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~序章~」(2007/01/22 (月) 00:58:12) の最新版変更点

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<p><br> ~序章~<br> <br> <br> 暗い闇の中で、彼女は目を覚ました。<br> 一体、どれほど眠っていたのか……。<br> そもそも、此処は、どこなのか……。<br> 起き抜けの呆然とした頭では、思考が纏まらない。<br> <br> <br> ひどく寒い。<br> 身を起こそうと力を込めると、身体中の関節が軋んで、思わず呻き声が漏れた。<br> <br> <br> ――わたしの身体は、まだ……壊れたまま。<br> <br> <br> 何気なく呟いた自らの言葉に、彼女の意識が呼び覚まされた。<br> <br> <br> ――まだ? 壊れたまま? わたしの身体が?<br> <br> <br> 徐々に、思考が覚醒してゆく。<br> <br> そして、完全に思い出した。<br> <br> <br> そうだ……わたしは、あやつと戦い、封印されたのだ。<br> あと少しで、息の根を止めてやる事が出来たのに。<br> あやつが命を賭して成就させた術によって――わたしは闇に閉じ込められた。<br> <br> <br> 以来、こうして闇の中で眠ることを強要され続けてきた。<br> 瞼を開いても、永続する漆黒。<br> いつしか眠り続ける事にも慣れて、心細く感じることも無くなった。<br> 無論……現世に、未練などあろう筈もなかった。<br> <br> ――なのに、なぜ、今頃になって目が覚めたのだろう?<br> <br> ふと、男のものと思しい、くぐもった声が聞こえた。<br> <br> 「こりゃあ……立派な造りの石棺だ。相当、身分が高い人物の墓らしい」<br> <br> その声に、若さを感じさせる女の声が続く。<br> <br> 「しかも、手つかずときてるわ。きっと、財宝もそっくりそのまま残ってるわよ」<br> 「とっとと開けて、お宝とご対面といこうか。桑田は、そっち回って」<br> 「わかったわ、笹塚」<br> <br> どうやら、男女二人組の墓泥棒らしい。ごりごり……と、何かを動かそうとしている。<br> その音を耳にして、彼女は自らが置かれていた状況を悟った。<br> そうか。わたしは石棺に閉じこめられていたのだ。<br> <br> 「おーい……笹塚ぁ~。もっと力を入れなさいよね」<br> 「――入れてるってば。お前こそ、もっと踏ん張れよな!」<br> <br> 声の主たちは、彼女が目覚めて居るとも知らず、うんうん唸りながら石棺を開けようとしている。<br> 彼女は思わず、笑い出したくなった。<br> 欲に駆られた間抜けな下衆どもめ。さあ、早く、わたしをここから出してちょうだい。<br> <br> ご、ごん! <br> <br> 重量感のある音を立てて、石棺の蓋が開かれた。<br> 声の主たちが下卑た笑いを漏らしつつ、期待に満ち、弛みきった表情で覗き込んでくる。<br> だが、彼女と目が合った途端、顔を強張らせ、見る間に青ざめていった。<br> <br> ――そして。<br> 彼女は哄笑しながら、この馬鹿な墓泥棒たちの顔面を鷲掴みにした。<br> <br> 「ひっ! ひいぃっ! 笹塚ぁっ!」<br> 「あわわわわわっ! なんだっ?!」<br> 「其方らには、褒美をくれてやらねばならぬな」<br> <br> 言い終えるが早いか、彼女は常人離れした腕力で、二人の頭を手繰り寄せた。<br> 情けない悲鳴だけを残して、男たちの身体が、石棺の中へと引きずり込まれる。<br> <br> その直後…………棺の中から、鮮血が噴き上がった。<br> <br> <br> <br> <br> どこまでも広がる、闇。<br> 腕を伸ばせど、一寸先も見えない。<br> <br> そんな、真っ黒な夢の中で、真紅は誰かの声を聞いていた。<br> それは地の底から響いているのかと思えるほど、低く、くぐもっていた。<br> 自分の名を呼ぶ、何者かの声。<br> <br> (……誰なの?) <br> <br> 問い返しても、答えは返ってこない。<br> ああ、まただ……。<br> こんな夢を、最近、頻繁に見るようになっていた。<br> <br> 退魔師としての職業病かしら? それとも、ただの偶然?<br> もしくは、虫の知らせというヤツかも知れない。<br> <br> 夢の中で耳を澄ましても、もう自分を呼ぶ声は聞こえなかった。<br> 気のせい? それとも、ただ単に寝惚けていただけ?<br> どうあれ、いつもの様に寝直そうと身体の力を抜いたとき、その声が脳裏で響いた。<br> <br> <br> ――真紅。邪悪なる意志が世界を呑み込もうとしています。<br> <br> (?! なに? 誰なのっ?!)<br> <br> 真紅は胸の中で問い返しつつも、戸惑いを隠し切れなかった。<br> ここまで明瞭に声が聞こえたのは、始めての事だったからである。<br> それは、聞いたこともない女性の声だった。<br> 動揺する真紅を気遣う様子もなく、姿なき声の主は語り続ける。<br> <br> <br> ――それらを祓うのは、真紅……あなたが持って産まれた使命なのです。<br> まずは、運命を共有する七人の同志を探しなさい。<br> あなたなら、すぐに解るでしょう。<br> <br> (そんなコトを、いきなり言われたって……私には)<br> <br> 何を手懸かりに探せば良いのか、さっぱり解らない。<br> あなたなら、すぐに解る……ですって? 冗談しては酷すぎる。<br> 憤慨する真紅に向けて、声の主は朗々と語った。<br> <br> <br> ――彼らの協力を得て、この剣で穢れの元凶を討ち果たすのです。<br> <br> 闇の中から、白皙とした細い腕が伸びてきた。状況から察して、声の主なのだろう。<br> その手には、瀟洒な鞘に納められた一振りの剣が握られていた。<br> 声の主――得体の知れない女性は、真紅の胸元に、剣の柄を押し付けてくる。<br> 余りにも強引なので、真紅は仕方なく、両手で剣を受け取った。<br> <br> <br> <br> その途端、真紅は身体の上に重量を感じて、やおら現実に引き戻された。<br> 布団越しにも判る、金属の冷たさと、重さ……。<br> そんな馬鹿なと思いつつ、半分以上、寝惚けた頭で思考する。<br> 寝室の壁に立て掛けてあった剣が、何かの拍子に倒れてきたのだろうか?<br> 暫し考えて、真紅はふと、戦慄した。<br> <br> そもそも、寝室には剣など置いていなかった、と。<br> <br> (まさか……気のせいよね?)<br> <br> 今度こそ、完全に意識と五感が覚醒していた。<br> 緊張でカチコチに強張る身体を起こした真紅は、掛け布団の上から滑り落ちた物を目にして、<br> 思わず驚愕の悲鳴を上げた。有る筈のない物が、そこに存在していたのだから。<br> <br> 不気味に思う一方で、剣が放つ不思議な魅力に抗えなくなる気持ちが募ってゆく。<br> 気付けば、真紅は床に転がる剣に、手を伸ばしていた。<br> 触れた指先に痛みを覚えて、ビクッ! と腕を引っ込める。<br> 多分、金属の冷たさを、熱さと錯覚したのだろう。自嘲して、真紅はひと思いに剣を掴んだ。<br> <br> 「私が、持って産まれた使命……俄には信じられない話なのだわ」<br> <br> だが、言葉と裏腹に、真紅の覚悟は決まっていた。<br> 運命はさておき、退魔師として、汚れを祓うという事に興味をそそられたのだ。<br> 旅に出よう。夜闇の中で、真紅は剣を握り締め、決意を固めた。<br> <br> <br> =<a href="http://www4.atwiki.jp/3edk07nt/pages/43.html">第一章につづく</a>=<br></p>
<p> <br>   ~序章~<br>  <br>  <br> 暗い闇の中で、彼女は目を覚ました。<br> 一体、どれほど眠っていたのか……。<br> そもそも、此処は、どこなのか……。<br> 起き抜けの呆然とした頭では、思考が纏まらない。<br>  <br>  <br> ひどく寒い。<br> 身を起こそうと力を込めると、身体中の関節が軋んで、思わず呻き声が漏れた。<br>  <br>  <br>  ――わたしの身体は、まだ……壊れたまま。<br>  <br>  <br> 何気なく呟いた自らの言葉に、彼女の意識が呼び覚まされた。<br>  <br>  <br>  ――まだ? 壊れたまま? わたしの身体が?<br>  <br>  <br> 徐々に、思考が覚醒してゆく。<br> <br> そして、完全に思い出した。<br>  <br>  <br> そうだ……わたしは、あやつと戦い、封印されたのだ。<br> あと少しで、息の根を止めてやる事が出来たのに。<br> あやつが命を賭して成就させた術によって――わたしは闇に閉じ込められた。<br>  <br>  <br> 以来、こうして闇の中で眠ることを強要され続けてきた。<br> 瞼を開いても、永続する漆黒。<br> いつしか眠り続ける事にも慣れて、心細く感じることも無くなった。<br> 無論……現世に、未練などあろう筈もなかった。<br> <br>  ――なのに、なぜ、今頃になって目が覚めたのだろう?<br> <br> ふと、男のものと思しい、くぐもった声が聞こえた。<br> <br>  「こりゃあ……立派な造りの石棺だ。相当、身分が高い人物の墓らしい」<br> <br> その声に、若さを感じさせる女の声が続く。<br> <br>  「しかも、手つかずときてるわ。きっと、財宝もそっくりそのまま残ってるわよ」<br>  「とっとと開けて、お宝とご対面といこうか。桑田は、そっち回って」<br>  「わかったわ、笹塚」<br> <br> どうやら、男女二人組の墓泥棒らしい。ごりごり……と、何かを動かそうとしている。<br> その音を耳にして、彼女は自らが置かれていた状況を悟った。<br> そうか。わたしは石棺に閉じこめられていたのだ。<br> <br>  「おーい……笹塚ぁ~。もっと力を入れなさいよね」<br>  「――入れてるってば。お前こそ、もっと踏ん張れよな!」<br> <br> 声の主たちは、彼女が目覚めて居るとも知らず、うんうん唸りながら石棺を開けようとしている。<br> 彼女は思わず、笑い出したくなった。<br> 欲に駆られた間抜けな下衆どもめ。さあ、早く、わたしをここから出してちょうだい。<br> <br>  ご、ごん! <br> <br> 重量感のある音を立てて、石棺の蓋が開かれた。<br> 声の主たちが下卑た笑いを漏らしつつ、期待に満ち、弛みきった表情で覗き込んでくる。<br> だが、彼女と目が合った途端、顔を強張らせ、見る間に青ざめていった。<br> <br> ――そして。<br> 彼女は哄笑しながら、この馬鹿な墓泥棒たちの顔面を鷲掴みにした。<br> <br>  「ひっ! ひいぃっ! 笹塚ぁっ!」<br>  「あわわわわわっ! なんだっ?!」<br>  「其方らには、褒美をくれてやらねばならぬな」<br> <br> 言い終えるが早いか、彼女は常人離れした腕力で、二人の頭を手繰り寄せた。<br> 情けない悲鳴だけを残して、男たちの身体が、石棺の中へと引きずり込まれる。<br> <br> その直後…………棺の中から、鮮血が噴き上がった。<br> <br> <br> <br> <br> どこまでも広がる、闇。<br> 腕を伸ばせど、一寸先も見えない。<br> <br> そんな、真っ黒な夢の中で、真紅は誰かの声を聞いていた。<br> それは地の底から響いているのかと思えるほど、低く、くぐもっていた。<br> 自分の名を呼ぶ、何者かの声。<br> <br>  (……誰なの?) <br> <br> 問い返しても、答えは返ってこない。<br> ああ、まただ……。<br> こんな夢を、最近、頻繁に見るようになっていた。<br> <br> 退魔師としての職業病かしら? それとも、ただの偶然?<br> もしくは、虫の知らせというヤツかも知れない。<br> <br> 夢の中で耳を澄ましても、もう自分を呼ぶ声は聞こえなかった。<br> 気のせい? それとも、ただ単に寝惚けていただけ?<br> どうあれ、いつもの様に寝直そうと身体の力を抜いたとき、その声が脳裏で響いた。<br> <br> <br>  ――真紅。邪悪なる意志が世界を呑み込もうとしています。<br> <br>  (?! なに? 誰なのっ?!)<br> <br> 真紅は胸の中で問い返しつつも、戸惑いを隠し切れなかった。<br> ここまで明瞭に声が聞こえたのは、始めての事だったからである。<br> それは、聞いたこともない女性の声だった。<br> 動揺する真紅を気遣う様子もなく、姿なき声の主は語り続ける。<br> <br> <br>  ――それらを祓うのは、真紅……あなたが持って産まれた使命なのです。<br>     まずは、運命を共有する七人の同志を探しなさい。<br>     あなたなら、すぐに解るでしょう。<br> <br>  (そんなコトを、いきなり言われたって……私には)<br> <br> 何を手懸かりに探せば良いのか、さっぱり解らない。<br> あなたなら、すぐに解る……ですって? 冗談しては酷すぎる。<br> 憤慨する真紅に向けて、声の主は朗々と語った。<br> <br> <br>  ――彼らの協力を得て、この剣で穢れの元凶を討ち果たすのです。<br> <br> 闇の中から、白皙とした細い腕が伸びてきた。状況から察して、声の主なのだろう。<br> その手には、瀟洒な鞘に納められた一振りの剣が握られていた。<br> 声の主――得体の知れない女性は、真紅の胸元に、剣の柄を押し付けてくる。<br> 余りにも強引なので、真紅は仕方なく、両手で剣を受け取った。<br> <br> <br> <br> その途端、真紅は身体の上に重量を感じて、やおら現実に引き戻された。<br> 布団越しにも判る、金属の冷たさと、重さ……。<br> そんな馬鹿なと思いつつ、半分以上、寝惚けた頭で思考する。<br> 寝室の壁に立て掛けてあった剣が、何かの拍子に倒れてきたのだろうか?<br> 暫し考えて、真紅はふと、戦慄した。<br> <br> そもそも、寝室には剣など置いていなかった、と。<br> <br>  (まさか……気のせいよね?)<br> <br> 今度こそ、完全に意識と五感が覚醒していた。<br> 緊張でカチコチに強張る身体を起こした真紅は、掛け布団の上から滑り落ちた物を目にして、<br> 思わず驚愕の悲鳴を上げた。有る筈のない物が、そこに存在していたのだから。<br> <br> 不気味に思う一方で、剣が放つ不思議な魅力に抗えなくなる気持ちが募ってゆく。<br> 気付けば、真紅は床に転がる剣に、手を伸ばしていた。<br> 触れた指先に痛みを覚えて、ビクッ! と腕を引っ込める。<br> 多分、金属の冷たさを、熱さと錯覚したのだろう。自嘲して、真紅はひと思いに剣を掴んだ。<br> <br>  「私が、持って産まれた使命……俄には信じられない話なのだわ」<br> <br> だが、言葉と裏腹に、真紅の覚悟は決まっていた。<br> 運命はさておき、退魔師として、汚れを祓うという事に興味をそそられたのだ。<br> 旅に出よう。夜闇の中で、真紅は剣を握り締め、決意を固めた。<br> <br> <br>   =<a href="http://www4.atwiki.jp/3edk07nt/pages/43.html">第一章につづく</a>=<br>  </p>

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