鬼屋敷 凉(きやしき りょう)


『現世への執着』

 なぜ死亡したか、を考えるより、これから何をすべきか、を考える。取り返しの付かないことを悔やむより、今できることをなさねばならない。
 そう考えて、鬼屋敷は自分が死んだ時の世界の損失を計算していた。
 それは果てしなく、膨大な計算量であったが、鬼屋敷にはそれを計算するだけの膨大な時間が与えられていた。
眠っているのか、意識があるのか、不明瞭なまま計算時間だけが過ぎていく。
 一つ、また一つ変数を増やし、変数の数は10桁を超えた。もしその数式を明文化すれば、A4紙で地球を覆い尽くせるほどの量になるだろう。
 だが、計算はまだ足りない。先も見えない。どれだけ計算すれば答えが見つかるだろうか?
 そんな疑問をかき消して、鬼屋敷は計算を続ける。
 何度も何度も何度も計算を重ねる。変数の数が30桁を越そうかというとき。鬼屋敷はついに答えを見つけた。
「やべえ、一年で世界滅亡すんじゃん!」
 彼の計算結果によると、彼の死後に世界は五回ほど滅亡するのだが、それは彼が寿命を迎えた時の話だ。予定にはない鬼屋敷の死が、世界の公理を大きく歪めている。
 鬼屋敷はこの世界を愛していた。自分に数学を与えてくれた世界を。数学も大好きだが、数学を与えてくれたこの世界も大好きなのだ。だから、大好きな世界に滅びてほしくない。
「俺の目が虚数のうちは、世界を滅亡なんかさせねえ」
 鬼屋敷は生き返る方法を考え始めた。現世からここに来れたのだから、ここから現世に行く方法があるはずだ。それが、どんな形であれ。
 だから、鬼屋敷はひたすらに計算を続けた。生き返るために。

キャラクター設定

自他共に認めるキチガイマッド数学者。25歳。独身。
小学五年生時に数学の素晴らしさに目覚めて以来、ずっと数学の勉強ばかりしてきた。
数学に関して、天才というレベルを遥かに超越している。
赤い長髪はボサボサで、後ろで一つに結ばれている。
かなりの自信家で「俺が数学だ」という名言を残している。
……なのだが、時折「こいつほんとに数学者か?」と首を傾げたくなるような言動をする。そのため、エセ数学者なのでは、という噂があるがこれでも本物の数学者である。
魔人であることは知られているが、その能力は「超高速演算能力」だとされているが、
それはもともと鬼屋敷がもっている力であり、彼の魔人能力とは一切関係がない。
また、人付き合いをしないため、彼のプライベートを知る者もいない。

鬼屋敷の身体能力は一般の魔人と同レベルだが、クラブ・マガをマスターしているため戦闘能力は高い。
鬼屋敷レベルの数学者になると、その頭脳を利用しようと様々な方面から目をつけられている。実力行使で拉致されかけたこともあり、自分の身を自分で守る、という意識が彼の中にある。そのため、彼は護身術としてクラブマガをマスターした。腕力こそ強くはないが、身を守るには充分だった。
また、前述したとおり様々な人間が彼を狙っているため、大抵は逃亡生活を送っている。これが、鬼屋敷のプライベートを知る者がいない一因となっている。
ホームレス同然の生活を送っていた時期もあれば、豪邸に住んで贅の限りを尽くした生活を送っていたこともある。今は、正義機関「ユースティティア」に匿われ、戦闘員兼エージェントをやっている。ユースティティアは彼を利用しようとしているわけではなく、彼を保護する目的で匿っている。これが、現在の鬼屋敷のプライベートを知るものがいない一因である。
ただ、戦闘員として"自主的に"前線に出ることが多く、身を隠す気があるかどうかは不明である。

「この世のすべての事象は数学で説明できる」が彼のモットー。
言葉通り、「あの世」の存在も神も魔人能力も、すべて彼は数学的に理解しており、その証明まで済ませている。
しかし、その証明内容があまりに高度すぎて誰もついていけず、彼は未だに賞を授かったことがない。
ただし、鬼屋敷の才能はこの世すべての数学者が認めるところではある。
著書に「クラブ・マガと数学」「魔人能力と数学」(民明書房より好評発売中)などがある。

一番好きな数字はネイピア数。
座右の銘は「人生は無理数」
決め台詞は「テメーの脳みそ、テイラー展開してやるぜ」

特殊能力『ナンバーズ・オブ・デス』

無理数を暗唱することで敵にダメージを与える能力。
ダメージを与えたい箇所を殴ったり蹴ったりながら「ルート2」などと叫び、叫んだ数を暗唱することで能力の開始となる。
効果範囲・対象は殴った場所及び蹴った場所を底とした一辺10センチの架空の立方体内に存在したもの全て。
(殴ったのが動くものの場合、殴った場所にその立方体がまとわりつくようなイメージ)

暗唱する桁が大きくなればなるほど威力が大きくなる。
暗唱しているのが
小数点以下1~9桁の場合 そよ風があたるレベル

小数点以下10~99桁の場合 普通に殴るのと変わらない(99桁でプロボクサーが放つ全力のパンチと同じ)
小数点以下100~999桁の場合 立方体の形でえぐれる(500桁で半分えぐれ、999桁で立方体内の全てが粉微塵になる)
小数点以下1000~9999桁の場合 立方体が爆発する(1000桁だと爆竹くらい、5000桁でTNT100キログラム、9999桁でTNT1トンと同じエネルギーで爆発する。爆発後、立方体内のものは跡形もなく消える)
小数点以下10000桁~の場合 一桁の暗唱につき立方体の一辺が1ミリずつ長くなる。(発揮する時の効果は9999桁と同じ)


また、円周率(π)とネイピア数(e)は、共に自己強化系能力。この2つは、「π」もしくは「e」と叫んだ後、該当する数を暗唱することで能力の発動開始である。効果時間は最大2時間。
小数点以下
小数点以下1~9桁の場合 (π)ほんのちょっと体が軽くなる(ラジオ体操をした後と同じくらい) (e)ちょっとだけ体が頑丈になる(誤差の範囲)

小数点以下10~99桁の場合 (π)動きのキレがよくなる(99桁でアップを終わらせたスポーツマンレベル) (e)かなり体が頑丈になる(99桁で2トントラックにハネられても打撲で済むくらい頑丈になる)
小数点以下100~999桁の場合 (π)動きがかなり早くなる(999桁で音速に達することができる) (e)体が非常に頑丈になる(999で東京タワーのてっぺんから頭を下にして落下しても生きていられるくらい頑丈になる)
小数点以下1000~9999桁の場合 (π)動きが尋常じゃなく早くなる(9999桁で光速の半分の速さで移動できるほど身体能力が向上する) (e)とにかくよくわからんがヤバイ(9999桁で転校生レベル。音速で何かにぶつかっても平然としていられるくらいには頑丈になる)
小数点以下10000~99999桁の場合  (π)気が狂いそうなほど早くなる(99999桁で光速に達することができるほど身体能力が向上する) (e)想像を絶するほどヤバイ(99999桁で、光速で何かにぶつかってもかすり傷ひとつ負わないほど頑丈になる)
小数点以下100000桁~の場合 (π)物理法則を凌駕できる(光速を超えて過去にタイムスリップできるほど身体能力が向上する) (e)宇宙的恐怖(何人たりとも彼に傷をつけることが出来ない)

なお、この効果が発揮するのは、暗唱が10秒中断された時、または途中で数を間違えた時のどちらかである。(つまり、意図的に間違えることで効果を発揮できる)
ちなみに、凉は一秒当たりに3桁は暗唱できる。

プロローグSS

正義機関"ユースティティア"の存在は、公ではNPO法人"ユースティティア"として通っている。表向きにはボランティア団体となっているが、実際はいわゆる裏社会に蔓延る悪を成敗するための組織だ。
 法律では裁けない悪を裁く―――それが、正義機関"ユースティティア"の目的だ。巨大企業の悪事を暴こうとした者が謎の自殺を遂げたり、某宗教団体の影を追っていた記者が突如行方不明になったりすることがある。「正しくあろうとするものが報われないのは間違っている」その信念のもと、設立された。
 ただ、やはりというか当然の結果なのだが、世の中に都合よく裏社会の巨悪が存在するわけがないので、現在は自警団()と大して変わらないことをしている。

 複雑に入り組んだ建物の裏路地を、ある男が逃げ回っている。黒尽くめの服に、薄汚れた顔をしている。その脇には、不釣り合いな高級バッグ。
 そう、この男はひったくりなのだ。この時点で被害者女性は警察に連絡したが、捕まえられないだろう。この男はひったくりの常習犯で、「ひったくりを成功させる能力」の魔人能力者だからだ。
「けっ、ここまでくりゃあ捕まんねーだろ」
 そう吐き捨てて、男が腰をつこうとした瞬間。男は頭上からの声に反応した。
「サイン、コサイン、タァァァァァァァンジェェェント!!!」
 気づいた時には遅かった。男は落下してきた人物に踏み潰された。魔人の肉体がなければ、ミンチになっていただろう。だが、それでも肋骨は半分近く折れている。立ち上がることも出来ないだろう。
「ふぅ、綺麗な二次曲線だったぜ……っと、残念だったな。てめーはここで終わりだ」
 だが、その声は男には反応しない。失神しているようだ。
「おいおい、しょっぺえな……ま、これでひったくり犯あえなく御用ってか」
 後ろ手で縛り、人通りの多い路地に放り投げる。背中には「ひったくりしました ごめんなさい」と書かれた紙が貼られている。
「さーて、鬼屋敷凉はクールに去るぜ」
「その前に、今日の反省会をしようか。主催者はそこのお前だ、数学バカ」
 反対側の路地に抜けようとした鬼屋敷の肩を掴んだのは、セーラー服姿の中学二年生程度の少女。しかし、鬼屋敷を睨みつけているその形相は鬼のごとく厳つい。
「待てよ、俺はきっちり終わらせたぞ。みろ、ひったくり犯はちゃんと連行されている」
「問題はそこじゃない。命令無視して1人で突っ走ったのを反省しろといっているんだ」
「命令を聞いた上で無視したぶん、前よりはましになっただろ」
「余計にたちが悪い。つべこべ言わずについてこい、この数学バカ」
 鬼屋敷の髪を引っ張ると、体を引きずりながら歩き始める。
「いでで、離せこのヘクタール」
「聞こえなかったな、もう一回言ってみろ」
 悪罵をついたらしい鬼屋敷に、少女は脅しをかける。
「いい歳こいてセーラー服なんか着てんじゃねえよって言ってんだ。年取りすぎて140デシベル以上の音しか聞こえなくなっちまったか?」
「なるほど、地獄より酷い環境に出張したいと宣うか。いいぞ、今すぐにでも異動届を作ってやる。心の底から感謝しろ」
「その異動届とやらにはお前の名前が刻まれることになるぜ」
 鬼屋敷と少女の間に険悪な空気が流れるが、しばらくして少女の携帯が鳴り響いた。
「はい、こちらカユメ……」「こちらマット」
 カユメというのはこの少女のユースティティアにおけるコードネームで、マットは鬼屋敷のコードネームだ。本人たちは安直すぎると嫌っている。
「はい……わかりました」「おう……おう……了解」
 二人は訝しげに携帯を切る。
「さっさと戻るぞ、そこの数学バカ」
「わかったからこの邪魔な手をどけろ。消し飛ばすぞテメー」
 二人は罵倒合戦を続けながら、人ごみの中へ消えていった。

MPおよびGKスタンス

キャラ 能力 SS ボーナス 増減 仕様
2 1 2 5 ドM


最終更新:2012年05月29日 21:24