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「ここにもいない、こっちの石の下には……やっぱりいない」 私の眼前で緑髪の少女——まあ私と同じ化生の類であるので、年相応の少女であるのかは定かではないが——が、木の皮を剥がしたり、茂みの中に顔を突っ込んだりしている。 その顔には焦燥が浮かんでいる。何かを落としたのかとも思ったが、その割には土を掘り返したり、石をひっくり返したりと失せ物を探しているにしてはありえない箇所を探している。 さて、偶然見かけはしたがどうしたものか。 失せ物探しは得意分野だ。本来ならば協力するのも、やぶさかではない。 問題は私が今置かれている状況が、擬似的な物とはいえ、殺し合いのゲームの駒として呼び出された事だ。 どこぞの迷惑な国津神が厄介な物を広めてくれたせいで開催されたこの遊戯。 妖怪と人間の平等な世界を金科玉条としている我々命蓮寺の面々にとっては、あれを読んだ妖怪の暴走は頭の痛い話だった。 暴走に人間が巻き込まれてしまえば人妖双方にある亀裂が広まり、それは我々の理想の障害となる。 一度間違えれば幻想郷を揺るがす大異変になる所を、単なるお祭り騒ぎに仕立て上げた八雲紫の手腕は、流石は幻想郷の賢者といったところだろうか。 ……とはいえ我々命蓮寺にもゲームへの参加要請が来るとは思わなかったが。 「守矢の現人神や博麗の巫女が出るならば命蓮寺の代表として、毘沙門天様の代理である私が」と、やけにやる気になってしまったご主人を聖達と共に説得した結果、ご主人の代わりに私が出る事になってしまったが、まあ、正直な所気が乗らない。 そもそも毘沙門天の代理や使いを、この様な悪趣味な遊戯に巻き込ませるのは如何な物だろうか。 ……と、愚痴っていても始まらないか。とりあえず、相も変わらずにせせこましく動いている彼女にどう対応すべきかだ。 支給された縄鏢とかいう暗器ならばペンデュラムの要領で扱える。目の前にいる彼女なら不意をつくことも容易いだろう。 とはいえ毘沙門天様の使いたる私が、積極的に殺し合いに乗るというのは気が引ける。 ……深く考える必要もないか。とりあえずコンタクトを取ってみる事にしよう。 元々乗り気ではない遊戯なのだ、仮に彼女が乗っていたのだったら、早々に脱落して見物する側に回れるし、少なくとも大きな損はすまい。 「そこな君、何か失せ物でも探してるのかい?」 「ひぇっ!?」 私が声をかけると、彼女は肩をびくりと震わせて、飛び込む様に近場の茂みへと身を隠した。 あまり乗り気ではないのだろうか?これで即刻退場は望み難いとなるとちょっとだけ残念だ。 「ああ、すまない。驚かす気はなかったんだが」 「ななっ、ななな、なんなのよあんたは! 言っておくけど私はすっごい武器を持ってるんだからね! こ、降参するなら今の内よ、み、認めてあげるわ!」 うむ、見事に動転しているな。すっごい武器とやらも即座に隠れたり使う素振りを見せない事から十中八九ハッタリだろう。 さて、どう話を聞き出すべきかだが……、自身が退場するのも視野にいれているのだ、とりあえず手持ちのデイパックでも放り投げて無害とアピールしてみるか。 「まあまあ、とりあえず落ち着いて欲しい。私は積極的にゲームに乗る気はないんだ。ほら、荷物を下ろそう。なんなら諸手も挙げようか?」 「し、信用できるもんですか! なら、なんでゲームに参加してるのよ! これに参加したがってた奴はごまんといるのよ!」 ふむ、まったくもって言うとおりだ。私の様に巻き込まれた輩も中にはいるだろうが、まあ、それは希有な物だろう。 しかし、私の様な存在が希有と言う彼女はどちら側の参加者なのだろうか。 「まあ、組織に属すると色々しがらみもあるのさ、特に望みもなくどうしたものかと考えていたんだが……、ちなみに君は乗っているのかい?」 「と、当然に決まってるじゃない! 私は優勝してあの迷惑な神様に言ってやりたい事があるのよ!」 「ほう、言ってやりたい事?」 「そうよ! あいつがこんな遊びを広める様な真似をしたせいで、私の仲間達がそこら中で妖怪同士の喧嘩のとばっちりを受けて大変な目にあったのよ! 仲間達を統べる妖怪としては謝罪の一つでもさせない事には気が収まらないわ!」 ……これは驚いた。 正直、この馬鹿騒ぎに望んで参加する者なんてのは、暴れたい奴らだけだと思っていた。 だが彼女は違う。彼女はこの頃の騒ぎによる被害を受けた者達の為に来たという。 大規模な争いにこそならなかったものの、あの書物の影響を受けて、気がはやった妖怪や喧嘩っ早い妖怪の暴走、自警団等との衝突なんかは実際に起こっている。恐らくその際に巻き込まれたのだろう。 彼女の怒りはもっともだ。あの神は責任を取る為に主催になったとはいえ、被害を受けた者達に謝罪も賠償もしていない。 幻想郷のトップの面々ならば、こうやって責任を取らせる事で一応の落としどころにしたとしても、そんな事など預かり知らない市井の妖怪や民草は、そうそう納得のいくものでもないだろう。 とはいえ、彼女達に言いよっても、まともに取り合ってくれるかは未知数。 で、あるならばこの遊戯で優勝し、直々に謝罪をさせるというのも一つの手段だ。 ……もっとも、その為には並み居る強豪を倒さなければならないので、本懐を遂げられる可能性は低いが。 「成る程、君の望みはわかった。しかし、あの博麗の巫女を初めとする名うての実力者を相手に勝つ算段が、君にはあるのかな?」 「う……」 「……まさか、算段もなしに参加したのかい?」 「ば、馬鹿にしないでくれる!? ちゃんとあったわよ!」 あっ「た」、つまり今はないという事か。 「ああ、さっき君が必死になって探してたのが、その算段という訳か」 「えっ! な、なんでそれを……」 うん、わかりやすい反応をありがとう。 しかし、彼女にとっての一大事は私にとっては好都合だ。 交渉の材料としては申し分あるまい。 「なに、先程の様子からカマをかけただけさ。ともあれ、失せ物探しは私の得意分野でね。良ければ私に任せてみないかい?」 「はぁ? そんな真似してあんたに何のメリットがあるのよ。敵に塩でも送るつもり?」 「メリットならあるさ。その代わりに、私は君の計画に乗らせて貰うんだからね」 メリットがない。成る程確かに、これを敵対者に対して行うならば、それは利敵行為、百害あって一利なしというやつだ。 だがその相手の味方になるのであれば何も問題はあるまい。 実際に私は、彼女の望みを聞いて、かなり乗り気になってしまった。先程までのやる気の無さなどどこ吹く風だ。 「君の望みを聞いて、私もあの迷惑極まりない山の神には色々言ってやりたくなったのさ。こちらはこちらで立場上大変だったからね。ここで君と私は、この悪趣味な遊戯の中で、数少ない同じ望みを抱く同志になり得ると思わないかな?」 「……同志……」 「1人よりは2人、頭数も多い方が勝機は上がる。仮に私が優勝したら我々への謝罪と共に、君の仲間にも謝罪をさせよう。その代わりに君が優勝したら、我々に向けても謝罪をさせるようにして欲しい」 思い出すのはあれが出回った後の聖やご主人の姿だ、妖怪があの書物を真似する事がないように、近隣の妖怪に誠心誠意話しかけ、また、暴走する妖怪が出ない様に里の自警団と提携して見回りを強化したりもした。 命蓮寺の理念を貫く為に、西へ東へと駆け回り気疲れしている皆に対し、いや、この発表があるまでに、事件が起きないように尽力していた者達に対し、あの神は労いも礼もなかったのだ。 そんな奴らに対する謝罪の一つくらい、望んだっていいじゃないか。 「……正直言って、完全に信用する気にはなれないわ」 そう言って、彼女は恐る恐る茂みから姿を現した。 「でもあなたの言う同志、っていうお互いの間柄は信じてもいいって思う」 そう言いながら、彼女は私に向けて右手を差し出した。 ならば私は笑みを浮かべて歩みよる事で応えよう。 そして彼女と同様に右手を差し出す。互いの手を握りあう。 そこには確かな意志の強さがあった。 「ナズーリンだ。命蓮寺で毘沙門天様の使いをやっている」 「リグル・ナイトバグよ。幻想郷の虫の事ならなんでも聞いてちょうだい」 リグル・ナイトバグか、そう言えば虫の地位向上の為に人との共存策を考えているという噂を聞いた事がある。 彼女が統べる仲間とは幻想郷の虫達の事か、確かに、虫なんてのはどこにでもいる。巻き込まれやすさならトップクラスだろう。 確かに私も巻き込まれたのが配下達であったならばリグルと同様に怒っていたろう。 しかし、ここで初めて会ったのが同じく群を束ねる存在であるというのも奇遇な物だ。 「で、早速だが、何を探していたんだい?」 「うん、それがね、この辺りにいる虫を探してたの。この辺りは障気が強いから毒を持った虫が多いの」 毒虫か。確かに虫が徒党を組んで襲いかかってくる事まで想定している参加者は多くないだろうし、隠密性も高そうだ。彼女なら毒性が強いのも知っているのだろう。 近隣の斥候として使うのも悪くない。私も部下がいればそういった使い方もできるのだが。 「それが見つからないの。毒虫だけじゃなくて、普通の昆虫も」 「なに?」 「昆虫の気配がまったくしないのよ。これじゃあ私の作戦が潰される上に弾幕まで殆ど使えなくなっちゃうのよ。それで、探してくれるのよね」 ……これはまずいかもしれない。 私の「物を探す程度の能力」は確かにどんな物でも見つける事ができる。 だが、初めから無い物は見つけようがないのだ。 虫のエキスパートがこの鬱蒼と茂る森の中で、本人の焦燥が顔に出る程までに、虫を見つける事が出来ないというのなら、この会場に昆虫は存在しない可能性だってある。 リグルは期待のこもった目で私を見ているが、さて、どうした物か……。 【C-5 魔法の森 朝】 【ナズーリン】 [状態]:健康 残り体力(100/100) [装備]:縄鏢(ジョウビョウ) [道具]:オーブ×2 支給品一式 [思考・状況] 基本方針:八坂神奈子に、迷惑をかけた全ての住人、虫に対しての謝罪をさせる。 1:……どうしたものか 2:昆虫を探す 【リグル・ナイトバグ】 [状態]:健康 残り体力(98/100) [装備]:無し [道具]:オーブ×2 支給品一式 不明支給品 [思考・状況] 基本方針:八坂神奈子に、迷惑をかけた全ての住人、虫に対しての謝罪をさせる。 1:ナズーリンに昆虫を探してもらう。 2:昆虫を駆使して勝ち上がる。 【共通備考】:ミニ幻想郷には昆虫がいない、または極端に少ないようです。 **時系列順で読む Back:[[始まり場所の応対者]] Next:[[空飛ぶバカと見上げるサボリ魔]]
「ここにもいない、こっちの石の下には……やっぱりいない」 私の眼前で緑髪の少女——まあ私と同じ化生の類であるので、年相応の少女であるのかは定かではないが——が、木の皮を剥がしたり、茂みの中に顔を突っ込んだりしている。 その顔には焦燥が浮かんでいる。何かを落としたのかとも思ったが、その割には土を掘り返したり、石をひっくり返したりと失せ物を探しているにしてはありえない箇所を探している。 さて、偶然見かけはしたがどうしたものか。 失せ物探しは得意分野だ。本来ならば協力するのも、やぶさかではない。 問題は私が今置かれている状況が、擬似的な物とはいえ、殺し合いのゲームの駒として呼び出された事だ。 どこぞの迷惑な国津神が厄介な物を広めてくれたせいで開催されたこの遊戯。 妖怪と人間の平等な世界を金科玉条としている我々命蓮寺の面々にとっては、あれを読んだ妖怪の暴走は頭の痛い話だった。 暴走に人間が巻き込まれてしまえば人妖双方にある亀裂が広まり、それは我々の理想の障害となる。 一度間違えれば幻想郷を揺るがす大異変になる所を、単なるお祭り騒ぎに仕立て上げた八雲紫の手腕は、流石は幻想郷の賢者といったところだろうか。 ……とはいえ我々命蓮寺にもゲームへの参加要請が来るとは思わなかったが。 「守矢の現人神や博麗の巫女が出るならば命蓮寺の代表として、毘沙門天様の代理である私が」と、やけにやる気になってしまったご主人を聖達と共に説得した結果、ご主人の代わりに私が出る事になってしまったが、まあ、正直な所気が乗らない。 そもそも毘沙門天の代理や使いを、この様な悪趣味な遊戯に巻き込ませるのは如何な物だろうか。 ……と、愚痴っていても始まらないか。とりあえず、相も変わらずにせせこましく動いている彼女にどう対応すべきかだ。 支給された縄鏢とかいう暗器ならばペンデュラムの要領で扱える。目の前にいる彼女なら不意をつくことも容易いだろう。 とはいえ毘沙門天様の使いたる私が、積極的に殺し合いに乗るというのは気が引ける。 ……深く考える必要もないか。とりあえずコンタクトを取ってみる事にしよう。 元々乗り気ではない遊戯なのだ、仮に彼女が乗っていたのだったら、早々に脱落して見物する側に回れるし、少なくとも大きな損はすまい。 「そこな君、何か失せ物でも探してるのかい?」 「ひぇっ!?」 私が声をかけると、彼女は肩をびくりと震わせて、飛び込む様に近場の茂みへと身を隠した。 あまり乗り気ではないのだろうか?これで即刻退場は望み難いとなるとちょっとだけ残念だ。 「ああ、すまない。驚かす気はなかったんだが」 「ななっ、ななな、なんなのよあんたは! 言っておくけど私はすっごい武器を持ってるんだからね! こ、降参するなら今の内よ、み、認めてあげるわ!」 うむ、見事に動転しているな。すっごい武器とやらも即座に隠れたり使う素振りを見せない事から十中八九ハッタリだろう。 さて、どう話を聞き出すべきかだが……、自身が退場するのも視野にいれているのだ、とりあえず手持ちのデイパックでも放り投げて無害とアピールしてみるか。 「まあまあ、とりあえず落ち着いて欲しい。私は積極的にゲームに乗る気はないんだ。ほら、荷物を下ろそう。なんなら諸手も挙げようか?」 「し、信用できるもんですか! なら、なんでゲームに参加してるのよ! これに参加したがってた奴はごまんといるのよ!」 ふむ、まったくもって言うとおりだ。私の様に巻き込まれた輩も中にはいるだろうが、まあ、それは希有な物だろう。 しかし、私の様な存在が希有と言う彼女はどちら側の参加者なのだろうか。 「まあ、組織に属すると色々しがらみもあるのさ、特に望みもなくどうしたものかと考えていたんだが……、ちなみに君は乗っているのかい?」 「と、当然に決まってるじゃない! 私は優勝してあの迷惑な神様に言ってやりたい事があるのよ!」 「ほう、言ってやりたい事?」 「そうよ! あいつがこんな遊びを広める様な真似をしたせいで、私の仲間達がそこら中で妖怪同士の喧嘩のとばっちりを受けて大変な目にあったのよ! 仲間達を統べる妖怪としては謝罪の一つでもさせない事には気が収まらないわ!」 ……これは驚いた。 正直、この馬鹿騒ぎに望んで参加する者なんてのは、暴れたい奴らだけだと思っていた。 だが彼女は違う。彼女はこの頃の騒ぎによる被害を受けた者達の為に来たという。 大規模な争いにこそならなかったものの、あの書物の影響を受けて、気がはやった妖怪や喧嘩っ早い妖怪の暴走、自警団等との衝突なんかは実際に起こっている。恐らくその際に巻き込まれたのだろう。 彼女の怒りはもっともだ。あの神は責任を取る為に主催になったとはいえ、被害を受けた者達に謝罪も賠償もしていない。 幻想郷のトップの面々ならば、こうやって責任を取らせる事で一応の落としどころにしたとしても、そんな事など預かり知らない市井の妖怪や民草は、そうそう納得のいくものでもないだろう。 とはいえ、彼女達に言いよっても、まともに取り合ってくれるかは未知数。 で、あるならばこの遊戯で優勝し、直々に謝罪をさせるというのも一つの手段だ。 ……もっとも、その為には並み居る強豪を倒さなければならないので、本懐を遂げられる可能性は低いが。 「成る程、君の望みはわかった。しかし、あの博麗の巫女を初めとする名うての実力者を相手に勝つ算段が、君にはあるのかな?」 「う……」 「……まさか、算段もなしに参加したのかい?」 「ば、馬鹿にしないでくれる!? ちゃんとあったわよ!」 あっ「た」、つまり今はないという事か。 「ああ、さっき君が必死になって探してたのが、その算段という訳か」 「えっ! な、なんでそれを……」 うん、わかりやすい反応をありがとう。 しかし、彼女にとっての一大事は私にとっては好都合だ。 交渉の材料としては申し分あるまい。 「なに、先程の様子からカマをかけただけさ。ともあれ、失せ物探しは私の得意分野でね。良ければ私に任せてみないかい?」 「はぁ? そんな真似してあんたに何のメリットがあるのよ。敵に塩でも送るつもり?」 「メリットならあるさ。その代わりに、私は君の計画に乗らせて貰うんだからね」 メリットがない。成る程確かに、これを敵対者に対して行うならば、それは利敵行為、百害あって一利なしというやつだ。 だがその相手の味方になるのであれば何も問題はあるまい。 実際に私は、彼女の望みを聞いて、かなり乗り気になってしまった。先程までのやる気の無さなどどこ吹く風だ。 「君の望みを聞いて、私もあの迷惑極まりない山の神には色々言ってやりたくなったのさ。こちらはこちらで立場上大変だったからね。ここで君と私は、この悪趣味な遊戯の中で、数少ない同じ望みを抱く同志になり得ると思わないかな?」 「……同志……」 「1人よりは2人、頭数も多い方が勝機は上がる。仮に私が優勝したら我々への謝罪と共に、君の仲間にも謝罪をさせよう。その代わりに君が優勝したら、我々に向けても謝罪をさせるようにして欲しい」 思い出すのはあれが出回った後の聖やご主人の姿だ、妖怪があの書物を真似する事がないように、近隣の妖怪に誠心誠意話しかけ、また、暴走する妖怪が出ない様に里の自警団と提携して見回りを強化したりもした。 命蓮寺の理念を貫く為に、西へ東へと駆け回り気疲れしている皆に対し、いや、この発表があるまでに、事件が起きないように尽力していた者達に対し、あの神は労いも礼もなかったのだ。 そんな奴らに対する謝罪の一つくらい、望んだっていいじゃないか。 「……正直言って、完全に信用する気にはなれないわ」 そう言って、彼女は恐る恐る茂みから姿を現した。 「でもあなたの言う同志、っていうお互いの間柄は信じてもいいって思う」 そう言いながら、彼女は私に向けて右手を差し出した。 ならば私は笑みを浮かべて歩みよる事で応えよう。 そして彼女と同様に右手を差し出す。互いの手を握りあう。 そこには確かな意志の強さがあった。 「ナズーリンだ。命蓮寺で毘沙門天様の使いをやっている」 「リグル・ナイトバグよ。幻想郷の虫の事ならなんでも聞いてちょうだい」 リグル・ナイトバグか、そう言えば虫の地位向上の為に人との共存策を考えているという噂を聞いた事がある。 彼女が統べる仲間とは幻想郷の虫達の事か、確かに、虫なんてのはどこにでもいる。巻き込まれやすさならトップクラスだろう。 確かに私も巻き込まれたのが配下達であったならばリグルと同様に怒っていたろう。 しかし、ここで初めて会ったのが同じく群を束ねる存在であるというのも奇遇な物だ。 「で、早速だが、何を探していたんだい?」 「うん、それがね、この辺りにいる虫を探してたの。この辺りは障気が強いから毒を持った虫が多いの」 毒虫か。確かに虫が徒党を組んで襲いかかってくる事まで想定している参加者は多くないだろうし、隠密性も高そうだ。彼女なら毒性が強いのも知っているのだろう。 近隣の斥候として使うのも悪くない。私も部下がいればそういった使い方もできるのだが。 「それが見つからないの。毒虫だけじゃなくて、普通の昆虫も」 「なに?」 「昆虫の気配がまったくしないのよ。これじゃあ私の作戦が潰される上に弾幕まで殆ど使えなくなっちゃうのよ。それで、探してくれるのよね」 ……これはまずいかもしれない。 私の「物を探す程度の能力」は確かにどんな物でも見つける事ができる。 だが、初めから無い物は見つけようがないのだ。 虫のエキスパートがこの鬱蒼と茂る森の中で、本人の焦燥が顔に出る程までに、虫を見つける事が出来ないというのなら、この会場に昆虫は存在しない可能性だってある。 リグルは期待のこもった目で私を見ているが、さて、どうした物か……。 【C-5 魔法の森 朝】 【ナズーリン】 [状態]:健康 残り体力(100/100) [装備]:縄鏢(ジョウビョウ) [道具]:オーブ×2 支給品一式 [思考・状況] 基本方針:八坂神奈子に、迷惑をかけた全ての住人、虫に対しての謝罪をさせる。 1:……どうしたものか 2:昆虫を探す 【リグル・ナイトバグ】 [状態]:健康 残り体力(98/100) [装備]:無し [道具]:オーブ×2 支給品一式 不明支給品 [思考・状況] 基本方針:八坂神奈子に、迷惑をかけた全ての住人、虫に対しての謝罪をさせる。 1:ナズーリンに昆虫を探してもらう。 2:昆虫を駆使して勝ち上がる。 【共通備考】:ミニ幻想郷には昆虫がいない、または極端に少ないようです。 **時系列順 Back:[[始まり場所の応対者]] Next:[[空飛ぶバカと見上げるサボリ魔]]

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