雨上がりの午後 憎き男への思い



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憎き男への思い


[静寂の夜、メイはギルバートが眠る海岸で一人海を眺めていた。そこに一人の夫人が私の許に近寄ってくる。その夫人の姿は、船上でのそれが幻であったかのようなものだった。綺麗なドレスは土で汚れ、いい香りの肌は汗で侵食していた。

ただ変わらないもの……それは彼女を飾る宝石の数々。

ジェーンは胸のロケットから粉薬を取り出し、メイに手渡した―――ストリキニーネ。一定量を越えると強痙攣を伴う諸症状を引き起こす。ジェーンが私に手渡したそれは、憎き男の命を奪うのに十分な量だった。

彼女は私をみつめ、そして小さく呟いた。]

「これを使うかどうかは貴女次第よ。私は…メイ、貴女が真のレディになる事を願っているわ。」

[ジェーンは私を悲しい瞳でみつめていた。私はその瞳が何を言いたいのか分からなかった。彼女の言葉に強く頷くと、彼女の許を去り、ある姿を探しに歩を進めていた。闇のように暗い道…まるで、自分の心のような闇。しかし、私はそれに気付かずに、ただひたすら探し続けた―――ヒューバートの姿を。

洞窟に辿り着いた私は、その近くに在る墓に視線を向けた。そこに求めていた姿があった。ヒューバートは娘の墓に寄り掛かりながら、眠りについていた。彼の足元を捨てられているマルボロ…その数から、私は彼がここで長い時を過ごしていた事に気付いた。]

ヒューバート。
貴方は、本当にヘンリエッタを愛していたのね。

貴方が涙を流せるのなら…人としての心を持っているのなら……
ギルを信じて欲しかったよ。信じようとして欲しかったよ。

[メイは彼の濡れた瞼をそっと指で拭い、小さな声で呟いた。そして私の指の感触に気付き、彼は眠りから覚めた。]

「メイ…?どうしたんだい…?何か、用でも…?」

[ヒューバートはメイに向かって言葉を放つ。その口調は優しく、温かいものだった。]

ヒューバート。
私は…貴方が憎い……

ギルを信じようとしてくれなかった…
私とギルを引き離した貴方が…

憎くて仕方ない。殺してやりたい、本気でそう思ってる。
でも……

[メイの言葉は最後まで続かなかった。そんな私にヒューバートは小さく、しかしはっきりとした口調で言った。]

―――好きにしろ。

[予想外の彼の言葉に、私は言葉を失った。しかし、それも束の間だった。私は言葉を続けた。小さく、低い言葉を。]

そう。
じゃぁ、死んで貰うよ。

あの世で、ギルに詫びるんだね。

[メイはジェーンから渡された粉薬を彼が持っていた酒に溶かし、彼にすすめた。]

これを飲めば、貴方は死ぬ。
怖い…?死ぬのが怖い…?

ギルだって、今の貴方と同じ思いをしたんだから…っ。

[私の強い声に動揺もせず、ヒューバートは私をただみつめていた。]

怖くなんてないさ。
私にはもう、失うものはこの命だけ。

私を殺す事で、君の思いが晴れるのなら
私は殺されても構わないよ。

[ヒューバートの言葉に、メイはジェーンの言葉を思い出す。]

『―――真のレディになる事を願っているわ。』

(真のレディ…?どういう意味…?私には何が足りないの…?)
(そんなもの、なれなくたっていい。今、目の前に居る男を殺したい…)

[メイの中の二つの感情が戦い合い、やがて一つになる。少し屈折して――]

今の貴方をヘンリエッタが見たらどう思うんだろうね。
エッタはヒューバートが死ぬ事を望んでるのかな。

エッタの分まで生きないといけないんじゃない…?
エッタがこの島で戦った証…貴方が生きて、それを証明しないといけないんじゃない…?

[メイは薬が溶かれた酒をヒューバートにかけると、彼の許を去った。そして再び海岸へと向かう。]

ギル…私、ヒューバートを殺せなかったよ。

[ギルバートの墓を目の前にそっと呟くメイを、ジェーンは微笑みながらみつめていた。]

―――それでいいのよ、とメイの心に語りかけながら。