな? 案内書きには載ってないけど――」<br> 「もしかしたら…………幸せな家庭を……」<br> <br> ごにょごにょと呟く翠星石に、ジュンが「ん?」と訊き返すと、<br> 彼女は真っ赤な顔をして「なんでもねぇですぅ!」と、ムキになって否定した。<br> <br> なんで翠星石が怒っているのか訳が解らず、ジュンは頸を傾げ、頭を掻いていた。<br> <br> ――それから数日間、二人は単車に乗って、遠野の旅を満喫したのだった。<br> <br> <br> <br> そして、帰宅。<br> 旅の疲れがドッと出て、翠星石は着替えなどを詰めたナップザックを降ろすなり、<br> 玄関先で、靴も脱がずに寝転がってしまった。<br> <br> 「姉さんってば、行儀が悪いよ?」<br> <br> 出迎えにきた蒼星石が、腰に両手を当てて、だらしない姉の態度を、呆れ顔で見下ろしている。<br> その光景が、あの宿での出来事と重なる。<br> 布団から顔を覗かせた時、翠星石とジュンを見下ろしていた、座敷ワラシと。<br> <br> 「そう言えば……蒼星石に、お土産があるですぅ」<br> 「え? ホントに? なになに?」<br> <br> 嬉々として翠星石の脇に両膝を着いた蒼星石に、ザックの中から取り出した人形を差し出す。<br> それは、ジュンと翠星石が、遠野で材料を調達して創った、手作りのぬいぐるみだった。<br> <br> 「? この、ぬいぐるみ……ボクに似てなぁい?」<br> 「気のせいです。それは、座敷ワラシを模した、ぬいぐるみですぅ」<br> 「そうなんだ? でも、ありがとう。二人の手作りなんでしょ?」<br> 「……見た目で分かるですか?」<br> 「そりゃあ解るよ。ボクは、姉さん達のこと、応援してるんだからね。<br>  いつも見守ってるから、かな? 二人の考えとか、仕種が、なんとなく解るんだよ」<br> <br> 二人には、幸せになって欲しいから――<br> そう言って、蒼星石は気恥ずかしそうに、階段を駆け上っていった。<br> <br> (ジュンと、二人で……幸せな家庭を築けたら……)<br> <br> 幸福な未来に想いを馳せながら、翠星石は微睡みの中へと落ちていった。<br> <br> <br> <br>   終わり</p> <hr> <p>第一回 職人企画に乗り遅れた際の即興SS。</p>
<p><br>   『理想郷 ~イーハトーブ~』<br> <br> <br> 東北自動車道を、北に向かって、ひた走るバイクが一台。<br> 運転するのは、ジュン。<br> そして、彼の後ろに乗っているのは、翠星石。<br> 栗色の長い髪を肩の前に回し、両腕で、しっかりとジュンにしがみついている。<br> 時速百キロ以上の速度で疾駆する単車に乗っているのは、慣れない者にとって、<br> 想像以上に恐ろしい事だ。<br> 翠星石も、御多分に漏れず、緊張に身を強張らせていた。<br> <br> <br> 二人を乗せた単車は、安積P.A(パーキング・エリア)へと滑り込んでいく。<br> 朝早く家を出てから、何度目かの休憩である。高速道路に乗ってからは三度目になる。<br> 翠星石もホッとしたのか、彼女の腕から力が抜けるのを、ジュンは感じた。<br> <br> 駐車場の隅に単車を停めて、二人は窮屈なヘルメットを脱ぎ、吐息した。<br> <br> 「疲れただろ、翠星石?」</p> <p>頭を掻いて髪の乱れを直しながら、ジュンは朗らかに笑った。<br> 翠星石が、ちょっと唇を突き出しながら、拗ねたように応じる。<br> <br> 「解ってるなら、も少し小刻みに休憩しやがれですぅ」<br> 「ははっ……悪い。でも、目的地まで、まだ遠いからさぁ。それに、新幹線じゃなく<br>  バイクで行きたいって言い出したのは、翠星石だろう?」<br> 「う……でも、それは……ジュンに……ですぅ」<br> <br> 抱き付いていたかったから――なんてコトは、口が裂けても言えない。<br> 頬を染め、俯く彼女の頭を、ジュンは優しく叩いた。<br> <br> 「ゴメンな。次からは、短めに休憩を入れるよ。さあ、冷たい物でも飲んでこようぜ」<br> <br> 二人が目指しているのは、岩手。宮沢賢治と理想郷イーハトーブ(花巻市)が有名だ。<br> 或いは、柳田国男と遠野物語の世界か。目的地までは、まだ遠い……。<br> <br> <br> <br> やっとの思いで、予約を入れていた宿に着いた頃には、すっかり日が傾いていた。<br> 腰を伸ばして、深呼吸をする二人。<br> <br> 「んん~。やっぱり、空気が澄んでるですぅ」<br> 「そうだなあ。思えば遠くへきたものだ……って、つくづく感じるよ」<br> 「それにしても、雰囲気の良い宿ですね。鄙びた感じが、特に郷愁を誘うですぅ」<br> 「歴史の長い宿だからな。一年前から予約してる客も居るそうだ」<br> <br> 「ほへ~」と、感心半分、呆れ半分な声を出して、翠星石は再び、宿泊する宿を見上げた。<br> ちょっと、おどろおどろしい気配がする。<br> けれど、それが却って、いかにも民話の郷と言った趣を醸し出している。<br> 来て良かった……心から、そう思った。<br> <br> 「早いとこ記帳を済ませちゃおう。行こうぜ、翠星石」<br> 「はいですぅ」<br> <br> 記帳を済ませ、美味しい料理に舌鼓を打ち、ゆったりとした温泉で旅疲れを癒す。<br> たったそれだけの事なのだが、ジュンも、翠星石も、非常に満ち足りた気分になった。<br> こんなに優雅な気持ちになれたのは、久しぶりだ。<br> <br> 二人が通されたのは、離れの部屋。母屋で行われている宴会の喧噪も、殆ど届かない。<br> 浴衣姿の二人は、肩を寄せ合って、満天の星空を見上げていた。<br> ロマンチックな語らいを愉しんでいた時、急に、翠星石が驚いた様な声を上げた。<br> <br> 「翠星石? どうかしたのか?」<br> 「んん? 今……誰かが、私の髪を引っ張ったです」<br> 「あ、そういや言い忘れてたっけ。あのな、翠星石。実はなあ――」<br> 「なな、なんで……そんな怖い声で話しやがるですか」<br> 「この部屋って、座敷ワラシが出るという部屋なんだ」<br> <br> 遠野の夜空に「なんですとぉー?!」という絶叫が木霊していた。<br> <br> <br> <br> ――その夜。<br> 並んで敷かれた二組の布団で、ジュンと翠星石は就寝していた。<br> 正確には、ジュンだけが、健やかな寝息を立てている。<br> 翠星石はと言えば、座敷ワラシの話を聞いてから、すっかり眠気を失っていた。<br> 真っ暗な部屋の中で、まんじりともせず、遠い遠い夜明けを待っていた。<br> <br> ふと、物音がして、翠星石はビクリと肩を震わせた。<br> 耳を澄ますと……何かが……畳の上を這う音がする。<br> しかも……徐々に、近付いてくる。<br> <br> (!! いひぃいぃ――――っ!!)<br> <br> 声にならない悲鳴を上げて、翠星石は隣の布団に潜り込み、ジュンにしがみついた。<br> <br> 「んあ? な、なにすんだよ……翠星石?」<br> 「でででで、出たですっ! 座敷ワラシですうっ!」<br> 「ホントかよ? 落ち着けって、翠星石。それって、凄くラッキーな事なんだぞ」<br> 「え? そ、そうなのですか?」<br> 「うん。出会えない人は、何泊しても出会えないんだって。とにかく――」<br> <br> 潜り込んでいた布団から、そぉ~っと顔を出すジュンと、翠星石。<br> すると、目の前に小さな子供が立っていて、二人は思いっ切りビクッ! としてしまった。<br> が、それも最初だけのこと。よくよく見ると、その子は二人の良く知る人物に似ていた。<br> <br> 「……なんだか……蒼星石の小さい頃に、似てるですぅ」<br> 「翠星石も、そう思った? 実は、僕も……」<br> <br> そう思ったら、ちっとも怖くなくなってしまった。<br> 座敷ワラシは黙ったまま、お手玉や、あやとりの紐を差し出してくる。<br> 一緒に遊ぼ? という事なのだろう。ジュンと翠星石は小さく微笑むと、一晩中、座敷ワラシと戯れていた。<br> <br> <br> 翌朝、目が覚めると、二人は別々の布団に、きちんと収まっていた。<br> 夜明けまで、座敷ワラシと遊んでいて……それから雑魚寝した筈だが、<br> 詳しいことは何一つ、憶えていなかった。<br> <br> 朝食の席で、翠星石は思い切って、ジュンに話を切りだした。<br> <br> 「ねえ、ジュン。昨夜のこと……憶えてるですか?」<br> 「昨夜の? ああ、座敷ワラシと遊んだことか?」<br> <br> 事も無げに、さらりと言ってのけるジュン。<br> あまりに浮き世離れした事なので、夢と現実の区別がつかなくなっているのだろうか?<br> いや、そうではない。ジュンの眼差しは、正気を保っている者の眼だった。<br> <br> 徐に、ジュンが口を開く。<br> <br> 「あの部屋で座敷ワラシに出会うと、幸福になれるって言い伝えがあるんだ」<br> 「幸福ですか? 例えば、どんなです?」<br> 「宿の案内書きでは、ある男性は一人で宿泊中にワラシ様と出会って、<br>  総理大臣になったそうだぜ。どうやら社会的な成功を、収めるみたいだな」<br> 「ふぅん? じゃあ、男女二人の場合は、どうなるです?」<br> 「さあ? どうなるんだろうな? 案内書きには載ってないけど――」<br> 「もしかしたら…………幸せな家庭を……」<br> <br> ごにょごにょと呟く翠星石に、ジュンが「ん?」と訊き返すと、<br> 彼女は真っ赤な顔をして「なんでもねぇですぅ!」と、ムキになって否定した。<br> <br> なんで翠星石が怒っているのか訳が解らず、ジュンは頸を傾げ、頭を掻いていた。<br> <br> ――それから数日間、二人は単車に乗って、遠野の旅を満喫したのだった。<br> <br> <br> <br> そして、帰宅。<br> 旅の疲れがドッと出て、翠星石は着替えなどを詰めたナップザックを降ろすなり、<br> 玄関先で、靴も脱がずに寝転がってしまった。<br> <br> 「姉さんってば、行儀が悪いよ?」<br> <br> 出迎えにきた蒼星石が、腰に両手を当てて、だらしない姉の態度を、呆れ顔で見下ろしている。<br> その光景が、あの宿での出来事と重なる。<br> 布団から顔を覗かせた時、翠星石とジュンを見下ろしていた、座敷ワラシと。<br> <br> 「そう言えば……蒼星石に、お土産があるですぅ」<br> 「え? ホントに? なになに?」<br> <br> 嬉々として翠星石の脇に両膝を着いた蒼星石に、ザックの中から取り出した人形を差し出す。<br> それは、ジュンと翠星石が、遠野で材料を調達して創った、手作りのぬいぐるみだった。<br> <br> 「? この、ぬいぐるみ……ボクに似てなぁい?」<br> 「気のせいです。それは、座敷ワラシを模した、ぬいぐるみですぅ」<br> 「そうなんだ? でも、ありがとう。二人の手作りなんでしょ?」<br> 「……見た目で分かるですか?」<br> 「そりゃあ解るよ。ボクは、姉さん達のこと、応援してるんだからね。<br>  いつも見守ってるから、かな? 二人の考えとか、仕種が、なんとなく解るんだよ」<br> <br> 二人には、幸せになって欲しいから――<br> そう言って、蒼星石は気恥ずかしそうに、階段を駆け上っていった。<br> <br> (ジュンと、二人で……幸せな家庭を築けたら……)<br> <br> 幸福な未来に想いを馳せながら、翠星石は微睡みの中へと落ちていった。<br> <br> <br> <br>   終わり</p> <hr> <p>第一回 職人企画に乗り遅れた際の即興SS。</p>

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