☆仮想水
仮想水(かそうすい、virtual water)とは、農産物の生産に要した水の量を、農産物の輸出入に伴って売買されていると捉えたものである。ヴァーチャル・ウォーターともいう。世界的に水不足が深刻な問題となる中で、潜在的な問題をはらんでいるものとして仮想水の移動の不均衡が指摘されるようになってきた。【フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』】

仮想水
仮想水とは?(『世界の水危機、日本の水問題』沖大幹)

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インタビュー/地球温暖化と水資源[前編]東京大学生産技術研究所教授 沖大幹氏(ECOマネジメント2008年10月6日 )


温暖化適応策としての水管理

──沖大幹教授は水文学が専門で、世界の水循環について研究されています。地球温暖化に関わる、関わらないに限らず、水に対する一般的な関心をどのようにお感じですか。

沖大幹教授(以下敬称略): 海外では水問題に非常に大きな関心がもたれています。サミット(主要国首脳会議)でも水の問題が取り上げられ、国連はしきりに、気候変動の問題と合わせて解決していかなければならない問題だと発信しています。食料価格の高騰も、旱魃や洪水による生産量や収穫量の減少がきっかけになっています。また、農業に及ぼす影響だけではなく、現時点で水に困っている人たちはたくさんいて、貧困、保健衛生、教育、国の経済そのものと関わっている国や地域はたくさんあります。
 水は世界の安定した秩序維持のためのキーファクターの一つであり、インドや中国では水とエネルギー、食料あるいは環境を国の問題としています。そこで語られる水の問題には、量だけでなく質も関わっています。

──日本では水問題への危機感が薄いように思います。

沖: 国内では、良くも悪くも水のインフラが整っているので、水の危機はなかなか感じられなくなっています。これから人口はほぼ横ばい、あるいは減少に向かうので、近い将来に水が足りなくなることはあまり切実には考えらません。また、大洪水に遭遇する機会も少なくなって、自分が洪水で死ぬなどということはないだろうと思うようになりました。昔は洪水で年間1000人単位の人が亡くなっていましたが、最近は100人単位で、減少傾向にあります。治水が進み、洪水被害も減少しているため、国内での関心が薄れてしまっていることが、海外における水問題の捉え方や水問題との関わり方との温度差となって現れていると思います。

──温暖化対策と水の管理としての治水は、現状では、別のものとして捉えられています。

沖: IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のレポートでは温暖化に対して、適応策と緩和策の両方が大切だとしています。ところが、温暖化対応というと、マスメディアをはじめとして大抵の場での議論は、緩和策である、二酸化炭素(CO2)をいかに削減するかに終始しています。地球温暖化問題が緩和策に傾倒しすぎていることは世界共通の問題です。
 日本の場合、農業や水の管理における適応策は、農林水産省や国土交通省などが担当することになります。ところが、それらの官庁は地球環境問題の所轄ではないため、地球温暖化に関する外交交渉の場には呼ばれません。それゆえ、外交の場における地球温暖化対策というと、ついCO2をいかに削減するか、といった緩和策ばかりになって、適応策が日の目をみてこなかったのです。
 また、緩和策を嫌う人々もたくさんいますので、あまり適応策の話をすると、「適応策さえちゃんとすれば、緩和策は不要だ」という意見が出る。それもまずいので、あえて適応策を取り上げない、ということがあるのかもしれません。

──気候変動は、気温や降水量に影響をおよぼし、水災害、旱魃、ひいては農業、漁業だけでなく他の産業も無関係ではいられないのですが。

沖: 国内のマスメディアは、北海道・洞爺湖サミット前に地球温暖化こそが今の地球における大問題であり、それを解決すればあたかも問題がなくなるかのような盛り上げ方をしていました。心ある専門家は温暖化だけが問題ではないと言うものの、マスメディアのなかでは、どうしても温暖化だけを解決すればいいような論調にならざるを得ません。そのために、CO2さえ削減すればよいように伝えられてしまっています。しかし、こうした報道は、受け手が少し考えてデータを確認すれば、必ずしもそうでないことがわかります。結果として、大きな反発を招いてしまうことになるのではないでしょうか。

すべてを気候変動に結びつける危うさ

──温暖化対策に比べると、水の問題をどう解決するかというアイデアが出てきていないように思います。

 例えば日本で水を節約しても、今、足りない地域で水が得られるようになるわけではありません。「私たちが、今、何をすればいいのか」というところに落とし込んでいくのが非常に難しいのです。そこに、水問題の難しさがあります。
 水問題に比べると、温室効果ガス、特にCO2の削減になると、自分が電気を消せば、ごくわずかかもしれないがCO2の排出量は減ります。レジ袋を使わないようにすれば、その分だけ量は減るということで、ある意味ではやりやすいのです。一方で、「もっと地球にやさしいことをしたい」という方だけが実践している間はよかったのですが、それだけに留まらず、他人の行動までとやかく言うことになっています。それを、非常に息苦しく思う人も増えてきています。今後、うまく舵を取っていかないと、よい方向に進まないのではないかと心配しています。

──最近では、天候が普段とちょっと違うと、すべて地球温暖化が原因のように喧伝される傾向があります。

沖: IPCCの報告によると、今、温暖化が起きていることは疑いがありません。また、それが人間活動の影響であることは9割の確信度です。ただし、現在起きているすべての異常気象が、温暖化の影響であると言い切ってしまうと間違いですし、反発が起きます。

──気候変動問題に関しては、推進派と懐疑派に分かれているようです。

沖: 私は、人間の活動によって生まれるCO2が原因で温暖化が起こりつつあり、今後もまだまだ進むと思っていますので懐疑派ではありませんが、懐疑派の方の話をいろいろ聞くこともあります。気象庁が発表しているように、これまでに、東京の気温が約3℃上がっていて、そのうちの0.7~0.8℃の上昇分が温暖化、残りはヒートアイランドによるものだといいます。懐疑派のなかでも、その割合がどれくらいかについて、さまざまな見解があります。

──気候変動問題に関して、なかなか統一された見方にならないのは、なぜでしょうか。

沖: 一つには、温度上昇や気候変動に対する人間活動の影響や太陽活動の影響の評価や将来の温暖化の推計に、まだ不確実性があるからでしょう。一方で、50年後や100年後の話だと皆が実感を持ち得ないため、現在生じている異常気象を温暖化と結びつければ、温暖化対策やCO2排出削減もどんどん進むと考える勢力があり、メディアもそれに乗って、やや無理な情報発信をしてしまった、という側面があるのではないでしょうか。
 温暖化に伴う、さまざまな被害を減らすためにどうすればよいかについては、トップダウンでこうすべきだと決めるより、みんなで方策を探っていくほうがいいのではないかと考えています。もちろん、専門家が具体的な提案をすることはいいのですが、個人の行動にまで強権的に立ち入るようだと、かなり反発が出てしまうのではないでしょうか。

気候変動と豪雨の関係は未解明

──すべてを気候変動に結び付けるような動きに対する反動が怖いですね。

沖: 気温がほぼグローバルに上昇することは間違いないと思いますが、実際に何度上がるのか、さらには雨の降り方がどう変わるのかなどについては、不確実性が高いのです。気候変動に関連して、われわれの分野である水について言えば、将来、水資源として使える量が増える地域と減る地域の境が南北や東西に少し移動するだけでも「5年前の推計ではこの地域は減ると言われていたのに、今度は増えるのですか」といったことになる可能性もあります。
 実際には、豪雨や旱魃が増えるにしても、かなり広い範囲を対象に考えた場合であり、長江やミシシッピ川流域での洪水や渇水が増えたり減ったりするくらいの規模感で、現在は話をしているのです。昨日、今日の集中豪雨、あるいはゲリラ豪雨を即座に気候変動の影響であると言ってしまうと、嘘になってしまいます。

──TV番組でも地球温暖化と豪雨の関連がよく取り上げられています。

 本当の専門家は、「もし温暖化が進んだら、今回のような豪雨が増えます」としか言っていないのではないでしょうか。被害が深刻だからといって、特定の豪雨が100%気候変動の影響であるとは、心ある科学者なら決して断言しないと思います。
 温暖化が進んだら豪雨が増えるというのは間違いではないのですが、マスコミを通して受け止める市民のほうはどうかと言うと、いくら科学的に厳密に話しても、最近、地球温暖化の影響で豪雨が増加していると思ってしまうわけです。
 1kmメッシュで10分単位の豪雨が温暖化前と後でどう変わるかについて、物理的なシミュレーションを使って計算しているデータはまだありません。今、日本の気候変動研究のグループもそうした計算をやろうとしていますが、非常に大きな能力の計算機が必要なので、現時点では十分な計算結果が揃っていません。ということは、今の段階では、この夏起こったような豪雨までもが「温暖化の影響である」とは、専門家であれば、到底言えないと思います。

経済圏を考えた水対策支援を

──温暖化そのものに疑いを持ってしまう原因はどこにあるのでしょう。

 専門家以外の方は地球温暖化に関する学術論文を読まないでしょうし、専門書を読まれる方もまれでしょう。そうなると、一般書か新聞やテレビの報道から情報を得ることになります。懐疑派の方の話を聞いていると、そうしたマスメディアが専門的な内容を平易にする段階での多少の演出、あるいは因果関係や論理の前提に対する理解が不十分なままに提示された結論に対して、厳密な指摘をしている場合もなくはないように思います。そういう方々はある意味よいのですが、問題は、地球温暖化問題に関する深刻な情報を素直に信じていた一般の方々が、逆に、懐疑論を目にした段階で、今度はなんの疑いもなく「地球温暖化問題は全部うそなのか」と思ってしまう傾向があるようなので、そこを憂慮しています。
 温暖化で起こることは、映画「デイ・アフター・トゥモロー」のような派手なものではなく、現実には地味で、大雨による洪水のようなことが起きる頻度が上がるのです。未曾有の事態が起こるというより、われわれが経験したことはあるけれど、めったに経験することはなかったようなことが、たまには起こるようになる、という形で温暖化の影響が徐々に現れてくることでしょう。そうした場合、温暖化だからという実感が持ちにくいのではないかと思います。

──TVの映像が象徴的に映し出すのは、北極の氷であり、シロクマであり、氷河の崩落シーンです。それぞれの事象に対して反論を持っている方がいて、その意見はある程度正しく、例えばシロクマは撃ち殺されている数のほうがはるかに多いという反論が出てきます。対策を迫る息苦しさが、反論のほうに耳を傾けやすくさせている傾向にあるように思います。

沖: カントが、「人は見たいものしか見えない」と言ったそうですが、信じたい方の意見を正しいと思うのは仕方がないと思います。米国では政府が、“ショップ オピニオン”と言って、政府に都合のよい意見を言ってくれる学者を探して研究予算をつけると聞きます。

 地球温暖化に関しても、シロクマや氷河の問題が日本のわれわれにどう影響するのですか、という問いに実感を持たせるため、ちょっと脅すような内容を言うメディアもあると思います。しかし、脅して人が行動するかは疑問です。会社で部下に「これをやらなきゃクビにするぞ」と言えば、嫌々やるかもしれませんが、スムーズに進み、いい効果を生んではいかないと思います。脅しで人の行動を規制していくことは、なかなか難しい。
 日本では、水の問題で直接困ることは少なくなっています。現在の水問題への対策は、同時代に生きる別の地域に住む人々、あるいは将来の世代が生きるのに困ることがないように、われわれが知恵や技術、経験や資金を出そうという話なのです。

──懐疑派も多いなかで、現実に見えにくい活動に対するコンセンサスを得るのは、難しいと思います。

沖: このような活動に対して、どのように賛同を得られるのかは三つの観点が考えられます。一つは地球環境問題としてわれわれに直接利益はないけれど、地球環境倫理として同時代、あるいは将来の世代のため、今、何かをしなければならないのだという見方です。
 二つめには、日本の経済圏の国々に水の問題がなくなって経済が発展すると、日本の製品を買ってくれるので、そのような国々を支援すべきだという見方もあるでしょう。あるいは、支援によって日本への賛同者が増え、国連の常任理事国入りができるというような間接的な利益を求めることも考えられるでしょう。
 三つ目として、日本は平地面積が少ないため、現在のような食生活をしている限り、100%の食料自給は無理なのです。日本にとっては、国際的な食料マーケットが安定していることが大事で、そのためには、途上国の食料生産が安定していなければなりません。これらの国々の水問題が解決すれば、食料生産が安定します。そのために日本が投資することは、日本のためにもなるというリターンを期待する考え方や論理もあると思います。

インタビュー/地球温暖化と水資源[後編]東京大学生産技術研究所教授 沖大幹氏(ECOマネジメント2008年10月14日 )









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最終更新:2009年11月01日 00:27