その頃、とある場所では。

「ものの見事に、金糸雀さんの計画どおりでしたね」
「ふふーん。計画が完璧なのはモチロンだけど、実行班がみんな優秀だったから、かしら」
「……確かに。めぐさんもジュンさんも、予想以上に、よく働いてくれましたね」
「ふたりを引き込んだのは、きらきーたちのお手柄かしらー」
「めぐさんってば、水銀燈さんのコスプレ写真をエサにしたら、ホイホイ釣れちゃって」
「ジュンは、クラス委員長のコスプレにご執心だったかしら」

金糸雀と雪華綺晶は、差し向かいで会心の笑みを交わし合っていた。

「金糸雀さんの権謀術数に、私とばらしーちゃんの実行力が伴えば、完全無敵でしょう。
 猛暑の最中、タチコマの着ぐるみを二人羽織した甲斐があったというものですね」
「あれは、さすがにスタンバってる間、熱中症で死ぬかと思ったかしらー」

当時を思い出し、眉で八の字を描くふたり。
しかし、すぐに気を取りなおした雪華綺晶が、三日月を描く唇に艶めかしく舌を這わせた。

「既に水銀燈さんは私たちの掌中に堕ち、その次は蒼星石さん。これでまた、あの方の覇業達成が、一歩前進したのですね」
「断定するのは早いかしら。まだ、詰めが残っているもの」
「吉と出るか、凶と出るか……それについては、あの方の演技力次第でしょう」
「だーいじょうぶ。きっと巧くいくかしら」

揺るぎない自信に溢れた声で、金糸雀が、そう告げた折りもおり――彼女の携帯電話が鳴った。
彼女たちのボスにして、真の黒幕である女性からだった。

「みっちゃん? 首尾は、どうだったかしら?」
『カナたちのお陰で、バッチリよ。蒼星石ちゃんの抱き込みに成功したわ。
 立派なコスプレ戦士に調教するのは、ばらしーちゃんに一任しましょ。この調子で、どんどん私の宇宙を拡張してくわよー!』
「らぢゃー! 次のターゲットは、双子の姉かしらー」
『双子姉妹のコスプレ戦士……ふふっ、これは心強い切り込み隊長になりそうね。
 次の策と、冬コミのネタ出しもヨロシクねっ、カナ。きらきーちゃんの新刊にも、大いに期待してるわ』
「それはもうバッチリ! ねっ、きらきー!」
「はい。次回も、金キラ軍師の献策をご信頼ください♪」

携帯電話の、こちらと向こう。
なんの偶然か、志を一にする者たちは揃いも揃って、むふふ……と、ほくそ笑んだ。 


みっちゃんがコスプレ売り子軍団を駆使して同人界の伝説になるのは、この二年後のことである。
コミケの歴史が、また1ページ……。



 【みっちゃんの野望 覇王伝】 



   了

最終更新:2009年12月31日 10:30