2009年01月27日 (火) 22時46分05秒最終更新


準 備 書 面③

   成20年(ヨ)第15号事件
   京都地方裁判所
   第5民事部保全係 御 中
   債権者   開地区自治連合会外312名
   債務者   宇治市
準 備 書 面(3)
   上記当事者間の頭書事件について、債権者は、以下のとおり、準備する。
   平成20年3月28日
   上記債権者代理人
       弁護士 湯 川 二 朗
       弁護士 山 口   智 

第1.保全の必要性について
   裁判所は、昨日の審尋で、開浄水場を休止して本裁判をしている1,2年の間に開浄水場を再開できなくなるという事情があるかとの釈明を求められたので、開浄水場を休止したのでは本裁判の結果を待っていられない事情につき以下に述べる。
(1)水脈が変わるおそれがある
   現在、開浄水場で地下水を揚水しているからこそ、水の道ができているが、浄水場を休止すると負圧がなくなるので、水の道がなくなり、現在の取水地点での水脈が枯渇するおそれがある。
(2)設備が著しく傷む
   浄水場を休止するとケーシングが閉塞し、今後再開しても水量低下や揚水できなくなる。
   浄水場を休止すると、ポンプ類に錆が生じ、再開するときにはポンプ類をオーバーホールする必要があり、多大の経費を要する(逆に言うと、それだけ余分の費用がかかるから再開しないという結論になりかねない。)。
   電気系統、特に計装関係は、運転による適度の熱がないと、湿気が蒸発されず、使用不能となるおそれが大きい。
   それらの設備の劣化を避けるためには定期的なメンテナンスが不可欠である。
   ところが、債務者は浄水場を休止した後は、後にも述べるとおり、今後再開する意思はなく、したがって定期的にメンテナンスをする意思もなければ、そのための予算措置を講ずる考えもない。
   したがって、設備の劣化が著しく進行することは明らかであり、ひいてはそれが廃止の口実・既成事実化につながることは避けがたい。
   以上の(1)(2)の事情は、休止の期間が半年以上になると、確実に生じてくるおそれがある。
(3)昭和53年の開水道施設の休止とは全く事情が異なること
   昭和53年の開簡易水道施設の市への移管の際には、確かに開水道施設からの給水は一時休止されたものの、半年後には再開された。しかし、そのときは、浄水場施設を新設し、取水地点も新しくし直したのであって、単に浄水施設を休止していて再開したというものではない。
(4)府営水の受水量に余裕はない
   債務者は本申立において府営水の受水量に余裕がある旨主張するが、債務者は、市議会の答弁で、水道水の需要の多い6月から9月は1日当たり62,400t(最大受水量62,800t)の水を府から受水しているから夏場は余裕がないことを認めている(甲34号証178頁浅見議員の質問に対する水道事業管理者の答弁)。そうすると、開浄水場を休止すると、今夏には債権者らは水不足に陥るおそれがある。
(5)債務者も休止したら再開はしないことを認めている
   債務者は、審尋の場でも発言したように、開浄水場を休止したら、その後再開する考えは持っていない。これは平成18年12月21日宇治市議会建設水道常任委員会においても、市当局は「廃止せざるを得ない」(議事録57頁)、「休止したら、再開するにはもう一度投資する必要があるが、水質の改善が見られないのであれば投資が無駄になる(ので再開は困難)」(59,60頁)と述べている。
   したがって、休止とは認可を避けるための名ばかりのもので、実質「廃止」である。「休止」をいったん認めてしまえば、その後本裁判で債権者らが勝訴しても、再開されることはない。
(6)保全の必要性の考え方
   債権者らが本申立で保全を求めている権利は、人の生命身体の維持及び健康の保持に密接に関わる権利である。人の生存にとって良質な水の確保は不可欠である。開浄水場の水(地下水)が府営水(琵琶湖の水・ダム水)に比べて良質であることは客観的事実であるし、少なくとも債権者らは開浄水場の水は府営水よりも良質であると感じている。それなのに、どうして本裁判で決着がつくまで、「まずい」水を飲まされなければならないのであろうか。それは少なくとも、債権者らの主観の上では、自らの生存の侵害であると感じるものである。そうである以上、本裁判で終局判決が確定するまでの間は、開浄水場を休止しないこと=開浄水場の水(地下水)の供給を中止しないこと、こそが本申立における保全の必要性である。
(7)保全することで得られる債権者らの利益とそれで被る債務者の不利益
   開浄水場を休止してその水の供給を中止することによって債権者らが被る(ないし債権者らが被るであろうと感じている)不利益と、開浄水場を休止しないことによって債務者が被る不利益とを比較考量すれば、前者の不利益は人の生存に関わる不可欠なものであるのに対して、後者の不利益は財政的な軽微なもの(当面恒常的な維持管理費に尽きる。)にすぎない。この場合の不利益は、たとえば水道施設の建設の差止めとは違って、公共の利益・福祉への支障は少ない。
   宇治市の財政にとっても、開浄水場を休止した後再開するときに要する費用と、開浄水場を中止せずに稼働させる費用とを比較しても、前者の方がはるかに大きい。
   したがって、本案裁判の終局判決が確定するまでの間、開浄水場の水を確保することこそが求められていると言うべきであり、開浄水場を休止するのであれば、本裁判において債権者らの敗訴が確定してから行えば足りることである。それによって、債務者が著しい損害を被るおそれは存在しない。
第2.被保全権利について
   昨日の審尋期日において、被保全権利の内容について、裁判所より改めて確認を求められた。
   債権者らと債務者との法律関係は、給水契約という公法上の契約関係である。 債権者らは、債務者が債権者らに対して負う給水義務の内容を、①(府営水=府営宇治浄水場ではなく)開浄水場からの水の供給を行う義務、②(府営水=天ヶ瀬ダム水ではなく)井戸水の供給を行う義務、及び、③(府営水=府営水道購入水ではなく)現在飲んでいる水質の水の供給を行う義務と整理したものである。その核心は、今ここで取水されて、今ここで飲んでいる水を、そして親の代から何十年来と飲み続けているこの水を飲み続けたいという素朴な願いである。この住民の素朴な願いは、まさに債務の本旨を構成するものであり、契約法の中において十分保障されるべきである。
   確かに水道法の枠組みだけを見れば、水道事業者の負う義務は、水道水質基準に適合する水を供給する義務ということになるのかもしれないが、近時の水道事業のあり方の議論(国の機関での検討結果)、地下水利用のあり方についての議論、環境保護の見地、そして開地区における水道事業の経緯に照らせば、債務者が負うべき給水義務の内容は、債務者のいうような、単なる水道水質基準に適合する水を供給すれば足りるというものではない、というのが本申立における債権者らの主張である。これは十分に成り立つ議論であると考えている。保全処分においては、被保全権利についても、帰責事由についても、疎明で足りる。本件における被保全権利が認められるのか、開浄水場を休止する合理的理由があるのか、は本裁判で最終的に決着がつけられるべき極めて重要な問題である。しかし、そのためには今、当面の間、開浄水場の休止が差し止められなければならない。先に述べたとおり、開浄水場は一旦休止されれば、それは廃止の既成事実につながる。廃止するのであれば、本裁判の決着を待つべきである。事が人の生存に密接に関わることであるだけにそうされるべきである。これが本件仮処分申立の趣旨である。どうか裁判所におかれては、本裁判の判決が確定するまで、開浄水場の休止を差し止める判断を下されるよう切にお願いする次第である。
以 上

6. 《抗告理由書全文

平成20年( )第   号 浄水場休止差止等仮処分申立却下決定に対する即時抗告申立事件
申立人(債権者)  開地区自治連合会外10名
被申立人(債務者) 宇治市
大阪高等裁判所民事部 御 中
抗告理由書
平成20年4月24日
申立人(債権者)ら代理人
弁護士  湯  川  二  朗
弁護士    山  口    智

第1 はじめに
   本申立に至るまで債権者らと債務者は、開浄水場を休止して府営水道水に切り替えることの合理性・必要性につき争ってきた。そして、債務者が昨年暮れになって話し合いを拒絶するに至って、債権者らはやむなく本申立に及んだ。
   ところが、原審では、債務者は、従前当事者間で争われてきた争点(休止切替えの合理性・必要性)を避け、専ら水道事業者の裁量(水道事業者は給水契約者に対して水道水質基準に適合する水を供給すれば足り、それ以上に特定の浄水場の水を供給する義務はないから、開浄水場の水を供給するか府営水道水を供給するかは水道事業者の裁量に委ねられている)を強調するに至った。それに対して、原審裁判所は、債権者らが現在飲用している開浄水場の水と府営水道水の水質の違い、被保全権利につき開浄水場の水の供給を受ける権利というよりも、現在飲用している水の水質を問題にしているのではないのか、等被保全権利の内容を深める釈明をなしてきた。
   ところが、原決定は、当事者間の真の争点にも触れず、原審での審尋の経過も顧みず、これまで全く争点となっていなかった「昭和53年に日産車体から債務者に債務の承継合意があったかどうか」を争点として取り上げて、債権者らの申立を却下した。これは当事者らの関心に何ら答えない、不意打ち・肩すかし決定と言わざるを得ないものであって、極めて不当である。
第2 抗告の理由第1点 
   原決定は、保全の必要性の判断を誤った違法がある。
(1)被保全権利の性質
   債権者らが本申立で保全を求めている権利は、人の生命身体の維持及び健康の保持に密接に関わる権利である。人の生存にとって良質な水の確保は不可欠である。開浄水場の水(地下水)が府営水(琵琶湖の水・ダム水)に比べて良質であることは客観的事実である。少なくとも債権者らは開浄水場の水は府営水よりも良質であると感じている。被保全権利の性質が人の生存にとって不可欠の権利にかかわるものである以上、本裁判で終局判決が確定するまでの間は、開浄水場を休止=開浄水場の水(地下水)の供給を中止するべきではない。
(2)一度休止されると再開の見込みはない
   債務者は、開浄水場を休止したら、その後再開する考えは持っていない。これは平成18年12月21日宇治市議会建設水道常任委員会においても、市当局は「廃止せざるを得ない」(議事録57頁)、「休止したら、再開するにはもう一度投資する必要があるが、水質の改善が見られないのであれば投資が無駄になる(ので再開は困難)」(59,60頁)と述べている。審尋の場でも認めている。
   したがって、休止とは厚生労働大臣の認可を避けるための名ばかりのもので、実質「廃止」である。「休止」をいったん認めてしまえば、その後本裁判で債権者らが勝訴しても、再開されることはない。
(3)休止すると水脈が変わるおそれがある
   現在、開浄水場で地下水を揚水しているからこそ、水の道ができているが、浄水場を休止すると負圧がなくなるので、水の道がなくなり、現在の取水地点での水脈が枯渇するおそれがある。
(4)休止すると設備が著しく傷む
   浄水場を休止するとケーシングが閉塞し、今後再開しても水量低下や揚水できなくなる。
   浄水場を休止すると、ポンプ類に錆が生じ、再開するときにはポンプ類をオーバーホールする必要があり、多大の経費を要する(逆に言うと、それだけ余分の費用がかかるから再開しないという結論になりかねない。)。
   電気系統、特に計装関係は、運転による適度の熱がないと、湿気が蒸発されず、使用不能となるおそれが大きい。
   それらの設備の劣化を避けるためには定期的なメンテナンスが不可欠である。
   ところが、債務者は浄水場を休止した後は、今後再開する意思はなく、したがって休止後定期的にメンテナンスをする意思もなければ、そのための予算措置を講ずる考えもない。
   したがって、設備の劣化が著しく進行することは明らかであり、ひいてはそれが廃止の口実・既成事実化につながることは避けがたい。
(5)保全することで得られる債権者らの利益とそれで被る債務者の不利益
   開浄水場を休止してその水の供給を中止することによって債権者らが被る(ないし債権者らが被るであろうと感じている)不利益と、開浄水場を休止しないことによって債務者が被る不利益とを比較考量すれば、前者の不利益は人の生存に関わる不可欠なものであって、かかる著しい損害を避けるために休止の差止めを認める必要があるのに対して、後者の不利益は財政的な軽微なもの(当面恒常的な維持管理費に尽きる。)にすぎず、水道施設の建設の差止めにおける公共の利益・福祉への支障とも質的に異なる。
   宇治市の財政にとっても、開浄水場を休止した後再開するときに要する費用と、開浄水場を中止せずに稼働させる費用とを比較しても、前者の方がはるかに大きい。
   したがって、本案裁判の終局判決が確定するまでの間、開浄水場の水を確保することこそが求められていると言うべきであり、開浄水場を休止するのであれば、本裁判において債権者らの敗訴が確定してから行えば足りることである。それによって、債務者が著しい損害を被るおそれは存在しない。
第3 抗告理由第2点 争点整理の誤り
   本件の争点は、開浄水場を休止して府営水道に切り替えることに合理性があるのか、すなわち、債務者に帰責事由があるのか(争点4)にあるのに、原決定は、争点2として「債務者が、昭和53年1月ころ、日産車体株式会社及び債権者らとの間で、日産車体株式会社から、債権者らに対して開浄水場からの水を供給する債務、井戸水の供給をする債務及び債権者らが現在飲用している水質の水の供給を行う債務を承継する旨の合意をしたかどうか」と整理して、争点のすり替えをしたものであって、これは債権者らの主張の整理を誤ったものである。
   すなわち、債権者らは、平成20年3月21日付準備書面(2)において、①開浄水場からの水を供給する債務、及び②井戸水の供給をする債務は、債務者が日産車体から承継した旨主張したが、③現在飲用している水質の水を供給する債務は日産車体から承継したと主張しているものではない。債権者ら地元住民は、昭和53年に債務者と給水契約をして以来、債務者から現在の水質の水の供給を受けており、債務者も昭和53年以来その水質の水を供給してきたこと、そして水道事業者の責務として安全でおいしい水を供給する義務があることから、債権者らが現在飲用している水質の水(安全でおいしい水)の供給を行う債務が給水契約における「債務の本旨」であると主張しているのである。今ここで取水されて、今ここで飲んでいる水を、そして親の代から何十年来と飲み続けているこの水を飲み続けたいという素朴な願いこそが本件申立の主眼であり、それはまさに債務者が水道事業者として負う給水債務の本旨を構成するものであり、契約法の中において十分保障されるべきである。そして、開浄水場を休止して府営水道に切り替えることは、給水する水の水質を変えることである(甲5号証の水質検査結果を見ても、開浄水と府営水の水質の違いは明らかであるし、地下水と比較してダム水が冬冷たく夏ぬるくまずい水であることはほぼ公知の事実に近い。)から、「債務の本旨」に沿わない債務の履行、すなわち債務不履行に当たると主張しているものである。
   ところが、原決定は、「本件覚書の存在から、債務者が債権者らに対し、(略)現在飲用している水質の水の供給を行う債務を承継する旨の合意をしたという事実を推認することはできない」旨判示して申立を却下したものであって不当というほかはない。
第4 抗告の理由第3点 事実誤認
   仮に前項で問題とした事実整理を前提としても、原決定は、本件覚書の存在や、債務者が昭和53年に一旦府営水に切り替えながら、開浄水場が完成した後は同浄水場からの給水を行うようになったという事実だけでは、債務者が開浄水場からの水を供給する債務、井戸水の供給をする債務及び債権者らが現在飲用している水質の水の供給を行う債務を承継する旨の合意をしたという事実を認めることはできない旨判示したが、これは事実誤認である。
   債権者らはもとより本件覚書の存在のみをもって日産車体から債務者に給水債務が承継された旨主張しているものではなく、日産車体の簡易水道施設の廃止の経緯、債務者が開浄水場を建設して開地区住民に給水を行うようになった一連の経緯に照らして、債務が承継された旨主張しているものである(平成20年3月4日付債権者ら準備書面15,6頁参照)。
   債権者らとしても、債務者が開浄水場からの水を供給する債務、井戸水の供給をする債務及び債権者らが現在飲用している水質の水の供給を行う債務を承継する旨の合意をした事実は、疎明で足りるものと考えて、当時の資料をあまり提出してこなかったが、当時の資料によると、
①日産車体と住民との給水契約書(甲39)には、日産車体(甲)が給水者(乙)に対して、「甲はその所有にかかる宇治市開町社宅の給水施設より乙の居宅に給水することを約諾する。」旨記載されている。債務者と債権者らとの給水契約もそれを踏まえていること、
②昭和51年5月9日の宇治市長室での市長・住民会議において、市長は「日産の回答が出ているので、どう対応して行くか、日産に対して交渉もある、今後どう対策をたてるか早急にしたい。今日は住民の意思統一をしたい。」「(略)みなさんの要望されている水が呑めるとのことでよかったと思っている。みなさんの要望の水を呑むことができるかが問題である。」と発言していること(甲40 会議等結果報告書)、
③ 同年6月13日の市長応接室での市長・住民会議においても、市長は、「あの水の要望については(用地は日産車体からの)譲渡でも貸与でも変わらない。日産と精力的に行政として交渉する。あの水を市の上水道を供給することを確立して行きたい。」「市長はやり抜く決意を持っている。」と発言していること(甲41 会議等結果報告書)、
が認められるのであって、これらの事実に照らせば、当時の宇治市長は開簡易水道施設の移管を受けるに当たり、「みなさんの要望されている水」「あの水」という表現を用いて開浄水施設からの井戸水を念頭において、債権者ら開地区住民に対してその水を市の上水道として供給し続けること、すなわち日産車体に代わって債務者が地下水を水源とする開浄水施設の水を供給し続けることを意思表示しているのである。これによれば、債務者が債権者らに対して、開浄水施設の水を供給する日産車体の債務を承継することを認めたものであることは明らかである。
   もし「債務を承継する」という表現が誤解を生む(日産車体と債務者との間の承継合意があるのか)のであれば、「日産車体の簡易水道施設の廃止の経緯、債務者が開浄水場を建設して開地区住民に給水を行うようになった一連の経緯に照らせば、債務者が債権者ら開地区住民に対して昭和53年から水を供給するに当たっては、地下水を水源とする開浄水場を建設してその水を供給することを約した」ことは明らかである。
以 上
上へ

7. 《抗告理由補充書

平成20年(ラ)第446号事件
申立人  開地区自治連合会外10名             
被申立人 宇治市
抗告理由補充書
   大阪高等裁判所第11民事部 御 中
   上記当事者間の頭書事件について、申立人らは、以下のとおり、準備する。
平成20年6月2日
上記申立人ら代理人
弁護士  湯   川   二   郎
弁護士  山   口       智
第1.答弁書に対する反論
   1.被申立人は、答弁書(平成20年5月20日付け)において、被申立人は申立人に対して本件浄水場の水の供給をすべき債務を負っていないと主張するが、これは明らかに誤った主張である。原決定も、日産車体株式会社が申立人に対して「開簡易水道の水又はその原水となる井戸水の供給をする債務を負うとの合意をしたとまで認めることはできない」と認定しているが、これも誤った認定である。その理由は、原審で主張した点を援用する他に、下記の通り主張する。
   ① 申立人らは、昭和35年3月12日、日産車体株式会社との間で給水契約を締結した。その給水契約の内容としては、給水契約書にも記載があるとおり、日産車体が申立人らに対し、「宇治市開町社宅の給水施設より」送水するといった内容であった(甲39)。この契約に基づき、申立人らは日産車体株式会社より、開簡易水道から給水を受けていたのである。ところが、日産車体株式会社がその開簡易水道を廃止しようとする動きを見せたため、開自治会が水道対策委員会を設置したのである(申立人らの原審準備書面平成20年3月4日付け 6頁)、
   原審でも主張した(第1準備書面7頁)ことだが、そもそも、申立人らは開簡易水道(地下水)から給水を受けられることを条件に開町へ移り住んだ(簡易水道付きの住宅を購入した)のである。従って、移り住んだ条件である開簡易水道が廃止されることに反対したのは至極当然のことである。
   ところで、このように、申立人ら開町の住民が開簡易水道からの給水を受けられることを条件にこの地へ移り住むようになったということについては、当時の市長も認めていたことである(甲43)。開簡易水道より申立人らに対して給水していた日産車体株式会社もこの事実は当然知っていたことである。だからこそ、申立人らと日産車体株式会社との間で交わされた給水契約書(甲39)には「宇治市開町社宅の給水施設より」送水するという記載があるのである。この事情一つをとってみても、申立人ら開町の住民は日産車体株式会社との間で、開簡易水道又はその原水となる井戸水からの給水を受ける合意が成立していたことは明らかであって、原決定における、日産車体株式会社が申立人に対して「開簡易水道の水又はその原水となる井戸水の供給をする債務を負うとの合意をしたとまで認めることはできない」との判示は誤っていることになる。
   そして、上記のとおり、申立人ら開町の住民が開簡易水道からの給水を受けられることを条件にこの地へ移り住むようになったという事情があったからこそ、宇治市長は、開町の住民・宇治市・日産車体株式会社の三者三様負担の斡旋案(甲42)を示し、最終的に覚書(甲1)の締結に至ったのである。
   ② 上述した三者三様負担の内容としては、①市は建設資金として、当初約5000万円程度かけて、新しい浄水場を建設すること、②水道管の引込み工事費については申立人ら開町住民の個人負担とすること、③日産車体株式会社は市が新しい浄水場を建設するための用地として約200坪の土地を提供すること、といった内容であった(甲42)(ここにいう「新しい浄水場」とは、現在の開浄水場(本件浄水場)のことである。)。
   この三者三様負担の斡旋案に対し、日産車体株式会社は、昭和51年4月20日、浄水場を建設するための用地を譲渡することはできないが、無償で貸与することはできると市に対して回答を行った。そして、日産車体株式会社は同時に当該土地は浄水場として使用することを無償貸与の条件としたのである(甲58、第4条。なお、この土地に関しては、日産車体株式会社は、この当時、無償貸与としていたものの、平成15年8月12日に、被申立人に対して寄付するに至ったものである(甲61)。甲61号証を見れば明らかであるが、日産車体株式会社は、この土地を「水道用地」に地目変更の上寄付している。)。このように、開浄水場が現在の場所に存続し、給水を行っているのは、上記三者三様負担の斡旋案に基づくものである。そして、その斡旋案は、申立人ら開町の住民が開簡易水道の廃止に反対したことがきっかけで、宇治市長から持ち出されているのである。このような事情に照らせば、申立人ら開町の住民・被申立人・日産車体株式会社の三者の合意として、被申立人は申立人らに対して、開浄水場から地下水を供給するという義務(債務)を負っていることは明らかである。
   現に、昭和51年8月5日に行われた、当時の被申立人の市長や開町の住民ら等の間で行われた会議においては、上記約200坪の土地から地下水が出なかった場合は、被申立人の責任で、地下水が出る用地を探し、申立人に対して地下水を供給するということを被申立人の市長自らが発言している(甲52)。昭和51年8月16日の会議、同年8月20日の会議においても、被申立人の市長は被申立人が申立人に対して、地下水を供給する義務を負っていることを認めている発言をしている。すなわち、昭和51年8月16日の会議において、被申立人の市長は「市水に切り替えが出来た時点で、日産の給水責任は終わることになり、以後の給水責任は宇治市にある。地下水は宇治市が責任をもって給水するのである。」、「地下水は宇治市が責任をもって給水するのである」と述べており(甲53)、申立人らに対して地下水を供給する義務についてはそれまでは日産車体株式会社があったが、市水に切り替えた以後は、被申立人がその義務を引き継いだことを被申立人の市長自身が明言しているのである。そして、昭和51年8月20日の会議においては、井戸が枯れ、地下水が供給できなくなった場合はどうするのかという住民からの問いに対し、被申立人の市長は「この付近で掘る。将来的にも考えている。神明浄水場でも新しく掘っている。井戸を廃止する場合は皆さんのご了解を得る。」という発言を行っている。この発言も、被申立人に申立人に対する地下水の供給義務があることを認めた発言であるといえる。
   以上の三者三様負担に関しては、昭和51年10月4日付けで、当時の被申立人市長が申立人ら開町の住民に充てて三者三様負担を確認する手紙を送付しており(甲55)、また、同年11月11日にも、当時の被申立人の市長が申立人らに対して、①日産車体株式会社が経営していた簡易水道施設のある敷地約200坪の用地を無償で借り受け、新しい浄水場を建設すること、②土地の使用についての契約は半永久的に使用できる内容とすること、③新浄水場建設にかかる手続きは市議会及び厚生省(当時)に申請すること、④新浄水場建設中は市水を給水すること、⑤引き込みは出来るだけ短期間に行い、経費は安くなるように被申立人は協力することを確認しているのである(甲57)。
   さらに、被申立人が申立人らに対して地下水を供給する責任を持っていることにつき、被申立人の市長は新聞記者に対して報道発表している。すなわち、被申立人の市長は、新聞記者に対して「市水道問題は市が一定の条件を設定し責任をもって開町に地下水を供給することを提案した。また、長年にわたって地元との問題が解決することで、市へ20,000千円の寄付の申し出があり、受けることとした。最後に覚書に基づきそれぞれの立場と責任において浄水場の建設、給水管の施設等を施工して参ることになりますが、市長として予定の本年10月に市の地下水になる給水が出来るよう皆さんのご協力を願ってやみません。」と談話を発表したのである(甲59)。被申立人が申立人に対して地下水を給水する義務を負っていることは、この報道発表からも明らかである。
   2.また、被申立人は、答弁書において、需要家台帳にも使用開始届にも「給水する水道水の区分(府営水、自己水)の記載はない。」と主張するが、被申立人自身、本件浄水場による給水区域図を所持しており、被申立人は、開地区住民のうち誰が本件浄水場による給水を受けているのかを個別に把握している(だからこそ、申立人適格についても正確に認否したのである。)。これは、需要家台帳や使用開始届には府営水、自己水の区別が記載されていなくても、被申立人自身は、府営水、自己水の区分を了解した上で供給しているということである。
   3.さらに、被申立人は、「本件浄水場を存続させることは、公営企業としての経済性に反する結果」となると主張しているが、これは明らかに誤った主張である。すなわち、被申立人は、給水単価として、開浄水場の場合は1立方メートルあたり金229円、府営水の場合は金155円(甲23)とで主張しており(平成20年1月30日付答弁書)、本答弁書における主張もこれを受けてのものと思われる。
   しかしながら、甲23号証は、被申立人作成に係る資料であるところ、この資料は、府営水の単価を安く見せるため、配水量で全ての費用を按分しているのである。しかしながら、現実には、開浄水場は無人で自動装置により運転されている。そのため、開浄水場の単価を計算する場合は、減価償却費及び各戸までの配管費を加算すれば足りるのであって、本件浄水場による給水単価計算には不要な経費が多額に計上されている。
   これに対し、府営水の場合は、地形により配水池、加圧ポンプ、送水管等が必要であり、多額の設備費及び借入返済金(企業債)が加算されるのであり、これらは本件浄水場の給水単価を計算する上では何ら関係のない費用である。従って、給水単価は明らかに府営水の方が高いのである(甲25 開自己水 浄水原価24.4円 府営水83.3円)。この点、被申立人の主張は事実に反している。
   なお、被申立人は、本件仮処分申立をしたのが312名で、本件抗告をしたものが10名にすぎないと言うが、本件仮処分・抗告申立は、いずれも開自治連合会での決定を受けて行っているものであり、住民の総意として行っているものであり、申立人に名前を連ねている者は、申立人として自ら顕名して費用を納めてもよいと考えるているものにすぎない。したがって、申立人に名前を連ねていない者が本件浄水場の休止を是認しているわけではなく、本件申立を認容することは開地区住民全員の利益となるものである。その意味でも被申立人の主張は誤りである。
以 上
証拠説明書5.27.doc
上へ

8. 《抗告理由補充書に対する被抗告人による反論-主張書面-

平成20年(ラ)第446号持水場体止差止等仮処分申立却下決定に対する即時抗告申立事件
抗告人  開地区自治連合会 外10名
被抗告人 宇治市

主張書面

平成20年6月17日
大阪高等裁判所第11民事部 御中
被抗告人代理人 弁護士 小野 誠之
        弁護士 野澤 健

   被抗告人は、抗告理由補充書に対して以下のとおり反論する。

1 甲第39号証「給水契約書」について
(1)抗告人らは、甲第39号証「給水契約書」第1条に、日産車体が「宇治市開町社宅の給水施設より」送水するとの記載があることをもって、「開町の 住民は日産車体株式会社との間で、開簡易水道またはその原水となる井戸水からの給水を受ける合意が成立していたことは明らか」と主張しているが、同記載により、給水を受ける権利以上のもの、すなわち「特定の浄水場から 給水を受ける権利」あるいは「井戸水の供給を受ける権利」が発生するとは認められない。
   そもそも,各抗告人と日産車体との間で甲第39号証と同じ内容の契約が 締結されたことについて、何ら疎明がない。
(3) なお、甲第39号証「給水契約書」には、日産車体が保有設備を第三者に 譲渡したときは、譲渡日をもって失効する旨が定められており(第9条)、仮に日産車体が税告人らが主張するような義務を負っていたとしても、被抗告人がかかる義務を承継することはない。
本件覚審締結及び本件浄水場建設の経緯
(1)   抗告人らは、開町の住民が開簡易水道の廃止に反対したととをきっかけとして、宇治市長から甲第1号証「覚害」記載の内容が提案された旨主張し、「このような事情に照らせば、被申立人は申立人らに対して開浄水場から地下水を供給するという義務を負っていることは明らか」と主張している。
   しかし、当時の字治市長が「三者三様の負担の斡旋案」を提案したのは、「開簡易水道の水を飲み続けたい」という開町住民の希望を実現するためではない。むじろ、日産車体はかねてより開簡易水道を廃止する意向であり、地方公共団体である宇治市が開町住民に対して給水を行うことが、 日産車体の水道事業廃止の条件となっていたためである(甲第59号証)。
   しかし、宇治市においては,昭和50年頃、府営水からの受水量が限界に達していたため、府営水の給水地域を拡大することは困難な状況であり、自己水源を確保する必要性が指摘されていた。
   このため、当時の宇治市長は、①日産車体にとってはその水道事業を廃止できる、②住民らにとっては井戸水の供給が継続される、③宇治市にとって は用地の無償提供を受けることで、多大な経済的負担を負うことなく自己水源と確保できるという、3者にとってメリットのある解決を実現するため、「三者三様の負組の斡旋案」を提示したものである。抗告人らが地下水を飲 み続けることを永入に保障したものではない。
(2)   宇治市としては、当時、開簡易水道による給水がなされていた地域に給水 しようとすれば、地下水を水源とする浄水場を建設する方法しかなかったために、本件浄水場を建設したものである。府営水に余裕があれば、給水原価の安い府営水に切り替えていたものである(甲第23号証)。
(3)   また、抗告人らは、「開簡易水道から給水を受けられることを条件に開町 へ移り住んだ」とも主張しているが、抗告人らが、単なる給水のみならず、「開簡易水道からの給水」を『条件』にしていたとは、証拠上あるいは社会通念上認めることは出来ない。
(4)   なお、抗告人らは、被抗告人が府営水、自己水の区分を了解した上で供給 していると措摘しているところ、被抗告人が給水区域や給水系統を把握して いるのは、設備の維持管理、水圧や水量管理に不可欠な情報として当然のことであり、かかる事実が抗告人らの主張する被保全権利の根拠となるものではない。
まとめ
   これまでに主張してきたとおり、地方公営企業である水道事業において、浄水場あるいは水源を特定し、特定の水を供給することを水道事業者の義務として認める余地はない。水道法、地方公営企業法、宇治市水道事業の設置等に関する条例及び宇治市水道事業給水条例にも、抗告人らが主張する権利が存在すると言える根拠規定は一切存在しない。
   抗告人らにそのような権利を認めた場合、抗告人らのみを特別扱いすることを容認することになり、特定の者に対して不当な差別的取扱いを禁止した水道法14条2項4号にも反することになる。
   また、全ての住民に対して浄水場や水源の選択の自由を認めれば、水道事業者としての裁量や判断による経営を行うことは出来ないし、経済性にも反することになる。
   以上のとおり、本件抗告には理由がなく、速やかに棄却されるべきである。
以 上
上へ
最終更新:2009年01月27日 22:46