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そりゃさ、誰もが……とまでは言わないけれど、こんな妄想したことある人は少なからずいるでしょ?
自分たちの学校が、突如(目的不明の)テロリストに占拠されて、そいつらを相手に自分が八面六臂の大活躍!……とか。
普段はさえない普通の学生だけど、実はその内に秘めたる力を持っていて、秘密裏に闇社会からの襲撃を撃退してる!……とか。
あとは――



 ◇   ◇   ◇



先日ふらっと立ち寄った古本屋で、異様な存在感を放つ黒い表紙の本を私――宇佐見蓮子は手に取った。
タイトルは『バトル・ロワイアル』という、なんとまあド直球なものだ。
ずいぶん大昔のベストセラーなんだそうだが、さすが学生街の古本屋は格が違った、1冊10円で手に入れられたのだから。
表紙とタイトルだけで買ってしまったこの本を、待ち合わせの暇つぶしにでも、と買ったのだ。
……もっとも、私の場合は待つよりも待たせることの方がずっと多いのだけれども。

600ページをゆうに超える重厚感。
中学生に国家が殺し合いをさせるという、一見荒唐無稽ながらも生への渇望を色濃く描いたストーリー。
40人以上の生徒に描かれたバックグラウンドは、早期に退場した者でさえもまずまずしっかりしたもの。
真剣にかじりついて読み耽る、というほどではないが、暇つぶしに読むにはもってこいのエンターテインメントだった。

今日も今日とて、私は自室のベッドの上でこの本を読み進めていた。
すでにページは2/3近くを消費し、42人いた生徒は残りが17人となっていた。
場面は、友人である三村信史らの死を知った杉村弘樹が、想い人である琴弾加代子を探して奔走するところである。

先の展開を気にしながら私は考えた。
仮に、私たちがこの"プログラム"に参加させられたりしたらどうするのかな、と。
もしもメリーが同じように参加させられ、離れ離れになっているとしたならば。
私はこの小説の中の杉村と同じようにメリーを探して走り回るのかな。
それとも、主人公らしい七原秋也のように主催者に対抗するためにチームを組んで団結するのかな。
あるいは、桐山和雄や相馬光子みたいに"奪う側"に回るのかな。

もしも自分がゲームに加わったらという、そんな他愛もない妄想をしていると、不意に眠気に襲われた。
ベッド傍の時計に目をやると、長針と短針は共に時計のてっぺんを過ぎていた。
星を見れば時間が分かるというちょっとした特技を持っている私だけど、夜空の見えない室内では時計に頼るしかない。
そういえば明日は1限から授業だっけ、メリーとも昼休みに学食で待ち合わせて、それから……
そんなことに思いをめぐらしながら、もうひとつ大きく欠伸をした私は、そのまま眠りへと落ちていった。



 ◇   ◇   ◇



どれだけ眠っていたのかは分からない。
いや、もしかしたらこれは夢の中の出来事なのかもしれない。
だって、気がついたらそこは私の部屋ではなく、見知らぬ女の子たちが集まる部屋だったのだから。

年の頃は、私よりも下のような外見の子が多い。
中にはまるで虫みたいに触覚を生やした子や、鳥のような羽を生やした子、鬼のように角を生やした子などなど……
何これ? 新手のコスプレパーティーか何か?
それとも、年齢層的にはガールスカウトの仮想パーティーとか?
どちらにしても、そんなところに何で私がいるのかが分からない。

私が座ったまま周りをキョロキョロと見渡していると、「おや、お目覚めかい?」と後ろから声が聞こえた。
振り向いた私の視線の先には、まるでネズミのような耳と尻尾を生やした女の子が一人。
この子もコスプレか何かなんだろうか、そんな私の胸中を知ってか知らずか、その女の子が続ける。

「君だね? 幻想郷の外から招かれた"ゲスト"のうちの一人ってのは」

はい? 幻想郷? ゲスト? いったい何なんですか?
頭の中をいくつものクエスチョンマークが駆け巡る。

目の前のミッ○ーマウス風のコスプレをした少女はナズーリンと名乗った。
何ですか日本語ペラペラなのに、そのシベリア風のお名前は。
あぁ、きっとアレね、ハンドルネームってやつだ。
つまり、ここは世に聞くコ○ケのコスプレ会場……って、そんなとこに何で私がいるんだろう。

いやいや、発想を転換しよう。
このナズーリンって子の言う幻想郷……ってのはつまりいかがわしいアレなお店の名前かもしれない。
つまり、その変わった名前は源氏名、ってわけでそんなとこに攫われてしまった私はあんなことやこんなことを……
嗚呼親愛なるお父様お母様、道に外れた娘をお許しください。

「いやああああぁぁぁぁーーーーっっっっ!!!!」

たまらず悲鳴を上げてしまった私に、会場中の少女の視線が集まる。
今まで私のことに気がついていなかった子たちまでぞろぞろと集まってくる始末。
あぁ、これから私は生まれたままの姿に剥かれてしまうのね、さようなら私の純潔。

「誰この人?」
「見かけない顔ね」
「ひょっとしてこれが外の世界から連れてこられたって人のこと?」

奇異なものを見るように私を取り巻くいくつもの視線。私は頭を抱えてうずくまるしかなかった。
そうよね、魑魅魍魎渦巻くお水の世界から見れば、私が今まで暮らしていたのはまさしく外の世界。
もう煮るなり焼くなりして好きに食べればいいじゃない(性的な意味で)!

「あの……申し上げにくいのですが、貴女は何か勘違いしています」

妙なアクセサリーを身につけた一人の女の子の声が、私を現実へと引き戻した。



 ◇   ◇   ◇



「……信じていただけたでしょうか?」

心を読むという古明地さとりと名乗る少女の言葉に、私はただ頷くことしかできなかった。
心を読む、だなんてそんな映画や小説じゃあるまいし、と思っていた私の鼻っ柱はポッキリとへし折れている。
なにせ、この子は初対面だってのに次から次へと私の思うことをズバズバ言い当ててきたのだから。
どこぞの興信所の回し者かと思ったけど、メリーでさえ知らないようなことまで的中させたのには流石に面食らった。

「ここ、幻想郷は貴女の考えるような、そんないかがわしいところではないという所だということを」

さっきまでの思考もまるっと読まれていたみたいで、私の顔がたちまち赤くなる。
思わず俯いてしまったところで、先ほどのネズミ少女、ナズーリンが戻ってきた。

「やれやれ、やっと行ってくれたよ。まったく、見世物じゃないってのにねぇ」

ナズーリンがため息をつきながら呟いた。
周りを見ると、先ほどよりはずいぶんと取り巻きの子が少なくなっている。
どうやら人払いをしてくれたようだ。

「どうだい? 話は飲み込んでもらえたのかい?」
「いえ、もっと詳しいことはこれから」

さとりとナズーリンの二人が言葉を交わす。
それにしても……今私のいるこの場所が妖怪たちの楽園である幻想郷だなんて。
目の前のさとりが自分の心を完璧に読む芸当でも披露しなければ、鼻で笑い飛ばしていたところなのに。

「それにしても、君の能力はデモンストレーションに打ってつけだね」
「えぇ。まさか、巫女や魔法使いでもない普通の人間に弾幕を展開するわけにもいきませんでしたから」
「あの……」

"弾幕"なる、また未知の単語が耳に入り、私は言いようのない疎外感を感じていた。
そんな私に気づいたか、二人がこちらに向き直る。
そして、さとりが私の目をじっと見て語りかけてきた。

「さて、今貴女のおかれている状況が、少しは理解できたでしょうか?」
「理解も何も……じゃあ、二人とも妖怪ってこと?」
「まぁ、平たく言ってしまえばそうだろうね。一部の例外を除けば、この場にいる面子のほとんどは人外さ」
「いや……妖怪、っていうともっとおどろおどろしいイメージがあったから、ちょっと意外、というか……」

改めて周りを見渡してみる。
パッと見では誰も彼も年端も行かないような少女だというのに、見た目とは裏腹にその大半は私よりもよっぽど長生きらしい。
そして、そんな外見でありながら、ヒトの肉も食らうような妖怪が少なからずいるという事実に、思わず背筋が寒くなる。

「……それで? そんなところに部外者である私を招いてどうし……」
「コレです」

私が全てを言い終わる前に、さとりが懐から一冊の本を取り出した。
それは見覚えのあるあの黒い表紙……もっとも、私のように年季の入ったくすんだものではなく、ピカピカの新品なんだけど。

「コレが今の幻想郷での大ベストセラーですよ」

傍らのナズーリンも同じように本を手にしていた。
それじゃ……私は大昔のベストセラーをたまたま読んでいたがために、ここに連れて来られた、ということ?
だけど、そんなことで連れて来ていったい何をさせようと……
そこまで考えたところで、大きな声が私の思考を遮った。

「あー、あー、テステス。よし、出てるね」

声のする方を見ると、一段高いステージに二人の女性が立っていた。
そのうちの一人、注連縄をつけた女性がマイクを手にすると、会場中の視線が一斉に集まり、ざわめきが起きる。

「お待たせしました、おはようございます! みんなー! 燃えているかー!」

その声に呼応するかのように、会場のあちこちから「おー!」と大きな声が上がる。
いきなり始まったイベントに、またも私は戸惑いを隠せずに辺りをきょろきょろ見回すことしかできない。

「どんなことをしても、生き残りたいかー!」
「おー!」
「罰ゲームは、怖くないかー!」
「何それ!?」「聞いてないわよ!?」「ちょっと、どうなってんの!?」
「いやいや、冗談冗談」

往年のバラエティ番組を模したその進行の前に、歓声が怒号へと変わっていくのを目の当たりにした。
……ちょっと待って。
あの本があって、こんな開会式めいたことをやっている、ってことは……

「そう。お察しの通り、これから始まるのですよ、"プログラム"が」

皆まで、どころか一言も言わないうちにさとりが私の心を読んで返事をする。
先ほどまでは努めて冷静に振舞っていた彼女も、心なしかやや顔を上気させており興奮は隠せないようだ。

「い、いや、ちょっと待ってよ!? 何!? いきなり訳分かんないとこに呼び出されて、いきなり殺しあえって?
 それも妖怪と!? そもそもなんでみんなそんなにやる気なの!?」

慌てふためく私を見て、ナズーリンがくすくす、と笑みを浮かべると、さとりに問いかける。

「君もなかなかどうしていい性格をしてるね。肝心要のところを教えないなんて酷いじゃないか」
「……どういうこと?」

ナズーリンの言葉に、思わず私はきょとんとしてしまった。

「何も本気で殺し合いをするわけじゃないさ。そう、これは"ごっこ遊び"なんだよ」

そう話すナズーリンの顔には、さっきのさとりと同じ種類の笑みが貼り付けられていた。



 ◇   ◇   ◇



こんなイベントを開くことになった経緯を、さとりとナズーリンの二人がつぶさに話してくれた。
幻想郷で『バトル・ロワイアル』が大流行し、自分たちもやってみたい!、そう思う妖怪が急増したらしい。
だが、閉ざされた環境である幻想郷でそんな催しが行われることは、コミュニティの衰退へと直結する。
とは言え、そうした流れに逆らえないほどに、"プログラム"開催を望む声は高まるばかりだった。
そこで、この本を持ち込んだ張本人である、舞台上の女性――八坂神奈子という神様が立ち上がった。
一種のガス抜きとして企画されたこのイベントには、格好の暇つぶしとして大きな反響があったらしい。

「本当なら、私はペットたちが暴走してしまわないよう監視するためにエントリーしたんですけどね。
 幸か不幸か、あの子達は抽選で落っこちてしまったわけですが」

さとりが苦笑した姿が印象的だった。
とにもかくにも、70人を超えるエントリーがあり、それを厳正な抽選の結果半分に絞ったらしい。

そして、ここ幻想郷では日常から少女たちの間で"弾幕ごっこ"なる決闘が行われているんだそうで。
彼女たちにとって、これから行われる"バトロワごっこ"も、それの延長線上として捉えられているようだ。
普段とはちょっとルールを変えて行われるこのイベントに、注目が集まっているのももっともなことらしい。

だけど、ごっことは言え身体的被害を受けるのではないか。
嫁入り前の体に傷でも負わされたらいったいどうしてくれるの。
そんな私の思考を読んでさとりが教えてくれた。

「ご心配なく。私たちがこれから赴くのは一種の箱庭のようなものです」
「そこには私たちの分身が配され、そこに魂を飛ばして動かしあうのさ」

すかさずナズーリンが補足を入れる。
事情も飲み込めない私に、この二人が一種の良心として説明役をあてがわれたのも頷けた。
そして、この箱庭の中では妖怪の持つ力も大きく制限されるらしい。
そうでないと、私のようなか弱い一般人に勝ち目なんて無いんだけどね。

「……なんとなく事情は分かったわ……けど、それならあなた達だけでやってればいいじゃない。
 何でわざわざ部外者である私まで巻き込んでやろうって言うのよ?」
「それはアレさ。私たちも常に新たな刺激は欲しいからね」

ナズーリン曰く、日ごろからの弾幕ごっこの結果、お互いの手の内はある程度知れ渡っているらしい。
そんな中、未知の存在である私はいわばスパイスのようなものだそうだ。
たまたま古本屋であの本を手にした私の思念を、どうやってか知らないけど感知して連れてきた。
つまるところ、私はある種貧乏くじを引かされたようなものなのかもしれない。

「安心しなよ。このイベントが終わったらちゃんと元の世界に帰れるだろうから」

今回の私のケースでは、意図して幻想郷に迎え入れているのだけれども。
世間一般で言うところの神隠しのような形で、幻想郷に迷い込む人間は少なくないのだそうだ。
中でも、自分の人生に絶望したようなヒトが、この幻想郷に住まう妖怪たちの食糧となっているとか。
ただ、そうでもない限りは、きちんとした手順に沿って元の世界に帰されるらしい。
ナントカの巫女とかいう、それ専門の巫女さんがいるらしいけど……
この十数分で未知の単語を数多く耳にした私には、流石にオーバーヒート気味だった。
普段の学校の講義の方が、まだよっぽど頭に入ってくるような気がする。

「……それで? そのゲストってのが私ってことなのね」
「いえ……確かもう一人いるとか……」
「どういうことですかっ!」

舞台上では、依然として注連縄の女性によるルール説明が続いていた。
それを遮るかのように発せられた大きな声に、また会場中の注目が集まる。
この声に反応したのは、舞台上にいながらもこれまで沈黙を守り続けていたもう一人の女性だった。

「あら。もうお目覚めですか。折角ですからもう少しお休みになっていればよろしかったのに」
「黙りなさい。いったいこんな下劣な催しに巻き込むなど何のつもりです、八雲紫!」

ヤクモユカリ、と呼ばれた女性がニコリと微笑む。
それに対し、舞台下から怒鳴りつけたのはポニーテール姿の別の女性。

「へぇ。あれが噂の月人様」
「心を読まずとも、お怒りなのが分かりますね」
「げ、月人?」

私の他に招かれたもう一人のゲスト、それが彼女らしい。
なんでも月に住まい、高度な文明を築き上げた(私たちの文明など一瞬にして滅ぼせるほどの軍事力を持つらしい)とか。
そんな月に対し、幻想郷の妖怪が過去2度に渡って戦争を仕掛け、共にコテンパンにやられたそうで。
これら全てが伝聞系なのは、さとりもナズーリンもどちらの戦争にも関わっていなかったからだと説明してくれた。
とにもかくにも、そんな敵対勢力の幹部を呼び寄せたのだそうだ。
いろんな意味で、私とは格が違いすぎるというのに何でだろう、そう思ったところでまたもさとりに心を読まれた。

「一種の当てこすり、あるいは意趣返しと言ったところでしょうか」
「どういうこと?」
「戦争でのされた仕返しを、このゲームに巻き込むことで晴らそうってことかな」

なかなか人間味があるじゃない、とナズーリンがにんまりしている。
あの紫とかいう大妖怪(らしい)の意外な一面を垣間見たことによる笑みなのだろう。
だけど、私はナズーリンやさとり以上に二人の間の因縁など知る由も無い。
ついさっきまで月に住む人がいることは愚か、妖怪が住まう空間があることさえ知らなかったのだから。
呆然と見つめることしか出来ない舞台上で、二人の言い合いは続く。

「そもそも、疑似体験とはいえ殺し合いを行わせるなど言語道断!
 これだから穢れに満ち満ちた地上の民は困るのです!」
「固いこと言わないで欲しいわねぇ。時にはガス抜きも必要ではないかしら?」
「ガス抜きも何も、あなた方が自分でガスを充満させただけではないですか! 自業自得です!」
「んもぅ、やっぱりこうなるんだから。もっと眠っていてくれたらよかったのに」

どうやら、私以上に強引なやり口でここに連れて来られたらしい。
……どんな手を使ったのかは知らないけれども。

「そもそも、今のあなた達はある意味では私たちのお目溢しで生き長らえていることを忘れてもらっては困ります!
 その気になれば、こんな穢れた地など……」
「一瞬にして塵芥に変えることが出来る、そう言いたいのかしら?」

舞台袖から二人の女性が入ってきた。
声を発したのは、見るからに高貴な雰囲気を漂わせた女性の方だった。
舞台下のポニーテールの女性が途端にかしこまったか、背筋を伸ばしなおして新たな女性と向き合う。

「困るわ、依姫。貴方の言う"穢れた地"にもう数百年も居ついてしまった私たちにはもう、ここ以外に行くあては無いのに」
「私と姫の居場所を奪う権利が貴方にあるのかしら?」

高貴な女性の背後に付き従っている、ナース帽のようなものを被った女性が合わせるようにして憂いを帯びた声で語る。
"姫"と呼んでいることから、この二人が一種の主従関係にあることはなんとなく読み取れた。
……てか、さらりと何百年とか言ってるんですけど、もうその辺の感覚が麻痺してきたような気がする。

「ぐっ……おのれ卑劣だぞ八雲紫……! 八意様と輝夜様を盾にするなど」

依姫、と呼ばれたポニーテールの女性が悔しさをかみ殺すかのような声を発する。てか、貴方も姫なんですか?
で、"かぐや"とか聞こえたんですけど、これってもしかしてあの"かぐや"ですか?

「あら、決して強要などしていませんわ。彼女たちは自らの意思で私たちに力を貸してくださっているのですから」

仇敵を出し抜いたことで、愉悦を滲ませた笑みと共に紫が話す。
結局不利を悟った依姫が、この場は矛を収める決断を下したようだった。

「……覚えていなさいよ」
「あー、おしゃべりは終わったかい? ルール説明も途中だからね、続けさせてもらうよ」

一連の流れを傍観していた神奈子が場を取りまとめた。



 ◇   ◇   ◇



「……以上だ。何か質問のあるやつはいるかい?」

改めて最初から行われたルール説明を、私は頭の中で反芻する。
まず、"第二幻想郷"なる箱庭を舞台に、私たちの意識を移した"アバター"がこのサバイバルゲームを行うこと。
そして、現地での様々な出来事は、私たちのいる今の世界には何ら影響を及ぼさないということ。
第二幻想郷では、各々の力がかなり制限されるということだけど、恐らく私には関係の無い話……よね?

失格になる条件は、命を落とすようなダメージを負った時、あるいは力の使いすぎでエネルギー切れを起こした時。
そしてこれが小説とはまったく違うところで、それぞれに与えられたオーブを一定数集められなかった時。
つまり、生き残るためには否が応にもオーブを奪うために誰かに接触しなきゃいけないのだ。
世間一般の女子大生並みの腕力しか持たない私にとってはこの条件がちょっと厳しい。
自分で言うのもなんだけど頭は回るほうだけど、果たして私の常識がこの異世界でどこまで通用するかは分からない。

さらに言えばそのオーブは単純に生き残るためでなく、武器と交換することも可能なんだとか。
いったいどんな武器が与えられるのか、私が生き残るのには重要なところだ。

優勝したものには願いを一つ叶える(主催者の出来る範囲で、という注釈はついたけど)権利が与えられるらしい。
さっきナズーリンが言っていたけど、私が元の世界に帰る権利は担保されているのよね?
まさか優勝しないと帰れない、なんてことは無いわよね……?

「よーし、特に無さそうだね。それじゃあ、みんな集まってくれ」

その事を質問しようかどうしようか迷っているうちに神奈子に締め切られてしまった。

「いよいよだね」
「えぇ、そうですね。それでは蓮子さん、行きましょうか」

巻き込まれてしまった私と、なんやかんやで乗り気のナズーリンとさとりでは意識の差が歴然としている。
二人に手を差し出されて引き起こされるまで、私は座り込んだままだった。
いったいこれからどうなっちゃうのか、憂鬱な気分でとぼとぼと私は歩を進めた。

「それじゃ、この箱庭を囲むように全員手をつないで輪になってちょうだい」

視線の先にはよく出来たジオラマのようなものが鎮座していた。
どうやらこれが"第二幻想郷"というものらしい。
私の右手はナズーリンが、左手はさとりが繋いできた。
こうして箱庭を取り巻くように、30人くらいの女の子がぐるりと大きな輪を作り上げた。

ちょうど私の向かい側にいたのがさっき紫とやり合っていた依姫という月人だった。
なにやら焦燥感に駆られているのが、パッと見でも分かる。

「……どうやら、こんなくだらない戯れなどさっさと終わらせてしまおう、そう考えているようですね」
「ふむ。つまり、ある意味では彼女もやる気だという事なのかな。蓮子、君も彼女には気をつけたほうがいいね」

依姫の心を読んださとりに、ナズーリンが同調するが、私はそれに黙って頷くことしか出来なかった。

「全員手は繋いだね? ……それじゃ、よろしく頼むよ、パチュリー」

神奈子に促され、パチュリーと呼ばれた少女がこほん、と一つ咳払いをしながら舞台上に現れた。
その手には分厚い本が握られており、それをパラパラとめくりながら私たちに告げた。

「……今からみんなの意識を、この"第二幻想郷"に飛ばすわ。
 くれぐれも術式の詠唱中は手を離さないでちょうだい。安全が保障できなくなるから」

淡々と発せられた警告に、私はさとりとナズーリンを掴む両手にさらにグッと力をこめる。
もうここまで来ると後戻りは出来ないのだから、黙って身を委ねるしか選択肢が無い。
私が聞いたことも無いような言語をひとしきりパチュリーが羅列し、最後に右手を高々とかざした。
瞬間、会場が光に包まれ――私は意識を失った。


【バトロワごっこ 開幕】
【残り 34人】
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