エキシビジョンマッチ黄泉比良坂 夜魔口工鬼&夜魔口断頭


名前 性別 魔人能力
夜魔口工鬼&夜魔口断頭 男性/女性 グレムリンワークス
比良坂罪 男性 恣意操身

採用する幕間SS

なし

本文


◆0◆

断頭台。
すなわちギロチンはフランス革命において王家だけでなく、内部粛清においても大いに力を発揮した。
労力をかけず、罪人を苦しめず、合理的に殺す。
それでいて民衆へのパフォーマンスにも優れる。
歴史上もっともシステマチックな処刑機械である

              世界処刑大全より
◆1◆

馬は黒い影を伴い坂道を駆け下りる。

「ねー、先輩?なんで折角蘇るのに地獄へ戻るんでスか?」

黒い影のように見えるのは金髪にサングラス、アロハシャツの男。
ポケットに手を突っ込んで周囲を威嚇するような歩法。
どう見てもチンピラという風情。
しかし、ジャラジャラと無数の斧型アクセサリーを身に付け、腰には手斧が二丁。
危険な雰囲気を漂わせている。
そして、この歩き方であるのに異様な速度!!
恐るべきヤクザ歩法!!

夜魔口 工鬼(やまぐち ぐれむりん)。
機械を狂わせる力を持つ子鬼を召喚する『グレムリンワークス』と名付けた特殊能力を持つ魔人ヤクザである。

「アホンダラァ!!テメー、戦国時代に蘇ってもしょうがねえだろうが」
「や、歴史改変とか?未来人による天下統一とか。」
「TVも葉巻もネットもドンペリも無いトコで偉くなっても仕方ねえんだよ。」
「俺は、先輩がいれば何処だって…」
「私は現代の都会が好きなんだよ!!金!!酒!!博打!!葉巻!!TV!!エステ!!アレも!!コレもだ!!オヤジに!!兄貴に!!夜魔口のロクデナシ共も!!全部だ!!」

首のない影の馬を駆る女。
スーツ姿で決めており、口には葉巻を咥えている。
スタイルは良く、胸は大きい、美人だ。
しかし、その姿はインテリヤクザスタイルじみており、背中に背負った異様な形の斧、そして鋭い目つきからも兇猛な雰囲気を醸し出している。

夜魔口 断頭(やまぐち でゅらはん)。
死人と契約し従える事ができる影の馬を召喚する『ハローワークオブザデッド』を使う魔人ヤクザの若手幹部。
伝説の首なしライダーを彷彿とさせる馬術で疾走する。

「さて、情報は掴めている。まずはあの三兄弟をどうにかしないとダメだ。やれるか?工鬼。」
「そりゃあ、先輩の頼みとあれば!!うききッ!!」

工鬼の周囲から小さな影、角の生えた猿のような使い魔が周囲に走り出す。

「警戒は最大限にやれ、どうせロクでもねえ事をしてくる。気合いれろ。」
「やー!!了解でス!!」

地獄へと繋がる黄泉比良坂。
その坂道は死体で出来ている。
振り返る者は再び死の国へ!!

ダンゲロスSS2 冥界無情 エキシビジョンマッチ。

◆2◆

工鬼と断頭。

彼らは、兄弟でも夫婦でもない。
夜魔口組という魔人ヤクザ。
杯による絆によって繋がる者達。

組の主要な魔人ヤクザには『夜魔口』の姓と。
能力に合う夜の魔の名が与えられる。

杯の絆と姓名は生来の性質を更に深めた魔人能力を開花させる。

曰く。
魔眼の威圧、バックベアード。
悪夢の世界に呼び込む、ナイトメア。
嘆きの雨を降らせる、バンシー。

そして、この二人は。

機械を狂わせる現代の邪妖精、グレムリン。
人に死を告げ魂を導く首なし騎士、デュラハン。

そんな性質を持つ魔人である。
そんな彼らは、夜魔口の兄弟であり家族である。
夜魔口の魔人達の能力は、名の体現なのである。

◆3◆

「ふんふんふふふ~ん♪」
「たのしそうね~、しん」
「そりゃあ、楽しいさ。玩具は実際に使ってみないと、その良さは解らないからね~」

謎の声に対して比良坂三兄弟。
いや、この戦いの黒幕を自称する比良坂罪は、どうでもよさそうに応えた。

「使い勝手の良い玩具を使わないといけないからね。僕は君と違って哀れな道化の人形遣いにすぎないんだしィ?」
「え?あの~…」
「僕はお前みたいに化け物じみた能力を持たないからね、この化物!!」
「そ、そんな~」
「例えば、そう。この子は自分の心を魔獣にして召喚する能力なんだけれどォ?」
「すごくつよかったわ~、あのべっきをとめるなんて」
「ばーか、ばーか。ちょっと頭を使いなよ。殴っちゃうよ?」
「ひっ…」
「人形に心なんてないんだからさァ。能力はないのと同じ、頭使おうねェ、面倒だー。」
「…」
「このビジネスマンもダメだね。喋るのが僕じゃ能力は使えない。まあ単純な身体スペックは高そうだけれど、タイミングよく剣術を使うのもまた面倒。使えなーい人形ォ♪機械ッは使えなーい♪数学なんてめんどーくさーい♪」
「…」
「まあ、自分の死体を前にすれば魂は引き込まれてしまう、肉体を制圧している今、あのヤクザ女も能力は無意味だろうしー」
「でも…」
「あー、うるさいなー。ホントにぶん殴るよ?」
「…」
「さてと、そろそろ戦闘エリアに到達かな?」

人形の選別を終えた比良坂罪は笑顔で立ち上がった。

「さて、人形は壊れるまで舞台で踊ってもらおうかな!!」

比良坂罪(ひらさか しん)。
死体を傀儡のように操る特殊能力『恣意操身』を持つ魔人。

◆4◆

超高速で降り注ぐ硝子の弾丸。

「いきなりコレでスかァ!!」
「大層な歓迎だな、オイ!!」

静間千景の『グラスコフィン』と雨竜院雨雫の『遅速降る』のコンボ。

広範囲ダメージ能力と、それを強化する落下速度操作。
偶然に噛み合う戦術級コンボは時折ダンゲロスハルマゲドンでも見られる光景だ。

相対するものに絶望を与える連携攻撃。

だが。

「「ンダラァ!!何さらしてくれとんじゃ!!ボケェ!!」」

魔人ヤクザの二人が同時に吠える!!
息の合った魔人ヤクザ恫喝術ヤクザハウリングの絶唱は硝子を粉々に打ち砕いた。

超音波の波長でガラスを砕く事ができるの事実は懸命な読者諸君には理解していただけよう!!
ましてやヤクザハウリングのデュエットならば当然の結果!!

「ヒャッハー!!スタック効果で威力120%!!先輩の指揮官補正で1.5倍!!あとはラヴ・パウワーで100倍でスね!!」
「黙れゲーム馬鹿!!あとで死ね!!次が来るぞ!!相手もコンビネーションだ!!」

断頭の指摘したように次なる魔人人形が動き出す。
クルクルと回転しながら舞い降りる二つの影!!
一糸乱れぬ回転ジャンプで舞い降りた影は全く同じ動作でボクシングの構えを取る。

「「この人形にとってさァ」」

二つの影は同じ少年の声を出す。

「「最強の敵って自分だったみたいだね、クスクスクス」」

魔人ボクサー、ロダン。
そして蝦魯夷にゐとが能力で変身したロダン。

「「能力抜きでも強くて早い、シンプルイズベスト!!こういうのが一番付け入る隙がないでしょ?」」

「まったく、アタッカーゲーでスね」
「ふん、相手にとって不足なしだな!!」

工鬼はヘラヘラと断頭は不敵に笑った。

◆5◆

軽快なステップで一気に加速する魔人ボクサーが魔人ヤクザの至近距離へと踏み込む。
世界魔人格闘大会で磨き上げられた技は能力を抜きにすれば、今回の亡者の中でもトップクラスの戦闘力である。

「だッァらぁらァ!!」

斧を両手に構えて回転する工鬼が黒い竜巻と化す!!
土煙が視界を塞ぎ、進路を遮る盾となる。

「カァッ!!」「…!!」

竜巻を迂回して断頭が斧を薙ぐ、人馬一体の馬上斧術!!
しかし華麗なバックステップで回避するロダンA!!
そしてその影からロダンBのカンガルーパンチ!!
しかし横から工鬼のヤクザキックが炸裂する!!

「ウッキィ!!こっちは視界良好だァ!!」

戦場に無数に待機するグレムリンと工鬼は視界をリンクする、死角はない!!
ガードの上から振り下ろされる二丁斧がロダンB腕に食い込む!!
支援に入るロダンA!!

「ぶるるっるるっ!!」

断頭の愛馬しゃど丸が四本の馬脚を使った連続ヤクザキックを繰り出す。
ヤクザ馬を使った見事なヤクザ馬術!!
馬の脚力から繰り出されるヤクザキックは想像を絶する威力!!
ロダンAをロダンBごと蹴り倒す!!

「…!!…!!」
「ウッキーッ!!」「オラァ!!」

断頭の斧がロダンAの首を落とし、更に返す刃で一刀両断!!
工鬼の斧がクロスし、ロダンBを八つ裂きに切り分けた!!
個々の戦闘力は高くともコンビネーションはヤクザコンビに分がある。

「自由意思無しに操るだけでは最強のボクシングも無意味だな!!」
「「ははッ!!スゴーイ!!じゃあ次はコレだ!!」

崩れ落ちるロダンとロダンBから戻った蝦魯夷にぃとの口から罪の声が響く。

ガクリと断頭と工鬼の体から力が抜ける。

◆5◆

「10分だな、逃げて逃げて逃げまくれ!!」
「ウッキー」

神無月狂輔の『神のご加護』は周囲の肉体的能力を無効化する能力。
制限時間は10分。

「ホラホラ、早く逃げないと殴り殺しちゃうぞ~、ははッ!!」

狂輔の口から少年の声が響く。
今まさに鬼ごっこが始まろうとしていた。

ガキン!!

狂輔の足に鉄輪が嵌まる。

ガキン!!ガキン!!ガキン!!

手に、胴に、首に、拘束具が嵌っていく。
夜魔口断頭の手にした斧が奇妙な形に変形している。
斧から無数の鎖が伸びその鎖が周囲の岩や柱に絡みついているのだ。

「あー?なんだコレ?」
「フン、十分間も逃げてたまるか、アホが。」
「何々?反撃でもする気?」
「私の武器はギロチンを改造した斧」
「だから?」
「ギロチンには罪人を拘束する為の機構が備わっている、私の処刑断頭斧術は罪人を拘束し処刑する為に生み出された技だ」
「はははー、でも今の君の力ではこの人形を拘束したりはできないよ?逆にこうやって引きずり寄せて…、あれ?」
「その魔人の能力はよく知っている、調べたからな。相手を無力化する能力は強力だが、本人の身体能力は並の魔人だ。鎖を周囲の地形を利用して固めてある。その岩や柱を引きずり倒したりはできないだろう、」
「ははは、面白いねー、じゃあ次だ」

神無月狂輔の肉体がその場に崩れ落ちる。

だぷん!!

地面が沈む。

◆6◆
「あちゃー、コレヤバイでスね」

工鬼がヤレヤレと首を振った。

巨大アメーバのキョスェ。
その死体の上に夜魔口の二人は誘導されていたのだ。

「無力化とのコンボのツモリだったけれどー」
「足場を奪えばどんな武術も使えないんだっけ?クスクスクス」

ゴボゴボとアメーバの肉体が震えて少年の声を紡ぐ。
足元が不定形の肉に飲み込まれつつある。

「あーコレ諦めましょうよ、先輩」
「…」
「やー諦めてエロい目に会いましょうよォ、スライムイン女ヤクザ」
「早く、やれ。そして後で死ね!!」
「ウキキッ。」

ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぅ!!
工鬼が斧を持った両手をグルグルと回転させると黒い旋風が巻き起こりスライム肉体を切り飛ばした。

「まあ、どんな武術もってのは、間違いでスね。」
「さっさとやれ、ボケが。」
「やー、最近武闘派ヤクザとして影薄かったじゃないでスか。ちょっとくらい勿体つけさせてくださいよォ。」

「あー、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんないィ!!」

周囲の死体が一斉に騒めく。

「僕は君達の漫才を見るために来たわけじゃないんだ、単に暇を潰しに来ただけなんだ!!あー、さっさと暇潰しに潰れて壊れちゃえよ!!」

黄泉比良坂を登り来る比良坂罪がどうでもよさそうに叫んだ。

◆7◆

「ンだらァワレ!!ボケェ!!」

最速で行動したのは夜魔口工鬼であった。
自身を高速回転させ黒い旋風と化すと斧型アクセサリーをショットガン散弾の様に射出する。

「つまらなーい♪」

比良坂罪が指を動かすと周囲に落ちていた死体が二つバネで弾かれたように立ち上がり盾となる。
死体は散弾を受けて砕け散る。

「くだらなーい♪」

更に罪が指を動かす。
夜魔口コンビの足元の死体が瞬時に起き上がり攻撃。

「ンだてめえ!!」

断頭のヤクザキックが亡者を破壊する。
その流れのままギロチンアックスの拘束具チェーンを操り攻撃を仕掛ける。

「おもしろくなーい♪」

比良坂罪は踊るように腕を、指を動かし続ける。
死体が跳ね起き盾になり倒れ。
続いて別の死体が起き上がり飛びかかる。

「どうでもいーい♪」
「人間なんてらららーらら♪」

一度に操作できる死体は2体。

「罪人はー踊るー♪滑稽なー♪」

瞬間的に切り替える。

「とってもとっても踊ってもー♪」

踊りながら死体を拾い投げる。
早く、早く、早く。

「くるくるくるくる狂ってるゥ♪」

「盾だ!!」「やーッ!!了解!!」

工鬼は竜巻の盾となり飛来する死体を蹴散らす。
断頭は襲い来る亡者の首を斬る。

「希望もなーい♪明日もなーい♪だって死んでるんだもん(セリフ)」

比良坂罪も退廃的な踊りを続ける。
常に切り替えながら2体の死体を操り、そして強大な膂力で死体を投擲する。
死体の砲弾!!
時には投擲された死体を操作し空中からの攻撃!!
攻撃の中には大会参加者の死体も混じる。

「ぐううッ」「先輩!!」

鉋が削り。剣術が切り裂き。ラーメンが飛ぶ、ラッシャーセー!!

「わらわらわら藁人形ォ♪わらわらわら笑うだけェ♪ゾンビ的な?(セリフ)」

夜魔口組は防戦に徹するのみだ。

◆8◆

「舐めやがって!!」

大規模ヤクザハウリングが轟く。

「罪人のー♪叫びはー♪」

比良坂罪は死の舞踏を続ける。
ダンスマカブル!!

「工鬼!!」
「アイアイー」
「2分耐えろ!!」
「やーッ!!先輩のお望みとあれば!!」

断頭は斧を大地に突き立てる。
工鬼は回転をやめ斧を振るう。
竜巻の防御は硬いが対応力に欠けるからだ。

「死者の足掻きはー♪くるくるくるくる苦しみのォ♪」

「契約だ!!」

断頭の影が揺らめく。

「死体はぁ♪僕たちのォ♪制御下にィ♪」
「黙れ!!ガキが調子に乗りやがって!!夜魔口を舐めた事後悔させてやる!!」
「先輩カッコイー!!」
「ここに無い死体がある!!貴様らが魂を混ぜて現世に送った!!だからココにはない!!そうだろう!!」

断頭の影から揺らめいて立ち上がる者がいる。

「某に何を与えるというか…」
「闘争だ!!」
「イクサか…」
「地獄の果てで名を知らしめるのが望みだろう、ならば殺させてやる!!支配者気取りのガキどもを!!」
「くふ、くふふふ。なるほど面白いわ!!」
「ならば契約だ!!夜魔口組仮組員!!戸次右近太夫統常!!」
「応!!多勢に無勢のイクサ!!戸次の見せ場じゃ!!」

大身槍が回転し亡者を薙ぎ払う。
戸次無限流、軍愚似(ぐんぐにる)。
この技の前に軍団を編むなど愚か者の所業に似たり!!

◆9◆

「良くやったぞ、工鬼」
「アイアイ~、後でご褒美お願いします」

2分間の攻撃で夜魔口工鬼の肉体はボロボロだ。

「ハッ!!まだ終わっちゃいねえぜ?」
「アイー」

工鬼を置いて断頭は馬を走らせる。

「死にたい者は前に出でィ!!」

統常の槍が無数の竜巻を産み出し飛来する死体砲弾を弾く。
戸次無限流、武龍哭(ぶりゅーなく)。

「くそッ!!ずるずるずるずるずるいーッ♪」

比良坂罪はそれでも攻撃を止めることはない。

ゆらり、と統常の影が揺れる。

「がぁっ?なんだコレ♪」

罪の肩がえぐれ血が吹き出す。
聖者をも貫く幻惑の槍技、乱疑盗(ろんぎぬす)。

飛来した死体砲弾と襲い来る二体の亡者人形を稲妻の速度で貫く。
スリーウェイアタック、虎威電徒(とらいでんと)。

戸次右近太夫統常が比良坂罪の前に立つ。

「その首、頂くとしよう」
「君は学習しないね♪だから人形の域をでないのさ♪」

槍が比良坂罪を貫いた。

「くっだらなーい♪つまらなーい♪人形の踊りは終わらなーい♪」
「まだ足りぬ」

比良坂罪死亡

◆10◆

「アー、戸次のヤツ行っちまったな」

夜魔口断頭は倒れた比良坂罪を見下ろす。

「謎の声でもぶっ殺しに行く勢いだなー」

比良坂罪は死んでいる。

「まだ、動けるんだろ?」
「あー、もう。つまんないー♪隙くらい作ればいいのにー♪」
「ゆとりゲーマーかお前は、人生イージーモードか?」

ぐにゃりと奇妙な動きで比良坂罪は立ち上がる。
左右に比良坂弑、比良坂葬を従えて立ち上がる。

「ドーモ、比良坂兄弟です。」

3人は恭しく一礼した。

「お前は生者だったな?」
「そうだね」
「先ほどは死んだな?」
「そうだね」
「今は死者として立っているな?」
「そうだね」
「では、今のお前を倒せばようやくクリアだな?」
「そうだね」
「ならば始めよう」
「そうだね」
「姓は夜魔口、名は断頭。私は罪人を処刑する者だ。」
「君の罪などどーでもいーい♪」

両者は最後の戦いを始める。

◆11◆

比良坂罪の人形はほとんど全て戸次右近太夫統常に破壊されてしまった。
しかし、兄弟の死体は側に置いている。
切り札としてか、執着としてか。
比良坂罪の最後の人形。
比良坂弑と比良坂葬。

◆12◆

「やンのかァゴルァ!!」

ヤクザハウリングの金縛りが今更通じる相手ではない。
これは自己を高める気合のシャウトだ。

処刑断頭斧術は相手を拘束し首を落とす。
マリーアントワネットの断頭斧はギロチン機構を斧に押し込めた武器である。
鎖が舞い斧が振るわれる。
「つまんなーい♪どうでもいーい♪」

歌は特に能力に関係はない。
自分で戦いながら人形を操るリズムをとる程度でしかない。
もしくは自分の精神を高揚させるためか。

比良坂罪は人形遣いである。
比良坂兄弟に鍛え抜かれた武術はないが強大な膂力とコンビネーションがある。
葬が飛び、弑が足払いをし、罪が抜き手を放つ。

◆13◆

「ドラァ!!」
拘束された人形の葬が空中高く投げ上げられる。

「すきすきすきすき隙だらけェーッ♪」
罪の手刀が断頭の右足を切り裂き、弑の手刀が断頭の横っ腹を貫く。

「ッタらァボケェ!!」

ヤクザキックが弑の蹴り飛ばす。
落ちてきた葬の首を断頭斧が切り落とす!!

「ハッ!!やンのかゴルァ!!」

首のない葬の死体をキャッチした罪が全力で全力投擲!!
弑は体勢を立て直す。
死体砲弾が断頭の愛馬しゃど丸と吹き飛ばして木っ端微塵となる。

「ひでーヤツだなァ、オイ!!」
「きにしなーい♪生き死になーい♪だって人形だもの(セリフ)」

弑が断頭に躍りかかる。
足を切り裂かれた断頭は動けない。

「舐めんじゃねえ!!」

鎖とギロチンカッター部分を操り敵を迎撃する。
弑の頭部に刃が突き刺さる。

「アハハハハ!!オシマイだー!!」

罪の右手刀が断頭の右腕を落とし。
左手刀が心臓を…、瞬時に断頭が体を捻ったため左肩を貫く。

「ぐううううッ」

右手を返して弑の死体を掴んで断頭に叩きつける。
ぐちゃり、と断頭の下半身が潰れる

「カァ!!」

最後の技で断頭斧の拘束具が罪に絡みつく。

「オシマイオシマイ♪押し花みたいに潰れちゃえー♪」

罪は自身に絡みついた拘束具を気にせず残った断頭の体を抉り毟る。

「はははッ。いいや死ぬのはテメーだ。」
「君の弟分は瀕死のままだよ?ここには来れないさ。君は手も足もでない。」
「来れなくてもいいさ、小悪魔1号!!」
「ウッキィー!!」
「んあ?」
「狂わせろ!!」

ガチャリ!!

人を効率良く処刑する機械、ギロチン。

ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり!!
歯車が鎖が刃が鉄輪が!!

「あがッ?う、し、、つまあ、らなーい♪」

機械が狂えば効率悪く殺戮する。

「おもしろく…なーい♪」

◆14◆

「うげぇ、えぐいっスねえ」

その場所で戸次右近太夫統常は謎の声、一 四三(にのまえ・よみ)を殺し続けていた。
比良坂罪に操られた人形の少女。
死者に死亡時の痛みを倍増して与える『メメント・モリ』があるがゆえに死者には無敵であるはずの彼女であったが。
死を受け入れてなお戦い続ける戸次統常との相性が最悪だった。
痛みや苦しみを感じないのだ。

四三には死者を異世界に飛ばす『コギト・エルゴ・スム』
があった。
戸次統常が何も考えなかったように、四三もまた罪の指示に従っていただけである。
無知な彼女は戸次統常をどこに飛ばせばいいのか判断できなかったのだ。

「あ…ああ、たすけて~…」

罪が敗れても約束通り肉体は再生させる律儀さはある。
律儀というより言いなりであるだけか。
断頭と工鬼は肉体を再生され生き返っていた。
あとは元の時代に戻るだけである。

戸次は考えない。
蘇る者は戸次の名に賭けて殺すだけである。

「アー、助けて欲しいのか?」

断頭が問う。

「あ…あ…♡」

喉を切り裂かれて声が出ないのか甘い吐息が漏れる、しかし再生し始めると声がもどる。

「できれば…」
「そうだな、アンタの能力はさっき聞いた通りだな?」
「あ…そうで…す」
「じゃあそこの戦国武将を生き返らせて未来彼方へ送り出せ」
「あ、そうですねェ」
「戸次殿よ」
「ぬう!?」
「どうせ魔人が行き着く所は修羅だ、新しい戦場があるさ」

シュン…

戸次一族の体現者。
遥か未来で戦を続けるだろう。

「さて、アンタ。」
「はい?」
「どうせ、比良坂は地獄から這い上がってきてアンタを利用するだろう」
「そうですかぁ?」
「ロクでもない魔人共がアンタを利用して生き返るだろう」
「そうかもしれませんね~」
「私はそういうのが大嫌いだ」
「そうですか~」
「約束通り私達は生き返らせてもらう。これはルールだからな。」
「はい~。それはしんからもいわれてるので~」

ザクッ。
コトリ。

ギロチンの刃が振るわれ四三の首を落とす。

「あらら~?」
「首が胴体から離れても生きていられるな?」
「まあ、ふめつですから~」
「良し、私たちは首友達だ!!」

断頭は自分の首を外してみせる。

「あ~ほんとですぅ~」

ヤクザ的欺瞞友情術「私たちは友達!!」。
なんという恐ろしい交渉術!!

「友達だからな、お前一緒にこないか?お泊まりだ」
「あ~、おともだちのいえにおよばれするのはたのしみです~」

「体は置いてけ」
「はい~」
「ま、悪いようにはしねえよ。エロいことにもできるだけ関わらせねえし。ウチは気のいいヤクザだ。居心地はいいぜ?」
「では、おせわに~」
「だがまあ、ひとつ約束だ。」
「はい~」
「無闇に魔人を蘇らせるな、面倒くせえからな。ウチでは能力禁止な?」
「はい~♡」
「じゃあ行こうか新しい家族の仲間入りだ」

◆15◆

「終わったなぁ」
「終わりましたねェ」

爆発して瓦礫の山になった『首なし金融』の事務所前に工鬼と断頭の二人は立っていた。
断頭は友情の証にもらったメガネをかけている。
彼らの背後にはサルのような小悪魔達、頭の無い影の馬、そして馬の背中には頭だけの女。

「さて、本家に帰るか」

断頭が呟いた。
「アイー」

工鬼が応える。

ぎゅっと断頭は工鬼を抱き寄せる。
胸の谷間に顔が埋まった。

「ウキッ?」
「良くやった、褒めてやるぜ?ご褒美だ。」

断頭は工鬼の額にキスをした。

「ウッキー!!先輩!!もう一声!!」
「うっせー!!死ね!!」
「なかがいいですね~」
「「「「「ウッキー」」」」」」
「ぶひひ~ん」

騒ぎながらヤクザ達は家へと帰る。
また明日からは楽しくやっていくのだろう。

ダンゲロスSS2 冥界無情 了


最終更新:2012年10月08日 00:32