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朝から墓場で運動かい?」(2012/01/23 (月) 23:33:16) の最新版変更点

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時刻は朝6時を少し過ぎたところ。 東から昇ってくるはずの太陽は、まだ森の木々の高さには達していないようで辺りは薄暗い。 それでも、夜の闇とはまた違う、もうすぐ朝が来るのだという雰囲気が漂っていた。 目を凝らせば、そんな季節でもないというのに彼岸花の真っ赤な花がまるで炎のように咲き乱れている。 空の明るさと相まって神秘的な雰囲気を漂わせるこの場所は、人呼んで"再思の道"と呼ばれるところ。 自らの生に絶望した外来人が時折迷い込んでくるのだが、彼岸花に毒気を抜かれるのか生きる気力を取り戻すのである。 ……尤も、そんな外来人の大半は思い直したのも束の間、この辺りに潜む妖怪に取って喰われてしまうのであるが。 ある意味では美しく、そしてある意味では儚いこの場所をとぼとぼと歩く妖怪が一人いた。 その妖怪がこの地に対して抱いた感想がこれである。 「……まったく、こんなに花が咲き乱れるなんて、本当に地上は妬ましいところね」 ブツブツと呟きながら歩を進めるのは、嫉妬心を操る妖怪、水橋パルスィである。 その能力故に疎まれ、地下に封じられた妖怪たちの中の一人であり、普段は地上と地下を結ぶ縦穴を見守っている。 滅多に人妖が行き交うことも無く、暗く閉ざされた地殻の下で過ごす彼女にとっては、紛い物とはいえ久々の地上。 かつてここを通った巫女に対し、地上の光や巡る風が妬ましいと語った彼女にとっては、咲き誇る花々も当然嫉妬の対象だ。 そんな彼女がこのイベントに参加した理由は単純明快。 退屈な日常を吹き飛ばしてくれるような、そんな面白い遊びを見逃すことなど出来なかったからだ。 除け者にされたらこの上なく参加者を妬んでやるところだったが、幸いにも参加者として選ばれて今ここに至る。 めでたく参加できたからには、一応はゲームに乗るつもりではいるのだが。 さて、彼女はずんずんと再思の道を歩いているのだが、その向きはというと森に背を向けての行軍であった。 いわば、地図で言えば会場の端っこをわざわざ目指しているのだが、そのことにも理由があった。 「……なんでせっかく地上に出られたのに好き好んであんなジメジメした暗い森に行かなくちゃいけないのよ」 まぁ、その結果向かう先も無縁塚――所謂墓場というこれまた陰気な場所なのだが。 作り物の場所に作り物の身体とはいえ、久方ぶりの地上でなんでこんな場所に追いやられているのか。 主催に対する嫉妬心というか、苛立ちというか、そういったものを募らせながらパルスィは黙々と歩を進めた。 程なくして、パルスィは無縁塚へと辿り着いた。 その名の通り無縁仏の為の墓地であり、点在する墓石がどことなく寂しさを漂わせていた。 往来のど真ん中で荷物を検める気分にもなれなかったパルスィは、適当な墓石に背中を預けて腰を下ろす。 そうして、デイパックから自分に支給された武器を取り出そうとした、まさにその時だった。 「うらめしやー」 本人は精一杯おどろおどろしく口にしたのだろうが、どことなく間の抜けた声がパルスィの背後から聞こえてきた。 当のパルスィはというと、驚きよりもむしろ支給品の確認を邪魔されたことへの苛立ちの方が強かった。 小さく舌打ちをしながら振り返り、墓石の上に佇む妖怪を見上げる格好となる。 「……何よ」 「あ、あれ? 驚かないの?」  ◇   ◇   ◇ "呆れてものも言えない"というのはこういうことなのか、とパルスィは思う。 それほどまでに、目の前の妖怪――多々良小傘の計画は杜撰なものであった。 どうやら小傘のスタート地点はこの無縁塚だったらしい。 彼女の今の住まいと、そう変わらぬ雰囲気からのスタートに彼女は幸運を感じたらしい。 そして、小傘がいつもするように墓場に来た者を驚かせようと作戦を立案したのだった。 つまりは、相手を驚かす→参加者が荷物を放り出して逃げ出す→オーブと武器ゲット→(゚д゚)ウマー ……というものだ。 「……それで? 普段は誰か驚いてくれるの?」 「ううん、最近はもうさっぱり。墓参りに来る人が驚いてくれたりはするけどね。  それでも昼間は明るいから驚き加減も微妙だし、夜はそもそも墓場に人なんて来ないし」 「だいたい妖怪相手にして驚いてもらえるとでも思ってたの?」 「そこはほら、ノリでなんとかなるんじゃないかなー、って」 能天気に話す小傘に、パルスィは思わず溜息をついた。 小傘の来歴自体は、デザインの悪さから皆に拾ってもらえなかった忘れ物の傘が元である。 そんな哀れな生い立ちでありながらも、この暢気な具合がパルスィにはどことなく妬ましかった。 妬ましい、といえば唐笠オバケである小傘に支給されたのが傘であったことも挙げられる。 ……とはいえ、その傘はというと誰かを驚かすには少々不向きな可愛らしい日傘だったのだけれども。 本当ならすぐさまぶちのめしてやりたいところだったが、最早呆れが妬みを通り越してしまっていた。 こんなのをわざわざ相手にするのも癪だ、ということでパルスィは小傘を放っておくことにした。 やれやれ、といった表情を浮かべながらパルスィが立ち上がる。 妙な邪魔が入ったので、場所を変えて荷物の確認をしようと考えたのだ。 「……それじゃ、私はもう行くから。精々頑張って皆を驚かしてなさい」 「えー、もう行っちゃうの」 「そりゃ行くわよ」 「そんなこと言わないでさ……ね、一緒に皆を驚かす方法考えてよぉ」 「何で私が貴方のためにそんなことしなくちゃいけないのよ」 パルスィは厄介なのに付き纏われた、という具合に露骨にウンザリとした表情を見せる。 そんな彼女の心中も察することなく、小傘はパルスィのスカートの裾を掴んで離そうとしない。 ちょっと離しなさいよ、とパルスィが声を張り上げようとしたその時だった。 「……お? なんだいケンカかい? いいねぇ私も混ぜとくれよ」 期せずして全く同じタイミングでパルスィと小傘は声のする方を見遣った。 視線の先にいたのは墓石と同じ程度の背丈しかない小さな少女。 しかし、その頭から存在感たっぷりに伸びていた二本の角が、彼女がどんな種族であるかを雄弁に語っていた。 どこか聞き覚えのある声とその姿を重ね合わせたパルスィの背中を冷たい汗が伝う。 「おや? なんか見覚えがあると思ったら橋姫じゃないかい」 「橋姫?」 「あぁ、嫉妬心に駆られる下賤な妖怪さ」 相手に心当たりがあるのは向こうも同じだったらしい。 暢気に相槌を打つ小傘に対して、ご丁寧にもパルスィの正体を解説した。 「うーん、力比べをするにはあんたらじゃちと不足かもしれないねぇ。  ま、ウォーミングアップと思って……いこうかね!」 言うが早いか、何やら棒状のものを振りかぶって目の前の少女――伊吹萃香が飛びかかってきた。 頭上に振りかぶったその棒を、二人がいた場所に叩きつける。 この初撃を、二人はすんでのところで後ろに飛び退いて躱す。 その行動も織り込み済みだったか、萃香が素早く二人との距離を詰めると今度は横一文字にその棒を薙ぎ払う。 ブゥン、と風を切る音の大きさがその力のほどを如実に表している。 しかし、この一撃も身を捩って躱したパルスィと小傘のどちらも捉えることは無かった。 空を切った棒が墓石をしたたかに打ちつけ、キィン、という金属音が響き渡る。 さすがに粉砕、とまではいかずとも墓石にはいくつかの亀裂が走り、細かい破片が辺りに飛び散った。 墓石のダメージも甚大だが、ダメージは萃香の方にもあったらしい。 「おーいちち、手が痺れちゃったよ」 萃香は一旦その棒――金属バットを手放し、痺れた掌をブンブンと何度か振った。 その隙を見計らい、パルスィと小傘は少し離れた墓石の影に身を潜める。 「え、ちょ、な、なんなのよあの娘は!?」 いきなり襲われてパニック状態の小傘が、半ベソをかきながらパルスィに訴えかける。 「あの角を見て分からないの? 鬼よ、鬼!」 急に襲われて驚いているのはパルスィも一緒である。 だが、同じ地底という身近なところに鬼がいるということで辛うじて冷静さを保つことが出来た。 とはいえ、鬼に触れることの少ない現代の地上の民はそうもいかない。 直撃こそしなかったものの、先程の攻撃の凄まじさを感じ取った小傘がもう泣き出しそうになる。 「鬼って……嘘でしょ!? あんなのにやられちゃひとたまりもないわよ!?」 「残念だけど事実よ……それにしても、あれじゃまさに"鬼に金棒"じゃない。  まったく、貴方といいあの鬼といい、なんでこんなにおあつらえ向きの武器が当たるのかしらね、まったく妬ましい」 「冗談じゃないわよ! まだ誰も驚かしてないのにゲームオーバーなんてイヤよ!  ……そ、そうだ貴方、あいつに対抗できる武器とか持ってないの?」 「誰かさんのせいでまだ確認できてないのよ!」 くだらない言い争いをする二人を尻目に、もう一度金属バットを握り直した萃香がのっしのっしと歩を進めてきた。 悠然と歩くその姿からは、自らの力に対する揺るぎない自信が滲み出てくるようである。 「出てきなよ。こっちが一方的にやってもつまらないじゃない。  あんたらも妖怪なんだったら、ちょっとは抵抗してもらいたいもんだねぇ」 二人を見失ったか、萃香は声を張り上げる。 その声にビクッと体を震わせた小傘が小さな声で漏らす。 「あぁ、もうこっちに来ちゃったよぉ……  いくら現実じゃダメージを受けないからって、殴られるのは怖いよ……」 「ああもう面倒臭い子ね!」 すっかり戦意を喪失してしまった小傘にパルスィが苛立ちを募らせる。 勿論、パルスィだって鬼と正面切って戦ってどうにかなるとも思っていない、むしろ無謀だとさえ考えている。 それでも萃香に言われたからというわけではないが、パルスィにだって妖怪の意地がある。 あの強力な妬ましい鬼に、なんとかして一泡吹かせてやりたいという思いで必死に頭を巡らした。 萃香はキョロキョロと辺りを見回しながら、逃げた二人を探す。 どこに隠れちまったんだろうねぇ、ひょっとしてもう逃げちゃったんじゃ……と呟きながら墓地を歩いていた。 と、不意に攻撃の気配を感じ、その方向へと向き直る。 視線の先では墓石の影から姿を現した橋姫が、今まさに弾幕を張ろうとしていた。 「ようやく出てきたね、やっぱりそうでなくっちゃ!」 嬉々とした表情を浮かべ、萃香が駆け出す。 標的が展開した弾幕は、その弾こそ大きいものの密度、速度共に萃香が避けるには容易いものであった。 もう一人の妖怪の姿が見えないが、萃香にはあの二人がどうにも仲間とは思えなかった。 おおかた、自分だけさっさと逃げちゃったんだろうね、と結論づけながらパルスィに迫る。 「どうした? そんな程度の弾幕じゃ私は退治できないよ!」 萃香は小刻みにステップを踏んで弾幕を躱し、強く地面を蹴って跳躍した。 そして振り上げたバットをまさにパルスィの側頭部に叩きつけようとしたその時だった。 先程までは林立する墓石の為に死角の多かった視界。 跳躍したことで広がったその視界の片隅で、二人の妖怪がこちらに背を向けて逃げていくのが見えた。 まさか、これは囮?……と思った時にはもう遅かった。 振り下ろしたバットの勢いはもう止めることが出来ず、狙い通りにその標的の側頭部を打ち抜いた。 次の瞬間、パン、と音を立てて弾けたその偽物から無数の大玉が飛び出してきた。 身長差をカバーするために跳躍したことが仇となり、今の萃香は完全に無防備の状態。 「うおぉっとぉ!?」 それでも弾速そのものが遅かったことが萃香に味方する。 空中で無理矢理に体を捻ることで何とかその大玉をグレイズすることが出来た。 その代償として、着地に失敗した彼女は地面と熱いキスを交わし、飛び掛った勢いそのままに地面をゴロゴロと転がるのだが。 「いてて……まさか身代わりの術、ってやつかね。  なるほど、さすがに下賤な妖怪だけあって嫌らしいスペルを持ってるじゃないか」 あちこちを擦りむいてしまった萃香が、のっそりと起き上がる。 もっとも、あの弾幕の直撃を受けていればダメージはこんなものでは済まなかっただろう。 打ち所が悪ければそのままゲームから退場していたのかもしれないと思うと、さすがの萃香も安堵の溜息をつくしかなかった。  ◇   ◇   ◇ パルスィは先ほど歩いてきた道を、全速力で引き返す羽目となっていた。 その後ろを、日傘を握り締めながら小傘が追いかけている。 「追いてかないでよ~」 「ちょっと……なんで従いてくるのよ……!」 パルスィは怒鳴り散らしてやりたいところだったが、それも叶わなかった。 あの鬼に一泡吹かせながら逃げるためにスペルカードを発動させたまではよかった。 自らの分身を生み出し、偽物を叩けばそこから大きな弾幕が吹き出す。 舌切雀『謙虚なる富者への片恨』――それがあのスペルの正体である。 しかし、その時彼女が感じた虚脱感は明らかに異常なものであった。 これがこの場で課せられた制限というものかと、パルスィは身をもって実感することとなる。 本気で倒すのが目的でなかった分、まだ負担の軽いスペルを使ったので何とか行動できてはいるのだが。 彼岸花の群生地帯までやってきたところで、パルスィは道を外れて彼岸花の中を分け行っていく。 そしてしばらく進んだところでとうとう息切れし、そのまま仰向けに倒れ込んでしまった。 ゼイゼイと荒い呼吸をするパルスィの顔を、追いかけてきた小傘が心配そうに覗き込む。 「だ、大丈夫……?」 最早返事をするのも億劫だったパルスィは、もうあっちに行けとばかりにしっしっと、その手をヒラヒラと振る。 そんなパルスィの仕草を小傘は"大丈夫"というジェスチャーだと受け取ったらしい。 よかったぁ、と安心した表情を浮かべると、そのまま一緒にパルスィの横で仰向けに寝転がった。 嗚呼擦れ違い、言葉にしなければ伝わらない思いというものが確かにあるのだ。 (ちょっと……コイツこのまま私にくっついてくるつもりじゃないでしょうね……) まだ呼吸の整わないパルスィの脳裏にイヤな予感がよぎった。 おまけに、あの程度の攻撃では鬼は討ち果たせていないだろうという思いもある。 そんなモヤモヤした胸中とは裏腹に、徐々に明るくなってくる空が彼女の視界を埋め尽くしているのにも苛立っていた。 (ああもう……何もかも妬ましいんだから!) 【A-5 再思の道 朝】 【水橋パルスィ】 [状態]:疲労(中) 残り体力(65/100) [装備]:無し [道具]:オーブ×2 小吉ガチャ×1 支給品一式 [思考・状況] 基本方針:一応ゲームに乗る 1.萃香から逃げ延びる 2.面倒臭い同行者=小傘をどうにかしたい 【多々良小傘】 [状態]疲労(小) 残り体力(95/100) [装備]:レミリア・スカーレットの日傘 [道具]:オーブ×2 支給品一式 [思考・状況] 基本方針:みんなを驚かしてオーブと武器をゲット 1.萃香からパルスィと一緒に逃げる 2.どうやったらみんな驚いてくれるのかな? ※レミリア・スカーレットの日傘は、日光を遮断できるだけの普通の日傘です。  可愛らしいデザインと色合いであること以外に特徴はありません。  ◇   ◇   ◇ 二人を取り逃がした萃香は、ふぅっと一息ついてその場に腰を落ち着けた。 自らの力に制限が加えられているということは、パルスィだけでなく萃香もまた感じていたことだった。 鬼である自分の力をもってすれば、墓石を粉々に粉砕することも可能だっただろう。 そもそも、金属バットの方が彼女の力について来られなかったのかもしれない。 それでもなお、萃香のパワーは他の参加者からすれば別格のものではあるのだが。 「やれやれ、いきなり逃がしちゃったかぁ」 ま、ウォーミングアップだし、と頭をポリポリと掻きながら萃香は東の空を見上げる。 森の向こうから徐々に明るくなってくる空を見ながら、朝から一杯やりたいもんだねぇ、と一人ごちる。 まして運動の後の一杯なんて美味しいに決まっているじゃないか、と。 ……とまぁ、一見ノリノリでゲームに乗っかっているように見える萃香だが、その思いは存外に重たい。 幻想郷の妖怪たちの間で空前のブームとなっているバトル・ロワイアル。 これを現実に実行に移してしまえば、自らの手で首を絞めるようなものであることは萃香ももちろん承知していた。 そんな折に開かれたこのイベントに萃香が参加を決めた理由。 それは鬼という強大な種族である自分が力を振るうことで、木っ端妖怪共に対する抑止力になるのではないかという思いがあった。 実際にプログラムを、きちんとした組織もないままに実行すれば、あの鬼にコテンパンにやられてしまうのではないか。 そうした思いを、このバトロワごっこを見ている者たちに植えつけることがひとつの目的だった。 普段の萃香を知る者なら、彼女がイベントと真剣勝負の違いを弁えていることくらいは承知の上である。 だが、そうでない者からすれば彼女の存在はプログラムを開催する上で一つの驚異という重石になるはずだ。 ……というのが、浅いながらも萃香の巡らせた考えである。 もちろん宴会好きの彼女だ、純粋にこのイベントを楽しもうという意思も多分にこの場には含まれてはいるのだが。 そうして迎えた最初の戦闘。 相手を倒すことが出来ればベストであったが、その目的は萃香の言葉通り"ウォーミングアップ"にあった。 能力に制限が付いているというこの場において、自分の力がどれほど枷を付けられているか。 それを測るということが、大きな目的である。 橋姫含め二人を取り逃がしはしたが、ある程度自分に課せられた制限は把握出来た。 萃香にとっては上出来と言ってもいいだろう。 「さぁて、どうしようかねぇ」 手元に酒が無いことを残念がりながら、萃香が立ち上がる。 あの二人を追いかけてもいいけれど、もうあの二人にはたっぷり恐怖は植え付けられたとも萃香は思っている。 ならば、人の集まりそうな場所でも目指して大暴れしてやろうか、と萃香はデイパックから地図を取り出した。 「うへぇ、どこ行くにしても遠いじゃないの」 萃香は苦笑した。 地図でも端っこにあたる無縁塚からは、他のどのポイントもかなりの距離が離れている。 かといって、この無縁塚が人の集まるポイントだとも思えなかった。 精々、この近くでスタートした参加者がガチャガチャ目当てで来るかどうか、といったところだろう。 「さてと……どこに行こうかな」 【A-5 無縁塚 朝】 【伊吹萃香】 [状態]あちこちに擦り傷 残り体力(98/100) [装備]:金属バット [道具]:オーブ×2 支給品一式 [思考・状況] 基本方針:鬼の力を見せつける 1.人の集まる場所で暴れたい **ページをめくる(時系列順) Back:[[鈴蘭畑で捕まえた]] Next:[[]]
時刻は朝6時を少し過ぎたところ。 東から昇ってくるはずの太陽は、まだ森の木々の高さには達していないようで辺りは薄暗い。 それでも、夜の闇とはまた違う、もうすぐ朝が来るのだという雰囲気が漂っていた。 目を凝らせば、そんな季節でもないというのに彼岸花の真っ赤な花がまるで炎のように咲き乱れている。 空の明るさと相まって神秘的な雰囲気を漂わせるこの場所は、人呼んで"再思の道"と呼ばれるところ。 自らの生に絶望した外来人が時折迷い込んでくるのだが、彼岸花に毒気を抜かれるのか生きる気力を取り戻すのである。 ……尤も、そんな外来人の大半は思い直したのも束の間、この辺りに潜む妖怪に取って喰われてしまうのであるが。 ある意味では美しく、そしてある意味では儚いこの場所をとぼとぼと歩く妖怪が一人いた。 その妖怪がこの地に対して抱いた感想がこれである。 「……まったく、こんなに花が咲き乱れるなんて、本当に地上は妬ましいところね」 ブツブツと呟きながら歩を進めるのは、嫉妬心を操る妖怪、水橋パルスィである。 その能力故に疎まれ、地下に封じられた妖怪たちの中の一人であり、普段は地上と地下を結ぶ縦穴を見守っている。 滅多に人妖が行き交うことも無く、暗く閉ざされた地殻の下で過ごす彼女にとっては、紛い物とはいえ久々の地上。 かつてここを通った巫女に対し、地上の光や巡る風が妬ましいと語った彼女にとっては、咲き誇る花々も当然嫉妬の対象だ。 そんな彼女がこのイベントに参加した理由は単純明快。 退屈な日常を吹き飛ばしてくれるような、そんな面白い遊びを見逃すことなど出来なかったからだ。 除け者にされたらこの上なく参加者を妬んでやるところだったが、幸いにも参加者として選ばれて今ここに至る。 めでたく参加できたからには、一応はゲームに乗るつもりではいるのだが。 さて、彼女はずんずんと再思の道を歩いているのだが、その向きはというと森に背を向けての行軍であった。 いわば、地図で言えば会場の端っこをわざわざ目指しているのだが、そのことにも理由があった。 「……なんでせっかく地上に出られたのに好き好んであんなジメジメした暗い森に行かなくちゃいけないのよ」 まぁ、その結果向かう先も無縁塚――所謂墓場というこれまた陰気な場所なのだが。 作り物の場所に作り物の身体とはいえ、久方ぶりの地上でなんでこんな場所に追いやられているのか。 主催に対する嫉妬心というか、苛立ちというか、そういったものを募らせながらパルスィは黙々と歩を進めた。 程なくして、パルスィは無縁塚へと辿り着いた。 その名の通り無縁仏の為の墓地であり、点在する墓石がどことなく寂しさを漂わせていた。 往来のど真ん中で荷物を検める気分にもなれなかったパルスィは、適当な墓石に背中を預けて腰を下ろす。 そうして、デイパックから自分に支給された武器を取り出そうとした、まさにその時だった。 「うらめしやー」 本人は精一杯おどろおどろしく口にしたのだろうが、どことなく間の抜けた声がパルスィの背後から聞こえてきた。 当のパルスィはというと、驚きよりもむしろ支給品の確認を邪魔されたことへの苛立ちの方が強かった。 小さく舌打ちをしながら振り返り、墓石の上に佇む妖怪を見上げる格好となる。 「……何よ」 「あ、あれ? 驚かないの?」  ◇   ◇   ◇ "呆れてものも言えない"というのはこういうことなのか、とパルスィは思う。 それほどまでに、目の前の妖怪――多々良小傘の計画は杜撰なものであった。 どうやら小傘のスタート地点はこの無縁塚だったらしい。 彼女の今の住まいと、そう変わらぬ雰囲気からのスタートに彼女は幸運を感じたらしい。 そして、小傘がいつもするように墓場に来た者を驚かせようと作戦を立案したのだった。 つまりは、相手を驚かす→参加者が荷物を放り出して逃げ出す→オーブと武器ゲット→(゚д゚)ウマー ……というものだ。 「……それで? 普段は誰か驚いてくれるの?」 「ううん、最近はもうさっぱり。墓参りに来る人が驚いてくれたりはするけどね。  それでも昼間は明るいから驚き加減も微妙だし、夜はそもそも墓場に人なんて来ないし」 「だいたい妖怪相手にして驚いてもらえるとでも思ってたの?」 「そこはほら、ノリでなんとかなるんじゃないかなー、って」 能天気に話す小傘に、パルスィは思わず溜息をついた。 小傘の来歴自体は、デザインの悪さから皆に拾ってもらえなかった忘れ物の傘が元である。 そんな哀れな生い立ちでありながらも、この暢気な具合がパルスィにはどことなく妬ましかった。 妬ましい、といえば唐笠オバケである小傘に支給されたのが傘であったことも挙げられる。 ……とはいえ、その傘はというと誰かを驚かすには少々不向きな可愛らしい日傘だったのだけれども。 本当ならすぐさまぶちのめしてやりたいところだったが、最早呆れが妬みを通り越してしまっていた。 こんなのをわざわざ相手にするのも癪だ、ということでパルスィは小傘を放っておくことにした。 やれやれ、といった表情を浮かべながらパルスィが立ち上がる。 妙な邪魔が入ったので、場所を変えて荷物の確認をしようと考えたのだ。 「……それじゃ、私はもう行くから。精々頑張って皆を驚かしてなさい」 「えー、もう行っちゃうの」 「そりゃ行くわよ」 「そんなこと言わないでさ……ね、一緒に皆を驚かす方法考えてよぉ」 「何で私が貴方のためにそんなことしなくちゃいけないのよ」 パルスィは厄介なのに付き纏われた、という具合に露骨にウンザリとした表情を見せる。 そんな彼女の心中も察することなく、小傘はパルスィのスカートの裾を掴んで離そうとしない。 ちょっと離しなさいよ、とパルスィが声を張り上げようとしたその時だった。 「……お? なんだいケンカかい? いいねぇ私も混ぜとくれよ」 期せずして全く同じタイミングでパルスィと小傘は声のする方を見遣った。 視線の先にいたのは墓石と同じ程度の背丈しかない小さな少女。 しかし、その頭から存在感たっぷりに伸びていた二本の角が、彼女がどんな種族であるかを雄弁に語っていた。 どこか聞き覚えのある声とその姿を重ね合わせたパルスィの背中を冷たい汗が伝う。 「おや? なんか見覚えがあると思ったら橋姫じゃないかい」 「橋姫?」 「あぁ、嫉妬心に駆られる下賤な妖怪さ」 相手に心当たりがあるのは向こうも同じだったらしい。 暢気に相槌を打つ小傘に対して、ご丁寧にもパルスィの正体を解説した。 「うーん、力比べをするにはあんたらじゃちと不足かもしれないねぇ。  ま、ウォーミングアップと思って……いこうかね!」 言うが早いか、何やら棒状のものを振りかぶって目の前の少女――伊吹萃香が飛びかかってきた。 頭上に振りかぶったその棒を、二人がいた場所に叩きつける。 この初撃を、二人はすんでのところで後ろに飛び退いて躱す。 その行動も織り込み済みだったか、萃香が素早く二人との距離を詰めると今度は横一文字にその棒を薙ぎ払う。 ブゥン、と風を切る音の大きさがその力のほどを如実に表している。 しかし、この一撃も身を捩って躱したパルスィと小傘のどちらも捉えることは無かった。 空を切った棒が墓石をしたたかに打ちつけ、キィン、という金属音が響き渡る。 さすがに粉砕、とまではいかずとも墓石にはいくつかの亀裂が走り、細かい破片が辺りに飛び散った。 墓石のダメージも甚大だが、ダメージは萃香の方にもあったらしい。 「おーいちち、手が痺れちゃったよ」 萃香は一旦その棒――金属バットを手放し、痺れた掌をブンブンと何度か振った。 その隙を見計らい、パルスィと小傘は少し離れた墓石の影に身を潜める。 「え、ちょ、な、なんなのよあの娘は!?」 いきなり襲われてパニック状態の小傘が、半ベソをかきながらパルスィに訴えかける。 「あの角を見て分からないの? 鬼よ、鬼!」 急に襲われて驚いているのはパルスィも一緒である。 だが、同じ地底という身近なところに鬼がいるということで辛うじて冷静さを保つことが出来た。 とはいえ、鬼に触れることの少ない現代の地上の民はそうもいかない。 直撃こそしなかったものの、先程の攻撃の凄まじさを感じ取った小傘がもう泣き出しそうになる。 「鬼って……嘘でしょ!? あんなのにやられちゃひとたまりもないわよ!?」 「残念だけど事実よ……それにしても、あれじゃまさに"鬼に金棒"じゃない。  まったく、貴方といいあの鬼といい、なんでこんなにおあつらえ向きの武器が当たるのかしらね、まったく妬ましい」 「冗談じゃないわよ! まだ誰も驚かしてないのにゲームオーバーなんてイヤよ!  ……そ、そうだ貴方、あいつに対抗できる武器とか持ってないの?」 「誰かさんのせいでまだ確認できてないのよ!」 くだらない言い争いをする二人を尻目に、もう一度金属バットを握り直した萃香がのっしのっしと歩を進めてきた。 悠然と歩くその姿からは、自らの力に対する揺るぎない自信が滲み出てくるようである。 「出てきなよ。こっちが一方的にやってもつまらないじゃない。  あんたらも妖怪なんだったら、ちょっとは抵抗してもらいたいもんだねぇ」 二人を見失ったか、萃香は声を張り上げる。 その声にビクッと体を震わせた小傘が小さな声で漏らす。 「あぁ、もうこっちに来ちゃったよぉ……  いくら現実じゃダメージを受けないからって、殴られるのは怖いよ……」 「ああもう面倒臭い子ね!」 すっかり戦意を喪失してしまった小傘にパルスィが苛立ちを募らせる。 勿論、パルスィだって鬼と正面切って戦ってどうにかなるとも思っていない、むしろ無謀だとさえ考えている。 それでも萃香に言われたからというわけではないが、パルスィにだって妖怪の意地がある。 あの強力な妬ましい鬼に、なんとかして一泡吹かせてやりたいという思いで必死に頭を巡らした。 萃香はキョロキョロと辺りを見回しながら、逃げた二人を探す。 どこに隠れちまったんだろうねぇ、ひょっとしてもう逃げちゃったんじゃ……と呟きながら墓地を歩いていた。 と、不意に攻撃の気配を感じ、その方向へと向き直る。 視線の先では墓石の影から姿を現した橋姫が、今まさに弾幕を張ろうとしていた。 「ようやく出てきたね、やっぱりそうでなくっちゃ!」 嬉々とした表情を浮かべ、萃香が駆け出す。 標的が展開した弾幕は、その弾こそ大きいものの密度、速度共に萃香が避けるには容易いものであった。 もう一人の妖怪の姿が見えないが、萃香にはあの二人がどうにも仲間とは思えなかった。 おおかた、自分だけさっさと逃げちゃったんだろうね、と結論づけながらパルスィに迫る。 「どうした? そんな程度の弾幕じゃ私は退治できないよ!」 萃香は小刻みにステップを踏んで弾幕を躱し、強く地面を蹴って跳躍した。 そして振り上げたバットをまさにパルスィの側頭部に叩きつけようとしたその時だった。 先程までは林立する墓石の為に死角の多かった視界。 跳躍したことで広がったその視界の片隅で、二人の妖怪がこちらに背を向けて逃げていくのが見えた。 まさか、これは囮?……と思った時にはもう遅かった。 振り下ろしたバットの勢いはもう止めることが出来ず、狙い通りにその標的の側頭部を打ち抜いた。 次の瞬間、パン、と音を立てて弾けたその偽物から無数の大玉が飛び出してきた。 身長差をカバーするために跳躍したことが仇となり、今の萃香は完全に無防備の状態。 「うおぉっとぉ!?」 それでも弾速そのものが遅かったことが萃香に味方する。 空中で無理矢理に体を捻ることで何とかその大玉をグレイズすることが出来た。 その代償として、着地に失敗した彼女は地面と熱いキスを交わし、飛び掛った勢いそのままに地面をゴロゴロと転がるのだが。 「いてて……まさか身代わりの術、ってやつかね。  なるほど、さすがに下賤な妖怪だけあって嫌らしいスペルを持ってるじゃないか」 あちこちを擦りむいてしまった萃香が、のっそりと起き上がる。 もっとも、あの弾幕の直撃を受けていればダメージはこんなものでは済まなかっただろう。 打ち所が悪ければそのままゲームから退場していたのかもしれないと思うと、さすがの萃香も安堵の溜息をつくしかなかった。  ◇   ◇   ◇ パルスィは先ほど歩いてきた道を、全速力で引き返す羽目となっていた。 その後ろを、日傘を握り締めながら小傘が追いかけている。 「追いてかないでよ~」 「ちょっと……なんで従いてくるのよ……!」 パルスィは怒鳴り散らしてやりたいところだったが、それも叶わなかった。 あの鬼に一泡吹かせながら逃げるためにスペルカードを発動させたまではよかった。 自らの分身を生み出し、偽物を叩けばそこから大きな弾幕が吹き出す。 舌切雀『謙虚なる富者への片恨』――それがあのスペルの正体である。 しかし、その時彼女が感じた虚脱感は明らかに異常なものであった。 これがこの場で課せられた制限というものかと、パルスィは身をもって実感することとなる。 本気で倒すのが目的でなかった分、まだ負担の軽いスペルを使ったので何とか行動できてはいるのだが。 彼岸花の群生地帯までやってきたところで、パルスィは道を外れて彼岸花の中を分け行っていく。 そしてしばらく進んだところでとうとう息切れし、そのまま仰向けに倒れ込んでしまった。 ゼイゼイと荒い呼吸をするパルスィの顔を、追いかけてきた小傘が心配そうに覗き込む。 「だ、大丈夫……?」 最早返事をするのも億劫だったパルスィは、もうあっちに行けとばかりにしっしっと、その手をヒラヒラと振る。 そんなパルスィの仕草を小傘は"大丈夫"というジェスチャーだと受け取ったらしい。 よかったぁ、と安心した表情を浮かべると、そのまま一緒にパルスィの横で仰向けに寝転がった。 嗚呼擦れ違い、言葉にしなければ伝わらない思いというものが確かにあるのだ。 (ちょっと……コイツこのまま私にくっついてくるつもりじゃないでしょうね……) まだ呼吸の整わないパルスィの脳裏にイヤな予感がよぎった。 おまけに、あの程度の攻撃では鬼は討ち果たせていないだろうという思いもある。 そんなモヤモヤした胸中とは裏腹に、徐々に明るくなってくる空が彼女の視界を埋め尽くしているのにも苛立っていた。 (ああもう……何もかも妬ましいんだから!) 【A-5 再思の道 朝】 【水橋パルスィ】 [状態]:疲労(中) 残り体力(65/100) [装備]:無し [道具]:オーブ×2 小吉ガチャ×1 支給品一式 [思考・状況] 基本方針:一応ゲームに乗る 1.萃香から逃げ延びる 2.面倒臭い同行者=小傘をどうにかしたい 【多々良小傘】 [状態]疲労(小) 残り体力(95/100) [装備]:レミリア・スカーレットの日傘 [道具]:オーブ×2 支給品一式 [思考・状況] 基本方針:みんなを驚かしてオーブと武器をゲット 1.萃香からパルスィと一緒に逃げる 2.どうやったらみんな驚いてくれるのかな? ※レミリア・スカーレットの日傘は、日光を遮断できるだけの普通の日傘です。  可愛らしいデザインと色合いであること以外に特徴はありません。  ◇   ◇   ◇ 二人を取り逃がした萃香は、ふぅっと一息ついてその場に腰を落ち着けた。 自らの力に制限が加えられているということは、パルスィだけでなく萃香もまた感じていたことだった。 鬼である自分の力をもってすれば、墓石を粉々に粉砕することも可能だっただろう。 そもそも、金属バットの方が彼女の力について来られなかったのかもしれない。 それでもなお、萃香のパワーは他の参加者からすれば別格のものではあるのだが。 「やれやれ、いきなり逃がしちゃったかぁ」 ま、ウォーミングアップだし、と頭をポリポリと掻きながら萃香は東の空を見上げる。 森の向こうから徐々に明るくなってくる空を見ながら、朝から一杯やりたいもんだねぇ、と一人ごちる。 まして運動の後の一杯なんて美味しいに決まっているじゃないか、と。 ……とまぁ、一見ノリノリでゲームに乗っかっているように見える萃香だが、その思いは存外に重たい。 幻想郷の妖怪たちの間で空前のブームとなっているバトル・ロワイアル。 これを現実に実行に移してしまえば、自らの手で首を絞めるようなものであることは萃香ももちろん承知していた。 そんな折に開かれたこのイベントに萃香が参加を決めた理由。 それは鬼という強大な種族である自分が力を振るうことで、木っ端妖怪共に対する抑止力になるのではないかという思いがあった。 実際にプログラムを、きちんとした組織もないままに実行すれば、あの鬼にコテンパンにやられてしまうのではないか。 そうした思いを、このバトロワごっこを見ている者たちに植えつけることがひとつの目的だった。 普段の萃香を知る者なら、彼女がイベントと真剣勝負の違いを弁えていることくらいは承知の上である。 だが、そうでない者からすれば彼女の存在はプログラムを開催する上で一つの驚異という重石になるはずだ。 ……というのが、浅いながらも萃香の巡らせた考えである。 もちろん宴会好きの彼女だ、純粋にこのイベントを楽しもうという意思も多分にこの場には含まれてはいるのだが。 そうして迎えた最初の戦闘。 相手を倒すことが出来ればベストであったが、その目的は萃香の言葉通り"ウォーミングアップ"にあった。 能力に制限が付いているというこの場において、自分の力がどれほど枷を付けられているか。 それを測るということが、大きな目的である。 橋姫含め二人を取り逃がしはしたが、ある程度自分に課せられた制限は把握出来た。 萃香にとっては上出来と言ってもいいだろう。 「さぁて、どうしようかねぇ」 手元に酒が無いことを残念がりながら、萃香が立ち上がる。 あの二人を追いかけてもいいけれど、もうあの二人にはたっぷり恐怖は植え付けられたとも萃香は思っている。 ならば、人の集まりそうな場所でも目指して大暴れしてやろうか、と萃香はデイパックから地図を取り出した。 「うへぇ、どこ行くにしても遠いじゃないの」 萃香は苦笑した。 地図でも端っこにあたる無縁塚からは、他のどのポイントもかなりの距離が離れている。 かといって、この無縁塚が人の集まるポイントだとも思えなかった。 精々、この近くでスタートした参加者がガチャガチャ目当てで来るかどうか、といったところだろう。 「さてと……どこに行こうかな」 【A-5 無縁塚 朝】 【伊吹萃香】 [状態]あちこちに擦り傷 残り体力(98/100) [装備]:金属バット [道具]:オーブ×2 支給品一式 [思考・状況] 基本方針:鬼の力を見せつける 1.人の集まる場所で暴れたい **ページをめくる(時系列順) Back:[[鈴蘭畑で捕まえた]] Next:[[オールド・グローリー]]

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