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「今日は、皆さんにちょっと、殺し合いをしてもらいまーす」


シンと静まった教室の中、教壇の上から神奈子の声が響き渡った――。




人里は慧音の寺子屋。その教室の一つ。
普段敷かれている畳は全て取り払われ、
剥き出しの板の間には勉強机と椅子が並べられている。
その数、34組。


外へ続く襖は全て閉じられ、窓にも幕がかけられていた。
風で壁がギシギシと鳴る。
どこから持ち込んだのか、天井には蛍光灯が吊るされていた。
黒板の上には丸時計。チッチッチッチと時を刻む。
黒板の前には教壇。そして木製の教卓。


そこに両手をつき、教室内を見渡すのは八坂神奈子。
席に着いた面々の表情は硬い。
みんな現状を理解できていないのだ。戸惑っている。
そして誰も何も喋らない。


ガタリ


痛いほどの静寂の中、立ちあがった者がいる。霧雨魔理沙だ。
おいやめろ。誰かが小声で制した。
だが魔理沙は震えながら口を開く。


「ま、まさか…………」












「……その台詞が言いたいためだけに、私達をここに集めたのか?」

一瞬の間を置いて。
教室内はコソコソ話で満たされた。


(やっぱそうなの?)
(ホラ、神様って案外目立ちたがりだから)
(天人に言われちゃおしまいよね)
(でも一度は言ってみたい台詞だよねアレ)
(わかるわかる)
(原作にできるだけ忠実にするって宣伝してたしね)
(けどやりすぎじゃない? こう、ポーズまで付けてちゃってさ)
(キリッって顔してた。キリッて)
(なんか自分の領域に浸ってたよな)
(あれはちょっと恥ずかしい)
(ここだけの話、八坂さまはたけしファンですからね。大目に見てあげてください)
(誰? サカモチじゃないの?)
(それにしても突然すぎよね。まだ日の出前よ?)
(驚かしたかったんじゃないの)
(確かに驚いた。まさか屋敷からいきなり拉致られるとは思わなかった)
(あれ白狼天狗? なかなかいい動きしてたわよね)
(門番に雇ったら? きっといい仕事してくれるわよ)
(ちょっと真剣に考えたいわそれ)
(40秒でいいから支度する時間が欲しかった)
(じゃのう。儂、今朝まだ尻尾の手入れしてないのよ)
(私、お鍋を火にかけっぱなしです)
(私なんて寝巻のまま引っ張ってこられたわよ)
(徹夜で実験してこれから寝る所だったのに……)
(歯を磨いている最中に突然……)
(迎え酒の最中にいきなり……)
(サボり中に無理やり……)
(仕事しなさいよ)
(つーか寒い。マジ寒い)
(暖房ないのかしらこの部屋)
(こんな時にお空がいてくれたら……)
(それはやめて)
(ちょっとチルノちゃん寝ちゃダメだよ起きて)
(お子様には早すぎる時間みたいねぇ)
(むにゃ……あたいお子ちゃまじゃないもん……)
(目覚めのソロライブいる?)
(それもやめて)


~ がやがやワイワイやいのやいの ~

シリアスな空気はどこへやら。
教室の中は一気にゆるい雰囲気に包まれた。

そこから一人取り残されているのは壇上の神奈子だ。
せっかく原作のあのシーンを再現したのに。
今回のルールは元のそれからかなり離れてしまったから、
せめてオープニングだけでもそれっぽくしようと頑張ったのに。

男っぽく低い声を出す練習もしたし、
台詞のイントネーションだって研究した。
昨日も夜遅くまで諏訪子と早苗に見てもらって、
自分でも完璧な"殺し合いをしてもらいます"宣言になったと思うのに。

それを『浸ってた』とか……。
ちょっと自覚があるだけに余計に恥ずかしくなる。
あと早苗の気遣いが心に痛い。

気恥ずかしさは怒りに転化。
おのれ私の努力を。
神奈子の表情が、昔まだ戦神としてブイブイいわせていた頃のそれに変わる。


「だぁぁぁぁっっまれぇぇぇぇいっ!」


神奈子の大音声に、ザワメキがピタリと静まる。
それを見て神奈子はニヤリと笑う。犬歯をむき出しにして。

「フッフッフ。いいだろう上等じゃないか。
 主催とか信仰獲得とかいう手前もあるし、
 温厚な監督役で行こうかと思っていたけど、やめだ!
 この東方バトロワごっこ。
 ごっこという名の通り、遊びに過ぎない。
 だけど主催者として、可能な限り原作のシビアさを演出していくつもりだ。
 それに対して何だ? この参加者の締まらなさは。
 そうだね、まずは最初に、
 このゲームがそこまでぬるくないって事を分からせてやろうか!」

神奈子は教卓の裏側に隠されていたスイッチを押した。
ブシューーーーーーー。広がる煙。
慌てて口を押さえる者もいるが、無駄だ。
このガスは八意印の特別製で皮膚から浸透する。
欠点は……これだと状況的に神奈子も昏倒する点だ。

(さて……第二幻想郷の起動は任せたよ……)
薄れゆく意識の中で、神奈子はもう一人の主催者に語りかけた。


――次に目覚める時、東方バトロワごっこが始まる。




 ◇   ◇   ◇



『あーあーあー。聞こえているかー? 聞こえてない奴は返事しなー』


――無茶言うなよ。


霧雨魔理沙はまどろみの中でツッコんだ。


そのツッコミで意識が覚醒した。


「ん……どこだ、ここ?」

起き上がり、傍に落ちていた帽子を拾う。
どうやら自分は、倒木にもたれかかるように眠っていたらしい。
森の中の小さな空き地。
倒木の分だけポッカリ空が見えている。
まだ太陽が昇ったばかりらしい。眩しい水色だ。
チチチと遠くで鳥の鳴いている。
それに覆いかぶさるように八坂神奈子の声が幻想郷中にこだました。

『えー。それではこれから"東方バトロワごっこ"を開始するー。
 色々あってルール説明その他が省略になったがー、
 文句は受け付けないからそのつもりでー。
 どうしてもという奴はー、参加者名簿の裏にルール一覧が書かれてるから、
 そちらで確認するようにー』

どうやらこれが『放送』という奴らしい。
何ヶ所か、別々の場所から響いて聞こえる。
どんな魔法だろう。
そんな事を考えているうちに頭がハッキリしてきた。

そうだ。私はバトロワごっこの参加者に選ばれたんだったな。
それで朝キノコ採りに出かけた所を天狗に捕まり、
上白沢の寺子屋に連れてかれて、そこに他の参加者もいて、
なんか八坂神奈子が逆ギレして。

「開始ってことは、ここは第二幻想郷なのか?
 幻想郷とあんま変わらないな」
「そうね。よくできてると思うわ」

独り言のつもりで言ったのに答えが返ってきてビックリ。
そしてそれがよく知る者の声で、二度ビックリ。

「はぁい魔理沙。見事な気絶っぷりで」
「霊夢!?」

倒木の端に腰かけるようにして、博麗霊夢がいた。

「……え? なにその格好」

なぜか霊夢は襦袢一枚の半裸。
そしてとても機嫌が悪そうだった。

「なにって寝巻よ。寝てた所を、布団に簀巻きにされて運ばれてきたの」

眉間の皺を揉みほぐしながら霊夢が言う。
どうやらまだ眠気が取れないらしい。

「はー。そりゃ災難だったな」
「全くよ。
 ほんっと。始まるのが突然すぎるのよ。
 紫も今回の"ごっこ"の事はろくに教えてくれないし」

そりゃ主催者的に仕方ないんじゃないか?
と魔理沙は思ったが口には出さないでおく。
寝起きの巫女は冬の熊より危険なのだ。

「で、どうすんの? すぐバトる?」
「いやいや。だってお前そんなかっこだし。
 またにしようぜ。ゲームはまだ始まったばかりなんだからさ」
「……そうね。その方が助かるわ」

そういうと霊夢は足元からディバックを拾い上げ、
魔理沙に放ってきた。「それ、あんたの分」
今すぐに戦うと答えていたら、
こんなにアッサリ渡してはくれなかっただろう。
本当に油断も隙もない。
急いでディバックを肩に掛けながら魔理沙は尋ねた。

「私はとりあえず自分の家に行くけど、霊夢はどうする?」
「私も一度博麗神社に戻るわ。着替えないとだから。
 その後はそうね、あのガーガー言ってる監督役さんに、
 文句の一つでも言いに行ってこようかしら」
「ハハハ。そりゃいいかもな」

放送はまだ続いている。
ふと、その音量が上がった。

『そうそうー。既に知っていると思うがー、
 私、八坂神奈子は監督役として妖怪の山・守矢神社境内に常駐しているー。
 仕事はー、ゲームの円滑な進行を行なう事ー。
 この"ごっこ"を無事に成功させるためにもー、
 "ごっこ"の進行を不当に妨害する不届き者は許さないーからそのつもりでー。
 またそのためにちょっとした力を持たされているがー、
 その力を見せる意味でだなー、
 早速に不穏当な発言をしていた数名の手持ちオーブ……、
 最初は一人2個なんだけどー、そのうち1個を爆破しましたー。
 これが「みんな最初から平等。ただし不公平なのも最初から」って奴だー。
 異論は認めないー』


「……」
「……」

二人同時にガバっとバックを開けて中身を確認する。
そして同時に顔を見合わせ、同時に口を開け、同時に息を吸い込み……、

『あのオンバシラぁーーーっ!』




……こうして東方バトロワごっこが始まった。











【魔法の森・1日目 早朝】
【博麗霊夢】
[状態]:寝起き(でも目は醒めた。もうバッチリ)
[装備]:ディバックの中は未確認
[道具]:オーブx1(=2-1) 着てるのは襦袢一枚(パチェ出動の予感)
[思考・状況]:???


【魔法の森・1日目 早朝】
【霧雨魔理沙】
[状態]:健康花丸優良児
[装備]:ディバックの中は未確認
[道具]:オーブx1(=2-1)
[思考・状況]:???
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