H17. 6. 9 東京簡易裁判所 平成16年(ハ)第15837号 貸金請求事件

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判示事項の要旨: 貸金業法43条(みなし弁済)の適用の主張に対し,支払の任意性,17条書面の交付,18条書面の交付が争われた事例 ---- 平成17年6月9日判決言渡 平成16年(ハ)第15837号 貸金請求事件 口頭弁論終結日 平成17年5月12日 判         決 主         文 1 被告は,原告に対し,50万6654円及び内金49万8058円に対する平成15年12月31日から支払済みまで年26.28パーセントの割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は仮に執行することができる。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 主文と同旨 第2 事案の概要 本件は,貸金業者である原告が,被告に対し,金銭消費貸借契約に基づき,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)43条の適用があるとして,貸金残元金及び利息制限法所定の制限内の未払利息と遅延損害金を請求した事案である。 1 請求の原因 別紙請求の原因記載のとおり(省略) 2 争 点   (法43条1項の支払の任意性に関し) (1) 変更された現金自動受払機(以下「ATM」という。)システムを利用したものか (2) システム変更後の入金方法 (3) 制限超過利息が無効であることの認識 (4) 期限の利益喪失条項に基づく支払 (法17条書面の交付に関し) (5) 貸付金額の返済期間及び返済回数の記載 (6) 契約書面の通数 (法18条書面の交付に関し) (7) 契約番号で記載が省略できるか (8) 明細書の交付の有無 3 争点に対する当事者の主張 (1) 争点(1)(変更されたATMシステムを利用したものか)について (被告の主張) 原告は,原告の全店舗のATMにおいて,債務者から返済を受ける際に,返済金額及びその内訳(元金,利息,損害金)をATMの画面上で明示し,債務者が内容を承諾して「確認」ボタンを押した場合のみ返済がなされるようにシステム変更が行われていると主張しているが,本件取引のすべてがこのシステムで行なわれたことを裏付ける客観的証拠はない。 (原告の反論) 原告は,平成7年5月22日より,原告の全店鋪のATMにおいて,債務者から返済を受ける際に,返済金額及びその内訳(元金,利息,遅延損害金)をATMの画面上で明示し,債務者が内容を承諾して「確認」ボタンを押した場合のみ返済がなされるようにシステム変更を行っている。被告の返済は,最も古いものでも平成9年6月23日であるから,被告の返済は,いずれも「確認」ボタンのあるシステム変更後に行われたものである。 (2) 争点(2)(システム変更後の入金方法)について (被告の主張) 返済をする際に,ATMの画面表示により,「確認」ボタンを押さなければATMでの利息の返済はできない。また,業者の提示する充当案を拒否して,別の充当案で利息を支払いたいと思う債務者は,法的リスクと費用,労力の負担を覚悟して支払をしないようにするか,業者の店員と直接交渉せざるを得ないが,上記はいずれも債務者に困難を強いるものである。 (原告の反論) 上記被告の主張によれば,およそ如何なる場合であっても,任意性の要件は満たされないことになってしまうのであって,全く理由にはならない。 (3) 争点(3)(制限超過利息が無効であることの認識)について (被告の主張) 法43条は,債務者の意思を根拠とする例外規定であるから,「任意に」支払ったというためには,債務者が制限超過利息の支払義務がないことまでを積極的に認識していたことが必要である。 (原告の反論) 債務者において,その支払った金銭の額が利息制限法所定の制限額を超えていること,あるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しない。 (4) 争点(4)(期限の利益喪失条項に基づく支払)について (被告の主張) 原告の契約書によれば,利息制限法を超過する利息を支払わなければ期限の利益を喪失することになり,債務者に制限超過利息の支払を強制するものであるから,過怠約款(期限の利益喪失条項)に基づく支払は任意性がない。 (原告の反論) 期限の利益喪失条項は,契約書一般に記載される極めて通常の内容であるし,被告の主張によれば,約定利息に基づく契約においては,およそ期限の利益喪失条項を入れることができないこととなり,返済期限の定めが無意味となってしまう。 (5) 争点(5)(貸付金額の返済期間及び返済回数の記載)について (被告の主張) カードローン基本契約書(甲1)は,貸付金額の返済期間及び返済回数(法17条1項6号)の記載を欠くので,その控えの交付は,適法な17条書面の交付ではない。 (原告の反論) 貸付金額については,個別の貸付に際して交付される明細書(甲7)に記載されており,返済期間及び返済回数についても,リボルビング契約においては記載が不要である。 (6) 争点(6)(契約書面の通数)について (被告の主張) 原告は,包括契約書の控えと個別明細書の交付をもって17条書面の交付があったと主張しているが,17条書面は(原則としては)一通でなければならない。 (原告の反論) 基本契約締結時及び個々の貸付時にそれぞれ書面が交付される場合には,基本契約締結時に法17条1項所定の事項中の記載可能な事項を全て記載した書面を交付した上で,同書面と個々の貸付けの際に交付される書面とを併せてみることで,法17条1項所定の要件を充足していれば足り,一通でなくてもよい。 (7) 争点(7)(契約番号で記載が省略できるか)について (被告の主張) 原告のATM明細書には商号,契約年月日,貸付金額,貸金業者の登録番号,債務者の氏名の記載がなく,原告は契約番号で省略することができるとしているが,契約番号で代替することは出来ない。 貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「規則」という。)15条2項は,法18条1項の解釈の限界を超えた違法・無効な規定である。 (原告の反論) 規則15条2項は,「貸金業者は,法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもつて,同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。」と明確に規定しており,18条書面に契約番号を記載することで法18条1項1号から3号までの記載を省略することに何らの問題はない。 (8) 争点(8)(明細書の交付の有無)について (被告の主張) 平成12年10月4日の返済,貸付,同年11月21日の貸付,同年11月30日の返済,平成13年1月5日の返済,平成14年2月5日の返済,同年2月14日の貸付の合計7つの取引については,証拠上,個別明細書が提出されていない。上記7つの取引については,取引経過の記録があるからといって明細書の交付がされているとは限らない。ATMの稼働や紙切れ,取引経過の記録が連動しているという客観的証拠はない。むしろ,控えが存在しないことは交付されていないことを推測させる。 (原告の反論) 取引経過は,ATMによる取引が原告のホストコンピューターに伝達されて記録される仕組みとなっており,個別明細書が紙切れの場合,ATMは稼働せず返済の受け付けはなされない仕組みになっている。 したがって,被告の返済が原告のATMにより受け付けられておれば,同返済の明細書も交付されている。 第3 当裁判所の判断   争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 1 請求の原因1項から4項までの各事実及び同6項中,被告は原告から貸与されたカードにより,原告のATMを利用して返済を行った事実は当事者間で争いはない。 被告は,原告から貸与されたカードにより,原告のATMを利用し,別紙計算書記載のとおりの借入れをした事実(甲6,13)及び平成15年12月30日に約定金の支払を怠ったため同日の経過により期限の利益を失った事実(甲1)が認められる。 2 争点(1)(変更されたATMシステムを利用したものか)について  原告においては,被告による初回の弁済に先立つ平成7年5月22日から,貸付けを行う原告の全店舗を対象として,ATMによる弁済時の確認事項を変更し,返済金額の内訳確認を実施するようになった(甲15)。これによれば,債務者が,原告のATMに弁済金を投入し,画面に表示された投入金額を「ご返済金額」として「確認」を選択して同ボタンを押すと,続いて「カードローンご返済内訳」として,返済金額が元本,利息及び遅延損害金にどのように充当されるかが表示され,債務者が上記内訳の充当による返済について「確認」を選択して同ボタンを押すと返済が受け付けられる一方,「取消」を選択して同ボタンを押すと返済手続が中止される仕組みとなっている(甲18)。 そうすると,被告の返済は,最も古いものでも平成9年6月23日であるから(甲6),被告の返済は,いずれも「確認」ボタンのあるシステム変更後に行われたものである。 3 争点(2)(システム変更後の入金方法)について 返済をする際に,ATMの画面表示により,「確認」ボタンを押さなければATMでの弁済ができないこと,業者の提示する充当案を拒否して,別の充当案で利息を支払いたいと思う債務者は,法的リスクと費用,労力の負担を覚悟して支払をしないようにするか,業者の店員と直接交渉せざるを得ないことはあり得る。しかし,前記事実を考慮したとしても,本件では,債務者は,ATMの画面表示により,具体的に一定の利息,損害金,元金に充当されるという認識を有していると認められるから,この点に関する法43条の任意性の要件は満たされる。 4 争点(3)(制限超過利息が無効であることの認識)について 法43条の任意の支払とは,詐欺,錯誤,強迫が認められず,かつ強制執行によって強制的に弁済に充てられた場合を除く場合であり,「債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によって支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しない。」(最高裁判所平成2年1月22日判決)。 原告は,平成7年5月22日より,原告の全店舗のATMにおいて,債務者から返済を受ける際に,返済金額及びその内訳(元金,利息,遅延損害金)をATMの画面上で明示し,債務者が内容を承諾して「確認」ボタンを押した場合のみ返済がなされるようにシステム変更を行っている。 そして,本件における被告からの弁済は,全てシステム変更がなされた平成7年5月22日以降に原告のATMを利用して行われている。したがって,被告の返済は,いずれも原告のATMにより返済内容に対する意思確認が行われており,「債務者が利息として任意に支払った金銭の額が,利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超える場合」(法43条柱書)に該当する。 そうすると,本件において,被告は,自己の自由な意思に基づいて支払を行っているものであり,この点に関する法43条の任意性の要件は満たされる。 5 争点(4)(期限の利益喪失条項に基づく支払)について 法43条は,要件を満たせば利息制限法超過部分の利息も有効な支払とみなす規定であるから,この規定が適用されることを前提として,約定利息の支払を条件とした期限の利益喪失条項を定めることも可能であると解される。 そして,本件の期限の利益喪失条項(甲1の第6条)の記載は,契約の内容を正確に表しているものといえるから,法17条の要件を満たしている。 もちろん,約定利息を支払わなければ期限の利益を喪失する旨の契約がなされたとしても,個別の支払の際に,利息制限法所定の利息で支払う旨の主張があった場合には,もはや任意の弁済ということはできないためにみなし弁済規定の適用はなく,その適用を前提とした期限の利益喪失条項も利息制限法超過部分について無効となるから,約定利息が支払われないことを理由に期限の利益を喪失させることはできないと解釈すべきであるし,それに反するような約定は信義則上排除すべきである。 したがって,本件の基本契約書の期限の利益喪失条項(甲1の第6条)の記載も,かかる趣旨に解釈・適用すべきであるが,かかる解釈・適用関係が上記書面上に明示されていないとしても,このことから直ちに上記書面における期限の利益喪失条項の記載が虚偽の記載であるとか,一義的,具体的,明確なものではないということはできない。 そして,契約の内容を上記のとおり解すれば,債務者としては,自ら利息制限法所定の範囲内で利息の支払をすることにより,期限の利益を失うことなく,約定利息の支払を免れることができるのであるから,事実上利息制限法上限を超える支払を強制されるということもできない。 したがって,被告の主張には理由がない。 6 争点(5)(貸付金額の返済期間及び返済回数の記載)について 貸付金額は,個別の貸付に際して交付される明細書に記載されている(甲7,12の1ないし4等)。 返済期間及び返済回数は,債務者が自己の債務を正確に認識し,弁済計画の参考としうる程度の一義的,具体的,明確なものでなければならないが,本件はリボルビング契約であり,いついくらの金額を返済するかは,債務者の任意の意思に委ねられているから,個別貸付の際に,返済期間や返済回数を一義的に決めることはできない。 そして,本件基本契約書には,約定の弁済をした日の翌日から35日以内が返済期日であることが明確に記載されている他(甲1の「各回の返済期日」欄),個別の弁済がなされる際に交付される明細書には,具体的な次回返済日が明確に記載されている(甲8,12の5ないし11等)。このように,支払日や支払金額の選択が,一定の範囲内で債務者の任意にゆだねられている一方,債務者は,個別の貸付や支払に際し,最新の取引内容に基づいて作成・交付された個別明細書や「今回残高」,「次回支払期日」及び「次回入金予定額」の各記載によって,自己の債務の内容を把握し,その後の返済計画を検討することも十分に可能なのである。 したがって,本件基本契約においても,それに基づく個別の貸付においても,それぞれに際して被告に交付された書面中に,返済期間及び返済回数(法17条1項6号)の記載を要しないと解すべきであるし,そのように解しても,債務者の保護に欠けるところはないというべきである。 7 争点(6)(契約書面の通数)について 法17条1項の「契約内容を明らかにする書面」は,原則として一通でなければならない。本件の場合,17条書面の交付については,前記認定のとおり,本件基本契約書及び本件変更契約書のほか,個々の貸付時に個別明細書の交付がなされている。 そして,本件のように,基本契約として融資限度額等の要件を定めた上で,これに基づき個々の貸付けを行う契約形態であって,基本契約締結時及び個々の貸付時にそれぞれ書面が交付される場合には,当該基本契約書において,同契約締結時に法17条1項所定の事項中の記載可能な事項を全て記載した書面(甲1)を交付した上で,同書面と個々の貸付けの際に交付される書面(甲12の1ないし4等)とを併せてみることで,法17条1項所定の要件を充足していれば足りるというべきである。 そうすると,本件では,原告が交付した上記各書面を併せてみると,補完関係が明確であり,法17条1項所定の要件を満たしているものと認められる。 8 争点(7)(契約番号で記載が省略できるか)について 法18条1項柱書は,「内閣府令で定めるところにより……書面を交付しなければならない。」と規定しており,これは受取証書の交付について細目に委任したものというべきである。 そして,受取証書に契約年月日等の記載が要求されるのは,債務者が同じ貸金業者から複数の借入れをしていた場合に,支払った金員がどの債権に充当されたのかを債務者に明らかにするためであるところ,契約番号によって債権が特定されれば,その充当関係が不明確になることはないといえるから,契約年月日等を契約番号により代えることができるとする,規則15条2項の規定は,法の趣旨にも反しない。 そうすると,本件の個別明細書・ご利用明細・ATM明細書には,全て契約番号が付されているから(甲12の1ないし134,14の2,8),この点についての被告の主張には理由がない。 9 争点(8)(明細書の交付の有無)について 平成12年10月4日の返済,貸付,同年11月21日の貸付,同年11月30日の返済,平成13年1月5日の返済,平成14年2月5日の返済,同年2月14日の貸付の合計7つの取引については,証拠上,個別明細書が提出されていない。しかし,これらの取引は,いずれも同一店舗の同一ATMによる取引であること(甲13の「処理日 時間 処理店 ATM」欄の「28」「16」の数値はこれを意味する。),取引経過(甲6)は,ATMによる取引が原告のホストコンピューターに伝達されて記録される仕組みとなっていること,また,個別明細書が紙切れの場合や詰まった場合にはATMは稼働せず返済の受け付けはなされないこと,被告の上記返済は原告のATMにより受け付けられていることから,上記7つの取引についても,同取引の前後と同様の明細書が交付されているものと認められる。 第4 結論   以上によれば,被告の主張はいずれも採用できなく,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。 東京簡易裁判所民事第2室 裁 判 官 堀  田     隆

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