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 悪趣味を極めた赤一色の床を、累々と席巻した動かぬ少女たちの肢体に、天井から闇の幕が覆い被さっていた。ゆらめく蝋燭の炎に照らされて、彼女たちの面影が微々と変化している。
 すこし演出過剰だな、と八坂神奈子は溜息をついた。ここまで来たら、もはや演(や)りきるより他にないだろう。

 と、ふいに扉の開く音がした。
「八坂様、最後のアバタ―をお持ちしました」
 手下の哨戒天狗たちが部屋に入ってきた。彼らの背には、霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢、そして早苗の肢体が担がれていた。

「ご苦労。そいつらも、どこか適当なところに放り捨てておけ」

 早苗の姿を認めて、神奈子はわざと乱暴な言葉を吐いた。
 自ら大会の主催者を引き受けた以上、ゲームが開始されれば、いち参加者である早苗を依怙贔屓にはできない。もしも、早苗が大会運営の障害となるような行動を取った場合は、神奈子も大会進行役として、彼女に罰則を科さねばならないのだ。下手すれば、家族で敵対関係に陥る展開もありうる。
 床に放置された早苗の肢体を見て、神奈子は顔を険しく引き締めた。懐から通信用のスキマを取り出して、それに話しかける。
「紫、永琳、こちらは準備が整ったぞ」
「分かったわ」と、八雲紫が応じた。「じゃ、参加者全員にゲームの開始を通達するから、ちょっと待ってて頂戴」
「了解」通信が切れた。

 * * *

 床に倒れていた少女たちが、一人、また一人と気だるげに起き上がりはじめた。ほどなくして、全員が立ち上がった。彼女らは一様に呆けた目で神奈子を見上げてきた。
 神奈子は首肯して、右手をおもむろに持ち上げた。指を鳴らす。
 ――パチンッ。
 途端、弾けるようなフラッシュ音の重なりと共に、辺りを眩いばかりの白い閃光が覆った。続いて、度肝を抜かれた参加者たちの嬌声が沸き起こる。
 やがて、場の光量が収束していくと、赤一色の紅魔館の内壁が、大広間に勢揃いした参加者三十四名の姿が―
 そして最後に、壇上でスポットライトを全身に浴びる八坂神奈子の姿が露わになった。
 神奈子は、目前の少女らを迎え入れるかのように、大仰な仕草で両手を広げた。

「よく来たな、勇者たちよ。我こそはと勝利に名乗り出し、身のほど知らずな馬鹿者共よ!
 これから行うバトロワごっこは、ごっこと付くからには所詮遊び。バトルロワイアルをモチーフにしたサバイバルゲームに過ぎない。
 ――だがな、その遊びで早期敗退すれば、恥をかくのは己らなのだぞ?」

 神奈子は口元を吊り上げて挑発した。参加者たちの間にわずかな動揺が走った。

「――ふっ、その程度のことも悟れぬ輩がこれほど集まるとはな。よろしい、ならば殺し合え。
 これより仮初の命を奪い合い、他の参加者のことごとくを蹴落として、己が最強を証明していただく。異存はないな?」

 神奈子は、参加者たちの顔ぶれを見回した。勝気に見返す者、怯えて震える者、固く無表情な者、静かに微笑む者、敵意を露わに睨む者―
 それらすべて一笑し、神奈子は拳を掲げた。「どうした、返事がないぞ? いまさら臆したか」
 オーッ! と慌てた調子で掛け声が起こる。神奈子は満足げに頷いた。


「さて、そんな殺し合いを望む君たちに、我々が主催者として提供できる物は二つだ。
 一つは場所。場所とはこの仮想空間の事だが、これについては口で説明するより、私が実践した方が早いだろ」

 そう言うなり、神奈子は懐から拳銃を引き抜き、銃口を自らのこめかみに押し付けた。
 驚く参加者たちにくくっと微笑み。
 ――ズガン!
 控えめな血しぶきを散らして、神奈子はその場に膝から崩れ落ちた。あまり唐突な司会進行役の退場。
 悲鳴とざわめきが起こり、辺りはにわかに騒然となった。だが―、

「君たち、静粛に」

 大広間の扉を開いて現れた、もう一人の八坂神奈子をそれを制した。
 その神奈子は皆を制し、悠々とした足取りで壇上に向かった。事切れた自分の似姿を蹴飛ばして、血だまりに立つ。
 戸惑う参加者たちの視線が、彼女の怪我一つない全身に集中した。

「ふむ、つまりはこういう事だ」
「ここは我々が用意した仮想空間、ここではすべての生死が嘘となる。
 カラクリは、君たちの肉体だ。そいつがそもそも本物じゃない。
 君たちは元の世界に本物の肉体を捨てて、精神だけで、こちら側の肉体(アバタ―)に憑依してきた。
 たとえ、この仮想空間で死に等しいダメージを負っても、精神がアバタ―から離脱して、元の世界の肉体へ帰還するだけさ。
 まるで夢から覚めるようにな」

 神奈子は、壊れた自分のアバタ―を指差した。「こいつは百四十九体目だ」
「私は、このシステムが安全性を確認するために、自分のアバタ―を百五十体も用意した。
 そして、いま百四十九回目の疑似的な死を迎えたわけだが、この通りだ。ピンピンしているぞ。
 我々のシステムは完璧だ。信じてくれて構わない」

 神奈子は、参加者たちに力強く頷いてみせた。
 参加者たちは、いちいち反応するのも疲れたのだろう。静聴している。

「というわけで、この仮初の世界『ミニ幻想郷』が、我々から君たちへ提供できる物のひとつ。
 そして、もうひとつ提供できる物がある。それは大会のルールだ。
 だがまあ、これについては皆から参加同意を頂く前に、洩矢神社でガイダンスを済ませてあったな。
 一度説明した事なので、ここでは掻い摘んでの説明に留める」

 神奈子は懐から赤いオーブを摘みだし、参加者たちの関心を誘うように、それを高く掲げてみせた。

「皆にはこれより殺し合いを行ってもらうわけだが、大会を円滑に進めるために、こちらで色々とギミックを用意した。
 たとえば、このオーブだ。実物を見せたのはこれが初めてだったかな? 君たちには、これと同じものを、ゲーム開始と同時に二つずつ支給する。
 ゲーム開始から三時間ごとにこちらから放送を流すので、それまでにノルマとなる数のオーブを、他の参加者から奪うなりなんなりして集めてくれ。
 放送毎に、ノルマをクリアしていなかった参加者は即失格だ。これについては、私も厳しく裁くつもりなので覚悟するように。
 また、オーブをたくさん保有する事のデメリットは、われわれ主催者に刃向う参加者にしか働かない。メリットの方が断然多い。
 ミニ幻想郷の各所に配置されたガチャガチャで、オーブを強力なアイテムガチャと交換する事も可能だ。
 単独勝利を狙うならば、他の参加者たちからオーブを簒奪して回るがいい」

「それと」と言って、神奈子はその場から宙に浮いた。着地した。
「能力制限の話はいいな。君たちは力の差がありすぎるから、こちらで適当に制限を課した。
 あらゆる能力の行使には、相応の体力を消費する。過労死もあるよ。ここら辺は、シビアな調整を施した」

「あと最後に、勝利条件についても話しておこうか」
 神奈子がそう切り出すと、参加者の一部が目の色を変えた。神奈子は好戦的にほくそ笑んだ。

「気づいてる者は気づいてると思うが、このゲームの勝利条件はかなりややこしい。
 大会ルール規定第一章二節、
 一条、参加者全員でサバイバルゲームを行い、ゲーム終了時まで生き残っていた者が勝利を得る。
 二条、ゲーム終了は、八坂神奈子がこれ以上のゲーム続行を不可能だと判断した時点。

 つまり、たとえば参加者が残り一名になった時、私はこれ以上のゲーム続行を不可能と判断して、ゲーム終了を宣言する。
 そうなった場合、最後まで生き残った一人が勝者となるわけだが―
 ……。まあ、これについては、私の口からあまり長々と説明するのも無粋だな。後は各々で考えてくれ」

 ここまで述べると、神奈子は参加者たちの様子を目ざとく探った。
 大会進行役である自分を倒せば、その時点でゲーム続行は不可能となり、生き残ったすべての参加者が勝利を手にする、という隠し勝利条件に気づいている者が何人いるか。
 また、自分に対して敵対的なスタンスを貫く者が何人いるだろうか…。

「……ルール説明も以上だ。さて、これにて説明事項はすべて済ませた事になる。
 だが、バトロワごっこのオープニングセレモニーは、まだ終わりじゃないぞ」

 神奈子は血だまりから先程の拳銃を拾った。ベレッタM92Fという自動拳銃だ。弾はまだ十五発分、入っている。
 参加者たちの一部が、不穏な気配を察して警戒の構えを取った。

「あと一分で午前六時だ。すると、君たちは支給品と共にテレポートでランダムに飛ばされる。ゲーム開始だ。
 だが、私にはまだやり残したことがある。
 考えてもみてくれたまえ。私は主催者の一人であり、今大会の進行役だ。ゲーム開始後も『ミニ幻想郷』の紅魔館に陣取り、大会のつつがない進行のため尽力する。
 監視スキマとオーブ探知機で君たちの動向をひたすらモニタリングし、大会運営の邪魔になる行為を検知しては、そいつのオーブを爆破して警告を与えるのだ。
 つまり、原作の『バトル・ロワイアル』で言えば、私は坂持金発と同じ役回りという事になるわけだが――ところで、アイツはゲームの最初に何をした?」

 ゲーム開始まで残り四十秒。参加者たちが、神奈子の周囲から一斉に下がる。
 神奈子は銃の引き金に人差し指をかけて、その感触を確かめた。

「――ふっ、そうさ。見せしめだよ。見せしめ。ほら、国信君を射殺しちゃっただろ?
 いやー、楽しみだなあ。ゲームを開始したら、君たちの行動にはなるべく介入しない事に決めてるからさ。
 やるなら、ここしかないんだわ。――と、いうわけで」

 ゲーム開始まで残り三十秒。神奈子は参加者たちに銃口を向けて、にかりと笑った。

「ようこそ、バトロワごっこへ」

 発砲。金切り声が上がり、怒号が起こった。逃げる者と逃げる者がもみくちゃになり、辺りはパニックに陥った。
 ゲーム開始まで残り十五秒。
 続けざまに、発砲を繰り返す。ヒステリックな悲鳴が増した。右往左往、押し合いへし合い、よろめき、つまづき、転倒する者まで現れた。
 発砲、悲鳴、発砲、悲鳴―
 そして、ベレッタの装填が空になる頃には、もはや誰もいなくなっていた。

 * * *

「まったく、無茶するわね」
 通信用のスキマから、八雲紫が飽きれ声で話しかけてきた。

「別に、誰も撃っちゃいないさ。ただ脅かしてやっただけだ」

「なんで、わざわざ挑発するような真似を?」

「こちらへ刃向ってきてくれた方が面白いだろ? ……ま、あんたには分からないか。こういうのは好みの問題だからな。
 だが今大会の進行は私の務めだ。これからも、私の流儀で仕切らせてもらうぞ」

「じゃ、お好きにどうぞ」通信が切れた。

 神奈子はスキマを懐に仕舞いながら、ふと考えた。八雲紫はどうして今大会の主催者を引き受けたのだろう。
 そういえば、まだ正確な理由を聞かされていない。
 やれやれ背中にも気を付けないとな、と神奈子は苦笑いした。

【バトロワごっこ 開幕】

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