俺の後ろの席の女は、同じクラスになったときの自己紹介以来ずっと、誰が話しかけても反応がない。 休み時間はじーっと動かず外を眺めてるか、本読んでるか。 授業中も、先生の問いには「わかりません」と答えるだけ。 そんなだから、早々に『暗いやつ』『すかしてる』『生意気』なんて言われてからかわれだした。 とはいっても、女の顔の良さ故か、からかうのはわかりやすいDQN達だけ。 DQN「女ちゃんて、超クールだよねーwww」 DQN「ほんとほんとwwwセックスの時もそのまんまっぽいよなwww」 DQN「つまんねーwww超つまんねーwww」 DQN「でも、喘ぐとことか超見てぇwwwwwwwwww」 こんな感じ。 しばらくは、かばったり仲良くして標的にされるのが怖くて関わらず、フォローは女子連中に任せっきりでいたのだが、 席が近い・顔が良いとなれば、「薄幸の少女ktkr!!」という邪な気持ちが、どうしたって出てくる。 俺だって健全な男子であるわけだし。青春だし。 それから俺は少しずつ女に話しかけていこうと思ったわけさ。 ============================================================================= (最初はさりげなくさりげなく) (DQNの話題は出さずに。そうあくまで普通に普通に) (一言二言でいいんだ。うんうん) 冷静に考えるとキモチワルイこと考えてた。 帰ってから思い出して、家で悶えた。 男 「休みの日とか何してるの?」 女 「……」 最初の会話が、緊張から出た手垢まみれのナンパ常套句だったわけだよ。俺は。 もちろん何の返事も反応もないわけで。 自分のヘタレっぷりに、その日もう一度話しかける勇気が出なかったさ。 ============================================================================= 汚名返上。名誉挽回。そんな言葉が世の中にはある。 『どーせ俺なんか』って思ってた俺には関係ないけど。 次の日。うだうだしながら昼休み。 音楽を聴きながら、何て話しかけようかと懲りずに悩んでたらさ、  (トントン) 後ろから肩を突付かれたのさ。 男 「あん?」 と、イヤホンを片方はずしながら、 『考え事してました。カンペキに無防備でした』というアホ面で振り向いた俺は、    『後ろの席は女 + 後ろのヤツに肩を突付かれた = 女に肩を突付かれた』 という足し算を、女の顔を見た時、解いた。 女 「何聴いてるの?」 アホ面のまましばらく硬直。 やっと出た言葉が、 男 「あ。音楽。」 アホの子確定。 ============================================================================= 慣れているのか。はたまた呆れているのか。 女は動揺も笑いもせず、 女 「片方貸して」 といって女はイヤホンをかっぱらい、自分の耳にはめた。 しばらくして女は、 女 「ふーん。はい」 といってイヤホンをこちらに返し、視線を外に向けた。 ここで俺は新たな事実に気付いたよ。 俺が聞いてた曲。『ペガサス幻想』。 やっちゃったと思ったね。終わったと思ったね。 あーバカみてーとか失意に暮れたまま放課後になって、 思い描いていた女とのアリエナイ恋人関係が走馬灯のように頭を巡っている時、最初の事件発生。 昼休みからずっと、外ばーっかり眺めていた女が、いきなりこっちを向いたかと思うと一言、 女 「さっきの曲。貸して」 アホ面はその日二回目。 こっちの返答を待つ事もなく、女はさっさと教室を出てった。 ============================================================================= 次の日。 女の机の上にCDを置く。 女 「ありがと」 男 「返すの、いつでもいいから」 女 「……」 男 「一曲目に入ってるから」 女 「……」 男 「八曲目にも入ってるけどそれはね……」 女 (あくび) 男 「あ……ごめん」 なんで謝ったんだろうね。俺。 あくびぐらい……するよね? ============================================================================= んで、まぁ、その次の日。 教室着いたら、机の上にCDが裸で置いてあったね。 うん。ジャケット丸出し。 宇宙を背景に、星矢たちの凛々しい横顔がバッチリ描かれたベスト版のジャケット。 『聖闘士星矢』とハッキリ書かれたベスト版のジャケット。 っていうか、なによりベスト版だよ? ○○が好き!! ○○に浸かりたい!! → いいとこだけ聞きたい!! → いいとこだけ集めました!! → ベスト版 ってことだよ? なんだかみんながニヤニヤしてんだよw あれはやばかったね。 その後、 男 「これは従兄弟のなんだ!!」 って叫んでもっと窮地に立たされたけどね。 ちくしょうって女を見たら外を眺めてた。 あきらめたよw ============================================================================= そのまた次の日さ、 あきらめの境地に居た俺は、休み時間にペガサス幻想の鼻歌とか歌ってるわけ。 そしたらまた事件発生。 男 「セイントセイヤァ……ショオーネーンーハーミーンナー……」 女 「……」 男 「アシーターノユウシャー……」 女 「フンフンフーン……」 この歌ね、『ゥオオオォォー』って唸るとこあるんだけどね、 そこをね、女が「フンフンフーン」ってちっちゃい声で言ったような気がしたのさ。 言ったかどうかわからないのに事件かって思うかもしれないけど、 大事件だろ。これ。 ま、こっからだな。俺が調子乗ったのは。 ============================================================================= それからは映画なんか余裕で誘ったし、遊園地なんかも誘ったね。 気付いたらいつの間にか男友と、そいつの彼女の女友も一緒になって遊んでたな。 邪魔するなって思ったけど、ホラ、女はほとんど関心示さないから間が持たなくなることがあるわけよ。 そんな時はかなり助かった。とくに女友ちゃん。あの子はいいこだ。 って、いや、まぁ、そうやって親睦を深めていったわけよ。 女の方は深まったか知らんが、俺は深まったので、深くは突っ込むな。 いいな?話続けるぞ? でさ、俺はもう女好きだから。 告白しちまうかみたいな感じになったわけ。いけるだろ!! みたいな。 んで、放課後一緒に帰る約束して 男 「今なワケよ。」 女 「……」 ============================================================================= 公園のベンチに座る二人を、秋風が撫でた。 男 「俺はもう言いたいこと言っちまった。あとはそっちからの返事を待つだけさ」 女 「……」 男 「……」 女 「……」 男 「まぁ、急に返事くれってのも酷だな」   女 「……」 男 「俺がいきなり誘っちゃったんだしな。わりぃな。そっちの気持ちも考えないで……」 女 (スッ) 男 「ん?帰るk 女 (チュッ) 男 (ポカーン) 女 「……分かった?」 男 「うぇ、うぉ、あ、え、あ? お? おお? おおおおおお!!??」 女 「……」 男 「いや、マジ、どうしよ、すんげー嬉しいんだけど。うわー。ヤバい。うわー」 女 (そっぽを向く) 男 「へへ……へへへへ……あー。マジ嬉しい……」 女 (スタスタスタスタ) 男 「あ、ちょ、ねぇ、いつから!? いつから俺の事好きだったぁ〜!?」 女 「……」 男 「ねぇ、ちょっと。待ってよー」 夕暮れの紅い公園に、男の浮かれた声が響いた。 ============================================================================= 以上です。 オチのところで>>54の作品を使わせてもらいました。 事後連絡スマン。