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  『祭りの余韻』


薔薇学園三大祭りのひとつ――バレンタインデー
だんじり祭りにも例えられる過激なイベントは、さしたる大事故もなく、
終わりを迎えた。
例年、流血の惨事が起きていただけに、教員の安堵もひとしおだろう。

本命から貰えた者。縋り付いて義理チョコを掴んだ者。全く貰えなかった者。
悲喜こもごも織り交ぜ、喧噪に沸いた学園は静寂を取り戻していく。




夕日射す校舎の屋上で、水銀燈は独り、フェンスに背をもたせ掛けていた。
別に、待ち合わせの約束をしていた訳ではない。
正確に言えば、呼び出されたのだ。

  『部活が終わったら、屋上に来てください』

玄関で靴を履き替えようとした時、下駄箱から零れ落ちた一通の手紙。
女の子っぽい丸文字の筆跡には、ところどころに堅さが見えた。
よほど緊張して書いたらしい。

 (誰かしらぁ? 殆どの人には上げたし、もらってもいるわよねぇ)

面倒見の良さからか、水銀燈は女子からも人気があり、
蒼星石ともども少なからぬ量のチョコレートを貰うことが恒例となっていた。

 「これから寄りたい場所が有ったんだけどなぁ」

そもそも、こちらの都合を無視した無礼な行為だ。行かずとも問題はない。
しかし、それで逆恨みされるのも気分が悪かった。
仕方なく屋上に来てみたものの誰も居らず、もう三十分近くが過ぎていた。 

 「呼び出しておいて遅刻だなんて、失礼ねぇ。帰っちゃおうかしらぁ」

冷えてきた風に身を震わせて、水銀燈が階段へと歩き出した矢先、
扉が開いて一人の女生徒が姿を現した。
颯爽と登場したのは、プラチナブロンドの同級生。

 「待たせたわね、水銀燈」
 「真紅? まさか、呼び出したのって、貴女なのぉ?」

ハッキリ言って予想外だった。この展開は全く考えていなかった。
確かに、小学生の頃には友達同士としてチョコレートを交換していたりもした。
だが、その習慣も中学に進んで以降、どちらからともなく止めてしまった。

 「珍しいわねぇ。貴女が、わざわざ私を呼び出すなんてぇ。
  もしかして、私に手作りチョコレートをくれるのかしらぁ?」
 「貴女に上げるチョコなんて無いわ」
 「あぁら、残念。昔みたいに、何かくれるのかと期待しちゃったわぁ」
 「そうね。昔みたいに――」

真紅は水銀燈の側に歩み寄ると、彼女の手を取り、
奇麗にラッピングされた小さな箱を掌に乗せた。ずっしりと、重い感触。
チロルチョコの詰め合わせだろうか?

 「? なぁに、これぇ」 
 「開けてみて」
 「え、ええ……それじゃあ」

小箱に掛けられたリボンを解き、蓋を開ける。
すると、更に中から桐の小箱が出てきた。随分と厳重に梱包されている。
チョコレートの類ではなさそうだ。

水銀燈は何故か緊張しつつ、箱の蓋を押し上げた。
中に収められていたのは――

 「これって……銀のイヤリングじゃないのぉ。これを、私に?」

驚く水銀燈に、真紅は無垢な微笑みを向けて、頷いた。

 「久しぶりに、昔を思い出しただけよ。他意は無いわ」
 「ふふっ…………ありがとう、真紅ぅ。大切にするわねぇ」
 「安物よ。大切にする必要なんかないわ」
 「ううん。私にとっては、とても素敵な宝物よぅ」

水銀燈は小箱の蓋を閉じると、しっかりと両手で包み込んだ。
五年ぶりに貰った、真紅からのプレゼント。
今日一日、チョコは勿論、花束やハンカチなど様々な贈り物をされたけれど、
他のどんな物よりも輝いて見えた。

そして……何故だか無性に嬉しかった。


小学校を卒業して以来、どうして止めていたのだろう。
こんなにも嬉しくて……心が温かくなることなのに。
年を経て異性との交友関係が拡がるにつれ、

多くの時間をそちらに取られていたからだろうか。
女の子同士という気恥ずかしさも、有ったのかも知れない。

 「でも、奇遇ねぇ」
 「なにが?」 
 「実は私も、帰りがけに真紅の家へ寄ろうと思っていたのよぉ」
 「そうなの? どうして?」
 「私もねぇ、久しぶりに……昔を思い出したからぁ」

そう言うと、水銀燈は鞄の中から小さな箱を取り出し、真紅に手渡した。
真紅がプレゼントしたのと、同じくらいの大きさ。
それに、ラッピングの仕方も酷似している。全く同じと言ってもいい程だ。

 「開けても……いいのかしら?」
 「勿論。受け取ってもらえないなら私、泣いちゃうわよぅ」
 「そう。だったら、受け取れないわ。こんな物」
 「………………うう…………ぐすっ」
 「ちょっ――本当に泣かないでよ。冗談も解らないの?」
 「今の口調、絶対に本気だったわ。恨んでやるぅ」
 「解ったわよ。今、開けるから――」

リボンを解いて箱を開けると、出てきたのは、やはり同じ様な桐の小箱。
どうやら同じ店で買ったアクセサリーらしい。
真紅が小箱を開けると、シンプルなデザインながら品の良いシルバーリングが収められていた。

似た者同士の二人。
やることなすこと、こうも類似すると奇妙を過ぎて愉快ですらある。
二人は顔を見合わせて、小学生に還った様に、無邪気な笑みを浮かべた。

 「本当に奇遇ね。ここ数年、すっかり止めていたのに」
 「真紅はもう、忘れていると思ってたんだけどねぇ」
 「それは、私の台詞なのだわ。
  水銀燈には、沢山の人がプレゼントをくれるんだもの。
  私が贈るまでもないと思っていたわ」
 「お互い、遠慮してただけなのね。私達って、おばぁかさん」
 「……失礼ね。馬鹿なのは貴女だけだわ」

口を開けば言い争い――けれど、互いを嫌っている訳じゃない。
寧ろ、気心が知れているからこそ、気兼ねなく毒舌を振るう事ができるのだ。
口喧嘩など、親友同士のコミニュケーションにすぎない。
 
 「まあ……その、なに。これからも……よろしく頼むのだわ」 
 「うふふっ。こちらこそ、よろしくぅ。幼馴染の親友さん♪」


二人は並んで階段へと歩を進めながら、掛け合いを愉しんだ。

 「来年もまた、待ち合わせ……する?」
 「お互い、彼氏ができてなかったらの話ねぇ」
 「それなら、貴女の都合は着きそうね」
 「あぁら。真紅こそ、今から約束してても大丈夫でしょう?」


バレンタインSS祭りの即興SS。