CORRESPONDENCE
コロッケ会のHPにあるsubclinical hyperthyroidismの話興味深く読みました。
先日OB&GY外来でInfertilityのW/U中の患者(36歳)が紹介されてきました。
InfertilityのW/Uの1つとして行った甲状腺機能検査でTSH検出不能、FT4↑がある
とのことで小生外来へ紹介されてきました。
Hxでは、特にhyperthyroidismを示唆する症状は本人からの訴えとしては
ありませんでした。体重減少や動悸などもないとのことでした。月経異常も
ないとのことでした。誘導質問では、夏より冬が好きという返事でした。
P.Ex.では、中肉中背の女性で、opthalmopathyなし。 極軽度の甲状腺腫を
認めました(エコーでも確認)。心拍数は約90で、regularでした。
軽度の手掌部の発汗亢進を認めました。
他には特にこれといった所見は認めませんでした。
FT3 6.01(N:1.92〜3.38)、FT4 3.00(N:0.73〜1.85)、TSH 0.00
TRAbはnegativeでした。microsome testは×400、thyroid test×100。
このケースがsubclinical と言えるかどうかわかりませんが、infertilityのW/Uの
過程で偶然見つかったという点ではsubclinicalに近いとは言えるかもしれません。
もっとも、hyperthyroidismがinfertilityの原因ということになれば、subclinicalとは
いえないでしょう。
OB&GYの方は、hyperthyroidismがコントロールされてからinfertilityの治療を始め
たいとのことでした。
このケースは比較的症状に乏しいため、無治療で様子をみたいケースでしたが、
infertilityの原因になっているかもしれないためと、OB&GYの意見も考慮してPTUに
よる治療を始めました。目標はFT4正常上限、TSH 検出レベル以上としました。
比較的少量のPTUで短期間でFT4は正常範囲内になり、コントロールできています。
ご参考までにmedlineで調べた文献のabstractからまとめた情報を附記します。
(1)“Is there a need for treatment in subclinical hypo- and hyperthyroidism?” Ther Umsch 1999;56:369-373.
◯Subclinical Hypothyroidism
頻度:50歳以上の女性の7〜8%、男性の約3%
定義:TSH高値、FT3正常範囲、FT4正常範囲
TSH>12mU/L + positive antithyroid antibodies
overt hypothyroidismへ移行する可能性大
L-thyroxineによる補充療法が必要
TSH 12mU/L以下の場合:
次のようなリスクや基礎疾患があれば補充療法を行う
例:
・Strumectomy
・Coronary heart disease
・Depression
・Infertility
◆Subclinical Hyperthyroidism(TSH suppression syndrome)
定義:TSH低値、FT3正常範囲、FT4正常範囲
原因:・exogenous L-thyroxine treatmentによるものが多い。
・主にnodular goiterによるendogenous form of subclinical
hyperthyroidism;large goiter患者の約20%を占める。
治療:
※subclinical hyperthyroidismの患者:
・Afのリスク
・bone massのリスク(postmenopausal womeの場合)
・大部分の患者においてTSHは検出レベル以上のことが多い。
TRH試験にも反応することが多い(TRH投与でTSH↑)。
※通常治療の必要性はない。
しかし、Afを伴っている場合には、抗甲状腺剤、β-ブロッカー、
RI療法を検討すべきである。
(2)“Disturbances of Menstruation in Thyroid Disease” Ann NY Acad Sci 1997;816:280-4.
-Hyper-もHypo-も月経異常を来すことが多い。
●Hyperthyroidismの場合:
・最もよくみられるものはoligomenorrhea
・annovulatory cycleも多い。
・最近の報告では、21.5%に月経周期の異常があったという。
●Hypothyroidismの場合:
・polymenorrheaが多い(Hyperthyroidismと逆)。
・annovulationが見られることもある。
-FertilityはHyper-でもHypo-でも低下する。
-興味ある点は、juvenile hypothyroidismではprecocious pubertyが報告されていること。
恐らく“glycoprotein hormone”の“spillover effect”による。すなわち、TSHには
多少FSH様およびLH様効果があるためであろう。
-Hypothyroidismではgalactorrheaがみられることがある。
hypophyseal TSH-releasing hormoneはTSHとprolactinの両方の分泌を
促進するためと考えられている。
(3) Thyroid disease and reproduction dysfunction. Abe Y, Mototani N: Nippon Rinsho 1997;55:2974-8.
・甲状腺疾患の生殖機能に及ぼす影響:性徴発達異常、月経周期異常、不妊、など。
・男性のHyperthyroidim:女性化乳房を起こすことあり。
・女性のHypo-およびHyperthyroidism:月経期間の異常、月経量の異常を来すことあり。
・男性のHypothyroidism:生殖機能に及ぼす影響は女性の場合ほどclear-cutではない。
・長期の未治療のHypothyroidismはgalactorrheaを来すことあり。
・上記の異常は甲状腺ホルモンの補充療法(Hypo-の場合)やHyperthyroidismの治療により
reversible。
・多毛症、月経異常、不妊、乳汁分泌症、女性化乳房の原因精査の際は、甲状腺機能異常の可能性
を念頭に入れるべきである。
11/16/2000
沖縄県立八重山病院 池原 修
コロッケ会
最終更新:2006年08月24日 23:32