H17. 9. 9 東京地方裁判所 平成17年(レ)第67号 不当利得返還請求控訴事件

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判示事項の要旨: 挙式予定日から1年以上前に結婚式場の予約をし,その数日後に予約を取り消した場合において,予約金10万円の返還を認めない条項は消費者契約法9条1項により無効であるとして,予約金全額の不当利得返還請求を認めた事例 平成17年9月9日判決言渡 平成17年(レ)第67号不当利得返還請求控訴事件(原審・東京簡易裁判所平成16年(ハ)第9186号) 判決 主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は控訴人に対し、金10万円及びこれに対する平成16年7月10日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。 4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴人の求めた裁判 主文と同旨 第2 事案の概要  控訴人は、平成16年5月8日、結婚式場及び結婚披露宴会場の運営を行っている被控訴人に対し、平成17年5月28日に結婚式及び結婚披露宴を行うと申し込み、予約金として金10万円を支払ったが、その6日後の平成16年5月14日、上記申込みを撤回して、予約金の返還を求めた。しかし、被控訴人は、契約中の取消料条項に基づいて、これを拒んだ。  そこで、控訴人は、本件においては控訴人と被控訴人の間で未だ結婚式場利用契約が成立していないこと及び申込みを撤回した場合の取消料条項は消費者契約法(以下、単に「法」という。)10条に反し無効であることを主張して、被控訴人に対し、不当利得に基づいて、予約金10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年7月10日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める訴えを提起した。  これに対し、被控訴人は、本件において結婚式場利用契約は有効に成立しており、取消料条項は法10条に該当しないとして争った。  原審は、控訴人の主張を排斥して控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴し、取消料条項が法9条1号に違反して無効であるとの主張を追加した。 1 争いのない事実及び証拠によって容易に認められる前提事実等 (1) 被控訴人は、東京都(3箇所)、さいたま市、福岡市、横浜市、長野市の全国7箇所において結婚式場及び結婚披露宴会場の運営を行っている株式会社であり、平成17年4月1日、旧商号Aから現商号に改めた(争いのない事実、甲5、弁論の全趣旨)。 (2) 控訴人及びB(以下「控訴人ら」という。)は、平成16年5月8日、被控訴人の上記住所地所在のCを訪れ、被控訴人に対し、下記のとおり、控訴人らの結婚式及び結婚披露宴の開催・運営を申し込み、被控訴人はこれを受諾した(以下「本件予約」という。)(争いのない事実、甲1、3、4)。 記 ア 挙式日時    平成17年5月28日土曜日 午前10時から イ 挙式会場    C内教会 ウ 披露宴日時   平成17年5月28日土曜日 午前11時から午後1時30分まで エ 披露宴会場   C内イギリス館 (3) 控訴人は、本件予約の際に、申込金として10万円(以下「本件申込金」という。)を支払った(争いのない事実、甲3、4)。 (4) 控訴人らが申込日から結婚式及び結婚披露宴の90日前までに申込みを取り消した場合には、被控訴人に対し、被控訴人が負担した実費総額に加え、取消料として申込金10万円を支払う旨の条項(以下、申込金10万円を支払う旨の条項を「本件取消料条項」という。)が定められている(争いのない事実、甲2)。 (5) 平成16年5月14日、控訴人は、被控訴人に対し、本件予約を解除するとの意思表示をするとともに、本件申込金の返還を求めた(争いのない事実、甲6)。 2 争点 (1) 本件予約により契約が成立したか否か (2) 本件取消料条項が消費者契約法10条により無効であるか否か (3) 本件取消料条項が消費者契約法9条1号により無効であるか否か(当審において追加された争点) 3 争点についての主張 (1) 争点1(本件予約により契約が成立したか否か)について (控訴人の主張)  結婚式及び結婚披露宴を行う旨の契約が有効に成立するためには、参加者及びその人数が確定し、さらに、結婚式と結婚披露宴における料理、引出物、サービス等被控訴人が提供する役務の内容及びその対価までもが確定していることが必要である。  したがって、控訴人が本件予約を解除した段階では、控訴人と被控訴人との間に、契約は有効に成立していなかった。 (被控訴人の主張)  平成16年5月8日には、控訴人が申込書に記載して被控訴人がこれを受領し、さらに控訴人が本件申込金を支払っているから、同日、契約は有効に成立している。 (2) 争点2(本件取消料条項が消費者契約法10条により無効であるか否か)について (控訴人の主張)  本件取消料条項は、契約締結前の段階において賠償額の予定を行うものであるところ、かかる約定は、当事者間の交渉の自由を完全に否定するものである。  また、契約締結前の段階の交渉破棄においては信頼利益を賠償すれば足りるところ、本件取消料条項は信頼利益の範囲を明らかに逸脱する。  したがって、本件取消料条項は法10条に反し無効である。 (被控訴人の主張)  本件取消料条項は、予約金の返還を求めないことを条件として、相手方に債務不履行の事実がないにも関わらず、申込者に解除権を与えるものであり、法10条に該当しない。 (3) 争点3(本件取消料条項が消費者契約法9条1号により無効であるか否か)について (控訴人の主張)  仮に、控訴人らと被控訴人との間に結婚式場等利用契約が成立していると仮定しても、申込書の裏面(甲2)に記載された本件取消料条項は、法9条1号により無効である。 ア 本件においては、被控訴人が提供すべき有償的役務の内容及び金額が具体的に確定しておらず、被控訴人が営業利益を期待できる具体的状況は発生していないから、平均的損害を算定するに当たり、被控訴人の得べかりし営業利益を基礎とすることはできない。 イ 仮に得べかりし利益を基礎とするとしても、控訴人が解除した平成16年5月14日から挙式予定日である平成17年5月28日までの間には、1年以上もの期間があるのだから、被控訴人は、控訴人が予約した結婚式・披露宴の日時・会場に他の結婚式の予定を入れるのが通常である。 ウ 被控訴人提出にかかる乙10号証の1によっても、挙式予定日より90日以上前に解除された組数を、便宜30日ごとに区分した場合、再受注率は43.24パーセントから83.33パーセントまで、極めて大きな乖離が生じている。このような乖離が生じているにもかかわらず、挙式予定日より90日以上前に解除した者に対し、一律に「取消料10万円及び実費総額」の支払いを請求することは法9条の法意に反する。  また、上記資料によれば、挙式予定日より1年以上前に解除されたケースのデータが記載されておらず、挙式予定日より1年以上前にキャンセルされたケースにあっては、再受注率が100パーセントに著しく近い数字となることは確実である。 (被控訴人の主張) ア 被控訴人においては、予定されていた結婚式及び結婚披露宴が解除されると、それによって売上及び利益が減少するから、これが損害として発生する。 イ 被控訴人が経営する5店舗の平成16年度の平均利益額は、1組当たり59万4367円である。  そして、平成17年5月14日までに挙式を予約していた組のうち、平成16年5月以降に解除されたのは206組であり、そのうち挙式予定日までの期間が90日以上を余して解除されたのは151組である。そして、上記151組のうち解除された挙式予定日が再受注できたのは94組分であり、再受注できなかったのは57組分である。  そうすると、上記57組については平均利益額に相当する損害が発生したことになり、その総損害額は、59万4367円×57組=3387万8919円である。これを、予約を解除した151組に等しく負担させることにすると、1組当たりの損害は3387万8919円÷151組=22万4364円(1円未満四捨五入)となり、これが、予約の解除による平均的損害となる。 ウ 法9条1号は、「当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ」と定めており、契約条項で定められた区分は、有効に維持されることを前提としている。控訴人が主張するように、自己に有利な「時期等の区分」まで自由に設定できると解釈するのは合理的ではなく、法が予定しているものでもない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件予約により契約が成立したか否か)について (1) 上記第2、1(2)及び(3)に認定したところによれば、本件予約の内容として、平成16年5月8日、控訴人らと被控訴人との間で、上記第2、1(2)のとおりの日時及び会場において、控訴人らの結婚式及び結婚披露宴を開催する契約が成立したというべきであり、他にこれを覆すに足りる証拠はない。 (2) 控訴人は、上記の時点では結婚式及び披露宴において提供されるべき有償的役務の内容及びその対価が確定していないから、控訴人らと被控訴人との間では何らの契約も成立していないと主張する。  しかし、契約の成立に当たっては契約内容の全てが確定している必要はなく、契約の重要部分が確定していれば契約は有効に成立すると解するのが相当であるところ、結婚式及び結婚披露宴を開催する契約は、特定の日時及び会場において、結婚式という儀式及び結婚の披露宴を開催するというサービスを提供することが、その契約の重要な部分であると解すべきである。そうすると、上記第2、1(2)に認定したとおり、上記の重要部分が合意によって確定していることが認められるのだから、料理、引出物その他サービスの詳細及び対価が確定していないとしても、それだけで契約が不成立ないし無効であるということはできない。 (3) したがって、この点に関する控訴人の主張は理由がない。 2 争点(2)(本件取消料条項が消費者契約法10条により無効であるか否か)について (1) 上記第2、1(1)ないし(3)に認定したところによれば、本件予約は、法2条3項に定める消費者と事業者との間で締結される「消費者契約」に該当すると解するのが相当である。 (2) 控訴人は、契約締結前の段階において賠償額の予定を行うことは、当事者間の交渉の自由を完全に否定するものである、契約締結前の段階の交渉破棄においては信頼利益を賠償すれば足りるところ、本件取消料条項は信頼利益の範囲を明らかに逸脱するなどと主張して、本件取消料条項が法10条に違反すると主張するが、これらの主張は契約自体が不成立ないし無効であることを前提としているところ、法10条が消費者契約が有効に成立したことを前提とする規定であること、上記1(1)に認定説示したとおり、本件予約は有効に成立していることからすると、控訴人の主張は前提を欠くものといわざるを得ない。 (3) したがって、この点に関する控訴人の主張は理由がない。  なお、前記のとおり本件予約によって契約は有効に成立しているところ、このことを前提とすると、本件取消料条項が法10条に違反するか否かは十分な検討に値するものと思われるが、その点について検討すべき内容は争点(3)について検討すべき点と実質的には異ならないと考えられるので、ここではこの点の検討は差し控えることとする。 3 争点(3)(本件取消料条項が消費者契約法9条1号により無効であるか否か)について (1) 乙第11号証の1及び3によると、次の事実が認められる。  平成16年度に被控訴人の店舗のうち、当時営業していたC、立川店、横浜店、大宮店及び福岡店において結婚式の予約を行った2914組のうち、2586組が挙式予定日から1年未満の時期に、残り328組(全体の12パーセント)が挙式予定日から1年以上前の時期に予約を行っている(乙11の1)。  Cにおいては、結婚式の予約を行った796組のうち、641組が挙式予定日から1年未満の時期に、残り155組(C全体の19パーセント)が挙式予定日から1年以上前の時期に予約を行っている(乙11の3)。 (2) 本件予約は前記のとおり法2条3項にいう消費者契約に該当するところ、本件取消料条項は、その内容からして、法9条1号にいう違約金を定める条項に該当すると認められる。  そこで、上記(1)の事実を前提に、被控訴人に生じ得る平均的な損害について検討するのに、被控訴人は、予約の解除により、予約どおりに挙式等が行われた場合に得べかりし利益を喪失した旨主張する。  しかし、上記(1)に認定した事実によると、挙式予定日の1年以上前から被控訴人店舗での挙式等を予定する者は予約全体の2割にも満たないのであるから、被控訴人においても、予約日から1年以上先の日に挙式等が行われることによって利益が見込まれることは、確率としては相当少ないのであって、その意味で通常は予定し難いことといわざるを得ないし、仮にこの時点で予約が解除されたとしても、その後1年以上の間に新たな予約が入ることも十分期待し得る時期にあることも考え合わせると、その後新たな予約が入らないことにより、被控訴人が結果的に当初の予定どおりに挙式等が行われたならば得られたであろう利益を喪失する可能性が絶無ではないとしても、そのような事態はこの時期に平均的なものとして想定し得るものとは認め難いから、当該利益の喪失は法9条1号にいう平均的な損害に当たるとは認められない。  また、本件全証拠によっても、被控訴人が、本件予約の後に、その履行に備えて何らかの出捐をしたり、本件予約が存在するために他からの予約を受け付けなかったなどの事情は見当たらず、他に本件予約の解除によって被控訴人に何らかの損害が生じたと認めることはできない。 (3) したがって、本件においては平均的な損害として具体的な金額を見積もることはできず、本件取消料条項は、本件予約の解除に対する関係において、法9条1号により無効である。 4 したがって、控訴人の請求を棄却した原判決を取り消し、控訴人の被控訴人に対する請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部 裁判長裁判官  藤 山 雅 行   裁判官  大 須 賀 綾 子   裁判官  筈 井 卓 矢

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