『色褪せない思い出を』
朝の登校時間が、薔薇水晶の気に入りだった。
銀色の髪を風に靡かせて歩く彼女と、一緒に居られるから。
――二人だけの時間。二人だけの世界。
隣に並んで歩いているだけでも充分に楽しい。時が経つのも忘れるくらいに。
まして、言葉を交わそうものなら、天にも昇る心地になるのだった。
どうして、こんなにも水銀燈の事が愛おしいのだろう。
記憶を辿っても、これほどに他人を好きになった事は、生まれて始めてだった。
「ねえ……銀ちゃん。今日、帰りがけにケーキ食べて行かない?」
「また『えんじゅ』のケーキバイキング? 薔薇しぃも好きねぇ」
「育ち盛りだから…………えっへん」
悪戯っぽく胸を反らす。制服が押し上げられ、ふくよかな双丘が強調された。
水銀燈には及ばなくとも、薔薇水晶だって日に日に大人へ近付いている。
背の伸びは流石に止まったけれど、ボディラインはなだらかに成長中だ。
「まぁ、いいけどねぇ。あそこのケーキは、しつこい甘さじゃないからぁ」
「ホント? じゃあ、約束だよ♪」
楽しく過ごす、ひととき。こんな時間が、もっと続けばいいと思う。
今日の放課後もまた一緒に居られると考えると、薔薇水晶の心は躍った。
――そこに、薔薇水晶の浮かれた心に冷や水を掛ける様な声が届いた。
「もう帰りの予定を立てているの? まだ学校にも行っていないのに」
真紅の声を受けて、水銀燈は徐に振り返った。
子供みたいに無邪気な笑顔。真紅と話す時、水銀燈はいつも、そんな顔をした。
薔薇水晶には、ただの一度も向けたことがない笑顔――
「あらぁ? 珍しいわねぇ、真紅ぅ。貴女が遅刻なんてぇ」
「ちょっと、目覚ましの調子が悪かったのだわ」
「本当かしらぁ。実は、二度寝して大慌て……ってトコじゃないのぉ?」
「ばっ……ばか言わないでちょうだい! この私が、そんな無様な――」
慌てて否定する真紅。水銀燈は、並んで歩きながら談笑を続ける。
薔薇水晶の脚が、止まった。二人の姿を見ていると、間に入るのが躊躇われた。
なんだか、言いようのない感情が心の奥底から沸き上がってくる。
たかが幼馴染というだけで、すんなりと水銀燈の隣に収まってしまう真紅が、
疎ましくさえ思えた。
「どうしたのぉ、薔薇しぃ。置いてっちゃうわよぉ?」
水銀燈の声にハッと顔を上げると、二人は随分と先まで進んでいた。
あんなに先まで…………私の存在なんか、すっかり忘れられてたのね。
「あ、待ってよ~。銀ちゃ~ん」
笑顔を見せて、駆け出す薔薇水晶。けれど、それは作り笑いでしかなかった。
心は笑っていない。ちっとも面白くなかった。
さっきまでは、あんなに幸せを感じていたのに……。
――どうして…………こんな気持ちになるの? 教えてよ、銀ちゃん。
教室でも、昼食の時でも、薔薇水晶は水銀燈の側に居た。それこそ、影の様に。
彼女の呼吸を感じるだけで安堵できる。ここは薔薇水晶にとって、特別な場所。
水銀燈の側に居るためなら、他のことなど蔑ろにしても構わなかった。
「ちょっと、薔薇しぃ……幾ら何でも、授業中にくっ付きすぎよぉ」
「だって……こうしてるのが好きなんだもん」
授業のノートも取らずに、薔薇水晶は隣の席に座る水銀燈の左手を、
ぎゅっと握りしめていた。
楽しい。こうしているだけで、凄く愉しい。
授業も成績も、どうだっていい。銀ちゃんと、色褪せない思い出を紡げるなら。
――休憩時間。
トイレから戻った薔薇水晶は、教室に入ろうとして、
愉しげに話す真紅と水銀燈を見るなり立ち止まった。
扉の陰に隠れて、思わず聞き耳を立てる。一体、何を話しているのだろう?
「薔薇水晶に、随分と好かれているのね。でも、さっきの授業中の態度はなに?
あまり関心はしないのだわ」
「そうは思うのよねぇ。でも、薔薇しぃも悪気があってやってる訳じゃないし。
あんなに懐いてくれると、私としても悪い気しないのよねぇ」
「もう少し、素っ気なくしてもいいと思うわよ? 薔薇水晶の為にも」
「確かに、私にべったりなままじゃあ、他の誰とも仲良くなれないわねぇ」
なにそれ。私のため? よしてよ、冗談じゃない。
私は今のままで充分に幸せなのに……どうして、そんな事を言うの?
薔薇水晶は扉の陰で、唇を噛み締め、拳を握った。
水銀燈が話しかけてきたのは、六限目が終わって、帰ろうとした矢先の事だった。
「薔薇しぃ。今朝の約束なんだけどぉ……ごめん」
「ダメなの?」
「今日、急な用事が入っちゃったのよぅ。本っ当に、ごめんなさぁい」
両手を合わせて謝る水銀燈に、薔薇水晶は「いいよ」と応じた。
そりゃあ残念だけれど、急用ならば仕方がない。
駄々をこねて嫌われるのも厭だ。
「その代わり、今度なにか奢ってね」
「うんうん。そりゃあもう、何でも御馳走してあげるわぁ」
「嬉しいっ! 期待してるからね」
「ちょっ……んもぅ、すぐ抱き付くんだからぁ」
温かい。水銀燈の体温を感じているだけで、心が安らいだ。
ずっと、こうしていたい。このままで居させて。
けれど、薔薇水晶の願いは水銀燈の腕によって、やんわりと拒絶された。
「あ…………」
「ごめんね、薔薇しぃ。そろそろ行かなきゃ。待ち合わせてるからぁ」
「う、うん…………じゃあ……また明日ね」
水銀燈は薔薇水晶に微笑みかけて、鞄を手に、教室を後にした。
小走りに駆けて行く彼女の背中は、なんだか嬉しそうだ。
誰と待ち合わせているのだろう。ちょっとだけ、心が痛かった。
――ひとりぼっちの帰り道。
偶然、ショッピングモールへ消えゆく彼女たちを見かけた。
水銀燈と…………真紅。
酷い。私との約束を反故にして待ち合わせていたのは、彼女だったなんて。
ちらりと見えた二人の横顔は、とても愉しそうだった。
「真紅…………貴女は何故、私と銀ちゃんを引き離そうとするの?」
真紅のせいで、銀ちゃんは私との約束を守らなかった。
薔薇水晶は自分の中で、羨望が妄執に変わっていくのを感じた。
貴女と、銀ちゃん。
幼馴染みという関係を、どれだけ私が羨んだか……貴女には解る?
きっと、解らないわよね。解る筈がない。
貴女にとって、それは息をするほどに自然な事なのだから。
「貴女が羨ましい。当たり前のように、銀ちゃんと並んで歩ける貴女が」
私も、水銀燈の隣に収まっていたい。今の、真紅みたいに。
出来るものならば、私と真紅の立場を入れ替えてしまいたい。
そうすれば、きっと私の心は救われる。銀ちゃんも、私だけを見てくれる。
「そうよ…………そうすれば、きっと――」
その日の夜、薔薇水晶は学園裏の城址公園に、真紅を呼び出した。
手には、長細い紙包み。それを両腕で覆い隠すようにして、胸に抱え込んでいた。
【薔】渡したいものが有るの……午後九時ごろ、城址公園に来て下さい。
メールの内容は、それだけ。
送信した後、真紅からメールが何回か届いたけれど、すべて無視した。
電話がかかってきても、全く無視。
真紅は、来るだろうか? 来てくれるだろうか? 来てくれないと困る。
腕時計を確認すると、あと十分で九時になるところだった。
薔薇水晶の身体が震えた。冷たい夜風のせいか。
それとも、これから自分がしようとしている事への戦慄きか――
ざっ――
薔薇水晶の背後で、砂利を踏む音がした。
「待たせたわね、薔薇水晶。渡したいものって、何なのかしら」
真紅は一人だった。周囲には自分たち以外、誰も居ない。
「ありがとう、真紅。ごめんね……こんな時間に呼び出したりして」
「構わないのだわ。それより、どういう事なの?
電話にもメールにも返事が無いから、何か有ったのかと心配したのよ」
「別に、何も。それより…………渡すもの……あるから」
それは、一瞬の出来事だった。
ざっ――
砂利を蹴って真紅の正面に飛び込みながら、薔薇水晶は紙包みを破り捨てて、
鋭利な輝きを放つ凶器を取り出していた。
そのまま、驚愕のあまり硬直した真紅に、身体ごとぶつかっていく。
鈍い衝撃。薔薇水晶の手に、生々しい手応えが伝わってきた。
真紅は茫然と、目の前の少女を眺めていた。お腹が、灼けるように熱い。
刺されたのだと解ったのは、五秒以上も経った頃だった。
握り締めていた携帯が、指の間から滑り落ちた。
「ば…………ら、水晶?」
「…………真紅……貴女に渡したいものって…………引導なの」
細身の刺身包丁は、真紅の鳩尾に深々と突き刺さっていた。
薔薇水晶が手首を捻ると、胃を切り裂いたのか、真紅は吐血した。
「どう……し……て?」
「ゴメン…………真紅…………邪魔なのよ、貴女が」
「?!」
「貴女が居ると、銀ちゃんは私を見てくれなくなる。だから……消えて!」
思いっ切り、刺身包丁を引き抜く。
そして、渾身の力を込めて、再び真紅の腹を刺した。
「消えて! 私の前から消えて! 銀ちゃんの前から消えてよっ!」
真紅は、仰向けに横たわったまま、虚ろな眼差しで夜空を眺めていた。
もう動かない。真紅の服は、彼女の名を示すように、紅く染まっている。
「貴女が悪いのよ、真紅。私の居場所を……奪おうとしたんだから」
夜風に温もりを奪われていく真紅の亡骸を見下ろしながら、薔薇水晶は呟いた。
糸の切れた操り人形みたいに倒れている真紅。
不意に、喉の奥から酸っぱいモノがこみ上げてきて、薔薇水晶は吐き散らした。
ホントに、これで良かったの? そんな思いが、胸に去来する。
「良かったのよ、これで。当たり前じゃないの」
自らの弱気を振り払うように、薔薇水晶は吐き捨てた。
今更、後戻りなんて出来ないんだから。
これからは、私が真紅のポジションに入るのよ。誰よりも、銀ちゃんの近くに。
まずは、真紅の遺体を片付けなければならない。
私が犯人だと言う事は、誰にも知られてはならない。
死体を埋める穴は、前もって掘ってある。シャベルも置きっ放しにしてあった。
後は、そこに運ぶだけ。速やかに埋めてしまうだけ。
「さあ……真紅。あっちに、行こう?」
薔薇水晶は真紅の傍らに跪いて、眠った子供を起こすように囁きかけた。
その時、一筋の光芒が薔薇水晶を照らし出した。
驚いて振り返った薔薇水晶の眼を、眩い光が刺激した。闇に慣れた目が眩む。
こちらからは影になって、相手が誰か解らなかった。
声を、聞くまでは――
「真紅っ! 薔薇しぃ!」
「銀……ちゃん」
どうして、彼女が此処に? 薔薇水晶は狼狽えた。
最も見られたくなかった相手が、よりにもよって、最も初めに来てしまうなんて。
「銀ちゃん…………何故、ここに?」
「真紅が電話してきたのよ。これから、薔薇しぃと城址公園で会うから、
一緒に来てくれないかって。これは一体、どういう事なのよぉ!」
「こ……れは、……えっと」
「どきなさい! 真紅っ! しっかりするのよ! 死んじゃダメぇ!」
水銀燈は服やスラックスに血が付着する事も構わずに、真紅の身体を抱き上げた。
脈は無い。呼吸も停止している。
水銀燈は力無く弛緩した親友の顔に頬を摺り寄せて、はらはらと涙を流した。
「そんな……真紅ぅ…………真紅ぅ……私、こんなの……イヤよぉ」
「銀ちゃん……私……」
――ごめん、銀ちゃん。真紅を殺したのは、私なの。
本当のことなど、絶対に言えない。何とかして、誤魔化さなければ。
でも、動揺を抑えきれない。焦れば焦るほど、思考は空回りしてしまった。
水銀燈が、思い出したように携帯を取り出した。
「ぐすっ……とにかく…………通報……しなきゃ」
通報?! ダメだよ、そんなの。
警察に知られたら、凶器に残った指紋から、私が犯人だとバレてしまう。
もう、銀ちゃんの側には居られなくなってしまう!
――それだけは、厭! 絶対にイヤだ! 折角、真紅を追い払ったのにっ!
次の瞬間、薔薇水晶は水銀燈の手を叩いて、彼女の手から携帯を跳ね飛ばしていた。
そして、水銀燈が言葉を発するより早く、彼女の肩を抱き締めていた。
「ダメだよっ! 通報なんかしちゃ、絶対にダメよ!」
「……え。薔……薇……しぃ?」
「お願いだから、通報なんてしないで! 誰にも言わないで!」
「――っ! まさか、貴女が……真紅を?!」
どんっ!
水銀燈は薔薇水晶を突き飛ばして、後ずさった。
怯えた眼差しで、薔薇水晶を凝視している。
薔薇水晶は、血だまりに落ちていた刺身包丁を拾い上げて……。
「お願い…………ずっと、私の…………側にいてよ」
衝動的に、二人を殺してしまった。取り返しの着かない事をしてしまった。
薔薇水晶は足元に転がる二人の亡骸を、茫然と見下ろしていた。
私は一体、何をやっているの?
二人の身体から流れ出した血液が、砂利の上で一つに混ざり合っていた。
この二人は、死して尚、一緒に居ようとするのね。
結局、私がしたことは二人を永遠に結び付けただけ……。
「だけど…………私は…………諦めない!」
――何時までも、何処までも、一緒に居たいと願ったから。
薔薇水晶は、自らの喉に、包丁の切っ先を突き付けた。
私の魂は、二人と同じ場所へは行けないかも知れない。
だけど、せめて…………この世界では、一つに成りたかった。
一つに混ざり合って、お別れしたかった。
腕に、力を込める。
自分の身体から溢れ出す血が、二人の血だまりへと流れ落ちていく。
薔薇水晶は、心からの微笑みを浮かべた。
――私も、混ぜてよ。銀ちゃんと真紅の血液に。
意識が途切れる直前、薔薇水晶は一陣の風が自分を包み込むのを感じていた。
なんだか、とても温かくて、懐かしい感覚。
これは、一体――
「これはまた……随分と、直情径行の強いお嬢さんですね」
「だ、誰? どこに――」
「貴女の後ろに居ますよ。お嬢さん」
そう話しかけられて振り返った薔薇水晶が目にしたのは、
タキシードを着て、小さなシルクハットを被ったウサギの紳士だった。
「あなた……誰なの?」
「日常と非現実を渡り歩く道化に、名など有りませんよ。
ワタシはただ、お嬢さんの希望を知って、お節介を焼きに来ただけです」
「私の希望?」
「ええ。あの二人と、一緒に居たい……と、願ったはずですよ」
そう。確かに、そう! 私は、二人と一緒に居たいと思った。
血だけでも、一つに混ざり合いたいと願った。
だから、私は…………自ら喉を刺し貫いた。
薔薇水晶は、そこで違和感を覚えた。
刺した筈なのに。さっきまで、もの凄く痛かったのに……。
気付けば、傷は無かった。
「まさに間一髪、でしたね。今回は流石に肝を冷やしました」
道化ウサギは額に手を遣って、汗を拭う仕種を見せた。
ふっ……と、薔薇水晶の頬が緩んだ。
「私は、罪を償うまで死ぬ事を許されない…………と言うの?」
「そうです。アナタは自分の過ちに気付き、贖罪しなければならない」
私の過ちは……銀ちゃんの側に居たいが為に、安易な解決策を採ってしまったこと。
色褪せない思い出が欲しくて、真紅を邪魔だと思ってしまったこと。
あの二人の絆に、考えを巡らせたりはしなかった。
「結局、色褪せない思い出なんか無かったのね」
「心の中で美化し続ける事は可能でしょう。
けれど、それは最早、最初に感じた美しさとは違います。
継ぎ接ぎだらけの形骸にすぎない」
「思い出は、生きていればこそ紡ぎ続けられていくもの……か」
「その通り。殺してしまったら、新たな思い出を作ることも出来ません。
ただ、過去を偲び、楽しかった思い出を美化して行くだけです」
それが、私の…………本当の過ち。
思い出を守り、これからも作り続けたいなら、二人の絆に飛び込むべきだったのだ。
二人の絆に溶け込んで、やがて一つになれるまで、徹底的に付き合うべきだった。
「やり直せたら…………良いのに」
「チャンスは、誰にでも与えられるものですよ。勿論……アナタにもね」
道化ウサギは目を細めて笑うと、懐中時計を取り出して、針を動かし始めた。
――朝。
執事に起こされて、薔薇水晶の一日は始まる。
「お嬢様。お急ぎになられませんと、水銀燈お嬢様を待たせてしまいますぞ」
水銀燈とは、毎朝、待ち合わせをしている。
薔薇水晶は顔を洗っても寝ぼけ眼のまま朝食を摂り、身支度を始める。
歯を磨き、制服に着替えて、髪を梳く。
今日の授業日程を見ながら、鞄に教科書を詰め込んでいく。やばい、もう時間だ。
「いってきま~す!!」
弾丸のように玄関を飛び出し、約束の場所へ――
銀ちゃんはもう、来ているだろうか。早く会いたい。会いたくて仕方なかった。
いつもの待ち合わせ場所で、彼女たちは雑談をしていた。
銀ちゃんと、真紅。とても仲がよさそう。
薔薇水晶の脚が、止まる。けれど、次の瞬間には全力疾走していた。
そのまま、水銀燈と真紅に飛び付いて、ギュッと抱擁する。
「おっはよーう!!」
「ちょっと、薔薇しぃ…………朝からテンション高すぎよぅ」
「まったくだわ。貴女、その抱き付き癖、なんとかならないの?」
えへへ……と照れ笑いながら、薔薇水晶は二人にしか聞こえないほどの小声で、そっと囁いた。
「二人の事が…………大好きだからだよっ♥」
「やれやれ……本当に、世話の焼けるお嬢さん達ですねえ」
道化ウサギは、屋根の上から三人の薔薇乙女を見下ろしていた。
その眼差しは優しい。まるで、愛娘を見守る父親のようだった。
「手の掛かる子ほど可愛い……というのも、あながち間違いではないようです。
まあ、この調子なら三人の絆が一つになるのも、そう遠くないでしょう」
さて……と、道化ウサギは両腕を天に突き上げて、背筋を伸ばした。
「道化は早々に退散すると致しましょう。そうそう。お節介ついでに、もう一つ。
薔薇乙女達に、尽きる事なき幸福が訪れんことを」
祝福の言葉を残して、道化は一陣の風と共に消えた。