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HISTOPLASMOSIS
 Histoplasma capsulatumはdimorphorous(酵母型と菌糸型)な真菌で,米国では最も一般的な全身性真菌感染症であるヒストプラズマ症を引き起こす.感染性のあるH. capsulatum胞子を吸入することで,無症候性感染を起こす.健常者でも有症候性の呼吸器感染を起こすこともあるし,時に慢性進行性呼吸器感染症や播種性感染症を呈する.H. capsulatumは,日和見宿主,殊にHIV感染者では日和見感染症を生ずる重要な起炎菌である.

Ⅰ. 生育と特徴
 H. capsulatumは通常の真菌培地で発育するが,brain-heart infusionのようなenriched agar上では発育が加速する.菌糸期では室温では10-21日が必要で,特徴的な筒状の胞子を有することで同定に至る.37℃での酵母期への転換にはさらに7-14日を要する.生検検体も染色および培養に供される.Gomori-メテナミン銀染色およびPAS染色では小さな細胞内酵母の像を呈する.喀痰や血液からもWright染色で同定できる.
Ⅱ. 分布
A. 流行域
 ヒストプラズマ症は世界中で生じるが,米国中央部,特にオハイオとミシシッピ渓谷が流行地域である.テネシーとケンタッキーでは成人層の90%以上がH. capsulatumの感染を受けており,これは皮膚反応が陽性であることで判明する.より当方のメリーランドやバージニアでは,被験者すると85%が暴露を受けていることが分かる.
B. 感染源
 H. capsulatumは本来土壌に生息する.この微生物は,鳥類(例;ムクドリ,ニワトリ,黒鳥)やコウモリの排泄物で汚染された土壌でよく発育する.鶏舎・黒鳥止まり木清掃従事者や洞窟探検者は重暴露のリスク下にあり,アウトブレイクの元凶となる.都市住居でもみられることがあり,H. capsulatum胞子の巣窟は野外,講演,古い建物にも存在しうるため,巣窟が建設や取り壊しなどで拡散すれば呼吸器ヒストプラズマ症のアウトブレイクが生ずる結果となる.
Ⅲ. 病因
A. 起炎菌
 飛沫核の胞子を吸入することで感染が生ずる(成立する).胞子は肺胞に沈着し,酵母型に変換しマクロファージに貪食される.感染したマクロファージがリンパ管を通じて局所リンパ節に拡散し,網内系,肝臓,脾臓や骨髄に血行性に拡散する.
B. 健常宿主では,最初の暴露から1-21日で細胞性免疫が発達する.Tリンパ球がサイトカインを産生しマクロファージを活性化し細胞内酵母を消化する.同時に感染巣で乾酪性または非乾酪性肉芽腫が形成される.この反応が感染をコントロールしている.経過とともに肉芽腫は石灰化し,レントゲンでは特徴的なGohn複合体および脾臓石灰化がみられる.
C. 患者によっては有効な細胞性免疫が発達しない場合がある.感染(定着状態)はこれに含まれない.播種性ヒストプラズマ症が生じる.播種性ヒストプラズマ症の主要なリスクは高齢者,極小児,白血病やリンパ腫などの免疫抑制患者,被移植者,ステロイド治療中の者である.AIDS患者は播種性ヒストプラズマ症に進展する際の最大のリスクである.
Ⅳ. 臨床像,診断,治療
A. 急性肺ヒストプラズマ症
1. 臨床像
a. 健常宿主:健常人では少量の吸入暴露は潜在感染となり無症状である.稀に有症候性となる場合があるが,これは小児か乳児の場合である.また,稀に呼吸器感染症が播種性感染症に至る場合がある.
b. 胞子の大量吸入暴露後の感染症で有症候性の疾患を生ずることがあり,これを急性肺ヒストプラズマ症と称される.
(1)先行暴露歴がなく急性期症状を呈し,10から18日間の潜伏期間の後で感冒様症状(悪寒,発熱,倦怠感,頭痛,筋肉痛,乾性咳嗽,胸痛)で発症する.結節性紅斑,多形性紅斑,移動する関節痛の場合もある.CXRでは通常量促成で,斑状で肺門縦隔リンパ節腫脹を伴う結節性浸潤影である.胸水はあまりみられない.多くの患者では2,3週間で症状は緩解する.
(2)以前に暴露された者の場合はやや違ったパターンとなる.症状は似ているが程度は軽く先夫期間は短い(3-7日).CXRでは結節は微細でありリンパ節腫脹,胸膜病変,後の石灰化は伴わない.
2. 診断
a. 潜在性感染症は,皮膚テスト陽転や特徴的な石灰化を呈するCXR所見によってretospectiveに診断される.
b. 急性症候性肺ヒストプラズマ症は培養および痰の検査によって診断されるが10%未満である.役に立つ追加検査は以下の通りである.
(1)CXRは,先述の通り.疑わしい所見がある場合がある.
(2)皮膚テストは急性疾患を診断する際には有用ではない.流行地域の居住者の多くは既感染のため陽性を示すからである.
(3)補体結合反応により酵母型もしくは菌糸型抗原に対する抗体を検出する.一方若しくは両方を計測すると,急性感染症では抗体価は1:8以上で,70%以上で1:32を示す.流行地域では健常者での偽陽性は1:8から1:16であり,この範囲であれば疑わしい.
(4)抗原検査:H. capsulatumのポリサッカライド抗原は,急性肺ヒストプラズマ症の患者の約20%で尿中または血清中に検出される.
3. 治療
 健常宿主では良性の自然軽快する疾患であり治療を必要としない.症状が2から4週間継続する患者ではITCZ 200mg/日を6週から12週間が望ましい.AMPH-B 0.5-0.7mg/kg/日を初期に使用すべきなのは呼吸不全の場合か要人工呼吸療法の場合である.感染症医へのコンサルテーションが推奨される.
B. 進行性播種性ヒストプラズマ症
 一般的ではないが,急性感染症の約2000-5000症例の1回の割で起こり,概して日和見宿主(AIDS,被移植者など)に生じる.時に健常成人での報告がある.急性暴露若しくは酵母への暴露の直後に播種性疾患が生じることがあり,またその患者が流行地を作り出しさらに日和見状態を作り出す.播種性疾患で明らかな先行要因がない患者の場合,HIV感染を除外する必要がある.
1. 臨床像は,通常乳児またはAIDS患者で生じるが,非常に重篤なものから数ヶ月から数年に及ぶ長期に経過するものまで多彩である.
a. 全身症状:発熱,悪寒,倦怠感,食欲不振,体重減少が一般的.急性に吸入的な暴露の後,3ヶ月以上症状が続く場合には全身病変があることを示唆している.
b. 肝脾腫や肝臓検査異常が一般的で乳児では顕著である.
c. 粘膜潰瘍は患者の35-40%に生じ,消化管特に回腸に生じる.食欲不振,吐き気,腹痛,下痢,肉眼的出血や穿孔を来す.口腔咽頭,鼻腔,口唇,歯肉,喉頭潰瘍は診断のための生検部位として重要である.
d. 副腎はしばしば侵され,副腎不全は早期に生じ,または初期感染の数年後にも生じうる.臨床的に重要な副腎不全の頻度は不明である.
e. CXRは正常のこともあり,間質影や結節性浸潤影を呈することもある.
f. 貧血と白血球減少は一般的で,特に重症患者でみられる.
g. 一般的ではない病像として,髄膜炎,皮膚病変(丘疹,結節,潰瘍),心内膜炎,骨融解病変がある.
h. AIDS患者や播種性ヒストプラズマ症では高頻度に重症となりショック,ARDS,DIC,CNS病変を呈することがある.
2. 診断
a. 補体結合反応は50-70%の患者で陽性となるが解釈には注意を要する.先述の通りである.
b. 抗原検査.H. capsulatumポリサッカライド抗原は播種性疾患患者の,血清で50%以上,尿中で90%以上で検出される.治療によって消失し再燃によって再び陽性となることから,治療への反応をフォローする際には繰り返し測定すると有用である.
c. 骨髄培養は播種性疾患患者の75%以上で陽性となる.血液培養は40-70%で陽性となる.血液培養のlysis-centrifugation techniqueにより感度が高まる.特にAIDS患者では有用である.患者の半数以上で痰培養や尿培養でも検出される.
d. 特殊染色:骨髄穿刺液や痰のメテナミン銀染色により24時間から48時間以内に診断を得られる.重症患者では末梢血のWright染色では白血球中にHsitoplasmaが認められることがある.口腔病変,肝病変,リンパ節病変がある場合には同部の生検により検体を採取する場合がある.
3. 治療
 進行性播種性ヒストプラズマ症では全例で抗真菌剤が適応である.
a. HIV陰性の日和見宿主で,症状があり入院が必要な程重症な場合には,AMPH-B 0.7mg/kg/日が推奨される.総量で30-35mg/kgが成人の場合の投与量である.症状が緩解した場合にはAMPHを中止し6ヶ月間ITCZ 200mg-400mg/日を継続した後,治療終了となる.軽症で入院を要しない場合,ITCZ単独療法が使用される場合もある.
b. AIDS患者でCNS病変を有する場合や急速に重篤な状態になる場合,AMPH-Bによる治療開始が必要である.症状が改善した後,ITCZ 200mgを8から12週間継続し治療を終える.AIDS患者で軽症から中等症の場合,ITCZ 300mgを1日2回3日間投与し,その後200mgを1日2回8から12週間,初期投与する.再燃予防のため,AIDS患者は寛解後ITCZ 200-400mgを維持療法として投与されるべきである.AIDS患者でCD4 100/mm^3の患者がヒストプラズマの高頻度地域に居住している場合,予防としてITCZ 200mg/日が考慮されてしかるべきである.
d. HIV陰性の健常者の場合,ITCZ 200mg/日を6ヶ月間が認容性が良好で効果的でもある.ITCZに堪えられない場合,FLCZ 400mg-800mg/日またはketoconazole 200-400mg/日でもよい.重症患者またはCNS病変がある患者の場合,AMPH-Bで治療されるべきである.感染症医に相談すべきである.
4. 予後
 治療しない場合,死亡率は90%以上である.HIV陰性の場合,AMPH-Bによる治療で死亡率は7-15%に低下する.AIDS患者での死亡率は発症時の重症度に依る.再燃は1年以内に起こることが殆どである.
C. 慢性肺ヒストプラズマ症
 既存の慢性肺疾患がある場合に起こる.遷延性の浸潤影(肺臓炎)として発現する.およそ10-20%の症例では慢性空洞性疾患に進展する.
1. (初期の)非空洞性肺臓炎
a. 病像:倦怠感,熱,咳,胸膜痛は一般的な症状であるが,無症候性のものもいる.CXRは間質性浸潤影を示し,典型的な場合には肺尖背部に認められる.浸潤影は2,3ヶ月で消失し,梗塞様壊死領域が増大し,やがて収縮し容積減少に至る.
b. 診断:痰培養は1/3の患者で陽性となる.
c. 治療:肺臓炎の早期のエピソードは通常は自然治癒し良性の経過をとるが,肺組織の著明な破壊を遺すため呼吸不全を来しやすくなる.患者によっては,巨大なエア・スペースやブラが感染を伴い,このことで慢性空洞に至る.臨床的に進行している場合や浸潤影が悪化している場合には,空洞性ヒストプラズマ症のところで記述したような初期治療を行うべきである.
2. 空洞性病変
a. 臨床像:咳,痰が著明であり通常体重減少,熱,易疲労性を伴う.喀血も一般的である.肺基礎疾患があると病像が悪化しやすい.CXRでは空洞があり,肺尖部に多く,肺炎領域に隣接する.炎症が鎮火した場合,空洞壁は薄くなるが,活動性感染があれば厚壁空洞である.壁が2mm以上ある場合,感染の持続の可能性がある.
b. 診断
(1)培養やWright染色に依る細菌学的確定診断は35-60%で得られるが,培養陽性が必ずしも活動性感染状態や再燃を意味する訳ではない.
(2)CXRのほうが微生物学的データより疾患活動性を反映する指標となる.
(3)補体結合反応は75%の患者で陽性となるが,解釈には注意を要する.
c. 治療:多くの症例,特に壁厚が2mm未満の薄壁空洞の場合は,自然に消退する.そのような症例では初期は経過観察する.無治療の場合,35-40%の薄壁空洞は残存し増大し進行性呼吸不全に進展する.空洞が増大し臨床的に改善しない場合には抗真菌剤の適応である.経口でITCZ 200-400mg/日またはKTCZ 400mg/日を6ヶ月間以上治療する.これにより65%-80%の反応率があり,APMH-Bの成績より良好である.外科治療の適応についてははっきりしたものはなく,肺基礎疾患があるために外科治療の対象にならないこともしばしばである.IDへのコンサルテーションを薦める.
D. 一般的ではない病像
1. ヒストプラズマ腫は原発性肺感染症の治癒期に生ずる場合がある.これらの無症候性の病変は中心部が石灰化した孤立性肺結節(直径1-4cm)としてみられる場合がある.抗真菌剤の適応はない.
2. 縦隔(リンパ節)線維化は,縦隔・肺門周囲に非常に厚い(>1mm)線維性被膜を伴い,隣接する既存構造に浸潤または圧迫しものをさす言葉である.この病変は寛恕だが容赦なく進行し,これまでいかなる治療的アプローチも有効ではなかった.
3. 縦隔肉芽腫は巨大な乾酪性リンパ節で融合し初感染の後被包化される.時に隣接臓器を圧迫し有症候性のことがある.治療はAMPH-B 0.7-1.0mg/kg/日またはITCZ 200-400mg/日が有用である.


クリプトコッカス症
 Cryptococcus neoformansは腐敗性真菌で,日和見状態と同様に健常者にも疾患を来す.髄膜炎,肺感染症がもっとも一般的なものであり,C. neoformansはAIDS患者の髄膜脳炎の主要な原因である.
Ⅰ. 生育と同定
 臨床検体からの分離株は被包化された酵母で,しばしば墨汁染色やWright染色で同定可能である.臨床検体を視覚化することで早期の診断推定に役立つ.標準的な培養技術が用いられ,単離に使用される培地にはcycloheximideを含有していてはいけない.この物質が発育を阻害するからである.発育には3-7日間かかり,同定には3-4日かかる.時に遅い場合があり,培養陰性と看做して破棄するまでに4-6週間培養しないと行けない場合がある.
Ⅱ. 病因と宿主要因
 C. neoformansはどこにでもいる真菌で世界中のトリ糞,特にハト糞飛沫中にある.土壌,ある種の果物,汚染されたミルクや食産物中にもみとめられる.その微生物の吸入により発病に至る.患者の多くは明らかな免疫障害を有さない.日和見状態にある患者,殊に細胞性免疫障害がある者は重症な急速進行・播種性感染症に陥る傾向にある.重症に対しての最も重要なリスクにはAIDS,リンパ腫,被移植者,副腎ステロイド投与者がある.
Ⅲ. 肺病変
 気道はC. neoformansの最初の侵入門戸であると推測されている.肺クリプトコッカス症は,通常一過性で無症候性なため診断される頻度は髄膜脳炎よりも頻度は低いがおそらく本真菌に依る最も一般的な形態である.
A. 臨床症状
 肺感染症は通常後遺症を遺さず,患者の多くは無症候性である.大量吸入によって定着するか宿主免疫が全身的または(慢性肺疾患等で)局所的に障害されているかであると,症候性の肺疾患が起こりやすくなる.臨床的に有意な疾患は,通常は亜急性の経過をとり鈍い胸痛,痰をほとんど伴わない咳,呼吸困難を伴う.長期に及ぶと微熱,体重減少も呈することがある.
B. 診断
 クリプトコッカス感染症の臨床像は非特異的であり,診断はいかに疑いを持つかに依る.日和見状態にある患者はリスク下にある.明確な炎症反応に乏しいため,感染の一般的な兆候,白血球増多やESR亢進,を欠くこともある.
1. 痰培養は侵襲性肺疾患でも10-30%で陽性となるのみである.気道への腐敗性の定着により痰培養陽性になることがあり,確定診断には開胸肺生検や経気管支肺生検により組織への浸潤を示すことが必要となる.メテナミン銀染色,PAS染色,Mayer-mucicarmine染色により酵母は容易にみつけることができる.
2. CXR所見は様々で,無症候性者の孤立結節影から症候性患者の局所性/葉性浸潤影まである.びまん性間質性肺炎からARDSまで呈しうる.しかし空洞や胸水は稀である.
3. 肺クリプトコッカス症が疑わしいかまたは証明された場合は全て脊髄液と血液を採取しそれぞれC. neoformans培養,クリプトコッカス抗原へ提出し,播種性疾患をrule otすべきである.
C. 治療
 肺クリプトコッカス症の患者全てが治療が必要という訳ではない.
1. 以下の条件に合致すれば健常宿主の場合は2-4ヶ月間の観察期間をとってよい.即ち,(a)肺外病変がない,(b)血液培養,髄液培養,尿培養が全て陰性,(c)髄液クリプトコッカス抗原が陰性で血清抗体が陰性または低いか安定しているか低下している,(d)肺病変が小さいか安定しているか終息傾向にある.
2. 抗真菌療法は以下の状況で開始する.即ち,(a)画像所見が悪化,(b)呼吸状態の悪化が明白,(c)播種が明白,(d)患者が日和見状態にある,である.免疫抑制状態にある患者は播種のハイリスクであるため抗真菌療法が必要である.軽症または中等症状の免疫正常患者の場合,FLCZ 200-400mg/日を3から12ヶ月間投与する.健常宿主で重症の場合かFLCZ治療で失敗した場合にはAMPH-B 0.5-0.7mg/kg/日が推奨される.肺病変のある日和見患者は,初期にAMPH-B 0.7-1.0mg/kg/日で2週間治療しその後FLCZ 400-800mg/日で8から10週間治療しさらにその後FLCZ 200mg/日で6から12ヶ月治療することが推奨されている.IDへのコンサルトが推奨される.
Ⅳ. 播種性疾患
 肺から血流を介してのクリプトコッカス酵母の播種はどの臓器にも起こりうるが,CNSが多い.皮膚病変や骨髄病変も起こりうる.播種性疾患患者は全て抗真菌療法が必要である.
A. CNS
 C. neoformans感染症では髄膜脳炎をとることが最も多い.クリプトコッカスCNS感染症の患者の多くは日和見状態にある.第6章,第18章を参照.
1. 臨床像:クリプトコッカス髄膜炎の臨床像は非常に多彩である.短期間の急性期症状をとるが,免疫抑制が高度な状態にある場合(HIV患者)は特に顕著である.他の場合は診断がつくまで数週から時には数ヶ月間にわたって症状がはっきりしないことが多い.主要症状・兆候には頭痛,発熱,項部硬直(しばしば欠如),脳神経麻痺,記憶判断力障害,嗜眠,obtundation,昏睡である.
2. 診断
a. CSF
(1)標準的な検査:症状のある患者の90%はCSF異常を示す.初圧高値,蛋白増加,糖低下,リンパ球優位の細胞数増多であるが,時に正常な場合がある.AIDS患者ではこれらの項目は正常かわずかな異常であることが一般的であり,さらに特異的検査により信頼を置くべきである.
(2)墨汁染色:非AIDS患者でCNS病変がある場合は約50%,AIDS患者の場合は70%以上が墨汁染色陽性となる.アーチファクトやリンパ球が間違われて,偽陽性もありうる.菌体はグラム染色でも認められることがある.
(3)確定診断:CSFの培養で菌が同定されることが必要である.大量のCSFを遠心したものの沈渣を使用すべきである.
b. クリプトコッカス・ポリサッカライド抗原
 ラテックス凝集反応で同定できる.クリプトコッカス髄膜炎が疑われる場合には,8:1以上を示す場合には殊に有用である.クリプトコッカス感染症に対しては適切に検査された場合には感度および特異度は90%以上である.稀に,リウマチ因子若しくは日和見感染を来すTrichosporon beigelii感染を併発していると偽陽性を来すことがある.血清中及び尿中で陽性になることがある.AIDSでクリプトコッカス髄膜炎が疑われる患者ではスクリーニング検査として有用である.
3. 治療
 クリプトコッカス髄膜脳炎は全身抗真菌化学療法の絶対的適応である.
a. AIDS患者のクリプトコッカス髄膜炎では,治療の初期目標は急性期疾患をコントロールすることであり,容易に継続が可能な後療法に繋げ,クリプトコッカスの感染状態を抑制することで,患者の機能を維持することである.AMPH-B 0.7mg/kg/日+5-FC 25mg/kg q 6hrsによる積極的な導入療法を2から3週間行うことが多くの専門家によって推奨されている.APMHはFLCZよりも速やかにCSFを安定化させる.導入療法が成功したら,FLCZ 400mg/日による維持療法を8週間行い中止に持っていく.IDへのコンサルトが推奨される.
b. AIDS患者での維持療法は再燃を予防することが目的である.初期治療を終えた後にはFLCZ 200mg/日を受けるべきである.維持療法としては忍容性もよい.ITCZよりもFLCZのほうが好まれる.
c. HIV陰性で健常者の場合は,伝統的な治療であるAMPH-B 0.3mg/kg/日+5FC 25-37.5mg/kg経口6時間毎,を4から6週間行うことで良好な成績となる.毒性があることと不便である点で,専門家達はAMPH-B 0.5-1.0mg/kg/日+5FC 25mg/kg r 6hrsで2週間の導入治療を行ったのちFLCZ 400mg/日を8から10週間継続する方法を推奨している.CSFが正常化するまで腰椎穿刺を繰り返す.
d. HIV陰性の日和見患者(例;被移植者)では長期の治療が必要である.AMPH-B 0.7-1.0mg/kg/日で2週間,その後,FLCZ 400-800mg/日で8から10週間,さらにFLCZ 200mg/日を6から12週間,が推奨されている.
e. 頭蓋内圧亢進はクリプトコッカス髄膜炎では一般的であり,死亡率や致命率が増加する.治療オプションとしては腰椎穿刺を毎日繰り返すか腰椎ドレーンを留置するかVPシャントがある.IDへのコンサルトを推奨する.
f. 補足項目は第6章を参照
B. 中枢神経系以外の肺外病変
1. 皮膚
 播種性疾患患者の10-15%が皮膚病変を呈し,顔面と頭皮に出やすい.稀ではあるが皮膚原発クリプトコッカス症の報告があり,クリプトコッカスの皮膚病変がある場合には全て播種性疾患と看做すべきである.日和見患者で結節性紅斑,膿疱,warts with molluscum contagiosum-like appearance,皮下結節,潰瘍がある場合には,クリプトコッカス皮膚病変を疑うべきである.粘膜病変は一般的ではない.皮膚生検で真菌染色及び培養を行うと診断に至る.
2. 骨
 播種性疾患の5%で骨病変を呈する.長骨,頭蓋骨,椎骨が侵される.レントゲンでは円形の骨融解性であり硬化は伴わない.診断には生検および培養が必須である.
3. 播種性疾患の死後の検索では殆どの臓器への拡散が認められる(と報告されている).ある臓器でクリプトコッカスが検出された場合には全身検索が欠かせない.HIV感染者は,特定の臓器への局在がなくても播種性クリプトコッカス感染症候群を呈する.発熱,悪寒,筋肉痛,嗜眠,血清クリプトコッカス抗原陽性を呈する.
4. 非CNS肺外クリプトコッカス症患者への治療的なアプローチはCNS病変の場合と類似する.長期治療が要求される.


COCCIDIOIDOMYCOSIS
Coccidioides immitisは感染性の高い真菌であり,米国では流行地域において頻繁に肺感染症を生ずる.本微生物に依る疾患の多くは良性で自然治癒の転帰をとるが,慢性の肺または皮膚疾患,髄膜炎,播種性疾患を呈することがある.
Ⅰ. 発育・特徴
 ルーチンの培養法が用いられ,2-5日で疑診が得られる.培地での発育は速い.検査員への感染性が非常に高いため培地の取り扱いには十分に注する必要がある.人から人への感染は知られていない.C. immitis小球は痰,ドレナージ検体,感染組織から検出される.二重のrefractileで厚壁を有し,20-80mmである.典型的な場合,発育の諸段階で認められる.このspherulesを同定する数種類のキットがあり,potassium hydroxide,HE,メテナミン銀,PASも含まれる.
Ⅱ. 病因
 coccidiodomycosisは米国の南西部,メキシコ,中南米が流行地域である.流行地域への旅行から帰った後や当該地域に居住していて感染した者が後年再燃する場合がある.感染はarthrosporeの飛沫感染によって生じるため,新しい掘削,新しい開墾地,埃の嵐に関連した乾燥した気候でアウトブレイクが生じる.
Ⅲ. 臨床像
A. 急性肺coccidiodomycosis
 C. immitisの初感染を受けた患者の多くは肺内で自然治癒する.
1. 潜伏性または無症候性の場合が約60%.先行感染の有無は皮膚テストでのみ検出可能である.
2. 有症候性.40%は,7日から28日(平均 10-16日 )の潜伏期間の後,感冒様症状(flu-like illness)をとる.
a. 症状と症候:熱,倦怠感,乾性咳嗽,息切れ,寝汗,食欲不振,胸膜痛が一般的である.10-40%は発症後数日以内に,明確な全身性の紅斑性皮疹,時に蕁麻疹用の外観を伴い,悪化する.末梢血好酸球増多がみられることがある.感染者の25%未満で皮膚過敏症が,結節性紅斑や多型紅斑を伴い生じる.これらは関節痛や肺臓炎を伴い,所謂“valley fever”と呼ばれる古典的な病像に合致する.
b. CXR所見:急性coccidioidal pneumonitisの一般的な所見は,区域性肺炎で,50%でみられる.わずかな浸潤影がみられることもあり,これは30%程度.肺門リンパ節腫脹や胸水(時に大量)は約20%でみられる.さらに,孤立性または多発性結節,薄壁空洞,縦隔リンパ節腫脹もみられることがある.CXR異常は通常1-3週間で消失する.
3. 診断
a. 痰:初感染の場合,約40-70%は培養陽性となる.口腔咽頭に定着することは殆どないため,陽性の場合には実質的に肺coccidiodomycosisの診断に至る.
b. 皮膚テスト:急性期感染と既感染の再燃を鑑別できないうえ,播種性疾患ではしばしば陰性となる.疫学的な評価でのみ有用である.
c. しばしば血清学的に診断される.血清沈降抗体,免疫拡散法,ラテックス凝集反応はIgM抗体であり,発症後3週以内で75%が陽性となる.4週を過ぎると沈降抗体は検出できなくなる.補体結合法はIgG抗体を検出する.これは出現するのは遅いがIgMより長期に陽性となる.発症後3ヶ月までで補体結合反応は50%の患者で陽性だが,抗体価は1:32未満のことが多い.症状のある急性肺疾患の患者では90%以上で沈降抗体か補体結合反応が陽性となる.補体結合反応が上昇するか高値が持続するとしても診断的意義は低いが,低下すれば改善していることを意味する.
4. 治療
 急性coccidioidomycosisの患者の多くは特異的な治療をしなくても6-8週以内に治癒する.しかし,以下の状況では全身的な抗真菌剤投与を考慮しなくてはならない.即ち衰弱,妊娠,免疫抑制,播種性疾患へ暴露されている人種,補体結合抗体価が上昇しているか持続高値,進行性肺疾患,2週間以上症状が持続,である.専門家によれば,合併症のない急性肺coccidioidomycosisの場合,ITCZ 200mg1日2回またはFLCZ 400-800mg/日の3-6ヶ月投与が推奨されている.びまん性浸潤影がある場合,臨床的に明らかな改善が得られるまではAMPH-Bにより治療し,続いてazole系経口剤で最低1年間治療することが推奨されている.
B. 肺病変では他の病像もとりうる
1. 慢性肺coccidioidomycosis:急性肺炎の症状が数ヶ月も数年も持続する場合がある.微熱,体重減少,咳を呈する.血清補体結合反応が陽性となり,痰培養ではしばしばC. immitisが陽性となる.ITCZまたはFLCZで1年以上治療することが推奨されている.
2. 孤立性肺結節:流行地域では一般的.症状がないか免疫抑制ではない場合,抗真菌剤の適応はない.
3. 急性初感染の後にみられる空洞性病変は自然に消失することが一般的である.患者は無症状なこともあるし,喀血,微熱を呈することもある.痰培養はしばしば陽性である.空洞が残存するかどうかの予測は困難であるが,多くは1年から2年で自然に消失する.患者によっては喀血や隣接する肺への進展のためazole系薬剤による治療は手術が必要なこともある.
C. 播種性coccidioidomycosis
 感染者の1%未満であるが播種性疾患(肺外病変)に進展する.この合併症は,被移植者,血液悪性疾患患者,免疫抑制性化学療法者など日和見患者によく生ずる.局所性肺疾患がリスクとなる場合もあるが,AIDSは播種性疾患のリスクとして増加中である.播種性疾患は妊娠中,特に第三期に明らかになる場合が多い.また,非白人(Filipino,Hispanic,African American)は白人より播種性疾患のリスクが高い.播種性疾患は初感染の数週後や数年後に起こりうるし,潜伏していたものが再燃した後にも起こりうる.
1. 骨関節病変:播種性疾患の1/3以上が骨・関節病変を有している.骨で侵されやすいのは頭蓋骨,椎体,手足の骨である.骨融解が一般的で,覆っている部分の軟部組織にまで及び膿瘍やドレナージ洞を来す.関節病変は単一関節であることが多く,一般的に膝と足首を侵す.
2. 皮膚病変:播種性疾患では侵されやすい.小膿疱やプラークから疣状に増殖するものまで多彩である.稀に,C. immitisが定着して直接病変を来すことがある.
3. 髄膜炎:C. immitisによる中枢神経病変は通常は軽微で非特異的であり,初感染の数ヶ月以内に起こることが多い.頭痛,発熱,体重減少,が一般的な症状である.髄液検査では単核球優位の白血球増加と蛋白上昇が見られる.末梢血好酸球増多も知られている.
4. 他の頻度の低い病変:尿路生殖器系では前立腺炎や精巣上体炎をとる.腹膜炎やリンパ節炎も知られており,稀にだが眼病変も起こりうる.miliary diseaseはCXRでびまん性の網状影・浸潤影として現れるが,AIDSではこのような形をとることが多い.
5. 診断
 確定診断には感染組織や体液中に病理学的証拠および/または培養が必要である.血液培養や尿培養が陽性となることはあまりない.髄膜炎患者ではおよそ1/3で陽性となる.播種性疾患では補体結合反応が増加している必要がある.患者の多くは1:32以上である.しかし,例外的に髄膜炎の場合には血清抗体価はずっと低い傾向にある.髄膜炎の場合,髄液補体結合抗体が75%以上で検出される.補体結合反応価は検査施設によって異なるが,特に著明な結果が出た場合には気に留めておく必要がある.
6. 治療
 全身抗真菌剤療法は播種性疾患の全病型で適応である.
a. 髄膜炎以外の場合,azole系経口剤で開始する.ITCZ またはFLCZ 400mg/日である.治療期間は最低でも1年間で,疾患が不活動性となってから6ヶ月である.より重症で急速に悪化する場合にはAMPH-B 0.5-0.7mg/kg/日も代替薬である.
b. 専門家によれば髄膜炎では経口FLCZ 400-800mg/日も新たなオプションであるようである.反応率はAMPH-Bの髄腔内投与と同等で毒性が低い.ITCZ 400-800mg/日も有用である.しかし残念ながら再燃率が非常に高く,治療期間について明確になっていない.IDへのコンサルトが推奨される.