H17. 9.14 富山地方裁判所高岡支部 平成16年(わ)第109号,第149号 強盗致傷,窃盗,公用文書毀棄被告事件

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平成17年(わ)第88号 現住建造物等放火,殺人被告事件 主文 被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人は,父A(当時55歳)の自己に対する冷たい態度に絶望して自暴自棄となり,同人らとともに居住していた自宅に放火して同人を殺害するとともに自殺しようと決意し,平成17年5月1日午前3時ころ,富山県a市内の同人方において,木造瓦葺2階建居宅(床面積合計約197.27平方メートル)の2階寝室前廊下の床上に,ガソリン及び潤滑油の混合油を入れたプラスチック製バケツを置いた上,同混合油を染み込ませた新聞紙に所携のライターで点火して放火し,その火を同建物の2階壁面等に燃え移らせ,同壁面等合計約93平方メートルを燃焼炭化させて焼損するとともに,同寝室で就寝していた同人に全身火傷の傷害を負わせ,よって,同日午前10時30分ころ,同県b市内のB病院において,同人を焼死させて殺害したものである。 (法令の適用) 被告人の判示所為のうち,現住建造物等放火の点は刑法108条に,殺人の点は同法199条に該当するが,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重い殺人罪の刑で処断することとし,所定刑中有期懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役9年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (弁護人の主張に対する判断) 1 弁護人は,被告人が本件犯行当時発達障害であるアスペルガー症候群により心神耗弱の状態であったと主張するので,その責任能力の程度について検討する。 2 犯行に至る経緯 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 被告人は,父Aと母Cとの間に一人っ子として生まれ,幼いころから学校でいじめを受け,親しい友人もなく,大学中退後は自宅に引きこもり,母が唯一の話し相手であるなど,同人に依存する生活をしていた。しかし,被告人の母は,平成16年8月,交通事故により意識障害に陥って入院し,それ以来,被告人にとって,寝たきりの母の見舞いが生活の中心となっていた。 被告人は,平成17年4月30日の夕食時,自宅でAに対し,母の日のプレゼントについて相談したところ,同人からそっけない態度をとられ,十分に話を聞いてもらえなかった。そのため,被告人は,Aに疎ましく思われていると感じ,いっそ自殺しようなどと思い,度胸をつけるため台所で飲酒していたが,これを見たAにしかられ,怖くなって家を出て付近で身を潜めた。被告人は,Aが心配して捜しにくることを期待していたが,同人は家の外に出たものの,被告人を捜すことなく家に戻ったため,不審に思いAにその真意を尋ねたところ,被告人の飲酒運転を防ぐために車庫の鍵を掛けてきたと言われた。これを聞いた被告人は,Aが世間体を気にする一方,自分に対しては無関心であるとして,その冷たい態度に絶望して自暴自棄となり,Aを殺害して自殺することを決意した。 被告人は,日ごろ,母のいない静まりかえった家が寂しく,嫌いであったため,心中の方法として自宅に対する放火を思い立ち,勝手口付近で自宅にあった草刈機の燃料を染み込ませた新聞紙にライターで点火して火勢を確認した後,自宅2階のAの寝室前に燃料を入れたプラスチック製バケツを運び,その中の燃料を新聞紙に染み込ませた上,これにライターで点火し,本件犯行に及んだ。 3 医師D作成の簡易精神鑑定書によれば,被告人の本件犯行当時の精神状態は,アスペルガー症候群かつ一過性の抑うつ状態であり,是非弁識能力は不十分で行動制御能力にも欠損が認められるが,一般的な精神病水準の状態ではないと診断されている(同医師による診断の経過・方法等に照らし,その診断の信用性を疑わせる事情は認められない。)。これに加え,本件犯行の動機は,被告人のこれまでの生活状況に鑑みれば一応了解可能であり,犯行の準備状況や態様等を見ると,被告人の行動には合目的性が認められ,また,本件犯行直後には,火勢に驚いて現場から離れて隣家に助けを求め,その後,犯行を後悔して警察に電話をかけたことも認められるのであるから,被告人は本件犯行時及びその前後を通じ,被告人なりの判断に基づき,合理的に行動していたものということができる。そして,犯行状況に関する被告人の捜査・公判段階における供述は詳細かつ具体的で,犯行当時の被告人の記憶は概ねよく保たれていることが認められる。 そうすると,本件犯行当時,被告人の是非弁識能力及び行動制御能力はいずれも若干低下していたものの,著しく減退してはおらず,完全責任能力を有していたと認められるから,弁護人の主張は採用できない。 (量刑の理由) 本件は,被告人が実父を殺害して心中するため自宅に放火してこれを焼損するとともに,実父を焼死させたという現住建造物等放火及び殺人の事案である。  本件犯行に至る経緯は上記のとおりであり,短絡的かつ自己中心的な動機に酌むべき点はない。その態様も,確定的殺意に基づき,木造家屋内に燃料油を用いて放火し,就寝中の被害者を焼死させようとした残忍かつ危険なものである。一人の生命を失わせたという結果は誠に重大で,落ち度が全くないにもかかわらず,息子によって自宅に放火され,無念の思いで絶命した被害者の胸中は察するに余りある。加えて,本件が,周辺住民や地域社会に大きな不安感を与えたことも軽視できない。 以上の点に鑑みると,被告人の刑事責任は相当重大である。 しかしながら,他方,本件犯行当時,被告人の是非弁識能力及び行動制御能力はいずれも若干低下しており,本件は衝動的に行われたものであること,火災は被告人宅内部にとどまり隣家に延焼の被害が及んでいないこと,被告人は,犯行後,自首して反省悔悟していること,いまだ20歳代前半と比較的若年であること,介護を要する母がいることなどの被告人のために酌むべき事情も認められる。 そこで,以上のような諸情状を総合考慮し,主文の刑に処するのが相当であると判断した。(求刑 懲役13年) 平成17年9月6日 富山地方裁判所刑事部 裁判長裁判官   手   崎   政   人    裁判官   大 多 和   泰   治    裁判官   五 十 嵐   浩   介
平成16年(わ)第109号 強盗致傷被告事件 平成16年(わ)第149号 窃盗,公用文書毀棄被告事件            判        決            主        文 被告人を懲役8年に処する。 未決勾留日数中430日をその刑に算入する。            理        由 (罪となるべき事実) 第1 被告人は,A,B及びCと共謀の上,通行人から金員を強取しようと企て,平成15年11月29日午後6時ころ,富山県内の歩道上において,自転車を運転して通行中の被害者(当時39歳)に対し,被告人において,所携の木製の鍬の柄(長さ約93.5センチメートル)で前記被害者の頭部を殴打して同人を自転車とともに歩道上に転倒させた後,被告人において,前記鍬の柄で前記被害者の頭部等を殴打し,Cにおいて,所携の木製バット(長さ約84.5センチメートル)で前記被害者の左手を殴打するなどの暴行を加え,同人の反抗を抑圧した上,同人所有の現金約1万8700円,100ドル札紙幣117枚(当時の日本円換算金額128万0565円相当)及び上陸許可証1通ほか3点在中のウエストポーチ1個(時価合計約1100円相当)を強取し,その際,前記暴行により,同人に対し,加療約10日間を要する頭部打撲挫創,左手打撲等の傷害を負わせた。 第2 被告人は,A及びDと共謀の上,  1 平成16年1月2日午後11時ころ,広島市内の甲会社敷地内において,普通貨物自動車1台(時価約50万円相当)及び同自動車に積載されていた高速カッター等12点(時価合計115万円相当)を窃取した。  2 同月9日午前零時ころ,岡山市内の乙会社駐車場において,普通貨物自動車1台(時価約20万円相当)を窃取した。  3 同月10日午後3時ころ,広島市内の丙会社空地内において,普通乗用自動車1台(時価約3万円相当)を窃取した。 第3 被告人は,平成16年1月11日午後6時12分ころ,兵庫県内の丁スーパーマーケットにおいて,食パン1袋等8点(販売価格合計1932円相当)を窃取した。 第4 被告人は,平成16年4月15日午後4時25分ころ,島根県内の警察署の取調室において,被告人に対する窃盗被疑事件について,検察官の取調べを受け,被告人の供述を録取した供述調書2枚を作成され,これを通訳人を介して読み聞かせられ,誤りのないことを確認して署名を求められたところ,自ら閲読する旨申し立て,通訳人を介して交付された前記供述調書2枚を重ねた状態にして両手で破り,もって公務所の用に供する文書を毀棄した。 (法令の適用) 1 罰  条     (1) 判示第1の行為について   刑法60条,平成16年法律第156号附則3条により同法による改正前の同法240条前段 (2) 判示第2の1ないし3の各行為について   いずれも刑法60条,235条 (3) 判示第3の行為について   刑法235条 (4) 判示第4の行為について   刑法258条 2 刑種の選択   判示第1の罪について有期懲役刑を選択 3 併合罪の処理   以上の各罪は,刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により最も重い判示第1の罪に平成16年法律第156号による改正前の刑法14条の制限内で法定の加重をする。   4 未決勾留日数の算入   刑法21条 5 訴訟費用の不負担    刑事訴訟法181条1項ただし書 (量刑の理由) 1 本件は,外国人である被告人が,共犯者3名と共謀して強盗致傷を犯し,共犯者2名と共謀して自動車窃盗3件を犯し,さらに単独で,窃盗(万引き)1件,公用文書毀棄をそれぞれ犯した事案である。 2 判示第1の強盗致傷は,被告人が,外国人である共犯者3名と共謀の上,遊興費等を得るために,中古車の買付けに来ている外国人を路上で襲撃して金品を奪取しようと計画し,事前に犯行に適した場所を下見し,凶器として木製の鍬の柄,木製バット等を準備し,役割分担として,犯行現場から離れた場所で襲撃相手を探す,共犯者間で携帯電話で連絡をとる,凶器で相手を殴打する,相手から金品を奪取するなどの役割を定めた上で,自転車を運転していた被害者を路上で待ち伏せして,無防備,無抵抗であった被害者に対し,用法によっては殺傷能力を有する凶器を用いて,頭部など身体の枢要部を含む部位を繰り返し殴打して,その反抗を抑圧した上で,被害者が所有していた合計約130万円相当の現金及び上陸許可証等の物品を奪取し,その際,前記暴行によって加療約10日間を要する頭部打撲挫創,左手打撲等の傷害を負わせたというものである。   被告人が本件強盗致傷の犯行に及んだ動機は,利欲的かつ身勝手なものであり,酌量の余地は全くない。本件強盗致傷の犯行は,周到に計画されて実行されたものである上,その態様は,著しく粗暴であって,被害者の生命にまで危険を及ぼしかねないものであり,極めて悪質である。被害者は,上記犯行によって,約130万円もの経済的損害を被っているばかりでなく,前記の傷害を受け,被害者の供述等によれば,左手指に後遺症が残っていることも認められるのであって,犯行の結果は,極めて重大である。   被告人は,本件強盗致傷の犯行において,①犯行計画に当初のころから加わり,共犯者が他の共犯者に対して犯行に加わるように誘う際に,これに同調して参加を促すような発言をする,②犯行現場で他の共犯者に対して犯行を促す,③被害者に対し,木製の鍬の柄を用いて頭部等を繰り返し殴打して暴行を加えるなどしており,本件犯行において被告人が果たした役割は極めて重要である。また,被告人は,本件犯行の際に被害者から奪った金品のうち700米ドルを共犯者から分け前として受け取り,自己のために費消しており,犯行による利得額も少なくない。   被害者は,本件強盗致傷の犯行によって多額の財産を奪われた上,複数の者から凶器で頭部等を繰り返し殴打されて,生命まで奪われかねない危険にさらされ,身体だけでなく,精神的にも著しい苦痛を被っており,被告人及び共犯者らに対して厳重な処罰を求めており,被害感情が厳しいこともあって,被害者と被告人及び共犯者らとの間で示談は成立していない。   そして,本件強盗致傷の犯行は,その態様に照らし,近隣住民や地域社会に対して相当な不安を与えたものと認められ,その社会的影響も考慮すると,被告人に対する刑罰によって同種犯罪の予防及び治安の維持を図る必要があると認められる。 3 判示第2の3件の窃盗は,被告人が,外国人である共犯者2名と共謀して,中国地方に自動車で出向いていた際に,移動手段等とする目的で,短期間に繰り返し,駐車されていた自動車を運転して運び出して,窃取したものである。動機は,利欲的かつ身勝手なものであり,酌量の余地はない。被告人及び共犯者らは,各犯行において,盗み出した自動車が盗難車とわからないようにするためにナンバープレートを付け替えるなどしており,態様は悪質であり,被告人は,各犯行において,窃取する自動車を選ぶ,運転して運び出す等の役割を積極的に担っている。各犯行による被害金額は合計約188万円(このうち判示第2の1の窃盗による被害金額は積載された工具類を含めて約165万円)と高額であり,また,判示第2の2の窃盗の被害者は,相当期間にわたり被害車両を業務に使用できないという不利益を被ったもので,犯行の結果は重大である。被害者らはいずれも被告人及び共犯者らに対する厳重な処罰を求めている。 4 判示第3の窃盗は,被告人が,スーパーマーケットにおいて,食料品を入手する目的で,買物籠に入っていた商品8点を買物袋の中に移し替えた上で,レジで精算をしないまま店外に商品を持ち出して,万引きしたものである。動機は,利欲的かつ身勝手なものであって,酌量の余地はない上,犯行が発覚しないように手段を講じており,態様は悪質である。被害者は被告人に対する厳重な処罰を求めている。 5 判示第4の公用文書毀棄は,被告人が,被疑者として検察官の取調べを受け,供述を録取された検察官調書を,検察官に対して閲読したいと述べて交付された後,検察官及び検察事務官の面前で破ったものである。本件公用文書毀棄は,検察官の適正な職務遂行を積極的に妨害しようとして敢行されたものと認められ,犯情は極めて悪質である。 6 ところで,被告人は,第8回公判期日において,本件各犯行を認める旨の陳述をしている。   しかしながら,被告人は,強盗致傷及び窃盗の被害者らに対する謝罪の言葉を一切述べていないのであって,このことに,従前の公判における被告人の態度(殊に,2回にわたり法廷出入口の方向に走り寄って逃走しようと企てたことなど)や,その後の第9回公判期日の被告人質問における被告人の態度を併せて考慮すると,被告人が本件各犯行を真摯に反省しているかは極めて疑問があるといわざるを得ない。また,以上の各事実に照らすと,被告人の反規範的な人格態度は顕著であると認められる。 7 以上によれば,被告人の刑事責任は極めて重い。   他方,本件各窃盗の被害品が,捜査機関によって領置され,各被害者に還付されたこと,被告人には日本における前科前歴が認められないことなど,被告人に有利な事情も認められる。   そこで,被告人のために有利,不利な一切の事情を総合考慮した上,被告人に対して主文の刑を科すのが相当と判断した。  (求刑 懲役10年)  平成17年9月14日 富山地方裁判所高岡支部            裁判長裁判官   藤 田    敏 裁判官 源    孝 治 裁判官 細 川  二 朗

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