雨上がりの午後 もう一つの記憶



※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

もう一つの記憶


突如、私は記憶を失った。
ある二つの記憶。

月明りに照らされる海を眺めながら
私はそれが何かを考えていた。

海面に映し出された自分の姿は
魂が抜けているかのようだった。

私は静かに涙を流す
一度、失った涙を。

視界を遮る涙に触れる
そこから感じる温もり
自分の姿の隣に映し出される
一つの魂。

その魂は私に向かって
優しく微笑んだ。

私は直接、その魂をみつめる
私を映すその魂の瞳は
温かく……

―――そして、私の真の心を映し出していた。

漆黒の空と荒れ狂う波。
やがて、ゆっくりと静を取り戻す。一艘のボートを護るように。

厚い雲の隙間から、月の光が差し込む。
そして、そのボートに光を注いでいた。

「なんでそんなに悲しい瞳をしてるの…?」

―――これが、全ての始まりだった。

あの時、私は彼の瞳の奥に潜む孤独を感じた。
しかし…それを覆う霧が濃く、私は彼の瞳の叫びには気づかなかった。

救ってくれ、という叫びに。

彼は言った。
『メイを壊したい』と。

己の心を真っ直ぐに曝け出せない彼は、屈折した愛を私に向けた。

私の命を奪おうとし、私の愛する人を奪い、そして……
私の涙(こころ)を奪った。

その後、私の心は支配された。
憎悪という名の深い闇に。

私は彼を憎むため
彼の命を奪う事だけのために生きていた。

―――あの時までは。

生の色を失った彼の姿をみた時
私は奪われた涙を取り戻した。

それが意味するのは
彼を愛してるということ。

彼の生により失い
彼の死により、それを取り戻した。

私は。
彼を愛してた。

彼を救うためじゃなく
自分の心を満たすために。

彼から与えられた愛
それは、屈折していたが
彼なりの精一杯の
愛情表現だったのだろう。


私はふと
目の前に居る魂を見つめ直し
小さく…そして優しく呟いた。

やっと、言える。
―――ラッセル、愛してるよ。

彼は私をみつめる。
愛に溢れた瞳で。
そして、私を優しく抱きしめた。

そして。
二つの想いは初めて溶け合った。

共に同じ想いが。
取り戻した、一つの記憶により。