雨上がりの午後 Angel's Night ―天使達の夕べ―



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Angel's Night ―天使達の夕べ―


闇を裂くように翻る白光。
それは月を照り返して映える、真白き羽ばたく翼。

光を塗りつぶすように滑る黒刃。
それは夜よりもなお深き、漆黒の夜を駆ける翼。


 見上げて少女は訊ねた。
「ねぇ、どこへ向かっているの?」
「どこがいい?」
歩きながら少年は、問い返した。
「どこがいい……って、どこか目的地とかあるんじゃないの?」
「そんなものはない。」
事も無げに言い放つ少年。
「ちょ……え、何よそれは。
 どこか目的地があるから、歩いてるんじゃないわけ?」
「ない、目的地など無用だからな。」
「信じらんないわ、あたしには黙ってついてこいとか言ってるくせに!」
追い抜いて振り向き、憤慨する少女。
 少年は、そんな少女を気にも止めぬかのように、そのままのペースで横を通り過ぎ
「お前と一緒に行くならば、目的地などどうだっていい。
 お前が横にいるから、それでな。」
通り過ぎた所で、むんずと後ろ衿を掴んだ。
「そ……ぐえっ。
 ちょ、ぎゃああああ。」
引きずられるように慌てて歩き出す少女。掴む手から解放され、少年の隣を歩く。
「な、なんてことすんのよもう!」
「口元がにやけているぞ。」
「うっ……」
一瞬反論の言葉が頭に浮かぶが、にやついた口からその言葉を発する気にはなれずに。
「うるさいっ、嬉しくて悪いかっ。」
「悪くない。
……正直なやつめ。」
少しだけ、口元に笑みを乗せる少年。
 そんな少年にかなわずに、嬉しいけどそれでも抗いたい少女は。
「あ、あたしは―――!」
ふいに立ち止まった少年の唇に唇を塞がれて。
 結局何も言えずに、ただ少年の手を包み込むように握っただけだった。


腕に少女を、温もりと匂いと心を抱いて。
風より夜より早く、夜を駆け羽ばたく翼。

共にあれば、他には何もいらない。
共にいれば、なんだって越え、どこへだって行ける。


「は……き、きゃああぁぁぁっ!?」
渦巻く風の音に負けじと、叫ぶ少女。
 はりあげた声は、風の音に負けぬためか、絶叫ゆえか。
「なんだ?」
「な……なんだじゃないわよっ!
 な、なんで飛んでるのよぉっ!?」
少年の腕の中。
 見上げるまでもなく、視線と同じ高さに、青い空。やや下に白い雲。
「急いで移動するためだ。」
「そ、そぉじゃなくって!
 どうして、目が覚めたら空なのかを聞いてるの!」
「いつだって、オレの腕の中に居ろ。
 どこへ行くにも手放さぬからだ。」
「ぅ……」
嬉しさに一瞬緩む頬を引き締めて。
 そもそも、質問に何一つ答えてもらっていない。言葉を続ける。
「で、なぜ急いでなんのためにどこへ向かっているのよ?」
「あいつらに、子供が生まれたと連絡が入った。」
あいつら。
 脳裏に浮かぶ、もう2人の『天使』
「……」
(だからって、寝てるあたしを無理矢理……)
少しの不満。
「すまんな。」
「……ばか。
 急いでいいから、ちゃんと起こして説明してよ。」
「そうだな。気を付けよう。」
少しだけ、思っている不満とは違うことを口にして。
 自分を抱き締める腕に手を寄せ、小さく目を閉じた。
「お前が全てで、お前が最優先だ。
 いつだって、どこだって、なんだってな。」
「ん……」
「お前を拒むなら、例え世界だろうと敵に回してやる。
 けして離れぬさ、お前がオレのものでいる限りな。」
「……うん。
 離さないでね……?」
「無論だ。
 言ったろう、一生縄で括って逃がさんとな。」
少しだけ口元をゆがめると。
 少年は、抱きかかえた少女の首筋に唇で触れた。
「っひゃぅ!」
「くく……相変わらずいい反応だな。」
「お……落ちたらどうすんだばかぁぁっ!」
「安心しろ、お前が暴れた程度でふりほどかれはせんさ。
 けして、離さぬ。絶対にな。」
「……ばか。」
恥ずかしさと嬉しさに、見えてはいないと知りながら、顔を隠し平静を装うと。
 少女は小さく呟き、少年の腕の中で、もう一度目を閉じた。
「さ、行くぞ。」
「うん。」
少女が大人しくなったのを確認すると、少年は翼に力を込め速度を上げた。
 一路、懐かしき仲間と新しい命を目指して―――


共にいるだけで、翼などなくとも。
人であるか天使であるかなど関係なく。

共にあれば、2人ならば、他には何もいらない。
誰よりもただ、お前だけを、愛しているから―――