2ch野球板 バトルロワイアル 参加者名簿 中日ドラゴンズバトルロワイアル第五章~ENDING~(3)


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294 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/17 20:54 ID:Kb4GhvKd

51  数々の事実

山北は福留と荒木にテレビで見たことを話した。
波留が谷繁に殺されたこと、野口が自殺したこと、そして森野が立浪に殺されそうになったが、落合によって救われたこと。
「立浪さんの狙いは俺だったんですね」
山北の手当てによって状態がよくなった荒木はうつむいていた。
立浪さんは本当にセカンドが好きなんだ。人を殺してまで守りたいんだ。
「だから荒木さんは気をつけてください」
「山北、話には出てこなかったけど小笠原は誰に殺されたんだ?」
「・・・」
山北は黙っている。
「山北?」
「小笠原さんは自分の持っていた銃を奪われて殺されたんです」
「だから誰に?」
「本当に何も知らないのですね。でもそれは誰だかは言えません。そして俺はその人に狙われているんです」
一瞬の沈黙。しかしそれは随分長く感じた。
「教えてくれ、誰なんだ?」
「福留さんたちは大丈夫です。野手だから。俺は左腕だからという理由で狙われている。岩瀬さんが自害したというのもその人が絡んでいましたし」
殺されるかもしれないというのに、恐怖とかそういうものを一切感じさせないそんな話し方だった。
「そうか・・・これからどうするんだ?」
「ここから出ます。まだ妨害電波の届かない地域の方が多いですから。他のチームメイトもテレビを見ているかもしれません。福留さんたちも早くここから出たほうがいいです」
「俺たちと一緒に行かないか?」
荒木は淡々と話す山北に言った。
しかし山北は首を横に振った。
「殺されるとわかっていても俺はあの人のところへ行かなければならない。それにあの人にだったら殺されてもいいとどこかで思っている。いつも俺や投手陣をまとめてひっぱってくれたあの人が大好きだった。
いつもあの人に迷惑かけっぱなしだった。そんなあの人が俺の死を望んでいるならそれでも構わない・・・」
山北は目にいっぱい涙を浮かべながら言った。
・・・。2人は止めることができなかった。
「わかったよ・・・。がんばってこいよ」
何にがんばってこいなのかよくわからなかったが、そうとしか言えなかった。

295 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/17 20:55 ID:Kb4GhvKd

「じゃあ、福留さんも荒木さんも無事でいてくださいね」
「山北さっきは疑って悪かった。それに荒木の傷まで・・・本当にありがとう」
山北は2人に深く礼をして薬品庫を去ろうとした。
「山北、井端さんは、井端さんはどうしてる?」
荒木がドアから出ようとした山北を呼び止めた。
荒木はずっと井端のことが気になっていた。
「井端さんですか・・・。会わないほうがいいですよ。今はどうかわかりませんけれどテレビで見た限りでは、今の井端さんとまともに話すことは難しいと思います」
「どうして?」
やたら熱心になって聞き出す荒木。
荒木はもしかしたら自分より井端さんと一緒にいたかったかもしれない。
福留は悲しいがそう思ってしまう。
「どうしても会いたいというなら鶴舞公園へ行った方がいいですよ。井端さんはそこにいると思います」
「すぐそばだ。山北本当にありがとう」
井端に会える喜びのせいか荒木はとてもハキハキしている。さっきまでとは全くの別人だ。
「では、失礼します」
山北はそう言って薬品庫から出て行った。山北の足音が遠のいていく。
「山北を狙ってる奴というのは昌さんのことかもな」
「たぶんな」
自分の目から見ても昌さんはとても人殺しをするような人には見えない。ピッチャーのみんなはとても仲良くてうらやましかった。誰からも好かれている昌さんが一体どうして・・・?
「これからどうする?」
山北の言ったとおりここから出たほうがいい。
「井端さんの所へ行く」
「井端さん!?でも今の井端の状態を聞く限りでは・・・」
まともに話すことができないらしいが・・・
「孝介に行く気が無いなら俺1人でも行く」
「・・・わかったよ、行くよ」
荒木は井端さんを慕っていた。荒木が心配するのも無理はないが・・・。
それに井端さんのことだ、きっと大丈夫だろうけど。
2人は病院を後にした。

【残り 30人】

297 名前: 161 投稿日: 02/07/17 22:43 ID:Tsjv1iYt

番外編4 祭り

■掲示板に戻る■ 1- 101- 201- 最新50

お前ら1リアルでバトロワですよ~part31

1 :代打名無し :02/03/25 08:54 ID:RkdW/Arw


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| もう31スレ目。終結までにいくつ行くんだ?
\____________________
         |/
      ∧ ∧
  (て__(メ゚Д゚)
   \⊂ ノつ
     ━^━

関連スレは>>2-20のどこか
>>900か>>950踏んだ人、新スレよろしく

中日ドラゴンズバトルロワイアル実況掲示板
http://sports.2ch.net/test/read.cgi/base/1024663656/l50

195 :代打名無し :02/03/25 09:42 ID:B9DX5NHK
なんかすごい荒れてるね・・・

196 :代打名無し :02/03/25 09:44 ID:oHkAAkxm
>195
ニュー速厨が大量に流入してるからな。

197 :反転石 :02/03/25 09:47 ID:q3F/kAPZ
田舎球団殺しあえプ

198 :代打名無し :02/03/25 09:49 ID:B9DX5NHK
邪魔の野郎よくも井本タンを・・・

199 :代打名無し :02/03/25 09:53 ID:w3Fjvqet
漏れとしては>>1にスレタイの事を小一時間問い詰めたいんだが・・・

200 :代打名無し :02/03/25 09:54 ID:m2av8D0r
スレタイ厨うざすぎ

201 :代打名無し :02/03/25 10:03 ID:+gOSrcJq
さっき俺んちの前を自転車乗っ物凄い勢いで通り過ぎて逝ったヤシ
ドラ1の前田に似てたんだが・・

まさか・・な。鬱

202 :代打名無し :02/03/25 09:48 ID:B9DX5NHK
俺広島ファソなんだけど、うちの本スレで今練習場に変なベンツが入って逝ったと目撃証言が。
ま、まさかうちでも(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

299 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/17 23:34 ID:X9uBFg83

52 走れ

「僕の姿まで見られてる…」
国道一号線をひた走ってきた前田章宏は、自販機で買ったジュースを飲みながら中里のメールに記載されたURLを携帯電話の簡易ブラウザで開いていた。
それは、ネット世界では有名な巨大掲示板。膨大な数の匿名参加者がいるために世の中の流れが即座に反映されることで有名なそこには、ご多分に漏れずこのバトルのスレッドが乱立していた。
バトルの実況中継をするスレッド、気に入った選手を応援するスレッド、優勝者を予想するスレッド、バトル終了後の名古屋でオフ会を計画するスレッド…。
そのひとつには、彼の姿の目撃情報までが既に書き込みされていた。
いったいこの日本にいる人間の何人が、中継を見ているんだろう。
野球中継も、これくらい視聴率が取れたらな。ああ、でも全国放映なんて、巨人戦だけか。
悲しいかな、ドラゴンズは今現在、あの読売をも超え、最も世間から注目を集めている野球チームとなったのである。
死んでいった先輩達はこれで報われる?まさか!
誰もこんな風に注目されたかったわけじゃない。
生きて、野球に命を懸けるのが野球選手の使命じゃないのか。
こんなことをしても、何も変わらない。何も。
古田さん、あなたのことは尊敬していたけれど、それはプレーのときのあなたに限ることにします。
「『>>198 IDがNHKだ!』…と」
『名無し』の書き込みでは今の自分の証にもならないけれど、前田は何かを残したかった。
僕達は、生きているんです。
生きて、野球がしたいんです。
休憩を終えた彼は再びサドルにまたがった。目の前には、『愛知県』の標識が彼の通過を待っている。

302 名前: 161 投稿日: 02/07/18 00:36 ID:uiQ4nPOM

53 ボーナスステージ

井上は唖然としていた。
倉庫の中には、武器の山、また山。
整然と立てかけられた小銃の列を前に、しばし立ちすくむ。

「好きに使え、と言う事か。」
ようやくたどり着いた結論に、体中の力が抜ける。

陸上自衛隊守山駐屯地。

これから戦い抜く為に便利な道具でもないか、あわよくば退避のどさくさにどこかにし
まったまま忘れられた武器のひとつでも、と思って来たのだが、結果は予想以上だ。

武器庫の鍵は開いていた。主催者側の差し金だろう。ここの存在に思い至った者へ
の贈り物。ここにある物を使って、このイベントを盛り上げろとのメッセージ。

ご丁寧にも、すべての火器には操作教本が一冊添えられている。
印刷は・・NHK出版。

「すべてはお釈迦様の手のひらの上、だな・・・。」

とりあえず64式小銃の列からスコープ付きの物を取り、マガジンを着ける。
サイドアームに9ミリ機関拳銃。

支給されたバッグに手榴弾と予備の弾薬を放り込み、他の火器類に目をやった。
「持ち歩くには重過ぎるな。だが・・・・何かの役には立つかもしれん。」いくつかを手近
にあった台車に積むと、それを押して武器庫を離れた。

「このへんかな・・・。」
台車に積んだ重火器を近くの民家に隠すと、再び駐屯地に戻って来た井上。
肩には重火器のひとつ、カール・グスタフ対戦車無反動砲。
教本を開き、操作法を確認する。武器庫までは約300m。少し近すぎるが、これ以上
離れると障害物が多すぎる。覚悟を決めて、照準をつける。

「悪く思うな。他の奴らにここのブツを渡すのはまずいんだ。」
誰にとも無くそうつぶやく。

予想したよりも発射のショックは大きかった。飛び出した砲弾の行方を見定める暇
も無く、横にある建物の影に飛び込む。

最初の爆発に続いて・・・大地を揺るがす轟音。内部の弾薬類が誘爆した。

306 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/18 01:27 ID:rn28sZGb

54 憧れの人

荒木は目に見えて落ち込んでいる。
何と言っていいかわからず、福留は痒くもないのに首筋を掻いた。
まあ、当然か。怪我しているのにあまり気落ちするのも問題だが。
つい五分ほど前、井端は確かに荒木の目を見て言ったのだ。
俺は誰とも組めない、と。
きっと迷惑をかけるから、とも。
それだけだった。荒木がどんなに引き止めようとも、井端は振り向きさえしなかった。
山北の言っていた事と関係があったのだろうが、
プログラムが始まってから今までの間に、井端に何があったのか…
「井端さん…」
「な、荒木、井端さんにも何か考えがあるんだよ」
「…孝介、俺にはわからない。井端さんは…
いや、井端さんが、俺たちに何の迷惑をかけるっていうんだ」
「知らねえよ、そんなの…ともかく井端さん本人がああ言ったんだから、
付きまとってもしょうがないじゃないか」
「井端さんは立派な人だ。真面目で頭も良くて、俺の目標だった。
なのにどうして」
荒木は俯き、ただぶつぶつと言葉を呟くばかりだった。
ここは鶴舞公園。広い公園の片隅、目立たない小さなベンチに二人は座っていた。
ここで井端を見付けたまでは良かったのだが。
「畜生…」
いつまでも独り言の止まない荒木に、次第に腹が立ってくる。
こいつ、要するに井端さんが自分の思い通りに動いてくれなきゃ嫌なのか。
「甘ったれんなよ。山北なんて、昌さんに憧れてたのに、
その昌さんに殺されに行くつもりなんだぞ」
荒木の肩がひくりと震えた。
「…俺だって立浪さんに攻撃されてショックだった。
お前は井端さんに何もされてないじゃないかよ…
「迷惑がかかるから、組めない」って言われた程度でこんなに落ち込むなんて、
お前がそんな情けない奴だとは思わなかった」
一気に言ってしまってから、言い過ぎた、と後悔したが、
間違ったことを言ったとは思わなかった。
荒木は黙っていた。黙っていたが、独り言を止めたのが答えだと福留は理解した。
「…立てるか」
ああ、と荒木が顔を上げた。
【残り30人】

307 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/18 07:25 ID:aZPz+k6x

55 安堵

(よかった。荒木も、福留も、まだ生きていたんだな。)
井端は歩を進めながら、ふと笑みを口元に浮かべた。
自分がどれだけの間寝ていたか分からない。その間の定期放送分でどれだけの死者を読み上げられたか分からない。
誰が死んで、そして誰が生きているのか。
これから自分がどうしていくのかを考えながら歩いていたところへ、荒木と福留が現れてくれた。

「なぜですか?!」
一緒に行動しましょう、と誘われて断った。
少し悲しげで、すがりつくような目で荒木は俺を見ていた。
でも俺は、「一緒には行けない。誰とも組めない。」と繰り返した。
「どうしてですか?」
荒木は何度も繰り返していた。
でも、断った。「きっと迷惑をかけるから。」、と。
背を向けた俺に、荒木は何度も何度も同じ言葉を繰り返した。
「どうしてですか?!」

ゲームが進めば、きっと追い詰められる。
生き延びようとするなら、苦しい選択をしなければならない時がきっと来る。
そんな時に荒木や福留と一緒にいたなら、自分も苦しいだろうが、荒木たちも苦しむだろう。
荒木たちは苦しい選択の犠牲には出来ないだろう。
それに・・・。
井端は顔を上げた。人の気配を感じた気がした。
ポケットの中のナイフをギュッと握りしめた。
(憲伸もまだ生きていてくれるだろうか?)
特に仲の良いチームメイトの安否を胸の中で心配しながら、井端は表情を引き締めて周りに鋭く視線を巡らせた。
(・・・・・・・・・・)
気配がしたと思ったのは、錯覚だったのだろうか、誰も現れはしなかった。
井端は短く息を吐いた。そして再び歩き出した。

そんな井端を、物陰から久慈が見ていた。
(正気に返ってくれたんだな・・・。)
歩き疲れた体を休めていたところに井端が歩いてくるのが見えた。
表情と雰囲気から、井端がもう狂気を帯びていないことを確信した。
(よかった・・・。)

【残り30人】

316 名前: 161 投稿日: 02/07/19 02:27 ID:LJzdzHrG

番外編5 遠い所

「何か用ですか?練習があるんで・・」
鶴田はそっけなく背を向けた。

昨夜は、眠れなかった。

何かを振り払うように、早朝から練習場に来て汗を流していた。
俺は広島カープの人間だ。よそのチームがどうなろうと知った
事では無い。そのはずだ。

そう自分に言い聞かせ、乱れる心を押し潰してただ練習に没頭
していた所に、彼が現れたのだ。


「ああもちろん---阪神の監督としちゃこんなところにいてはま
ずいんだが」星野は苦笑いしながら続けた。「ちょっと顔見とき
たくてな。」

怪訝な表情で振り返る鶴田。いったいどう言う風の吹き回しだ?
ふと、星野が縦縞では無く見慣れたドラゴンズのユニフォーム
を着ている事に気がついた。違和感が無かったせいで、気付く
のが遅れたのだ。

---あれから何年になるのだろう。なんだかずいぶん遠い所に
来てしまったような気がする。

「よろしく、頼む。」
星野はただそれだけを言い残し、駐車場のメルセデスに戻っ
て行った。意味がわからず呆然とする鶴田を残して。

330 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/21 01:09 ID:4mKbTekN

56 予告された死

神野純一は随分長い間空を眺めていたが、ふと目の疲れを覚えて寝返りをうった。
芝生がちくちくと頬に当たるのがむず痒い。
先ほどまで両足が信じられないほど痛んでいたのたが、
だんだん意識が薄れてきたお陰か、今はそれもあまり感じなくなっていた。
ここ庄内緑地は、じきに立ち入り禁止となる西区の中に位置している。
留まるのは自殺行為だ、そんな事は解っていた。
でも、だからどうしろっていうんだ?神野は自嘲した。
二本の足の折れてしまった今となっては、この広大な緑地の外に出ることさえ叶わない。
ただゆっくりと迫る死を待つのみだ。
それにしてもどうだろう。この緑の美しさ、空の青さよ。春の野は平和そのものだ。
どうして人間は殺し合いなどするのか、全く馬鹿馬鹿しくなってくる。
そう、けれども、全ては自業自得なのだ。
ヘリコプターによる放送の直前頃、
自分はここで鈴木郁洋を見付け、攻撃したのだから。
こちらの武器はコルトパイソン357マグナム。
完全な不意打ちで、銃弾は間違いなく鈴木の背中を抉るはずだった。
…鈴木が防弾チョッキを身に着けてさえいなければ。
そして神野の足はへし折られた。追ってこられないようにと。
勿論、銃はバッグごと持ち去られ、もうここには無い。
それから五分も経たぬ内に、西区が立ち入り禁止になるとの予告があったのだ。
そろそろ二時間経つ頃だろう。
ああ、生きて帰りたかった。
家には妻と、幼い三つ子が待っている。せめてもう一度抱きしめたかったのに。
悲しいほど美しい景色の中、神野は自分の首輪が発する電子音を聞いた。最後通牒だ。
「ごめんな」
画面の向こうにいるであろう家族たちに、神野は囁いた。
この緑地を血で汚してしまうのは残念だが、自分はここまでらしい。
【残り29人】

333 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/21 12:04 ID:Ykvvcy6G

57 合流

久慈は大きく伸びをした。
名古屋の広さを実感する。歩いても歩いても関川には会えない。
(他にいそうな場所は・・・)
誰かいるだろうと思って鶴舞公園にも行ってみた。
そこで見つけたのは狂いかけの井端。その井端をなんとか救い出して、久慈はまたこうして関川を探して歩き出した。
久慈は知らなかった。
自分のいるその場所から公園をほんの半周もしないところに関川が遠藤とともにいることを。
(栄にでも行ってみるかなぁ・・・)
当てがないのだから人が来そうなところを探すしかない。
もちろんそれは既に殺人鬼に化しているチームメイトに出くわす危険もあるのだが。
そんな久慈の目の前に突然飛び出してきたものがあった。
「セキさん!? ・・・蔵本か・・・」
痩身・髭面が関川に重なる蔵本が目の前に立っていた。
蔵本の手には柳沢から奪ったサブマシンガンがあった。
その銃口が静かに自分に向けられて、久慈はゆっくりと息を吐いた。
自分の武器・デリンジャーはバッグの底にしまったままだ。
すぐに出せれば威嚇にくらいは使えたかもしれない。
でもどちらにしろ蔵本のマシンガンの前には、逃げるすべはない。
蔵本は何も言わずに銃口を向けている。殺す気なのだ。
命乞いなど何にもならないだろう。
関川に会えずに死ぬのは心残りだが、仕方がない。
久慈はもう一度深く息を吐いて目を閉じた。
(マシンガンで蜂の巣なら、苦しまずに死ねるかな)
久慈はそんなことを思っていた。
「ぐあっ・・・!」
叫び声をあげたのは蔵本の方だった。
久慈は目を開けた。蔵本が顔を抑えて足元に転がっていた。
その傍にまだ揺れながら落ちているのは、フリスビー。

334 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/21 12:05 ID:Ykvvcy6G

「テル!」
「セキさん!!!」
久慈は振り返った目に関川の姿を認めて、嬉しそうに顔をゆがめた。
関川は遠藤に荷物を預けて久慈に駆け寄った。
倒れている蔵本に遠藤から預かった銃を向けて威嚇しながら関川は久慈の肩に手を置いた。
「よかった。探してたんだぞ」
「そりゃこっちもですよ。セキさんが暴走してないか心配で」
言葉を交わし、笑みを浮かべた2人の足元で蔵本が体を反転させた。
「あっ」
足を掴まれて久慈はビクッと体を震わせた。
瞬間、関川は引き金にかけていた指に力を込めた。
「ヒィ・・・ッ」
蔵本の手が久慈から離れた。その腕の付け根に血がほとばしっていた。
「た・・・助けてくれ。俺は、俺はただあいつらに言われて。俺だって・・・」
ピピピピピ・・・
蔵本の首輪が警告音をたて始めた。
あの脅しを口にしかけた蔵本の口封じにあいつらが装置を作動させ始めたのだ。
関川はとっさに久慈の腕をひいて離れた。
背後で軽い爆発音がした。

【残り28人】

337 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/21 15:30 ID:WyDjpfQv

58 光芒

さてと、この辺りか。
山北は道路脇に自動車を停め、辺りの様子を窺いながら外に出た。
どうやら周囲は無人だ。車内で折り畳んでいた体を思い切り伸ばす。
全くこういう時はひょろ長い手足が恨めしい。
名大病院からこの港区と熱田区の境目辺りまで移動するのに、
山北は福留達が乗ってきた自動車を使っていた。
目立つのは解っていたが、ともかく山本が誰かに殺されてしまう前に会わなければと、
それだけずっと思ってここまで来たのだ。
もう車は必要ない。
二時間前に山本がガーデン埠頭にいたことを考えると、
真っ直ぐ歩いていればこんな辺りか、もう少し北か。
まあ、何しろ山本は携帯テレビを持っているのだ。
恐らく自分が車で移動している姿も見ていただろうから、向こうから来てくれるだろう。
「山北」
そう、こんな具合に。山北は声のした方に顔を向けた。
道路の向こう側、丁度山北の死角になっていた建物の陰から山本が姿を現す。
左手に握り締めているのは、長身に似合わぬ小さなリボルバー。
予備が無いのなら、弾はあと二発のはずだ。
「…山本さん」
自分の口元が笑っている。
嬉しいわけではない。楽しいわけでもないのに。
「動くな」
「わかってますよ」
辺りを見回しながら、ゆっくりと山本が道路を横断する。
その様子が、まるで自動車が来ないかどうか窺いながら道路を渡る子供の様でおかしかった。
「何がおかしい」
「いいえ、何も」
あなたの姿ですよ、と言うのを堪えるとまた口元が緩む。
道路を渡りきった山本が露骨に顔を顰めた。
「死ぬのが恐くないのか…」
言いながら間近で見上げてくるその顔は、明らかに疲弊していた。
「恐いですけど」
胸に銃口が押しつけられる。
「そうは見えないな」
「知ってるんでしょう。あなたにだったら殺されてもいい」

338 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/21 15:32 ID:WyDjpfQv

口説き文句のような気障な台詞が、するりと喉を通って出てきた。
自分の馬鹿さ加減に呆れる。同時に、わけも解らず涙が溢れた。
「俺はお前が思ってるほど立派な人間じゃない。
この期に及んでもそれが解らないのか。俺は人殺しだ」
「…俺はただ、山本さんの手助けがしたいだけです。
左腕を全員殺すのがあなたの目的なら…それに殉じますよ。
山本さんは、いい人だから」
沢村賞、最多勝、最多奪三振、最優秀防御率…あらゆるタイトルをその手にしてきた山本。
それなのに全く傲らず、自分にも笑顔で接してくれるのが嬉しかった。
「いい人?違う…俺は…」
「喩え山本さんの優しさが全部ニセモノだったのだとしても、俺は嬉しかったんです。
今でも、山本さんを尊敬してます」
涙が顎を伝い、乾いたアスファルトの上に落ちた。
「お前は馬鹿な奴だ」
「ええ」
山本が銃を握り直す気配がした。いよいよらしい。流石に鼓動が早くなってきた。くらくらする。
「最後に教えて下さい、山本さん。
俺が右腕か野手だったら…嫌いにならないでいてくれましたか」
山本は小笠原に言っていた。お前が左腕でなければ嫌いじゃなかった、と。
「ああ」
「…良かった」
激しい衝撃が、胸のみならず全身に走った。
山北にとって山本は目標とすべき星だった。
その輝きが永遠に失われないことを、四散していく意識の中で願う。
俺の死があの星の、ほんの一片にでもなれればいい。ほんの一輝きにでもなれればいい。
【残り27人】

340 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/21 16:05 ID:K/5OdGLi

59 悪夢の果てに

足元にうずくまる波留-。谷繁は冷ややかにそれを見つめていた。
首から、胸から大量の血を流し、苦しみもだえる彼の哀れな姿に、谷繁は恍惚の笑みを浮かべる。

苦しめ。お前みたいなお調子もんなだけの役立たずは、生きてる価値なんかねぇんだよ。

足元の波留は、小さくなり、がたがたと両肩を震わせていた。

-へぇ、人間確実に死ぬとわかってる時でも、まだ死にたくないなんて思うもんなんだな。
どれ、命乞いのひとつでもきいてやるか。

谷繁は、薄笑いを浮かべ、波留の顔をのぞきこんだ。
が、次の瞬間谷繁の勝ち誇った顔は、驚愕の表情へ変わった。

波留の顔は、笑っていた。

波留は、俯いた姿勢のまま、ぎょろりとした瞳だけを、谷繁に向け、口を開いた。

「あいかわらずやの、シゲ。そやって自分の気にいらんもんを全部蹴散らしてきたん…?」

なっ、なんだこいつ、息もたえだえだったはずなのに…。

おののく谷繁をよそに、波留は言葉を続けた。

「お前はいつだって自分本位やったなあ。4年前、日本一になると、アホなマスコミは、ホイホイお前を褒めそやした。単純なお前はどんどん勘違いしていった。」

341 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/21 16:08 ID:K/5OdGLi

「何がいいたいんだよ…」

波留は血に赤くそまった歯を見せてニッ、と笑うと、再び話し始めた。

「だけど、監督が代わると、怖いもん知らずのお前もさすがに壁にぶつかった。
減点方式の森は、投手が打たれると、必ずお前に責任を追求した。」

言葉も発する事も叶わなかったはずの波留の口調が、どんどん強くなってくる。
谷繁の心の闇を、すべて晒してやるかのように。

「自信家のお前は、それが気にいらんかった。
思うようにならん投手連中を、次々どなりつけ、当たり散らし、萎縮させていった」

「うるさい!!」
谷繁は、波留の額を蹴り付けていた。波留の小柄な体はふっとび、地面に叩きつけられた。
しかし、波留は、小さく笑い声をたてただけで、まったくこたえていないようだ。
ゆっくり体を起こすと、谷繁に向かって一歩、二歩歩みよってきた。
歩くたびに、傷口から鮮血をどくどくと垂れ流しつつ-

嘲りに満ちた暗い瞳をこちらに向け、波留は言葉を重ねた。

「そうこうしとるうちに、投手たちの心はお前から離れていった。
FA移籍でお前が出てく時、俺はてっきり誰かが引き留めるやろと思うたわ。
けど、だーれもおらんかったなあ。
さみしい男やのう、シゲ!
中村さんなんか、出てく時にみんな泣きよったで。行かないで~ってな。えらい違いやなあ。同情するわ」

中村-その名前に谷繁は思わず反応した。
大して打てもせず、リードもセオリー通りというだけ。
丈夫な体と、根性だけがとりえの、地味なあの男が、なぜあんなに投手の心をつかんでいるのだろう。
どう考えても、投手自身の力で勝ったような試合でも、野口をはじめ中日投手陣はこう繰り返す。
「中村さんの、お陰です」

気にいらなかった。
あんなたいしたことのないやつが、なんで-

「なぁ、シゲ」

波留の声に、谷繁ははっと我にかえった。
いつの間にか波留の血だらけの腕は、谷繁の肩に絡みついていた。

「投手の信頼無くしたキャッチャーなんか、ただのお荷物やで。だからこそフロントも、チームメイトも、お前んこと引きとめんかったんや」

そして、谷繁の耳もとでねっとりと囁いた。

「なんもできんのは、お前かて、一緒や」

342 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/21 16:09 ID:K/5OdGLi

「離せーッ!!」

波留の腕をふりほどこうとし、谷繁はハッと目をさました。
高速道路下の、ホームレスが置いていったテントの中。
谷繁はここで仮眠をとっていた。

こんな夢みるなんて、俺もどうかしてるぜ。

俺はいつだって正しい。俺には才能がある。
そう自負があるからこそ、長年正捕手をつとめた中村がチームをでた時も、彼は強気だった。
中日の投手が自己主張しないのは、中村の甘やかしによるものだと、記者相手にあからさまに強調してもみせた。

結局自分が優位にたつには、相手が攻撃してくる前に、自分から相手を叩くしかない。
殺られる前に殺る。これがプロなんだ。

夢の中での波留の言葉を振り払うかのように、谷繁は波留から奪ったサバイバルナイフを握りしめた-。


【残り27人】

344 名前: 書き手A 投稿日: 02/07/21 16:22 ID:IndEVtzE

アアン、ドメ達が使った自動車はガス欠になってましたね。
337の二行目の「自動車」は「救急車」に、
六行目を「山北は病院に放置されていた救急車を使っていた。」
に訂正です。

351 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/21 23:18 ID:L80+K3yB

60 リモートコントローラー

時刻は午後四時を回ろうとしていた。
15分間のニュースを放送している今の時間は本来ならば休憩になるところであったが、スタジオにはにわかに慌しい空気が流れていた。
何が起きようと知ったことか。
今中は極力平静を保とうとしていたが、歩み寄ってくるディレクターを避けるわけにもいかず、仕方なく耳を貸した。
「何者かが首輪のタイマーを停止したらしいんです」
男は告げた。指差された方向を見ると、確かにスタジオの壁に設置された二つのカウンタ…『全員の首輪爆破まであとXX:XX:XX』『無作為爆破まであとXX:XX:XX』の表示は『99:99:99』に切り替わっていた。
本部には厳重な警戒態勢を敷いている。しかし外部からメインサーバのデータへ不正アクセスが行われたらしく、現在制御不可能な状態となっているそうだ。
「まったく酷い損害ですよ…視聴者からの苦情の電話は鳴りっぱなしですし、復旧作業には丸一日かかると見ています」
それだけ言うと男は去った。ニュースの時間が終わったので、カメラはスタジオに切り替わる。
司会者は視聴者へのお詫びを告げ、現在状況を説明し始めた。
今中は興味なざげな顔をいまだ保っていたが、テーブルの下で両手を組んで祈った。
どうか少しでも生き長らえてほしいと。

352 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/21 23:18 ID:L80+K3yB

「えーー皆さん、システムエラーによって首輪のタイマーが止まってまーす。
残念ながら当分の間は爆発しませーん。一人も殺せなかった人にも少々余裕ができましたー。
明日には復旧しますので、せいぜいチャンスだと思って引き続き頑張るようにー」
NHKのヘリが去ると、中里は小さくガッツポーズを決めた。
前田が昇竜館に到着すると、中里は即座に指示を送り、村田館長の部屋に鎮座するサーバの設定を変更させ、外部からのtelnetアクセスを可能にした。
昇竜館サーバ経由で本部サーバに接続すると、手探りではあったがまず手始めに首輪の制御装置を停止し、先のアナウンスに至ったのである。
もちろん、接続成功と同時にrootのパスワードを変更してしまうあたり用意周到である。
朝倉と川上はもはや出る幕なしで、ネットサーフにも飽きてしまった様子だ。
しかしそんな二人に構っている余裕はない。中里はディレクトリ構成をひとつひとつ調べていた。
しかし。
『サーバから切断されました』
思いも寄らないメッセージに、中里は表情を凍らせた。

353 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/21 23:19 ID:L80+K3yB

61 父子鷹

---どうした?フリーズしたか?

停電です(>_<)いきなり落ちちゃいましたよ~!!

騒がしい日常とはうって変わって物音ひとつしない寮の館長室で孤軍奮闘していた前田は肩を落とした。自分が現在生き残っている選手たちの生命を左右しているという事実に疲労はかなりのものだった。

---仕方ない。復帰したら連絡してくれ

中里からの連絡はそれで途絶えた。重圧からようやく解放されたことで、前田はそのままマシンの前で横になった。窓から西日が差し込んでいる。
前田に全く過失はない。しかし彼の性格から、何も出来なくなってしまったことに罪悪感を感じざるを得なかった。
ギシッ。
何かがきしむ音が、耳に入った。
飛び起きる。
誰か、いる。確実に。
辺りを見回した。目に入ったのは、消火器。
安全ピンを外して構える。
ギシッ。ギシッ。ギシッ。
鼓動が早くなる。
大丈夫、大丈夫、選手は皆、仲間なんだ。
大丈夫………
ガラッ。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ドアが開くと同時に、前田はレバーを引いた。
一面、真っ白になる。
もくもくと立ち上る粉末が落ち着いたとき、そこに姿を現したのは、頭から粉をかぶった、真っ白な紀藤の姿であった。
「………あ、おとうさん!」
「ぶほ、なんだ、章宏か。ぶほ!ぶほっ…お前の部屋で昼寝させてもらってたぞ。あーあ、こんなにしちゃって」
安堵によって脱力した前田は床に膝を付いた。表情は、笑っていた。目の前でむせている『父親』も、笑っていた。

354 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/21 23:44 ID:Xx2WwZbt

62 最後の標的

小笠原を殺した。井本は山崎に殺された。
野口は自殺した。岩瀬も。そしてつい数時間前、山北を殺した。
もう、この中日に残った左腕投手は俺だけだ。
食料を求めて侵入した中京病院、その旧病棟の屋上で、
山本は薄暗くなっていく空を眺めていた。
西の空に濃い雲が固まっている。
明日は悪天候になりそうだ。
手にした拳銃には、あと一つだけ銃弾が残っている。
見てるんだろう?今中。
気付いてるんだろう?今中。
「殺してやる」
右手に持った携帯テレビの画面に向かって、呟く。
スタジオの今中は表情を変えない。
画面が切り替わり、古い建物の屋上に建つ自分の姿が映し出された。
近くの建物にカメラが仕掛けられているらしい。
もしかしたら新病棟のどこかかも知れないが、どうでも良かった。
「ここに来い。誰を連れてきてもいい」
お前が憎い。何の努力もせずエースの称号を得たお前が憎い。
俺の最後の標的はお前だ。
お前を殺したら、もう死んでもいい。
これは賭けだ…今中は来ないかも知れない。いや、まず来ないだろう。
或いは、今中が来たと見せかけ、機関銃あたりを持ったスタッフに
蜂の巣にされるということも考えられる。
しかし、もう後には退けない。退くわけにはいかない。
可愛い後輩たちの骸の上に、俺は立っているのだ。
【残り27人】

357 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/22 15:51 ID:ZJSjs28a

63 ある思い

鶴舞公園を後にし、福留と荒木は線路沿いを南下していた。
「なぁ、俺たちは最後まで生き残れると思うか」
荒木がしばしの沈黙を破り言った。
井端に一緒に行けないと言われた時はショックで荒れて、その後は福留の問いかけに対しても答えることはなかったのだ。
福留はあきらめ2人は黙ったまま移動していたのであった。
「どうだろうな」
福留は足を止め、続けた。
「でも俺はチームメイトを殺すなんて無理だ。チームメイトを殺してまで優勝したいなんて思わないよ」
「どんな状況でも殺すのは無理ってわけか」
荒木は何とか元気になったらしい。
「じゃあ、お前は最後に自分と井端さんが残ったとしたら井端さんを殺せるのか?」
「それは・・・」
荒木は言葉が出なかった。
「無理だろ?俺だって最後にお前や立浪さんと残って決着をつけろと言われても無理だ。だからといって、山北みたいにこの人に殺されてもいいなんて思わない。
「じゃあどうするんだよ?」
バッグを椅子代わりにして座ってる福留は真っ直ぐ前を向き言った。
「この名古屋から脱出しようと思うんだ」
荒木は驚いた顔をして福留を見た。
「できるのか?」
「さぁ・・・」
「『さぁ』って・・・。だって俺たちこれのせいで逃げも隠れも出来ないんだぞ」
荒木はこれ・・・首輪を指差した。福留の首にも巻かれているこの首輪。
「それにドームにだって近づけないうえに名古屋の外に出ることも出来ない」
「でもこの首輪さえ何とかすれば・・・」
「何とかって?この首輪のロックを解除するってことか?機械関係に全く無知な俺たちがこの首輪を変にいじってみろ?俺たちの命は一瞬にしてなくなる」
荒木は少しいらついていた。
「なぁ孝介、出来もしないことそう簡単に言うなよ。脱出するっていうからには何か方法があるのかと思ってたのによ」
「ごめん・・・でも荒木、俺は本当に脱出したいんだ。誰も殺すことなくみんなで。きっと方法はあるはずだから・・・」
福留はうつむきながら言う。

358 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/22 15:52 ID:ZJSjs28a

荒木はふぅーとため息をつき、自分のバッグを福留が椅子代わりにしているバッグの隣に置き、自分も座った。
「わかったよ。俺も手伝うよ。その方法を探すのを」
このゲームから逃げる方法はきっとあるはず。このプログラムには大きな穴があるはず。そして今は結論の出ない話だけれどもいつか出ると信じたい。
「山田監督はどうしたのだろう・・・」
荒木はふと思い出したように言う。
そういえば・・・山北の話ではゲームに参加していない他のチームメイトは三重県へ移動したという。でも監督や佐々木コーチの話は出てこなかった。
どこにいるのだろうか。
ドームの中からこの殺し合いゲームを見ているのだろうか。

【残り27人】

359 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/22 15:52 ID:ZJSjs28a

64 最悪の出会い

「なんだって!?」
福留と荒木は本部からのアナウンスを聞いてほぼ同時に立ち上がった。
「俺たち脱出できるんじゃないのか?」
荒木は興奮気味に言う。
「でも1日たったら復旧するんだぞ?俺たちが名古屋の外へ出たってバレたらそこで終わりだぞ?」
「それまでにこの首輪を壊せばいいんだよ。」
確かに。今だったらこの首輪を壊したって自分たちに何の危害もない。
「みんなを集めよう」
福留は肩にバッグをかけ、行く準備をしている。
「みんなだって別々に逃げるって。行くぞ」
荒木もバッグを持って、2人は歩いていった。
中央本線沿いを歩き、金山駅からは国道沿いを南下していった。
今は駅から500メートルくらいだろうか。このまま行けば南区へ行きそのまま名古屋市から出られる。
荒木は脱出できることがうれしいのだろう、足取りが軽い。
しかし福留は不安に思っていた。
そう簡単に脱出なんて出来るものなのだろうか。殺し合いのためのこのゲーム、こんなにもあっけなく終わるのか。
福留は前方を歩いている荒木を見ると、荒木が動かずに止まっているのが見えた。
「荒木?」
走って荒木のもとへ行ってみるとそこには妙な光景が見えた。
「山崎さん・・・」
それはただ立ったままの山崎と血まみれになり倒れているスコット=ブレットの姿があった。
「ち、違うんだ!!」
山崎は2人の方へ近寄ってくる。
「違うんだ。あいつがいきなり襲ってきたんだ。殺されると思ったから必死に抵抗して・・・」
「抵抗して銃を奪って殺したんですね」
「そうだ。本当に殺されそうだったよ」
やけに淡々と話す。本当に殺されそうだったのか。
「山崎さんはさっきの放送を聞いたのですか?」
「聞いたよ。もちろん逃げるつもりだ。で、その前にいきなりこいつが襲ってきたんだ」
偉そうな話し方。彼から全く今までの恐怖などが感じられなかった。
荒木も不信そうな目で山崎を見ている。

360 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/22 15:54 ID:ZJSjs28a

でも井本さんを・・・
「でも井本さんを殺したでしょう?」
福留が思っていたことを荒木は口にして言った。
福留はちょっぴり驚いた。
「あれだってあいつがいきなり背後から・・・」
「正当防衛ってやつですね」
2回とも正当防衛だって?いかにも嘘くさい話である。
福留はブレットの死体を見た。ユニホームの胸の辺りが真っ赤に染まっている。
もっと近寄って見てみると胸に1箇所だけ大きな穴が開いていて、そこから血が出ている。胸に一発撃たれたらしい。
襲われそうになった相手から銃を奪いその銃を相手に向けて撃った時、こんなに正確に胸に撃てるのだろうか。しかも一発で致命傷となっている。
山崎は嘘をついているのではないか。
「うわっ」
後方から荒木の叫び声がした。
振り返ると山崎が荒木を人質にとっていた。
右手に握られた日本刀らしきものの刃が荒木の首にぴったりくっついている。
「荒木!!・・・・・・あんた何考えてるんだよ!」
「ふっ・・・俺はお前らを殺してから逃げるとするよ。これで俺は井本、ブレット、孝介、荒木と4人殺したことになるのか。すごいな、俺ふふふ」
やっぱりコイツが井本さんもブレットも殺したのか。
「俺はお前らが大嫌いなんだよ。若いからって周りからチヤホヤされて、エラーしようが何しようが大目に見てくれる。ふっ、まぁ、お前ら以上に俺は立浪が嫌いだけどな。
あいつも荒木、お前が大嫌いらしいな。うれしくないけどあいつと一致してやがる。あーひゃっひゃっひゃっ」
山崎は狂っていた。福留に対し開かれた目は赤く、狂犬病にかかった犬のようだった。
荒木は立浪に続いて山崎にもというチームの先輩2人に嫌われていたということがショックでうつむいている。
「荒木を離せよ」
「くっくっくっやだね~~ん」
怒りでどうにかなりそうだった。しかしここは冷静になりつつ言った。
「山崎さん、逃げたほうがいいんじゃないですか?早くしないと首輪が元通りになってしまいますよ」

361 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/22 15:55 ID:ZJSjs28a

山崎はふっと鼻で笑い言った。
「お前さぁ、本当にバカだな。本当にここから逃げられると思ってるワケ?誰かが本部のコンピューターに入って、この首輪を破壊したとしてもよぉ、そんな復旧に1日もかかると思うか?その手のエキスパートに頼めばほんの1,2時間で元通りになるさ。
1日かかるんだと信じるバカは逃げてる途中でバーンって首が吹っ飛ぶのさ。しかしまぁ、このゲームの誰かだと思うが勝手に侵入した奴もバカだよ。見つかったらどうなるのかわかっているのか?本部からすれば自分がやりましたって言ってるもんだよ」
福留も荒木も驚いている。山崎はやけに的確なことを言っている。
狂ってはいないのか。
「俺たちはこのゲームから逃げる逃れられないんだぜひゃーひゃひゃっひゃっ」
やっぱり狂っていた。
「なぁ孝介、お前の銃貸せよ」
「持っていませんよ、銃なんて」
「嘘を言え!!ふっ俺は知ってるんだよ。お前が蔵本に向けて銃を構えていたのをな!」
ちっ、テレビを見ていたのか。
刃は相変わらず荒木の首にぴったりとくっついている。山崎が少しでもずらしたりでもしたら、そこから大量の血が水しぶきのように出るだろう。
福留はバッグの奥から銃を出し、構えた。
「あひゃ、俺を殺すのか?しかし、お前みたいなヘタレが撃ったって荒木に当たるだけだぞひゃーひゃっひゃっひゃっ」
落ち着け落ち着け。怒りで血が頭に上っている自分に言い聞かせる。
―――チームメイトを殺すなんて無理だ
さっき言ったばかりだった。しかし、このまま山崎に銃を渡せば2人とも殺されてしまう。
「さすがアマちゃん、撃てるものなら撃ってみろや」
プチンと福留の頭の中の何かが切れた。
その時だった。
一瞬のすきをつき、荒木が山崎から離れた。
「うああああああああああ!!!」
福留は引き金を引いたのだった。
パンッ
山崎の額のほぼ中心に小さな点ができ、そのまま後ろへ倒れていった。

【残り25人】

371 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/22 23:42 ID:IWcVlRLd

65 命拾い

『一人も殺せなかった人にも少々余裕ができましたー』
さっきの古田の放送はなんだったのだろう。
井端は空を振り仰いだ。
青い青い空が広がっている。
狂気の中で井端は先の放送を聞いていなかった。
72時間以内に1人も殺せなかった者の中から抽選で1名の首輪が爆発する、というあの放送を。
井端は何をするべきか考えながら、ただ足を中日ドラゴンズ本社のある中日ビルへ向けていた。
当てがあるわけではなかったが、何かある、と思っていた。
「井端さん」
不意に後ろから声が掛かった。
「フミ・・・か?」
井端は振り向かなかった。振り向く必要はなかった。
背中に当てられているのは多分、銃口。
「なんで俺を殺す?」
井端の声は冷静だった。
鈴木は井端の背に神野から奪ったコルトを突きつけていた。
「・・・死にたくないんです」
「そうか」
井端は静かに息を吐いた。
「逃げないんですか?」
鈴木は尋ねた。普通ならば逃げる。命乞いの一つもするはずだ。
「銃を押し付けられて逃げられる余裕があるか。俺がちょっとでも動けば引き金を引くんだろう」
「・・・・・・」
鈴木は答える代わりに更に銃を押し付けた。
ゴリッとした硬い嫌な感触が背中に伝わって、井端は少し前にのめりそうになった。
「引けよ。さっさと殺したらどうだ?」
井端はそう促した。
鈴木は引き金にかけた指が震えるのを感じた。
このコルトは神野から奪ったものだ。でも神野を殺したわけじゃない。
ただ足をへし折って放ってきただけだ。
しかしその後に神野を置いてきた西区は立ち入り禁止区域になった。
動けない神野はきっともう首輪が爆発して・・・。
・・・結果的に殺した・・・。
そして今自分は生き残るために井端に銃を向けている。
死にたくないから殺す。
でも・・・。

372 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/22 23:43 ID:IWcVlRLd

少し心をざわめかせた鈴木の隙を井端は見逃さなかった。
一瞬を衝いて井端は体を沈ませた。
鈴木の足を払い、倒れた鈴木の上に馬乗りになった。
「わああああああっ」
鈴木は怯えたように井端に銃を向けた。
しかし動揺したその手は照準を定めることは出来なかった。
大きな反動とともに放たれた弾は井端の顔の横を通り過ぎた。
井端は頬に熱さだけを感じた。
「・・・・・」
再び井端に向けたコルトが火を吹く前に、井端のナイフが鈴木の細い首を撫でた。
2度目の銃弾は虚空に飛んだ。
鈴木の首から生暖かい血が噴きだすのを、井端は黙って見つめていた。
人を殺すのはなんて簡単なんだろう、そう思っていた。
鈴木だってためらわず、自分と言葉を交わさずに、引き金を引けばいいだけだったのだ。
それだけで自分は死んだはずだ。
でも鈴木はわざわざ声をかけた。
言葉を交わした。
死にたくないから殺す、そんな理由で普通の人間がためらいもせずに人を、ついこの間まで仲良くしていた人を殺せるわけがないのだ。
言葉を交わすことによって救われたかったのだ。
黙って殺せるほど冷酷になんかなれなかったのだ。
だからこそ、自分は生き残った。
鈴木が冷酷な殺人マシーンになれなかったから、生き残れたのだ。
本当は鈴木を殺したくはなかった。誰も殺したくはなかった。
しかし背中に銃を押し当てられた時から、殺し合わずに別れることはできないと覚悟していた。
井端は立ち上がった。
鈴木はもう動かない。
井端は再び空を振り仰いだ。

高みの見物をしている奴らにこの苦しみが分かるか。
今のを中継で見て喜んでいる奴らに。
ただのエンターテイメントとして笑っている奴らに。

井端は鈴木にしばしの黙祷を捧げた。
そして鈴木の手からコルトを外して携帯すると井端は再び歩き始めた。
鈴木を殺したことが、72時間後(もう少し猶予は減っているだろうが)の無作為爆破から井端を救ったことなど知ることもなく・・・。

【残り24人】

373 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/22 23:50 ID:vJUKAsJf

66 暗雲

「あ…」
ガバメントを取り落としそうになり、福留は漸く全身が震えていることに気付いた。
慌てて握り締める。落として暴発でもしたら大変だ。
――大変?
――人殺しが命を惜しむのか?
「あ…あ、そうだ、俺、山崎さんを…山崎さんを」
息ができない。目の前に横たわるのは山崎の死体。
「殺したんだ…」
「孝介!」
ふ、と足から力が抜け、福留はその場に尻餅をついた。
力の入らない手で、バッグの底に銃をしまい込む。
もうあんな物見たくない。二度と。
「孝介、しっかりしろ…」
荒木が駆け寄ってきた。どうやら怪我は無いようだ。
しかし、福留の心が安らぐことは無かった。
「…荒木、俺、山崎さんを殺した」
「俺を助けてくれたじゃないか」
「でも…人殺しだ」
恐ろしい。遂に人を殺してしまった。
つい先ほどまで自分は、人を殺すまいと思っていた。
チームメイトを殺す事などできないと、間違いなく思っていたはずだった。
それがどうだ。この現実は。
心のどこかで冷静な自分が囁いた。
――そらみろ、お前だって山崎と同じだ。
――何だかんだと理由を付けて人を殺したがっているんだ。
――この偽善者め。

374 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/22 23:52 ID:vJUKAsJf

荒木が、ブレットの遺品らしき銃と山崎の持っていた日本刀を持ってきた。
「ほら。お前、銃はもう持ってるから、これを使えよ。こっちの銃は俺が持つ」
そう言って、鞘に収まった刀を福留の眼前に突き出してくる。
「嫌だ…武器なんてもう見たくない」
「馬鹿、寝惚けるなよ。身を守る為にも武器は多い方がいいだろ」
「嫌だ、こんなの触ったらまた人を殺すかもしれない!
見ただろ、俺だって結局人殺しなんだ!
いざとなったら戸惑いもせず人を殺せるんだよ!
もしかしたらお前も殺すかもしれない…!」
一息に叫ぶと、福留は肩で息をしながら絶望的な気分で荒木を見上げた。
もう駄目だ。自分など死んだ方がいいのだ。こんな大嘘つきは。
「もう俺のことなんて…ほっといてくれよ…」
「孝介ッ」
左の頬に鈍い痛みが走る。
荒木に殴られたのだと、一瞬してから理解した。
「甘ったれはどっちだよ、この野郎…」
「…いてぇ」
「立てよ。お前が何を言おうと、俺にとってお前は命の恩人だ。
こんな所で死なせないからな、絶対に」
荒木に無理やり腕を引かれ、福留は不承不承立ち上がった。
「解ったらこれを持て。バッグに入れておくだけでいい」
無理やり刀をバッグに押し込まれる。
抵抗する気力も無く、福留はその様子を見ていた。
「もし誰かがお前を人殺しだって言ったら、俺が庇ってやるから。な」
「…ああ…」
西の上空を広く雲が覆い始めている。
福留の心は未だ暗い淵に沈み、全身をだるさが包み込んでいた。
【残り24人】

382 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/23 22:25 ID:dgYw6QeD

67 悪魔来たる

灰色がかった雲が空全体を覆っている。
これから雨でも降るのだろうか。
森野は見上げてそう思った。
つい先ほど目が覚めたばかりの森野は落合が作ってくれた料理(これがまたすごくおいしいものらしい)を食べ、少し外の空気を吸いたいということで今、熱田神宮敷地内の歩道を散歩している。
森野が外へ出たいと言うと落合はもちろん反対した。
それでもどうしても出たいと言ったら神宮敷地内だったらということで許してもらった。
森野がわがまま言って外へ出たかったのはただ外の空気を思いっきり吸いたかっただけなのである。
ふぅーーーーーー
森野は深呼吸した。
しばらく寝ていたので外の空気を肌で感じるのはすごく久しぶりのように感じた。
売店の中で今まで落合、正津、小山といた。3人は投手で野手の森野とはそこまで交流はなかったのだが、ケガ人の森野にとても親切にしてくれたのだ。
―――本当にありがとう
森野は心の中で感謝した。
そして空を見上げ、雲をじっと見ていた。
「・・・っ」
左太ももが痛む。立浪にやられた太ももが。
森野の中に恐怖がぶり返した。
そして立浪の自分に対して向けられた憎悪でいっぱいのあの顔が頭によぎった。
また立浪さんに会ったらどうしよう。
ぞくっと冷たいものが背筋を通る。
いよいよ心拍数は高くなっていく。
いや、大丈夫、大丈夫だ。現れるわけがない。
いきなり襲ってきた恐怖で狂いそうだった。
震えが止まらない。顔も汗だらけである。
殺される!落合さん助けて!殺されたくない!!
はぁはぁ。呼吸も荒くなっていく。
「よぉ」
背後から声がした。
ビクッ、心臓が飛び跳ねそうだった。
そして森野が振り返る間もなくその声をかけた人物は森野の口元を手で押さえ、首にナイフを突きつけた。
「・うう・・・」

383 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/23 22:26 ID:dgYw6QeD

「動いたら殺すぞ」
その男は耳元で囁いた。
その声はどこかで聞いたことがある。
あまりの恐怖でおかしくなってしまっている森野ははっと一瞬正気に戻った。
ま、まさか・・・・・
さらなる恐怖が襲った。
汗でアンダーシャツは背中とぴったり密着している。
パラパラと雨が降ってきた。
男はふっと鼻で笑い、森野の口元を押さえている左手でそのまま後方へ押し、倒れた森野の上に馬乗りになった。
「た、立浪さん・・・」
立浪の冷え切った目が森野を見下ろしている。
立浪を見る森野の目は涙で溢れている。
死にたくない、助けて・・・
前にもこんなことがあった。あの時は落合が助けてくれた。だが今は落合はいない。落合のいる売店とは少し距離が離れている。
「ううっ!!」
立浪は両手で森野の首を絞めた。
全身の毛穴が開き、冷たい汗みたいなものが吹き出してくる。
・・・た・・すけ・・て・・・・・くるし・・・い・・・・・
立浪は相変わらず冷たい目で森野を見ている。
目がかすみ、音も聞こえなくなってきた。
・・・お・・ちあい・・・さん・・
やがて意識が遠のいていった。
立浪は森野が全く動かなくなるのを確認すると、先ほどのナイフを森野の胸めがけて思いっきり刺した。そしてもう一度。
雨は激しくなってきた。
何度も何度も刺す。力任せにメッタ刺しにした。
気がつけば立浪のユニホームは森野の血で赤く染まっていた。
雨は降っているがユニホームの血はとれない・・・
ようやく立浪は立ち上がり、近くに置いてあった自分のバッグを持ち熱田神宮を後にした。
ザーザーと降る雨の中、立浪は小さな声でつぶやく。
「荒木はどこだ・・・」

【残り23人】

384 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/23 22:40 ID:MgrOZVSN

68 劇場開幕

…誰か来るな…
気配を感じ、谷繁は咄嗟に手近の建物の陰に隠れた。
耳をすますと、足音が聞こえた。
そっと足音の主を確かめると、そこには右手に拳銃を持ったギャラードの姿があった。
こちらに気づいた様子はない。まだ、距離がある。
相手は銃。不意を付くより他にない。
波留の血に濡れたナイフを握りしめる。
もっと近くへ来い。もっとだ…。
足音が少しずつ、大きくなる。
同時に、自分の鼓動も少しずつ大きくなる。
ちっ、こんな所で緊張するとは…オレもまだまだだな…
心の中でそう呟く。
ほとんど無抵抗だった波留よりも手強い相手であることは間違いない。
失敗すれば、自分が殺られる。
足音がすぐそこに聞こえた。
よし、今だ。

「ホールドアップ、シゲ」
背後から外国人の声がした。
同時に、頭に冷たい鉄の塊を押し付けられた感触が。
「…ゴメス…お前ら、グルだったのか…」
「ホールド、アップ、シゲ」
ゴメスはゆっくりと同じ言葉を繰り返した。
…谷繁はサバイバルナイフを投げ捨てた。
「はいはい、分かりましたよっと!」
振り向きざま、ポケットから果物ナイフを抜き、切り掛かった。
が、手首をゴメスに掴まれ、そのまま後ろ手にひねりあげられる。
「ぐあっ…」
降参しても、殺される。となれば、一か八かに賭ける他ない。
だが、その博打も失敗したようだ。…くそ、ここでゲームオーバーか…
ガチャッ。
谷繁の目の前に無線機らしきものが落とされた。
「ギャラ?」
見上げるとギャラードがその物体を指差し、その後、自分の耳を指差した。
同時にゴメスも手を離す。
「…これを付けろ…ということか?」
訝しがりながらイヤホンを耳にあて、無線の電源を入れる。
「おお、シゲ、久しぶりやのぉ」
ナゴヤドームでも聞いた、そして今朝も聞いた、憎々しい声が聞こえて来た。
「古田っ…おまえ…!」
「怒っとるんか?はは、まぁそやろな。ところでな、お前に頼みがあるんや」
「頼み…だと?」

385 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/23 22:42 ID:MgrOZVSN

古田の頼み。それは、このゲームを盛り上げる事。
そのために、無線の指示通りに動いてもらいたい、と言う事。
もちろん断る事はできない。
だが、他のメンバーの動向を把握したまま動けるとなれば、生き残る確率は高くなるだろう。
もっとも、古田をどこまで信じる事ができるのか、という問題はあるが…。
「どや、悪い話やないやろ?」
「…オレの命もお前の思うがまま、というわけか…」
「ま、そういうこっちゃ」
「…仕方ない、乗ってやるさ」
「ええ返事や。褒美に隠してある武器の場所も教えたるわ」
「用意周到だな」
「まぁ、そう褒めんでもええわ。じゃぁ、最初の指令や。な~んもせんと、うどん食うとった奴らがおるよってな」
…とことんやってやるさ。だが、これが終わったらお前を必ず殺す。ナンバーワンキャッチャーはオレだ。
「レッツゴー、シゲ」
ギャラードが声をかけた。いずれ裏切る事を約束された、とりあえずの仲間だ。
「分かった」
谷繁、ゴメス、ギャラードの3人は、動きだした。

【残り23人】

386 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/23 23:33 ID:FyoRs1hD

69 戦友

広島市民球場。
主力選手が集まり、ペナントレースに向けて最終調整を行っていた。
だが、いつものような覇気がない。
そこに鶴田の姿はない。誰が一番辛いのか。それは広島ナイン全員が知っていた。
だから、それを咎める者もいない。
「黒田、ちょっとタイム!」
金本はバッティングピッチャーとして投げていた黒田に声をかけると、ベンチに向かって走り出した。
練習開始時間から遅れてきた山本浩二監督の姿を見つけたのだ。
「監督、あのっ!」
それに気づいた選手達がベンチ前に集まる。
「監督、紀藤さんを助ける事はできないんですか!?」
その問いに、山本は俯いたまま応えない。
「…自分に出来る事だったら、何でも言って下さい。命と引き換えでも構いません」
そう絞り出すように言ったのは、前田だった。
取り囲む選手達も頷く。
「…お前ら…」
山本は顔を上げた。

387 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/23 23:34 ID:FyoRs1hD

「センイチ、広島に何しに来たんだ?」
「うん?やっぱりお前には会っておきたくてな、コージ」
それとも、迷惑だったか?そう聞かれて山本は首を振った。
オレとお前の仲じゃないか。何を遠慮する事がある。
「やっぱり、お前はそっちが似合うな」
「はは、タイガースは余り着とらんからな」
島野からの連絡を受けて行ったホテルの一室。そこにドラゴンズのユニフォームを着た星野がいた。
ついこの前まで監督をしていたチームが大変な時に、何をしているんだ?
そう思った時、星野が並々ならぬ決意を持っている事に気づいた。
…こいつ、死ぬつもりだな…
直感だった。が、それは間違っていないという確信があった。
「ブチには話してあるのか?」
「ああ。余計な事だったかもしれんが…年を取ると心配性になるんかな」
…年か。今まで気にした事もなかったが…
「それで、どうするんだ?」
「今回の事はウチの阿呆フロントの失態や。そのケツを拭かなアカンやろ」
「…そうか…」
「福岡まで行きたかったが…そろそろ戻らんとな。時間だ」
「…死ぬなよ」
自然と言葉が口をついて出た。
「…まぁ、頑張るわ」
そう言うと、星野は部屋を出て行った。

山本の表情はサングラスによって隠されていた。
その頬を涙が伝って落ちる。
そして、かつてミスター赤ヘルと呼ばれた男は言った。
「お前らの気持ちは受け取っておく。だが、この馬鹿馬鹿しいゲームを止めるのは、オレの戦友の仕事だ」

【残り23人】

389 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/24 01:30 ID:+JkDjw5e

70 戦線復帰

白い天井が視界に広がっている。山田久志中日ドラゴンズ監督は空に腕を上げてみた。指を曲げたり伸ばしたり。
よし、動ける。
医務室のベッドから上半身を起こし、彼は意識を取り戻すまでの出来事を回想した。
球団幹部からの突然の通達。
今まで育てたかわいい我が子達に殺し合いをさせるという事実。
怒鳴り込んで行った社長室で―――急に意識を失ったのであった。痛みを感じてユニホームのベルトを外すと、腹部が青く腫れている。
しかしこれくらい現役時代に当てた打球と大差ない。山田はドアを開け、勝手知ったるドームの通路を歩き始めた。

************
佐々木恭介は代用に急遽あつらえられたサーバマシンの前で大あくびをしていた。
メインサーバのデータはあろうことかDATテープにバックアップを取ったのみだったので、佐々木はその入れ換えを指示されていた。
一本推定6時間×3本。テープが最後まで回るのをじっと待つ。
何もしないのが仕事って…ドモホルンリンクルじゃないんだからよ。福留はまだ生きとるかな…
球団上層部の指示とはいえ、ようやく指導することができた『金の卵』を彼が案じずにいられないはずがなかった。
そのときドアが開いた。目の前に、眠っているはずの山田が姿を現した。
「監督なんでここに…うッ」
アンダースローの如き山田の腹部への一撃で佐々木の身体は崩れた。
「すまん」
佐々木からユニホームとサングラスを奪い取ると、それらを身に付け、山田は部屋を後にした。
************

396 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/24 18:53 ID:HMqAFTNA

71 逃れられぬ運命

中村は、迷った挙句に今日もまたテレビの電源を入れてしまっていた。
無論の事だが、チャンネルはNHKに合わせてある。
何故だろう。何故見てしまうのだろう。もう二度と見るまいと思ったはずなのだが。
もう夕刻だ。そろそろ、外は暗くなり始めている。名古屋は雨らしいが、皆どうしているのだろうか。
そうだ、俺がテレビをつけたのは元チームメイト達の事が気になるからだ。
決してこのプログラムを考えた奴らの思い通りになんて…
次第にはっきりとしてきた画面に真っ先に映し出されたのは、
古田が作り笑顔を顔全体に浮かべつつ原稿らしきものを読み上げている姿だった。
定例放送中、と画面の右下にテロップが出ている。
「はいはい、皆さんお元気ですかー。
五時になりましたんで死亡者の名前を放送しまーす。よう聴いて下さいよー。
今朝の九時から、これまでに死んだ人数は…えー、34人が23人になったんやから、11人か。
なかなかのペースですな。では、死んだ順番に読み上げますー」
何だって。中村は思わず目を見開いていた。
もうそんなに死んだのか。そんなに殺し合ったのか。
それは本当に自分が所属していたあの中日の話なのか。
あんなに皆、仲が良かったじゃないか。
眩暈がした。悪夢なら今すぐ覚めて欲しかったが、残念ながらやはり現実らしい。

397 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/24 18:54 ID:HMqAFTNA

「大豊さん、柳沢、岩瀬、バンチ。ここまでが朝に死んだ人です。
昼組は…神野、蔵本、山北、ブレット、山崎、鈴木、森野。と、これで11人ですね。
山崎選手が殺される瞬間は特にいい視聴率が出ましたー。いや、ありがたい事ですわ。
…ああ、それでは、ここでスタジオに届いた応援ファックスを読み上げます。
これ聴いて元気出して、またどんどん殺し合って下さいね。一通目は…」
駄目だ、やはり見たのは間違いだったのだ。とても耐えられない。
中村はテレビのリモコンを取ろうとし…そこでふと気付いた。
今中がスタジオにいない。確か「解説」とかで、一日中スタジオに座らされているような雰囲気だったが。
いや、休憩中という事も考えられる…そういう事にしておこう。
『今中解説員は現在ヘリコプターで横浜に向かっています』
画面にその字幕が表示されたのと、手元にあった携帯電話の着信メロディが鳴り響いたのは同時だった。
薄暗い部屋の中、光る液晶ディスプレイに、今中からの電話だという情報が表示されていた。
【残り23人】

400 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/24 23:14 ID:rNazFJxU

72 涙は雨に流れて


徐々に強まる雨と夕闇の中、カンテラを手に夜回りをしていた落合、正津、小山の一行は、つい先ほどまで彼らと歓談していた森野の凄惨な死体を発見し、身動きはおろか呼吸をすることさえも困難になっていた。
「俺のせいだ、俺が行かせたせいだ」
やっとの思いで声を絞り出した落合はじっと目を強く閉じたまま、こぶしを握り締めている。
「…こんなときまで、一人で背負い込まないで下さい」
正津がそっと肩に手をやる。
その後ろで一人、小山は初めて目の当たりにする現実により言い知れない恐怖に襲われていた。
横たわる森野の身体。はっきりと剥いたままの目、青黒く跡を残した首と、鮮血に染められた胸。
先刻まで生きていた人が、今は死んでいるという現実。
落合に止められたとはいえ、昨晩自分が犯そうとした罪が、たった今、別の人間の手によって犯されたという事実。
小山の流している涙は哀しみからではなかった。
哀しみを理解する前に、彼の身に降りかかってきたものは、『恐怖』だった。
自分が犯そうとした罪への恐怖。自分のすぐ近くに殺人犯がいたという恐怖。
怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。
落合が、森野の傍らにしゃがみこんだ。
せめてもの弔いに、瞼を閉じてやった。
すると、何か感触を得た落合は、森野の瞼に触れた手をまじまじと見つめる。
「…花粉だ」
「花粉?ですか?」
手についたのは花粉。もしかしたらそれは、犯人が残した手がかり。
「小山、お前園芸に詳しかったよな。分かるか?」
雨で匂いは薄れていたが、それでも小山は差し出された手の花粉を精一杯記憶と照合させる。
「………蘭、だと思います」
「蘭?」
「蘭…デンドロビウムかな…蘭…蘭……ランの…館に…いる?」
そう呟くや否や、小山は休憩所まで走り去った。落合達が止める声など耳に入るはずもなく。
そしてバッグを手にすると、すぐに部屋を飛び出した。
誰だ、俺にこんなに怖い思いをさせるのは。
誰だ、森野をあんな目に遭わせたのは。
俺が犯そうとした過ちへの報いなのか。
こんな現実、乗り越えてやる。
森野を殺した奴を殺して、乗り越えてやるんだ。
俺だって、誰かの役に立てるんだ。
小山の目には、もはや涙はなかった。恐怖を克服せんとする男には、涙など必要なかった。

404 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/25 12:36 ID:h6Hs+oRu

73 成長しない二人

激しく降りしきる雨の様子を荒木は窓から眺めていた。
山崎を銃で殺してしまった福留は激しく気落ちしていた。
お前は悪くないと何度も言い聞かせても福留は首を振る。
俺は人殺しだ、最悪だ、と。
そんな気落ちしている福留に荒木はかける言葉もなくなっていた。
そんな中、雨がパラパラと降ってきてあっという間にザーザーと激しく降り出したのだ。
とにかく雨宿りできそうな場所を求め、荒木は歩く気力もない福留引っ張ってここ金山駅まで来たのだった。
2人は駅内の事務室で雨宿りすることにした。
事務室内は暗く、静かだった。
2人は荷物を床に置き、近くのソファーに座ったまま黙っていた。
雨の音が聞こえそうなくらい静まり返っている。
2人は肉体、精神共に限界にきていた。
特に福留はこのプログラムが始まってから一度も寝ていなく、精神的にもつらいことが続いたので、今にも倒れそうだった。
荒木は少し休めと言って、強制的に福留を寝かせた。福留はソファーに横になると同時に深い眠りについた。
そのことを確認すると荒木は窓の近くへ行き、外をずっと眺めていたのだった。
雨は一向にやみそうにない。
孝介も休んでいるしこの天気じゃしばらく外に出られそうにないな。
荒木は今までの出来事を思い出してみた。
ゲーム開始からいきなりゴメスに担がれている渡辺の死体を見た。そして蔵本にはボウガンを向けられわき腹を負傷した。名大病院では山北が名前を聞いたこともない薬を使って手当てをしてくれた。
鶴舞公園で探していた井端に会った。そして彼に一緒には行けないと言われ、しばらく落ちこんだ。福留に元気づけられ、そんな時に山崎に出くわした。人質にとられそして福留が発砲・・・。
こんな経験一生かかったってもう二度と出来るもんじゃない。
だからといってこのゲームを考えた奴に感謝しろと?冗談じゃない。
『皆さん、お元気ですかーーー・・・』
突然のアナウンスに荒木は座っていた椅子からひっくり返りそうになった。
びっくりしたじゃねーかよ!
護身用にベルトに挿してあった銃を思わず出しそうになった。
その声はこの事務室内にあるスピーカーから聞こえてきたのだった。

405 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/25 12:37 ID:h6Hs+oRu

こんな所にも仕掛けてあるのか。
大会本部の奴らはここに誰かが来るのを予期し、スピーカーを仕掛けたのだ。
『・・・・頑張ってくださいねー』
アナウンスが終わるとまた雨の音が聞こえるくらいの沈黙がおとずれた。
山崎が殺されたときが最高視聴率だったらしい。日本刀を突きつけられたあの情けない自分の顔がより多くの人間に見られたのかと思うと少し恥ずかしかった。
荒木を襲った蔵本、病院で会った山北の名前があった。
「山北・・・」
荒木はつぶやいた。
やっぱりお前は昌さんに殺されたのか?
山北の涙を思い出しながら、荒木は悲しい思いにつつまれた。
そして森野の名前も。
荒木はいやな予感がした。
立浪さんか?立浪さんが森野を殺したのか?
だとしたら次のターゲットは自分だ。居場所を突き止めたら確実に殺しにくるだろう。
突然荒木は窓を開け、身を乗り出し周りを見た。
いるわけないか・・・
しかし、荒木の心臓はいつも以上に動いていた。
落ち着け、落ち着け、いるわけなんかない。
ふぅ~と深く呼吸し、平静を取り戻す。
今ここに居もしないものに恐怖し、些細なことでいつも傷つく。
傷ついては、励まされて元気になり、またすぐ傷つく。
そんなことを繰り返してばかり。
井端さん、俺たちはこのプログラムでちっとも成長していない・・・・・

【残り23人】

412 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/26 00:51 ID:2QtKUTN7

74 懐かしき名古屋へ

「誰を連れてきてもいいと昌さんに言われましたけど、
俺は中村さんしか居ないと思ったんです」
電話の向こうで、今中がいつも通りの飄々とした調子で言っている。
それを半分くらい聞き流しながら、
中村はゆっくりと今まで言われた事を頭の中で整理していた。
山本が左腕エースの栄光を掴むため、小笠原を、山北を殺し、
そして最後に今中に挑戦状を叩き付けた。
が、ついては誰を連れてきてもいいと…つまりはそういうことらしい。
「俺をかつごうとしてるんじゃないよな?」
「こんな大規模なドッキリがありますか。
いや、ドッキリだったらどんなにええかと今でも思いますよ」
それもそうか。
NHKの全国中継を二日間に渡って利用した壮大なドッキリなど、
普通に考えてあるはずがない。
ただ、頭が理解を拒んでいるだけのことだ。
「…解った。すぐに準備する」
「お願いします。
ああ、頼んでおいてこんな事言うのも何ですけど…命の保証は出来ませんよ」
その事についての心配はしていない。
昌さんは俺を殺せない、中村は確信していた。
「俺より自分の心配しろよ。どこに行けばいい?」
電話を右手に左手にと持ち替えつつ、
まだ着慣れないベイスターズのユニフォームを身に付けながら
中村はふと窓の外を見た。
まだこの横浜に雲は来ていない。空に星が輝き始めていた。
名古屋は、雨だというのに。
【残り23人】

419 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/27 00:16 ID:hU1T17Bt

75 リメンバー

雨はますます強くなっている。
近くにあったビニールシートで体を包んだ山本は、
わけもなく手が震えだすのを自覚していた。
寒い、のだろうか?
恐い?いや。違う。
それにしても土砂降りだ。春の嵐というのだろうか、風も激しく吹いている。
屋根のある所に避難することも考えたが、
何故かこの雨の降りしきる屋上から山本は足を動かせないでいた。
耳がじんじんと痛む。
かじかむ手で、懐の銃に触れた。
これだけは守らなければならない…
今中は何を持ってくるのだろう。誰を連れてくるだろう。
それ以前に、ここに来るかどうか。
ともかく来るべき時の為、武器は
いつでも使えるようにしておかねばならないのだ。
まだ雨が降り出す前、山本は少し眠っていた。
眠りが浅かったのだろう、長い長い夢を見た気がした。
夢の中に出てきたのは真夏のナゴヤ球場だった。
周りには泥だらけになった仲間達。
山本はそこで笑っていた。金も名誉も手に入れていなかった、若い日の光景だ。
俺も感傷的になったもんだ。年は取りたくない。
今更あの頃に戻れるものか。
自分はチームメイトへの嫉妬を、憎しみを知ってしまったのだから。
誰も俺を認めてなどくれなかった…
微かに上空から音が聞こえたのはその時だった。
ヘリコプターが飛行する音だ。
あまりに視界が悪く、姿は確認できないが確実に近付いている。
来た…
山本はもう一度、銃を握りなおした。
【残り23人】

422 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/27 05:37 ID:2Xl+O1P3

76 公平

「何だよこれは…」
神宮前駅にあるコインロッカーの前で谷繁は毒づいた。
古田から指示された番号の扉を開けると、そこには草刈り用の鎌が置いてあった。
いや、良く見れば柄の先に鎖が繋がっており、先端には鉄の分銅がついているのが分かった。
…これが武器だというのか?古いカンフー映画でもあるまいに。
「贅沢言っとったらあかんで」
イヤホンから古田の声が流れ込んで来た。
「相手はほとんど丸腰やよってな、そんなに差を付けたら不公平やろ」
楽はさせないということか。いいだろう。
鎖鎌を手にして振り返ると、ベンチに外人2人が座っている。
ゴメスは黙々と散弾銃を磨き、ギャラードはトカレフを弄んでいる。
最初の抽選で手に入れた武器だ。
外を見ると、夜の雨の中から熱田神宮の森が目に入ってきた。
あそこに落合と正津がいるらしい。
「恨みはないが、狩らせてもらうぜ」
頭の中では狩りのプランが練られている。
古田の思い通りに動くのは癪だが、どうせなら派手な場面を演出してやろう。
谷繁は2人の外人へ歩み寄った。

【残り23人】

423 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/27 05:39 ID:2Xl+O1P3

77 楽園を求めて

高架下で2人の男が肩を寄せあっていた。
全身を濡らす雨が体力を奪う。
春とは言え、3月の夜はまだ冷え込む。
「もうすぐだ」
とにかく誰かと合流したい。
そう思った筒井と森は、紆余曲折の末にテレビで見た落合たちを思い出した。
互いに助け合い、励まし合う姿。
自分達が好きだったドラゴンズがまだそこにある。
2人はそう思った。
「夜のうちに行くぞ」
筒井はそう告げた。
頷いた森はナゴヤ球場前駅の瓦礫から見つけた青龍刀を握っている。
あまりに重いから途中で捨てて行こうと筒井は言ったが、森は聞かなかった。
「大豊さん…僕たちを守って下さい」
そう青龍刀に祈る森を筒井は冷ややかに見ていた。
「死んだ人間に何ができる。生きている奴だけが頼りだ」
そう言い放つと、筒井は雨の中へ走り出した。
大豊の遺品を両手に持ち直すと、森も後へ続いた。
今の2人は知る由もない事だが、間もなくそこは狩猟場になる。

【残り23人】

424 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/27 16:29 ID:FyDNFyzE

78 賢者の贈り物

「雨、ひどくなってきましたね」
久慈がそう言って関川を振り返った。
降り出した雨に、慌てて近くの民家のガレージに飛び込んだ関川、久慈、遠藤の3人。
これからどうしたものかも分からずに思案に暮れていたところへの雨だった。
「これからどうするんですか?」
不安そうに遠藤が尋ねた。
「・・・・・」
関川は答えずにジッと降りしきる雨を見つめていた。
さっきの放送でまた何人もの死亡者の名前が読み上げられた。
確実に減っていくチームメイトたち。
自分達もいつまで無事でいられるか・・・。
「セキさん」
身動き一つしない関川を気遣うように見ながら久慈はその隣に座った。
逃げても地獄、逃げなくても地獄。
この恐ろしいゲームが始まった時からそれは分かっていた。
主催者達に抗う術のない自分達にとって、生き残ろうと思えば誰かを殺さなくてはならない。
最後の一人にならなければ生き延びることはできないのだから。

425 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/27 16:30 ID:FyDNFyzE

「セキさん、いざとなったら俺のこと殺してくださいね」
いつもと変わらぬ顔で、しかもちょっと笑顔で久慈はそう言った。
「テル、それは俺のセリフだ。最後、俺とお前だけになったら、お前は俺を殺して生き延びてくれ」
「俺なんか生き延びてもしょうがないですよ。俺よりセキさんが生きてた方がいいですよ」
関川は少し顔を上げて久慈を見た。しかし再び視線をコンクリート打ちっぱなしの床に向けた。
「・・・お前が死ぬのは・・・嫌だ」
「俺だってセキさんが死ぬのは嫌ですよ・・・」
久慈も同じように床に視線を落とした。
そんな2人の会話に口も挟めず遠藤は少し離れて座っていた。
自分にもそうやって思い合える仲間がいてくれたら、そうしたらこのゲームの中でもう少し救いがあったかもしれない。
今はとりあえず半ば無理やりこの関川たちにくっついてはきたが、仲間と言える関係ではない。
(・・・っていうか、この3人でいて、いざとなったら俺、真っ先に殺されるんじゃ?)
そう思い当たって遠藤は一瞬戦慄した。が、今更離れて独りで行動する勇気もなかった。
いざという時のことはまだ考えないようにしよう、と思った。
雨はいよいよ激しさを増してきていた。
雨音がうるさく辺りを包んでいた。
その中に溶け込みながら、かすかに異音が響いた。
何かの爆発音。それも、大きな・・・。
3人は視界の効かない土砂降りの雨の向こうを凝視した。

【残り23人】

426 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/27 16:32 ID:FyDNFyzE

79 背負うもの

井端は目の前で起きたことを呆然と見つめていた。
中日ビルに入って、上の階にある中日ドラゴンズ本社のフロアに着いたところで大西と藤立に出くわした。
そして有無を言わさず2人に腕を引っ張られるようにして、今来た階段を駆け下りさせられた。
間一髪、外へ出たところで上から激しい爆発音が響いたのだ。
降ってくるガラスや瓦礫から身を守るように、転がるようにしてなるべく遠くへと離れた。
なんとかバスターミナルの屋根の下まで来て、煙の立ち上るビルを見上げた。
「危なかったな」
大西と藤立が声をかけてきた。
「・・・なんなんですか、これ」
井端はそう尋ねるのがやっとだった。
「トラップだったんや。誰かが来ると予想しとったやつがいたんやろ。ドアを開けると時限装置が作動するようになっとったらしいわ。俺らがドア開けたらいきなり警告音が鳴り出しよって」
藤立はそう言うと大きく息を吐いた。
「俺達も来たし、井端も来たんやから、仕掛けた誰かさんの読みは当たったわけやな」
藤立の口調は軽かったが、その表情は重かった。
「井端、無事だったんやな」
大西が井端の肩を叩いてそう言った。
大西と藤立はさっきまで身を潜めていたバーの奥にあったTVでゲームの中継を見ていた。
井端が砦を築いて狂った様子も、それを久慈に救われた様子も見ていた。
「井端は知らんやろうから、教えとくわ。お前、久慈さんに助けてもらったんやぞ」
「久慈さんに?」
そう呟くように問い返して手にしていたナイフを見た。
「そのナイフも久慈さんが置いてったんや」
久慈が助けてくれたのだ。
『生き延びろ』
そう書いたのも久慈なのだろう。

427 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/27 16:34 ID:FyDNFyzE

「井端・・・お前これからどうするんや?」
大西が問いかけた。井端はすぐに返事が出来なかった。
「大西さんたちは?」
「俺らか? まあ、適当に名古屋の名所巡りでもして生きとるわ」
大西はそう言うと藤立を振り返って笑った。
「井端、お前も一緒に行かへんか? こんなゲーム、なるようにしかならんわ。足掻いてもしゃあないやろ。死ぬ時は死ぬ時や思うて、のんびりしといたらええ」
大西に誘われて井端は少し目を伏せた。
本当に足掻いても仕方のないことなのだろうか。
死ぬ時は死ぬ時、確かにそれはそうかもしれないが、だからと言ってのんびりとその運命を待つだけなのか。
「すいません。俺はもう少し1人で・・・」
「そうか。ま、ええわ。でも折角久慈さんに助けてもらった命やぞ。死に急がんとけよ」
そう言われて井端は頷いた。そして2人から離れた。

久慈に助けてもらった命。そしてまた今も大西と藤立にも救われた命。
生かされている。ならばそれに対して自分は何をするべきか。
これからどうすればいいのかはまだ思いつかなかった。
でも何か、どうにか出来ないだろうか。

井端はベンチに腰掛けて止まない雨を見つめていた。

【残り23人】

430 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/28 00:20 ID:pV/Fl+U7

80 賭

暗い雨の中を、ヘリコプターのライトが円形に照らし出す。
この悪天候の中を飛ぶのは危険だと本部に散々説得されたのだが、
数十人が殺し合いをやっているこの時に何を今更、と今中ははねつけていた。
本部の連中を見ていると反吐が出そうだ。奴等は感覚が麻痺しているとしか思えない。
人気だとか、視聴率だとか、そういうものに踊らされているのだ。
「なあ、まだ着かないのか…」
ごく狭い機内に詰め込まれる様にして乗り込んだ中村は、
当初から頻りに外を気にしていた。
ベイスターズのユニフォーム姿が目に新鮮だ。
私服で来るものとばかり思っていたら、
それはユニフォームを着て戦っているみんなに失礼だという。
「いや、そろそろでしょう」
雨の下に名古屋の街並みが霞んで見える。
「そうか…」
中村が何を考えているのか、今中には解らない。
ただ色々なことを考えては棄て、考えては棄て、
深く悩んでいるらしいことは見て取れた。
ずっと山本とバッテリーを組んできた中村を呼んだこと、
それは間違った選択ではないと思っている。
しかし、結果がどうなるか。
最良の選択が最良の結果を呼ぶとは限らない、という言葉をどこかで聞いたこともある。

431 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/28 00:22 ID:pV/Fl+U7

山本の拳銃に弾は一発。
それが何処に飛んで何をもたらすのか、
考えつく限りの可能性を頭の中で追いながら、
今中は上着の内ポケットに重く沈んでいるニューナンブM60に触れた。
日本の警察官が持つ銃だから、性能などたかが知れている。
だが、撃つつもりは始めから持ち合わせていない。銃の形さえしていればいいのだ。
その為に一番手近にあった銃を拝借してきただけのこと。
いわばこれがユニフォームの替わりか。
命は惜しいが、山本をこのまま死なせたくない。
ギリギリの所に今中は立たされていた。
どちらかを棄てなければならないとしたら、どちらを…
『今中、中村、もう着くけど準備はええか。こっちはバッチリやでー』
いきなり無線で古田の声が入り、機内に緊張が走る。
終始無言を守っていたパイロットはやはり何も言わなかった。
ただ無線の声だけが響く。
『テレビ的な事も考えて、中村が一緒やって事は公表しとらんから。
きっと山本も驚くわ。んじゃ頑張ってな』
「くそっ」
小さく中村が呻いた。
深呼吸をしたが動悸が収まらない。
窓の下に、青いビニールのような物を纏った山本の姿が見えた。
【残り23人】

432 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/28 00:24 ID:pV/Fl+U7

81 叫び

山本の目は、一瞬だけ見開かれた。
「武志」
雨に紛れた呟きは聞き取れなかったが、
口の形からそう言ったのだろうと今中は推察した。
だが、驚きは一瞬だった。すぐに山本の口元には昏い笑みが広がっていく。
「救えないな、今中。情に訴えようってのか。
俺が今更殺しを怖がってると思うなよ」
山本は立ち上がると同時にビニールシートを払い捨てた。
見る間にその姿が雨に濡れていく。
今中も、今し方その隣に降り立った中村も条件は同じだ。
五分も経たない内に全員濡れ鼠になってしまうだろう。
…それまで生きていればの話だが。
ヘリコプターを背後に待機させたまま、遂に二人は山本と対峙していた。
「山本さん、こんな事はもうやめて下さいよ。
こいつを殺して何になるんです」
「武志は黙ってろ。俺はずっとこいつが憎かった…
殺してやりたいくらい、憎かったんだ、畜生っ」
殺してやりたい、か。ここまで憎まれるのは、
ある意味では貴重な経験ではないだろうか。
何故か今中は他人事のように感心していた。
「で、今中。どういうつもりでこいつを連れてきた。
殺す前に教えろ」
いつの間にか山本はチーフスの銃口をこちらに向けていた。
答えなくても殺すというわけだ。

433 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/28 00:27 ID:pV/Fl+U7

「…さあ。実は大して考えがあったわけじゃないんですよ。
ただ中村さんなら、山本さんの…何か、虚しさみたいなもんを」
言葉に詰まる。そこから先の言葉が思い浮かばなかった。
救う、ではないし、埋める、も何かが違う。
「どうした。答えられないんなら、今すぐ殺すぞ」
「…山本さん、駄目だっ」
中村が一歩前に出た。山本がぴくりと震える。
「武志、お前まで…お前までこいつの味方か!
そうだ、みんなそうさ、俺にもいい顔しときながら…
本当に好かれてるのはいつもエースの今中なんだ!
今中はただふんぞり返ってるだけなのに!
疲れるくらい周りに気を使ったって、俺の事なんか誰も…
俺はいつも笑ってて、優しくて、気配りが出来て、
それが当然だってのか!俺はそんな立派な人間じゃないっ!」
中村の一声が引き金を引いたのか、山本は一気に激昂した。
そこに「昌さん」の面影はない。
山本にとって「昌さん」は偽りの人格ではなく、道具だったらしい。
他人の目を自分に向ける為の?
けれどただそれだけで、あそこまで出来るものだろうか。
今中にはもう解らなくなっていた。どちらが山本の本性なのだろう。
…どちらも、という陳腐な結論を出さざるを得ないではないか。
あの優しさが全て打算から生まれたものだとは思えない。
「俺はライバル全員殺してエースになって、俺に戻るんだ!
その為には、ずっと俺を邪魔してきた今中を
殺さなきゃいけないんだよ!どうしても!」
山本は泣いていた。子供の様に泣きながら叫んでいた。
【残り23人】

438 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/29 15:37 ID:99csKzVQ

82 窮鼠猫を

3、2、1、Fire!
木陰からゴメスが威嚇射撃の第一発を撃ち込む。
反応はない。
谷繁とギャラードは一気にドアを蹴破った。
瞬間、弓矢が迎え撃つ。
ボウガンを構えた落合と、鍋の蓋に包丁でとりあえずの武装をした正津。
「はん、少しはやる気になったってわけか」
床に転がったラジオからは、谷繁自身の声が聞こえていた。
盗聴。戦闘態勢に入っていたのはそういうことか。
分銅を振り回しながらじりじりと近づく。
正津はともかく、落合の武器なら接近戦に持ち込めばこっちが有利だ。
パァン
ギャラードのトカレフが煙を上げた。
落合はピッチャーの命である肩に血を滲ませてうずくまっている。銃声で耳鳴りがする。
今だ、
谷繁は鎌を振りかざして飛びかかったが正津の向けた刃に遮られた。
ぎりぎりと互いの刃で攻め寄りあう。脂汗が額を流れる。
谷繁はちらりとギャラードに目を移した。
何だよ、笑ってやがる。眺めてないで早くとどめを刺せよ。
その隙に谷繁の身体は正津に跳ね返された。
後方によろめくも再び体勢を立て直した谷繁の耳、いや誰もの耳に、そのとき、呻くように重々しい叫び声が入った。

440 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/29 15:38 ID:99csKzVQ

筒井は、目の前で起きていることを即座に理解できなかった。
その場に立ちすくむことすらままならず、がくりと地面に膝をついていた。
向かった先の熱田神宮の一角がやけに騒がしい。
息を潜めて接近すると、その先に待ち受けていたのは、あの落合たちが襲われているところであった。
とうとうここも知られてしまったんだ…
呆然とする筒井に、更なる予期せぬ事態が起きた。
常に自分の背後にいたはずの森が…飛び出したのだ。
大豊さん、僕に、力を。
目の前にいる獲物にばかり気を取られていたゴメスが振り返ったときにはもはや遅かった。
森がその両の手で振りかざした青龍刀は、大きく袈裟懸けにゴメスの胸を切り裂いた。
絞るような叫び声を上げる。
自分に斬りかかった相手に発砲を試みるも、引き金にかけた指に込める力はなかった。
散弾銃をその場に取り落とし、ゴメスは、重い身体を引きずりながら、闇の中へと消えていった。
「邪魔が入ったか…これで終わったと思うなよ!」
捨て台詞を残してギャラードとともに立ち去る谷繁が一度だけこちらを見た。そのあまりに冷徹な視線と目が合って、筒井は小便を漏らしたかと思った。
やがて、静寂が熱田の境内に戻る。
あの、自分の背後で怯えてばかりいたショーゴーが。
目の前の敵に危険をものともせず立ち向かっていった。
非現実的な理想や建て前ばかりを主張して、一緒にいる意味すら忘れかけていた後輩が、今は自分より一回りも二回りも大きく見える。
筒井は、力の抜けた足でどうにか立ち上がり、目の前で剣を握りしめている森の側へと近寄った。
「ショーゴー、凄いな、見直したぞ、おい、ショーゴー。ショーゴー?」
筒井が肩を揺すった途端、森の身体は仰向けに倒れた。白目を剥いて気絶していた。

439 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/29 15:37 ID:qAr5rgc9

83 啼く獣

涙を流しながらも山本の眼は鋭さを失ってはおらず、
むしろいよいよ炯々と、獣のそれの様に光っていた。
「山本さん」
中村がまた一歩、歩を進めた。
「来るな!撃つぞ!」
「ええ。撃ちたければ撃って下さい。覚悟はしていますよ」
余裕の声音だった。撃てるはずがないという自信に溢れた。
しかし万が一のことも考えられる。
今中はじりじりと前進しながら、山本に悟られぬよう慎重に
上着の中に手を差し込んだ。硬い感触がある。銃だ。
いざとなれば、威嚇射撃くらいはしなければ…
「山本さん。山本さんは、エースになりたかったんですか?」
「…ああ。そうだよ。何度も言わせるな」
「俺には、そうは聞こえませんでした。さっきの山本さんの叫びは、
エースになりたいと言うよりも…まるで」
「黙れ!」
山本が遮った。怯えが声に含まれている気がした。
しかし、中村は臆した様子も見せずに続けた。
「嫌われるのに怯えながら外っ面を取り繕い続けるのはもう嫌だ…って、
俺には聞こえました。違いますか?」
「違うっ!違う!俺は栄光が欲しいんだ!」
「エースになれば、もう誰にも自分を偽らなくていいと思ったんですか?」
「違う…」
山本は遂に押し黙ってしまった。
しかし眼光鋭く、歯を固く噛み締め、その形相には鬼気迫るものがある。
憎しみ、欲望、怒り、悲しみ、そういったものが綯い交ぜになった、
偽りの顔を脱ぎ捨てた人間の顔そのものなのかも知りない。
今中は周囲に無遠慮な人間だとよく評されたものだが、
この山本の顔を見ると、自分もよくよく猫を被っていたのだと思い知った。
しかしそれが普通ではないのか?
あまりに分厚い偽りの仮面を着けていた山本には、
身勝手だった頃の自分が何一つ己を偽らぬ存在に見えたのだろうか。
【残り23人】

443 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/29 15:42 ID:qAr5rgc9

84 裁き

「山本さん…誰に対しても本当の自分を出せなくなってから、
何年我慢したんですか?窮屈でしたか?
苦しかったから、今こうして爆発してしまったんですね?」
「なんだよ、気色悪ぃな。猫なで声出しやがって、
カウンセラーでも気取ってんのかよ、武志」
「いや。俺は山本さんの女房役として、もっと早く
その苦しみに気付くべきだったと悔いているだけです。
一番山本さんを追い詰めていたのは俺だ。
解りませんか?山本さんの敵は今中じゃない。
…俺なんですよ。俺を撃って下さい」
「中村さん!」
その背に向かって今中は叫んだ。
何を言い出すのかと思えば、撃ってくれ、だって。冗談じゃない。
本来中村は無関係だ。巻き込んでしまったのは自分だ。
どうして中村が死ななければならないのか。
山本を少しでも楽にしてやれるのは中村しか居ないと思って連れて来たが、
それはやはり誤りだったらしい。
大体、今の山本は完全に頑なになってしまっている。誰の説得も聞くまい。
「そんな方法で今中を助けようとしても無駄だ。
俺が発砲しようとした隙に仕留めようってハラだろう。
何しろスタッフは全員お前らの味方なんだからな」
「山本さん、そんなに俺が信じられませんか…」
「ああ、信じられるかよ!誰も信じてないんだ、俺は、最初っからな!」
遠くで雷鳴がした。まだこの雨は止まないらしい。
そして山本の心は閉ざされたまま。

445 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/29 15:44 ID:qAr5rgc9

「…解りました。じゃ、こうしましょう」
今中が止める間も無かった。中村は駆け出し、一瞬のちに山本の左腕を掴んでいた。
「っつ…離せよっ、この」
「これだけ近ければ、隙も何も無いでしょう。撃って下さい」
今中も駆け出していた。馬鹿な。こんな筈ではなかった。中村を死なせるなど。
中村は山本の腕をずらし、チーフスの銃口を己の左胸に宛がっていた。
「中村さん、やめて下さい!こんな事…俺はそんなつもりじゃ」
「いいんだ。ヘリの中で覚悟を決めたから。
…さあ、山本さん。俺を殺して下さい。
その代わり…俺を殺したら、もう無理に自分を押さえつけないと約束して下さいよ。
少しくらい我がままになっても、誰も山本さんから逃げたりしませんから。
皆、山本さんが好きなんです」
死を以って証明するとでも?やめてくれ。そんな話は美しすぎて現実にはそぐわない。
「中村さん、山本さん!もうやめて下さい!」
「…武志、お前そこまで」
山本の顔が、ふと和らいだ。
先程までの、獣か鬼かという表情から一変し、
いつもの優しい「昌さん」に戻っていた。
いや、それ以上に素直な温かささえ感じられるような…
「信じても、いいのか…?」

446 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/29 15:50 ID:qAr5rgc9

次の瞬間、今中は硬直した。
あの、もう二度と聴きたくないと思っていた
忌まわしい電子音が耳に届いたかと思うと、
「あ…武志…」
更に二度と聴きたくないと思っていた軽い爆発音がそれに続いた。
山本の体が、赤い血の線を引きながらゆっくりと頽れる。
いや、それはもしかしたら一瞬の出来事だったのかもしれないが、
今中には堪らなく長い時間に感じられた。
それでいながら自分の体はぴくりとも動かない。
嘘だ…
考えるまでもなかった。山本の首輪が爆破されたのだ。
血溜まりが雨に混じって広がり始め、主を喪ったチーフスが、雨に濡れて転がる。
そこで漸く今中の体感時間は平常に戻った。
たっぷり一時間はその場に立っていたような疲労がどっと押し寄せたが、
今はそれどころではない。
「…や…山…本…さん…」
中村ががくりと膝をつく。
今中は振り向き、ヘリコプターを睨み付けた。畜生。
「…どういう事や!何故山本さんを殺した!」
降りてきたパイロットに詰め寄ると、やはり無言で無線機をつき付けられた。
『参加者以外に危害を加えようとした奴は、その場で始末する。
運営側として当然の措置やろ?
ついでに首輪の動作チェックも出来たしな。こうやって使う分には問題ないみたいで良かったわ』
雑音に混じり、古田の冷徹な声が耳を突き刺す。
馬鹿な…こんな馬鹿な、こんな…
「あ、あ、あ…こんな馬鹿なことがあってええんか!こんな事が許されると思っとんのか!」
最早それ以上は声にならず、今中は頭を抱えて蹲った。
豪雨に体を打たれるのも気にせず、ただその場で泣いた。
【残り22人】

448 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/29 23:24 ID:NEIEFHcm

85 危険な相手

どれほどの時が経ったのだろう。
井端はゆっくりと辺りを見回した。
ベンチに座ったまま少し眠ってしまっていたらしい。
我ながら無防備だな、と自嘲気味な笑みを浮かべながら井端は立ち上がった。
雨は小降りに変わっていた。
少し移動しよう。このままここにいて好戦的なやつらの餌食になってもしょうがない。
もう少し安全なところへ行って今日は休もう。
そう思って歩き出した井端の足は自然と元来た方へと向いた。
鶴舞公園で自分を助けてくれたのが久慈なら、久慈はまだその近くにいてくれるだろうか。
会えたらお礼の一つも言っておきたかった。
それにしても人のいない栄の街の夜は、どことなく薄気味悪い。立ち並ぶビルも入る気を起こさせない。
足を早めて若宮大通を越えかけたとき、井端は前方に街灯に浮かぶ人影を見た。
(立浪さん・・・っ)
井端はとっさに物陰を探した。
そして上を通る名古屋高速の橋脚の陰に入ろうと身を翻した瞬間だった。
「井端か?!」
立浪の声が自分の名を呼んだ。走ってくる足音もした。
「・・・立浪さん」
井端は観念して立浪の前に出た。
立浪のユニフォームが返り血に染まっている。雨に濡れて滲んだそれは不気味さを増していて、井端は思わず目をそむけた。
「ちょうど良かった。荒木を知らないか?」
ギラギラした目をして立浪はそう尋ねた。
「さあ・・・? 昼ごろ福留といるのは見かけましたが、その後は知りません」
井端は努めて冷静に答えた。
立浪が荒木を探している。
荒木を狙っている?

449 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/29 23:26 ID:NEIEFHcm

「ふん、まだ福留と一緒か・・・」
立浪はそう呟くと手の中のナイフを見やった。井端もつられるようにそのナイフを見た。
赤黒い血がこびりついていた。
自分のナイフにも同じように鈴木の血がついているのだと思うと、井端は唇を噛み締めた。
そんな井端に立浪はニヤリと笑う。
「二遊間コンビ、か。なあ井端、お前、誰がセカンドだと一番いい?」
危険な問いかけだ。
井端は短く息を吐いた。
「・・・まだ自分のことで精一杯ですから。コンビネーションは相手が誰でもまだまだ・・・」
井端の答えに立浪は少し不服そうな顔を見せたが、何も言わなかった。
クルリと背を向けた立浪に井端はホッと息をついた。しかしすぐに厳しい顔になる。
荒木が狙われている。
どうすればいい?
このまま背後から立浪を・・・、いや・・・。
左手をナイフに、右手を銃に触れさせながら、井端は立浪の背中を見つめた。
その時、立浪が振り返った。
「井端、良かったらお前も休んでいかないか?」
「え?」
思いがけない誘いに驚く井端に立浪が顎で指し示したのは、道を渡った先の『ランの館』。
「なかなか快適だぞ。まさにオアシスだ」
井端は立浪とランの館を見比べた。
立浪と一緒にいればきっと荒木を救える。
立浪を止められる。
井端はコックリと頷くと、立浪の後についていった。

【残り22人】

453 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/30 01:45 ID:d5LD3DxH

86 殉教者

したたるなどという生易しいものではない、流れ出る血によって途切れることなく描かれた一本の線がゴメスの歩いた道筋を示していた。
己の命がもう長くないことを悟った彼はせめて、最期のときを迎えるに相応しい場所へと向かうべく進んでいた。それだけが、彼の身体を動かしていた。
白い十字の掲げられたその建物を目指し、階段を登る。歩を進めるたびに、胸の傷が口を開けようとしている。生暖かい感触が触れる。
重い扉に上体を預け、とうとう、ゴメスはそこへたどり着いた。
祭壇の前に掲げられたイエス像。
神に仕える者として、己の死に場所はここしかなかった。
うずく胸の傷と、膝に抱えた爆弾。不思議と、それでも足は祭壇へと向かっている。
ようやく最前列へたどり着かんとするとき、ゴメスは霞んだ視界の中で、椅子に腰掛ける誰かの姿を認めた。
もう息をするのも苦しかったが、それでもその人物を確かめんと覗き込んだ彼は次の瞬間一気に全身の痛みが消えるのを感じた。

454 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/30 01:45 ID:d5LD3DxH

ゴメスは、確かにそこでキリストの姿を見たのだ。
右腕から血を流し、既に息絶えた野口茂樹。
その姿は、全ての罪を背負って人間達のために十字架へとかけられたイエス=キリスト。
ああ、神はこの荒れ果てた世界にひとり子イエスを遣わしたのだ。
そしてその死は愚かな罪びとである私達を背負ったものであり、神の私達への愛の証なのである。
ゴメスはそして、静かに眠りについている野口の前にひざまずき、両手を胸の前で組み、祈りを捧げた。

万物の終りが近づいている。だから、心を静かにし、身を慎んで、努めて祈りなさい。
何よりもまず、互の愛を熱く保ちなさい。愛は多くの罪をおおうものである。
語る者は、神の御言を語る者にふさわしく語り、奉仕する者は、神から賜る力による者にふさわしく奉仕すべきである。
それは、すべてのことにおいてイエス・キリストによって、神があがめられるためである。
栄光と力とが世々限りなく、
彼にあるように、
アァメン。

中日ドラゴンズ主砲でありながら神に命を捧げた男、レオ=ゴメスは、全ての人間の罪を背負いし神のひとり子イエスの名古屋における姿、野口茂樹の膝にもたれかかり、異国の地南山教会の礼拝堂の中で、その生涯に幕を閉じた。

【残り21人】

(ペテロの第一の手紙第四章7-8、11より引用)

459 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/30 14:56 ID:tPYj/IHR

87 敵地へ

山本の死体の目を閉じさせて丁寧にビニールシートに包むと、
中村はゆっくりと立ち上がった。
右手に山本の遺した銃。
ヘリコプターの方を振り仰ぐと、今中が無線機に向かって何やら言っていた。
あの無口な…何も言うなと命令されているのだろうが…パイロットは、もう機内に引っ込んでいる。
「今中」
「ああ…中村さん。これからどうします。何なら横浜まで送りましょうか」
今中の目元は赤かった。自分のことで精一杯で気付かなかったが、
ポーカーフェイスの代名詞のようなこの男が泣いていたらしい。
「お前は本部のスタジオに戻るのか」
「ええ。…それしかないですよ」
あいつらに一泡吹かせてやりたいですからね。そう今中は中村の耳元で囁いた。
恐らく今の言葉、さすがに本部にキャッチされてはいまい。
時期を待って内側から崩す心積もりというわけだ。
「俺もドームに行く」
「いや、それは…危険ですよ。中村さんはもう横浜の人間だ。
呼び出した俺が言ってもアレやけど…
これ以上俺たちのせいで迷惑かけられませんよ」
「落とし前をつけたいんだ。中日時代のことを清算しないと、
俺は横浜の一員になれない気がする」
山本の死を看とる為に名古屋に来たわけではない。
こうなったらとことん関わってやる。
今中はしばらく俯いていたが、解りましたよ、とため息混じりに言った。
「…一応本部に取り計らってみます。どうなっても知りませんよ」
「覚悟はしたって言っただろ」
こんなプログラムを実際に見せ付けられて、黙って見過ごせるものか。
山本の苦しみを暴き引きずり出し、一瞬のみ救ってくれた事だけには感謝してやってもいいが。
二人は再びヘリコプターに乗り込んだ。
目指すは「敵地」ナゴヤドーム。
「いつかチャンスは来ると思います」
今中が誰にともなく言った。
【残り21人】

461 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/31 00:17 ID:7JDVtESy

88 静かなる・・・

立浪に連れられて入ったそこはまるで別世界だった。
煌々と点けられたライトの下、花と緑が溢れていた。
雨に濡れてすっかり冷え切っていた井端の体も、室内の熱気に包まれて次第に暖かさを取り戻していった。
「あっちにカフェがある。冷蔵庫に食材が入っているから勝手に食べるといい」
やけに親切な立浪を訝りながら、井端は指された方へ足を運んだ。
もっとも立浪が自分を殺すつもりならさっさと殺しているだろうし、今からでも気が変われば殺しにくるだろう。
そうなったら応戦するだけだ。立浪は武器を預けろとも言わなかったから、銃もナイフもまだ手元にある。
背後を気遣いながら通路を抜けると、広い吹き抜けの中に観葉植物に取り囲まれてカフェがあった。
キッチンに回ると立浪が言ったとおりに冷蔵庫に食材が詰め込まれたままになっている。
しかし井端は何も食べる気が起きず、とりあえず湯を沸かし、コーヒーを淹れることにした。
「ふぅ・・・」
誰もいないフロアの真ん中のテーブルについて、井端は椅子に身を預けた。
何の音もしない静かな空間だった。
ガラスの向こうには、ライトで見辛いが暗い夜空が広がっているようだ。
今までのことが夢のようだ。いや違う。今のこの状況が夢なのか。

どれくらいそうしていただろう。
ガサッという物音で井端は振り返った。
「井端、俺にもコーヒーを淹れてくれないか」
立浪がゆっくりとした足取りで近づいてきた。
井端は立ち上がって、その立浪の姿に目を見開いた。
立浪の血に汚れたユニフォームに生々しく鮮血が飛び散っていた。

462 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/31 00:19 ID:7JDVtESy

「立浪さん・・・まさか・・・っ」
井端は駆け出した。立浪の横を抜け、さっき来た通路を逆走した。
そしてエントランスにたどり着いた井端が見たものは、血溜まりの中に倒れている小山の姿だった。
「小山・・・?」
井端は立ち尽くした。
何も気付かなかった。自分がしばし休んでいる間にこんなことが起きていたなんて・・・。
「井端は飯は食わんのか?」
背後から声が掛かった。振り返ることが出来ない井端のすぐ後ろに立つ気配がした。
「ほら、食え。腹が減ってはなんとやら、だ」
横から立浪にパンを渡されて井端は慄然とした。
立浪は小山を殺したことをなんとも思っていない。人を殺しておいて、普通に食事が出来るなんて。
「心配するな。お前はまだ殺さん。それを食ったら適当に好きな場所で眠れ」
立浪がそう言うと井端はようやく立浪の方を振り向いた。
「立浪さん、なんで小山を殺したんです?」
「うん? 突然飛び込んできて掴みかかってきたから刺したまでだ」
立浪は平然と答えて井端に背を向けた。それはあまりに無防備に見えたが、だからといって不穏な動きをすればすぐに反撃されるだろう。
「まあ、今日はもう眠れ。俺も寝る」
そう言って立浪は木々の重なる通路へと消えていった。
それを見送った井端は手に持たされたパンに視線を落とした。
立浪がオーブントースターで焼いてきたらしいそれは、湯気と香ばしい匂いを立ち上らせている。
血溜まりの中の小山とそれはあまりにも異常な組み合わせだった。
『まだ殺さん』と立浪は言った。
しかしいずれは殺すつもりでいるだろう。いつかは自分もそこの小山と同じようになるのかもしれない。
だがしかし、その時にはこっちだってむざむざと殺られはしない。
井端は踵を返すと立浪とは逆方向の通路に向かった。
手にしていたパンを齧った。
思いのほか、美味しかった。

【残り20人】

464 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/31 02:27 ID:fd/4stWT

89 代償

焼け付くような日差しの元、福留は一人、ひたすらに素振りをしていた。
努力に勝る天才無しという言葉がある。自分はそれを信じてここまでやってきた。
下手だ下手だと馬鹿にされたショートの守備も、
泥だらけになって毎日練習した。だが、あればかりはどうしても上達しなかった。
今年からは外野手での登録となる。
これ以上チームに迷惑はかけられない…せめて打で貢献するのだ。
振って、振って、振り抜く。それしかない。
ふと喉の渇きを覚え、福留は手を止めた。
今日は暑い。何か飲まないと脱水症状を起こしかねない。
バットを地面に置くと、やけに黒い自分の影が目に入った。日差しが強いからだろうか。
それから福留はじっと影を見つめていた。
喉が渇いて堪らないのに、何故か影から目を離せないのだ。
どれほどの時間が経っただろう。影がぴくりと動いた。福留の動きとは関係なく。
ほとんど本能的に逃げなければと思ったが、体が動かなかった。
助けを求めようにも、声も出ない。
影はやがて福留の足首に纏わりついてきた。
そのまま地面の中にゆっくりと引きずり込まれる。いつの間にか全身は冷え切っていた。
「誰か…たす…け…」
漸く出た声は、しかし、ひどく掠れてとても聞き取れるものではなかった。
飲まれる。影に飲まれてしまう。
どこからともなく呪詛の言葉が聞こえてくる。
人殺し…と。

「孝介!おい、孝介!」
誰かが体を揺さぶっている。
「あ…?荒木…?」
重い瞼を開けると、荒木の顔が視界を蔽っていた。
…そうか、今のは夢か。福留は息をついた。
「うなされてたぞ…お前。嫌な夢でも見たのか」
ソファの上に上体を起こし、福留は全身が冷や汗にまみれていることに気付いた。
「ちょっと、な」
雨音がうるさい。福留は微かに体を震わせた。
「寒いか?毛布探してきた方が…」
「…いい」
この寒気も悪夢も、自分に課せられた罪だと思えば軽いものだ。
「これからどうするかな…」
荒木が外を眺めながら独り言のように言った。
【残り20人】

468 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/31 23:53 ID:cW4/QVxH

90 悪の華

立浪は3つ目の部屋で井端を見つけた。
蘭のむせ返るような匂いの中で、井端はベンチに横たわっていた。
眠っている、その顔は険しい。
眉根を寄せて、唇の端を引きつらせて、見ている夢は悪夢かも知れない。
「・・・・・・」
立浪はジッとそれを見下ろした。その顔に笑みが広がった。
いい餌が手に入ったものだ。
荒木は井端を慕っている。
どんなにうまく身を隠していても、井端が呼べば出てこざるをえまい。
出てきたところで井端を楯に取れば荒木は手も足も出まい。
そうして荒木をなぶり殺してやる。
セカンドは俺のモノだ。他の奴らに守らせてたまるか。
(井端、お前に二遊間コンビ、セカンド守備は俺が一番だと言わせてやる)
立浪はニヤリと笑い、もう一度井端の顔を覗き込んだ。
改めて思う。いい人質だ。
立浪は満足げな顔でゆっくりとその部屋を出て行った。
咲き誇る蘭の群れが妖しくライトに浮かび上がる。
井端はその中に埋もれるようにして眠り続けた。

【残り20人】

471 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/08/01 10:26 ID:9mAd3BYy

91 やがて、悪夢は終わるだろう

シャワーを浴びて戻ってくると、居間のソファで泣く前田を見つけた。雷のお陰か、電気が今になって復旧した様子である。
あれほど、見るなと言ったのに…
掠れ声は声にならない。震える手で指差すテレビ画面の向こうには、
『山本昌 死亡』
のテロップが、赤文字で浮かび上がっていた。
「昌さ……首輪が…なかむらさ………危害…」
言うな。無理して言わなくていい。
紀藤は前田の肩に手をやった。
たかだか18の、世間を知らない子供にこれは酷だ。あまりにも。
ぽんぽんと、優しく背中を叩いてやる。まるで自分の子供にそうするように。前田はゆっくり、紀藤の胸に頭を預けた。
やがてテレビでは前田がリアルタイムで観ただろう出来事がリプレイされる。
今中との対面。そこにはなぜかかつての女房役、縦縞のユニホームが目に新しい中村の姿も。
中村を罵倒する山本。涙と雷鳴。
そして…血の飛沫。
紀藤は、たまらずテレビを消した。
ポケットの中から取り出したハンカチで、前田の顔を拭う。
「もう、休め」
前田はこっくりと頷いた。そのまま、紀藤の膝に頭を預ける。

472 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/08/01 10:26 ID:9mAd3BYy

山本、お前は死ぬ間際、何かを手に入れられたのか?
お前が欲しがっていた何かは、確かにお前の望むものであったのか?
それはもしかしたら、お前はとうに手に入れていたものなんじゃなかったのか。
お前が愛したチームメイト達に愛されるということ。
たった一年の付き合いだったが、俺だってそんなこと、わかっていたよ。
お前は最高の左腕で、ドラゴンズ投手陣のリーダーだってことを。

「全部……」
暫く無言だった前田が、口を開いた。
「……全部、夢だったら、いいのに」
「ああ、……そうだな。こんな悪夢、早く醒めてしまえばいいな」
膝の上の前田が少し、笑った。
「目が覚めたら…今まで見たことは全部嘘で、皆と一緒にまた、いつもみたいに、ナゴヤ球場で練習できればいいな」
「おいおい、ナゴヤ球場か。早く一軍に上がってくれよ」
今度は、満面の笑みを見せた。先ほどのショックでも何とか大丈夫な様子を見せる前田に、紀藤は安堵した。
「おとうさん……僕、いつか、おとうさんと、いや、紀藤さんと……ナゴヤドームでバッテリーを組めたらなって……」
全て言い終わらないうちに言葉は欠伸の中に飲み込まれ、やがて前田は寝息を上げた。

おやすみ、俺の息子よ。
せめて、今はいい夢を。

雨音が耳に心地よかった。紀藤も、背もたれに身体を預けて目を閉じた。

481 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/02 00:38 ID:SwGeAG9s

92 嘘も方便

外を眺めながら、荒木は何となくバッグの中にしまい込んだ銃の事を思い出していた。
DESERT EAGLE.50AEと名の刻まれたそのハンドガンは、
自分が日頃想像していた「銃」よりも重く大きく、とてもまともに扱える代物ではなさそうだった。
やはり、映画のように片手で撃ちまくるというわけにはいかないらしい。
もしかしたら、同じくバッグの中に眠っているごく普通の木製バットの方が
扱いなれているし、戦力になるだろうか。
しかし、ボウガンやら拳銃やらを相手取ってはバットで応戦できるとも思えない。
今の荒木には、完全にナーバスな状態に陥ってしまった福留を守り抜く自信が無かった。
人を殺す事に対する抵抗も未だ大きい。
命を救ってくれた福留の為、と己に言い聞かせるのだが
どうしても空恐ろしい思いに背筋が冷える。
しかしとっさとはいえ、福留はこの重圧を押し退けて自分を助けてくれたのだ…
荒木ははっと我に帰った。しまった、またもや考えがループしてしまった。
本当に成長しない自分が情けない。
ああ、井端さん、井端さんならこんな時どうしますか。
こんな時、井端に頼っていられたらどんなに楽だったか。
けれど井端はいない。自分で考え、行動しなければ。

482 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/02 00:39 ID:SwGeAG9s

「荒木」
背後から呼びかけられ振り向くと、ソファに座った福留が
自分のバッグからガバメントと日本刀を取り出していた。
「孝介、まだ寝てても…」
「俺ならもう大丈夫だ、よく寝たから」
言いながら、福留は銃と刀を腰のベルトに挿した。
大丈夫と言うが、明らかに顔色が悪い。
「無理すんな」
「無理なんか…ほら、俺が立ち直り早いの忘れたのか?」
な、と言って福留は笑った。
不自然なほど明るい笑顔だった。
「…そうか、そうだな、お前、エラーしてもケロっとしてるような奴だもんな。
心配して損した」
荒木も、無理矢理だが笑顔を作ってみせた。
せっかく福留が必死で嘘をついているのだ、それに乗ってやらなくてどうする。
「お前も少し寝ろよ。今度は俺が見張ってるから」
福留の足がふらつくのを見ていない振りをし、荒木は頷いた。
禁止エリアが発表されるのに備えて、少し眠っておいたほうが良さそうだ。
「じゃあ、一時間だけ頼む」
念の為にバットだけバッグから出すとソファの傍に置き、荒木は目を閉じた。
深く眠る自信はなかった。悪夢を見るだろうか。
【残り20人】

486 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/02 22:01 ID:te3/9prf

93 つかの間の平和

長い夜が明けた。
朝の定時放送が入る。相変わらず神経を逆撫でするような古田の声が響いてくる。
「えー、じゃあ、立ち入り禁止区域ですがー、今日はぐぅーっと下がって南区。南区を立ち入り禁止にしますー。近いところにいる人もいるようですがー、うっかり区の境界線をまたがないよう気ぃつけてくださいねー」
それを聞いて、井端はベンチから立ち上がった。
井端がエントランスを通りかかると、当然のことながら小山の死体はまだそこにあった。
それがまだ非日常の中にいることを解らせる。
「昨夜はよく眠れたか?」
カフェに行くと既に立浪がいた。それどころかテーブルの上には簡単な朝食の用意が整っていた。
迎える立浪は普通の、いつもの立浪に見える。でも違うのだ。
「なんで俺にはそんなによくしてくれるんです?」
答えはなんとなく解っていたが、井端はそう尋ねた。
立浪はニヤリと笑う。
「お前は荒木に対していい人質になるからな」
ああ、やはりそうなのだ。自分は荒木と対した時に有利に事を運ぶための人質なのだ。
井端は考えていた通りの答えに小さく頷いた。
「じゃあお前は何のために俺についてきた?」
逆に立浪が問いかけた。井端は立浪をジッと見た。
「・・・立浪さんに荒木を殺させないためです」
井端は答えた。立浪も井端の答えは解っていたようで、表情一つ変えることはなかった。
「まあ食べろよ。今日は暑くなりそうだ」
一面のガラス窓から昨日の大雨がウソのように、明るい日差しが差し込んでいた。
井端は立浪に向かい合って腰掛けた。立浪はもう食べ始めている。
それを見ているとこのゲームが本当にバカらしいモノに思えてきた。
目の前にいるのは、敵・味方で言えば『敵』だろう。
なのにこんなにのんびりとした朝を一緒に迎えている。
平和だ。あまりにも平和なひとときだ。
このまま時が止まってしまえばいいのに。

「さて腹ごしらえもしたことだし、そろそろ荒木を探しに行くか」
日常のなんでもない言葉のように立浪はそう言った。
その一言で井端はキュッと唇を結んだ。
また悪夢が始まる。

【残り20人】

487 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/02 22:48 ID:C5cDCbSW

94 別れは突然に

「あ、誰か来ますよ」
遠藤が不意に通りの向こうを指差した。2人連れのようだ。
「立浪さんと、井端だな」
関川もそれを確認した。久慈も頷く。
こっちは名古屋駅に向かって歩いていたところだったが、どうやら向こうも同じ方へ行くところらしい。
3人は歩みを止めて2人が来るのを待った。

「あれは遠藤たちか?」
その頃、立浪たちも前方の3人に気付いた。向こうは立ち止まっている。どうやら自分達を待っているらしい。
「・・・・・」
立浪に続いて少し足を早めながら井端は立浪を見た。
相手が荒木じゃなければ、向こうから仕掛けてこない限り立浪も手を出さないだろう。
しかし、妙な胸騒ぎがした。
「あ、久慈さん」
井端はその中に久慈を見つけて嬉しそうにその名を呼んだ。助けてもらったお礼を言わなければ。
「久慈か。・・・久慈もセカンドをやってたな」
駆け寄ろうとした井端の隣で、立浪が呟いた。
井端は全身が凍りついたように動けなかった。
確かに久慈も何回かセカンドの守備についたことがある。しかし久慈の定位置は誰が見てもショートだ。
立浪のセカンド定位置を脅かすとは思えない。
それなのに・・・。
「・・・久慈さんっ、逃げてください!」
搾り出すように叫んだ井端の声と、立浪の投げたナイフは同時に久慈に届いた。
「テル!」
倒れかけた久慈の体を関川は抱きとめた。久慈の胸には深々とナイフが突き刺さっていた。
「・・・このやろう!」
よくもテルを・・・。
カッとして関川は立浪に銃を向けた。
井端はとっさに立浪の腕を引いて路地へと入っていった。
「チッ」
後を追おうとした関川は足を止めた。それより久慈の方をなんとかしなければ。

488 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/02 22:50 ID:C5cDCbSW

「テル! しっかりしろ! テル!!」
「・・・セキ・・さ・・・ん・・・・頑張って・・くださ・いね・・・・最後まで・・・生き残っ・・・て・・」
久慈の声はもはや途切れ途切れだった。
関川が揺さぶっても久慈の体からは次第に力が抜けていくようで、関川の腕に死んでいく重さがのしかかった。
やがて久慈は目を閉じ、がっくりと頭をたれた。
「・・・テル・・・」
関川は久慈を頭を抱え込むようにして肩を震わせた。
こんな風に殺されてしまった久慈の無念さ、そしてどうすることも出来なかった自分の無力さに、声も無く涙が零れた。
「関川さん・・・」
どうしていいのか分からず、遠藤はそう呼びかけた。
「・・・独りにしてくれ。どこかへ行ってくれ。ここからはもう独りで行かせてくれ」
関川は顔を上げずにそう遠藤に言った。遠藤は俯いた。
「これは返す。丸腰では困るだろう」
関川は持っていたベレッタを遠藤に向かって突き出した。
遠藤はためらった。
目の前で殺される久慈を見ては、やはり1人になるのは怖い。
しかし遠藤はそれを震える手で受け取ると、その場を離れるしかなかった。

「テル、お前の仇は俺が絶対にとってやるからな」
ひとしきり泣いたあと、関川は涙を拭ってそう久慈に言った。
「お前の前にあいつの首を持ってきてやるからな」
久慈の胸に刺さったナイフを抜き取り、握りしめた。
関川は歩道脇の陰になったところに久慈の体を運んだ。そしてゆっくりと横たえた。
「お前の銃も使わせてもらうからな」
久慈のバッグからデリンジャーと予備の弾薬を出して携帯する。
「じゃ、ここでちょっと待っててくれよ。すぐに帰ってくるからな」
答えることのない久慈にそう言って関川は立ち上がった。
立浪、テルの仇、殺してやる。
関川は井端と立浪が消えた路地の方向を睨むと駆け出していった。

【残り19人】

494 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/08/03 15:50 ID:RvyiOLpw

95 それぞれの夜明け

朝の定時放送で流れたラミレスの『アイーン体操』でラジオ体操をする川上と、座り込んだままの朝倉の横に寝転んで、中日ドラゴンズの未来のエース、『右の今中』こと、中里篤史は大いにふてくされていた。
雨はあがり、昇竜館のサーバは復旧したものの、肝心の本サーバが既に落とされており、不正進入は不可能となっていた。
恐らく、オフラインにして復旧作業が進められているのだろう。
「……なあ、どうするんだよ」
沈黙にたまりかねて朝倉が口を開いた。中里は応えない。
「なあ……、なあ!!」
揺り動かすと、中里は飛び起きた。朝倉の鼻先に、ワルサーの銃口を突きつけて。
「うるさいなあ…どうするもこうするもどうにもならないから何にもできないんでしょう何かあるなら言ってみてくださいよ、さあ、さあ!」
ぐいと鼻を押しつぶされる。これ以上鼻の穴を大きくされてはたまらない。
「お前が俺と組みたいって言うからついてきたんだろうが!一緒に考えてみようぜ?そうやっていつまでもふてくされてないでさあ」
「ふてくされてなんかいませんよどうせもう僕もあなたも死ぬんだからとっとと好きなところへ行ったらいいんじゃないんですか?当然そのときは僕のコイツであなたの頭を吹き飛ばしますけどね」
「中里…てめー、いいかげんにしろよ……?」
朝倉が床に転がしていた包丁に手をかけたそのとき、瞼の奥に火花が飛び散った。
「お前達、仲間割れもいいかげんにしろ!!!」
ゴツン、ゴツンと川上のゲンコツが、朝倉と中里の頭に食らわされたのだった。
「はい、仲良くする!いいな!!」
二人の手をむりやりもぎ取って握手させる。口を尖らせたままの後輩たち。
あーー、もう…お守りなんて、やってられないよ…。
井端、生きてるんだったら助けてくれよ…。
川上は窓の外に広がる、晴天の空を見上げた。

495 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/08/03 16:13 ID:RvyiOLpw

96 永遠の別れなんてない

窓の外から差し込む日差しで、紀藤は目が覚めた。
夜が、明けたのか。
ソファの上とはいえ、ずいぶんとゆっくり眠らせてもらった。
もう何日も、まともに寝ていないような気がした。
膝の上の少年を起こさないよう注意して動いたつもりだったが、環境の変化で過敏になっているのであろう前田も続いて目を覚ました。
「悪いな…、起こしたか」
「いつのまにか、寝ちゃいました。僕、枕が変わると寝られないんですけど、なんでかな、ふふ」
あと数時間もしないうちに、定時放送が流れるだろう。
首が吹っ飛ぶ前には、ここから出て行かねばな。
戸棚にあったパンをくわえ、乱れた髪をかきあげる。
「お前も、メシを食ったら、早く帰れ」
「……いえ、しばらくは名古屋に残ります」
「!!何で…。お前はまだ若い。俺たちがいなくなったあとのドラゴンズを背負って立つ人間だ」
前田の顔がみるみる曇った。いたたまれなくなり、紀藤は目の前の大きな子供を抱きしめた。
「僕は…何が起きているのか、全てをこの目で確かめたい。たとえどうなってもいいんです」
「章宏。辛い思いをさせて悪かった…
 お前はここ名古屋で、大人たちのエゴ、球団経営の闇、世の中の汚いもの全てを見るだろう。
 だが、どうか耐えてくれ。そして全てを残された者たちに伝えてくれ……」
紀藤は、ハンカチを前田の手首に結んだ。
お前にはいつも、とうさんが、ついてる。
そして、バッグを背負って再び戦場へと駆け出した。
背中を見送る前田の目にもはや涙はなかった。
唇を噛み締めると自分の部屋に戻り、クロゼットからユニホームを取り出す。
父から授かった『55』を背に、少年は再び、ペダルを漕ぎ始めた。

499 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/05 00:17 ID:mIEOQaD4

97 追う者・追われる者

昔ながらの大須の町へ逃げ込んで、井端はようやく立浪の腕を放した。
「なんで俺を助けた?」
立浪は息を弾ませながらそう問いかけた。
「関川に撃たれて俺が死ねば、荒木もお前も難なく生き延びることが出来たろうに」
「・・・何ででしょうね。死んでくれたほうがいいような人でも銃を向けられていたら、とっさに助けようと思うんですね」
井端は荒い息の間から答えて、座り込んでいる立浪の隣に自分も腰を下ろした。
確かに立浪の言うとおりだ。
さっきあのまま関川に撃たれて立浪が死んでくれていれば、荒木ももう狙われずに済んだのだ。
しかし助けてしまったからには、立浪は荒木を探し、殺そうとするだろう。
「ふん、お人好しだな」
立浪は笑うような声で言った。
「仕方がないですね」
そう言って井端も苦笑いを浮かべて地面に視線を落とした。
久慈はやはり死んでしまっただろうか。
久慈の胸に刺さるナイフ。そして倒れていく久慈。
あのシーンをコマ送り再生のように思い出す。
やはり久慈は助からなかっただろう。
結局久慈に礼を言うことは出来なかった。立浪の狂刃から救うことさえ・・・。
立浪が何かを感じたように背筋を伸ばした。つられるように井端も顔を上げた。
「立浪さん?」
立浪は無言で井端の腕を掴んだ。そして井端を引き上げるようにして立ち上がると、民家の生垣の狭い隙間に身を滑り込ませた。
「・・・・・・」
2人は息を潜めた。井端の耳にも今ははっきりと足音が聞こえていた。
生垣の重なる枝葉の間から、関川が左右を見回しながら横切っていくのが見えた。
自分達を、立浪を探しているのだ。
「行ったか・・・」
立浪が体を起こすとその下に身をかがめていた井端も腰を伸ばした。
立浪が笑う。
「お前はやっぱりお人好しだな」
「え?」
「一緒に身を隠してないで、俺を突き飛ばせばよかったんじゃないのか。そうすれば俺は関川に見つかって、関川が俺を殺してくれたかもしれないぞ?」
立浪の言葉に井端はビクッと体を震わせて立浪を見た。
「ああ・・・ああ、そうですね・・・」
井端は左手でそっとナイフを握り締めた。
今なら立浪をこの手で・・・?

500 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/05 00:19 ID:mIEOQaD4

「見つけたぞ、立浪ー!」
ハッとして立浪と井端は振り返った。関川が近付いてきていた。
関川が手に持っているのは小さいながらも銃だ。
「よくもテルを殺したな! テルの仇だ! 殺してやる!」
関川はそう言うと迷わず発砲した。
井端は再び立浪の腕を掴んでその銃弾を避けた。そして再び立浪を引っ張って走った。
「井端! 立浪を庇うならお前も殺すぞ!」
背後から関川の声がした。それでも井端は立浪を掴んだまま走り続けた。
そして2人は万松寺へ飛び込んでいた。
入り組んだ寺の中ならすぐには見つからないだろう。
「井端・・・」
「あなたを殺すのは俺です」
立浪が言いかけた言葉を遮って井端はそう言った。
「あなたが荒木を殺そうとした瞬間に、俺があなたを殺します。そこでしか、あなたに隙は出来ない」
立浪の手がこの瞬間もナイフに触れているのを知っている。井端の言葉に立浪はニヤリと笑った。
「ふん、荒木を見つけたらお前に邪魔はさせん。さっさとカタをつけさせてもらう」
井端はそう言った立浪をジッと見つめた。
「まあ、当面は荒木を探すより、関川から逃げるしかないようだがな」
「関さんは殺さないんですか?」
「殺せたら、殺す」
立浪はそう言ってもう一度ニヤリと笑った。
井端は目を伏せた。
荒木、今お前はどこにいる?
どうか俺達の前には姿を現してくれるな。
井端は短く祈り、そして追ってくる関川の気配に神経を尖らせた。

【残り19人】

501 名前: ルーファン 投稿日: 02/08/05 00:46 ID:/V0CAVO0

98 奴らは何処だ

朝の定期放送を終えて、古田は不機嫌だった。
禁止地区を増やしたのはいい。
だが、だれがどこにいるのか、皆目見当がつかないのだ。
何者かの手によって破壊されたシステムは未だに復旧していない。
現在に至っても首輪の居場所の探知はおろか、音声の受信すらも不可能。
頼みとなるのは、名古屋市内のあちこちに仕掛けた監視カメラのみ。
これも数が多い上に、死角に入られてしまうと見つけようがない。
首輪の爆破はかろうじて可能だということは確認できたが…。

不用意に町中をうろついている、藤立と大西。
大須に駆け込んだ立浪、井端、関川。
関川と離れたばかりの遠藤。
熱田神宮の落合、正津、筒井、森。
…今、正確に居場所が分かっているのはこれだけ。
それも今の場所から動かれると、見失う可能性もある。

そのうえ、
2人一緒に行動しているはずの福留、荒木。
大量の武器弾薬を手に入れた井上。
ナゴヤ球場付近からの足取りがつかめない紀藤。
自分の駒となるはずだった谷繁、ギャラード。
ツクモ電機本店に入る所までは確認されている川上、中里、朝倉。
この約半数のメンバーの正確な所在地が分からない。

「まだか…」
システムの復旧が思いの他遅れている。
まだ何者かが妨害をしているのでは…。
その可能性が古田の頭をよぎった。

【残り19人】

503 名前: ルーファン 投稿日: 02/08/05 01:35 ID:Kf6duLK3

番外編6 西方浄土

「打球はショートへ…危ない!取ってファーストへ!
 やりました!野口!ノーヒットノーラン達成!」
鳥越裕介はダイエーの宿舎であの日のビデオを繰り返し見ていた。
1996年、野口茂樹がノーヒットノーランを達成したあの日。
最後の打球を処理したのは鳥越だった。
「…『危ない』ってなんだよ…久野さんよぉ…」
このビデオを見なくなってどれくらい経つだろうか。
ビデオの中で、子どものように喜んでいる男は、もうこの世にはいない。

1999年、その年に加入した福留とのポジション争いに敗れ(それ以外の原因もあったが)、
ダイエーにトレードされた。
だが、この年にセ・リーグは中日、パ・リーグはダイエーが優勝。
4勝1敗でダイエーが日本一となった。
中日にいたままならば、この栄冠を手にする事は間違いなく出来なかっただろう。
鳥越にとってはこのトレードのおかげで日本一を体験できたとも言える。
今はここでどうにかレギュラーの座をつかんでいる。

あれから月日は流れ。
大型ショートとして期待された福留もあまりの守備の酷さに外野手に転向。
左ピッチャー限定でスタメンを任される事もあった井端が
久慈とのポジション争いに勝ち、今や中日の新しい顔となっている。

あのトレードがなかったら。
あの場所に立っていたのは自分だったかもしれない。
だが、その幸運を感謝する気にはならない。
ビデオを巻き戻す。
野口よ。今のお前なら完全試合だって出来ただろうに。
何で逝ってしまったんだ。早すぎるぞ。
…お前の優しい性格なら、仕方ないか。
…そうだ。
将来、おれがそっちに逝ったら、一緒にチームを組んで
巨人を相手に完全試合をやってやろう。
大丈夫だ。オレの守備もあの時よりは上達しているから。
なぁ、野口…。

505 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/05 09:51 ID:91pr/FfQ

99  宿命

星野仙一は名神高速道路を走っていた。
ラジオからは相変わらず悪趣味な実況が聞こえて来る。
信じられないことだが、もう人数は半分以下に減ってしまったらしい。
それにしても、再び(しかもこんな形で)中日のユニフォームに袖を通すとは
思ってもいなかった。
半年前、星野はフロントと半ば喧嘩別れの形で球団を去った。
そして、阪神の監督に就任。
過去は忘れようと思った。
だが、どうしても中日への愛着心は捨てられなかった。
だから、この馬鹿げたゲームが始まった事を知った時、いてもたってもいられなかった。
かつての教え子達が殺しあう場面をテレビの前の一視聴者として見ていることは、
星野の正義感がどうしても許してくれなかった。
「因果なもんやな‥。」
そう呟くと、ふと距離表示の看板が目に入ってきた。

     『名古屋まで、あと50km』

507 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/05 12:28 ID:hOenHR6t

100 規制

朝のアナウンスの声と共に荒木は目を覚ました。
どのくらい寝ていたのだろう。
アナウンスを聞き終え、窓から外を見てみるとずっと降り続いていた雨も止み、雲一つない青空が広がっていた。
軽く寝るつもりだったのに。
荒木の寝ていたソファーの隣にあるもう1つのソファーに福留が寝ている。
見張っててやると言ったものの、今の福留がそれをできる状態ではないと荒木は覚悟していたので、それほど福留が寝ていることに対し驚くことはなかった。
まだ福留は精神的な疲れがとれていない。
山崎を殺してからだ。
山崎は自分の死と引き換えに福留の中に自分の存在を残した。それが徐々に追いつめ、蝕んでいく。
山崎の呪縛から逃れられる術など荒木が知るはずもなかった。
なぁ孝介。
俺が立浪さんに殺されそうになった時、お前はどうする?
立浪さんを撃って俺を助ける?
それとも人を殺すことのできないお前は黙って俺が殺されるさまを見ているのか?
荒木は自分が立浪に狙われていると知った時からずっと考えていた。
自分のことを見殺しにする福留を想像できてしまうのも何とも情けない話だ。
自分もネガティブになりすぎている。
「・・・ん・・」
「お、孝介目覚ましたか」
福留は起き上がり一度大きなあくびをした。
「あ、俺寝ちまったよ・・・ごめん」
「いや、いいよ。睡魔には誰だって勝てないモンだし」
福留はやはりしょんぼりしている。
もし自分が寝てしまったせいで何か起きたとしたら・・・と考えているに違いない。
荒木は話を変えようとし、先ほどのアナウンスのことを話した。
「南区が禁止区域か。全く問題ないな」
『はーい、言い忘れていたことがありましたので言いますよ』
突然のアナウンスに2人はビックリした。
ん?この声は・・・。
「荒木、この声って・・・仁村コーチじゃねーのか?」

508 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/05 12:28 ID:hOenHR6t

『古田くんがね今ちょっと他の作業で忙しいらしいから代理でこの仁村がやらせていただきます』
仁村コーチ、あなたまであっち側の人間だったのですか・・・。
山田監督や佐々木コーチもやはりそうなのか?
『視聴者からもっと選手が疑心暗鬼になっているところが見たいという意見がたくさんあったので、テレビ、ラジオなどを禁止するため、全ての電源を切りまーす。夜はろうそくや懐中電灯とかで何とかしてください。』
もっと疑心暗鬼になってほしいだと?こっちはどんな思いでやっているのかわかってるのか。
『あと、移動は徒歩のみです。車、自転車等は一切禁止ですよ。ではがんばりなさい』
「クソッ、規制だらけじゃねーかよ」
と言い、荒木は壁を蹴る。

【残り19人】