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  1947.4.17
  ラステンブルク
 
 
 
昨夜から降り続く雨が、彼女が見つめる世界の全てを覆い尽くしていた。

砲爆撃で半壊した街並み。宿営のテント。
道行く兵士の、くたびれた軍服や軍靴。幽鬼のように流れていく難民たちの衣服。
水たまりの雨水を必死になって舐めている、痩せこけた野良犬。

みんな、くすんでいる。水のヴェールを纏い、ひっそりと屏息している。
心ですら例外なく、霧雨に濡れそぼって……重い。


「――どこも似たり寄ったりの景色ばかり。酷いものね。
 まあ……死体が放置されていないだけ、マシだけれど」

あの耐え難い腐臭と、何万というハエが立てる唸りのような羽音が耳に甦って、
真紅は軽い吐き気を催した。なんど体験しても、あれだけは慣れない。

ちょっとだけ、意気消沈。
だが、すぐに気を取り直すと、飛沫を跳ね散らして走り出す。
戦時下の、荒んだ光景を横目に、軒先を小走りに駆け抜けていく。
憂鬱になんか、なっていられない。気落ちする暇すら、許されていなかった。
いまも、半壊した住居の一階部分を利用した簡素な戦車壕では、
仲間の娘たちが、車長である彼女の帰りを待ちわびているのだから。
あの鋼鉄の虎も、爪を研ぎ、腹を満たして、次の狩りを心待ちにしていることだろう。

「また……多くの人が傷つき、倒れていくのね」

春先の冷たい雨を、真紅は恨めしげに見上げながら、司令部でのことを思い返した。
44年の夏、ヒトラー暗殺未遂事件の現場となった『狼の砦』ラステンブルク総統大本営。
そこは今、ドイツ最高の名将と謳われるエーリヒ・フォン=マンシュタイン元帥の率いる、
南方軍集団の司令部として機能している。
真紅は今朝早くに、森の中の総統大本営に出頭、命令書を受領して、
ついさっき居住区に戻ったばかりだった。




街の数区画をノンストップで走り抜き、息を弾ませ飛び込んだ戦車壕では、
翠星石が脚立に乗って、砲身に昨日のキルマークを書き込んでいた。
彼女は真紅の姿を認めると、刷毛を持つ手を休めて、にこっと微笑んだ。

「お帰りなさいですぅ。司令部の様子は、どうだったです?」

真紅は小柄な肩を竦めて吐息すると、両の掌を上に向け、お手上げのジェスチャーを返す。

「芳しくないわね。楽観できるような情報は、何もなかったわ。
 いくら名将フォン=マンシュタイン元帥でも、兵力不足では、反撃も覚束ないわ。
 現状の維持。それだけでも、立派な戦果と言えるでしょうね」

真紅の言を聞きつけ、ホイールとキャタピラの点検をしていた金糸雀が、
作業の手を止めて真紅を見遣った。

「ってことは、カナたちは命令あるまで、ここで待機ってコトかしら?」
「――だったら、少しは休息できて嬉しかったのだけれど」

苦笑まじりに言って、真紅は濡らさないよう懐に入れていた封筒を抜き出す。
金糸雀と翠星石は、それを目にするや、渋面を作った。

「ありがたいお土産を、頂いてきたわ」
「それはまた……涙が出そうかしら。で、内容は?」
「移動命令よ。敵の機甲部隊が、ワルシャワ方面に集結し始めてるらしいわ」
「なるほど。防衛作戦の一端に組み込まれるですね」

ワルシャワが陥落すれば、東プロイセンは連絡線を脅かされてしまう。
そうさせないために、かなりの兵力を駐留させて、防備を固めていた。
にも拘わらず、真紅たちに転属命令が出されたのは、何故か。

その最たる理由は、戦車の数が不足している――ということだった。
対戦車砲(PAK)や榴弾砲、88mm高射砲では、機動力がなさすぎたのだ。
これでは、臨機応変な戦術展開など、出来ようはずもない。

「でも、ここからだと少し距離があるかしら。
 制空権は敵に掌握されてるから、移動は夜中に限られちゃうし」
「そうね。実際、機甲師団の集結も、ままならないらしいわ」

不安そうな金糸雀に、真紅は歯に衣着せることなく、厳しい現実を突きつける。
今更、瑣末な希望など抱かせても仕方がないと、解っていたから。


44年、陸軍がアルデンヌで反攻作戦を展開していた頃――
空軍も制空権の回復を狙った『ボーデンプラッテ(鉄床板)』作戦を実施した。
残存する戦闘機の大量投入による奇襲攻撃である。
奇襲は成功して、連合軍の航空戦力に、少なからぬ損害を与えたものの、
ドイツ側の被害も甚大なもので、制空権の回復には及ばなかった。
結局、栄光のルフトヴァッフェの疲弊を早めただけの作戦だったのだ。

45年以降、ヘルマン・ゲーリング国家元帥の罷免という事件を経て、
戦闘機総監だったアドルフ・ガランド中将が、今は空軍をまとめている。
ジェット戦闘機Me-262を運用するエース部隊JV-44やJG-7など、
奮闘している部隊もあるが、制空権は今日まで失われたままだ。


「でも、辿り着ければ、ティーガーⅢは大暴れ間違いなしですぅ。
 銀ちゃんはバルタザール・ヴォルの再来と謳われるほどの名砲手ですし、
 この分だと、あっと言う間にヴィットマン大尉の記録を超えるかもですぅ」

なんとなく重苦しい空気を嫌った翠星石が、努めて陽気な声を上げ、
描きたてのキルマークも鮮やかな128mm砲を、ペタペタと叩いた。
戦車兵ならば、ミヒャエル・ヴィットマン大尉の名を知らぬ者など居ない。
1944年にノルマンディーで戦死するまで、敵戦車138両、
対戦車砲132門を撃破した伝説的エースである。
してみれば、真紅たちの戦績は、まだ彼らの半分にも達していなかった。

「彼の記録を超えるまで――」

生きていられればね。
続くはずだった不吉なセリフを呑み込んで、真紅は翠星石の軽口に、力強く答えた。

「どんな事があっても、必ず生き延びるのよ。私たちは……あら?」

私たちと口にした後で、真紅はふと、きょろきょろと周囲を見回した。
なにか物足りない感じは、この戦車壕に戻ってきたときから覚えていた。

「ねえ。水銀燈と蒼星石の姿が、見えないけれど?」
「ああ。あの二人なら、奥で休んでいるかしら」

金糸雀が指差した先には、土嚢に背を預け、肩を寄せ合う二人の姿。
物資不足のため一枚しかない毛布に仲良くくるまって、すやすやと眠っている。

「ついさっき、補給物資の積み込みを終えたばかりだから、疲れてるかしら」
「蒼星石も、銀ちゃんも、幸せそうな寝顔してやがるですねぇ」

蒼星石は装填手として、戦闘中には過酷な肉体労働を強いられている。
砲手の水銀燈も、常に少ない射撃回数で敵を撃破することを要求されるポジションだ。
外せば、敵に反撃の機会を与え、次弾装填の時間だけ全員の命を死の危険に曝してしまう。
二人とも口にはしないが、相当なストレスを感じていることは、想像に難くなかった。

その彼女たちが、こんなにも安堵しきっているのならば――
今は静かに眠らせてあげようと、真紅は思った。
せめて、夢の中でだけでも、平和で幸せな生活を楽しんで欲しいと……
本心から、そう願っていたから。


「ふふふ……いいわ。出発時間まで、起こさないでおいてあげましょう。
 貴女たちも、交代で仮眠をとっておきなさい。
 敵機の空爆で線路が寸断されているから、鉄道輸送ではなく、自走になるわ。
 そういうコトだから、翠星石、RM動力機関のバッテリーチェックは、しっかりね」
「はいですぅ。ああ、そうそう。真紅に頼まれてたイラスト、描いておいたですよ」
「本当? 仕事が速いわね。どんな感じなのかしら」

司令部に行く前に、真紅はパーソナルマークの下絵を、翠星石に渡していた。
それはタレ目にタレ耳な犬の絵で、今朝、その辺に居た野良犬をモチーフに、
即興で描いたものだった。

こんな殺伐とした世界でも、せめて、女の子らしいことをしたい。
そう思って、爆撃機のクルーが機体に裸の女性やミッキーマウスを描いていたのにヒントを得て、
彼女たちだけのマスコットを創り出そうとしたのだ。

砲塔の側面中央に、白枠の黒十字が記され、その前寄りに犬の顔があった。
シャーロック・ホームズみたいにパイプを銜えて、ちょろっと舌を出している。
愛嬌たっぷりにウインクしているのは、翠星石のアレンジなのだろう。
真紅の下書きに、そんな仕様はなかった。

「……予想以上の仕上がりだわ。ありがとう、翠星石」
「大した手間でもねぇです。それより、折角だから名前をつけてやるですよ。
 名無し犬じゃあ、格好つかねぇです」
「それは名案ね。貴女たちなら、どんな名前をつける?」
「う~ん……カナだったら『スプー』かしらー」
「私なら『チビチビ』と名付けるですぅ」
「…………貴女たちのネーミングセンスが悪いことは解ったわ。
 ひとまず保留しておいて、水銀燈と蒼星石の案に期待しましょう。
 オスかメスか、それも決めた方が名付けやすいわね」

真紅が言うと、金糸雀は翠星石と顔を見合わせ、にまっと笑った。
何だというのだろう? 訝る真紅に、金糸雀が自信タップリに即答した。

「そんなの、男の子に決まってるかしら」
「……ですぅ」
「? 二人とも、どうして断言できるの?」
「だぁってぇ……ねぇ、翠星石~」
「こんなに立派な大砲を持ってやがるですよ」

彼女たちが言わんとする意味を悟って、真紅は羞恥のあまり、耳まで真っ赤に染めた。

「あ、貴女たちっ! 下品な冗談は、やめてちょうだいっ!」

漫画みたいに頭からプンスカと湯気を上らせながら、立ち去ろうとする真紅を、
翠星石と金糸雀の声が追いかけてきた。

「そんなにカッカすんなですぅ。少し眠って落ち着きやがれってんです。
 作戦行動中に、居眠りとかされたら堪んねぇですからね」
「カナたちはまだ平気だから、真紅が先に仮眠をとっておくかしら」

肩越しに振り返った真紅に、二人は陽気な笑顔とウインクひとつを投げて寄越した。
彼女たちは彼女たちなりに、気遣ってくれているのだ。
車長とか、操縦手とか、そんな役職に関係なく――
チームとして、かけがえのない仲間として、お互いを大切に想っていたから。

ひょっとすると、今の下品な冗談も、私の気持ちを和らげるためだったのかも。
そう考えたら、真紅は大人げなく癇癪をおこしたことが、恥ずかしくなった。
そして、同時に、自らの未熟さを情けなく思った。
どんな状況でも常に冷静沈着であるべき者が、この程度の瑣末なことで激昂し、
我を忘れるようでは、いずれ、みんなの信頼を失いかねない。

真紅は、二人に向けて不器用にウインクを返すと、優雅に微笑んで見せた。


「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」

彼女の言葉に、翠星石と金糸雀も柔らかく笑って、頷く。

軍属になるまでは、全く面識が無かった彼女たちなのに……
今では、最初から実の姉妹であったかのように、固い絆で結ばれている。
人の縁とは不思議なものね。真紅は、つくづく思った。



――∞――∞――∞――∞――

1947.4.17

翠星石が、とても可愛らしい絵を描いてくれた。
6番目の、新しい仲間。この戦友の名前は、まだ決まっていない。
いい名前を付けてあげたい。ココロから、そう思う。

それにしても、翠星石と金糸雀ったら――
あんな下品な冗談を言うなんて、女の子としての慎みが足りないわ。
機会があったら、情操教育をしてあげないと。

ともあれ、今は彼女たちの好意に甘えて、休むとしましょう。
戦いの日々は、まだ終わりそうにないから。

――∞――∞――∞――∞――



真紅は、水銀燈たちから少し離れた土嚢に寄り掛かって、
胸ポケットから日記代わりの手帳と、鉛筆を抜き出した。
そして、いつものように、手記をしたためる。


こんな記述でも、いつか読み返して、懐かしく思うときが来るのだろうか。
手帳と鉛筆を胸ポケットに戻しながら、ふと……思う。
そうあって欲しいものねと独りごちて、真紅は、静かに瞼を閉じた。
けれど、次の戦場のことばかりが頭に浮かんで、なかなか寝付けなかった。

かつて、ポーランドと呼ばれた国の首都、ワルシャワ。
1944年、ソ連軍のバグラチオン作戦に呼応したワルシャワ蜂起の舞台となった都市だ。
それも結局は、大国のエゴに踊らされただけで、悲劇的な結末を迎えた。

今やアメリカもソ連も崩壊して、イギリスや北欧諸国も、機械の群に制圧されつつある。
ドイツ第三帝国も既に名ばかりで、辛うじて国家の体裁を保っているに過ぎなかった。

(私たちは、敗残軍の寄せ集めに過ぎない。
 このまま…………いつまで戦えばいいの? 戦えるの?)

いっそ、逃げ出してしまいたい。
戦争のことなんか忘れて、親しい仲間たちと、どこかで静かに暮らしたい。
真紅だけでなく、この世界に生きている人々は誰もが、そう願っていることだろう。
もう、戦争なんか、まっぴらだ――と。
なのに……人々の平和を求める想いは、無惨に踏みにじられている。
それを押し進めているのは、他でもない、真紅の父親なのだ。

(お父様――――どうして?)

真紅は瞼を閉ざしたまま、声を殺して、密やかに泣いた。




日付が変わろうかという夜半――
雨の上がった闇夜の中を、無灯火で進撃するティーガーⅢ。

真紅は、車長用キューポラから半身を乗りだして、MG34機関銃を手に、
砲塔の上から周囲の闇に目を光らせていた。
進む先には、この夜道と同様、暗澹たる未来しかない。

兵員不足もあって、彼女たちに随伴する偵察車両や、擲弾兵(歩兵)は皆無。
敵襲を察知するためには、多少の危険を冒しても、見張りに立つ必要があった。

「……どうしたの? いつになく険しい顔をしているね」

砲塔上部に設けられた装填手用ハッチから、押し殺した声が問いかけてくる。
真紅と同じく、身を乗り出して警戒に当たっていた蒼星石のものだ。
彼女はMP40短機関銃を油断なく構えながら、小声で真紅に話しかけた。

「疲れてるんじゃないかい。水銀燈と代わってもらったら?」
「ありがとう、蒼星石。でも、私なら大丈夫よ」

真紅は気丈に微笑んで、首に掛けていたヘッドホンを耳に当て、マイクに声を吹き込む。
「金糸雀、負担をかけてしまうけれど、周囲の警戒を怠らないで。
 翠星石は疲れてないの? ずっと運転しっぱなしでしょう」

ヘッドホンのスピーカーから「了解かしらー」「まだまだ余裕ですぅ」と返事が届く。
声を聞く限りでは、どちらからも眠気など感じられない。

「どうしても耐えられなくなったら、水銀燈と操縦を交代してもらいなさい」

それだけ伝えて、真紅はまた、ヘッドホンを首に掛けた。
……と、それを待っていたかのように、蒼星石が再び話を切り出した。

「金糸雀から聞いたよ。犬の名前、まだ決まってないんだよね」
「そう言えば、まだ訊いてなかったわね。貴女だったら、なんて名付ける?」
「ボクなら……そうだね」

暫し考え込んで、蒼星石は小首を傾げた。「くんくん――っていうのは?」
と、犬がにおいを嗅ぐみたいに、ひくひくと鼻を動かして見せる。
真紅は忽ち、表情を明るくした。

「いいじゃない、それ。決めたわ。みんな、彼の名前は『くんくん』よ!」

正しく鶴の一声で、車内は束の間、賑やかになる。
新たに加わる6番目の戦友を、誰もが、喜んで迎え入れようとしていた。
どんな状況でもロマンを求めるのは、無垢な乙女の夢物語かも知れない。
けれど、それが彼女たちを支え、一枚岩の如き結束力を育んでいる強さでもあった。

乙女たちが駆るティーガーⅢは、履帯を軋ませ、夜闇を進みゆく。
その行く手には、廃墟と化した街が、黒い影となって不気味に横たわっていた。



この周辺は友軍の勢力圏内ではあるが、だからと言って、油断は禁物。
真紅は廃墟の手前2.5kmで停車させた。
双眼鏡を両目に宛い、様子を探る。しかし、市街は真っ暗で、詳細は判らない。
一切の明かりが見えないことから察して、完全な無人状態らしいが……。

「金糸雀。何か、反応はある?」
「……何も。静かすぎて、耳鳴りがするくらいかしら」
「待ち伏せの危険は薄そうね。廃墟を迂回するのも、時間がかかりそうだわ。
 翠星石、前進再開。さっさと通過してしまうわよ」
「了解。前進するですぅ」

ティーガーⅢの幅広い履帯が、ぬかるんだ大地を踏みしめ、巨体を前に運んでいく。
街に入ると、キャタピラの音が廃墟に反響して、かなり喧しい。
聴音していた金糸雀も、時折、ウンザリした顔でヘッドホンを外して、
MG34のマウントから、外の様子を覗き見していた。

――が、その、ちょっとした油断が落とし穴だった。
市街の中心付近まで入り込んだ所で、突如、右のキャタピラで爆発が生じた。
爆発の衝撃で65tの巨体が揺れ、真紅と蒼星石は、危うく振り落とされそうになる。

「なんなの?! まさか、地雷が?」
「真紅っ!! 周辺に、動体反応多数っ! 囲まれてるかしらっ!」

真紅と金糸雀の叫びが重なり、一瞬、お互いが何を言ったのか解らなくなる。
咄嗟に車内へと滑り込んだ蒼星石と真紅は、急ぎ、ハッチを閉じた。
操縦席からは、翠星石の悲痛な声が聞こえてくる。

「ダメですっ! 右のキャタピラが切れたみてーで、進まないですぅっ!」

擱座した戦車は、もはや標的でしかない。砲台として戦うことは可能だが、
強力な対戦車兵器を使われたら、ひとたまりもなかった。

やられる前に脱出して白兵戦をするか。
それとも、このまま立て籠もって、砲弾が切れるまで徹底抗戦するか。
生き延びる可能性が高いのは、どっち? 真紅は親指の爪を噛んで、悩んだ。

「どうするつもりよ、真紅?」

水銀燈は落ち着き払って、固定具からMP40機関銃を外しながら、訊ねる。
真紅の決断次第では、白兵戦も覚悟の上ということなのだろう。
彼女に触発されて、他の娘たちもP-38拳銃やkar98k小銃を手に取り始めた。

「待ちなさい。脱出するにしても、それが可能かどうか確認してからよ」

言って、真紅はペリスコープで周囲の様子を窺い見た。
視野が狭い上に、夜闇にも邪魔され、全く状況が掴めない。
……が、じりじりと焦燥に駆られながら、廃墟の闇に目を走らせていたその時、
彼女は崩れかけた建物の片隅に、何者かの姿を捉えた。

(あれは……どう見ても、自動人形じゃないわね)

見覚えある防盾の陰に見え隠れするのは、彼女たちと同い年ほどの、黒髪の少年。
動きを止めたティーガーⅢに、ひた……と、対戦車兵器を向けていた。
8.8cmRP45、通称パンツァーシュレッケ――ドイツ軍の装備だった。