あれは、中学3年の卒業式前日だった… *** 教室で俺と友達で他愛のない話をしていた 「あー……俺らも明日で卒業かぁ……」 俺の目の前には昔からの友達が少し感慨に浸るように話していた 「ああ、そうだな……」 俺は少し無気力な感じに返事する 正直、卒業式練習が鬱陶しかっただけなのだが 「ま、練習も終ったし、あとは先生の話を聞いたら終わりじゃんか。で、明日卒業っと」 友達はあっけらかんと話す 卒業と聞くと何だか感動もののように聞こえるが、実際はあっけないものじゃないか。そう思っている。 実際、小学校の頃の卒業式も俺は全然泣かなかった。こんなのものか、と思った。 そして、中学校の卒業式も大して変わらないだろう。そう思っていた―― *** 「それじゃ今日の話はここまでだ。明日は卒業式だ。分かっているとは思うが、絶対に遅刻しないようにな」 先生が当たり前のようなことを言っている。俺はそれを聞き流していた 「起立、気をつけ、礼、さようなら――」 委員長の号令と共に、皆が規則正しく挨拶した。それと同時にばらばらと行動し始めた 友達と興奮したように卒業式の事を話す者。さっさと荷物を片付けて帰ろうとする者。卒業式の後に何をするか決めようとする者。 俺は友達と一緒に帰ろうと思い、席を立った 「お、男ぉ……」 教室のドアの方から、何とも弱々しく、それでいてはっきりとした声が聞こえてきた その声の主は見なくても俺にはわかる 「ん、女か?」 そう言って俺はドアの方を見やる。予想は的中だった 「う、うむ…は、入っても、いいか…?」 女はおどおどと周りに怯えながらドアにしがみ付くようにして立っている クラスメイトも女の事は知っていた。俺と女に面識があることも、友達だと言う事も。そして…少し、人見知りが激しいことも―― 「普通に入ってきていいと思うぞ。どうした? 一緒に帰るのか?」 俺は周りの視線を気にしないようにしながら、女に近づいていく すると女はまるで磁石で吸い付いたように俺の懐に飛び込んできた ああ、明らかに周りの男子から殺意の視線を感じる。こいつは確かに人見知りが激しいが、普通に可愛いし、綺麗だ 「ん…? 帰るならこのまま一緒に――」 ここで俺の言葉は、女の言葉に断ち切られた。人前ではおどおどとして中々話そうとしない、女が出したには大きな声で―― 「お、男…わ、私と……結婚を前提に付き合ってくれ!!」 この言葉にクラスメイトが蜂の巣をつついたように騒ぎ出した 「お、男ぉ!!て、てめえ、いつの間にそういう関係だったんだよ!?」 学年で一位二位を争うと言われる男子が大声を上げる 「きゃー、ついに女ちゃんが行動に出たー!!」 と、まるで自分の告白が通って喜ぶかのように騒ぐ女子 はっきり言って一番衝撃を受けたのは俺なんだが 確かに俺は女とは昔からの友達だし、普通の男子よりかは明らかに慣れ親しんでいた 人見知りの激しい女は俺の傍にいると安心するらしく、俺を頼る事も少なくなかった けど…やはり俺の中では仲のいい友達……そう、思っていた 「…男ぉ……」 呆然となっている俺の懐で抱きついたままの女が俺の返事を待つように俺の顔を見上げた 「…こ、ここで返事しないと、駄目…なのか?」 俺の頭は真っ白になっていた。とにかく、返事を返さないと。でも、ここで? そんなことが俺の頭の中でまわり始める 「……今すぐ、お願いだ…。じゃないと…心臓が破裂しそうだ……」 女はきっと周りに人が沢山いるから、そう言うのだろう。 じゃあ何故、こんな状態で告白したのだろうか わからないことだらけだった 「……俺、なんかで良いのか?ほら、容姿がいいやつとか勉強できるやつなんてもっと……」 実際そうだった。運動が抜群にできるわけでもなく、勉強ができるわけでもなく…ごくごく普通な男子… 「……男じゃないと、駄目だ――」 次の瞬間、俺は女を抱き返していた 「…俺でいいなら…付き合うよ…」 何故か、俺の頭の中はすっきりとしていた *** その後、大変だった。女子は騒ぐし、男子は冗談混じりに俺のこと叩いてきた。中にはマジで叩いたやつもいそうだが 「……びっくりしたよ、まったく…」 「済まない、男……」 とりあえず、俺と女は何とか教室から抜け出て、女の家の前に来ていた。 友達が上手く俺と女を外に導いてくれた。また明日にでも何か奢らないとな 女を家まで送るのは今に始まった事じゃない。もう何度もしてきたことだ 「……ところで、何で教室なんかで告白したんだ?」 俺にとっては当たり前の疑問だった。女は人見知りが激しい。 何もあんな状態じゃなくてこうやって家の前とか静かなところですればよかった。 なのに、何故―― 「私の気持ちが、本物だと知って欲しかったのと……」 「と……?」 女は少し間を空けて、次の言葉を放った 「…自分に自信をつけたかったんだ。人前で話すという自信が――」 俺は女の家の前で、もう一度女を抱きしめた *** 卒業式の日。天気はまさに雲一つ無い、快晴というやつだった そして思っていた通り、卒業式はあっけなかった。中には泣いたりする者も見受けられたが このまま、俺の中ではただ、高校生になる、とだけ思っていた だが、俺の中で変わったことがあった 「ぉ、男ぉ……」 「よしよし…情けない声出すなよ。ほら、一緒に帰るぞ」 女は俺にぴったりとくっつく 「うむ……。大好きだ、男」 「ああ、俺もだよ、女」 変わったこと、それは…… 俺と女の関係が"友達"から"恋人"に変わったこと―― 〜END〜