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  『水銀燈員の懊悩』


我々は銀様が大好きである。
銀様に絶対の忠誠を誓う事こそ、我々の存在意義である。
銀様のためならば、紅蓮の炎が燃え盛る環をくぐることも厭わない。

東で銀様が悪魔の様な微笑を浮かべれば、行って『ハァ━━;´Д` ━━ン!!!!』して
西で銀様のスカートが風に捲れ上がれば、行って『ハァ━━;´Д` ━━ン!!!!』して
南で銀様がテニスをしていれば、スコートを見て『ハァ━━;´Д` ━━ン!!!!』して
北で銀様が銭湯に入れば、湯上がりを見に行って『ハァ━━;´Д` ━━ン!!!!』する。

四六時中、銀様に張り付き、悪い虫が付かない様に護衛し続ける。
銀様を護るためならば喜んで自らの身体を盾とする『愛の足軽』!!
それが、我等『水銀党』親衛隊である。
(注:決してストーカーではないので、通報しないように)


今日、我々は緊急会議を招集していた。
最近、党員の間で妙な噂が流れていたからだ。

 長「今日、諸君らに集まってもらったのは、他でもない。
   ゆゆしき事態を耳にして、対策を講じるためだ」   (親衛隊長)
 ?「隊長! それは例の『翠星石の呪い』でありますか?」(隊員1:以降イ)
 ?「それについては調査中っす。どうも本当っぽいっす」 (隊員2:以降ノ)
 ?「一種の中毒症との報告も上がっておりますが……」  (隊員3:以降チ)
 長「党だけでなく、薔薇水省にまで感染の被害が広がっているらしい」
 ノ「そしたら隊長。あそこは薔薇『翠』省に改名しなきゃダメっすね」

えへへ……と、馬鹿みたいに笑う隊員ノに、隊長は罵声を浴びせた。

 長「笑い事ではないっ! 現に、こうしている間にも栄えある『水銀党』員が
   洗脳され続けているのだぞ。感染者は速やかに隔離すべきだ!」
 チ「その後、再教育というプロセスを踏むわけですな」
 イ「被害はまだ一部みたいだから、充分に可能と思われます」
 ノ「善は急げっす。俺たち、これから感染者を捕獲しにいくっす」

うむ。流石は選りすぐりの水銀党員だ。事の危急性が、よく解っている。
隊長は満面の笑みを浮かべ、隊員らを誇りに思った。

だが、隊長が出撃命令を出す直前、それは起こった。

 ノ「でもぉ~。翠星石も、なんか……イイですぅ」
 長「なっ!」
 チ「貴様、いま!」
 イ「なんと言ったっ!」

愕然とさせられた。よもや、親衛隊員すらも既に感染していたとは!
隊員ノは、チとイに両腕を押さえ込まれ、隊長の前に跪いた。

 長「貴様から先に、更迭せねばならないようだな」
 ノ「でもでも、翠星石の笑顔を思い浮かべると、胸がジーンとするです」
 チ「隊長。これはもう末期症状ですぅ」
 イ「死ななきゃ治らないです。速やかに処刑してやるです」
 長「!! なっ……なぁにぃ?」

隊長は耳を疑った。この三人、既に中毒症状を起こしているではないか。

 長(ぬぅ……考えてみれば、こいつら命トリオは普段からマブダチ同士)

今までが潜伏期だったと言う事だ。
つまり、こいつらと共に過ごしてきた隊長もまた、感染している可能性が高い。

 長「馬鹿なっ! 俺は感染などしていないっ!」

隊長は机の上に置いてあった『ラブラブ銀ちゃん人形』をギュッと抱き締めて、
愛おしげに頬ずりをした。んん~、ヒーリング。
俗世の汚れがボロボロと剥がれ落ちていくような気がした。

 長「貴様ら、それでも栄えある親衛隊員か! 銀様への忠誠を思い出すのだ!」
 イ「忠誠心はあるです」
 ノ「でも、翠星石もいいかなと、思えるようになったです」
 チ「一度、知ったら止められないです。麻薬みたいなモンです」

こ、こいつら……本当にもう救いがないというのか?!
しかし、自らの手で貴重な戦力を潰すなど、下策の下策。

 長「それならばっ!」

隊長は会議室の金庫から、割り箸やらおしぼりやら、
薄く口紅の付いたティーカップ等を持ち出して並べた。
それらは全て、銀様が実際に使用した物ばかりだ。
常に影のように寄り添い、数多の障害から銀様を護ってきた隊長だからこそ
入手可能な、貴重なお宝グッズである。
(注:くどいようだが、決してストーカーではないので、通報しないように)

 長「貴様らっ! この『銀ちゃん萌え萌えグッズ』が欲しいかっ!!」
 イ「欲しいですぅ!」
 ノ「欲しいですぅ!」
 チ「欲しいですぅ!」

言葉遣いはともかく、こいつらの心は、やはり栄光の水銀党員だ。
隊長の頬を、歓喜の涙が一粒、流れ落ちた。

 長「よぅし! それならば、貴様らにやらん事もない。但し、条件がある」
 イ「条件きたです」
 ノ「条件きたです」
 チ「条件きたです」
 
お前ら鬱陶しいんだよ! と、心の中で喚き散らしながら、隊長は命トリオの前に、
一枚のポートレートを放り投げた。
それは『ウッフンムラムラ翠星石』ポートレートだった。

 長「………………踏め」 
 イ「!」
 ノ「!!」
 チ「!!!」
 長「銀ちゃん萌え萌えグッズが欲しければ、そのポートレートを踏めいっ!!」

隊長は、ズビシッ! と『ウッフンムラムラ翠星石』を指差した。 

 長「兵法にも有るだろう! 庭には入れるな人二人っ!」

そりゃ平方根、√8のことだよ隊長、なんてツッコミ入れる者は一人も居ない。
命トリオは三人が三人とも、目の前に置かれた究極の選択に悩んでいたからだ。
銀ちゃん萌え萌えグッズは欲しい。それはもう、喉から手が出るくらいに。
だが、目の前のウッフンムラムラ翠星石のセクシーショットもまた、同じくらい
捨て難かった。
これをベッド真上の天井に貼っておけば、寝ても醒めても翠星石と一緒。

 長「とにかく! 脳内に銀様以外の者を入れるなど、言語道断っ!」
 イ「う~」
 ノ「うう~」
 チ「ううう~」
 長「どうした、貴様ら! 何を迷うかっ」

隊長には理解できなかった。銀ちゃん萌え萌えグッズの方が遙かに希少価値が高い。
銀様がラーメンを食した割り箸で、飯を喰ってみたいと思わんのか、貴様らは!
しかし、焦れる隊長を余所に、命トリオはどちらにすべきか迷い、身悶えていた。

 長「残念だが、貴様らはもう救いが無いようだ。粛正せねばならん」

どこから取り出したのか、隊長の手にはワルサーP38が握られていた。
銃口で、隊員イの頭をゴリッ……と小突いた。
これ以上、被害を広げる訳にはいかない。

 長「悪く思うなよ」 
 ノ「た、隊長! それはダメですぅ」
 チ「これは翠星石派の、反間苦肉の策ですぅ」

隊員ノと隊員チの反駁に力を得たのか、隊員イも隊長の顔をグッ……と睨み返した。

 イ「どうして翠星石がダメなんですか! 隊長だって、翠星石のSS書いて
   投下してたじゃないですか! 言動不一致ですぅ」
 ノ「なっ! ホントですか、隊長! 自分ばっかりズルいですぅ」
 チ「信じられないです! 銀様への裏切り行為ですぅ!」
 長「ぬ、ぬぅ…………そ……それは」

じと~っと白い眼で睨まれ、隊長の額に脂汗が滲み出した。これは拙い。
なんとか誤魔化さなければ――

 長「こうなったら、最後の手段。銀様の御力を頼むほかないっ!」
 イ「それは、どういう意味です?」
 ノ「銀様に演説を頼むですか?」
 チ「わたしは、かつて――ってヤツですか?」

口々に質問を浴びせる命トリオに、隊長はニヤリと笑い掛けた。

 長「名付けてっ! 銀ちゃんスキンシップ大作戦だっ!!」

詳細は、こうだ。
今、銀様は剣道部で練習中である。大いに汗を掻いた銀様に抱き付き、
汗に含まれるフェロモンを肺一杯に吸い込みつつ、銀様の鉄拳制裁を受ける。
これによって得た気合いで、翠星石の呪いを吹き飛ばすのである。

 イ「たた、隊長! それ最高ですぅ!」
 ノ「妄想で鼻血でそうですぅ!」
 チ「早く! 早く行くですぅ!」

どうやら銀様への愛は不変のようだ。隊長は不敵な笑みを浮かべた。
これならば、きっと『水銀党』親衛隊の栄光を取り戻せる。

 長「よしっ! 出陣じゃっ! 法螺貝をならせっ!」

法螺貝なんて勿論ないので、隊員イが、代わりに大きな屁をこいた。


 全「うおぉぉーっ!」

鬨の声を上げて、一斉に突撃する親衛隊員たち。
その眼は最早、狂信者のそれだった。



剣道場では丁度、練習が終わろうとしていた。

 長「貴様ら、銀様が出ていらしたら、一斉に行くぞ!」
 イ「了解です!」
 ノ「一気に行くです!」
 チ「ジェットストリームアタックです!」

ぞろぞろぞろ…………

タオルで汗を拭いながら、女子剣道部員が道場から出てきた。
その中に、銀色の髪の乙女を探す。眼を皿のようにして探す。
瞳から一万ボルトのビームが出そうなくらい凝視して、探す。

 長「? お見えになられないな、銀様」

待てど暮らせど、麗しの姫君は姿を現さない。
これはもしや『天之岩戸をこじ開けてみよ』という銀様の思し召しなのだろうか。
ちょっと様子を見に行こう。
隊長以下、三名の戦士が道場へと匍匐前進していった。

扉を少しだけ開けて覗くと、道場の中央には一人の乙女が正座していた。
――が、銀様ではない。柏葉巴さんだ。

 長「柏葉さん。お邪魔して申し訳ないが、ちょっと訊いていいかな?」
 
隊長の声に、巴の瞼が、すぅ……っと開く。瞑想中だったらしい。

 長「銀様を探しているのだが、どちらに行かれたかな?」
 巴「銀ちゃんなら、裏口から帰ったけれど? 体育館裏で待ち合わせてるとか」
 長「たっ! 体育館裏ぁっ!!」

隊長、一生の不覚。よりによって、肝心なところで警護を怠ってしまうとは。
体育館裏と言えば、告白するためのベストスポット。サイバーショット(意味不明)
このままでは、銀様に悪い虫が付いてしまうではないかっ!!


――ドドドドドドドドっ!!

道場を飛び出した親衛隊は、体育館裏へまっしぐら。
立ち塞がる者は人だろうが樹木だろうが、車だろうが校舎だろうが、全て吹っ飛ばして突撃した。

 長「! 停止しろ。ターゲットを確認した」

体育館裏に佇む二つの影。一人は勿論、銀様である。
だが、もう一人の方を確認した途端、隊長の表情が凍てついた。

 長「翠星石っ!? なぜ、ヤツが?」

一体、銀様に何の用が有るというのか。ここからでは遠くて、会話が聞き取れない。
隊長は、何処から取り出したのかカールツァイスの双眼鏡を覗き、読唇術を試みた。

 長「……いきなり……よびだして……ごめんね。
   あのね……ぎんちゃん……わたし……ぎんちゃん……のこと……すき?!」

なな、なんという事だろうか。
翠星石の呪いを解くべく暗躍していた親衛隊員を嘲笑うような、この展開は一体なんだというのだ。

 長「いやいやいや。待て待て。まさか銀様がOKなさる筈があるまい」

もう一度、読心術。今度は銀様の方を――

銀様の唇……柔らかそうだなぁ(ハァ━━ ;´Д`━━ン!!!!)

 長「じゃなくて! 集中集中。えぇと……あらぁ……ありがとぉ。
   じつは……わたしも……すい…………ってええええっ!!」

隊長の目の前で、銀様の口から思いも寄らなかった返事が紡ぎ出されていた。
そして、徐々に近付いていく二人の距離。

 長(うおっ! や、やべえ……でも、阻止したくても、身体が動かNeee!!)

銀様と翠星石の唇が触れ合うまで、あと数センチ。

 長(そそそ、それだけはっ! それだけはダメですぅ!)

夕日の中、繋がり、重なり合う二つの影を見詰める隊長の脳内で、
何かが崩れ去る音がしていた。
――そして。


 長「貴様ら。我々は今日から『翠銀党』親衛隊を名乗るです」
 イ「了解ですぅ!」
 ノ「ムチャクチャ、カッコイイです!」
 チ「翠銀党バンザイですぅ!」



  終わり



ごめんなさい。悪ノリしすぎました。