咲桜部屋

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咲桜シナリオ ------------------------------------------------------------------- -----------------------------------------------------------------
咲桜シナリオ ------------------------------------------------------------------- 「隕石……ですか」 『あぁ、世界的な公式発表は八月十五日の午後六時。このままいけば恐らく地球に直撃する』  日にちは八月日、時刻は二十時○○分。上司である先輩である宮月団栗さんから連絡を受けたのは、溜まりに溜まった有給を使って三週間ほど休みを取って家に帰って三日目の夕方だった。 「……大きさと最終スピードはどの程度なんですか」 『直径二十キロメートル、最終速度はおおよそ3,4×10の3乗だ』 「マッハ10……、海に落ちようが陸に落ちようが、全滅ですね」 『あぁ、今から日本、アメリカ、中国、ロシア、インド、イギリスで緊急首脳会議が開かれるみたいだ』 「核保有国が総結集ですか。日本は非公式ですけど」  僕は静かに宮月先輩の揚げ足をすくって、僕は冷静であると大きな大きな見栄を張った。 「こーくん~! ケーキ食べちゃうよぉ!」  一人暮らしであるはずの僕の部屋で可愛らしい大声を上げたのは、今日で四つ下の二十歳となる月島あやめだ。  こちらは地球滅亡の危機について話しているのに、やはりあやめにとってはケーキの方が重要らしい。 『ふふっ、奥さんが呼んでいる。今日はそちらを優先するといい』 「まだ奥さんじゃありませんよ」 『でも、この有給の内に指輪を送るんだろう?』 「……………まぁ、そうですけど」 『あの奥手な木陰くんが結婚ねぇ。まだ子作り行為はしていないのか?』 「奥手ではなく、貞操観念意識が高いと言ってください。行為も……結婚してからでいいでしょうっ」 『それを奥手っていうのさ、アヤメもきっと分かっているだろうに』 「もう僕たちのことはほっといて下さいよ。もう用事がないなら切りますよ」 『あー、木陰くんは怖いねぇ。まぁいいさ。またなにか進展したら連絡をするよ』 「はい、また」  口うるさい上司から、人類滅亡の話を聞いた人間としてはたしかに割りと冷静な気がする。実感がわかないというのが真実だろう。  ゆっくりと携帯をポケットにしまうと、リビングにいたあやめがひっそりと顔を出した。 「こーくん? お電話中だったの? ごめんね、気付かなかった」 「いや、大丈夫。大した話じゃないよ。それよりケーキを食べよう。せっかくあやめの誕生日なんだから」  彼女なりに気を遣った配慮はとてもありがたい、けれどそれは彼女らしくないと僕は思う。  いつだって彼女は思ったことがそのまま口に出てしまうような、そんな可愛らしい女の子なのだから。 「うん! こーくんが買って来てくれたショートケーキ、とってもおいしそうだよ!」 「あやめが好きそうなもの、選んできたつもりだからね。喜んでくれそうで嬉しいよ」  部屋の電気を消して、大きめの蝋燭を二十の誕生日として二本立てると、二人で歌をくちづさむ。  歌が終わるとあやめはたった二本しかない蝋燭を全力の吐息で吹き消して、二人でおめでとうの拍手をする。  僕が暗くなった部屋に電気を灯したときには、すでにどこからもってきたのか片手にフォークを握っている。 「じゃあ、食べようか」 「うん!」 いただきます、と僕が手を合わせると同時に、勢い良くあやめがショートケーキのイチゴを頬張った。  何回か咀嚼しておいしいおいしいと呟く姿を見ると本当に買ってきて良かったなぁ、としみじみする。 「さっきのお電話、誰からだったの?」  ホイップクリームを口いっぱいにしながら、あやめは僕の目を見つめてきた。 「ん~、サンタさん」  きっと『地球が滅亡するんだ』なんて本人に伝えても冗談だと思うだろうし、わざわざ言う必要はないと僕は判断する。 「!? 夏なのに!?」 「あぁ、夏のサンタさんだ」 「すごいね! 赤いの!?」 「真っ赤だね」 「サンタさんかぁー。昔お母さんからサンタはもういないって高校の時教えてもらったけど、やっぱりいたんだね」 「あ、ごめん間違えた。サタンさんだった」 「サタンさん!? 悪魔のサタンさん!?」 「あぁ、あやめに死神をプレゼントするらしいよ。欲しい?」 「うっ……承ります……」  胸に抱いていたぬいぐるみを困った顔で見つめ、僕に渡してきた。 「これあげるので、サタンさんにはお断りのお電話をお願いします」  真剣に悩んだように見えるあやめは、今日誕生日プレゼントで渡した熊のぬいぐるみはもう手放そうとしている。  これもまたからかうつもりで、今日あげたものをもう売るの? と意地悪してみると、しまった!というような顔ですぐにぬいぐるみを抱きかかえる。  抱きかかえた後、泣きそうな顔でふただび僕にぬいぐるみを押し付けてきたあやめを見る限り、「手は他にない」ということらしい。 「きっと、こーくんが取り返してくれます」  ぬいぐるみを取り返すために宇宙飛行士になったつもりはないけれど、あやめのその姿を見せられると、世界的な運命で僕はこのぬいぐるみのために宇宙飛行士になったのかもしれないという錯覚に見舞われる。 「あぁ、サタンから取り返すよ」  そういうとあやめは満面の笑みでぬいぐるみを、大切にしてくださいね、とぐいぐい持たせようとする。  僕はからかわれていることに気付くそぶりを見せない彼女をみて、あぁ、地球滅亡って言っても信じたかもしれないなと苦笑をもらす。  そんな、些細なやり取りをして、僕の脳からは地球滅亡だなんて気にかける必要もないほど、忘れ去っていた。  ――とてもいとおしい、無限のような有限の時間が光の速度で過ぎ去るのを、僕たちは見守っていった。  ――僕たちの最後が、今始まった。  ふと目が覚めて時計を見ると、時刻は朝六時を回ったところだった。  有給を使う前は五時には目が覚めていたのに、すこしこちらの生活に慣れてしまったようだ。  あやめは横で寝息を立てて眠っている。  服はお互いに乱れていない。誕生日だからと言ってみだらな行為はしていなかった。たしかに宮月先輩に言わせれば、ほんの少しだけお互いに奥手なのかもしれない。  あやめを起こさないようにベットから脱出すると、寝まぎのまま僕は徒歩で海へと向かった。  海へ着くと、いつものラジオ体操と軽いランニングを行ったのち、日課であるイメージトレーニングを始める。  胸の中にある空気を押し出しながらゆっくりと目を閉じ、イメージするのはF/A-18Eのコックピット。  第4.5世代ジェット戦闘機に分類される戦闘攻撃機で、アメリカ軍やオーストラリア軍でも使用されている機体。  航続距離は3,705km、実用上昇限度は15,250m。F/A-18A-Dと比べ大幅な改良だ。  最高時速はM1,6。  右手を前に出して握る空気は、すでになにかしらの質量を持っていた。  右に大きく傾ける。  そうするとイメージの中の機体は大きく旋回し、体にGがふりかかる。  いまの体、今の肉体に耐えられる速度と旋回をイメージしながら、敵機体が正面からの応戦を始める。  見えるのはお互い一瞬のみ。  レーダーと空気を機敏に察しながら、対レーダーミサイルのAGM-88でロックオンをする。  3,2,1……0。  その瞬間、果てしない空にいるはずの敵空軍機が目の前に現れ、一瞬で通過する。  しかしその一瞬を僕は見逃さない。  レーダーで捕捉できるぎりぎりのラインの瞬間に、僕はミサイルのボタンを押している。 「ふぅー」  敵は爆撃。こちらは無傷。これで宇宙飛行士でいる間は使うことはないだろうイメージトレーニングを終えた僕は、ランニングと暑さのせいでびっしょりとなった服を脱ぎ捨て、タオルで隅々まで拭いた後、着替え帰宅した。 八月二十日。 最後のフライト。目指すはただ愛する物を守れる世界へ。 『がんばってね』 -----------------------------------------------------------------

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