2ch野球板 バトルロワイアル 参加者名簿 中日ドラゴンズバトルロワイアル第五章~ENDING~(4)


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509 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/08/05 17:05 ID:Gd6i3Zmo

101 侵入者、なし

マスコミとは無情なものだ。
一夜が明け、赤い目をした今中がスタジオに戻るとカメラはその顔をアップで捕らえた。
涙と寝不足でそれはもはやかつてのエースの原型をとどめてはいない。
疲れ切った男がただ、一人、いるだけ。
司会者が意見を求めても、ああそうですかと投げやりな返事を返すことの繰り返し。
しかしそれもまた視聴者が望むものなのである。
過去に苦楽を共にした仲間が一人、また一人、命を落とす現実に直面し、壊れてゆく元エースの姿を。

朝の放送を終えるやいなや、不意に古田が席を立った。
画面はスタジオから、市内に設置された各監視カメラの映像へと切り替えられている。
「今中さんも、よかったら休憩を」
ディレクターに告げられ、席を離れる。
気分転換になんてなりやしない…そう思いながらも、せめてもの抵抗としてスタジオを出る。
しかし廊下に設置されたモニターは全て、ご丁寧にもテレビ中継に切り替えられていた。
目に、耳に、飛び込んでくるもの全てを消し去りたい。
思い出の品が揃うそこを訪れることは新たな苦しみになると思ったが、今中は球団資料の展示コーナーへと向かった。
一瞬だけ訪れる静寂。
だが、その安堵感も先客の姿によって消える。
選手同様俺のことも、どこにいようと監視するということか。好きにしろ、逃げも隠れもしない。
貼り出された歴代選手のプロフィールを眺めていたのは、今年就任したばかりの佐々木コーチ。
この人も、既に『本部の人間』なのか。いや、もしかしたらそのために中日へ入ったのかもしれない。
たとえば福留が最後まで生き残るのを確かめて近鉄へ斡旋するというような…
憎々しい顔をして佐々木の背を凝視していると、彼は振り返った。マスクなどしている、風邪でも引いているのか。
佐々木は今中へ歩み寄る。
そして、すれ違うとき、
トレードマークのサングラスを、
ほんの少しだけ、
外してみせた。
「……山田さん!!」
驚愕する今中に背を向けたまま、男は軽く手を挙げて立ち去った。
古田が向かったマシン室からはやがて、佐々木『本人』の姿が発見され、ドーム全体へと混乱が広がってゆく。

511 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/05 19:42 ID:aMjg0zhL

102 うずまく殺意

「う、うわっ!」
遠藤政隆が物音に驚いて後ろを振り返ると、カラスがゴミをあさっていた。
遠藤はつくづく自分の気の弱さを呪った。
ピッチャーとしてだって、度胸がないせいでいつもここ一番で打たれている。
そんな事だからいつまでたっても自分は中継ぎ要員のままなのだ。
久慈の死を目の前で目撃し、遠藤の弱い心は限界近くまで達していた。
関川と別れた遠藤はとにかく誰かと、一緒に行動する仲間と会いたかった。
1人でさまよっているのはもう嫌だった。
栄まで戻ってきたのも、ここになら誰かがいそうな気がしたからだ。
遠藤の頭にはある人物の顔が浮かんでいた。
「落合さん‥‥。」
落合英二。
中継ぎ投手陣をまとめてきた彼になら、安心してついていける。

と、その時、誰かが遠藤の視界の中に入ってきた。
「あれは‥、井上さん!?」
遠藤の前方を歩いていたのは荷物をたくさん背負った井上一樹だった。
「井上さ~ん!!」
遠藤は大声をあげて井上を呼び止めた。
この際、1人でなくなるなら野手の井上でも構わない。
だが、振り返った井上から投げられたのは再会を喜ぶ言葉ではなく、
何やら丸い物体だった。
「え?」
何かが自分の横を通り過ぎて行ったのに気付いた時、遠藤は後ろからの
爆風に吹き飛ばされていた。
「‥‥い、井上さん、な、何でっ?!」
しかし、その物体(手榴弾?)が遠くはずれたお陰か奇跡的に遠藤は軽傷だった。
「あ‥‥、あ‥‥、も、もう嫌だ!もう嫌だ!」
混乱した遠藤は全速で井上から逃げ去っていった。
「あちゃー、狙いが外れちゃったか?
 そういや、俺ノーコンだからピッチャー止めさせられたんだったな。ふふ。」
井上はそう言うと栄の街に消えて行った。

【残り19人】

515 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/06 08:02 ID:nhVIbT7w

103 決意

大西崇之と藤立次郎は千種区今池の辺りを歩いていた。
「しかし、名古屋の街は殺風景でいかんな~。
 神戸はもっと異国情緒ってもんがあるんやけど。」
「そうですか?慣れれば結構いいもんですよ、藤立さん。」
自分達2人はこの試合の開始以来こうして名古屋の街をさまよっている。
チームメートが半分に減ってしまったという現実感は大西にはなかったが、
それは幸運にも『やる気』になっている人間に遭遇した事がなかったからかも
しれない。
「‥‥なあ、大西。
 さっきの放送おかしいと思わんかったか?」
藤立の顔が急に真剣になった。
「へ、何かありましたっけ?」
「あの、テレビや車が使えなくなるって奴や。」
「いや、別に普通じゃないですか?」
「お前も間抜けな奴やな。
 あの規制ってのは、この試合に乗り気な奴らに不利になるんや。
 いいか、バーの奥のテレビで俺らの行動が詳しく実況されているの見たやろ?
 誰かを狙ってる奴はそれを見て相手の位置を探る事ができた。
 だけど、これで誰かに遭遇する事を運に任せるしかなくなったんや。
 これは俺達に殺しあいをして欲しい主催者の意図と矛盾してないか?
何か、何かあるで‥‥。」
この人は意外と切れるのかもしれない、と大西は思った。
「考え過ぎじゃないっすかね。」
ふと大西が支給品のレーダーに目をやると、すぐに異変に気付いた。
「し、しまった!」
「どないしたん?」
「しばらく目を離していたら誰かが凄いスピードで近付いて来ている反応がある
 んです!
 ‥‥あ、も、もう、すぐ後ろに‥‥。」
後ろを振り返ると、そこには銃を構えた男が立っていた。

516 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/06 08:03 ID:nhVIbT7w

終わった、大西はそう思った。
不思議と怖くはなかった。
藤立が横にいるお陰かもしれない。
1つ心残りなのは残される家族の事だった。
だが、その男の口から発っせられた言葉は大西にすれば意外なものだった。
「く、来るな!来ないでくれぇ!!!」
は?
柄にもなく、覚悟を決めていたのに‥‥。
大西は全身から緊張が抜けていくのを感じた。
「なんや、遠藤。
 そないな物騒なもん持って。
 とっととしまってこっち来いや。」
「い、嫌だ!あんたらも俺が油断する所を狙ってるんだろう‥‥?
 早くどっかに行ってくれよ!」
遠藤政隆は青ざめた顔をして立っていた。
「しょーもないやっちゃな~。
 俺らは武器になるもん持ってないで。
 ほら、両手を上げるから。」
この人は本当は凄い器なのかもしれない、そう思いつつ大西も藤立に続いて
両手をあげた。


「そうか、久慈さんが立波さんに‥。あと井上はやる気になってるのか?」
「あ、あの人はヤバいです。な、なんというか‥‥。」
それ以上言葉にならなかった。
震える遠藤を尻目に藤立は何やら考えだした。
「このまま殺されるのも何かしゃくやしな~。
 なんとか、上層部の奴らに一泡吹かせたいな‥‥。」
本当にこの人は‥‥。
大西は藤立の目に普段試合で見せるような闘志が宿り始めている気がした。

【残り19人】

517 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/06 14:23 ID:mXa0bZKj

104 42人目の参加者

「仁村さん、あなたの責任でもあるんですよ!」
古田敦也のイライラは頂点に達していた。
いつまで経っても復旧しないシステム。
ドームから姿を消した山田久志。
大阪で行方をくらまして以来、消息のつかめていない星野仙一。
目に付くものすべてが反乱因子に見えた。
まさか、こんな事態になろうとはさすがの古田のIDも予期していなかった。
「大体どういう事ですか?
 今後活躍しそうなのが、谷繁、ギャラード、井上の3人だけってのは!?
 それに、さっきから全然人数が減ってないじゃないですか!
 あなたの普段の指導方針に問題があるんやないですか?」
「そんな事言われてもな‥‥。
 そうだ、人数が減らないなら昌の時みたいに首輪をつかったらどうだ?
 手動だったら動くんだろう?」 
「仁村さんねえ‥‥、スタッフから聞いてないんですか?
 昌さんが亡くなった後、視聴者からの抗議が凄かったみたいなんですよ。
 まあ、盛り上がってる場面でしたしね。
 だから、もう下手にその手は使えないんですよ。
 プロ野球人気の回復のためにこんな事やってるのに、視聴者の反感買ってたら
 意味ないですからね。」
「そうなのか‥‥。」
「とにかく、このまま動きがなかったら、仁村さん、分かってますね?」
「ま、待ってくれ。
 実はこんな事もあろうかと、フロントに頼んで海外から助っ人を呼んで
 もらっていたんだ。」
「助っ人?」
「そうだ。
 1人はキューバの至宝、もう1人はブラックスネークと呼ばれている奴らだ。
 もうすぐここに着くと思うんだが‥‥。
 そいつらならきっと今の状態をかき回してくれるぞ。」
「そんな人たち、当てになるんですか?
 ‥‥ったく、とにかく頼んますよ仁村さん。」
古田はそう言って仁村のもとを後にした。
窓の外では雲行きが怪しくなっていた。
プロ野球選手会会長も楽じゃないな、古田はそう思い直しスタジオへの道を急いだ。

【残り19人】

526 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/08 02:17 ID:nmLR4XgS

105 諍い

「荒木、落ち着けよ」
「これが落ち着いていられるかっ」
頭では解っている。今更自分たちに抵抗する術などない。
そして中日関係者のほぼ全員が既にプログラムのスタッフになってしまっている。
けれど、解っていたら諦められるという類のものか?これは。
荒木は再度壁を蹴りつけた。
足が痛くなったが、それ以上に頭に血が上って殆ど気にはならない。
「やめろってば!荒木!」
福留に肩を掴まれ、荒木は何かが切れるのを感じた。
「お前はいいよな、誰かに命を狙われてるわけでもないんだからな!」
「あ、荒木…」
駄目だ、と思ったが止まらなかった。
いつ立浪が現れ、自分に凶刃を突きつけるか知れない。
何だかんだと言っても、荒木は恐ろしかった。ただ、恐ろしかった。
頼れる存在だった井端も今はどこにいるかも解らないし、
再会できたとしてもまた逃げられるだけだろう。
それに、立浪以外にもやる気になっている連中はいるに決まっている。脅威は立浪ばかりではない。
そういったあらゆるマイナスの要因が、荒木から冷静さを奪っていた。
「いざとなったらお前は立浪さんを殺せないんだろう!
俺が殺されるのを黙って見ているつもりなんだろう!
そうさ、どうせ全部他人事だと思ってるんだ!」
「なっ…どうしてそんな、俺は…!」
「…ああ、お前は?何だって言うんだよ、え?」
福留は俯いた。

527 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/08 02:21 ID:nmLR4XgS

俺は…と、力なく呟く。
荒木はため息をついた。…ああ、まただ。
つまらないことで喧嘩をして、なんとなく仲直りをして、これじゃ何も変わらないのに。
この非常時にこんな有様では、とても生き延びられるとは思えない。
どうして頭で解っているのに、こうなってしまうのだろう。
「…どうしても俺を信用してくれないんなら…俺が立浪さんを…殺してもいい…」
「孝介?」
思わぬ言葉に、荒木は戸惑った。何を言っているんだ、立浪さんはお前の憧れの人じゃないか。
「誰にも信用されないよりはましだ…」
「いい、もういい、孝介、俺が悪かった」
まさかそこまで思い詰めるとは。いつも明るい福留の言葉とは思えない。
やはり口では何を言っても、人を殺してしまった事のショックが大きすぎるようだ。
窓から燦々と射す日の光が少しも心地よくなかった。
「な…いつまでもここにいるわけにも行かないし、どこかに移動しないか」
ともかく、この狭い室内は気詰まりすぎる。
荒木が自分のバッグを持ち上げて提案すると、福留は無言で頷いた。
そうだ、今は喧嘩をしている場合ではない。この怒りは全て主催者達にぶつけるべきものだ。
苛立ちを必死で抑え、荒木は何度も自分に言い聞かせなければならなかった。
本当に、このプログラムに巻き込まれて以来嫌なことばかりが重なる…
【残り19人】

534 名前: ルーファン 投稿日: 02/08/09 23:08 ID:4t6Sa+sx

106 カウンター

…何が起きているんだ…紀藤は走り続けている。
『誰かが待っている』
そんな予感がして行った昇竜館だったが、
そこが西区にある事に、そして西区が立ち入り禁止区域に指定されていた事に気づかなかった。
息子たる前田章宏と会い、彼の寝顔を見ている時にその事に気づいたのだ。
ベテランらしからぬ失態だった。
だが…首輪が爆発する様子が一向にない。
まだ高校を出たばかりの章宏の前で、残酷なシーンを見せる事は忍びなかったのだろうか。
いや、このゲームの主催者がそんな情け心を持っているとは思えない。
喜々として首輪を爆破し、父を失った子どもの顔を晒し者にするはずだ。
それは、将来の中日を担うであろうキャッチャーを精神的に崩壊させることにもなるはずだ。
そうしなかったという事は…。
信号の消えた町を紀藤は走り続けた。さすがに息が上がる。
考えるのは後だ。とにかく西区を出なくては。
奴らに気づかれる前に…
…気づかれる前に…
…気づかれる?

535 名前: ルーファン 投稿日: 02/08/09 23:11 ID:4t6Sa+sx

「そうか…」
紀藤は足を止めた。
奴らは、自分が今いる場所を知らない…!
多分、首輪のタイマーが止まったと言う古田のアナウンスがあった時間から…!
いや、ならば神野は…?
西区の庄内緑地公演から動けないまま首輪爆破されてしまった彼はどうなる?
あの瞬間はしっかりテレビ中継されていたはず………
その時、紀藤の視界の隅に光るものが入った。
昇竜館から失敬した双眼鏡を目にあててみる。
パチンコ屋のネオンの間に、そっぽを向いたテレビカメラが見えた。

監視カメラ!
そうか、神野はこれに見つかったのか。首輪爆破の瞬間を流したのも、この監視カメラだろう。
だが、双眼鏡に写ったそのカメラは動いている様子がない。
沈黙を守り、あさってを向いたままだ。
『テレビ、ラジオなどを禁止するため、全ての電源を切りまーす』
今朝の仁村コーチのアナウンスが耳の奥で蘇った。
まさか、監視カメラの電源まで落とされている!?
もしそうだとすれば…。

…チャンス、だ。
紀藤は禁止地区に指定されている東区へ向けて動き始めた。
監視カメラや首輪の位置検索システムがいつ復旧するかは分からない。
だが、主催者にカウンターを喰らわせるなら、今をおいて他にない。

【残り19人】

544 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/08/13 13:22 ID:mzkm9Wx4

107 籠城

半ば放心状態のまま夜を明かした筒井は、名古屋城の天守閣から城下を眺めていた。
整然とそびえ立つオフィスビルに囲まれたここは見通しがよい反面、城下の茂みに誰かが潜んでいても気づくことはないだろう。
希望を求めて向かった熱田の森で遭遇した、谷繁達の奇襲。
怯える自分たちに重症の傷を負った落合は告げた、そこに残ってはならないと。
集団は強いが、狙われれば全滅する可能性も高い。
自由の利かなくなった身体を正津に預け、落合達もまた、夜の闇の向こうへと去っていってしまった。
部屋の中には、床に青龍刀を投げ出したまま宙を眺めて横たわるショーゴー。
まさかこいつが、ゴメスに斬りかかるとは。
最も従順な後輩が、もしかしたら自分の敵になるかもしれない。
一瞬だけ頭に浮かんだ良くない考えをうち消そうと頭を振った。
なあ、ショーゴー。
俺はもう、わからないよ。
何が正しくて、何が間違っているのか。
ポケットに隠し持った毒薬の瓶を、服の上から触れて確かめる。
叔父さん。
今、何を思ってる?
俺にこんなことをさせるために、プロの道に向かわせたわけじゃないでしょう?
俺はただ純粋に野球がしたかっただけで、こんな社会の裏構造を知りたかったわけじゃない。
叔父さんも今、怯える俺達の顔を見て、『他人事』みたいにああかわいそうと泣いてるの?
それとも、逃げてばかりの俺を、情けないと怒りにうち震えてる?
叔父さん…
いや、やめよう。
『星野監督』のことばかり考えていては、コネクションの固まりと思われても仕方がない。
俺は筒井、『星野の甥』なんかじゃない。プロ野球選手、筒井壮なんだ…。
窓の向こうの景色に背を向けたその瞬間、爆発が起こった。
慌てて飛び起きたショーゴーとともに、筒井はビルの谷間から立ち上る煙を確かめた。

546 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/13 15:54 ID:hd1ouj2U

108  イントルーダ-

「ふ、藤立さん、い、い、今の爆発は?」
遠藤政隆は突然の爆音に驚き藤立次郎に寄り掛かった。
「誰かが殺しあってるんやろな。
 そんなことより、遠藤、大西、この道路を越えたらそろそろ禁止エリアや。」
爆発を『そんなこと』で片付けないでくださいよ‥‥。
遠藤はこの極限状態に藤立が冷静でいられる事が信じられなかった。
現在、藤立、大西、遠藤の3人は今池から北上して名古屋ドームに向かっている。
「そもそも、どうして禁止エリアに入れるなんて事が判るんですか!?
 何か根拠でもあるんですか?
 もし間違ってたら首がふっとばされるんですよ!」
「勘や、勘。勝負師の勘。
 もし外れてても、死ぬのが少し早くなるだけや。
 グチグチぬかしてないで、さっさと行くで。」
ひょっとして藤立さんはもう既に頭がおかしくなってしまっているんじゃないだろうか?
そんな考えさえ遠藤の頭に浮かんで来た。
大西は大西で藤立さんを止めもしないし…。
ああ、1人でいるよりましだといっても、とんでもない2人についてきてしまった……。
最初から投手陣の誰かと行動していればよかったな‥‥。
大体、自分が出くわしてきたのは野手ばっかりじゃないか。
ま、まさか、投手陣はもう全員‥‥。
そんな事を想像すると背筋が寒くなった。
「よし、俺から行くで。
 お前ら2人は離れて見とけ。」
「あ‥‥。」
藤立が道路を越えて行く瞬間、遠藤は目をそらした。
……。
あれ、何も起こらない?
藤立さんが言ってる事は本当だったのか?
「よっしゃ、このまま行くで。
 監視カメラに気いつけとけよ。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。
 首輪が爆発しないなら名古屋から逃げましょうよ!
 その方がいいですよ!」
「名古屋から逃げだせても近隣住民に通報されて一発でアウトや。」
「で、でも今からドーム行ってどうするんですか!?
 武器だって俺のベレッタしかないんですよ!」
「そんなこと分かっとるわい!
 今しか、禁止エリアが止まってる今しかチャンスはないかも
 しれないんや!急ぐで!」

目的の地、名古屋ドームは3人のすぐそばまで迫っていた。
 
【残り19人】

547 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/13 19:26 ID:3BKZhiU/

109 「鬼」

「ち」
古田は小さく舌を打った。
赤外線レーダーに反応あり、か。
首輪のタイマーにバグが発生した時の予備として設置したものだが、
これが無かったら今頃、と思うとぞっとする。
それにしてもスタッフはシステムの復旧で忙しいというのに、何と厄介な。
復旧率は50パーセント程度だから、今夜までには何とかなりそうだが…
これ以上のイレギュラーはパニックを呼びかねない。
「…しゃあない。ちょっと行って来ますわ」
こんな事もあろうかと手元に用意していたサブマシンガン、H&K MP5A5を手に
古田は急造のスタッフルームを出た。
背後から止める声が聞こえたが、今現在もプロ選手である自分以外にこの役をこなせる人間などいまい。
引退済み中年の弛んだ体に何ができるというのだ。
さて、一応防弾チョッキは身に着けているが、どれくらい信用できるのだろうか。
ほとんど人気のない廊下に足音が大きく響く。やけに体がべたつくと思ったら、汗をかいているらしい。
ふん、この俺ともあろうもんがビビってるわ。
まあいい、相手はおそらく複数。仲間を作って行っても不公平ではないだろう。
「あー、君、そうそう、そこの君や。ちょっとついてきてくれへん?」
廊下に撮影スタッフらしき若い男を見つけ、
古田はにこやかに声をかけた。
「えっ、…はぁ」
男は…当然の反応だろうが…戸惑った様子で頷いた。
「すぐ終わるわ。ちょっと寄り道するで」

548 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/13 19:30 ID:3BKZhiU/

本部に立ち寄るとそこにあったGLOCK 26をスタッフの男に押し付け、
古田は再びドームの外へと急いでいた。
「あ、あの、古田さん、これ、本物ですか…」
後からついてくる男は未だに自分が何をさせられるのか理解していない様子だ。
「当然やろ。今から不届きモンを処刑しに行くんやで」
息を呑む音がした。
「そ、そんな。俺…ひ、人殺しなんてできませんよ」
「この番組のスタッフになった以上、番組進行の障害を排除する義務ってもんがあるやろうが。
安心せえ、首輪付けた奴を殺しても罪にはならんから」
「で…でも」
男はまだ何か言いたげだったが、古田にはそれ以上聞いてやる気は無かった。
何しろ、まだ人数は半分までしか減っていないのだ、
ここでプログラムを終わらせるわけにはいかない。
このプログラムが万一「失敗」と判断されたら、「やり直し」の為に次に標的になる球団はおそらく…
「ともかく、頓挫させるわけにはいかへん…邪魔もんは殺すだけや」
鬼とでも悪魔とでも呼ぶがいい、中日の選手など死のうが知ったことか。
俺はヤクルトさえ手出しされなければそれでいい。
【残り19人】

549 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/13 21:18 ID:/0+SJqqA

110 レクイエム

福留と荒木は金山駅を出て、そのまま北上し伊勢山辺りにいた。
2人の間に会話がしばらく無く、ただひたすら黙って移動していた。
時計を見ると正午を回っていて、いつの間にか陽が高くなっていた。
「なぁ荒木、何か聞こえないか?」
「ん?」
ようやく口を開いた福留に荒木は少し驚きながらも聞き返す。
「何か聞こえる?」
耳を澄ますと確かに何かが聞こえる。ピアノの音?のような気もする。
もう少しその音が聞こえる方へ近づいてみるとピアノを弾いている音が明らかに聞こえてくる。
誰かがピアノを弾いているのか?
しかし今ここにいるのは生き残っている中日の選手だけのはず。中日の選手の中にピアノを弾ける人なんて聞いたことがない。
逃げ遅れた人でもいるのだろうか?だとしたら避難するよう言ったほうがいいかもしれない。
「もう少し行ってみるか・・・」
福留も同じようなことを思っていたらしく、2人はそのピアノの音の方向へもっと近づいた。
ピアノの音がだんだんと大きくなっていく。
2人は音を頼りに歩いていくと目の前に小学校があった。ここからピアノの音が聞こえていたのだ。
「行ってみるだろ?」
荒木が言うと、福留は頷いた。
小学校の中へ入ると、電気もついていなく陽もあまり入っていなく薄暗い。
階段で2階へ行くと、ピアノの音がかなりはっきり聞こえる。
廊下を歩いていると前方にドアが開いたままの教室が見えた。音楽室だ。
ここで誰かがピアノを弾いている。
荒木は万が一のために銃をベルトに挿して、音楽室へ入った。
入った瞬間、2人はぎょっとした。
それはとても妙な光景だった。
部屋の中心に置いてあるグランドピアノ、自分達を睨むかのように壁掛けてある作曲者の肖像画、ピアノの後ろには山のように積んである武器の数々、
そして・・・迷彩服にヘルメットをかぶりピアノを弾いている井上一樹の姿・・・。
「よぉ」
井上は伴奏をやめ、2人に話かける。
「何ぼーっとつっ立ってるんだ?こっちこいよ」
2人は黙って井上の元へきた。

550 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/13 21:19 ID:/0+SJqqA

別に井上を信用しているわけではない。
ただ何となく井上の所へ行ってしまった。確かに2人と井上は同じ九州出身で2人にいろいろとお世話してくれた。
だが、あんな格好でピアノを弾き、武器を大量に持っている人を信用なんてできない。人を殺して奪ったのか?
「井上さんはピアノを弾けたのですね。しかもかなりうまいじゃないですかー」
福留は警戒しつつ言った。
「あぁ軽く趣味程度でな。お前ら俺が弾いていた曲知ってるか?」
2人は同時に首を振る。
「さっきの曲はな、ブラームスの『レクイエム』ていう曲なんだ。死者に捧ぐ、そう俺に殺されるお前らへのな」
やばい!!
荒木は福留の手を引っぱり逃げる。
2人が音楽室から出るとほぼ同時に座っていた井上がいつの間にか構えていた無反動砲が発射された。
後方でドカーンと鼓膜が破れそうな音に2人は思わず振り向いた。
井上が発射した弾が壁を突き破り、グラウンドを超え、小学校の隣にある建物などが崩壊し炎上している。
「な、なんだ・・・」
窓越しで見たその光景に福留は立ちすくんでいた。こんなのまともに喰らったら・・・
その時、井上が音楽室から出てきて廊下の遥か前方にいる2人に向け構えている。
「孝介、逃げるぞ!!」
荒木は気づいて、福留の手を再び引っぱり、前方右にある階段へ全速力で走り降りた。
階段を降りたとほぼ同時にまた無反動砲が発射され、廊下の真っ直ぐ突き当たりをぶち破り、また建物が炎上した。
「ちっ」
井上は2人を探すため、走り出した。
はぁはぁ・・・
2人は1階の男子トイレに潜んでいた。
「な、何なんだよ!あれは!!」
福留は興奮気味に怒っている。
あんなのまともに喰らったら自分たちは一瞬で肉片と化すだろう。
荒木は興奮している自分を必死に抑え考える。
どうすればいいのだろう?
さっき見たようにあの大砲はあんな距離があったとしても十分に破壊力がある。
もし学校外へ逃げたとしても、2人とも肉片になってしまう。

551 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/13 21:20 ID:/0+SJqqA

だとしたら井上と戦うか?
しかしあんな状態の福留を引き連れて戦うのはちょっと無謀すぎるような気がする。
今の福留だったら銃を突きつけられても反撃しないだろう。じゃあ・・・・
「孝介、お前はここで待ってろ」
「お前・・・何言ってるんだ?」
福留は目を丸くして荒木を見る。
「このまま外へ出たって確実にあの大砲でやられてしまう。だったら俺1人で井上さんを止めてくるよ」
「俺も行くよ」
「お前は足手まといだからここで待ってろ」
「どういう意味だよ!!」
「言ったとおりの意味だよ。こんな状態のお前がいたって何もできないだろ!足手まといなんだよ!!」
「・・・わかったよ、ここにあるよ」
ちょっと言い過ぎたかもしれない、でもこう言わないと福留はあきらめてくれないと思った。
2人同時に死ぬくらいだったら、俺1人死んだほうがマシだ。
「孝介、お前の銃貸してくれ」
福留はバッグの奥から銃と弾を出し渡した。
「お前井上さんを殺す気か?」
「・・・わからない、でも井上さんを何とかして止めなきゃいけない」
「・・・じゃあな」
荒木は一度微かに笑い、ドアを出た。
出た瞬間足がガタガタと震えてきた。
本当は死ぬことも殺すことも怖かった。どうしてこんな所へ来てしまったのだろうとも思った。
でもすでにもう手遅れだった。自分が1人で何とかしなければいけない。
自分の銃には弾7発、福留の銃には山崎を撃った弾以外の5発が入っていて、他に弾は20個あった。
荒木は深呼吸し、歩き出した。

【残り19人】

554 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/13 23:10 ID:MOqM4r9d


111 接近

「今の音は?」
関川の追跡をかわして大須を抜け南下した井端と立浪は物陰に潜んだまま周りを見回した。
爆発音が聞こえる。
「あれだ」
前方に黒煙が立ち上っていた。
井端は嫌な予感がした。
「派手なのがいるな」
立浪はその煙を眺めてニヤリと笑う。
「あんな武器があったら無敵だろうな・・・つっ」
左腕に熱いショックが走って、立浪は腕を押さえて振り返った。
「関川!」
関川が肩で息をしながら銃を構えていた。どうやら関川の撃った銃弾が腕を掠めたらしい。
関川がゆっくりと近付いてくる。
立浪は井端を見ると目で合図した。再び2人は関川から逃れるために走り出した。
「立浪さん、腕は?」
走りながら井端は訪ねた。立浪はまだ腕を押さえてはいるが血がにじんでいる様子はない。
「掠っただけだ。残念ながら、荒木を殺すには何の支障もないぞ」
立浪の答えに井端は苦笑いを浮かべた。
通りを越えると焦げ臭い匂いが鼻をついた。
炎上している建物。これを炎上させたのは誰なのか。
再び爆発音がした。
建物の向こうから聞こえる。2人が回り込むとそこには学校があった。
「誰がいるんだ?」
門をくぐり校舎を見上げてみる。
「あ・・・」
井端は小さく声をあげた。
今、一階の窓に映った影は福留ではなかったか?
だとすれば荒木もここにいるのか?
井端は校舎に向かって走った。立浪は反射的にそれに続いた。

555 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/13 23:11 ID:MOqM4r9d

「孝介!」
「井端さんっ?」
1階の男子トイレに隠れていた福留は突然現れた井端に驚いたように立ち上がった。
そして駆け寄ると井端の腕を掴んだ。
「助けてください。荒木を、荒木を助けてください。このままじゃ荒木は井上さんに・・・」
そこまで言って福留はハッとした。井端の後ろには立浪がいた。
立浪が荒木を狙っているのは知っている。
福留は言葉の続きを失った。
「ふん、この派手なのは一樹の仕業か。だが気に食わんな。荒木を仕留めるのは俺だ。誰にも邪魔はさせん」
立浪が言うと井端は立浪をキッと睨んだ。
「荒木は俺が守ります。あなたにも、井上さんにも殺させはしない」
そう立浪に言って、井端は福留の肩を掴んだ。
「荒木はどこにいる?」
「井上さんを止めにいくと言って・・・」
福留は視線を上に向けた。
「上の階か」
立浪はニヤリと笑って出て行った。井端はそれを追いかけた。

【残り19人】

558 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/13 23:58 ID:2kvQMbUt

112 選択

福留は呆然と二人の背中を見送っていた。
いいのか?
これでいいのか…?
立浪は荒木を狙っている。井上も荒木を見付けたら殺そうとするだろう。
殊に、井上の武装は強力だ。
小柄な井端と、拳銃を持っているとはいえ全く扱った経験のない荒木とで、
二人の猛攻を防ぎきれるのだろうか。
自分も後を追うべきではないのか。
右手をベルトに挿した日本刀に触れさせてみた。そうだ、武器はある。
いつも素振りをしているあの要領でこれを、これを二人の首筋に…
ぞくっ、と全身に悪寒が走った。
また人を殺すのか。
あの奈落の底に落ちるような感覚をまた味わうのか。
もう二度と立ち上がれないかもしれない。
銃で撃つのとはわけが違う、刀で斬ったらはるかにリアルな感触が手に残るだろう。
かたかたと手が震えている。
いや、震えているのは手ばかりではなく、いまや全身が殺人への恐怖で震えていた。
しかし、逆にこうも考えられる。
こんな思いを味わうのは俺一人でいいはずだ、と。
荒木は生真面目な性格だから、
人殺しをしてしまったら自分より遥かに大きなショックを受けるかもしれない。
そんなのは絶対に嫌だ。
それに、もう人を殺した自分は永遠に殺人者だが、荒木はそうではない。まだ。
「汚れ役は…俺一人で…」
あいつのほうが顔も良くて、女の子にもてて、典型的なヒーロー向きじゃないか。
俺はもう、いいんだ。
いいんだ…これ以上落ちるところなんてない。
右手で、ゆっくりと日本刀を鞘から抜いた。窓から射す白い光を、刃がきらりと反射した。
人を切った後なのだろうか、少し血がこびり付いているが、この程度なら問題はないだろう。
「トイレじゃ格好つかねえか」
福留は息をついて無理に笑い、それから一度だけ刀で空を切った。
ひゅうと小気味の良い音がした。
さあ、人殺しに行こう。
【残り19人】

562 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/14 01:08 ID:WEOExvJH

112 復讐成功

荒木は息を殺して一歩ずつ歩を進めた。
井上は今どこにいるだろう。
そんな荒木の耳に再びピアノの音が聞こえてきた。
井上は音楽室に戻っている。
そしてこのピアノの音はきっと自分を呼んでいるのだ。
荒木は銃を握り締めた。
音楽室は井上の武器庫だ。そこに再び入るのは死にに行くようなものだとは解っている。
しかし、もう引くことは出来なかった。
廊下に突き出した音楽室のプレートを見上げる。
あのドアを開けたら自分はすぐに肉片と化すかもしれない。
いや、相手はピアノを弾いているのだ。武器を持ち直す一瞬がある。
そこでなんとか先手をとれれば・・・。
荒木はドアを睨んだ。
呼吸を整える。
ドアに手を掛けた。まだピアノの音は聞こえている。
「!」
荒木はとうとうドアを開けた。そして井上に照準を定めて、矢継ぎ早に銃弾を打ち込んだ。
「・・・それだけか?」
井上の声は悪魔の声だった。井上を取り巻くシールドが荒木の銃弾から井上を守ったのだ。
荒木は蒼白になりながらしゃがみこんで予備の弾を装填した。
井上はそんな荒木を見下して薄ら笑いを浮かべた。
「無駄だ」
そう言って井上は荒木に銃口を向けた。荒木はギュッと目を閉じた。
もう終わりだ。そう覚悟した。
(孝介、ごめん・・・・)
そんな荒木の耳に銃声と井上のうめき声が聞こえた。
井上の手から銃がゴトリと落ちた。
井上の二の腕には深々とナイフが刺さっていた。肩の銃痕からは鮮血が噴出している。
「?!」
荒木はハッとして振り返った。

563 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/14 01:15 ID:WEOExvJH

「た、立浪さん・・・」
ドアの所に立浪がいた。そしてその隣には井上に銃を向けたままの井端の姿も。
「井端さん!? なんで井端さんが立浪さんと!?」
自分には「一緒には行けない」と言った井端が立浪と一緒にいる。
一番会いたかった井端が、一番会いたくなかった立浪とともにいることに荒木は愕然とした。
「一樹、ちょっと手を引いてもらうぞ。荒木を殺すのは俺の仕事だからな」
そう言って立浪は荒木を見た。荒木は顔を引きつらせて立浪の手のナイフを見ていた。
「荒木っ」
井端が立浪の横から飛び出すのと、立浪がナイフを振りかぶるのは同時だった。
荒木を庇うように荒木の前に身を呈し、井端は立浪に銃を向けた。
銃声が響いた。
立浪の手を離れたナイフが荒木と井端の横数十センチの床に刺さった。
立浪の体がゆっくりと前に倒れていく。
その向こうに、いつの間に追ってきていたのか、関川の姿があった。
井端は引き金をひいてはいなかった。立浪を襲ったのは関川から放たれた銃弾だった。
「やった。やったぞ。テル、お前の仇は取ったぞ!」
関川はそう叫んで倒れた立浪の背中に乗った。
立浪の背中は関川に撃たれた場所から血が溢れてユニフォームを染め直していた。
関川は立浪の髪の毛を掴むとその首にナイフを当てた。
久慈を殺ろされたナイフで、立浪の首を切っていく。
最後に一気に力をこめて骨を断つと、関川は立浪の首を高々と掲げた。溢れる血が関川の腕を濡らした。
「テル、俺がお前の仇を取ってやったぞ。この首、憎いこの首、今持って行ってやるからな」
そう言って関川は立浪から離れると満足げに去っていった。

564 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/14 01:16 ID:WEOExvJH

井端は自分も関川に殺されるかもしれないと息を詰めていたが、立浪を殺すだけで満足したようだ。
「荒木、大丈夫か?」
「・・・井端さん・・・」
「お前が立浪さんに殺されなくて良かった。結局俺が守ってやれたわけじゃないけどな」
そう言って井端は荒木の手を取って引き起こした。
振り返ると井上が呻いている。しかし死ぬような傷ではなかったようだ。
「トドメを刺したほうがいいな」
そう言った井端に荒木はビクッと体を震わせた。
「どうした? お前だって井上さんを殺すつもりだったんだろう?」
井端の言うとおりだったが、しかし一時期の覚悟に水を差されて、荒木には人を殺す怖さがよみがえってきた。
「・・・仕方のないヤツだ。そんなんじゃ生き延びることなんか出来ないぞ」
そう言って苦笑いした井端も銃をしまった。
「殺さないなら逃げるしかないな。下で孝介も心配してるし、とりあえず早いとこ無事な姿を見せてやれ」
井端に促されて荒木は音楽室を出た。
「孝介?」
福留が立っている。刀を握り締めたままの福留はホッとしたように表情を崩した。
「荒木、無事だったのか。良かった」
荒木の様子が普通なのを見て福留は安心した。きっと荒木は人殺しをせずに済んだのだ。
3人は階段を駆け下りた。
玄関に着いたとき階上で爆発音がした。校舎が揺れた。
3人はハッとして天井を見上げた。
「ヤバイ。早くここから離れるぞ」
校庭に飛び出すと、3人は全速力で学校の敷地を後にした。

少し離れた東別院の建物内に飛び込んで3人はようやく息をついた。
「井端さん、なんで立浪さんと一緒にいたんです?」
荒木がそう尋ねた。
「あ、そういえば、立浪さんは?」
福留も井端と一緒にいたはずの立浪が一緒に戻ってこなかったことに気付いた。
「立浪さんは死んだよ。関川さんに久慈さんを殺した仇を討たれたんだ」
井端はそう言って目を伏せた。

565 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/14 01:18 ID:WEOExvJH

「俺は久慈さんを救えなかった。まさか立浪さんが久慈さんを殺すなんて思わなかった。セカンドだけ狙ってると思ってたんだ。久慈さんはショートだから関係ないって思ってたのに、セカンドを守ったことがあるからって・・・
井端は唇を噛んだ。命の恩人を救えなかったことを改めて悔やんだ。
「だから俺は荒木だけは守りたかったんだ。それで立浪さんと一緒にいて、お前を殺されないように・・・」
井端は大きく息を吐いた。荒木は井端を見つめていた。
「・・・井端さん、じゃあこれからは俺達と一緒にいてくれますか?」
荒木は恐る恐る聞いた。
井端は黙っていた。
長い長い沈黙だった。
そして井端は首を横に振った。
「お前たちは2人で頑張れ。俺は、憲伸を探して合流しようと思う。・・・生きているならな」
首輪のシステムが故障して生死が把握できないのか、本部からの死者の発表は止まっている。
無事なのか、もうこの世にいないのか、まったく解らないが井端は川上が気になった。
「じゃあな」
「井端さん・・・っ」
引きとめかけた荒木の肩を福留はギュッと押さえた。荒木は立ち止まり井端の後姿を見送った。

【残り18人】

566 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/14 01:44 ID:EMbMLg1f

114  遭遇戦

「大西、遠藤!
 中の奴らがあっちに気を取られているうちに侵入するで!」
藤立、大西、遠藤、がドームの様子を外から伺っていると、突然駐車場の方から
マシンガンらしき銃声が響きわたったのだ。
「藤立さん、他にも誰かがドームに?」
大西は先頭を行く藤立に尋ねた。
「それは分からん‥‥。
 ただ、俺達はこの試合を止めるために俺達ができることをするまでや。
 よし、このゲートから入るぞ!
 監視カメラに見られてないな?」
警備に発見される事もなくすんなり入れたのが大西には意外だった。
「中枢部はどっちや!?大西分かるか?」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。
 警備が少なすぎて逆におかしいですよ!」
遠藤はこの後に及んで泣き言を言っている。
確かに、敵の本拠地がこんなに無防備なのはおかしい…。
禁止エリアだという油断が相手にあったのか?
それとも…。

その瞬間、大西の左肩に熱く、激烈な痛みが走った。

「う、うわあああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「な、何や!?
 遠藤、柱の陰に隠れろ!!!!!
 大西もこっちへ……!」
藤立はとっさに大西を担ぎ上げ柱の陰に隠れると、銃弾が飛んで来た方向に振り向いた。
中日のユニフォームを来た見知らぬ外国人が、にやけながら銃を握りしめていた。
 
【残り18人】

573 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/14 02:49 ID:fQ5J4ku4

115 二重の悲しみ

それから福留と荒木は、何も話さずしばらくそこに座り込んでいた。
荒木は人を殺さずにすんだ安堵と、
立浪の首が切り取られる光景を目撃してしまった衝撃とで
ほとんどパニックに陥りかけていた。
死んだ…死んで、首をもがれた…チームリーダーの立浪さんが…
裂けた肉の中に埋もれた白い骨と、鼓動に合わせて溢れていった血の赤。
そして、血の気を失った立浪の顔の、その両の眼窩から虚ろに伸びていた眼光が、
あまりにも衝撃的で脳裏に焼き付いてしまっていた。
川崎やブレット、それに山崎の死体も確かに恐ろしいものではあったが、
あんなグロテスクな死に様ではなかったし、何より荒木と目が合うこともなかった。
目を閉じると体のない立浪がこちらを睨み付けているような気がして恐ろしい。
「死んだんだな、立浪さん」
不意にこぼれた福留の声は、不思議なほど無表情だった。
「ああ」
「どんな風に死んだ?」
「背中を撃たれて…それから、く…首を取られた」
舌が乾いてうまく呂律が回らなかった。
福留は嘆くだろうか。これ以上のショックを受けたら壊れてしまわないだろうか。
「そうか、首…かぁ。俺が狙ってたとこと同じだ…」
はは、と弱々しく福留が笑った。
その笑いの真意が掴めず、荒木は返事に窮した。
「狙ってた、って…」
「俺、立浪さんを刀で殺すつもりだった。でも殺さなくて済んで良かった…」
語尾は震えて声になっていなかった。
地面に垂らした福留の両手が小刻みに揺れている。
「泣くなよ」
もう俺だって泣きたいよ。お前より辛くないと思うから我慢するけど。
「泣いてねぇよ…ちくしょ…いつかあの人みたいになりたいって…俺…」
「うん」
「…下手糞だったけど…必死で…ここまで…さ…来て…」
「うん」
「ちくしょお…なんでこんなプログラムなんか…こんな」
立浪に憧れ、素直に中日を目指してプロになった福留にこの仕打ちはあまりにも酷だ。
回り道をして入団した意中の球団に裏切られ、
憧れだった立浪はむごたらしく死んだ。
荒木は唇を噛んだ。もう何度噛んだかわからず、ひりひりとした痛みがある。
福留は頭を垂れ、しばらくそのまま震えていた。
【残り18人】

576 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/14 10:53 ID:S0Q2+YTl

116 御許へ

関川は立浪の首を持って飛ぶように久慈の元へと帰った。
「テル・・・」
民家の軒先で眠ったように横たわったままの久慈の隣に身をかがめる。
「お前の仇は取ったぞ。ほら」
久慈に見せるように立浪の首を掲げた。
しかしこうやって立浪を殺しても、久慈が生き返るわけではない。
関川はジッと久慈を見つめていたが、やがて立浪の首を放して膝をついた。
「テル・・・」
2人で中日にトレードされて、がむしゃらに頑張ってきた。
すぐに熱くなる自分と対照的にいつもニコニコしながらそれを上手に抑えてくれた久慈。
優勝した年のようなプレーが出来なくなって周りからいろいろ言われるようになって腐りかけた自分を久慈は何度も励ましてくれた。
久慈も若い選手達にポジションを奪われてスタメンから外されるようになっていたが、いつも楽しそうに野球をしている姿は関川だけでなくほかのチームメイトたちをもなごませた。
久慈がいたから自分は中日で頑張ってこれたのだ。
でももう久慈は笑わない。
励ましてくれる言葉もない。
関川は涙が溢れた。
「セキさん、スランプの1度や2度あって当然ですよ。その内スカーンと晴れますよ」
「セキさん、いろいろ言われるのはまだまだ注目されてるってことです。頑張りましょうよ」
「セキさん、あんまりムチャしたらいけませんよ」
「セキさん、最近調子よくなってきましたね。俺も頑張らなきゃ」
「セキさん、チャンスで使ってもらえて打てるとやっぱり気持ちいいですね」
久慈の笑顔とともに久慈の言葉が思い出されてくる。
調子の悪い時は慰めて励ましてくれ、調子が出てくれば一緒に喜んでくれた。
いつも自分を助けてくれた。
でももう久慈は・・・。

577 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/14 10:54 ID:S0Q2+YTl

「・・・セキ・・さ・・・ん・・・・頑張って・・くださ・いね・・・・最後まで・・・生き残っ・・・て・・」
最後の言葉が浮かんできた。そのときも久慈は少し笑っていたように思う。
最後まで生き残って・・・。
しかし、久慈のいないここで1人生き残ってどうなるのか。
「テル・・・すまん・・・やっぱりお前のところに行かせてくれ」
関川はデリンジャーに弾が装填されていることを確かめて、こめかみに銃口を押し当てた。
逆手に持ち、親指で引き金を押し込んだ。
脳漿を飛び散らせながら関川は久慈の上に倒れこんだ。
その反動で久慈の腕がはねた。そして関川の背に腕がかかる。
その情景はまるで最後まで久慈が関川をなだめているようだった。

【残り17人】

582 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/14 14:54 ID:g5p7UoAs

117   助っ人

「こっちの行動なんてお見通しやったっちゅーわけか!」
藤立の頬には血がにじんでいた。
大西の目の前を跳弾がかすめる。
さっきからもったいつけやがって、何なんだあの背番号39は。
一気に殺せばいいのに、まるで何か、そう、俺達をいたぶっているこの状況を
楽しんでいるみたいだ。
もう、助からないのか…?
大西の体に悪寒が走る。
「おい!遠藤!
 何やってるんや!!銃で応戦せんかい!!!!!」
藤立が通路の向い側の柱に隠れている遠藤に叫んだ。
だが、遠藤は首を振った。
今にも泣き出しそうな表情だ。
「ちいっ!役に立たんやっちゃ!!」
嫌だ。
死にたくない……。
怖い……。
怖い……。
激痛と出血でしだいに薄れていく大西の意識にそんな感情が浮かんだ。
さっきまでずっと死ぬ事なんて怖くない思ってたのに、いざその瞬間が近づくと
情けないもんだ…。
……ああ、ついに目の前が白くかすんできやがった。
いよいよ俺は駄目らしい。
「さよなら…。」
大西はこの世への餞別にそうとだけ呟いた。

……。
あれ、まだ生きてる?
ん?違う、この白いのは……。
煙?
あ!
藤立さんの、煙幕?
「遠藤!いったん引くで!」
藤立さんの声が聞こえる……。 
「大西!…あかん、血を出しすぎとる!
 俺にしっかりつかまっとけ!!」
藤立は大西をおぶると走りだした。
大西はほとんど無意識の中で藤立の背中に必死にしがみついていた。

【残り17人】

583 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/08/14 15:05 ID:Ly3wIIRL

118 虫の知らせ

落合が次に目を覚ましたときには、既に時刻は正午にならんとしていた。
自由の利かない身体を動かさずに視線だけ送ったベッドの端には、正津がうつ伏せて眠っている。
落合の身体を担いで正津が闇の中向かったのは、何かと通い慣れた名大病院。
待合室のソファの上に、参加者が残しただろうと思われるどす黒く染まった包帯やガーゼを見つけて一瞬引き返すことも考えたが、それよりも治療が先決だと正津が制止した。
右肩に開けられた傷に消毒液を吹き付けられ---気を失ったのだ、おそらくそのときに。
傷は疼き、今も熱を持っている。
恐らく生きて帰っても、この肩は使い物にならないだろう。
皮肉なことだ---
プロのスカウトに声をかけられたとき、落合はその野球人生に自ら幕を下ろそうとしていた。
致命的だった、肘の故障。
しかしスカウトは言った、『全て任せてくれ』と。
メスを入れ、リハビリに明け暮れたルーキーイヤー。
男としてのプライド、球団の意地。
そして奇跡は起こる。
奇跡、そう、あれは奇跡だ。
一生に一度の奇跡なんだ。
もうあんな復活劇は起こせやしない。
それともまた、サファイヤでも埋め込むのか?
引退する頃には、キカイダーにでもなってるかもな。
せめて目の前のこいつには、俺の後を継いでドラゴンズの中継ぎに…
急に、悪寒が走った。
びくりと体を震わせた振動で、正津が目を覚ます。
「あ…落合さん、落合さん?どうし…」
「見える」
「見える?」
落合の視界には、正津ではない、真っ暗な映像が浮かんでいた。
見えないはずのものが見える、己の力を落合は呪った。
「不吉だ……ナゴヤドーム…ドームに、蛇が…そう、ドームだけれど、竜じゃない、あれは、真っ黒な大蛇が絡み付いて、そう、ああ、ッアアアアアアアアアアアアアア!」
「落合さん!落合さん!!!」
「頭、頭が…ィたッ……アアアアアアアアアアア…ァァァ……」
落合の意識は再び遠のいていった。

588 名前: 復活の161 投稿日: 02/08/14 22:49 ID:Tr3jLpMH

119 復活の獣

その男、井上一樹は苦痛に顔をゆがめながらゆっくりと身を起した。
とんだ醜態をさらしてしまった。いや、醜態などは良い。あやうく殺さ
れる所だったのだ。二度とこんなミスは許されない。次の幸運は、お
そらく無い。

おそるおそる手のひらを開閉して見る。激痛は走るが幸いにして
機能に異常は無い。派手な出血の割に傷は深くは無さそうだ。
カール・グスタフのバックブラストで目茶目茶になった室内を見渡
し、カーテンの残骸を見つけるとそれで手をきつく縛り、止血する。

自信と過信。
強力な火器を手に入れた事で舞い上がり、己を見失ってしまった。

「臆病者であれ、って事か。」
この手の痛みが、戒めとなってくれるだろう。

荷物を左肩に担ぎ、もう一度室内を見渡す。カール・グスタフは放
置しておくことにする。予備弾が無い以上、誰に利用される恐れも
無い。さすがに対戦車砲弾は何発も持ち歩くには大きく重すぎた
のだ。残りは守山区の民家に他の重火器数種と共に隠匿してある。

装備は64式と、手榴弾数発、そしてサイドアームの機関短銃。人
を相手にするには充分な装備だ。弾薬も充分ににある。

「まずは鎮痛剤でも探すか・・・。」

593 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/08/15 00:29 ID:J32bMTM/

120 尋ね人

川上は、ナゴヤ球場へと向かっていた。
赤門の角を曲がり、少し開けた通りを南下する。
右手に朝倉、左手に中里の手を握って。
いつまで喧嘩しているつもりなのだろう、そっぽを向いて座り込む二人に耐えかねた川上は店を出ることを提案した。提案すなわち決定事項である。
三人で横一列に道を占領して歩く姿は滑稽である。しかし年少者と一緒になって遊ぶことはよくあっても、彼らの保護者的立場となることに関してはあまり経験のない川上には、物理的に繋ぎとめておくことでしか二人の少年を守る確信がなかった。
テレビ局が入っているビルの前を通り過ぎようとしたとき、不意に川上は視線を感じた。
誰だ。ようやくこいつら以外の人間に会えそうだ。
「見てるんだろう?川上だ。戦う気はない、出てきてほしい」
川上の咄嗟の行動に顔を青くしている中里のことなどお構いなしに川上は続ける。
「隠れているなら、俺のほうから向かって行くぞ---」
中里が止めるのも耳に入らない川上がビルの陰に歩み寄ろうとしたとき、相手はようやく顔を出した。
福留と、その後ろには、荒木の姿。
表情には生気がなかった。
ずっとここにいたわけではないこと、二人がナゴヤドームを出発したときから一緒に行動していたことなどを聞く。彼らが遭遇した人々の名前も。
殺した相手の名前は決して口を割らなかったが、あの立浪が死んだことも教えられた。
これまでさして危険な状況に遭うことのなかった彼にとっては、福留が話す全てが絵空事のようにしか思えなかった。
言葉を発するたびに苦しげな表情を増してゆく福留にいたたまれなくなり、川上はそこを去ることにした。
「どこへ行くんですか?」
「ナゴヤ球場にでも行こうかと思って。井端、探してるんだ」
「井端さんなら向こうの橋を渡っていきましたよ」
それまでひとことも発することのなかった荒木が初めて口を開いた。
「え…井端、見たのか?」
「井端さんも、川上さんのことを探してました。そう遠くに行ってるわけじゃないと思いますけど」
表情を固くしたままの荒木と福留に礼を言い、相変わらず二人の後輩の手を取って、川上は方向転換して再び歩き出した。
東山のタワーにでも登れば見つけられるだろうか。

596 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/08/15 01:00 ID:J32bMTM/

121 空しい嫉妬

「…教えてしまってよかったのか?」
道を曲がって三人の姿が見えなくなるとようやく、福留は話を切り出した。
「俺、井端さんに会ったことは言わないでおこうと思って黙ってたのに」
「なんで?」
素っ気無く返事が返ってくる。
「なんか…さ。お前の前で、井端さんの話をすると、なんていうか…また、落ち込んだら嫌だなって」
「別にもういいよ。…ただ」
「ただ?」
荒木は何も答えずその場にしゃがみこんだ。
「そうやって濁すの、お前の悪い癖だぞ」
福留もその隣に座り込み、ちらと荒木の顔を覗き込む。
「悔しいよ。悔しいんだよ…
さっきは立浪さん。今度は、川上さん。
他の人ならいいのに、どうして俺のことだけ避けるんだろうって…」
返事が出来ない。荒木はますます頭を抱え込んで小さくなる。
「たぶん、井端さんには井端さんなりの考えがあって」
「考えって何だよ」
福留に噛み付いたが、すぐに自省の念にかられる。
「御免。孝介だって立浪さん、俺のせいでいなくなっちゃったもんな」
「な…荒木のせいじゃ」
「わかってる。わかってる…けど。
でも俺、孝介には感謝してる。さっき川上さんたちに会ったときだって、孝介がいてくれなかったら危なかった」
「俺もだよ。なんだかんだ言って俺たち結構、恵まれてるほうなのかもな」
笑ってみせた福留に、荒木はほんの少しだけ、笑顔を返した。
「孝介にだけ、今、本音を話すよ。でも今の俺はどうかしてるだけだから、すぐに忘れてほしい」
荒木の顔が歪む。一瞬間を置いて、呟くように言葉を搾り出した。
「川上さんが死んだら井端さんはどうするだろうと思った。」
………。
福留は何も返さなかった。その代わりに、荒木の背中に手を回し、そっと擦った。
「孝介…、たぶん、皆誰も、心の底から憎くて仲間を殺してるんじゃなくて、きっとこういう、些細なくだらない気持ちが今の余裕を持てない状況でどんどん大きくなって、思いつめた結果、誰かを殺してしまうんだろうな。
地下鉄についてる鏡、皆であれ見たらいいのかもしれないな」
新人時代はよく乗った、地下鉄のドアの横にある小さな鏡を、福留はぼんやりと思い出していた。

601 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/15 14:58 ID:DK9GmHta

122 空から降ってきた男

川上たちと別れてもう1時間が過ぎただろうか。
福留と荒木は東本願寺別院に戻って中で何もすることなく過ごしていた。
ぱらぱらと外が何やらうるさい。
何だろうと思い、2人が外へ出てみると、自分たちのほぼ真上辺りの空にヘリコプターが飛んでいるのがわかった。
自分たちの様子でも撮っているのか?と思ったが、徐々にこちらの方に近づいてきた。
「何だぁ?」
福留の声がかき消されそうなほどの音がする。
ヘリと2人の距離が10メートルくらいにせまってきた時、ドアが開き人が顔を出してきた。
「だ、誰だ・・・?」
荒木が見上げても逆光のせいでその姿が誰だか確認できない。
そのヘリの奴は2人に向けて何かを構えた。
それは井上が持っていた無反動砲よりもさらに2回りくらい大きく、こんなものが発射されたら建物1つ簡単に吹っ飛ぶだろう。そんな物をそいつは人間に向けて構えているのだ。
「孝介、逃げるぞ!」
と言った瞬間、大砲が発射された。
別院は一瞬にして全壊し、炎につつまれた。
「い、痛え・・」
爆風で2.30メートル身体が吹き飛ばされた。地面にこすってできた傷、建物やガラスの破片でできた傷が体のあちこちにでき、熱風でやけどもしている。
ジーンとずっと音がする。爆音で鼓膜がおかしくなっている。
荒木は起き上がり周りを見た。
煙に覆われていて何も見えない。
「孝介!?どこだ!!」
隣にいると思っていた福留がいない。あの爆風に福留もどこかに吹き飛ばされたのだ。
一体誰だよ!こんなことしたのは!!
そんな煙だらけの空間にヘリが荒木の目の前に着地した。
ヘリの中から出てきたのは白いコートを身にまといサングラスをかけた金髪の外国人だった。
「誰だ・・・」
煙でぼやけていてまだはっきりと荒木の目にはその姿が見えない。
その金髪の男は荒木に近づく。
「Hey! ARAKI」
プロペラも止まり、男の声がわずかながら聞こえた。

602 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/15 14:58 ID:DK9GmHta

「エディ?」
白いコートの間から見える18の番号、エディ・ギャラードだ。
何でエディがヘリに乗ってるんだ?そもそもヘリなんてどうやって・・・。
「アラキ、goodbye!!」
ギャラードはベルトに両手をまわし銃を取り出した。
ブローニングハイパワー9ミリとトカレフの二丁拳銃を座り込んでいる荒木に向けて構えた。
煙は相変わらず辺り一面をつつむ。
ギャラードが今どんな目をしているのかわからない。サングラスには傷だらけのおびえた自分の顔しか映らない。
福留がどこにいるかわからない。
荒木はどうすることもできなかった。
もう死を覚悟するしかなかった。

603 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/15 14:59 ID:DK9GmHta

123 邂逅

「痛えな・・・」
爆風に吹き飛ばされた福留は地面に強打したらしく、腰を押さえていた。
福留も荒木と同じく破片や熱風で体のあちこちに傷ができている。
煙で周りが見えないが荒木がいない。
「荒木?」
痛めた腰を押さえながら立ち上がり、煙まみれの中を歩き探した。
しかし荒木は見当たらない。
「おい、どうしたんだ?」
何者かが後ろから福留の肩をたたく。
振り向くと福留は目を疑った。それは自分が殺したはずの山崎が立っていた。
幻覚を見ているのか?目をこすってもそこに山崎はいる。
「な、何で・・・」
福留は怖くなり煙の中をにげていった。
どうして山崎さんが・・・?どうして生きている・・・?
「おい!!待てよ」
「ひぃっ!!!」
煙の中から山崎が福留の目の前に現れた。
「落ち着けよ!!」
「落ち着けって・・・。あなたは死んだはず!俺が殺して・・」
そう、俺が銃で殺したんだ。
ずっと悩まされ続けた。常に頭の中で山崎が『人殺し』とささやいていた。血まみれの山崎が自分を睨みつけていた。
もう大丈夫だと思っていてもふと山崎が現われ笑っていた。ずっと罪の意識にうなされた。
「立浪が死んだんだってな」
どうして知っているんだ?
「お前はショックだったろうな。大好きだった立浪先輩が死んだんだから」
山崎の言い方に少しムッとしながらも黙って聞いていた。
「山崎さんはさぞかし嬉しかったでしょうね。大嫌いな立浪さんが死んで」
今誰相手に話しているのか、この人は本当に山崎なのか、もうどうでもよかった。
「いやぁ、あの時は半分狂っててそんなこと言ったかもしれんが、別に嫌いじゃない。お前だって荒木だって」
「今になって後悔してるさ。井本、ブレットを殺したことを。あいつらは何の罪もなく殺されたんだ・・・悪いことをした」
山崎はそう言って、頭をボリボリ掻き笑った。

604 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/15 15:00 ID:DK9GmHta

「俺だって山崎さんを・・・」
ただ怒りにまかせて山崎を撃った。
「お前は間違ったことをしたか?あの時俺を殺さなければお前らは俺に殺されていたんだぞ」
「俺はずっと・・・人殺しの自分が許せなかった。でも・・・あの時は死にたくなかったんだ!!やっぱり俺は弱かった・・・その後はずっと後悔したよ」
荒木にも話せなかった本音をなぜかこの山崎に話せる。不思議だった。
荒木に本音を吐かせておいて、福留はこの部分だけは誰にも言えなかった。
頭の中では銃で撃たれた山崎がスローモーションのように何度も何度も浮かんだ。そしてそんな山崎をあざ笑う自分。これが自分の本性だと思うと・・・
「いっそのこと死んでしまおうと思ったこともあったよ・・・」
あれは間違いなく殺意だった。人を殺さないと言った自分に芽生えた殺意だった。
「・・・・・・・」
山崎は黙って話を聞いている。
「でも死ねなかった。荒木が俺をずっと励ましてくれたんだ。こんな俺放っておけばいいのに。あいつはそんなことしなかった。だから・・・あいつをおいて先には死ねない・・・」
福留は自分の言いたかったことを全てぶちまけて目にいっぱいの涙を浮かべた。
「お前は正しく生きてるよ。あの状況で殺さない奴なんていない。それにそのことで俺はお前を怨んだりなんかしていない」
怨んでいない・・・
山崎のその言葉が福留の気持ちを楽にさせた。
ずっと自分のことを怨んでいると思った。死んだ後も山崎の怨念に取り付かれているような気がしていた。それが今まで福留を苦しめてきた。
しかし、それは違っていた。山崎は怨んでいないと・・・。
「本当・・・ですか?」
「あぁ。お前そんなことより荒木の所へ行ってやれ。あいつ殺されるかもしれないぞ!」
「え・・・あ・・」
荒木が今どうしているのか、立浪が死んだことなどどうして山崎が知っているのか、未だわからなかった。
「このまま真っ直ぐ進めば荒木がいるから早く行け」
福留は地面に置いたバッグを持ち上げ顔を上げた。
そこには山崎の姿はなかった。
「あれ?山崎さん??」
周りを見渡しても山崎はいない。
俺は今まで何と話をしていたんだ?山崎さんの霊??まぁ、いいや。
福留は銃を右手に持ち、走り出した。

607 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/15 16:06 ID:QMUaH1Ez

124 その理由

川上は相変わらず朝倉と中里を両手に引いて歩いていた。
荒木の言葉では井端はこっち方面へ歩いていったというが、どこで道を曲がっているかもわからない。
しかし川上はまっすぐ歩いてきた。もう少し行って曲がれば東山公園に出る。
こっち方面でめぼしい大きな場所はそこしかないから、井端も東山公園に向かったのかもしれない。
東山公園にいてほしい、そう思いながら川上は歩いていた。
キィィ・・・キィィ・・・キィィ・・・
2つ目の大きな通りを越えたところで川上は金属のきしむ音を聞いた。
懐かしい音だ。子供の頃の記憶がよみがえる。
ブランコ、だ。この音はブランコをこぐ音だ。規則正しく、繰り返される音。
横の立ち木に囲まれた場所はどうやら公園らしい。
キィ・・・ッ
ブランコが止まった。こぐのを止めたらしい。
キ・・・キ・・・
まだきしみは聞こえる。
川上は道を曲がって公園の入り口に向かった。
「井端!」
狭い公園の隅のブランコに井端が座っていた。
うつむいていた井端が顔を上げ、川上を確認して嬉しそうな笑顔を見せた。
「憲伸、無事だったんだな!」
井端がブランコを降りて駆け寄ってくると、川上の後ろの朝倉も中里もちょっと頭を下げて挨拶した。

朝倉と中里をベンチに座らせ、川上は井端と少し離れた別のベンチに座った。
「お前を探してたんだけど、まさかこんなとこでブランコに乗って遊んでるとは思わなかった」
川上はともすれば重くなりそうな雰囲気を振り払うように、努めてからかうような口調で言った。
「いや、俺もお前を探してたんだけど、ちょっと疲れちゃってさ。ここで休んでたんだけどブランコ見たら乗りたくなって」
井端も軽めの口調で答えた。
本当はそんな軽い気分ではいられない状況なのはお互いよくわかっていた。
「・・・さっき荒木と福留に会ったぞ。お前はてっきり荒木と一緒にいるもんだと思ってたんだがな」
川上がそう言うと、井端は少しうつむいた。
「井端?」
川上が井端の顔を覗き込むと井端はちょっと口元をゆがませた。

608 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/15 16:08 ID:QMUaH1Ez

「俺は荒木を殺せないからな」
井端は少し自嘲するような笑みを浮かべた。
「ゲームが進んで、もしも俺と荒木だけが残ったとしたら、俺は荒木に殺されてもいい。でも荒木は俺を殺せないだろう」
きっと荒木は井端を殺せないどころか、自分が死んで井端が勝ち残る方を望むだろう。
それは川上も容易に予想がついた。
そして先の井端の言葉に戻る。「俺は荒木を殺せないからな」
井端は言葉を続ける。
「だったら俺が自殺して荒木を勝たせてやってもいい。でもそんなことをして荒木が普通でいられるか?」
自分のために井端が死を選べば、荒木はひどいショックを受けるはずだ。最悪、荒木も死を選ぶかもしれない。
川上は井端をジッと見つめていた。
「そりゃあ荒木の傍にいて守ってやりたいとも思う。立浪さんみたいに荒木を殺そうとするやつが他にもいるかもしれないからな」
川上はその言葉にピクリと肩をそびやかした。
立浪が死んだとは聞いた。井端はそこに関係していたのか。まさか立浪を殺したのは井端なのか。
川上が問いかける前に井端は言葉を続けた。
「でもそうやって一緒にいてゲームが進めば荒木だって同じ事を考え始めるだろう。そんなことを考えながら一緒にいるなんて、そんな苦しい状況にあいつを追い込みたくない」
川上は井端のユニフォームにこびりつく血の跡を凝視していた。赤黒く変色したそれは立浪の血なのか。
「それに俺は荒木が死ぬところも見たくない。守ってやりたくても、守りきれずに誰かの手にかかるかもしれないし・・・。憲伸?」

609 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/15 16:10 ID:QMUaH1Ez

井端は言葉を止めた。そして川上を見た。
「井端が立浪さんを殺したのか?」
「え? いや、俺は殺してない。殺すつもりだったけど、関川さんが先に立浪さんを撃ったから・・・あ、関川さんは久慈さんの仇を取るために立浪さんを殺したんだ。立浪さんに理不尽に殺された久慈さんの仇を取るために」
井端は関川を弁護してうつむいた。
馬鹿げたゲームの中で自分も正気を失っていったのをまざまざと感じた。
理由はどうあれチームメイトを殺す人殺し。自分も立浪は殺さなかったが、その前に鈴木を殺した。今更ゾッとした。
川上も目を伏せた。自分はそんな場面に遭遇しては来なかった。
でも目の前の井端も、さっき会った福留も荒木も、修羅場を潜り抜けて来ていたのだ。
自分は弟分たちの世話をしていただけ。それも手に余るお荷物といった感じで・・・。
川上はふと思い当たって顔を上げた。そして井端を見る。
「・・・さっき、お前、俺を探してたって言ったな?」
「ああ」
「俺といたって、結局最後になったら俺が死ぬか、お前が死ぬかってことになるじゃないか」
「そうだな」
井端は普通に頷いた。川上はちょっと不安そうに顔を曇らせた。
「・・・俺は最後には殺せるってことか?」
「いや、お前なら俺を殺してくれるだろ? 憲伸なら最後に俺を殺して勝ってくれると思ってる」
「そんなっ、俺だってお前を殺せるかよ! 俺、そんな薄情者じゃ・・・っ」
井端の言葉に川上は慌てて言い返す。同い年で同期入団で一番気の会う井端を殺せるわけがない。
「薄情者だなんて言ってない」
井端は川上をまっすぐ見つめた。
「お前を、信頼してるからだ」
そう言われて川上はグッと声を詰まらせた。春の日差しはそんなに暑くないのに、じっとりと汗ばんでくるのを感じた。
川上は慄然としながら再びうつむいた井端を見つめていた。

【残り17人】

612 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/15 17:56 ID:hfK0niwT

125 病室にて

遠藤政隆は窓から外の様子を伺っていた。
名古屋城が目の前にそびえ立っている。
藤立ら3人は名古屋ドームから必死に走り続け国立名古屋病院まで
たどり着ついたのだ。
「大西の応急手当て終わったで。
 輸血用の血液が残ってて助かったわ。」
大西は意識を失ったままいまだに眠りこけている。
藤立さんが医学書を見ながら手当てをしたのだが、素人の処置で容態が持ち直すもの
なのだろうか?
………。
いまだに手の震えが止まらない…。
ドームで奇襲を受けた時、俺は何もできなかった。
大西がこんな事になったのも自分に責任があるんだ。
「藤立さん、俺の、俺のせいで大西は……。」
藤立さんは無言で虚空を見つめている。
こんな俺に呆れかえっているのだろうか…。
「…なあ、遠藤。
 お前は大西とここに残れ。」
突然藤立が切りだした。
「え?」
「1度乗りかかった船や。
 俺は最後の最後まであがいてみたいんや。
 だけど、こんな状態の大西を連れまわす訳にはいかないやろ。
 だから、お前はここに残って大西の面倒を見たってくれ。」
「で、でも俺1人じゃ……。」
藤立の顔が一瞬こわばる。
「……お前な~、さっきから情けなすぎるんとちゃうか?
 俺達はプロの野球選手なんやで。
 いつだってその誇りを忘れちゃいけないんや。
 遠藤、お前今年のキャンプたくさん走りこんでたやないか。
 絶対生き残って中日のエースになる、その位言ってみろや!
 しっかりせんかい!遠藤!」
「藤立さん……。」
遠藤はそうまくしたてる藤立に何も反論できなかった。
「で、でも今出て行ったら生きて帰れるとは限らないんですよ!
 もう煙幕さえ2個しか残ってないのに…。」
「遠藤、俺は所詮移籍組の半端もんや。
 お前ら中日のはえぬきに比べたら死んでも悲しむ人間は少ないやろ?
 他人の心配しとる暇があったら自分の事を考えろ。
 …とにかくっ、俺は行くで!」
藤立は自分の荷物を持ち上げると病室のドアに向かって歩きだした。
「…死ぬなよ、遠藤。
 大西を頼む。」
藤立は部屋をでる時に振り返らずにそう言った。
遠藤は藤立が出て言ったドアをしばらく見つめ続けた。

【残り17人】

626 名前: 161 投稿日: 02/08/15 23:28 ID:ieCGMblx

126 虐殺という名のショー

脳を、心臓をえぐるはずの銃弾はしかし、荒木の膝を打ち砕いた。
声にならぬ悲鳴を上げ、転げる荒木。薄ら笑いをうかべた金髪の
刺客は、次々にその周囲に銃弾を打ち込む。決して当たらぬよう
に注意しながら。

そのまま素直に射殺するもりは、無かった。

自分の仕事は、ただ殺戮して回る事では無い。この「プログラム」
を盛り上げることだ。ならば--

彼は、子供の頃から弱い相手を嬲るのが好きだった。
ただ嬲るだけでは面白く無い。相手にいったん「希望」を与え、そ
の上でその希望もろとも打ち砕く。より深いこの絶望に耐えられる
人間はいない。その絶望が、彼の歓びになる。

こいつと一緒にいたのは何て奴だったっけ? そうだ、フクドメとか
言ったな。

フクドメ、早く来い。
彼が死んでいないのは判っている。どちらも死なないように注意
深く選んだ場所にロケット弾を打ち込んだのだ。

奴が来て、こいつに助かるかも知れないと希望が芽生えたその
時こそ、眉間に一発打ち込んでやる。・・いや、先にフクドメを殺っ
てからの方がより絶望が深くて良いかな?そう考えるだけで彼の
体は歓びに打ち震える。時ならず彼の分身にさえ力がみなぎっ
て来ていた。

ヘリのTVカメラを通じてこいつを見ているジャップどもに、最高の
ショーを見せてやるぜ。そしたら俺は・・それだけでイッちまうかも
知れんな・・・。

早く来い、フクドメ。

628 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/15 23:39 ID:fJyC7U0R

127 土煙の中

もうもうと立ちこめる煙を振り払い、福留はガバメントをしかと握り締めて走っていた。
肺に土埃が入ってきて息が苦しい。
誰だ、こんな派手な事しやがったのは。
全身の傷は痛むが、幸い大したことはないようで、動きの妨げにはならない。
撃て。迷わず「敵」を撃て。
余計なことを考えぬよう、ひたすら己に言い聞かせた。
人を殺すのは自分の役目だ。そう、もう何も怖くなどない。
あれは…
はっと福留は足を止めた。心臓が破れそうなほど鼓動を刻んでいる。
煙の裂け目に、ぼやりと長身の男が浮かび上がっていた。
幽霊、ではなさそうだ。
サングラス…拳銃…金髪…ギャラード?
そして地面に座り込んでいるのは…
「伏せろ、荒木ぃ!」
ギャラードの顔が腕ごとこちらを向いたが、遅い。
目が合ったその瞬間、福留はトリガーを引いていた。躊躇なく。
反動が腕を跳ね上げる。
遅れて轟音が響いた。もう耳がおかしくなりそうだ。
しかし、煙に霞む長いシルエットは揺らぎもしなかった。
「…な、」
疑問符で頭がパンクしそうになったが、それらの全ては次の瞬間に吹き飛んでいた。
「ぐあ!」
銃声と共に、太股に激痛が走った。たまらず地面に膝をつく。
殺される…?
かさついた唇を舐めて、福留は顔を上げた。
眼前には、ギャラードがただ悠然と立っている。
【残り17人】

633 名前: 161 投稿日: 02/08/16 00:50 ID:hJFNl8O2

128 急転

防弾チョッキを着ているとは言え、さすがに45口径を食らうとそのショック
は大きい。一本くらいは肋骨が折れたかも知れない。だが彼、エディ・ギャ
ラードはそんな痛みも感じない程昂っていた。

こいつを殺って、その後絶望に歪んだ顔のアラキを殺る。その表情さえ瞼
に浮かぶ。畜生、俺やっぱりイッちまいそうだよ。

ゆっくりと腕を上げ、福留に照準を合わせる。何かを覚悟したように、胸に
銃を抱いて目を瞑る福留に。時間はたっぷりある。まずは両手両足から、
ゆっくりといたぶってやる。


-突然、福留の体がビクン跳ね飛び、血沫が弾けた。瞬間、銃声が轟く。
スローモーションのようにゆっくりと倒れ伏せる福留。

「!」
別の誰かが、福留を撃った。そう理解するのに大した時間はかからなかっ
た。

ギャラードの顔が驚愕と、そして怒りに歪む。

獲物を奪われた、肉食獣の怒り。


銃声のした方向に顔を向ける。200mは離れているだろうか、ビルの二階
に何か動く影が見える。

誰だ、俺の獲物を、最高の見せ場を、そして最大の楽しみを横取りした奴
は。殺してやる。まずおまえから殺してやる。

怒りに我を忘れ、両手の銃を乱射しながらその標的に向かって駆け出し
た。

楽に死ねると思うな。この世に生まれてきた事を後悔させてやる。

ある程度まで来た所で、胸に着弾の衝撃が走った。先ほどのよりも、よ
ほど強い。それだけで吹き飛ばされそうになり、なんとか踏みとどまる。

馬鹿め。俺が防弾チョッキを着ている事に気付いて無い・・え?・・血?!
胸を見下ろすと、、ぽっかりと穴が開き、血が噴出している。何故?

二発目、三発目を胸に受け、ようやくギャラードは崩れ落ちた。

639 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/16 01:58 ID:FdNk3mPN

129 待て

現在、今中の隣には中村が座っている。
「W解説」として番組スタッフが急遽その席を用意したのだ。
古田はどこかへ出払ってしまっており、アナウンサーの退屈なお喋りだけが
空しくスタジオに響き渡っている。
いや、実際には古田の姿も一瞬だけスタジオ前面のモニターに映ったのだが…
どうもそれに関しては触れないよう指示が出ていたようだったので、
今中は何も言わなかった。
指示など出なくても、もとより口を開くつもりはないが。
こうなれば最後の抵抗だ、出来うる限り黙り通してやる。
できれば暴れるチャンスが来るまでずっと。
きっとこのプログラムは中断されるだろう。
あの山田といい、ここにいる自分たちといい、
ドーム内には反プログラムの人間も忍び込んでいる。
あとはチャンスさえ来れば、何とかなるかもしれない。
ただ今はまだ早すぎる。待たなければ。
「では、ここで10分間ニュースです」
アナウンサーの言葉と共に、スタジオに再び休憩がやってきた。
「今中」
中村が身動きもせずに言った。
「何ですか」
「焦るなよ」
「…わかってます」
肝に銘じていることだ。
「それならいい。昔みたいに簡単に挑発に乗らないでくれよ。
ほらお前、ムキになってストレートばっかり投げようとしたよな、よく」
ふ、と中村が笑った。
「そりゃあ、俺も年取りましたからね。多少は血の気も減りましたよ」
今中も少しだけ笑顔を作った。所詮は作り物の笑顔だったが。
もうあの頃のように、激しく怒ったり、泣いたり、笑ったり、
そういった素直な感情の表現はできない。
それがいい事なのか悪い事なのかはわからないが、
少なくとも今はプラスに影響しているはずだ。
それだけでも良しとしよう。

640 名前: 161 投稿日: 02/08/16 02:26 ID:hJFNl8O2

130 ショーの終わり、あるいはカーテンコール

標的が崩れ落ちるのをスコープ越しに確認して、ようやく井上一樹は銃
をおろした。

「二人、いや標的ふたつか・・・。」

チームメイトだと思えば、人だと思えばこんなことは出来ない。あくまで
標的、ただの標的にすぎないのだ。そう自分に言い聞かせ、煙草に火を
つける。


エディ・ギャラートを襲った不運、それは小銃と拳銃の間にあるふたつの
差による物だった。

ひとつ目は、命中を期待できる有効射程の差。せいぜい2~30m程度の
拳銃に対して、小銃は約400m。彼の撃った弾はすべて届かないかあら
ぬ咆哮に着弾するかだった。

そしてふたつ目は、貫徹力の差。拳銃弾を受け止める防弾チョッキ、し
かし弱装弾とは言え小銃弾を食い止める事はできない。小銃弾を受け
止めるだけの強度を持たせた場合、ひどく厚く重くなったそれは常人の
体力ではまともな戦闘行動を阻害しすぎるほどの重量になるからだ。



「まだあとひとつ、標的があったはずだが・・」
この位置からでは、瓦礫の陰に隠れて見えない。近付いて始末するか?
・・・危険だ。不用意に近付けばまた思わぬ逆襲を受けかねない。彼のア
ドバンテージは射程と火力だが、それをむざむざ殺す事になる。そして生
身の体にはナイフだろうが拳銃だろうが致命傷を与えうるものだと言う事
を、この右手の痛みが教えてくれている。

「・・・ここは一旦撤退するか。」

641 名前: 161 投稿日: 02/08/16 02:28 ID:hJFNl8O2

アドレナリンのおかげかようやく痛みにも僅かに慣れた荒木だったが、そ
の目がそこに倒れ伏す福留の姿を認めた時、その痛みすらも忘れて絶
叫した。

「孝介ぇェェェェェっ!」
必死に這いずり、福留の元に急ぐ。
「孝介よぉ、孝介ぇ・・なんで・・なんで・・」涙声はもはや、言葉にならない。
この動かない右足が、うらめしい。

もはや自分は俊足外野手としてプレーするのは無理だろう。だがそんな
事は今更どうでも良かった。相棒さえ、相棒さえ助けることが出来るなら。

その想いが、天に通じたか--

荒木の声に反応するかのように突然、福留の意識が戻った。
「うっ・・・ん・・・はっ!あ、荒木!大丈夫かっ!?」飛び起きた彼は、こち
らに這いずって来る荒木の元に駆け寄った。

唖然とする荒木。涙まみれの顔が何とも言えない間抜けな表情を作っ
ている。
「孝介・・お・・お前、生きてる・・・の・・か?」

「ああ・・何か良くわからんが・・助かったみたいだ。」福留はそう答えな
がら手元の銃に目をやった。醜く壊れ、ひしゃげている。



ギャラードに追い詰められ、反射的に銃を抱いたまま身を丸めた福留。
それが幸運を呼んだ。
胸に吸い込まれるはずだった井上の弾は、彼の銃に当たってしまった
のだ。身を丸めた為にひどく浅い角度で着弾してしまった小銃弾はそ
の障害物を手ひどく破壊した代償に、跳弾となって彼の腕をかすめて
行ったのだ。腕からの派手な出血だけを残して。


だが、その衝撃で意識を失った彼にはそんな事はわからない。
「とにかく手当てだ・・止血だけでもしなきゃな。」
腰から外したベルトで荒木の腿をきつく縛った彼は、あらためてその傷
の惨状に顔をしかめた。

「お前・・足・・」言いかけて何も言えなくなる。

だがこうしていても何も解決はしない。決断は早かった。
「・・・・とにかく病院だ。」
足手まといだ、自分はここに置いて行けと喚く相棒を殴りつけ、無理や
り背負う事にする。

【残り16人】

643 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/16 11:02 ID:07dRnAhc

131 疑惑の3文字

病院に向かおうと歩き出した瞬間だった。
ブォーーーンという音が遠くから聞こえた。
一時は全く聞こえなくなっていたが、今ははっきりと小さな音でも聞こえるようになってきた。
その音はだんだんと大きくなっていく。
その音の元を確かめるため1度荒木をおろし、音の方向を見る。
「あれは・・・」
黒いつぶのようなものがこちらへ向かってくる。
もの凄いスピードでやってくるそれは黒いバイクだった。
誰が乗っているのかはまだ確認できない。
エンジン音の大きさに座り込んでいる荒木は耳をふさぐ。
バイクが2人のほうへ向かってくる。
やばい、また誰かが狙っているのか?
そのバイクは時速100㎞以上出しているにもかかわらず一瞬にして2人の右2メートルくらいにあるギャラードの死体を持ち上げ、担ぎ一瞬にして2人の目の前を通り過ぎ、去っていった。
2人はその一瞬の出来事に唖然としていた。
そして2人が我に返る頃にはバイク姿はもうどこにも見えなかった。
「何だったんだ・・今の」
福留は驚きを隠せない。
「孝介、さっきの人って・・・」
バイクに乗っていた人物、あまりにも速すぎて顔を確認することはできなかったが背番号の部分ははっきりとわかった。
「谷繁さんだ」
背番号7の谷繁だったのだ。
しかし今は乗り物は一切禁止のはず。エディにしても谷繁さんにしても一体どうして??
「孝介、あれは?」
そこには折りたたんである紙と四角い物体があった。
先ほど谷繁がギャラードを担いだ時にギャラードのコートのポケットから落ちてしまったものらしい。
福留が取りに行き、見てみると、その四角い物体は何かスイッチであるかのようなボタンがついていた。
何か嫌な予感がしつつも荒木に促されボタンを押してみると、ドカーンともの凄い音をたててまわりの建物が次々と壊されていく。
気づけば2人のまわりは瓦礫の山になっていた。

644 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/16 11:03 ID:07dRnAhc

そのスイッチは中区の全ての建物に仕掛けられていた爆弾のスイッチで本部からギャラードに渡されたものだった。
「エディはこんな物を持っていたのか・・・」
もしかしたら自分たちが建物に逃げていたらこれを使われていたのかもしれない。それを考えるとゾッとする。
「ゲホッゲホッ・・・」
埃が一面を覆い、2人は無意識のうちに大量の埃を吸っていた。
「大丈夫か?」
せきの止まらない荒木を心配したが、荒木は大丈夫だとうなづいた。
そして福留は折りたたんである紙を広げてみた。
一番上に「MISSION」と英語で大きく書かれていた。その後も延々と英語で書かれている。
福留も荒木も英語を読めないので、読めそうな所だけを選んでみる。
「TARGET・・・・・FUKUDOME,ARAKI・・・」
荒木がその部分を口に出し読み終えると、2人は顔を見合わせた。
自分たちは狙われていたのだ。MISSIONと書かれた紙をギャラードに渡した人物に。
その他紙にはヘリの隠し場所や2人がいた別院の地図など書かれていた。
一番下にはFURUTAの文字。本部からだったのだ。
エディと谷繁さんは本部と繋がっていたということか?
そして本部の奴らがギャラードに指令を下し、自分たちを殺そうとした・・・ということがわかった・・・でもしかし・・・
「孝介!これ・・・」
荒木の指差した所を読んでみると、「SPY・・・?」
SPY・・・スパイ?どういう意味だ?
そこにはnever kill SPY と書いてあった。
2人にはよくわからなかった。
とりあえず前の文章と一緒に何となくだが和訳してみると、「福留と荒木に会う以前に誰かに出くわしたら構わず殺せ。しかしスパイは絶対に殺すな」という意味になった。
「俺たちの中にスパイがいるっていうのか?」
谷繁以外の生き残っている奴の中に本部と通じている奴がいる・・・。

【残り16人】

650 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/08/16 16:08 ID:ptisNPBX

132 疑心暗鬼


「ショーゴー!ショーゴー!!!」
瓦礫の下から自分自身の身体を引き出すと、筒井はすぐに相棒の名前を呼んだ。
突然のことだった。
ぐらぐらとした鈍い振動を足下に感じ、地震かと思った瞬間、一気に衝撃が突き上げてきたのだ。
爆風で派手に吹き飛ばされて、植え込みに落下したのが幸いだった。木の枝が腕をえぐったが、手も足もなんとか普通に動くらしい。
立ち上がって見渡せば、天守閣の欠けた名古屋城だけでなく、周囲の高層ビルも、見事に崩れ去っている。
これも誰かの仕業か?無茶苦茶だよ。
そこらじゅうボコボコ爆発出来る奴を相手に、刀や毒で太刀打ちできるかっつーの。
「ショーゴー!ショーゴー!ショー…」
筒井の落下した植え込みのほど近くに山となった屋根瓦の中に、白い何かを見つけた。
多分、ユニホームだ。
「ショーゴー!しっかりしろ!!」
死ぬなよ、まだ死ぬなよ。
ちくしょう、やっぱ駄目だ。これしきの物をどかすだけなのに、痛くて全然進まねえよ。
身体がようやく現れる。
ところどころ破れたユニホーム。右腕を引き出すと、小さい呻き声が中から聞こえてきた。
「はあ、はあ……ふぅ」
ショーゴーの顔が露出するまでの時間が、筒井には何時間にも感じられた。
「待ってろ、今、助けてやるからな」
筒井はショーゴーの両肩に手を掛けて一気に下半身を引き抜こうとした…が。
「ギャアッ!!」
ショーゴーの突然の悲鳴に、思わず手を放した。

651 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/08/16 16:08 ID:ptisNPBX

「腕…腕が……」
埋もれている部分の瓦礫を注意深くどけてゆく。
あらかた片づけたところで、筒井はようやく先ほどの声の訳を知った。
ショーゴーの左腕は、見事に---いささか不謹慎だが、見事なまでに骨折していた。まるで肘が二カ所にあるように。怪我とは隣り合わせの商売をしていても、このような状態の腕は見たことがなかった。
「もう…駄目です、俺……」
「馬鹿!!骨折ったくらいで駄目なことあるか!!」
泣き出した後輩の上に、依然積み上がった瓦を少しずつ片づけてゆく。
「大丈夫か!!」
背後から声と、足音が耳に入った。
びくりと体を震わせて振り向いた先には、砂利道を走って近づいてくる藤立の姿があった。
「近くを歩いてたんだが、凄い音が聞こえて…酷いな、顔中血だらけじゃないか」
こくりと無言で頷いた筒井の背後に横たわるもう一人の姿を見つけると、藤立はすぐさま駆け寄って瓦礫を動かし始めた。
この人、最近来たばっかでよく知らないんだよな…。
オリックスをクビになって山田監督が連れてきたんだっけ。
山田さんの息がかかってる人…
なんか、そういう人って信用ならないんだよな……。
やっとのことで全身を現した後輩の腕を壊れ物のように支えて起こしている男の姿を、筒井は黙って見つめていた。

652 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/16 19:16 ID:lcoBqccj

133  見えない恐怖  

「くそっ、さっきから何なんだよ!」
遠藤は救急車を使って国立名古屋病院から移動している。
禁止エリアが停止している今なら、少しくらい車を使っても差し支えないはずだ。
「さっきの爆発、あのままあそこに居続けてたら今頃……。」
中区の方から立ち上る煙をバックミラーで見ながら戦慄を感じた。
遠藤が病院からの移動を決意したのは他でもない、その立地条件のせいだった。
国立名古屋病院のある中区はあの男、井上一樹と遭遇した地だったからだ。
ひょっとしてまだあの人は俺達の近くを徘徊してるんじゃ?
大西の血痕をたどって俺達を殺しにくるんじゃ?
中区に漂う井上の見えない陰は遠藤に車を使って移動するという多少の危険を
犯させるに足る動機だった。
もし井上と一対一で戦う事になったら、たとえこちらが不意打ちをしたとしても
勝てる自信はなかった。
ベレッタと井上の持っていた重火器とではいくらなんでも馬力が違い過ぎる。
とにかく、後ろで眠っている大西が目覚めるまでは死ぬ訳にはいかないんだ。
……この責任は俺にあるんだから。
(大西を、頼む。)
それが藤立さんが出て行く時の最後の言葉だった。
(しっかりせんかい!遠藤!)
藤立さん……。
「やるしか、俺がやるしかないんだよな……。」
遠藤は藤立の言葉を何度も何度も噛み締めていた。
「少し郊外の病院でも探すか…。」
体の震えと必死に戦いながら、遠藤はアクセルを踏み付けた。

【残り16人】

653 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/16 21:32 ID:64ET7xnn

134 発想

ナゴヤドーム駐車場には数え切れないほどの車が止められていた。
これほど大規模なイベント?の運営をしているのだから、
相当な人数が動員されているのだろう。
その中の一台、白い大きめのワゴンの陰に隠れた紀藤はゆっくりと、右の二の腕に目をやった。
想像通り、複数の銃弾にえぐられて見る影もない。
これでは、二度とボールを投げることはできないだろう。
古田も派手に撃ってきたものだ。
まあいい。生き残るべきは自分ではない。
「こら紀藤、出てこんかい。俺が直々に引導渡したる」
凄みを含んだ古田の声が近い。
腕の痛みを堪えて手榴弾を握り締めた。
投げられないのならば、突っ込むしかない。特攻だ。
来い、古田。もっと近くまで来い。
古田の足音に全ての神経を集中させた。あと少し…あと少しだ。
「隠れても無駄やで。そこにおるんはわかっとんのや」
何とでも言え。避けられない距離まで誘い込めばこちらのものだ。
左手で手榴弾のピンに手をかけた。
ここから飛び出したら、すかさずこれを引き抜いて飛び付けばいい。
こつっ。
足音が、ちょうど車体の反対側あたりまで来た。
──今だ。
紀藤は一気に車の陰から飛び出した。そして息を呑んだ。
目の前に立っていたのはサブマシンガンを構えた古田ではなく、どう見ても一般人の男だったのだ。
銃を持ってはいるが、明らかに怯えている。
──ハメられた。
畜生、こっちは囮だったのか。
まさか二人がかりで来ていたとは思わなかった。
どうする。…一般人を殺すわけにはいかない。
紀藤は慌てて体を反転させようとした。しかし、それより早く連続した銃声が耳に届いた。
「おお、残念やったなァ!死ねや!」
同時に、背中に熱い痛みが走る。

654 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/16 22:09 ID:64ET7xnn

「ぅ…」
しくじったな、せめて手榴弾のピンを抜いておけば。紀藤はくずおれながら思った。
「まあ、ええセン行っとったけど読みが甘かったわ。
俺みたいな悪人の発想にお前が勝てるわけないやろが。
──ああ、兄ちゃんもう帰ってええよ。銃は置いていってな」
ばたばたと足音がした。囮にされた男が逃げ出したのだろう。
確かにお前は悪人だよ、古田。いくら番組のスタッフか何かでも、あれは一般人だ。
そんな人間を盾代わり役に巻き込むなんて、俺には考え付かないもんな。
ああ、力が入らない。
せめて一矢、と思ったが、どうやらこれまでか。
「あれ、ところでお前一人なんか?
センサーには複数の反応があったんやけどなぁ…まあええか。
さて。なんか言い残すことあるか?特別に聞いたるわ」
アスファルトに頬を押し付けながら、紀藤はふーっと長く息を吐いた。
何とか声は出せそうだ。
「うちの新人に…前田章宏ってのがいる…
あいつに、とうさんはずっと…一緒だ、と伝えてくれ…」
「なんや親子ごっこか」
古田が鼻を鳴らした。
「お前にわかってたまるか…」
他の誰にも理解はできないだろう。ただ、息子にだけ伝わればいい。
いずれ自分の死を知っても、嘆くことなく前に進んでほしい。
そして二度とこんな悪夢を繰り返さないよう、戦ってほしい。と。
ごめんな章宏。とうさんができなかった事をお前に背負わせてしまう。
狂った大人たちを止められなかったとうさんを許してくれ。
「…それだけやな」
「それだけだ」

紀藤の死体から手榴弾を回収し、古田はもう一度鼻を鳴らした。
まったく…馬鹿な男だ。
「ところで、助っ人ってのはどうなったんやろ…もう来とんのか?」
それから気になることがもう一つ。
ドームに向かってきたのは一人だけではないようだが、進入などされていないだろうか。
「あーくそ、忙しすぎんで…」
囮用のスタッフが置いていった銃も回収すると、古田は頭を掻きながらドーム内へと戻っていった。
【残り15人】

658 名前: 某書き手 投稿日: 02/08/17 00:09 ID:URra0aER

>>656
ちょっと状況を整理してみました。
かっこ内は最新の現在位置

【生存者】
福留&荒木(中区)
井端&川上&朝倉&中里(東山公園付近)
落合&正津(名大病院)
遠藤&大西(救急車で移動中)
ショーゴー&筒井&藤立(名古屋城跡)
井上(中区?)
谷繁(バイクで移動中)

【その他の登場人物】
星野仙一(?)
山田久志(?)
古田敦也(名古屋ドーム)
リナレス&バルガス(名古屋ドーム?)
今中&中村(名古屋ドーム内スタジオ)

【禁止エリア(現在は停止中?)】
東区、南区、西区

664 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/18 19:31 ID:mJ+U9+fj

135 多くの不安

荒木を背負った福留は中村区に入っていた。
ここまで来れば、すぐに大きな病院があるはずだ。
もう時刻は三時あたりだろうか、春の日は傾き始めていた。
福留は一旦立ち止まり、焦燥感を鎮めるようにゆっくりと深呼吸をした。
ギャラードに撃たれた太股は痛みの割に軽傷だったし、
腕からの出血も止まってはいたが、
早く処置しなければ何があるかわからない。
背の荒木に至っては、はた言うべきにあらず、だ。
「おい荒木、死んでないか?」
「お前こそ…脚と腕、平気なのか」
「別に。見た目ほど派手な怪我じゃないからな」
それにしても、この状態で敵意のある人間に出会ってしまったらどうしようもない。
ガバメントは壊れてしまったし、日本刀とデザートイーグルは
携帯のしようがないのでバッグの中だ。
自動車を使うことも考えたが、首輪のシステムがどの程度破壊され、
復旧しているかわからない。
迂闊に手を出して死んだら、それほどつまらない死に方もあるまい。
ともかく今は、ゆっくりでもいいから病院に行くことだ。
「…山北はもういないんだよな」
荒木が静かに言った。
名大病院で荒木の脇腹を治療してくれた山北はもう死んでしまった。
「心配すんなって。俺が何とかする」
明るく言ってはみたが、あまり自信はない。
膝に食い込んだ銃弾をどうするべきかさえわからなかった。
取り出すことができれば一番だが、素人の自分が手術の真似事などしたら…
「あ…見えてきたな」
荒木の声に顔を上げると、
建物の合間から名古屋第一赤十字病院がその姿を現し始めていた。
そこに誰もいないことだけを祈って、福留はまた一歩歩を進めた。
【残り15人】

669 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/19 21:44 ID:sWnQvSmS

136 プログラムの狂気

井端は長い沈黙の後、ふと顔を上げた。
「おい、あいつらはどうした?」
井端の声に川上も顔を上げて辺りを見回した。さっき座らせたベンチにも、公園の中の別の場所にも朝倉と中里の姿はなかった。
「あいつらどこに行ったんだ。まったくちょっと目を離すと勝手に動きやがって」
川上は立ち上がる。
「仕方がないな。ちょっと探しに・・・」
川上がそう言ったときだった。銃声が響いた。
「!」
川上と井端はハッとして顔を見合わせた。そして井端も立ち上がると公園を出た。
キョロキョロと見渡すと少し離れた小学校の前あたりに中里が立っているのを見つけた。
「中里!」
2人は駆け寄ろうとしてその中里の足元に、朝倉が倒れているのに気付いた。
中里の手にある銃はまだ朝倉に向いていた。
井端は慌てて足を止め、川上もその腕を掴んで止めた。
「中里、お前が朝倉を殺ったのか!?」
井端が問いかけると中里は頷いた。
「何があったんだ。お前達はずっと一緒に行動してたんだろう」
目の前に起こっていることを理解したくなくて川上は叫んだ。
中里は激しく首を振った。
「どうせもう何も出来やしないんだ。何やったって結局は本部のやつらの手の中なんだ。だったら」
中里は川上と井端の方へ銃を向けた。
「みんな殺して、生き残るんだ!」
「やめろ、中里!」
川上は井端の腕を振り切って中里に向かって突進した。
2発の銃声がした。しかし照準を合わせずに発射された弾はことごとく川上を逸れた。
「うわあぁぁぁっ」
至近距離に迫られて中里はもう1発撃った。それは川上の足をかすめた。
川上はバランスを崩してうずくまる。
中里は肩で息をしながら今度は川上に照準を定めた。

670 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/19 21:46 ID:sWnQvSmS

「中里!」
井端に名を呼ばれて振り返った中里は、井端の銃口がピタリと自分に向けられているのを知った。
「そのまま銃をしまって立ち去れ。そうしたら今は見逃してやる」
中里は少し井端と銃を見比べて、静かに銃を下ろした。
「今後またどこかで会って、お前が俺達に銃を向けたらその時は容赦しないからな」
井端の言葉を背に中里は走り去った。
それを見送って井端は憲伸に駆け寄った。
「憲伸、大丈夫か?」
「ああ・・・かすっただけだと思う」
しかし破れたズボンの周りにはじわじわと血がにじみだしていた。
「中里を止めないと。あのままじゃあいつは・・・」
立ち上がりかけた川上は、痛みに顔をしかめて再び跪いた。
かすめただけと思ったが、傷は意外に深いらしい。
「とりあえずお前の手当てが先だ。おとなしくしてろよ」
そう言って井端は川上を歩道に座り直させると、すぐ傍の小学校に治療に使えそうなものを求めて入っていった。
川上はその姿を見送って目を閉じた。
中里が朝倉を殺した。
そして俺達にも銃を向けた。
プログラムの狂気をまざまざと見せ付けられて、川上は改めてその苦しさを感じた。
じっとりと脂汗がにじんだ。
「憲伸」
保健室にあった救急箱やらタオルやらを抱えて井端が戻ってきた。
「応急処置しか出来ないが、しないよりマシだろ」
そう言って井端が消毒薬とガーゼを取り出す。
「・・・なあ、なんで中里を逃がしたんだ? あのままじゃあいつはこれからも出会ったやつを殺してしまうぞ」
止血のためにきつく巻かれたタオルに顔をしかめながら川上が問いかける。
「ああなったら説得は無理だ。そこまでは俺じゃ面倒はみきれない。・・・しみるか?」
消毒液を含ませたガーゼで血を拭き取りながら井端が答えた。
「お前の前で殺さなかっただけ良かったと思ってくれ」
井端は川上の足に包帯を巻いていく。
川上はそんな井端の手元を見ながら苦しげに息を吐き出した。

【残り14人】

675 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/20 03:53 ID:Gh9EupqE

137 発芽

中里は走った。ひたすらに走っていた。
スポーツバッグとワルサーP38を片手に、人が集まっていそうな場所を目指して。
まだ生き残りはたくさんいるはずだ。朝の定時放送を聞いた時点で19人。
朝倉はこの手で殺したが、自分を含めて最大18人の生き残りがいることになる。
井端さえいなければ川上も殺せたものを。これだから群れる人間は嫌いだ。
夕方の放送まで、あと二時間弱ある。いくらなんでも18人という事はないだろうが、
あまり人数が減っている期待はしない方がいいだろう。
十数人という人数に対してこの名古屋は広すぎる。
ああ、くそ。
こんな事なら初めからハッキングなどしなければ良かったのだ。
禁止エリアも首輪のタイマーも全て順調に動いていれば、
今頃多くの影に怯えることもなかったのだ。
結局のところ、自分の考えは甘すぎた。
冷静に考えてみれば、敵うはずのない敵だった。
自分はいつでも握り潰せる掌の上にいたのだから。
そう、それなら、むしろそいつに追従した方が生き残る確率は高まるんじゃないか。
戦意のない、能天気な連中だってまだまだいるだろう。
まずはそういった人間を始末していくのがいい。
ちょうど朝倉を殺した時のように、あっさりと邪魔者を一人消せるだろう。
それに…
中里は知ってしまった。
自分より年上の人間を恐怖させる事への喜びを。
このプログラム参加者の中では最年少の自分が、居並ぶ「先輩」たちを恐怖させることができるのだ。
この右手に持った金属の塊を、朝倉に突きつけた時の高揚感が忘れられない。
――お前は、俺に、勝てないんだよ。
中里は笑った。
今に見ていろ。ただ早く生まれたというだけで威張っている奴らの脳天に、
鉛玉をぶち込んでやる。
俺は若くて、賢くて、強力な武器を持っている。誰も俺に勝てはしないはずだ。
生き残ってやるよ。無能な先輩どもを押しのけて。
その方が、中日の未来の為にもいいだろう?

【残り14人】

683 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/21 18:53 ID:/4zT+dyh

138 標的、まずは・・・

中里は大きい交差点に差し掛かって足を止めた。
どっちに行こうか。人がいそうな所はどこだろう。
ふと頭が冷えかけて中里の中にさっき自分に銃を向けた井端の残像が浮かび上がった。

・・・なんで俺がこんな風に走らなきゃならないんだよ。
あんなドラフトも5位指名で、守備くらいなら使える程度の評価で入ってきたようなヤツに銃を向けられたくらいで。
しかも何だ。情けなんかかけやがって偉そうに。
やっと1軍定着とか言われてるような、どこにでもいる程度の野手のクセに。
チッ、マジでムカついてきた。やっぱりさっさと殺すべきだよな。
どうせ川上は怪我してるんだ。そんなに動けるもんじゃない。まだあの辺にいるんだろう。
いや、でもただ殺したんじゃ面白くないな。
そうだ、荒木だ。荒木をあいつの前に連れてって嬲り殺してやったらどうだろう。
1,2番コンビだか、二遊間コンビだか、セット扱いでちょっと一緒に試合に出たくらいで「大切な相手」とか勘違いしてやがるんだ。
バカじゃないか。
それで「俺には荒木は殺せない」だぁ? カッコつけるのもいい加減にしろよ。
ははは、いいなぁ。あいつの目の前で荒木を殺してやろう。
どんな顔すっかなぁ。はは、ゾクゾクしてきた。
えーと、荒木に会ったのはもうちょい向こうだったよなぁ。ああ、確か福留も一緒だったっけ。
まあ、あんなヘタクソ野郎なんかパンパーンと殺しちまって。誰も惜しまないよなぁ、あんなヤツ。
荒木はどうやって連れて行こうか。
まあ、いいや。あいつも勘違いして井端の後ろを犬っころみたいに追っかけてるようなヤツだ。
井端のことでもちょっと脅してやれば素直についてくるだろ。気ぃ弱そうだしな。

進む方向は決まった。
中里はこれから自分が行う殺戮ショーを思い描いてニヤリと笑った。

【残り14人】

686 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/21 19:42 ID:mkAen5Z5

139  反旗の兆し

「おとうさん、今何をやってるんだろう…。」
前田章宏は地下鉄浄心駅の改札口で休憩を取っていた。
前田は紀藤と別れた後自転車に乗って移動を始めたはいいが、今一歩西区から出る
踏ん切りがつかなかった。
禁止エリアを自由に移動できるのは首輪のついてない自分の特権だ。
西区にいる限り安全が保障されている。
中区で起こった爆発も前田の恐怖を拍車された。
白煙がもうもうと立ちこめる中区に近付くのは新人の前田には酷だったのかもしれない。
それにもう1つ、前田が動くことをためらう理由があった。
この事態をまだ現実だと信じたくなかったからだ。
前田の実家は名古屋球場の近所にある。
球場の歓声を聞いて育った前田は自然と中日ファンになった。
親には試合観戦にも何度も連れて行ってもらった。
あの名古屋球場での中日選手の輝きは今でも鮮やかに脳裏に蘇ってくる。
今中さん、山本さんの2大エース。
ホームラン王を競った山崎さん、大豊さん。
みんな憧れの存在だった。
中日に入団が決まった時はまるで夢を見ているみたいだった。
それがこんなことになるなんて…。
「おとうさんにはかっこつけて「全部この目で確かめたい」なんて言ったけど
 こんな様なのかよ。
 僕なんて口だけのガキじゃないか!」
前田は自省の意味を込めてそう1人言を言った。
その時、突然構内に誰かの足音が響き渡った。
どういう事なんだ?
禁止エリアの西区にわざわざ入ってくる人がいるなんて…。
「誰だ!!」
前田は足音の方向に向かって叫んだ。
「ファームから消えたって情報があったけど、こんな所にいたんか。
 上に自転車が置いてあったんで分かったわ。」
「あ、あなたは……。」
「俺に力を貸してくれないか?
 この状況をなんとかしたい。」
その男は静かに、だが熱く前田に語りかけた。

【残り14人】

687 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/21 19:48 ID:csv0nhND

140 見知らぬチームメイト 

川上はやっと落ち着いてきて井端を見た。
「・・・これからどうするんだ?」
「中里を待つ」
「え?」
間髪入れずに答えた井端の意外な言葉に、川上はいぶかしげな顔をした。
「どういうことだよ。あいつは行っちまったじゃないか」
「中里は自分以外を皆殺しにしてこのゲームに勝つつもりだ。でも考えてみろ。
この広い名古屋にあと一体何人残っていて、しかもそいつらがどこにいるか解らない状態だ。
それを探すのは困難なことだ。だったらもう一度ここに戻ってきて、まず俺達を殺したほうがいい」
井端は少し先の地面に転がる石を見つめたまま答えた。
「だから中里はまたここに来る」
「でも中里が来たとしてどうするんだ? あいつは俺達を殺しに来るんだぞ。今度は確実に」
川上の声が少し震えた。
さっきは銃を向けられても中里を止めたい一心で無我夢中だったが、今更ながら銃を向けられ発砲された恐怖を感じた。
「もちろん黙って殺られるつもりはない。さっきも中里に言ってある。今度は容赦しない」
川上はビクッと震えた。
「中里を・・・殺すのか?」
「ああ、今度は、な」
頷いた井端に川上は全身から血の気が引いていくのを感じた。
もう誰も彼もが自分の知っているチームメイトではない気がした。
井端にしろ、中里にしろ、「チームメイトを殺す」などといともアッサリ言うような男だったろうか。
「憲伸、お前まさかまだこれが夢だったらいいなんて思ってるんじゃないだろうな」
井端の言葉が怖い。
なぜこんなに怖い言い方をするんだ。
このプログラムが始まってから川上は「井端と出会えれば何とかなる」と思っていた。
具体的な解決策を考えていたわけじゃない。ただ漠然と救われるような気がしていた。
2人でいればきっと安心だと思っていた。
しかし今目の前にいる井端は・・・。
井端が怖い。

【残り14人】

690 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/22 01:43 ID:h+CdOLHI

141 闇への恐怖

次第に闇の濃くなっていく外を狭い病室内から眺めながら、福留は一つ欠伸をした。
幸いにしてこの病院内には誰もおらず、福留はゆっくり荒木と自分の治療に当たることができた。
もちろん治療と言ってもごく簡単なもので、傷を消毒し、包帯を巻きつけ、
気休めに痛み止めも飲んだ、ただそれだけの事だが。
それでも、ありったけの知識と辺りの資料を総動員したのだ。
疲れた…
もう、心も体も限界が近い。
三日間まともに食事も睡眠もとらずに死の恐怖と戦い続けるなど、
普通の人間にできることではない。
ゆっくり眠りたい。腹いっぱい好きな物を食べたい。風呂に入りたい。
実際には食料だけはここで何とか調達できたのだが、
胃に食べ物を流し込んでも満足感はかけらもなかった。
「荒木」
ベッドに寝かせた荒木はまだ起きているらしく、呼びかけにああ、と返事をした。
大部屋の一番窓際のベッドは、一応清潔そうではあった。薄く埃は被っていたが。
ベッド脇の椅子もあまりいい座り心地ではないが贅沢は言えない。
「怪我人なんだから、寝れるんなら寝た方がいいぞ」
「…孝介、お前も疲れてるんじゃないか」
「いいから」
どうせ今の荒木では見張りにもならない。外敵に備える為には自分が起きているしかないのだ。

691 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/22 01:44 ID:h+CdOLHI

「ごめんな。俺が怪我さえしてなければ、お前も休めるんだよな」
「バカ、気味悪いこと言ってねえで寝ろよ」
話している間にも、だんだんと室内は薄暗くなっていく。直に五時だ。
六時半頃にはすっかり暗闇になってしまうだろう。
電気の止められた名古屋に夜が来る。
街灯も、室内の蛍光灯も光らない。頼りになるのは懐中電灯と蝋燭くらいのものだ。
福留は正直、それが恐ろしかった。
暗闇に怯えるなど何年ぶりだろうか。
子供の頃はいつも闇を恐れていた気がする。
夜になると、押入れや便所から得体の知れぬもの…妖怪、幽霊などの類…が、
這い出てくるような錯覚に良く陥ったものだ。
しかし今は、闇の向こう側に息づく生身の人間が何より恐ろしい。
病院備え付けの懐中電灯は手元にあるが、非常時にこれをずっと持っているわけにはいかない。
暗闇の中、複数の人間に襲われたら、もう駄目かもしれない。
福留の頭からは、今や「チームメイトを信用する」という発想が完全に抜け落ちていた。
多くの死体や戦いを見てきたショックに極度の疲労が重なり、
もはや信頼できるのは荒木と自分だけだとさえ、福留は考え始めていた。
もし、この病室に入ってくる人間がいたら…容赦なく撃つ。
それしかない。それしか生き残る手段はない。
あれほど忌み嫌っていた拳銃を、福留は気が付くと膝の上に乗せていた。
【残り14人】

696 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/22 18:42 ID:uORuHPzn

142   勝負球

「いないと思ったらこんな事してたんですね~、古田さん!」
「いや~、死ぬかと思いましたわ。」
今中は無言のまま古田とアナウンサーのトークを聞いている。
テレビ画面には紀藤vs古田の映像が何度もリプレイされる。
「それにしても作戦勝ちって感じですね。
 まさか、紀藤選手も古田さんがおとりを使ってくるなんて思いもよらなかった
 でしょうね。
 まさにIDの申し子!」
「いやいや、IDなんて。
 野村監督の事を思い出させないでくださいよ~。」
さっき放送された藤立達の銃撃戦といい、このスタジオのほんの近くで戦いが
繰り広げられたなんて…。
彼らの事を思うと今中の魂は激しく揺さぶられた。
「今中さんはどう思いましたか?」
アナウンサーが今中に話を振ってきた。
「………。」
「今中さん?」
「さっき中区の街が爆破されてましたけどあれっていいんですか?
 これが終わった後、名古屋の人が困るんじゃないですか?」
ささやかな抵抗として、なんの脈絡のない話を振って話の流れをさえぎって
やった。
栄の街は試合の後に幾度となくチームメイトと飲みに行った思い出深い街なんだ。
勝手に壊されてはたまったもんじゃない。
これで視聴者から苦情が殺到でもしたらしめたもんだ。
「あ、そのことですか?今中さん。
 あれは名古屋市長からの依頼でやったことなんですよ。
 栄の街もだいぶ老朽化が進んでましたからね。
 これを機に再開発を進めるということです。
 テレビの前の名古屋から避難しているみなさん、御心配なく。」
「……。」

697 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/22 18:42 ID:uORuHPzn

俺は、俺はこのままじっと待ち続けるしかないのか?
もう生存者も残り少なくなってきているんだ。
俺は…。
…いけない、焦っちゃだめだ。
落ち着いてチャンスを待つって決めたじゃないか。
でも、それで、それでいいのか……?
「今中どうした?
 すごい汗だぞ……。」
画面が外からの中継に切り替わると中村が小声で話しかけた。
「……中村さん、すいません。
 俺やっぱ最後は、決め球はストレートがいいんです…。」
「今中?」
昌さん、俺はどうしたらいいんですか?
どうしたらみんなを……。
教えてくださいよ……、昌さん。

【残り14人】

704 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/24 12:54 ID:JR1eHI+x

143 掌の上で

薄闇の中、ギャラードの死体から無線機などを回収しながら、谷繁は焦り始めていた。
今し方入った定期放送によると、生き残りは自分を含めてまだ十四人もいるという。
これは好ましい事ではない。明らかにペースが落ちてきている。
藤立、筒井、森、遠藤、大西の五人はバルガスに任せるという形になったが、
それを引いてもターゲットは八人も居るということになるではないか。
ギャラードとゴメスは死んでしまったし、このままでは終われない。
役に立たないと判断されたら終わりだ。始末されてしまう。
この首に嵌められた爆弾は、いつでも自分の命を終わらせる事ができるのだから。
『谷繁』
無線機から古田の声が入った。相変わらず人を舐めたような甘ったるい声だ。
「何だよ…」
『今、お前中区やろ。そっちに中里が向かっとる』
「中里。あのクソ生意気な奴か」
ちょっと周りから天才だの何だのと騒がれて、すっかり勘違いしている様は
見ていて気持ちのいいものではなかった。
『次のターゲットは、あいつや。できるやろ』
いいだろう。あのガキに現実ってものを教えてやる。
「わかった、中里だな」
『位置はこっちからナビゲーションしたるから。
…ヘマして殺されんようにな』
「俺があんなペーペーに殺されるかよ」
ギャラードが持っていたトカレフとブローニングハイパワー、
そしてその弾薬を自分のバッグに詰め込み、谷繁は自然と口元を綻ばせていた。
結局俺は、人を傷つけるのが嫌いじゃないらしいな。
『それから…お前、ちゃんとスイッチとメモを落としてきたやろな』
「ああ。あれなら、指定された通りに福留と荒木の目の前に落としてきた。ちゃんと爆発もしたしな」
『そんならええわ。じゃあな』
古田もずいぶん回りくどいことをするものだ。
あの二人を猜疑心の塊にする為、わざわざあんな小細工を弄するとは。
まあ、中区のこの有様を見れば、効果はあったと思うべきだろう。
福留と荒木は勿論、その他の生き残りの不安を煽るにも十分だったはずだ。
これで殺し合いが活性化すれば楽になるのだが。
「さて。ぼつぼつ行くか…」
再びバイクにまたがり、谷繁は走り出した。
まずは、あの舞い上がった若造からだ。
【残り14人】

711 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/26 01:39 ID:5HYMu7bq

144 逃走

「逃げろ!逃げるんや!」
藤立の声が、煙幕の作り出した煙の中に轟く。
筒井はただ唖然とするのみで、体は金縛りにあったかのように硬直していた。
何者だ?あいつは。39という番号が入った中日のユニフォームを着てはいるが、
あんな選手は見たことがない。
「こいつは俺たちを殺す…ぐぅっ!」
瓦礫の中に銃声が響き渡る。
藤立の苦しげな呻きがそれに続いた。
姿は見えずとも、何が起こったかは容易に想像が出来る。
「筒井さん、何してるんですか!戦わなきゃ…」
森が折れていない右手で筒井の肩を叩いた。
「ショーゴー…馬鹿言うなよ、相手は銃を持ってるんだぞ」
「でも、このままじゃ藤立さんが死んじゃいますよ!」
何を言っているんだ。勝手に死ねばいいじゃないか。
あんな人、俺は親しくもないし、信用も出来ない。助ける義理なんてないんだ。
「何をぐずぐず話しとるんや!はよ逃げんかい!」
煙の向こう側から再度藤立が怒鳴った。
「藤立さん、俺も戦います!」
「おい、待てよ」
筒井はほとんど無意識に森を止めようとした。
しかし、森は一瞬早く筒井の脇をすり抜け、煙の中に駆け込んでいた。
「すみません、筒井さんだけでも逃げて下さいっ!」
「ば、馬鹿野郎っ…ショーゴー!」
筒井は瓦礫に埋もれた地面に膝をついた。
容赦のない銃撃の音に、悲鳴と怒号と叫びが混じって聞こえてくる。
何ということを。本当に馬鹿だ。
武器も持たず、何が戦いだ。嬲り殺しにあうだけではないか。
どうする、助けに行くか?…いや。武器が無いのは自分も同じ。
いまさら自分が助けに行っても、戦況は何も変わらないはずだ。
そうだ、逃げてもいいんだ、俺は。二人とも逃げろと言ったじゃないか。
ガクガクと震える足に力を込め、筒井は立ち上がり…
それから、森とは反対の方向に駆け出した。
悪く思うなよ。俺は死にたくないだけなんだ。
【残り14人】

714 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/26 17:06 ID:Lfc8vhrS

145   煙の中で

「くそっ、こんな時にっ!」
遠藤は救急車のエンジンを覗いていた。
国立名古屋病院を出て結局第一日赤に向かう事に決めたのだがその道中で
エンジンの調子がおかしくなってしまったのだ。
「なんでこんなについてないんだよ。」
遠藤は苛ついて救急車のボディを蹴り上げ天を仰いだ。
……?
空には何か白い煙のような物が流れていた。
「瓦礫の煙か?いや、違う。
 あれは…、藤立さんの!?」
そうだ、ドームで見た藤立さんの煙幕だ。
「……大西、待ってろ。
 今藤立さんを連れて来るから!」
そう眠っている大西に呼び掛け、遠藤は煙が立ち上る方向へ走り始めた。
藤立さんとまた一緒に行動できるならどれだけ心強いか。
それにしてもこんなに速く再会できるなんて…。
でも、煙幕を使うなんて藤立さんに何かが…?
ベレッタを握りしめながら走り続けて、しだいに煙の発生元が近づいて来た。
「あそこか!」
煙の向こうにかすかに人陰が見える。
あれは…、藤立さんだ!
「藤立さん!」
藤立はゆっくりと振り向いた。
「なんや、遠藤か。
 まだ生きとったんか?
 ……まずい所見られたな。」
遠藤は藤立の言葉に妙な違和感を憶えた。
それに、何か様子がおかしい。
向こうで倒れているのは…、ショーゴー?!
それに藤立さんの横にいるのは……。
遠藤の背筋から一気に血の気が引いた。
あ、あいつは、ドームの……。
「ふ、藤立さん!逃げてください!!
 殺されますよ!」
遠藤はとっさにベレッタ構える。
「逃げる必要なんてないやろ。
 殺されるのはお前なんやから。」

【残り14人】

715 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/26 17:11 ID:Lfc8vhrS

146  真意

「な、何を言ってるんですか。
 そいつは、ドームにいた奴じゃないですか!」
「だから逃げる必要がないんや。
 俺は狙われてないからな。
 そもそも遠藤、お前何で病院に居続けなかったんや。
 そしたら今頃生き埋めだったのになぁ。」
藤立の顔から笑いがこぼれる。
「ふ、藤立さん急にどうしちゃったんですか?!
 何かおかしいですよ!!」
「おかしい?
 俺はどこもおかしくないで。
 お前にこんな所見られたから演技を止めて正直に話してるだけや。」
「………?」
「意味が分かってないようやな。
 ふん、じゃあ冥土の土産に教えたるわ。
 俺は元々主催者側のスパイなんや。」
「…スパイ?」
「最初、荷物を開いた時は驚いたわ。
 なんせ入っていたのは煙幕とNHKの携帯無線なんやから。
 で、試合をテレビ用に盛り上げろって指示が来てな。
 俺はNHKの内部情報を提供されながら行動してきたってわけや。」
「そんな……。
 じょ、冗談ですよね、藤立さん!
 最初から大西とずっと一緒に行動してたんでしょ?
 スパイなら1人で行動しているはずですよ!」
「大西と組んだのはレーダーを利用させてもらっただけや。
 序盤は内部情報だけじゃ誰が何所かつかみにくかったんでな。」
「…嘘だ!
 だって、ドームにだって命懸けで乗り込んだじゃないですかっ!!!」
「命懸け?
 俺は命なんてかけたつもりはないで。
 仁村さんから頼まれてやっただけや。
 禁止エリアが停止してたことも、警備が俺を撃ってこない事も
 最初から知ってたんやからなぁ。」
また笑いながら藤立は言った。

716 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/26 17:12 ID:Lfc8vhrS

「遠藤知ってるか?
 俺達がドームに侵入した場面、瞬間最高視聴率とったらしいで。
 『遠藤達を守る藤立さんかっこいい!』って視聴者の反応が目に
 見えるようや。 
 …俺、気づいてしまったんや。
 この試合を利用すれば俺は日本のヒーローになれるかもしれへんって。
 もう、高校野球にも負けるようなガラガラのスタンドでプレーするのは
 御免なんや!
 もし、俺が最後まで残って、井上あたりをチームメイトの仇とか言うて倒せば 
 俺は一躍野球界の英雄や!
 もう、神戸の無名選手なんかやない!!
 天下の巨人、阪神でプレーするのも夢やないんや!!」
「う そ だ……。」
「ちょっとしゃべりすぎたな。
 遠藤、死んでもらうで。」
そういうと藤立は拳銃を遠藤に向けた。
「ん?」
「筒井さん逃げて……。」
地面に倒れていた森が藤立の足にしがみつきながら煙の向こうに呼びかけた。
「ちっ、死に損ないがっ!」
1発、2発、藤立が森の体に銃弾を打ち込む。
しだいに森の体から力が抜けていき、藤立は森を振り払った。
「ん、遠藤はどこいった?
 ……逃げられたか。
 まあいいか。あんな奴すぐ死ぬやろうからな。
 バルガス、行くで。
 煙が晴れてこんな所カメラに撮られたらたまらんからな。」
そう言うと、藤立達は煙の中に消えていった。

【残り13人】

726 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/27 01:18 ID:cpQuhoNA

147   パ・リーグの男

藤立は廃虚となった中区の街まで引き返して来て一息ついていた。
バルガスとは煙幕を抜けてすぐに別れた。
仁村さんが連れて来たあいつはあいつなりに勝手に動くのだろう。
「ショーゴーの奴、生き残ってればいい野手になってたんかな。」
藤立は自ら手をかけた森の事を漠然と考えていた。
「感情が高ぶって撃ってもうたけど、今思うとかわいそうな事をしたかなぁ。」
あかん、そんな事考えたらだめや。
この試合中、俺はとことん冷酷になるって決めたやないか。
罪もない遠藤や大西も落としいれて来たんや。
さっき遠藤にあんな風に宣言したんやし、もう後戻りはできへん。
……パ・リーグの人気回復のために、俺はヒーローにならなきゃいけないんや。
今まで近鉄、オリックスと渡ってきたけど今のパ・リーグは絶望的に人気が下がって来ている。
ひと昔前は『実力のパ・リーグ、人気のセ・リーグ』と言われたもんやったけど、
今じゃ人気も実力もセ・リーグの独壇場。
このままじゃナベツネの言う1リーグ制も時間の問題かもしれへん。
1リーグ制になってチーム削減なんて事になったら俺のいた近鉄やオリックスは……。
そんな事絶対あってはならない。
パ・リーグはプロ野球選手としての藤立次郎を育て上げてくれた故郷なんやから。
そのパ・リーグの人気回復のためにはスターが必要なんや。
そう、荷物に無線が入ってるのを見た時俺は思いついてしまったんや、完璧なシナリオを。
有利な条件を利用してこの試合に生き残った俺は巨人か阪神に移籍後活躍して実力を証明し、
全国区の人気を揺るぎないものにする。
そしてパ・リーグに凱旋や。
そうなったら俺の人気はかつてのイチローなんか目やない。
俺1人いればファンはまた球場に戻ってきてくれるはず。
客寄せパンダでもなんでもいい、パ・リーグのために俺はきっとやってやるで。
そのためには最後の最後まで英雄藤立を演じ続けんとな。
とにかく、俺には戦う理由がある。
この千載一遇のチャンスを絶対逃がす訳にはいかないんや。

【残り13人】

733 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/28 01:48 ID:5KVYvWrB

148 キューバ、主砲、英雄、50万円

「なん…で…」
筒井は今度こそ失禁しそうになっていた。
中区から飛び出さんばかりの勢いで走り続け、
やっと謎の男から逃れられたと思ったら、行く手にまたも見知らぬ外人が立ち塞がったのだ。
見慣れたユニフォームに縫い付けられた背番号は44。
今年そんな番号で登録された選手はいないはずだ。
それに首輪をしていないではないか。非公式に参加しているとでもいうのか。
いったい、このプログラムはどうなっているんだ。
もう嫌だ。限界だ。帰りたい。帰してくれ。
誰かいないのか。俺を助けてくれないのか。森は…
ああ、森は死んだだろうか。藤立は?
くそ、もうすぐ夜になっちまう。
死にたくない。死にたくないよ、俺は。
筒井は自分が狂ってしまったかと思った。それほど混乱していた。
「…あ…あんた…何者なんだ…」
背番号44は答えなかった。おそらく言葉が通じないのだろう。
サングラスに隠されたその表情は窺うことが出来ない。
ただ、筒井にぴたりと向けられた銃口がその意思を明確に表していた。
足から力が抜けそうになるのを堪えるだけでも辛い。
「俺を殺すんだな…」
やはり返答はない。男は無表情に唇を引き結んだままだ。
しかし、ふと筒井は、男の顔が見覚えのある顔だということに気付いた。
何だ?こいつの顔はテレビか新聞で見た事があるような…
「なあ、あんた…俺、どっかであんたの顔…」
唐突に銃声が響いた。
腹に衝撃と痛みが走る。筒井の足はついに負け、体は瓦礫の上に倒れた。
ああ、そうか、こいつ俺の言ってることわかんないんだもんな。
だからって、もう少しで思い出せるってとこで殺さなくてもいいのに。
筒井は何とか体を起こそうとしたが、痛みが酷くてとても力が入らない。
その激痛で筒井は思い出した。
「リナレス…!」
サングラスをしているとはいえ、間違いない。
キューバで英雄と称えられる野球選手、リナレスだ。しかし、何故?何故そのリナレスがここに?

無論、その疑問の答えが筒井に与えられることはなかった。
一殺50万円の約束でこの名古屋に降り立った世界の主砲リナレスは、
筒井の体が動かなくなるまでモーゼルHScを撃つ手を休めようとさえしなかったのだ。
【残り12人】

742 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/29 19:57 ID:/a3ryZRr

149 夜の部・開演 ~中里side~

中里は不意に足元を襲った銃弾に、つんのめるようにして地面に倒れた。
しかしすぐさま体勢を立て直して、銃を胸の前に構えた。
「誰だ!?」
返答はない。弾が飛んできたと思われる方を凝視したが、暮れ始めの薄もやがけぶるような視界では誰も見えなかった。
中里が逆方向へと視線をめぐらせた瞬間、今度は腕の近くをかすめて少し先に着弾した。
「くっ」
熱い様な痛みに、中里は腕を押さえた。
体を反転させる間に再び足元に着弾した。
中里は近くのビルの陰に飛び込んだ。そして見えない相手を探ろうと少しだけ顔を覗かせると、今度はそのすぐ上の壁に銃弾が当たった。
中里は慌てて首をすくめた。
相手はわざと自分を外して撃ってくるのだと理解して、中里はチッと舌打ちした。
(なめたマネしやがって・・・)
荒木をなかなか見つけられない苛立ちに加えて、更に中里の心を煽ってくる。
中里が荒木と福留に会った場所まで戻った時には、荒木たちと分かれてから数時間経過していた。
当然そこにはもう荒木も福留もおらず、ただ戦闘の跡があった。
しかしそこから点々と続く血の跡、それから中里は何かを嗅ぎ取ったのか、それを追っていたところだった。
そこを不意に襲われたのだ。

ちくしょう、俺をなめやがって。こんなふざけたマネしやがったことを後悔させてやる!
お前が誰だか知らないが、俺に銃を向けたことを後悔させてやる!
勝つのは俺だ。この天才・中里だ!

中里はギリッと歯軋りをすると相手の気配に神経を尖らせた。

【残り12人】

743 名前: 代打名無し 投稿日: 02/08/29 19:58 ID:/a3ryZRr

150 夜の部・開演 ~谷繁side~

谷繁は予備の弾薬を手で探りながら中里の動向を覗っていた。
「1発で殺すな。なるべくゆっくりやれ。そして顔は最後まで傷つけるな」それが古田からの指令だった。
中里は中日という球団にしては珍しく美少年系の可愛い顔立ちをした去年のドラ1投手だ。
1軍経験はほとんどないが、その顔立ちで女性ファンはなかなか多いらしい。
だからジワジワと攻めて、その顔が怒りや恐怖によって千変万化するのをじっくり放送したいのだと、そうすることによって女性の視聴率を上げようというのだ。
古田からの指示で谷繁は徒歩で中里に近付いた。
そして荒木を探すことにだけ神経を集中していた中里は、近付く谷繁にはまったく気付くことはなかった。
そして・・・。

いい絵は録れているだろうか。
怒りに満ちた顔で振り返った時は、なるほど可愛いかもしれないと思った。これなら女性にも受けはいいだろう。
しかし、自分にとってはただの小生意気なガキだ。
そろそろ周りじゃなく腕でも足でもちゃんと撃ってやろうか。痛みにゆがむ顔ってのも見ものだろう。
それからジワジワと・・・最後はあの顔を、あのこまっしゃくれた顔をズタズタに引き裂いてやろう。
視聴率は一気に跳ね上がるに違いない。
グロテスクすぎて逆に引かれるか? いや、この春の薄闇がいい具合にソフトフォーカスを掛けてくれる。
だいたいホラーやスプラッタ好きは女の方が多いんじゃないか?
お化け屋敷に入りたがるのも女だしな。
最高視聴率をたたき出してやる。
それがこっちの命も繋がるってことだ。

谷繁はここからの演出を考えながら、中里の隠れるビルの壁をジッと見つめた。

【残り12人】

760 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/03 02:00 ID:qFogyQ3u

151  失踪

何で、何でなんだよ、藤立さん。
俺、あなたに励まされたからここまで頑張ってこれたんだ。
それなのに。
……そうだ、そうだよ、さっきのはきっと何かの間違いだ。
たぶん藤立さんはあの外国人に脅されて……。
遠藤は必死に走りながらそんな事を考えていた。
自分の目に焼き付いた映像をなんとか否定しようとしたが、考えれば考える程
心に虚しさが漂うのも事実だった。
「…とにかく大西を連れてどこかに避難しないと。」
さっきから何度も振り返っているが誰かが追ってきている気配はなかった。
とりあえず自分の身の安全は確保されたみたいだけど、救急車に置いたままにしてきた
大西の方は大丈夫だろうか?
何か嫌な予感がする。
とにかく急がなきゃ。
見えた、あの角を曲がれば救急車の場所までもうすぐだ!

「大西、とにかく逃げるぞ!」
遠藤はそう叫んで後部車両に飛び乗った。
「なっ…?!」
そこに大西の姿はなかった。
さっきまで大西の腕にささっていた点滴が転がっていて、大西の荷物も
なくなっていた。
「…何なんだよ!
 どこ行ったんだよ、大西。
 俺がいない間に目覚めたのか?
 どれだけタイミングが悪いんだ、くそっ!
 レーダーを持ってるっていっても、まだあの体じゃ……。」
周囲を見渡してみる。
もう姿も形もないが、まだそんなには遠くにいっていないはず。
「………。
 仕方ないよ、俺がやるしかないんだ。
 俺がやるしか…!」
遠藤は震える己の体にそう言い聞かせた。
そして身を翻して、再び走り始めた。

【残り12人】

767 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/04 23:56 ID:HDxy7p76

152 選手交代

中里はいまや目の前に立って自分を見下ろしている谷繁を、荒く息を繰り返しながら睨みつけていた。
さっきからヘリコプターのホバリングの音がうるさい。
機上から撮影スタッフがライトを地上に向けていた。
辺りはもう暮れて暗いのに、2人の周りは煌々と照らし出されている。
その眩しさも中里を苛立たせた。
既に使い物にならなくなった中里の右腕と左足からは血が溢れ出し、血溜まりは既に赤黒く変色している。
使い物にならなくなったのは谷繁に撃たれた腕と足だけではない。
左手で握り締めているワルサーP38も既に弾切れになっている。
(俺はこのままこいつに殺られるのか。こんなメジャーに行きそびれて中日に流れて来たようなヤツに。俺の栄光の未来が閉ざされるのか)
そんな中里を見下ろして谷繁は笑っていた。
中里がもう反撃出来そうもないと見切って、手にしている武器も銃からサバイバルナイフに持ち替えている。
「エエ顔が撮れてますよー。視聴率もさっきから上がりっぱなしですわ。ほな、そろそろ次の一撃行きましょか」
古田のいやらしい声が指示を出してくる。
(うるせぇよ)
そうは思っても谷繁は素直に古田に従った。自分から死に急ぐことはない。
谷繁はナイフを握りしめ振りかぶった。
(なんだ、アレ・・・)
中里は谷繁の耳元に繋がるコードを見つけた。どうやらイヤホンを着けているらしい。
こんな時に何を聞いているのか。妨害電波の影響でラジオなんか使えるはずが無い。
じゃあアレは・・・あの相手は・・・。
中里は自分にかぶさるように向かってきた谷繁を、残っている右足で思い切り蹴り上げた。
「ぐふぅ・・・っ」

768 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/04 23:57 ID:HDxy7p76

谷繁のみぞおちに綺麗に中里の足が入った。谷繁の体が落ちてくるのを何とか避けると、中里はグイッと谷繁のイヤホンのコードを引っ張った。
「・・・中里くんやったなぁ? 古田ですー。君、人気あるんやねぇ。女の子からぎょーさん応援メール来てますわー」
中里がイヤホンを装着すると、想像通りに古田の声が聞こえてきた。
イヤホンを見たときに一瞬で中里は解った。谷繁は本部と繋がっている、と。
「さっきからエエ顔が撮れてますわー。この調子で頑張ってくださいねー」
白々しい言葉だ。そうやってさっきまで谷繁に自分を殺すように指示してたんだろうに・・・。中里は舌打ちした。
中継画面を先ほどまでの谷繁が中里を追い詰めていくところのVTRに切り替えて、古田は中里に話しかけ続けた。
谷繁だろうが、中里だろうが、プログラムを面白くしてくれればいい。
「谷繁はそのまま殺っちゃってええですよー。谷繁をうまいこと殺してくれたら、スタッフが君を連れ帰ってちゃんと手当てしてあげますからねー」
モニターの向こうで中里が谷繁を見た。谷繁はまだ起き上がることが出来ないでいる。
「それだけじゃありませんよー。君がみんなを殺して回るんをサポートしてあげましょ。名古屋はまぁ広いんでねー。偶然会えるんを待ってるんじゃー効率も悪いですからねー」
画面の中の中里がピクリと肩を震わせた。

(サポートする、だと?)
中里は目を見開いて虚空を見つめた。
確かに今のままでは効率が悪い。しかし古田が散らばる選手達の場所を教えてくれるなら・・・。
中里はコックリと頷いた。
「ほな契約成立っちゅーことで。頑張ってくださいねー。中継再開しますわ」
古田が言うと中里はイヤホンを投げ捨てた。そして倒れている谷繁の頭に握り締めたままのワルサーのグリップを叩き付けた。
「ぐあ・・・っ」
頭骨の割れる手ごたえが中里に伝わった。

769 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/04 23:58 ID:HDxy7p76

中里は谷繁の手から零れたナイフを拾い上げた。そしてためらうことなく谷繁の心臓めがけて突き刺した。
負傷した体ではあまり力が入りきらないが、それでもナイフはズブズブと谷繁の体にもぐっていった。
「・・・・・・」
もう谷繁は声もあげなかった。
中里はナイフを引き抜いた。そして何度も何度も繰り返し突き刺した。噴出す谷繁の血が中里を濡らしていく。
中里の顔に笑みが、壮絶な笑みが広がった。
「勝つのは、俺だー!」
血まみれの中里をカメラはしばらく映し続けていた。

やがてヘリコプターが地上に降りた。
どうやらここからの中継は終わったらしい。
スタッフは中里を抱えるようにしてヘリコプターに乗せ、再び上空に上がり、かなたへと飛び去っていった。

【残り11人】

774 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/05 08:32 ID:VX+vUNu/

153 命

辺りを、墨を流したような闇が包み込んでいる。
夕刻の定期放送からどれほどの時間が経っただろうか。
福留は懐中電灯を油断無く握りしめつつ、ひたすらに睡魔と闘っていた。
眠い。ただ、眠い。
そもそも人間は夜になれば眠たくなるようにできている。
ましてやこの疲労困憊した体だ。気を抜いているとまばたきからでも眠りの中に落ち込んでしまえそうだった。
眠ってはいけない。今ここで自分が眠ってしまったら一巻の終わりだ。
歩くことさえできない荒木に、外敵と戦うことは不可能なのだから。
外敵、か。
谷繁の持っていたメモのことが思い出された。
スタッフと通じている人間がいる…恐らく一人や二人ではあるまい。
もしかしたら、今もこの病院に向かっている敵があるかもしれない。
撮影スタッフの助けがあれば、誰がどこにいるかを把握することなど容易いだろう。
ああ、と福留はため息をついた。
それにしても、こう暗いのではどうしても眠たくなる。
しかし、こんな窓際で懐中電灯のスイッチを入れれば外に明かりが漏れてしまう。
荒木から離れることはできないし、荒木を移動させる体力ももうない。
こういうのをジレンマというのだろうか。初めからどこにも逃げ道は無かったが、
もう三日目も終わりに近づいている今、いよいよ身動きが取れなくなってきている。
荒木と組んだことを後悔はしていないけれども。
そろそろと右手を伸ばして、シーツ越しに荒木の腹に触れてみた。
静かな寝息に合わせて規則正しく上下している。
それで、福留は少しだけ体の緊張を解いた。

775 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/05 08:34 ID:VX+vUNu/

大丈夫だ。荒木は生きている。それを感じ取るだけの余裕が自分には残っている。
ともかく、命に関わる怪我でなくて良かった。本当に。
福留はもう充分に知ってしまっていたのだ。人がいとも簡単に死んでしまうということを。
この三日間、名古屋の街で同僚たちの命は紙も同然の軽さで散っていった。
命が地球より重いとか、そういった類の奇麗事は、狂気と凶器の前に何の効力も持たない。
せめて首輪さえなければ、ふと思って福留は苦く笑った。
首輪一つでこうも他人の言いなりになる自分たちが滑稽でならない。
人間とはかくも弱いものであるわけだ。
馴れ合いすぎだと揶揄さえされたこの球団の有名選手たちは、
罵りあい殺しあい、既に四分の一まで減っている。
競争主義が原則のプロ選手ならば、それが自然な姿なのかもしれない。
それでも福留は荒木を手にかけるくらいなら死んだほうがましだと、シーツの上で拳を握った。
人殺しの自分がプライドを語ることが許されるのなら、人間からけだものに落ちる最後のラインだけは超えたくない。
勿論、それで罪が消えるわけではないが。
福留は荒木の体の上から手を引き、銃を握り直した。右手にデザートイーグル、左手に懐中電灯。
椅子の傍らには日本刀が立てかけてあるはずだ。
どうしても睡魔に負けそうになったら、あれで腕でも軽く切ってみればいい。
しばらくは痛みのせいで睡眠どころではなくなるだろう。
それでも死ぬよりはずっとましだろうから。
【残り11人】

782 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/07 15:32 ID:a+5QktZL

番外編7 血の十字架

「お前が出なければ、小松を出す」
その一言で、彼は戦場へ駆り出された。
人が人としては存在出来ない、狂気のあの場所へ。

24時間リアルタイムでの中継が続けられているテレビ画面を見ながら、牛島和彦は自らの過去を振り返っていた。

もう何年前になるのか。あの年のオフ。
やはり今と同じようなことがあった。
エース一人は免除。それが球団の方針だった。そして、球団が選んだのは、牛島ではなく、小松だった。
だが、それを「はいそうですか」と言って大人しく引き下がる牛島ではない。
元来その計画は直前まで選手たちには伏せられているものなのだが、牛島の鋭敏な嗅覚は事前にそのこと嗅ぎ取った。
そして、何とかそれを阻止しようとした。決してチームメイトの為、というわけではなかった。正直に言うなら。自分がそんなクソゲームに乗せられるのが、自分の意志ではなく踊らされるのが我慢ならなかっただけだ。

783 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/07 15:32 ID:a+5QktZL

だが、いかに牛島と言えど、一人で立ち向かうには、組織は大きすぎた。
ある夜、唐突に星野仙一が彼の許を訪れた。
そして、言ったのだ。
「お前が出なければ、小松を出す」
と。
エースとして、小松は残す。バトルからは免除する。球団の中ではそう決まっていた。だが、ここで牛島がゴネれば、お前の代わりに小松を参加させるぞ、と。そう星野は言ったのだ。
それ以上の脅し文句があろうか?
あんな人、バトルなんかに参加したら1時間もしないで死んでまうわ。
星野はそれ以上何も言わず、苦渋の表情のまま、牛島の許を去った。
その一言に牛島が逆らえることなどないと、わかっているかのように。
そして、それは事実だった。
牛島に小松を見捨てることは出来なかった。
結局牛島は、ゲームに「乗った」。

先発のエースと、リリーフエースと。
球団が選んだのは、先発完投型のエース。所謂「エース」。
自分は何処までも2番目だった。
そう、そういうことやったんや。
なら、こんなクソゲームでも生き残ってやる。最後の一人になって、「一番」になるんや。
それから、無理矢理こんなもんに参加させたお前らにも、一泡吹かせてやる。

784 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/07 15:33 ID:a+5QktZL

そして、事実牛島は最後の一人となった。
その痩身がしなやかに返り血にまみれ、次々とチームメイトを葬って行ったのだ。
まるで生きる世界を間違えた美しき殺人鬼のように。
そうまでして手に入れたかったものなど、水泡よりも更に儚いものだったのに。

牛島の参加したバトルは記録的な短さで終了した。
そのあまりの手際の良さに恐れをなした球団幹部は、バトルの翌年、牛島を放出することを決めた。
世紀のトレードと呼ばれる、あのトレードである。
仲間を屠り、その血で手を染め、汚れてまでして残ったドラゴンズ。だが、こうもあっさりと切り捨てられ、それに抗うことも出来ないとは。
しかし、野球を辞めることは、出来なかった。決して、出来なかった。
自分の背中には、野球をやりたくても出来ない、彼が葬った全ての選手がいるのだから。

悔しさなのか、悲しさなのか、自分でも良くわからないままに、牛島は泣いた。記者の前で、泣いた。あの会見を、今でも誰か覚えているだろうか?

785 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/07 15:33 ID:a+5QktZL

こんなバトルで勝ち残っても、得るものなどない。
ただ自分たち以外の意思で踊らされるだけだ。酷く滑稽なダンスを。
そして、段々と「ひと」ではなくなっていく自分を感じるのだ。
「一番になる」代償に、彼が一生背負って生きなければならないものは、あまりにも重すぎる。

それでも。
牛島はテレビ画面をじっと見つめる。
生き延びろ。乗り越えろ。打破しろ。
その手で切り開いて行け。
そうしてチームメイトの骸を背負え。そうすれば、一生、いい加減に野球をすることなど許されなくなるのだから。

牛島はゆっくりと瞳を閉じ、誰に言うともなしに呟いた。
「マサ…お前の気持ちは、わかる気がするんや…」

彼の背負った大きく重い十字架が消えることは、ない。

790 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/08 15:46 ID:jVySqzU7

154 拒絶

川上は闇を透かして周囲を見回した。すでに目は暗さに慣れている。
どうやら近付いてくる人影は無いらしい。
空には満月に近い太った月が昇っていて、これの光は随分と川上の視界を広げてくれた。
街灯が無い街では、普段気にも留めぬ月光さえ心強い。
…もう、隣には誰もいないのだから尚更だ。
思わずため息をついて、それから慌てて飲み込んだ。敵に聞き取られるかもしれない。
川上と井端は、日が完全に落ちる前に別れていた。
別れたと言うよりも、川上が一方的に井端を追い払おうとした、
と言った方が正しいかもしれない。
もう自分は駄目だ、川上は思い始めていた。
我ながら生き残りたいという欲はあまり強くないと思う。それなのに、人が怖い。
支離滅裂だ。
ともかく中里に撃たれたのが強烈過ぎて、隣に武器を持った誰かがいるというプレッシャーに耐えられなかった。
たとえそれが井端であっても関係はなかったのだ。
井端が自分を救ってくれたのだとか、傷を治療してくれたのだとか、そんな考えはすべて吹き飛んだ。
その時の川上の中では、井端は「井端」ではなく「自分以外の人間」であったのだから。
もう誰も信じられない。中里が牙をむき、朝倉は血に塗れ、井端とて平然と人を殺す話をした。
誰も俺に構うな。近付くな。一人にしてくれ。安堵をくれ。
「もう、勘弁してくれ…」
井端は去り際、何も言わなかった。少しだけ眉を顰めたきり、振り返りもせず公園を去った。
「誰か助けてくれよ…」
心にも無い言葉が勝手に漏れては消えていく。
本当は、死ぬ事よりも、襲われる事が恐ろしい。誰も信じられない。
足の傷がじくじくと痛むのも川上を強く苛んでいた。
もう、俺は駄目だ。

791 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/08 15:47 ID:jVySqzU7

井端には解っていた。よく解っていた。
川上が落ち込んだ不信感は、自分を狂気に走らせたものと同質だということを。
自分がゲイラカイトの糸を周囲に張り巡らしたのと同じで、
川上の周りにも見えない糸が縦横無尽に張ってあった。
少なくとも井端はそう感じた。心の壁と言ってもいい。
そこまで解っていながら、何もしてはやれず、結局はその場を立ち去るしかなかった。
自分は久慈にはなれなかったのだ。
近付くな、一人にしてくれと絶望に染まった瞳で川上は言った。
その絶望からは救ってやりたかったが、見えない糸を断ち切る方策など自分の知識の中には無かった。
ただ、それだけの事だ。去ってやらねば川上は錯乱していたかも知れない。
月の冷たい光が、血に染まった街並みを無機質に浮かび上がらせている。
どこへ行く宛てもないながらも、井端は南に向かっていた。
正直な所、死に場を求めているような心持ちだった。
【残り11人】

792 名前: 書き手A 投稿日: 02/09/08 16:02 ID:jVySqzU7

790の25行目は

× 本当は、死ぬ事よりも、襲われる事が恐ろしい。誰も信じられない。
○ 本当は、死ぬ事よりも、襲われる事の方が恐ろしい。何よりチームメイト達が怖い。信じられない。

に訂正…というか書き直し。
ちょっと勢いだけで書いてしまった。

810 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/14 20:17 ID:eZXh6iee

番外編8・監督

練習場から帰ってから、鶴田泰は自室のソファに寝ころんでいた。
傍らのテレビの電源は入れられていたが、鶴田はそちらを見ようともしない。
かつてのチームメイト達が疑心暗鬼に駆られ、殺し合う様など見たくはない。しかし、テレビを消してしまうことも何故か躊躇われた。
突然、呼び鈴が鳴った。鶴田ははじかれたように起きあがった。
(こんな時間に、一体誰だ?)訝りながらドアを開ける。
「ツル、いきなりですまんが、少し話があるんだ。いいか?」
「佐々岡さん…!」
玄関口に立っていたのは、カープのエース、佐々岡だった。

佐々岡と鶴田は、ソファに向かい合って座った。テレビには、スタジオでなにやら話す古田の姿が映っている。
「紀藤さんが死んだのは、知ってるか?」
「…はい」
自分とのトレードでドラゴンズに行き、そして死んだ紀藤。実際に手を下したのは今もテレビに映っている古田で、ゲームの実施を決めたのはフロントだ。そう思おうとしたが、どこか割り切れない気持ちがあった。
「そんな顔せんでええ、ツルのせいじゃない」
鶴田の気持ちが分かったのか、佐々岡はそういった。それで気が晴れるわけではないが、鶴田はとりあえず頷いた。佐々岡が続ける。
「紀藤さんが死んだことで、若い血の気の多い連中が、もう我慢できない、名古屋へ行って紀藤さんの仇をとるんだ、と言いだしたんだ」
「!」
鶴田は息を呑んだ。紀藤や山本昌を無慈悲に殺害した者達に抗するのはあまりに危険だ。
「それは危険です。佐々岡さん、何とかやめさせて下さい」
「判ってる。今は皆、落ち着いてるよ」
佐々岡は、一息ついてテレビを眺めた。鶴田も、つられてテレビに目をやった。画面には「これまでのハイライト」と称して選手達の死ぬシーンが次々に映し出されていく。
「…監督が言った。『このくだらないゲームを止めるのは、俺の戦友の役目だ』って」
佐々岡が呟くように言った。鶴田は佐々岡を見た。佐々岡はテレビを凝視したまま、続ける。
「俺は、あいつらを説得するのに『星野さんを信じろ』って言った。『星野さんがこんなゲームを終わらせてくれる』って。だけど」

811 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/14 20:20 ID:eZXh6iee

テレビの画面は、紀藤が撃たれ崩れ落ちるシーンに切り替わった。佐々岡はそれを全て見届けて、声を絞り出した。
「だけど、本当は俺が一番、星野さんを信じてないんだ。ゲームは続いてるし、中日の選手も死に続けてる。紀藤さんも。…俺は、自分で信じていないことをあいつらに言った。言わなきゃならなかった」
ああ、と鶴田は思う。本当は、佐々岡自身が一番名古屋に乗り込みたかったのだ。佐々岡は一番長く、紀藤と先発ローテーションを守ってきたのだから。しかし『チーム最年長投手で、エース』という立場上、意に反して皆をなだめる側に回らざるを得なかったのだ。
昌さんといい、佐々岡さんといい、エースっていうのはなんて因果な立場なんだろう。鶴田はふっとそんなことを考えていた。
佐々岡は、視線をテレビから外し、鶴田をひたと見つめた。
「なあツル、お前は星野さんを俺より知ってる。星野さんは、信用できる人か?俺は星野さんを信じていいのか?」

812 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/14 20:20 ID:eZXh6iee

鶴田の脳裏に、星野仙一の姿が浮かんだ。星野監督、あなたが俺に何を頼みたかったのかは判らない。だけど。
「星野さん…監督は、一度言ったことは必ず実現させる人です。だから、監督が『このゲームを終わらせる』と言ったのなら、絶対そうなります」
絶対の自信があったわけではない。だが、鶴田は力強くそう言った。佐々岡は暫く鶴田を見つめていたが、やがて少し笑った。
「ツルがそう言うんなら、大丈夫なんだろうな。星野さんを信じるよ。…悪かったな、変なこと言って」
そういってソファから立ち上がりかけた佐々岡の目がテレビに向けられ、すぐに大きく見開かれる。
「ツル、テレビ見ろ!あれ、もしかして…」
鶴田も慌ててテレビを見た。テレビには、名古屋の街で佇むユニフォーム姿の二人が映し出されている。
一人はこちらを向いているが、自転車を押していて番号が見えず、誰だか判らない。もう一人は背中を向けていて…
映像はすぐに切り替わってしまったが、二人はしっかりと見た。
「77 HOSHINO」と書かれたユニフォームを。
「見たか、今の。星野さんだった。星野さん、名古屋にいたんだ。ゲームを止めてくれるんだ」
興奮気味に言う佐々岡に、鶴田はさっきと同じ言葉を、しかし確信を持って繰り返した。
「監督は、一度言ったことは必ず実現させる人です。このゲームは、監督が終わらせます。だから、監督を信じて下さい」

823 名前: 代打名無し 投稿日: 02/09/17 03:21 ID:uvudHcG8

155 治療中

つい先ほどまで食料にさえ困っていたのが嘘のようだ、と中里は思った。
今、長椅子に横たわる自分の周りには白衣を着た人間たちが多数配され、
実に甲斐甲斐しく――少なくとも中里はそう感じた――働いている。
どうしてもっと早くにこうする事を思い付かなかったのだろう。
確実に生き残ることができる上、スタッフからは特別待遇とは、こんないい身分はない。
麻酔でも注射されたのだろうか、怪我も殆ど痛まないから、
本当は今すぐにでも外に飛び出したい気分だ。
勿論それは許されないのだが。
「で、あとどれくらい寝てればいいんですか?」
試しに質問をすると、スタッフの一人が振り向きもせずに答えた。
「…ともかく治療が終わるまではじっとしていて下さい」
やれやれ、だ。中里は思わず嘆息した。
先刻からこればかり、何度聴いても同じ答えしか返ってこない。
早く自由になりたい、そしてこの権限を振りかざしたいのに。
右腕はしばらく動かすことも叶わないらしいが、
どうせ一度肩の外れてしまった腕だ。当てにはしていない。
銃など撃ちたければトリガーを引けばいいだけだ。
ボールを投げるのと違って複雑な指先の動きを要求されるわけではないから、
左腕でも十分役目は果たせるだろう。
…それより問題なのは左足の負傷だ。足が動かないではお話にならない。
当面の獲物は俊足の荒木。息を潜めて接近しても、逃げを打たれたら追い縋ることもできないではないか。
「あの、足はどれくらいの怪我なんですか」
「思ったより浅いですね。骨や神経に異常は無いようです。
ですが、動かさないに越した事はないですよ。出血もかなりありましたから」
「ああ、じゃあ、動かそうとすれば動かないって事はないんですね」
もの言いたげな視線が中里の顔に集まったが、敢えてそれは無視した。
【残り11人】