少女と三一(by ルフトライテル)

ある日の夜。

「あなた死ぬわ」

その声を聞き、三一が振り返るとそこには少女が立っていた。
さきほどまではそこには誰もいなかったはずなのに…
そもそもここは三一の部屋だ。どうやって入ってきたのだろうか。

「君は?」
「そうね。とりあえず帯江セレンとでも名乗っておきましょうか」

感情のあまりこもっていない声で少女はそう名乗る。
透き通るような真っ白の髪。神父のような真っ黒な服。フレームレスの眼鏡をかけている。
歳は小学生ぐらいだろうか。
この世のものとは思えないような美しい少女だ。
こちらにはあまり関心がないのか持っている手帳に何かの記述を続けている。

「死ぬってどういう…」
「事件が起きるの。それに巻き込まれて死ぬ。それだけのことよ」
「なんでそんな…」

少女が嘘をついている様にはみえなかった。

「死にたくない?」
「当然じゃないか」

自殺志願者でもない限り好き好んで死にたい人間なんているはずがない。
それに――

「だって、僕が死んだらきっとみんなが悲しむと思うから」

発明部の先輩たちの顔を思い浮かべる三一。
真面目な会計の百。いたずらっぽい副部長の七。そして三一の幼馴染であり部長の二。
自分が死ぬのも嫌だがそれ以上に彼女達が悲しむのが嫌なのだ。
自分の死後であっても悲しむ顔など見たくはない。

「そう…」

少し考えるそぶりを見せた後、少女が言う。

「あなたには選択肢が現れる。そして選択次第であなたは助かるわ」
「選択肢?」
「それはその時が来ればわかる」

詳しいことを聞こうとするがそれ以上は教えてくれそうにない

「君はどうして僕にそんなことを?そして君は何者なの?」

何故そんなことを知っているのだろう。何らかの予知能力を持った魔人?
もしそうだとしても何故僕に?

「私はただ死者のことに詳しいだけの存在。
 そしてこれはただの気まぐれ。私はどちらでもいいから」
「どちらでも…?」

それはどういう意味なのかと三一が問い返そうとした時、帯江セレンと名乗った少女の姿は部屋から消えていた。

「消えた…?」

夢だったのだろうか?
そして彼はそれをその時が来るまで思い出すことはなかった




◆日谷創面SS1◆(by 稲枝)

※ラーメン→魔法 手芸者→忍者 英検→太極拳 と置き換えてお読みください。


(姉貴……)
 片眼を失い、コンクリートの地面へ高所から激突した少年は、大切な家族を心に思い浮かべていた。
 彼の名は日谷創面(ひや そうめん)。赤鹿うるふと戦い、負けた、トーフ屋生まれの手芸者である。

『――情けねェなソメン。ここでお仏壇か』
 創面の脳内に語りかけるのは、遠い彼の先祖。彼に憑依した伝説の手芸者『ロクロ』だ。

(うるさい。さっきからうるさい)
『手芸の力が足りねぇよなぁ、オイ。そういう時はあやとりを操って『東京タワー』を創りだすもんさ。高い所から落ちたらまずそれだ』
(できるかバカ。アホまぬけ)
 手芸とは、その一瞬の創造性を駆使し、その場を生き延びるサヴァイヴァル術であり、時には人を傷つける危険な暗殺術となる。日谷創面は父親にその才能を買われていたが、未だ手芸者としては半端者だった。
「パーフゥ~~~」これは、聴き覚えのある笛の音。
「……あ……姉貴……?」創面の姉・日谷奴子がよく吹き鳴らしていた笛の音だ。「姉貴なのか?」

「違うよ創面。……ユアダディさ」ラーメンの屋台を引き連れて創面の前へ現れたのは、日谷創面の父親・日谷頭夫だった。


「奴子じゃなくて残念だったね。創面」父は創面の手当をしながら話しかける。「とは言え、どうせお前は奴子には会えないからな。お前は、『奴子に会っても自分から逃げ出す』ように暗示をかけられたはずだ。自分から望んで」
 暗示とは、日谷創面の知り合い・小野寺塩素という女性によるもの。小野寺は現金と引換に対象に強力な暗示をかける魔人能力の持ち主である。日谷創面は、自身の弱点を克服するため、愛する姉に会えないという地獄の沙汰へ自ら足を踏み入れる決心をしていた。

 姉を守るため……姉に害を及ぼそうとする組織を倒すため!これほどのシスコンがあろうか。日谷創面。まさにシスコンの鑑である。

「そのせいで私の精神攻撃すら防げるほどの精神力を手に入れたんだから、大したもんだよ。シ……創面」
「いま息子の名前間違えなかったか」
「眼だけじゃなく耳もやられたか、創面。可哀想に」
「それよりその格好は何だ。アンタ豆腐屋だろ」
「ふむ、それなんだがな。 ちょっとしたアルバイトだ」父は頭にタオルを巻き、着こなす黒Tシャツには『魂不滅』と書かれている。そこに由緒正しい豆腐屋職人としての面影は無い。
「豆腐屋が……ラーメン屋だ……と」創面は信じられないといった顔で父親を見た。「バカなッ!ありえない!種族が違う!類を超える進化は未だ、進化論でも証明されていないじゃないか!」
「意外とインテリな発言もするようになったんだなぁ。創面、パパは嬉しいよ」
「親父はッ!俺と姉貴が『雲類鷲』相手に大変な目にあっている間!のんきにラーメン屋でバイトしてたっていうのかよ!?」
「そのとおりだ」
「死ね!トーフラーメン親父!ばーかばーかまぬけばか!」
「ハハハ、ばーかばーかまぬけ息子」父は創面の頭をくしゃくしゃと撫でた。「さっきまで瀕死だったはずだが、さすがの生命力。『英検』の訓練は怠っていないようだな。これなら受験も安心だ」
「ゲホッ!ゲホッ」創面が血を吐く。
「だが、全身骨折が治るには自然治癒だけじゃあ無理がある。さすがにその失った片眼を治すには間に合わないが……。これを食べなさい」父はどんぶりに入ったラーメンを差し出す。

「ゲホッ!バカ……言うな!親父のつくったラーズルッ!メンなんて!しかもこズルズルーッ!んな身体の人間に食わせるもんとして!明らかに間ズルッ!ズルズルーッ!違ってるだろあほ!!」

「食べてる――――っ!(ガビーン)」
「ほんとだ(ズルズル)」創面は文句を言いながらも差し出されたラーメンを食べていた。
 深夜の満ラーメンは人を惑わす。
 事実、満ラーメンの出る日は犯罪率が増すという統計報告もなされている。このような関連付けはただの迷信ではなく、満ラーメンから発される引力が、人体の75%を構成する水分にまるで塩の満引きのような影響を与えるからだ。という極めて科学的な理由で説明がつく。
「ただのラーメンじゃあ面白くない。渋谷のラーメン屋で1年間修行した……これは私の『オリジナルラーメン』、だ。チャーシューやかまぼこの代わりに『トーフ』を入れて、しょうゆスープの代わりに『めんつゆ』を、麺は趣向をこらして『 素 麺 』にしてみた」
「ズルズルーッ!ちょっと……待て!これはもう、ラーメンじゃあ無いだろう!」
「そのとおり。これは、もう、もはや、ラーメンじゃあ無い。 言ってしまえば――」父親はもったいつけて言葉を区切る。

「――これは、ソーメンだ」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

この項目では、ソーメンそのものについて記述しています。食べ物や作品など、その他のソーメンについては「ソーメン (曖昧さ回避)」をご覧ください。

――――――――――――――――――――――――――――

この記事には複数の問題があります。改善やノートページでの議論にご協力ください。

信頼性について検証が求められています。確認のための情報源が必要です。 2011年1月にタグ付け
大言壮語的な記述になっています。 2011年1月にタグ付け
独自研究が含まれているおそれがあります。 2011年1月にタグ付け
正確さに疑問が提出されています。 2011年1月にタグ付け

――――――――――――――――――――――――――――

ソーメン

ソーメン(so-men)とは。

  • 文化人類学で定義される聖人の術とほぼ同義とされる。ラーメンと対比して用いられる。
  • 俗語として、一般的なラーメンは『黒ラーメン』。ソーメンは『白ラーメン』などと呼ばれることもあるが、国際ラーメン教会はこの呼称を正式に認めていない。


目次
1 分類
2 聖書における「ソーメン」を表す用語
3 食べ方
4 歴史
5 脚注


――――――――――――――――――――――――――――

分類

ソーメンには以下の属性がある
冷の賜物…「圧縮」を司る
鯛の賜物…「予言」を司る
豆腐の賜物…「癒し」を司る
サラダの賜物…「知恵」を司る
にゅうめんの賜物…「分別」を司る
抹茶の賜物…「敬虔」を司る
いちごの賜物…「勇敢」を司る
梅の賜物…「畏怖」を司る
酒の賜物…「悟性」を司る

――――――――――――――――――――――――――――
(中略)
――――――――――――――――――――――――――――
(中略)
――――――――――――――――――――――――――――
(中略)
――――――――――――――――――――――――――――
(後略)
――――――――――――――――――――――――――――

参考文献
  • 『三位一体論』アウグスティヌス
  • 『ソーメンの九つの賜物』
  • Tofu Hiya, The Spirit in First-Somen 2002 p65 "Somen pneumatology"
etc...

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

創面の父は語る。「冷の『圧縮』。豆腐の『癒し』の力。……これが私が、ラーメン屋で下っ端のバイトを一年間、十歳以上年下の先輩に怒鳴られ得た力だ。代わりに多くのものを失った。主にプライドを」
「親父にそんなもの無いだろう」創面はソーメンを食べ終わっていた。少しだけ、体力の回復が感じられる。
「これもすべて息子のためだ」父がどんぶりを片付ける。「創面、お前にソーメンを作るための、体内厨房を改築する」
「え」
「いいか創面。私達の敵、雲類鷲殻。奴は『負』のコミュ力つかいだ。奴の娘『雲類鷲うるふ』は、自身の負のコミュ力を制御することは出来なかった。だが、奴はそれができる。それだけじゃあない。奴は『英検』も、『手芸』も、『ラーメン』もマスターしている」
「何だ、それ、つまり、奴と戦うには……」
「そうだ。ラーメンに対抗する力が不可欠だ。」父が、そのタオルの下から覗く鋭い目で創面を見る。「少々手荒だが、お前の体内厨房を強制改築させてもらうぞ」

「ま――」

『ま た そ の 展 開 か』

 創面の脳内で、ロクロがうんざりしたように呟いた。


To Be Continued…!!



全観最後の―――、或いは、転校生秦観最初の夜(by 右手首の怨念)

ちりちり、と、ろうそくが燃える音が聞こえる。
揺らめく炎に映し出される影は二つ。
一つは座して動かぬ戈止の権現。
一つは、同じく座して微動だにせぬ1人の男。

――――――。

男がここに籠りだして既に二日。
彼は一睡もせず、何も食わず、ただただ、座している。

――ここは、鬼無瀬時限流総本部、地下。戈止権現像の間である。

伝説では力を求める初代秦観をいさめるために修験者より渡されたと言われる戈止権現像は、いかな仕組か、魔人能力によるものを含むあらゆる攻撃を止める力を持っている。
そして――
初代秦観を含め、鬼無瀬より産まれし転校生はすべて、この像を斬っている。
いかなる手段にて斬ったかは伝えられていない。転校生化した鬼無瀬の剣士はすべて、ほどなく姿を消している。
ただ、像につけられた幾つかの傷だけが、彼らが確かに戈止の権現を斬ったことを伝えるのみ。

最初、男は持てる技を全て像に当ててみた。
しかし、斬れなかった。
次に、男は無念無想の境地に至りこの像を斬ろうとしてみた。
しかし、斬れなかった。
その後も、思いつく限り、考えつく限りの方法でこの像を斬ろうとした。
しかし、斬れなかった。

……そして、男は見直してみることにした。
自分は、なぜこの像を斬りたいのか。
自分は、なぜこの像を斬らねばならぬのか。

………。

思い出されるのは在りし日の光景。
まだ、未熟だった自分が居て。
まだ……アキカンに堕ちる前の友がいる。
2人は約束する。
いつか、戈止権現を斬るような剣士になろうと。
いつか、鬼無瀬の歴史に名を残してやろうと。
いつか――2人で、秦観の座を争おう、と。

約束は、成った。望まぬ形で。

友は、一度はアキカンへと堕ちた。
だが、たゆまぬ鍛錬と血のにじむ努力によりアキカンへと堕ちる前の、堕ちる前以上の実力を勝ち得た。
彼は友の復活を喜んだ。誰よりも、ともすれば本人よりも喜んだ。
これで、競うことができる。これで、争うことができる。ついに、約束が果たせる、と。
だが―――
友は、彼に秦観の座を譲った。
理由は分からない、だが、結果として友は彼に秦観の座を施し、そのまま姿を消した。

彼の心に残ったのは、ぽっかり空いた大きな穴。
幼き日の約束を果たすことができぬという、大きな穴。
それを埋める何かを求めて彼はここへ来たのだろうか?

ス―――

光すら残さず、一刀が閃く。
刃は、戈止権現の腕にてやさしく包まれている。

違う。
ようだ。
ならば、このあいた穴はなんだと言うのか。
この、黒い穴は……

……違う。
この黒いものは、穴などではない。
大きすぎて気づかなかった。
失意のあまり、向き合う気すら起きなかった。
この黒いものは……怒りだ。

友は、アキカンが鬼無瀬の最強になどつくべきでない、と弟子に漏らしていたという。
……舐めている。
鬼無瀬100余年の歴史を
歴代の、秦観を
過去、銃器を持ちだして秦観の座を強奪しようとした弟子すら居ると聞く。
それにくらべて、アキカンぐらいがなんだと言うのだ。
それに―――
それ以上に、許せないのは―――
僕を、2人の約束を
そんなことで覆してもいいものだと、思っていた事だ。
彼に会うことがあったら責めてやろう。
彼に会うことがあったら誅めてやろう。
2人の約束に泥を塗った事が、どれだけ重いことか。
刃に乗せて、誅めてやろう。
それを受けて彼が生き残れるか、死ぬかなど関係ない。
そんなこと頭の中に無い。
あるのはイメージ、漠然と、ただ斬ってやろう、というイメージ。
そして、そのイメージをのせて、刃はいつの間にか―――スッ、と

「…………」

目をあける。いつの間にか彼は剣を振っていた。
刃は何者にも阻まれること無く、動き。
そして、戈止の像には、新たに一つ、傷が刻まれた。

「………ああ、そうだな。斬ってやろう。奴の事を、斬ってやろう」
「責めて誅めて、斬ってやろう。生死など知らぬ、斬ってやろう」
「……そうだな、技には名前が必要だ」
「……奴を誅するための技…………誅生死漠断(ちゅうせいしばくだん)、だな」

ははは、はははは、はははははははは――――
その後、奴の弟子が迎えにくるまで。
彼はただそこで、ひたすら笑っていた。
ただただ、ただただ、ひたすらに、笑っていた……



我に秘策あり(by 肉皮リーディング)

変身能力はその全容の八割が全員に知れ渡った。
身体能力も持っている装備も勝ち残りの中で誰よりも低いだろう。

だが―

(勝てる…間違いなく私はあいつらに勝つ手段を得ている)

肉皮リーディングは気付く事が出来た。
キッカケは一回戦で全身を限界まで様々な凶器で傷つけられた時、
自分が他の参加者より弱いと本当に自覚し、同時に今の自分の正確な現状を把握できた。

(私を呼んだあの方、彼あるいは彼女はほぼ間違いなくこの状況を楽しんでいる、
部下の三兄弟の態度がその証拠だ)

この勝負が娯楽であり自分達がそのコマならば、全員に勝つチャンスがある。
結果の分かっている決闘など、面白みも何もない。
そして、肉皮は先程気づいた『あの事』が勝つ為に用意されたものではないかと思っている。

(確かめよう、次の勝負が始まる前に)

大きく深呼吸、この霊体になってからは呼吸の必要は無くなったが、
意図的に大きく息を吸い続けた。吸った分肺に空気は溜まり、胸が膨らむ。
再度息を吸う、吸い続ける、一度も吐くこと無く。
生前より強化された肺は空気を受け入れ大きくなり続けた。

(…ウッ、これぐらいが限界か)

1分後、ぷはぁと息を吐く。生前とは比べ物にならない量の空気が口から吹き出した。

(これだ、これが私の勝ちへの道。これに他の誰も気づいていないなら―)



雨の歌(by サンライトイエローシャワー)

雨よ降れ、降れ
子供のころのあの夢を
もう一度呼び覚ましてくれ
(クラウス・グロート『雨の歌』より)


 降り注ぐ雨粒が街を濡らす。傘を差し、道行く人々は雨の日に相応しく物憂げな様子かと言えばそうでも無い。
むしろその顔はどういうわけか楽しそうなのだ。
 それは雨に混じったゆとり粒子のおかげであり、更に言えばこの雨を降らせた魔人・雨竜院畢のおかげである。
畢の機嫌がいいとき偶発的に発動する能力「あまんちゅ!」は雨を通じて人々に彼女の幸せを分け与えているかのようだ。

「お前とまたこんな風に雨の日に傘差して歩けるなんてなあ……」

見るからに屈強そうな大男・雨竜院雨弓は、その身の丈程もある巨大な傘の下、感慨深げに隣を歩く従妹で恋人の雨雫に言った。

「うん……生き返って本当に良かった……」

そう答える雨雫の、眼鏡の奥の目には涙が滲んでいた。ここ2年程死んでいた彼女だが、
地獄での死闘(既に死んでいるので妙な言い方だが)を勝ち抜き、先日現世へと復活を果たしたのである。

「おいおい、生き返ってからのお前はホント泣き虫だなあ」

雨弓は呆れたように笑うと雨雫の眼鏡をあげて、袖で涙を拭ってやる。
雨雫も女性にしては長身だが、雨弓の上背は2mを軽く超えているためまるで子供をあやしているようにも見える。

 雨雫にとっては現世で再び体験するあらゆる出来事が、一度は諦めたことであった。
死ぬ前なら心躍るようなことでも無かったことにも涙を流す毎日である。

 例えば雨。色欲触手地獄でも淫液の雨は降り注いでいたが、
雨が濡らすのは果てしない肉の大地と触手の森であり、地獄には瘴気じみた淫臭が満ちていた。

 だから、雨が木々の葉や水面、屋根を叩く音が、濡れた土の匂いがあまりに懐かしく、
復活した直後はただ雨が降るだけでも涙を流していた。

 久しぶりにする傘術の稽古。地獄の死闘をくぐり抜け、より高みへと至った彼女の傘技には
師である父も雨弓も目を丸くしていた。

 そしてなにより嬉しかったのは愛する人たちとの再会。両親や可愛い妹や従妹。
雨雫の死後、家を飛び出していたのだという妹は同性の恋人を連れて会いに来てくれた。
畢は希望崎に入学し、「傘部」なる部活まで作ったのだと誇らしげに語っていた。

そしてその中でも、最も再会を待ち望んだ相手は、言うまでもなく今隣を歩く恋人・雨弓である。

「ごめんよ。多分しばらくは泣き虫のままだと思う。生きていることが嬉しすぎて……泣き足りないんだ」

「生き返って良かった」

先程の言葉を繰り返した後、涙を拭おうと伸ばされた逞しい腕をぎゅっと握り、
潤んだ目で見上げると雨弓も思わず顔を赤くする。

「そうだな……俺も思うよ……お前が生き返ってくれて本当に良かった」

涙を拭っていた手を雨雫の背中に回し、ぐっと抱き寄せる。

彼女を恋人にした日、必ず守ると誓った。そしてその誓いを破ってしまった。
だというのに、彼女はそんな自分に会うために魂の理に背いて現世へと戻ってきたのだ。

いつか再び彼女が死を迎えるまで、いやたとえ死後の世界でも、あらゆる苦難から守り続けよう。改めてそう誓った。

「あ、雨弓君……少し、恥ずかしい……」

「何言ってんだ。恥ずかしいこと言ってきたのはお前からじゃねえか。今日はこのまま――」

雨弓が口をつむいだのは、自分たちが何の気なしに歩いて入ろうとした通りが何であるか気づいたためであった。

 通り沿いにこの時間帯ではまだ開いていない風俗店と、そして所謂ラブホテルが立ち並んでいた。
顔を赤くした2人が互いを見合わせたのはほぼ同時であった。
 両者とも、雨雫の前夜のことを思い出していた。畢が小さな嫉妬から邪魔してしまった初夜。
生き返ってからのゴタゴタでこうして2人っきりで過ごすのは今日が初めてだが――

「雨弓君……多分、同じことを考えていると思うが、その……」

「お、おう……」

†††††

 先にシャワーを浴びた雨雫は裸にタオルを巻いた状態で大きなベッドに腰掛け、雨弓を待っている。

「いよいよ……なんだな……私の初めてが……ちゃんと出来るかな……」

彼女の不安は、一般的なそれとは逆のものだった。
地獄で触手に何万回も処女を奪われてきた自分は痛みにも快楽にも耐性がついてしまった。
自分は恋人とのSEXに、ちゃんと喜びを見出すことが出来るのだろうか。
気づけば自らの肩を抱いていた。かつて自分を死に追いやった忌まわしい兄はもうそこにはいない。

「が、頑張れ雨雫……ッ!お前はあんな苦しい戦いを勝ち抜いて生き返ったじゃないか。このくらいのことで臆してどうする……」

雨雫が両拳を握りしめたとき、シャワールームの扉が開き、雨弓が出てくる。

湯気を纏った巨躯を覆う筋肉の鎧にわかってはいたとはいえ雨雫は目を奪われる。
兄がつけた腹部にある大きな傷跡に胸がチクリと傷んだが、その下にある「モノ」のインパクトがそれを掻き消した。

 雨雫と違ってタオルも巻いておらず、剥き出しになった剛直は堂々と天を突いている。
太さは下手な触手以上で。成人男性の平均サイズなどよく知らない雨雫にも巨根であることはひと目でわかった。
一緒に風呂に入っていた頃から十数年ぶりに見る雨弓の体は予想以上の成長を遂げており、その雄度に雨雫の雌の本能も撃ち抜かれる。

「す、凄っ……て、タオルくらい巻かないかっ!」

頬を紅潮させて言う雨雫に雨弓はケラケラと笑う。

「いいじゃあねーの、これからヤルってんだからさ」

「相変わらず君はムードというものがわかってないな……」

雨弓のそんなところに多少ムッとするが、気がつけば抱えていたもやもやが消し飛んだように思えた。
彼のそばにいると、自分が日常で抱えている瑣末な悩みが雲散霧消していく。
そんな不思議な雰囲気を持った雨弓を雨雫は愛していた。

 恥じらいを残しながらも、タオルの結び目を解き、はらりと床に落とす。雨雫の裸体もまた、十数年の時を経て雨弓の目に再び晒された。

 しなやかな筋肉に包まれながらもほっそりとした肢体。女性らしくくびれてはいるが、
胸は控えめでいわゆる手のひらサイズといったところだ。色の薄いその頂点は既に固く尖っている。
 そしてカモシカのような脚線美を見せるその両足の付け根、秘所は全くの無毛だった。
元は黒々と茂っていたそこがそうなっているのは雨雫が地獄に落とした後輩との絆故だなどとは、雨弓には知る由も無い。

「雨弓君……これが私の全てだ……その、よろしくお願いします」

「おお、よろしく」

死ぬ前と変わらない、凛とした雰囲気の割に意外と恥ずかしがり屋な雨雫に雨弓は苦笑し、また愛おしく思った。

ベッドの脇で2人は抱き合い、くちづけを交わす。
薄暗くなった部屋の中で、大小2つの影が重なり合い、絡みあう。
遥か古代から変わらない、ありふれた愛の形がそこにあった。

†††††

「……夢……?」

雨弓が目を覚ますとそこはベッドの上だった。窓の外からは鳥の鳴き声が聴こえてくる。

 死んだはずの雨雫が生き返り、2度目の人生を共にしてくれる。そして果たせなかったあの夜の続きを。
まさに夢であった。ベッド脇には小さな雨雫の遺影が飾られていて、「雨雫は死んでいる」という現実を突きつける。
しかし、夢というにはあまりにリアルでそして幸福だった。それも、あの日あのことが無ければきっと現実になっていたはずの未来像。

「雨雫……ごめんなあ、守れなくて……」

雨雫の命を奪ったあの日以来、2年ぶりに雨弓はボロボロと涙を零した。いつの間にか、外でも雨が降り出していた。

†††††

「雨弓君っ……好きぃ……もっと、もっとぉ」

色欲触手地獄。触手にズボズボと前後の穴を犯されながら、雨雫はよがり声をあげていた。
その表情にかつての凛とした雰囲気は微塵も残っておらず。与えられる快楽にだらしなく蕩けきっている。

 しかし、彼女の中ではその快楽は触手によるものでは無い。
雨雫もまた、雨弓と同じ夢を見ていた。地獄と現世、次元を超えた絆が2人にはあるのだろう。
ただし、夢から醒めた雨弓と違い、雨雫は未だ夢の中にいる。

 雨弓もあの夢が現実なら良かったのになどと思いはしたが、雨雫は完全に夢を現と思い込んでいた。
いや、「胡蝶の夢」などという故事もあるように、夢と現の区別は結局当人の認識次第でしかない。
もしかすると本当に、雨雫は生き返って最愛の恋人に抱かれているのかも知れぬ。
少なくとも、雨雫の中では間違いなくそうであった。

「雨弓君……雨弓君……生き返ってよかった……」

夢幻の中で永劫を過ごすことに決めた雨雫を、
触手の玉座の上でビッチを犯す蝦魯夷にゐとがどこか憐れむような目で見下ろしていた。

雨よ降れ、降れ
あの昔の歌をもう一度呼び覚ましてくれ
雨だれが外で音をたてていたときに
戸口でいつも歌ったあの歌を

もう一度、あの、やさしい湿った雨音に
耳を澄ませていたい
聖なる、子供のときに感じた畏れに
私の心はやさしくつつまれる



あの世で一番エロいヤツ(by サンライトイエローシャワー)



冥府の何処か。

「一回戦は良かったね……面白いものがたくさん見られて……」

「負けて地獄に落ちた人達も凄く面白いよ」

「『あの方』は有村大樹が勝ったことには不満だったっぽいけど……」

無邪気、且つ嗜虐的な声をあげて談笑する三つ子の美少年。
地獄を舞台に魔人共の戦いを取り仕切る比良坂三兄弟である。
そんな彼らの背後に、迫る影が一つあった。

「坊やたち、ちょっと聞きたいことがアルアル」

†††††

「ダア――ッ! 畜生――ッ!」

第一回戦色欲触手地獄を勝ち抜いた神奈であったが、勝者とは思えぬ様子で両拳を地面にガンガンと叩きつけている。

「も~~うちょっとで雨雫さんをつるっつるに出来たってのによお~~」

勝利を決定的にした神奈だったが、地獄に行く前の最後の抵抗というわけか雨雫は立派な陰毛を剃られることを拒んだのであった。
結果、神奈は生前からの彼岸を達成できぬまま、雨雫と永遠の別れを迎えることになる。

「最期くらいおけけ剃らせてくれてもいいじゃんよ~~」

そんな風に叫ぶ神奈を、魔人墓場にいる他の1回戦勝者達は冷ややかな目で見ていたのだが、
彼らの視線の対象はすぐ、別なモノへと移った。

虚空に、否、空間に生じた歪。あたりの景色もそれに伴って歪んで見え、
そしてまるで壁紙を剥がすかのようにそこから世界がめくりあげられ、その向こうには別世界が覗く。
この現象が起こるタイミングは彼らが知る限り二つ。一つは魔人墓場から、会場となる地獄へと転送されるとき、
もう一つは、この宴の主催者・比良坂三兄弟が現れるとき。

「「「みなさん……ご機嫌はいかがですかあ……?」」」

「「「もうしばらくすると……2回戦も始まりますので、心の準備をしておいてくださいねえ」」」

愛らしい顔に無邪気な笑みを浮かべ、嬉々としてこの悪趣味な宴を進める三兄弟。
が、いつもは嗜虐的な黄色い声に今はずいぶんと力が無く、そしてその顔は明らかにやつれていた。
しかし魔人墓場の面々は兄弟のそんな様子よりも、彼らの後ろにいる、共にこの場へと降り立った「彼女」に驚いていた。

「ここが魔人墓場アルか~~やっぱ陰気臭いアルね~~」

艶やかな黒髪をツインシニヨンに纏め、チャイナドレスの大きく切り取られた胸元からは豊満な双丘の谷間が覗いている。
美しい双眸は爛々と輝き、瘴気の立ち込める魔人墓場に天女が舞い降りたかのようにその場の者たちに映った。
しかし、突如現れた天女の美しさに見とれると同時に、皆一様にこう思ったのである。

「誰だ」

と。しかし、そんな中に唯一の例外がいた。
長大な槍を持った如何にも荒武者然とした風体の戸次右近太夫統常は彼女の顔を見つめてしばらく神妙な顔つきをした後、
合点がいったと見えて目を見開いた。

「おぬしは……確か、玉環殿……?」

「久しぶりアルねベッキー!!」

天女・玉環はかつての戦友に興奮気味に声をかけた。「ベッキー」という愛称に戸次は顔をしかめるもそれに気づかず玉環は走り寄る。
彼女が側から離れると、三兄弟はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。

 賢明な読者諸氏はご存知と思うが、この2人は既知の間柄であった。
方や戦国の若くして散った猛将戸次右近太夫統常、方や世界の覇権を握る大帝国・唐を傾けた傾国の美女楊貴妃。
そんな魔人英雄の二人は西暦三千年代、聖杯の導きで現世に復活し、希望崎での聖杯を巡るハルマゲドンに同陣営から参戦した。
そして聖杯戦争の後、魔人英雄達の魂は再び黄泉へと舞い戻り、今に至るのである。

尤も二人は当時特に親しく話したわけでもなく、「戦友」などと呼ぶにはおこがましいかも知れないが、そこは友好的というか基本馴々しい玉環のことである。
まるで古くからの友人のように戸次に接している。

死後間もない者たちと彼らの死の約1000年後に知り合った2人が同じ場で再会を果たしているという状況は真に珍妙なものであるが、
そんな矛盾が成立してしまうのが魔人墓場が時空の理から解き放たれている証拠でもあった。

「それで、お主がなぜここに?」

「『謎の声の主』ってのを誑かしに行こうと思ったら、なんかベッキーが『これ』に出てるって話を聞いたから応援しに寄ったアル」

「ベッキー、私を『声の主』に紹介してくれないアルか? してくれたらあっちのガキ共みたいに足腰立たなくなるまでヤラせてあげるアル」

ひいっと声をあげる三兄弟に目もくれず、戸次の返答を待たずして彼の股間の朱槍に手を伸ばす玉環だったが、股間でない方の槍でその手は払われた。

「やめぬか!『声の主』など拙者は知らん!寄るな!」

妻を娶ることの無いまま死んだ戸次であるが、家名のためにわが子に手を掛け、壮絶な死を遂げた母を彼は敬愛し、
母とは、妻とはあああるべしと考えていた。皇帝の妻でありながら国を傾けた女など論外である。

「え~~じゃあ他に誰か知らないアルか~~?」

玉環がそう言って魔人墓場の面々を見回すが、皆ぽかんとした様子でこちらを見つめるばかりである。
しかしその中にただ一人、目立った動きを見せる者がいる。

地面に這いつくばっていた神奈はゆらりと立ち上がると幽鬼のようなその顔に、奇妙な笑みを浮かべた。

「フィッ……ヒッ……ヒッ……ヒィイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」

咆哮と共に神奈は跳ぶ。跳躍の先にいるのは、当然玉環。勢いに任せて特に抵抗するでも無い彼女を押し倒す。

「ここで会ったが百年目えええ……!」

玉環を見下ろす神奈の顔は先程までとは打って変わって上気し、瞳は爛々と輝いていた。
玉環の白い胸の谷間に涎がだばだばと垂れて落ちる。

「百年目って、私はお前なんか知らないアル。何アルか? 『声の主』を知ってるアルか?」

「『声の主』なんか知らないけど、それはそれとしてちょっと楽しんで行こうよ。女の子相手は嫌?」

玉環の返答を待つことも無く、スリットの入ったチャイナドレスの裾を捲り上げる。
先程の戸次に対する玉環のように。この2人、人の話を聞かないところは似た者同士のようだ。
 露出した下半身は、神奈と同様ノーパンであった。肉感的な太腿の付け根、女の三角地帯を恥毛が覆っている。
雨雫のように無秩序に生い茂っているジャングルではなく、陰毛とは思えない艶やかな毛が美しく生え揃っていた。

「フャッハー!」

歓声を上げ、スカートに手を突っ込み、取り出したるはもちろんぬらぬらと粘液で濡れた鉋。
その鉋を玉環の股間に当て、そして滑らせると剃り取られた陰毛が舞い散る。
熟練の技は一瞬で毛の覆っていた股間を不毛地帯へと変えたのである。

「剃ったどおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

鉋を高く掲げ、勝利の咆哮を上げる。神奈の股間の下にある玉環の膝に噴水のような潮が当たって飛沫をあげる。
神奈の全身を歓喜の震えが襲い、目から涙があふれた。
あの文化祭の日からこれまで、獲物を前にしながらあと一歩で剃り逃がす苦しみを何度も味わってきたわけだが、
今やっと剃ることが出来た。それもこれ程の上玉を。さあ、後はこの無毛の丘を愛でるだけ。が

「なんだか知らないけど、剃っても無駄アルよ?」

「フィヒッ……?」

神奈の目の前でつるつるだった恥丘に無数の黒い毛が顔を出し、そして急激に成長を始める。
陰毛とは思えぬ長さまで伸びても成長をやめることは無く、髪の毛でもそうそう無い長さまで伸びたところで成長を止めた。
それらは毛でありながらダラリと垂れることなく、まるで先ほどまで神奈がいた色欲触手地獄の触手達のように、
1つの黒い束となってうねうねと動いている。
 陰毛を自在に伸ばし、そして手よりも精密に操る。それが魔人英雄玉環の能力「黒き森のヴィッチ」。
玉環――楊貴妃は「足が3本ある」と称されるほどの長い陰毛の持ち主だったと言うが、彼女にはその3本目の足だけで歩くことも容易いのだ。
そして無尽蔵に陰毛を生やせるこの能力は、剃毛を生きがいとする神奈とは相性が最悪であった。

「んなっ……あ、ああ……フィンッ!」

毛の束が神奈の顔をペシンと叩く。あまり強い力では無いが、鼻を叩かれて涙が出た。
神奈が怯んだ隙に、玉環は股の下から華麗に脱出する。

「『声の主』を知らないなら用は無いアル。直接行くアル。ベッキーせいぜい頑張るアルよ」

そう言ってぐったりと倒れている三兄弟を起こそうとする玉環だが、それを引き止める者がいた。
チャイナドレスの裾を掴み、玉環を行かせまいとする。

「待って……まだ終わっていない」

打ちのめされた直後とは思えない強い意志がその瞳と言葉には宿っていた。

「たとえ貴女がどれだけおけけを生やそうとも、私はそれを剃ってみせる」

「どうしてそこまで執着するヨ」

「そこにおけけがあるから」

それを聴くと玉環はくくっと笑い、振り返って神奈と向かい合った。2人の間でバチバチと火花が散る。

「『QWERTY-U』」

神奈のスカートが翻り中から現れた鉋の群れが主人の周りを囲って使い魔のごとく滞空する。
それぞれの鉋の刃が妖しく煌めいた。

「『黒き森のヴィッチ』」

玉環の陰毛は10m程の長さまで伸び、幾つかの細い触手に分かれて神奈へとその先端を向けながら淫猥に踊る。

「フィヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!」

「アルアルアルアルアルアルアルアルアルアルアルアルアッ!!」

†††††

「なかなか……やるアルね……」

「そ……そっちこそ……」

並んで倒れる女が二人。彼女らの周囲の地面は理容室の床などとは比較にならぬ量の毛が散らばり、愛液で濡れている。
死闘の果てに互いを認め合った両者の間には、まだ名も知らぬ相手に対して友情めいたものを抱き始めていた。
神奈がふらふらと手を差し出すと、それを玉環の陰毛が弱々しく握る。

「私は玉環……前に生き返ったとき現世ではタマタマと呼ばれていたヨ。お前はなんて言うアル?」

「舘椅子神奈……」


「じゃあ私は行くアル。私が『声の主』を骨抜きにしたら、ベッキーと神奈が地獄に落ちても生き返らせて貰うアル」

「要らぬ……!己の力で敗れたならそれまでよ」

「うん。頑張って」

2人の友にしばしの別れを告げると回復した三兄弟と共に、玉環は去っていった。

「私勝つよタマタマ。勝ったら『声の主』のところに行って、貴女のおけけを今度こそ……」

「フィ-ヒッヒ♪」

右手首を見つめながら、神奈は不気味な笑いを浮かべる。

「昔から戦場に行く男には女が自分の陰毛をお守りに渡したものヨ。神奈は女だけど、お守りにするよろし」

そう言って玉環が結んでくれた「右手首の陰毛」がくねくねと蠢いていた。

†††††

色欲触手地獄。現世で邪淫に耽った者が堕ち、本能に根ざす快楽に苛まれる地獄。

「幽霊じゃないよ……生き返ったんだ私。信じられないだろうけれど、本当に……」

「ヴァヴァヴァヴァッヴァヴァヴァヴァッ!」

舘椅子神奈に敗れた雨竜院雨雫・蝦魯夷にゐとの2人にその他ビッチ、レイパー……etcの亡者共が責め苦を受けている。ご褒美でしか無いという者も数多いが。
そこにまた、新たな亡者が1人加わった。

「どうしてこうなるアル~~~ッ!?」

触手に触手で対抗しながら、亡者――玉環は叫んだ。

※右手首の陰毛…神奈の右手首に結ばれた玉環の陰毛の1本。100kgほどの重量まで支えられる強度を持ち、とても綺麗。
解くと1m程の長さになるが、玉環の厨二力が残留し、ピンチになったら伸びて助けてくれるかも知れない。


最終更新:2012年07月25日 21:18