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『情けは人のため為らず』




 魂魄妖夢には夢があった。
 一流の剣士になると言う夢があった。 
 修練を重ね幾星霜。
 鍛えど鍛えど果てしなく。
 目指す背中は遙かな高みにあった。



 紅魔館の赤い部屋から、薄暗い木々の中に放り出され、いよいよ始まったのだと、妖夢は感慨深げに空を見上げた。
 東の空が白じみ、星々は西へ西へと追いやられてゆく。
 木々の中にあって、鳥のさえずりも虫達の声も聞こえないのは異常であったが、冥界暮らしの妖夢にとって、世界は静寂であるのが常であった。
 清冽な朝の空気に包まれながら、これから始まる戦いに思いを馳せ、身の締まる思いがした。

(それにしても、想像した通りだったな)
 擬似的に生き残りを駆けた戦いを行うと言うこの物騒なイベントは、腕自慢がこぞって集まるだろう。
 そう思った通り、名のある実力者が幾人も参加していた。
 大体は博麗神社の宴会で顔を合わせるような者達だったが、気になる人物が一人居た。
(あの人ってもしかして。他人のそら似ってこともあることだし……)
 一応参加者名簿で確認してみるものの、信じられなくて何度も名前を見直した。
 しかし、幾ら見直してもその名前、綿月依姫の名が変わることはなかった。

 綿月依姫。月の守り手にして八百万の神の力を降ろす凄腕の剣士。

 地上を穢れた土地と言い切る月の民がなぜ地上に降り、こんなイベントに参加して居るのか。
「やっぱり、紫様の仕業かな。それとも竹林の月の民か……」
 参加者の中にいると言う事実だけを心に留め置いて、それ以外は妖夢は気にしない事に決めた。
 出会えば、剣の腕を競い合うことも出来るだろう。
 それが純粋に楽しみだった。

(それはいいんだけどね)
 妖夢は改めて、手の中に収まってる得物を見た。
 参加者名簿と一緒に取り出した、妖夢の支給品は、一尺程の煙管であった。
 装飾らしきものはなく、黒漆が塗られただけの質素な作りで、実戦には耐えられそうもない。
(何が出るかは無作為って事だし、仕方ないか)
 まともな武器が手に入らなかった割に、妖夢はあまり落胆していなかった。
(お師匠様もこんな煙管を持っていたな……)
 この質素な煙管を見ていると、随分と遠くなってしまった景色が蘇る。

 今よりもっと幼くて、祖父であり剣の師でもあった妖忌の後ろを追いかけ、修練に励んでいたあの日々。
 何も言わず、妖忌は白玉楼から去ってしまったが、見えなくなった大きな背中を妖夢は今も追い続けている。
 自分は何処まで来れただろう。
 あの背中に何処まで迫れたのだろう。
 妖夢がバトル・ロワイヤルごっこに参加したのは腕試しのためだった。
(そうだ。もし、最後まで生き残れたら、何でも願いが叶うて言ってたっけ)
 妖夢の目が遙か彼方に向けられる。
(もし最後まで残って願いが叶うなら……。お師匠様に会ってみたい)
 会ってどうしたい?
 話したいことなら山ほど在る。訊かせて欲しいことも沢山ある。
 しかし、それ以上に立ち合いたい。
 自分の剣が、どれほどの物になったのかを見て貰いたい。
 心の奥底に燻っていた想いが、妖夢の心に火を灯した。

(よし、まずは色々確かめないと)
 決意も新たに、妖夢は煙管を左手に持ち替え右手を軽く構えた。
 説明では、各人の能力は制限されていると言う話だった。
 ならば、どの程度制限されているかは今のうちに確かめておくべきだろう。
 伸ばした右手から、淡く光る弾が一つ飛ぶ。
 鋭い鏃のような形をしたそれは、六道怪奇。妖夢の霊気で形作られた弾だ。
(とりあえず弾は撃てる。次は……)
 薄暗い木々の中を、幾つもの弾が飛んだ。




 地図を手に歩く因幡てゐは、前方に動く物を見つけて立ち止まった。
 素早く物陰に隠れ、じっと目を凝らす。
 夜行性と言われる兎の視力は、妖怪になりさらに増強され、夜明けの薄明かりの中でもよく見えた。
 木々の間を、淡い光が幾重に連なり残光を引いて飛んでいる。
 スペルカード戦で用いられる、幻想郷の住人にはお馴染みの弾だった。
 どうやらこの先で、誰かが戦っているらしい。
 柔らかな白い毛で覆われた、兎の大きな耳がぴくりと動く。
 微かに聞こえる葉擦れの音以外は、静寂に満ちていた。
(ここからはそこそこ離れてる感じだね、ふむ、さてどうするか……)

 いつもなら、争いから離れる事を選ぶ所だが、今回は少し事情が違っていた。
(とりあえず、顔だけでも確認しておくか)
 てゐは考えた末、様子を見に行く事に決めた。

 近付いて行くとすぐに分かったが、向こうでは戦いが繰り広げられてはいなかった。
 弾は乱舞することも弾幕になる事もなく、一定方向に向かい単発、あるいは数発単位で撃ち出されいる。
 弾の速さを変えている所を見ると、どうやら試し撃ちをしているらしい。
 木々が邪魔でなかなか姿が確認できなかったが、やっと見えたその姿は一目で個人を特定できる特徴的な姿の持ち主だった。

 萌葱色の服を着た小柄な少女の隣に、雲のような半透明の物体が中空に留まっている。
 幻想郷で大きな幽霊を傍らに浮かべているのは、魂魄妖夢の他には居ない。
 その手には妖怪が鍛えたと言う自慢の鋼刀は無く、質素な煙管が握られている。

(これは早速当たりを引いたな)
 こみ上げる笑みをかみ殺し、気付かれぬようさらに近付き、飛び出すタイミングを計る。
 煙管を剣に見立てて構えてみたり、そこから弾を撃ってみたりと、妖夢は動作を一つ終える度に小さく頷いていた。
 暫くすると満足したのか、妖夢は構えを解いて気息を整えた。
(今だ!)
 てゐは勢いよく飛び出すと、胸を張って朗らかに声を上げた。
「幸運を届けに来ました!」




 突然聞こえた朗らかな声に、妖夢は構えを取って反射的に振り向いた。
 蹴らず捻らず、体ごと瞬時に入れ替わるような動きは日頃の鍛錬の賜物だ。
 見ると五間程先に笑顔を振りまくてゐの姿があった。

「今、何て言いました?」
 この距離なら一足で捉えることが出来ると、目測を計る妖夢。
 対しててゐは、笑顔を崩さずもう一度声を上げた。
「幸運を届けに! あっと、話がしたいだけだから抑えて抑えて」
 てゐは両手を大げさに振って、武器を持っていないことを示した。
 戦う気は無い様子に妖夢は一応構えを解いたが、警戒は解かなかった。

「幸運を届けるって何の事?」
 固い声で訪ねる妖夢に、
「私の能力の事は知ってる?」
 あくまでてゐはにこやかだ。
「えっと『人間に幸運を与える能力』だったっかな」
「その通り」
 てゐは満面の笑顔で頷いて見せた。

「でも、そう言う能力は制限されてるのでは?」
 妖夢は先程、弾を撃った事を思い出す。
 出力を高めてみても、思うような威力にはならなかった。
「私の能力は自分で使う訳じゃないから、どこまで制限さてるか。
 それに全部が全部使えないってわけじゃないから、きっと効果はあると思うよ」
 確かにその通りだろうと、妖夢は思った。
 でなければ、弾の一つも撃てしないだろう。

「それに、あなたにとっても良いことがきっとあるよ」
「まぁ、幸運って言えばそんなことですよね」
 どうにも煮え切らない会話に焦れて、妖夢は率直に訊くことにした。
 元より回りくどいことは好みではない。

「それで、幸運をは分かったけど、何が目的ですか?」
「これのことだよ」
 言っててゐが取り出したのは、小さなオーブだった。
「このオーブって何かのアイテムと交換できるでしょ。その時に私がいればきっとお得だと思うよ」
「そんな事言ってたな。でも、それが何か?」

「これはアイテムと交換できるけど、何が出るかは分からない。
 良い物が出るといいけど、使えない物が出たらそれでおしまい。
 あなたの持ってるそれは、あなたにとって良い物かしら?」

 言われて妖夢は、手の中の煙管を見つめた。
「ただの煙管だからね。武器としては使えない」
 素人相手なら十二分に使えるけどね、と妖夢は心の中で付け加えた。

「そうでしょうとも。
 折角アイテムと交換したって、欲しい物が出るかどうかは、運次第って事でしょう?」
「貴方はそれが言いたかったのね」
「そうそう。ほら、お得でしょ」
「むぅ」

 確かにお得かも知れない。
 手元にある武器では心許ないし、どこかで得物を手に入れる必要が確かにあった。
 しかし、てゐの言う事を鵜呑みにしてもいいのだろうか?
 それに、何か裏があるのでは?
 そんな妖夢の疑念を遮るように、
「貴方の愛刀、誰かが先に手に入れてしまうかもねー」
 てゐの言葉が脳に突き刺さった。

「えっ? それはどういうことですか!?」
「オーブで交換できるアイテムは、オーブの数が増えるとよりグレードが上がるってあったでしょ。
 その中に、あなたの愛刀とかうちの姫様の神宝とか入ってるんじゃないかなー」
(つまり、誰かがオーブを交換して楼観剣や白楼剣を持っていってしまうのか……)
 ルールから考えれば当然の話だった。
 しかし、妖夢はその事を完全に失念していた。
 各人の持つ武器が持ち込めない以上、このイベントでは使用が一切できないか、
あるいはオーブと交換で、自分の得物を得ることができるのだろうと漠然と考えていたからだ。

「それに、あなたがオーブを交換しても、愛刀が手にはいるかどうかは運しだい」
 さらに唸る妖夢を見て、てゐはこっそりと心からの笑みを口の端に乗せた。
「だから、私と組まない? きっとあなたには幸運が必要よ」
 それが止めになった。
「分かった。手を組もう」
「そうこなくっちゃ。あと、私は戦わないからよろしくね」

 こうして、二人は手を組むことになった。




 てゐの提案で、二人は最寄りのアイテム交換施設のある『猫の隠れ里』へ行くことを決めた。
 人の手の入らない自然のままの原野に、当然道など無いが、二人の足は淀みなく進んでいる。
 地図とコンパスを手に進む方向を指示するのはてゐで、妖夢は先に立って歩いていた。
 幻想郷にはどんな場所からでも見えるランドマーク、すなわち妖怪の山があり、
山を基点にすれば、初めて踏み込んだ土地でも、幻想郷のどのあたりにいるか大体の検討が付いた。

(まずは成功、単純な奴でよかったよ)
 前を歩く妖夢の背中を見ながら、てゐはほくそ笑んだ。
 この殺伐としたイベントに、てゐは異質な目的を持って参加していた。

 てゐの目的は恩を売ること。

 幸運を授けると言って実力者達に取り入って、イベントが終わった後で恩を返して貰うつもりであった。
 そこへ来て、このイベントのルールは、てゐを歓喜させたのは言うまでもない。
 幸運が得られないと文句を言われれば、能力を制限されているからだと言い逃れができ、
幸運な事があれば自分の手柄にできるのだ。

 さらには、イベントから逃げたければ、オーブを棄てて所定の時間を超えればよいし、
チャンスがあれば漁夫の利を狙うのもいいだろう。
 望みを叶える権利が欲しくない訳ではないが、それは高望みと言う物だ。

(旅は道連れ世は情け♪ 情けは人のため為らずってね)


【D-2 平原 朝】
【魂魄妖夢】
[状態]:気力充実
残り体力(95/100)
[装備]:煙管
[道具]:オーブx2 支給品一式
[思考・状況]
基本方針:腕試しをする。
《備考》
 能力制限は確認済み
1.猫の隠れ里へ行き、オーブを交換してみる。
2.強い者と戦う
3.実戦なので尋常勝負にこだわらない


【D-2 平原 朝】
【因幡てゐ】
[状態]:上々
残り体力(100/100)
[装備]:不明
[道具]:オーブx2 支給品一式
[思考・状況]
基本方針:他人に恩を売る
1.妖夢を利用する
2.危なくなったら逃げる

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