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*after image  遠く、遠く。  澄んだ空の向こうを雲が流れて行く。  新緑の草原は、なだらかな起伏を見せながら遥か地平までどこまでも続いている。  そよ風に揺られ、囁くかのような微かなざわめきを響かせている大きな木。その木陰でグレンが目を覚ました時、目に入って来たのはそんな見知らぬ風景だった。  身を起こし、木に背中をもたれる。  どこだろう。  何故、ここにいるのだろう。  そんな思いが浮かぶ。  普通なら、ここでそれを不安に思いそうなものだ。  けれど、この場所が感じさせてくれるのは懐かしさにも似た安らぎで、それが彼を包んでくれているように思える。  そんな安らぎに浸ろうとしていた時。 「おはよう、ねぼすけさん。」  ――その声に。  思わず、はっと振り返ったそこには。  飾らない笑顔で、でも、その瞳はどこかいたずらっぽさをたたえていて。  ずっと、ずっと、心に思い描いていた姿。  鼓動が跳ねる。  湧き上がる想い。  口を開くが、その思いは言葉にならず――涙が溢れていた。 「――ローズ?」  伸ばした手で、確かめるようにその頬に触れながら、やっと漏れた言葉。 「私以外の誰かにでも見えるかい?」  少し皮肉混じりな、けれど暖かいその口調で返ってきたその言葉に、彼は涙を流したままで笑顔を作って首を振る。そして、身を寄せ、彼女をきつく抱きしめた。 「私の事、恨んでるかい?」 「いや……そう言うなら、僕も君に謝らなくきゃいけない。」  少し落とした声の彼女の問いに、彼は頭を振ってそう言う。 「あんたは、するべき事をしただけだろう。誤る事なんて無いさ。」 「うん……君も悔やまないで。仕方がなかったんだよ。」 「……ありがとよ。」 「うん。」  しばしの間、幾年月の想いを確かめるかのように彼はそのまま彼女を抱きしめていた。彼の背には、やんわりと彼女の腕が回されている。 「……君に渡したい物があるんだ。」  そう言って彼はゆっくりと抱擁を解くと、ポケットからそれを取り出した。  銀のペンダント。  年経て、その色は少しくすんでいた。 「ちょっと、古ぼけちゃったけど……受け取ってくれるかい?」  何も言わず、彼女は小さく頷いて、彼のほうに少し首を傾ける。そして彼は胸の高鳴りを覚えながらその首にそれをそっとかける。 「どうだい?」  彼女は微笑んで聞いてみせる。 「あ、うん。」 「なんだい、こういう時はお世辞のひとつも言うもんだよ?」 「あ――うん、綺麗だ。」  何の芸もないその言葉に、彼女は思わず吹き出し、くっくっく、と抑えた笑い声を立てた。 「あんたねえ……まあ、あんたらしいって言やあ、あんたらしいけどさ。」  ひとしきり笑うと、彼女は何と言おうか迷っていた彼を真っ直ぐ見詰める。 「ありがと。」  その彼女の言葉に、彼は小さく笑って頷いた。 「さて、じゃあ行こうか。」  彼女が見やった先、遠く、遠くには。  幾つもの人影。  それは小さく、はっきりとは見えないけれど。  でも、間違いなく判る、遠いいつかの日々の姿。  頷きあって、二人は歩き出して。  そして、帰ってゆく。  遠い、遠い。  いつかの日々へと。
*after image  遠く、遠く。  澄んだ空の向こうを雲が流れて行く。  新緑の草原は、なだらかな起伏を見せながら遥か地平までどこまでも続いている。  そよ風に揺られ、囁くかのような微かなざわめきを響かせている大きな木。その木陰でグレンが目を覚ました時、目に入って来たのはそんな見知らぬ風景だった。  身を起こし、木に背中をもたれる。  どこだろう。  何故、ここにいるのだろう。  そんな思いが浮かぶ。  普通なら、ここでそれを不安に思いそうなものだ。  けれど、この場所が感じさせてくれるのは懐かしさにも似た安らぎで、それが彼を包んでくれているように思える。  そんな安らぎに浸ろうとしていた時。 「おはよう、ねぼすけさん。」  ――その声に。  思わず、はっと振り返ったそこには。  飾らない笑顔で、でも、その瞳はどこかいたずらっぽさをたたえていて。  ずっと、ずっと、心に思い描いていた姿。  鼓動が跳ねる。  湧き上がる想い。  口を開くが、その想いは言葉にならず――涙が溢れていた。 「――ローズ?」  伸ばした手で、確かめるようにその頬に触れながら、やっと漏れた言葉。 「私以外の誰かにでも見えるかい?」  少し皮肉混じりな、けれど暖かいその口調で返ってきたその言葉に、彼は涙を流したままで笑顔を作って首を振る。そして、身を寄せ、彼女をきつく抱き締めた。 「私の事、恨んでるかい?」 「いや……そう言うなら、僕も君に謝らなくきゃいけない。」  少し落とした声の彼女の問いに、彼は頭を振ってそう言う。 「あんたは、するべき事をしただけだろう。誤る事なんて無いさ。」 「うん……君も悔やまないで。仕方がなかったんだよ。」 「……ありがとよ。」 「うん。」  しばしの間、幾年月の想いを確かめるかのように彼はそのまま彼女を抱き締めていた。彼の背には、やんわりと彼女の腕が回されている。 「……君に渡したい物があるんだ。」  そう言って彼はゆっくりと抱擁を解くと、ポケットからそれを取り出した。  銀のペンダント。  年経て、その色は少しくすんでいた。 「ちょっと、古ぼけちゃったけど……受け取ってくれるかい?」  何も言わず、彼女は小さく頷いて、彼のほうに少し首を傾ける。そして彼は胸の高鳴りを覚えながらその首にそれをそっとかける。 「どうだい?」  彼女は微笑んで聞いてみせる。 「あ、うん。」 「なんだい、こういう時はお世辞のひとつも言うもんだよ?」 「あ――うん、綺麗だ。」  何の芸もないその言葉に、彼女は思わず吹き出し、くっくっく、と抑えた笑い声を立てた。 「あんたねえ……まあ、あんたらしいって言やあ、あんたらしいけどさ。」  ひとしきり笑うと、彼女は何と言おうか迷っていた彼を真っ直ぐ見詰める。 「ありがと。」  その彼女の言葉に、彼は小さく笑って頷いた。 「さて、じゃあ行こうか。」  彼女が見やった先、遠く、遠くには。  幾つもの人影。  それは小さく、はっきりとは見えないけれど。  でも、間違いなく判る、遠いいつかの日々の姿。  頷きあって、二人は歩き出して。  そして、帰って行く。  遠い、遠い。  いつかの日々へと。

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