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――いつもは生命に溢れ、鳥の囀りや虫の声が絶えなかったであろう自然豊かな道のりも、仮想世界の幻想郷では墓場のように静まり返っている。 河城にとりは、そんな幻想郷の様子に不気味さを覚えながら、緊張した面持ちで川沿いの陸地をひたすら北上していた。 その手に握られているのは支給品のH&K Mark23と呼ばれる拳銃で、銃口下部にレーザー・エイミング・モジュールが取り付けられていた。 「……よし、大丈夫」 開けた平原地帯を乗り越え、川沿いの道を歩き出して、はや数十分。 幸いにも他の参加者に見つかる事なく、第一目標の川を発見したにとりは、それを辿って大きな水場を探し求めた。 そして普段から見慣れた感のある坂道を上り詰めていくと、ようやく目的のものを発見した。 「ここは……大蝦蟇の池だね」 草を掻き分けた先に、蓮の葉と花が浮かぶ池の姿を遠景に捉え、半ば確信を持ってにとりが呟く。 地図によれば、大きな水場は全部で三つしか存在ない。 紅魔館近隣にある霧の湖、C-1からD-1に跨って存在する無名の池、そしてこの大蝦蟇の池である。 「やっぱり間違いない。……そして、考えていた通り今ここに大ガマはいないようだね」 本来幻想郷の大蝦蟇の池には、人間の子供を一飲みするくらい巨大な蛙が生息しており、それが名前の由来になっている。 しかし、池の畔まで近づいて様子を伺っても、巨大な主の影は見当たらない。 それどころか、透明な水を湛えた眼前の池を何度観察しても、川魚の一匹も見つからない。 道中でもずっと気がかりだったが、仮想空間に参加者以外の生き物は存在しないか、あるいはごく少数と考えるべきだろう。 「せめて川魚でもいれば警報機代わりになると思ったんだけど……しょうがない」 にとりが開始早々から川を目指し、水場を求めたのは、このバトルロワイヤルごっこで生き残る為であった。 最初のオープニングセレモニーで錚々たるメンバーを目の当たりにしたにとりは、正面から戦って勝利する事は無謀と考えた。 特に、鬼は怖い。能力制限があっても歴然とした力量の差は覆らないだろう。 誰かと共闘する手もあったが、ゲーム開始直後の今は無差別に攻撃してくる者も多いはずだし、不用意な行動は危険である。 そこで、にとりは地勢を利用して戦う事を思いついた。 ある程度の広さと深さを持った池や湖があれば、水中を自在に動ける河童にとって、守るに易く攻めるに難い天然の瑕疵なき要塞となる。 まずはそこに陣取り、隠れてゲームの趨勢をゆっくりと見守りながら鬼の脱落を待つのだ。 ネックとなるのは一定時間ごとに必要なオーブチェックだが、鬼は勝負好きなので脱落するなら早いだろうという打算もあった。 「それにしても、早々に池が見つかって良かったよー。これで優勝の確率はぐっと高くなった。  主催の神様や妖怪は外の世界にも精通してるし、優勝すればきっと外界の最新機械の数々が……」 にとりはうっとりとした表情を浮かべ、脳中に外界の最新精密機械の数々を想像する。 無縁塚などに流れ着く機械も魅力的だが、心情としてはやはり最新の機械が欲しいものだ。 その為にも、狙うは優勝のみ。計画通りに鬼が脱落したその後は、にとりは優勝に向けて自由にやっていくつもりだ。 誰かとチームを組んで戦うも良し、単独で遊撃するも良し。 あるいは一定数のオーブを集めたら、池に篭城する戦法も良いかもしれない。 特にスタンスは拘らない。原作のような殺し合いではなく、あくまでゲームなのだから、その都度優勝に有利な道を模索すればいい。 「問題は、支給品にレーダーのような物があるかだけど……悩んでいても仕方ないね。  水中に陣取ってしまえば、戦いになってもこっちが有利だし」 にとりも気づいていたが、この戦術には不安要素がある。 水中に陣取れば、余程の物好きでもない限り捜索はしてこないだろうし、万が一戦闘になっても有利である。 しかし、原作に首輪の反応を探知するレーダーがあったように、このバトルロワイヤルごっこにも同種の探知機が支給されてるかもしれない。 もしもあるとしたら、何に反応を示すのか。 アバターに反応するのか、それともオーブに反応するのか……可能性は尽きない。 だが、考えても仕方ない。にとりはそう思って、ひとまず水中にゆっくりと身を沈めた。 その様子を遠くから伺う、小さな影の存在にも気づかずに――。 ◇ にとりは、神事にも用いられるという霊験あらたかな清水の中に身をたゆたわせて、寛いでいた。 小さな川魚の影すら見えない池の中は、ただただ不気味で不安に駆られるが、優勝の為とぐっと気持ちを堪えていた。 そんな時である。体験した事のない、妙な息苦しさを感じたのは――。 「…………!?」 水を飲めば飲むほど、虚脱し体力が奪われていく。喉の奥に、ひりひりとした痛みを感じる。 何かがおかしい――そう感じたにとりは、水面を見上げる。 特に異常は見つけられなかったが、このまま水中にいても体が持たない。浮上する事にした。 水を掻き、ゆっくりと水面に頭を出す。すると、池の畔に屈む人の姿を見つけた。 金髪のショートボブカットで、大きな赤いリボンをヘアバンドのように結んでおり、外見はまだ幼い年齢の少女に見える。 「うふふ、やっと出てきたわね。これで土左衛門の一丁上がりっと」 「ひゅいっ!?」 にとりの浮上を確認した金髪の少女は立ち上がって、体格に比して大きな黒い銃を構え、その銃口をにとりに向けた。 その直後、間断なく銃声が轟き、水面が弾けて幾つもの水柱を作った。 幸いにも発砲途中で射手がバランスを崩し、一発も命中しなかったが、にとりは手元のMark23よりも遥かに強力な武器だと直感的に思った。 「いたた……反動が強いなぁ、これ」 銃を連射し、姿勢を崩して尻餅を突いた少女――メディスン・メランコリーが不満げに言った。 彼女の持つ武器はMP5K。傑作短機関銃MP5のコンパクトモデルである。銃身部分を短縮化してストックを装着せず、銃口下部にフォアグリップを装備する。 バトルロワイヤルごっこの初期支給品の中でも、非常に強力な当たりアイテムと言えるだろう。 ただし、腹話術師が使う大き目の人形程度の体格しかないメディスンにとって、フルオート時の反動は御しがたいものであったが。 「あら、水の中に隠れたようね。それならじわじわと苦しませて、また出てきたところを狙えばいいだけよ」 片手で体を支えながら立ち上がった時、メディスンはにとりを見失っていた。 霧の湖などと比べると大蝦蟇の池は小さいが、その中心部にいたにとりが少し目を離していた隙に上陸して隠れたとは考えにくい。 恐らく、また池に潜ったと考えるのが自然だ。 そう結論付けたメディスンは膝を折って屈み、池の中に片手を入れた。すると、手のひらから薄紫の色が徐々に広がり、池を汚染していく。 「コンパロ、コンパロ、毒よ染み渡れ~」 彼女の毒を操る程度の能力によって生み出された水溶性の毒素が、池全体に広がっているのだ。 水中にいる限り、メディスンの毒から逃げる事はできない。にとりは、絶体絶命の窮地に立たされていた。 ◇ 息苦しい。目を開けていられない。粘膜が荒れ、痛みを訴えている。 にとりは本来快適なはずの水中で苦しみもがいていた。 このまま座視していれば、やがて死に至る。しかし陸地に逃れようにも、上には高性能な武器を持った敵が待ち構えている。 にとりは敵の少女を知らなかったが、恐らくは毒素を操る能力か、毒性のある薬品を所持していると推測した。 例え仮想空間でも、土蜘蛛のように河や池を汚染する不届き者を許す訳にはいかない。にとりは打倒を胸に誓った。 「……はてさて、体勢を立て直す為に一旦逃げるか。それとも博打で打って出るか」 大蝦蟇の池は、それ程広くない。池を出て逃走すれば敵に見つかり、確実に追撃を受けるだろう。 体力を消耗し、肉体的にも辛い立場に追い込まれているというのに、そんな状況で追撃を受ければ敗色は濃厚である。 もちろん、打って出るのもリスクは大きい。 射程はメディスンの方が長いし、余程近づかなければMark23の弾丸は命中しない。 しかし、地の利はこちらにある。悩んだ末に、にとりは決断した。 「打って出よう。活路はあるはず」 にとりは半眼で水面を見上げた。既に水の色は、表層近くが毒々しい薄紫に染まっている。 少しでも肉体への影響を抑える為に水中深く潜行していたが、何れは毒素もにとりのいる場所まで沈んでくる事だろう。 池の底を蹴って、にとりは水を掻き、わざとらしく音を立てながら素早く浮上した。 「み~つけた!」 案の定、池の畔にはメディスンがいた。嬉しそうに声をあげ、MP5Kの銃口をにとりに向ける。 メディスンは前回の反省を生かし、膝を立てた姿勢で狙いを付けていた。反動を御しやすい撃ち方である。 狙われたにとりが再び飛び込むのと、メディスンが引き金を引いて銃を連射したのは、ほぼ同時だった。 数発の9mmパラベラム弾が水中に飛び込み、にとりの体を擦過して傷つける。 にとりは銃創で傷つき、怪我に毒素が染み込む痛みを堪えながら、一直線にメディスンを目指し泳ぐ。 「自暴自棄になったようね。いい的だわ」 毒素で薄紫色に染まりつつあるとはいえ、大蝦蟇の池の水はまだ透明度を保っている。 まるで特攻するように、一直線に泳いでくるにとりの影を補足するのは容易だった。メディスンは銃弾を確実に当てる為に、照準をつけながらにとりを引き付ける。 水中のにとりの影が近づく。標的が十分に大きくなると、メディスンは引き金を引いた。MP5Kが火を噴き、9mmパラベラム弾が放たれる。 メディスンは、勝利を確信し――そして、愕然とした。 「な、なんで当たらないの!?」 照準は完璧なはずだった。放たれた銃弾は確かににとりに向かって殺到し、仮初の命を奪うはずだった。 しかし、にとりは尚も泳いでくる。理解できない。メディスンは、引き金を強く押し込んで銃を狂ったように連射した。弾は、当たらない。 ……メディスンは、生まれて数年の新米妖怪である。鈴蘭畑に捨てられた人形が、毒を得て付喪神と化した。 経験の浅い彼女には、わからなかった。水は光を屈折し、さらに防弾効果も備えている事を。 だから水中にいる敵を狙っても銃弾は命中せず、また超音速で放たれた9mmパラベラム弾は水の抵抗で大きく減速し、威力を削がれていた。 「しまった! 弾が切れ――」 短縮化マガジンに収納された十五発の弾薬を撃ち尽くし、交換を余儀なくされたその時。 水面が、小さく真っ二つに裂けた。にとりの水を操る程度の能力が水を動かし、メディスンまでの空間を開いた。 すかさず、にとりがMark23を構える。レーザ・エイミング・モジュールの赤い可視レーザーがメディスンの胸元に赤い点を映した。 その直後――突然の事態に狼狽し硬直するメディスンの体を、Mark23から放たれた二発の銃弾が穿った。 ◇ にとりは油断なくMark23を構えながら、霞む目で動かなくなったメディスンの肢体を見下ろした。 その綺麗な青い瞳は驚愕に見開かれている。池を汚した張本人とはいえ、その無残な姿に、にとりは良心が痛む気がした。 そっと、その瞼を下ろす。 ゲーム上の表現規制なのか、血こそ流れていなかったが、見ていて心地よいものではなかった。 「……死後硬直、かな。銃も貰っていこうと思ったけど、無理みたいだね」 倒れたメディスンの手に固く握られたMP5Kは、にとりがいくら力を込めても引き剥がせなかった。 あるいは、銃を握るメディスンの手をどうにかすればいいかもしれないが――そんな恐ろしい事は、仮想空間だとしてもにとりに出来なかった。 しかし、放置しておけば、にとりの想像する恐ろしい方法でMP5Kを手にする者もいるかもしれない。 にとりは迷った挙句、メディスンの肢体を池の近くにある草むらの中に隠す事にした。 「ふう、これでよしっと……あとは、オーブか」 目や喉を飲料水で洗い流した後、メディスンのディパックを漁り、奥にあった赤い二つのオーブをにとりは自分のディパックに移し変えた。 湾曲した箱状の物体も見つけた。それは、MP5Kの予備マガジンだった。 説明書によるとMark23とMP5Kの弾薬に互換性はないが、誰かに使われる可能性もあるし、何れMP5Kの弾薬が使える銃を入手できるかもしれない。 持って行って損はないはずだ。にとりはそう思って、MP5Kの予備マガジンも自分のディパックに移した。 「……それにしても、これからどう戦っていけばいいのかねぇ。他の池や湖を目指すか、それとも……」 地図を広げ、にとりは頭を悩ませる。ため息交じりで大蝦蟇の池を見やれば、相変わらず毒々しい薄紫の色に染まっている。 大蝦蟇の池はオーブ交換用のガチャガチャもあり、確保できれば重要拠点になる場所だったが、こうなってはもはや使用不能だろう。 他にこの仮想空間に存在する大きな水場は、霧の湖とC-1からD-1に跨って存在する無名の池だけ。 霧の湖は主催者のいる紅魔館の近くで、どんな危険があるかわからないし、無名の池は主要施設から遠く離れた辺境に位置している。 「やれやれ……せっかく良い場所を確保できたと思ったのに、こんな事になるなんて」 再びため息をつくと、にとりは重い足取りで、大蝦蟇の池の近くにある名居守の祠に向かった。 大蝦蟇の池から移動する前に、持て余しているオーブをアイテムと交換して戦力の増強を図ろうと考えたのだ。 古めかしい小さな木の祠の中には、御神体の代わりにアイテム交換用のガチャガチャが鎮座していた。いささかシュールな光景である。 入手した二つのオーブを投入口に入れ、レバーを回す。 程なくして、カプセルに入ったアイテムが転がり落ちた。にとりはそれを拾い、一つ目を開封する。 「こっちは巫女さんの使う御幣だね……でも、銃もあるし、役立ちそうにないなぁ」 アイテムの一つは、二枚の紙垂がついた木の棒――いわゆる、御幣と呼ばれる物だった。 しかも、説明書によると博麗の巫女が所持しているお払い棒の劣化品らしい。 妖怪は謂れのある武器に弱いので、全くの役立たずでもなさそうだが……銃もあるのに、わざわざ接近戦を仕掛ける必要はない。 にとりは落胆したが、気を取り直して次のアイテムを開封する事にした。 「そしてこれは……。縁ってあるもんだね」 もう一つのアイテムには見覚えがあった。 わざわざ説明書を読むまでもないが……念の為に目を通したにとりは、思わずやっぱりね、と呟いた。 ステルス迷彩。にとりが開発した事のある、光学迷彩スーツの劣化品らしい。 光学迷彩スーツがそうであったように、ステルス迷彩は衝撃に弱い上に、欺瞞効果も本家より劣っていると説明にある。 おまけに時間制限もあるようだ。しかし、この状況で心強い装備なのは間違いない。 「これで装備は整った。さあ、どうしようか……」 荷物整理を終えたにとりが呟く。 未だににとりは吐き気や粘膜の痛みを感じていたが、悠長に休息を取っている暇はないと判断し、この場を離れる事にした。 巫女の御幣はディパックに仕舞った。そして片手にMark23を握り締め、何時でも押せるようにステルス迷彩のスイッチも手に持った。 「とりあえず、川沿いに西へ向かおうかな」 いざとなれば川に潜ってやり過ごす事もできるし、やはり自分は水の流れに沿って行動するべきだとにとりは思った。 そして最初の想定通り、湖や池に陣取って鬼の脱落を待ちたい所だが、状況は刻一刻と変わる。 ステルス迷彩があっても、油断はできない。事と次第によっては、臨機応変な対応が迫られる場合もあるだろう。 その都度、自分にとって有利な道を模索し、何としても生き残る。 念願だった外界の最新機械の数々を手にする為にも――にとりは意気込みも新たに、大蝦蟇の池を後にした。 【D-3 大蝦蟇の池の西、川沿いの陸地 朝】 【河城にとり】 [状態]:毒による体力消耗と健康被害、疲労(中)、銃弾による擦過傷 残り体力( 70/100) [装備]:Mark23(10/12) 巫女の御幣 ステルス迷彩 [道具]:オーブ×2 Mark23の予備マガジン(12/12)×2 MP5の予備マガジン(15/15)×1 支給品一式(飲料水半日分消費) [思考・状況] 基本方針:優勝して、望みを叶える 1:川沿いに西へ向かう 2:鬼が怖い、出会いたくない 3:ある程度広さと深さを持った池や湖に陣取る 【武器・道具解説】 「H&K Mark23」 全長245mm、重量1210g。45口径の大型ダブルアクション自動拳銃。 特殊部隊向けに開発され、地球上のあらゆる局地で作動し、数時間海水に浸しても発砲可能な耐久性を持つ。 命中精度も高く、無加工で各種アクセサリを取り付けられる高性能拳銃……なのだが、でかい、重い、使いづらい。 ちなみに、銃口下部にレーザー・エイミング・モジュールを装備し、照準用の赤い可視レーザーを照射する事ができる。 「巫女の御幣」 お払い棒の劣化品。謂れある品なのでこれで殴れば多少は妖怪に効くかもしれない。 「ステルス迷彩」 光学迷彩スーツの劣化品。スイッチ一つで、装備者の姿を光学的に消し去る。 欺瞞効果は光学迷彩スーツより劣り、五メートルも接近すれば肉眼ではっきりと装備者の透明な輪郭が見える。 また、衝撃に弱く、光に照らされると影を作る。一時間もスイッチを入れてるとエネルギー切れで使用不能。 ◇ にとりが出立した後の大蝦蟇の池。 池の畔にある草むらが音を立て、そこから小柄な影がゆっくりと起き上がる。 金色のショートボブに、ヘアバンドのように結ばれた赤い大きなリボン。紛れも無く、メディスン・メランコリーだった。 にとりは誤解していた。そして、知らなかった。 銃創から血が流れなかったのは、ゲーム上の規制などではない事を。 メディスンは普通の妖怪ではなく、人形が変化した付喪神であり、生物とは程遠い存在である事を。 「…………もう、いない、か」 メディスンは胴体と左腕に45ACP弾を受けながらも生きていた。 胴体に命中した弾丸は、人間であれば細胞と主要臓器を破壊して死に至らしめるはずだったが、生物でない彼女には致命傷にならなかった。 それでも大きなダメージには違いなく、怪我が自然に癒えて体が動かせるようになるまで時間がかかったが……。 「……あいつは、あいつだけは、絶対に許さない。絶対に……」 懐からMP5Kの短縮化マガジンを取り出し、空になったMP5Kのマガジンと入れ替え、叩き込むように装着する。 人形のように綺麗な青い瞳には、今は憎悪の炎が灯る。映し出すのは、河城にとりの姿。 メディスンは、どうしても仕返ししなければ気がすまなかった。 優勝し、人形解放という大願を成就する前に、あいつだけは倒さなくてはいけない――メディスンは、にとりを求めて歩き出した。 例え行方知れずでも、必ず探し出す。満身創痍の体を、復讐と毒が突き動かしていた。 【E-3 大蝦蟇の池の畔 朝】 【メディスン・メランコリー】 [状態]:胴体と左腕に銃創、ダメージ大、疲労(大) 残り体力( 20/100) [装備]:MP5K(15/15) [道具]:オーブ×0 支給品一式 [思考・状況] 基本方針:優勝して、人形解放を目指す 1:にとりを追う 2:優勝の前ににとりだけは倒す 3:人間は基本的に敵として見る 【武器・道具解説】 「H&K MP5K」 全長325mm、重量2000g。9mm口径の短機関銃。 高性能短機関銃MP5の小型モデルで、銃身を短縮化しストックを装着せず、銃口下部にフォアグリップを装備。 命中精度はMP5譲りで高く、小型化により発射速度はそれ以上。 ※メディスンが起き上がったのは、にとりが大蝦蟇の池を出立して数十分後です。 ※大蝦蟇の池の畔にある草むらに、MP5Kの短縮化マガジン(0/15)が落ちています。 ※大蝦蟇の池は、表層の水が毒々しい薄紫に染まっています。水中に潜ると、メディスンの毒による健康被害が生じる模様。 **ページをめくる(時系列順) Back:[[もうひと組の霊夢と魔理沙]] Next:[[]]
――いつもは生命に溢れ、鳥の囀りや虫の声が絶えなかったであろう自然豊かな道のりも、仮想世界の幻想郷では墓場のように静まり返っている。 河城にとりは、そんな幻想郷の様子に不気味さを覚えながら、緊張した面持ちで川沿いの陸地をひたすら北上していた。 その手に握られているのは支給品のH&K Mark23と呼ばれる拳銃で、銃口下部にレーザー・エイミング・モジュールが取り付けられていた。 「……よし、大丈夫」 開けた平原地帯を乗り越え、川沿いの道を歩き出して、はや数十分。 幸いにも他の参加者に見つかる事なく、第一目標の川を発見したにとりは、それを辿って大きな水場を探し求めた。 そして普段から見慣れた感のある坂道を上り詰めていくと、ようやく目的のものを発見した。 「ここは……大蝦蟇の池だね」 草を掻き分けた先に、蓮の葉と花が浮かぶ池の姿を遠景に捉え、半ば確信を持ってにとりが呟く。 地図によれば、大きな水場は全部で三つしか存在ない。 紅魔館近隣にある霧の湖、C-1からD-1に跨って存在する無名の池、そしてこの大蝦蟇の池である。 「やっぱり間違いない。……そして、考えていた通り今ここに大ガマはいないようだね」 本来幻想郷の大蝦蟇の池には、人間の子供を一飲みするくらい巨大な蛙が生息しており、それが名前の由来になっている。 しかし、池の畔まで近づいて様子を伺っても、巨大な主の影は見当たらない。 それどころか、透明な水を湛えた眼前の池を何度観察しても、川魚の一匹も見つからない。 道中でもずっと気がかりだったが、仮想空間に参加者以外の生き物は存在しないか、あるいはごく少数と考えるべきだろう。 「せめて川魚でもいれば警報機代わりになると思ったんだけど……しょうがない」 にとりが開始早々から川を目指し、水場を求めたのは、このバトルロワイヤルごっこで生き残る為であった。 最初のオープニングセレモニーで錚々たるメンバーを目の当たりにしたにとりは、正面から戦って勝利する事は無謀と考えた。 特に、鬼は怖い。能力制限があっても歴然とした力量の差は覆らないだろう。 誰かと共闘する手もあったが、ゲーム開始直後の今は無差別に攻撃してくる者も多いはずだし、不用意な行動は危険である。 そこで、にとりは地勢を利用して戦う事を思いついた。 ある程度の広さと深さを持った池や湖があれば、水中を自在に動ける河童にとって、守るに易く攻めるに難い天然の瑕疵なき要塞となる。 まずはそこに陣取り、隠れてゲームの趨勢をゆっくりと見守りながら鬼の脱落を待つのだ。 ネックとなるのは一定時間ごとに必要なオーブチェックだが、鬼は勝負好きなので脱落するなら早いだろうという打算もあった。 「それにしても、早々に池が見つかって良かったよー。これで優勝の確率はぐっと高くなった。  主催の神様や妖怪は外の世界にも精通してるし、優勝すればきっと外界の最新機械の数々が……」 にとりはうっとりとした表情を浮かべ、脳中に外界の最新精密機械の数々を想像する。 無縁塚などに流れ着く機械も魅力的だが、心情としてはやはり最新の機械が欲しいものだ。 その為にも、狙うは優勝のみ。計画通りに鬼が脱落したその後は、にとりは優勝に向けて自由にやっていくつもりだ。 誰かとチームを組んで戦うも良し、単独で遊撃するも良し。 あるいは一定数のオーブを集めたら、池に篭城する戦法も良いかもしれない。 特にスタンスは拘らない。原作のような殺し合いではなく、あくまでゲームなのだから、その都度優勝に有利な道を模索すればいい。 「問題は、支給品にレーダーのような物があるかだけど……悩んでいても仕方ないね。  水中に陣取ってしまえば、戦いになってもこっちが有利だし」 にとりも気づいていたが、この戦術には不安要素がある。 水中に陣取れば、余程の物好きでもない限り捜索はしてこないだろうし、万が一戦闘になっても有利である。 しかし、原作に首輪の反応を探知するレーダーがあったように、このバトルロワイヤルごっこにも同種の探知機が支給されてるかもしれない。 もしもあるとしたら、何に反応を示すのか。 アバターに反応するのか、それともオーブに反応するのか……可能性は尽きない。 だが、考えても仕方ない。にとりはそう思って、ひとまず水中にゆっくりと身を沈めた。 その様子を遠くから伺う、小さな影の存在にも気づかずに――。 ◇ にとりは、神事にも用いられるという霊験あらたかな清水の中に身をたゆたわせて、寛いでいた。 小さな川魚の影すら見えない池の中は、ただただ不気味で不安に駆られるが、優勝の為とぐっと気持ちを堪えていた。 そんな時である。体験した事のない、妙な息苦しさを感じたのは――。 「…………!?」 水を飲めば飲むほど、虚脱し体力が奪われていく。喉の奥に、ひりひりとした痛みを感じる。 何かがおかしい――そう感じたにとりは、水面を見上げる。 特に異常は見つけられなかったが、このまま水中にいても体が持たない。浮上する事にした。 水を掻き、ゆっくりと水面に頭を出す。すると、池の畔に屈む人の姿を見つけた。 金髪のショートボブカットで、大きな赤いリボンをヘアバンドのように結んでおり、外見はまだ幼い年齢の少女に見える。 「うふふ、やっと出てきたわね。これで土左衛門の一丁上がりっと」 「ひゅいっ!?」 にとりの浮上を確認した金髪の少女は立ち上がって、体格に比して大きな黒い銃を構え、その銃口をにとりに向けた。 その直後、間断なく銃声が轟き、水面が弾けて幾つもの水柱を作った。 幸いにも発砲途中で射手がバランスを崩し、一発も命中しなかったが、にとりは手元のMark23よりも遥かに強力な武器だと直感的に思った。 「いたた……反動が強いなぁ、これ」 銃を連射し、姿勢を崩して尻餅を突いた少女――メディスン・メランコリーが不満げに言った。 彼女の持つ武器はMP5K。傑作短機関銃MP5のコンパクトモデルである。銃身部分を短縮化してストックを装着せず、銃口下部にフォアグリップを装備する。 バトルロワイヤルごっこの初期支給品の中でも、非常に強力な当たりアイテムと言えるだろう。 ただし、腹話術師が使う大き目の人形程度の体格しかないメディスンにとって、フルオート時の反動は御しがたいものであったが。 「あら、水の中に隠れたようね。それならじわじわと苦しませて、また出てきたところを狙えばいいだけよ」 片手で体を支えながら立ち上がった時、メディスンはにとりを見失っていた。 霧の湖などと比べると大蝦蟇の池は小さいが、その中心部にいたにとりが少し目を離していた隙に上陸して隠れたとは考えにくい。 恐らく、また池に潜ったと考えるのが自然だ。 そう結論付けたメディスンは膝を折って屈み、池の中に片手を入れた。すると、手のひらから薄紫の色が徐々に広がり、池を汚染していく。 「コンパロ、コンパロ、毒よ染み渡れ~」 彼女の毒を操る程度の能力によって生み出された水溶性の毒素が、池全体に広がっているのだ。 水中にいる限り、メディスンの毒から逃げる事はできない。にとりは、絶体絶命の窮地に立たされていた。 ◇ 息苦しい。目を開けていられない。粘膜が荒れ、痛みを訴えている。 にとりは本来快適なはずの水中で苦しみもがいていた。 このまま座視していれば、やがて死に至る。しかし陸地に逃れようにも、上には高性能な武器を持った敵が待ち構えている。 にとりは敵の少女を知らなかったが、恐らくは毒素を操る能力か、毒性のある薬品を所持していると推測した。 例え仮想空間でも、土蜘蛛のように河や池を汚染する不届き者を許す訳にはいかない。にとりは打倒を胸に誓った。 「……はてさて、体勢を立て直す為に一旦逃げるか。それとも博打で打って出るか」 大蝦蟇の池は、それ程広くない。池を出て逃走すれば敵に見つかり、確実に追撃を受けるだろう。 体力を消耗し、肉体的にも辛い立場に追い込まれているというのに、そんな状況で追撃を受ければ敗色は濃厚である。 もちろん、打って出るのもリスクは大きい。 射程はメディスンの方が長いし、余程近づかなければMark23の弾丸は命中しない。 しかし、地の利はこちらにある。悩んだ末に、にとりは決断した。 「打って出よう。活路はあるはず」 にとりは半眼で水面を見上げた。既に水の色は、表層近くが毒々しい薄紫に染まっている。 少しでも肉体への影響を抑える為に水中深く潜行していたが、何れは毒素もにとりのいる場所まで沈んでくる事だろう。 池の底を蹴って、にとりは水を掻き、わざとらしく音を立てながら素早く浮上した。 「み~つけた!」 案の定、池の畔にはメディスンがいた。嬉しそうに声をあげ、MP5Kの銃口をにとりに向ける。 メディスンは前回の反省を生かし、膝を立てた姿勢で狙いを付けていた。反動を御しやすい撃ち方である。 狙われたにとりが再び飛び込むのと、メディスンが引き金を引いて銃を連射したのは、ほぼ同時だった。 数発の9mmパラベラム弾が水中に飛び込み、にとりの体を擦過して傷つける。 にとりは銃創で傷つき、怪我に毒素が染み込む痛みを堪えながら、一直線にメディスンを目指し泳ぐ。 「自暴自棄になったようね。いい的だわ」 毒素で薄紫色に染まりつつあるとはいえ、大蝦蟇の池の水はまだ透明度を保っている。 まるで特攻するように、一直線に泳いでくるにとりの影を補足するのは容易だった。メディスンは銃弾を確実に当てる為に、照準をつけながらにとりを引き付ける。 水中のにとりの影が近づく。標的が十分に大きくなると、メディスンは引き金を引いた。MP5Kが火を噴き、9mmパラベラム弾が放たれる。 メディスンは、勝利を確信し――そして、愕然とした。 「な、なんで当たらないの!?」 照準は完璧なはずだった。放たれた銃弾は確かににとりに向かって殺到し、仮初の命を奪うはずだった。 しかし、にとりは尚も泳いでくる。理解できない。メディスンは、引き金を強く押し込んで銃を狂ったように連射した。弾は、当たらない。 ……メディスンは、生まれて数年の新米妖怪である。鈴蘭畑に捨てられた人形が、毒を得て付喪神と化した。 経験の浅い彼女には、わからなかった。水は光を屈折し、さらに防弾効果も備えている事を。 だから水中にいる敵を狙っても銃弾は命中せず、また超音速で放たれた9mmパラベラム弾は水の抵抗で大きく減速し、威力を削がれていた。 「しまった! 弾が切れ――」 短縮化マガジンに収納された十五発の弾薬を撃ち尽くし、交換を余儀なくされたその時。 水面が、小さく真っ二つに裂けた。にとりの水を操る程度の能力が水を動かし、メディスンまでの空間を開いた。 すかさず、にとりがMark23を構える。レーザ・エイミング・モジュールの赤い可視レーザーがメディスンの胸元に赤い点を映した。 その直後――突然の事態に狼狽し硬直するメディスンの体を、Mark23から放たれた二発の銃弾が穿った。 ◇ にとりは油断なくMark23を構えながら、霞む目で動かなくなったメディスンの肢体を見下ろした。 その綺麗な青い瞳は驚愕に見開かれている。池を汚した張本人とはいえ、その無残な姿に、にとりは良心が痛む気がした。 そっと、その瞼を下ろす。 ゲーム上の表現規制なのか、血こそ流れていなかったが、見ていて心地よいものではなかった。 「……死後硬直、かな。銃も貰っていこうと思ったけど、無理みたいだね」 倒れたメディスンの手に固く握られたMP5Kは、にとりがいくら力を込めても引き剥がせなかった。 あるいは、銃を握るメディスンの手をどうにかすればいいかもしれないが――そんな恐ろしい事は、仮想空間だとしてもにとりに出来なかった。 しかし、放置しておけば、にとりの想像する恐ろしい方法でMP5Kを手にする者もいるかもしれない。 にとりは迷った挙句、メディスンの肢体を池の近くにある草むらの中に隠す事にした。 「ふう、これでよしっと……あとは、オーブか」 目や喉を飲料水で洗い流した後、メディスンのディパックを漁り、奥にあった赤い二つのオーブをにとりは自分のディパックに移し変えた。 湾曲した箱状の物体も見つけた。それは、MP5Kの予備マガジンだった。 説明書によるとMark23とMP5Kの弾薬に互換性はないが、誰かに使われる可能性もあるし、何れMP5Kの弾薬が使える銃を入手できるかもしれない。 持って行って損はないはずだ。にとりはそう思って、MP5Kの予備マガジンも自分のディパックに移した。 「……それにしても、これからどう戦っていけばいいのかねぇ。他の池や湖を目指すか、それとも……」 地図を広げ、にとりは頭を悩ませる。ため息交じりで大蝦蟇の池を見やれば、相変わらず毒々しい薄紫の色に染まっている。 大蝦蟇の池はオーブ交換用のガチャガチャもあり、確保できれば重要拠点になる場所だったが、こうなってはもはや使用不能だろう。 他にこの仮想空間に存在する大きな水場は、霧の湖とC-1からD-1に跨って存在する無名の池だけ。 霧の湖は主催者のいる紅魔館の近くで、どんな危険があるかわからないし、無名の池は主要施設から遠く離れた辺境に位置している。 「やれやれ……せっかく良い場所を確保できたと思ったのに、こんな事になるなんて」 再びため息をつくと、にとりは重い足取りで、大蝦蟇の池の近くにある名居守の祠に向かった。 大蝦蟇の池から移動する前に、持て余しているオーブをアイテムと交換して戦力の増強を図ろうと考えたのだ。 古めかしい小さな木の祠の中には、御神体の代わりにアイテム交換用のガチャガチャが鎮座していた。いささかシュールな光景である。 入手した二つのオーブを投入口に入れ、レバーを回す。 程なくして、カプセルに入ったアイテムが転がり落ちた。にとりはそれを拾い、一つ目を開封する。 「こっちは巫女さんの使う御幣だね……でも、銃もあるし、役立ちそうにないなぁ」 アイテムの一つは、二枚の紙垂がついた木の棒――いわゆる、御幣と呼ばれる物だった。 しかも、説明書によると博麗の巫女が所持しているお払い棒の劣化品らしい。 妖怪は謂れのある武器に弱いので、全くの役立たずでもなさそうだが……銃もあるのに、わざわざ接近戦を仕掛ける必要はない。 にとりは落胆したが、気を取り直して次のアイテムを開封する事にした。 「そしてこれは……。縁ってあるもんだね」 もう一つのアイテムには見覚えがあった。 わざわざ説明書を読むまでもないが……念の為に目を通したにとりは、思わずやっぱりね、と呟いた。 ステルス迷彩。にとりが開発した事のある、光学迷彩スーツの劣化品らしい。 光学迷彩スーツがそうであったように、ステルス迷彩は衝撃に弱い上に、欺瞞効果も本家より劣っていると説明にある。 おまけに時間制限もあるようだ。しかし、この状況で心強い装備なのは間違いない。 「これで装備は整った。さあ、どうしようか……」 荷物整理を終えたにとりが呟く。 未だににとりは吐き気や粘膜の痛みを感じていたが、悠長に休息を取っている暇はないと判断し、この場を離れる事にした。 巫女の御幣はディパックに仕舞った。そして片手にMark23を握り締め、何時でも押せるようにステルス迷彩のスイッチも手に持った。 「とりあえず、川沿いに西へ向かおうかな」 いざとなれば川に潜ってやり過ごす事もできるし、やはり自分は水の流れに沿って行動するべきだとにとりは思った。 そして最初の想定通り、湖や池に陣取って鬼の脱落を待ちたい所だが、状況は刻一刻と変わる。 ステルス迷彩があっても、油断はできない。事と次第によっては、臨機応変な対応が迫られる場合もあるだろう。 その都度、自分にとって有利な道を模索し、何としても生き残る。 念願だった外界の最新機械の数々を手にする為にも――にとりは意気込みも新たに、大蝦蟇の池を後にした。 【D-3 大蝦蟇の池の西、川沿いの陸地 朝】 【河城にとり】 [状態]:毒による体力消耗と健康被害、疲労(中)、銃弾による擦過傷 残り体力( 70/100) [装備]:Mark23(10/12) 巫女の御幣 ステルス迷彩 [道具]:オーブ×2 Mark23の予備マガジン(12/12)×2 MP5の予備マガジン(15/15)×1 支給品一式(飲料水半日分消費) [思考・状況] 基本方針:優勝して、望みを叶える 1:川沿いに西へ向かう 2:鬼が怖い、出会いたくない 3:ある程度広さと深さを持った池や湖に陣取る 【武器・道具解説】 「H&K Mark23」 全長245mm、重量1210g。45口径の大型ダブルアクション自動拳銃。 特殊部隊向けに開発され、地球上のあらゆる局地で作動し、数時間海水に浸しても発砲可能な耐久性を持つ。 命中精度も高く、無加工で各種アクセサリを取り付けられる高性能拳銃……なのだが、でかい、重い、使いづらい。 ちなみに、銃口下部にレーザー・エイミング・モジュールを装備し、照準用の赤い可視レーザーを照射する事ができる。 「巫女の御幣」 お払い棒の劣化品。謂れある品なのでこれで殴れば多少は妖怪に効くかもしれない。 「ステルス迷彩」 光学迷彩スーツの劣化品。スイッチ一つで、装備者の姿を光学的に消し去る。 欺瞞効果は光学迷彩スーツより劣り、五メートルも接近すれば肉眼ではっきりと装備者の透明な輪郭が見える。 また、衝撃に弱く、光に照らされると影を作る。一時間もスイッチを入れてるとエネルギー切れで使用不能。 ◇ にとりが出立した後の大蝦蟇の池。 池の畔にある草むらが音を立て、そこから小柄な影がゆっくりと起き上がる。 金色のショートボブに、ヘアバンドのように結ばれた赤い大きなリボン。紛れも無く、メディスン・メランコリーだった。 にとりは誤解していた。そして、知らなかった。 銃創から血が流れなかったのは、ゲーム上の規制などではない事を。 メディスンは普通の妖怪ではなく、人形が変化した付喪神であり、生物とは程遠い存在である事を。 「…………もう、いない、か」 メディスンは胴体と左腕に45ACP弾を受けながらも生きていた。 胴体に命中した弾丸は、人間であれば細胞と主要臓器を破壊して死に至らしめるはずだったが、生物でない彼女には致命傷にならなかった。 それでも大きなダメージには違いなく、怪我が自然に癒えて体が動かせるようになるまで時間がかかったが……。 「……あいつは、あいつだけは、絶対に許さない。絶対に……」 懐からMP5Kの短縮化マガジンを取り出し、空になったMP5Kのマガジンと入れ替え、叩き込むように装着する。 人形のように綺麗な青い瞳には、今は憎悪の炎が灯る。映し出すのは、河城にとりの姿。 メディスンは、どうしても仕返ししなければ気がすまなかった。 優勝し、人形解放という大願を成就する前に、あいつだけは倒さなくてはいけない――メディスンは、にとりを求めて歩き出した。 例え行方知れずでも、必ず探し出す。満身創痍の体を、復讐と毒が突き動かしていた。 【E-3 大蝦蟇の池の畔 朝】 【メディスン・メランコリー】 [状態]:胴体と左腕に銃創、ダメージ大、疲労(大) 残り体力( 20/100) [装備]:MP5K(15/15) [道具]:オーブ×0 支給品一式 [思考・状況] 基本方針:優勝して、人形解放を目指す 1:にとりを追う 2:優勝の前ににとりだけは倒す 3:人間は基本的に敵として見る 【武器・道具解説】 「H&K MP5K」 全長325mm、重量2000g。9mm口径の短機関銃。 高性能短機関銃MP5の小型モデルで、銃身を短縮化しストックを装着せず、銃口下部にフォアグリップを装備。 命中精度はMP5譲りで高く、小型化により発射速度はそれ以上。 ※メディスンが起き上がったのは、にとりが大蝦蟇の池を出立して数十分後です。 ※大蝦蟇の池の畔にある草むらに、MP5Kの短縮化マガジン(0/15)が落ちています。 ※大蝦蟇の池は、表層の水が毒々しい薄紫に染まっています。水中に潜ると、メディスンの毒による健康被害が生じる模様。 **ページをめくる(時系列順) Back:[[もうひと組の霊夢と魔理沙]] Next:[[平和と恐怖]]

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