安全院・綾鷹の人間関係(by しらなみ)


―二十七の魂、消え、再び現れた時、九つの灯りのみが残った―

安全院綾鷹が魔人墓場に戻ると彼より先にAブロックで勝ち残った二人(正確には三人だが)
が、墓場に待機していた。
(…勝ち上がりは肉皮リーディングと夜魔口組の舎弟…。
”殻さん”の娘さんは勝ちあがれなかったか。ここはある意味、番狂わせだな)

ちらりと彼が、肉皮を見ると何やらブフォと息を吐き、満足げな顔をしている。
微妙なキャラだ。スゴイ微妙なキャラだ。レッツ、ニューハーフ。
(問題は果たして”気づいている”のかどうか。微妙なところだな。あの『可能性』は確認すべき
なんだが極力対戦は避けたい。さてどうするか)

彼が思考を巡らし始めた時、別の地獄で今一つ戦いに決着がついた。
『血の池地獄』だ。
「!?」
「!!!」
「…。おいおい」

早見歩がホタルイカに飲まれていく。
墓場に映し出された映像に参加者たちは息をのむ。無茶苦茶だ。綾鷹は一人全く別の視点で勝者を眺める。
(彼の勝ちか。だが…)
(何故…)
(何故あの時渋谷から退かなかった。有村大樹。
退けば200万の援助金を元に店を興せたというのに。何故…)


†††

蟻地獄の試合模様を再度確認したいという綾鷹の申し入れと比良坂三兄弟のやり取りを
横目で見つつ、夜魔口組の二人の片方、夜魔口断頭が口を開く。

「安全院綾鷹か、えらく場違いなのがいるな」
「先輩、知っている奴なんっすか」
「名前だけな。陰陽の流れを組み、祀りごとに常に太いパイプを持つ安全院家。
その婿養子。今回のメンバーでいえば明らかに異色な存在だ。グレード的な意味でな」

断頭先輩の言葉にふーんと興味なさそうな態を見せる工鬼。好きな相手に別の男の話題を―
しかも高評価ぽく―出され嬉しいはずがない。構わず続ける断頭。
「お前に判り易いようにいうとオジキと一緒にラウンド回れるクラスだ。ナイスショット」
「げ、大物じゃねぇっすか」
「まあ死んじまったら生前の地位なんてくその意味もないがな。問題は奴が関わっていた
事業のほうだ。ちょっと思い出したことがある。お前『プロジェクトAA』って知ってるか?」
「プロジェクトXなら。」
冷たい目線で工鬼を見る、断頭。
「…まあいい『プロジェクトAA』というは"Another atomic"計画だったか"Another angle"
計画だかの通称で国家プロジェクトの一つだ。並行世界ってのはよく使うからお前にもわかるな」
「それは判るっす。月読の得意技っすね。」
「大ざっぱにいえばそれを営利目的に活用しようって計画だ。無数にある並行世界のうち
『既に終わった世界』に出向いてそこに埋蔵された資源を発掘、エネルギーを産みだし、
こちらの世界にエネルギーだけ次元を超え持ってくる。理論上資源∞、廃棄物もその世界に
放置すればいいから超クリーンってのを売りにしていた計画だな。」
「地上げ後は売り逃げ、旅の恥はかき捨てって奴ですかね。」
合っているのか的外れなのか微妙な発言であった。断頭は続ける。

「ところが、この試みは大失敗に終わる。原因は不明だが、計画の中核を担っていた
電力会社―安全院家の会社だ―が『重大な事故』を引き起こしたんだ。

そして起こった顛末が
『サイタマ魔界都市化』事件。

異次元の穴が開き、大量の異界の瘴気がサイタマ市になだれ込んだ。
それは一瞬のみという話だが、周辺の『世界』を造り変えるには十分な量を伴っていた。
生態系が文字通り一晩で一変した。あの時期、おめぇのサルたちもスゲー騒いでたろ」
「…でしたっけ?」
「で、さっき学者先生の話で思い出したんだが、これにはきな臭い話もイロイロあって
この穴、今は完全に閉じましたって話だが、真っ赤なウソで、今もサイタマには瘴気が
漏れ続けてる噂とかもあるのよ。本当なら1年以内に再度開いても可笑しくないかも
しれん、地獄の門とかがな」

「!」
「そして私らが事務所ごと吹っ飛ばされたのは『魔界化を利用して大儲けしている会社
がある、シノギ用に調べとくよう』オジキに命令された矢先だった。」
「!?」             、、、、、
「あと事故の同時期に渋谷に大量の『お客さん』が現れ、避難勧告と戒厳令が引かれた
ということもあった。結局事故との因果関係は不明ということに落ち付いたが…」
まあそんな訳がないなと彼女は言外ににおわす。ここまで聞いて工鬼が呆れたように言う   
「…先輩…それって割とっていうか露骨にズバリじゃないっすか?」
「わからん。わからんが少々、関係が偏りすぎているのも事実だ。ともあれ奴からは
”眼”を放さんほうがいい。工鬼、判ったか。」
「うき-×11。2匹でいいですか?」
「声がでかい。だから貴様らはもう少し静かにことハコベっての」

†††

魔人墓場にて
2回戦のマッチングが発表されたのはそれからしばらく後のことだった。



魔人墓場の日常―こんな謎の声は嫌だ編―(by しらなみ)

―冥界第1回戦前―

謎の声
「──────前進か。
 ──────転生か。
 ──────安息か。
 フッ、闘争を選びし亡者達よ。
 次に戦いたき場所――地獄の第一希望と第二希望を述べるがよい―」

  (全員、未記入も含め提出)

謎の声「──────────────────」
全員「・・・・・・・・・・・・?」

謎の声
「──────アンケートへのご協力ありがとうございました。」

全員「「単なるアンケートだったのよ!!!」」



魔人墓場の日常―こんな謎の声は嫌だ編その2―(by しらなみ)


―第2回戦開始前―
謎の声
「――今よりアンケート結果を反映し、余興を開始する。
 ――お前達に拒否権はない
 ――拒否すればどうなるか判るな。」

全員「何ッ?」

「―では『第一回チキチキ魔人墓場にドクターカオスなどいやせんでカラオケ大会』
開始する。

(選曲)
蟻地獄 :肉皮リーディング     「キューティハニーOP」
畜生界 :夜魔口工鬼&夜魔口断頭  「3年前の浮気」
鏡面破心:安全院綾鷹        「サムライ」
血の池 :ラーメン野郎・有村大樹  「ミスター味っ子 ルネッサンス情熱 」
修羅界 :月読茎五         「マキシマムザホルモン アカギ」
阿鼻叫喚:右手首の怨念       「only my railgun」
虫花地獄:不破原拒         「さよなら人類」
天界  :戸次右近大夫統常     「昴」
色欲触手:舘椅子神奈        「ニンジャスレイヤーOP」.nicovideo.jp/watch/sm17755693

優勝特典は特になし

全員「「本気で余興かッ!」」

「ハイハイ!謎のお方。私がトップ切らせて頂きます。タタタたたらら~ん(ハート)」
「…『昴』?」
「…『railgun』?」
「確かにある意味、サヨナラ人類だがね」
「じゃ、私、男性パートな。X、アマゾン、マイク準備。」
「…先輩。なんでそんなにノリノリなんっすか」
「絶対・独立!絶対・独立!」
「アニメ率おおくねぇか。ホルモンならOKだけどよ」
「アイエエエエエエエエ。オチ担当!オチ担当!ナンデ!?」

ちなみに 選ばれたのはお約束で綾鷹でした。
「…う、嬉しくねェ」



「ラーメン刑事 有村昌平」 vol3.エンジェル・バイトより(by ミル彦)


(あらすじ)
杉並区内で頻発する、中・高校生を中心とした連続行方不明事件。
何の痕跡も残さないこの事件を、警視庁はラーメン屋による犯行と推定。

特異ラーメン対策一課の有村・鹿島もコンビとして捜査に駆り出されるが、
新たな被害者の自宅で、因縁のあるラーメンイーター《無貌》と遭遇する。
それは杉並区内で「連続殺人犯」として知られる男だった――

―――――――――――――――――――――――――――

 遭遇の一瞬、鹿島奈津美はほとんど反射的に抜剣していた。
「先輩」
 動作はそのまま、抜き打ち気味に斬撃となる。
「そこ」
 有村昌平の横をすり抜け、踏み込んでゆく。
 それは彼女のラーメンの射程距離であり、《無貌》に肉薄する動きであった。
「どいてください! 邪魔!」

「やめろ」
 昌平が見る限り、鹿島奈津美は前職のラーメン屋としての習性が抜けていない。
 見敵に際して、即座の攻撃。本能がなくては、ラーメン戦国時代は生き残れない。
 そのために、『考える』よりも『攻撃』が実行される。

 そして、こうした現場では、それが致命的な一手となる。

「やめろ。使うな!」
 もとより、昌平の警告を奈津美が受け入れた実績はない。
 抜剣とともに放たれたラーメンは、陽炎とともに空気を香ばしく焦がし、
 《無貌》に届く直前で途切れた。

 ――ヂッ!
 と、火花が大気を擦るような音。
「ん」
 次の瞬間、奈津美の右腕は剣ごと捻られ、
 人体として構造上不可能な方向へ折り曲げられている。
「うっそ」
 およそ緊張感に欠ける声で呟き、鹿島奈津美はその場に転倒した。
 見えない力が、彼女の腕をひねり上げているように見えた。

「ええと――」
 《無貌》は、その通り名のごとく無表情な顔で、少し言葉を選んだようだった。
「ご馳走さまです、婦警さん」
 そして《無貌》は笑った。ぎこちなく。
「そして、お世話になってます、有村昌平さん」

「お世話した覚えはねえよ。バカが先走っちまったな」
 昌平は渋面をつくって、床に転がる奈津美を見た。涙目である。
 痛い、と言わないだけ褒めてやってもいい。
 かわりに、獣のような目で《無貌》を睨んでいる。

「あのう、先輩……」
「覚えとけ、鹿島。こいつ――こいつらがイーターだ。
 俺たちラーメン屋の天敵といえる」


最終更新:2012年07月25日 21:43