雨上がりの午後 愛のいのち


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愛のいのち


静寂な夜の村に鳴り響く鐘の音……
晴暗は降りしきる雨の中、空を仰ぎ、一人其の音を耳にしていた。

「雨、か…。今の俺には心地いい。この汚れた身体も…そして涙も隠してくれる。」
先程まで愛しい女を抱いていた両腕の温もりが、まだ僅かに残っている。
たとえ、其の温もりが消えても、心の中でずっと残るだろう。
めいから与えられた、めいに与えた愛の温もりが……

晴暗はそっと瞳を閉じる、と同時に甦る光景―――


晴暗は本堂を出た後、神社に在る桃の木の前でめいを見掛けた。
彼女は韓紅花色の着物を纏っており、白い肌が其れを引き立たせていた。

「めい…。」

彼女に近寄ると、晴暗は静かに声を掛ける。
彼女は晴暗の方に振り返り、月の光に負けないくらい眩しい笑みを見せた。
其れを見た晴暗は、思わず彼女を抱きしめた。

「愛しいめい…。俺は、めいを…絶対に護る。たとえ、緋の魂に己の身が滅ぼされても…。」

晴暗は心の中でそう誓った。
だが、天頂を駆ける月が…砕かれた岩が其れを許す事はなかった。
緋の魂は、晴暗の心を侵食していく。

めいを静かに横たわせ、彼女の唇に優しく口づけをする。
そして、彼女の耳元で何度も愛在る言葉を囁く。
彼女の口から漏れる甘い息に、晴暗の欲は一気に高まった。

「めいを…俺だけのものにしたい…。」

晴暗は、優しく彼女の胸に手を触れる。そして、鋭い爪が彼女の其れを傷つけていく。

「やめろ…。めいを…傷つけるな…。」

白い肌から流れ出る血を貪る緋と怯えるような瞳で彼を見詰めるめい。
皮肉な事に、一つに重なった影を月光は綺麗に照らし続けていた。

「晴暗…いいよ、めいを…殺して…。其れで、貴方が…助かるのなら…。」

めいは小さく、震える声で言った。彼女の瞳からは、涙が溢れ出る…。
其の涙のわけは彼女の恐怖、悲しみ…いや、晴暗自身の心の叫びだった。

「俺は…めい、お前を愛してる。お前を傷つけたくない…。今すぐ、逃げろ…。」

晴暗は己の中で湧き上がる緋の欲を必死に殺そうとしていた。
しかし、気付いた時には……

「やめろ…」

めいの体を鋭い爪で引き裂き…

「めい、逃げろ…」

大きな手で頭を押さえると…

「やめてくれっ!」

大きな口を開け、牙を剥き出しにし…

「めい!!」

彼女の頸部に其れを向けた。

めいの瞳は閉じられ、大量の血が噴き出す。
そして、白い肌は緋と蒼が混ざった色へと変化していった。

変わり果てた姿を目の前に、晴暗は呆然と彼女を見詰める。
風に消される程小さな声が、晴暗の耳には残っていた。

――晴暗、貴方は生き延びて。私、貴方を…愛して…る…わ。

晴暗は、めいの身体を強く抱きしめ、嗚咽交じりの声を漏らした。
彼女の瞳は、もう俺を映してくれない。
彼女の腕は、もう俺を抱きしめてはくれない。
彼女の口は、もう…俺に何も囁いてくれない……。

「めい…俺の愛しいめい…。俺が、めいを…殺した…。御免……御免よ。」


晴暗はめいを桃の木の元に埋めると、二人の許に向かって歩を進めた。
白と蒼に、ある願いをする為に―――