悠久の果てまでも

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*悠久の果てまでも  ハーヴェイは1人、小高い丘に生えた大樹に背をもたれ、星の舞う空を眺めていた。  ……追い続け、探し続け、幾星霜を重ねただろう。  当て所なく、当て所なく、ただ彷徨い続け、求め続けた。  果てしなき放浪。  何の当てもなく、しかし、ただ求めた。求めずにはいられなかった。  だが、ついぞ探し出せず、年月を経る毎、彼の心は擦り切れていった。  人には寿命がある。  その身は何時か朽ちる時が来る。  だが、もし、その身が滅びぬならばどうだろう。  永遠なる生。  ――それでも。  その心にも寿命があるのかも知れない。  人の心は、その体の寿命を越えて生きるようには作られていないのかも知れない。  彼の心がその動きを止めてから、どれ程の月日が流れただろう。  朝靄に煙る日の出も、風に揺れる木々のざわめきも、波の運ぶ潮騒も、響き渡るような歌も。  ……彼の心に届く事を忘れて久しかった。  何を感じることもなく、ただ、遥か昔の想いのままに彷徨う亡霊に過ぎなかった。    天空で出会った一人の娘。  己でも解らぬままに、彼の心は止めていた鼓動を再び打ち始めたかのように動き出していた。放っておく事ができなかった。娘が姿を消す度、追わずにはいられなかった。  戸惑いの中で見た、その娘の瞳。  ――ただ、真っ直ぐな瞳。  それが、彼の心に息吹を吹き込んだものだった。  そう、忘れえぬ……  ハーヴェイは、そっと目を閉じた。  ――遥かなる時の彼方。  まだ、神々がその姿を地上に現していた頃。  その男は、女神フレイアに仕える娘と恋に落ちた。  共に時を過ごし、言葉を重ね、触れ合い、その仲を深めて行った。  やがて、彼はその娘を妻とするべくフレイアに申し入れた。  だが、フレイアは娘がその許を離れる事を許さなかった。  諦めず、幾度か彼は女神の許に出向いて申し入れた。  しかし、フレイアの答えは変わらなかった。  失意の中、それでも諦める事の出来ぬ彼に近寄る者があった。  ――邪悪にして気紛れなる神、ロキ。  ロキは彼に言ったのだ。  女神イドゥンの管理する黄金の林檎を盗み出す事が出来たならば、娘を彼の妻とできるよう力を貸してやろう、と。 彼は迷いながらもロキの言葉を信じ、イドゥンの許へと忍び込んだ。  辺りを見計らい、その木の下に辿り着く。そして、その実を手にした。  神々がその若々しさを保つために食するというその林檎を。  そして、立ち去ろうとする彼を、しかし、見とがめるものが居た。  それは、女神フレイアであった。  彼は知らずに居た。  フレイアがここを訪れる事をロキは知っていた事を。  フレイアは彼に何ゆえに黄金の林檎を欲したのかと問うた。  観念し全てを告げた彼に、その咎への罰を言い渡した。  ひとつ。彼を放逐する事。  ひとつ。娘を放逐する事。  ひとつ。彼と娘に終わらぬ命を与える事。  ひとつ。娘の記憶を消し去る事。  フレイアの告げたその罰を聞き、疑問に思った彼は聞いた。  終わらぬ命は罰となるのか、と。  それは身を持って知ることとなるでしょう――フレイアは彼にそう答えた。  それが、放浪の始まりだった  ……そして、幾星霜。  当て所なく、ただ、求め続け、探し続けた。  果てし無き放浪の中、時は彼の心を磨り減らして行った。  そう、彼は終わらぬ生の意味を正しく身を持って知って行った。   そして――巡り会ったのだった。  果てしなく捜し求めた、その真っ直ぐな瞳の娘に。  ――女神フレイアは言った。  お前に黄金の林檎を与えましょう。娘を探し出し、それを与えた時にこそ、お前の罪を許しましょう、と。    再び巡り会った娘は、しかし、林檎を口にする事を選ばなかった。  彼は、しかし、それでも良かった。  とうに息絶えていたと思えていた彼の心に、年経た亡霊であっただけの彼に息吹を吹き込んだのは、遠い思い出ではなく、此処にこうしてあるこの娘だったのだから。  思い出の中の姿ではなく、彼は辿り着いた。  だから、娘が――その心が何処にあろうとも、彼は己の心を娘の元に置くだろう。  これからも終わらぬ生を過ごすとしても。  彼はその想いを、その温もりを、その真っ直ぐな瞳を胸に抱えて行くならば……それはきっと、彼の心を凍らせる事は無いだろう。  彼は待つだろう。  いつでも、いつまででも。  その心を娘の傍らに置くだろう。  終わらぬ生のその果てまででさえも。
*悠久の果てまでも  ハーヴェイは一人、小高い丘に生えた大樹に背をもたれ、星を舞う空を眺めていた。  ……追い続け、探し続け、幾星霜を重ねただろう。  当て所無く、当て所無く、ただ彷徨い続け、求め続けた。  果てしなき放浪。  何の当ても無く、しかし、ただ求めた。求めずにはいられなかった。  だが、ついぞ探し出せず、年月を経る毎、彼の心は擦り切れて行った。  人には寿命がある。  その身は何時か朽ちる時が来る。  だが、もし、その身が滅びぬならばどうだろう。  永遠なる生。  ――それでも。  その心にも寿命があるのかも知れない。  人の心は、その体の寿命を越えて生きるようには作られていないのかも知れない。  彼の心がその動きを止めてから、どれ程の月日が流れただろう。  朝靄に煙る日の出も、風に揺れる木々のざわめきも、波の運ぶ潮騒も、響き渡るような歌も。  ……彼の心に届く事を忘れて久しかった。  何を感じる事も無く、ただ、遥か昔の想いのままに彷徨う亡霊に過ぎなかった。    天空で出会った一人の娘。  己でも解らぬままに、彼の心は止めていた鼓動を再び打ち始めたかのように動き出していた。放っておく事ができなかった。娘が姿を消す度、追わずにはいられなかった。  戸惑いの中で見た、その娘の瞳。  ――ただ、真っ直ぐな瞳。  それが、彼の心に息吹を吹き込んだものだった。  そう、忘れえぬ……  ハーヴェイは、そっと目を閉じた。  ――遥かなる時の彼方。  まだ、神々がその姿を地上に現していた頃。  その男は、女神フレイアに仕える娘と恋に落ちた。  共に時を過ごし、言葉を重ね、触れ合い、その仲を深めて行った。  やがて、彼はその娘を妻とするべくフレイアに申し入れた。  だが、フレイアは娘がその許を離れる事を許さなかった。  諦めず、幾度か彼は女神の許に出向いて申し入れた。  しかし、フレイアの答えは変わらなかった。  失意の中、それでも諦める事の出来ぬ彼に近寄る者があった。  ――邪悪にして気紛れなる神、ロキ。  ロキは彼に言ったのだ。  女神イドゥンの管理する黄金の林檎を盗み出す事が出来たならば、娘を彼の妻と出来るよう力を貸してやろう、と。  彼は迷いながらもロキの言葉を信じ、イドゥンの許へと忍び込んだ。  辺りを見計らい、その木の下に辿り着く。そして、その実を手にした。  神々がその若々しさを保つために食するというその林檎を。  そして、立ち去ろうとする彼を、しかし、見咎める者が居た。  それは、女神フレイアであった。  彼は知らずにいた。  フレイアがここを訪れる事を、ロキは知っていた事を。  フレイアは彼に何故に黄金の林檎を欲したのかと問うた。  観念し全てを告げた彼に、フレイアはその咎への罰を言い渡した。  ひとつ。彼を放逐する事。  ひとつ。娘を放逐する事。  ひとつ。彼と娘に終わらぬ命を与える事。  ひとつ。娘の記憶を消し去る事。  フレイアの告げたその罰を聞き、疑問に思った彼は聞いた。  終わらぬ命は罰となるのか、と。  それは身を持って知る事となるでしょう――フレイアは彼にそう答えた。  それが、放浪の始まりだった  ……そして、幾星霜。  当て所無く、ただ、求め続け、探し続けた。  果てしなき放浪の中、時は彼の心を磨り減らして行った。  そう、彼は終わらぬ生の意味を正しく身を持って知って行った。   だが――ついに巡り会ったのだった。  果てしなく捜し求めた、その真っ直ぐな瞳の娘に。  ――女神フレイアは言った。  お前に黄金の林檎を与えましょう。娘を探し出しそれを与えた時にこそ、お前の罪を許しましょう、と。    再び巡り会った娘は、しかし、林檎を口にする事を選ばなかった。  彼は、しかし、それでも良かった。  とうに息絶えていたと思えていた彼の心に、年経た亡霊であっただけの彼に息吹を吹き込んだのは、遠い思い出ではなく、此処にこうしてあるこの娘だったのだから。  思い出の中の姿ではなく、彼は辿り着いた。  だから、娘が――その心が何処にあろうとも、彼は己の心を娘の元に置くだろう。  これからも終わらぬ生を過ごすとしても。  彼はその想いを、その温もりを、その真っ直ぐな瞳を胸に抱えて行くならば……それはきっと、もう彼の心を凍らせる事は無いだろう。  彼は待つだろう。  いつでも、いつまででも。  その心を娘の傍らに置くだろう。  終わらぬ生のその果てまででさえも。

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