H17. 9.28 青森地方裁判所 平成16年(わ)第131号,第154号,第179号,第209号,第231号,平成17年(わ)第62号,第139号 窃盗,窃盗未遂,建造物侵入幇助(変更後の訴因建造物侵入),窃盗幇助(変更後の訴因窃盗),住居侵入,強盗致死,強盗傷人被告事件

「H17. 9.28 青森地方裁判所 平成16年(わ)第131号,第154号,第179号,第209号,第231号,平成17年(わ)第62号,第139号 窃盗,窃盗未遂,建造物侵入幇助(変更後の訴因建造物侵入),窃盗幇助(変更後の訴因窃盗),住居侵入,強盗致死,強盗傷人被告事件」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

H17. 9.28 青森地方裁判所 平成16年(わ)第131号,第154号,第179号,第209号,第231号,平成17年(わ)第62号,第139号 窃盗,窃盗未遂,建造物侵入幇助(変更後の訴因建造物侵入),窃盗幇助(変更後の訴因窃盗),住居侵入,強盗致死,強盗傷人被告事件」(2005/10/25 (火) 14:58:00) の最新版変更点

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(主 文) 被告人を懲役15年に処する。 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 (罪となるべき事実)  被告人は 第1 A,B,C及びDと共謀の上 1 平成15年4月8日午前零時30分ころ,岩手県岩手郡岩手町大字a第b地割c番地d号L自動車株式会社a営業所(営業所長M看守)内に,同営業所出入口自動ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,Mが管理する現金約41万4200円及びバスカードなど1367点(時価合計約303万2400円)を窃取した 2 同日午前2時30分ころ,青森県三戸郡五戸町字e所f番地g号株式会社Nの事務所(代表取締役O看守)内に,同事務所出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,Oが管理する現金約31万8450円及びノートパソコンなど48点(時価合計約90万5600円)を窃取した 第2 A,B,C,D及び氏名不詳者1名と共謀の上 1 平成15年4月8日午後11時30分ころ,青森市cf町h丁目i番j号P会館(会長Q看守)内に,同会館1階階段南側腰高窓の施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,Qほか1名が管理する現金約10万8137円及びデジタルスチルカメラなど約48点(時価合計約20万8070円)を窃取した 2 同日午後11時45分ころ,同市cf町h丁目i番k号株式会社R(代表取締役S看守)内に,同社ビル2階社長室南西側窓から侵入し,そのころ,同所において,Sが管理する現金14万4633円及び収入印紙など約199点(時価合計約2万8300円)を窃取した 3 同月9日午前零時30分ころ,同市cg町l丁目m番n号TビルU青森事務所(所長代理V看守)内に,同事務所東側出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,Vが管理する現金約3651円及びノートパソコンなど約145点(時価合計約11万6740円)を窃取した 4 同日午前零時45分ころ,前記Tビル2階株式会社W事務所(所長X看守)内に,同事務所西側正面出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,Xが管理する現金約29万0545円及びノートパソコンなど約237点(時価合計約96万2407円)を窃取した 5 同日午前1時ころ,前記Tビル3階株式会社Y事務所(所長Z看守)内に,同事務所西側出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,キャビネットや机の引き出しを開けるなどして物色したが,金品を発見することができず,窃盗の目的を遂げなかった 6 同日午前1時10分ころ,前記Tビル3階株式会社AB事業所(所長AC看守)内に,同事業所北側事務室の西側出入口ドアの施錠を外すなどして侵入し,そのころ,同所において,ACが管理する現金約4万4002円及びノートパソコンなど約83点(時価合計約45万8720円)を窃取した 7 同日午前1時20分ころ,前記TビルAD株式会社事務所(所長AE看守)内に,同センタ出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,AEが管理する現金約29万6341円及びノートパソコンなど2点(時価合計約10万0010円)を窃取した 8 金品窃取の目的で,同日午前1時39分ころ,同市cg町o丁目p番q号AF会館(AG看守)内に,同会館1階役員室東側窓の施錠を外して侵入した 第3 A,E,F及び氏名不詳者1名と共謀の上 1 同年5月7日午前零時ころ,秋田県大館市r所s番t号AH建設株式会社事務所(代表取締役AI看守)内に,同事務所北側出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,AIが管理する現金約1万4765円,ノートパソコン1台及び通帳1通(時価合計約3万円)を窃取した 2 同日午前1時ころ,同市r所u番地v号株式会社AJ事務所(代表取締役AK看守)内に,同事務所南西側出入口引き戸の施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,AKが管理する現金約35万6500円及び切手など約59点(時価合計約1万0200円)を窃取した 3 同日午前1時30分ころ,同市r所w番地AL株式会社事務所(所長AM看守)内に,同事務所西側出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,AMが管理する現金約11万2719円を窃取した 4 同日午前2時ころ,同市r所x番地y号有限会社AN事務所(代表取締役AO看守)内に,無施錠の同事務所東側出入口から侵入し,そのころ,同所において,AOが管理する現金約3万2000円及び切手約20枚(時価合計約1300円)を窃取した 5 同月8日午前零時ころ,盛岡市z町ab番ac号AP株式会社盛岡事務所(所長AQ看守)内に,同事務所南側出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,AQが管理する現金約6万5500円,金庫1個及びデジタルカメラ1台(時価合計約3万5000円)を窃取した 6 同日午前2時ころ,同市ad町ae番af号AR株式会社盛岡事務所(所長AS看守)内に,同事務所北側窓の施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,ASが管理する現金約5万8406円及びノートパソコンなど約85点(時価合計約51万3750円)を窃取した 7 同日午前2時30分ころ,同市ad町ag番ah号AT株式会社事務所(所長AU看守)内に,同事務室東側出入口アルミサッシ引き戸の施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,AUほか1名が所有又は管理する現金約4300円,パーソナルコンピューター2台及び腕時計1個(時価合計約11万円)を窃取した 8 同日午前3時30分ころ,同市ad町af番ag号AV株式会社事務所(所長AW看守)内に,同事務所北側出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,AWが管理する現金約28万3590円及びノートパソコン2台(時価合計約14万円)を窃取した 第4 B,G,C及びDと共謀の上 1 平成15年5月7日午前2時ころ,青森県十和田市ah町ai番aj号AX株式会社事務所(代表取締役AZ看守)内に,無施錠の同事務所正面玄関から侵入し,そのころ,同所において,AZが管理するパーソナルコンピューターなど7点(時価合計約38万4000円)を窃取した 2 同日午前2時40分ころ,同市ah町ak番al号株式会社BA(代表取締役BC看守)内に,同社事務室用出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,BCが管理する現金約5万円及び約束手形など約65点(時価合計約981万2354円)を窃取した 3 同日午前3時20分ころ,同市am町an番ao号BD保険相互会社十和田地区支社事務所(支社長BE看守)内に,同事務所正面玄関北側非常口の施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,BEが管理するパーソナルコンピューターなど8点(時価合計約22万4000円)を窃取した 4 同月8日午前零時ころ,盛岡市ap町aq丁目ar番as号株式会社BF事務所(代表取締役BG看守)内に,同事務所正面出入口自動ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,BGが管理する現金約1万円及びパーソナルコンピューターなど約2714点(時価合計約354万1700円)を窃取した 5 同日午前1時05分ころ,同市at町au丁目av番aw号BH株式会社倉庫(代表取締役BI看守)内に,同倉庫正面出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,机の引き出しやロッカーを開けるなどして物色したが,金品を発見することができず,窃盗の目的を遂げなかった 6 同日午前1時30分ころ,同市ax町ay丁目az番ba号株式会社BJ事務所(代表取締役BK看守)内に,同事務所正面出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,BKが管理する葉書など約90点(時価合計約1万2400円)を窃取した 7 同日午前2時40分ころ,同市ax町bc丁目bd番be号BL株式会社盛岡出張所(所長BM看守)内に,同出張所1階出入口ドアから侵入し,そのころ,同所において,BMが管理する現金7万1644円及びパーソナルコンピューターなど約15点(時価合計約5万9000円)を窃取した 第5 A,F,G及びEと共謀の上 1 金品窃取の目的で,平成15年5月8日午後11時40分ころ,青森県八戸市bf町bg丁目bh番bi号BN株式会社敷地(代表取締役BO看守)内に,門扉を乗り越えて立ち入り,もって,人の看守する建造物に侵入した 2 同月9日午前零時ころ,同市bf町bj丁目bk番bl号株式会社BQ事務所(代表取締役BR看守)内に,同事務所正面出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,BRが所有する電気カミソリ1個(時価約4000円)を窃取した 3 同日午前1時ころ,同市bm町bn丁目bo番bq号BS株式会社事務所(代表取締役BT看守)内に,同事務所2階休憩室兼北側事務室出入口ドアの施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,BTが管理する電気ポット1台(時価約1000円)を窃取した 4 同日午前1時30分ころ,同市bm町bn丁目br番bs号BU株式会社事務室(代表取締役BV看守)内に,同事務室東側流し高窓の施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,BVが所有又は管理する現金約42万4767円及び小銭入れなど約184点(時価合計約6万9020円)を窃取した 5 同日午前2時ころ,同市bt町bu丁目bv番bw号BW株式会社事務所(所長BX看守)内に,同事務所西南側窓の施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,BXが所有するノートパソコンなど5点(時価合計約25万5000円)を窃取した 6 同日午前2時15分ころ,前記同所BY株式会社事務所(所長BZ看守)内に,同事務所東南側窓の施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,BZが所有するノートパソコン1台(時価約10万円)を窃取した 7 同日午前4時ころ,青森県上北郡六戸町大字bx字by所bz番地CA株式会社事務所(代表取締役CB看守)内に,同事務所1階南側出入口の施錠を外すなどして侵入し,そのころ,同所において,CBが所有する現金約2170万円並びに同社が所有する現金6万0191円及びノートパソコンなど15点(時価合計約9万1000円)を窃取した 第6 H,I,J,K及び氏名不詳者4名と共謀の上,金品を強取しようと企て,平成16年5月11日午前1時30分ころ,青森県弘前市大字ca町cb丁目cd番地ce号CD方に,1階南側6畳間のガラス窓から侵入し,1階西側寝室で就寝中のCD(当時63歳)及びその妻CE(当時61歳)に対し,同人らの目,鼻口部に所携の布粘着テープを巻き付けて塞ぎ,同人らの両手両足をビニール紐で緊縛するなどの暴行を加え,「金どこ。金出せば殺さない。俺たち金ほしい,出さないと殺す。」などと脅迫し,同人らの反抗を抑圧した上,同人らが所有する現金約262万1500円及び貴金属など約205点(時価合計約651万2600円)を強取し,その際,上記暴行により,上記CDを鼻口部閉塞により窒息死させるとともに,上記CEに加療約10日間を要する右手関節捻挫,頚部,両肩打撲等の傷害を負わせた ものである。 (事実認定の補足説明及び弁護人の主張に対する判断) 1 弁護人は,被告人が運転手として犯行現場まで行かなかった建造物侵入及び窃盗(判示第1ないし第4)並びに住居侵入,強盗致死及び強盗傷人(判示第6)について,共謀の成立を否認し,幇助犯が成立するにとどまる旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,この点について判断を加えることとする。 (1) 関係各証拠によれば,次の事実を認めることができる。 ア 建造物侵入,窃盗について 被告人は,平成14年9月ころ,Aと知り合い,Aの仲間の中国人らと付き合ううち,平成15年1月ころから,Aを含む中国人らと盗みの相談をするようになり,被告人は,当時,生活費や自己が組長を務める暴力団組織の会費に充てる多額の現金を必要としていたことから,同年4月初旬ころには,青森方面で盗みをすること,盗みの方法は,車で忍び込む会社等まで赴き,会社等に忍び込んで盗むこと,犯行に用いる車,中国人が宿泊する部屋は被告人が用意すること,実行行為は中国人が行うこと,被告人は車の運転と見張りを担当すること,分け前は被告人も含め参加した人数で等分することを計画した。同月4日ころ,被告人は,自己が本件各犯行に係わっていることが世間に知られないようにするため,他の暴力団員を通じて知り合ったDに対し,犯行に使用する車の運転を依頼し,同月6日ころ,Dとともに東京に赴き,Aら中国人4名を連れて青森に戻った。被告人は,中国人集団を青森に連れてくるに当たり,自己の居宅をその宿泊先として提供し,犯行に使用する車も用意した。同月7日夜,被告人は実行役の中国人から「社長,出発するから,運転手頼む」などと言われたため,Dに連絡し,Aらは,計画に従い,Dが運転する車で青森県及び岩手県内の会社等に赴き,そこで判示第1及び第2の犯行を行った。 同年5月初旬,被告人は,Aら中国人と再び盗みを計画した。そして,A,F,G,Eら中国人7名は,同月3日ころ,青森県八戸市内に到着し,被告人の運転する車両で弘前市内に向かい,被告人が用意した同市内のアパートに宿泊した。被告人は,このときも,4月の犯行と同様,犯行に使用する車の他,運転手役のDを手配した。中国人らは,同月6日の夜,窃盗に出かける際,被告人に「社長,運転手頼みます,出発します。」などと連絡してきたため,被告人は,4月の犯行と同様,Dに連絡した。 そして,同月6日から8日にかけて,A,E,F及び氏名不詳者1名のグループは中国人の運転する車で,秋田県及び岩手県内の会社等に赴き,G,B,C及びDのグループは,Dの運転する車で青森県内及び岩手県内の会社等に赴き,判示第3及び第4の各犯行を行った。 その後,被告人は,Dが犯行グループから抜けると,自ら運転手としてAら中国人4名と行動を共にし,判示第5の犯行を行った。 本件各犯行により,被告人は,分け前として総額400万円以上を取得した(なお,被告人の供述によれば,時として他の参加者から約束した分け前をもらえなかったこともあったとのことであるが,本件犯行全体としては以上のように認定できる。)。また,被告人は,自己が取得した分け前の中から,Dに対し,1回の依頼につき数万円を渡した。 イ 住居侵入,強盗致死,強盗傷人について 被告人は,CDと平成6年ころからの知り合いであり,同人の経営する会社と取引をしたり,同人から金を貸してもらうなどしていたが,平成14年12月末ころからは疎遠となっていた。 被告人は,平成15年12月ころ,青森市内でエステ店を経営していたHと知り合い,その後,Hの経営の相談に乗るなどしていた。 平成16年4月10日ころ,被告人は,Hに対し,パチンコに使う良い体感器がないか聞いたところ,Hは,被告人に対し,「パチンコもあるし,泥棒ある。でも,そういうのよりもお金ある社長の家分からないか。」などと尋ねてきたので,被告人は,Hが中国人と組んで強盗でもやろうとしているのではないかと考えた。 その後,被告人は,Hが金持ちの社長の家を教えるよう繰り返し迫ってきたことから,同月下旬ころ,Hに対し,CD宅を紹介すると共に,CD宅の家族構成,防犯体制,おおよその現金の所在,貴金属等の存否,住所及び電話番号を教えた。 被告人は,平成16年5月2日ころ,Hからプリペイド式携帯電話を渡されたことから,H及び中国人らがCD宅で強盗する日が近づいたのではないかと考えた。また,このころ,被告人は,HにCD宅の金庫の場所等の情報を伝えた。また,そのころ,被告人は,Hから,「私25パーセントもらって,對馬さん15パーセント,私10パーセント。」という分け前の話をされた。 同月10日,被告人は,Hから実行犯グループが滞在する場所の手配を求められて知人の別荘をあっせんすることとし,午後4時30分ころ,Hに待ち合わせ場所として連絡していた高速道路の黒石インターチェンジで実行犯グループと待ち合わせをし,別荘に案内した。同別荘内において,被告人は,実行犯グループに,CD宅の防犯体制,金庫の有無等,実行犯グループから聞かれたことについて知っている限りの情報を伝えた。 同月11日午前1時30分ころ,実行犯グループは,判示第6の犯行を行った。  (2) 以上の事実を前提に,本件各犯行における被告人の正犯性について検討する。 ア 建造物侵入,窃盗について 前記認定事実を前提にすると,被告人と実行犯グループとの間に上下関係や命令服従の関係があったとは認められず,分け前を参加した人数で均等に配分する約束になっていたことを併せ考慮れば,両者は対等の関係にあったと認められること,当時の被告人の生活状況に鑑みれば,被告人の本件各犯行による分け前に対する期待は大きく,被告人は積極的に本件各犯行に加わったものと認められること,実行犯グループは,いずれも,東北地方の地理に不案内であり,また,足がつかずに犯行を行うためには,被告人が青森における宿泊場所,車及び運転手を手配することは,必要不可欠であったことが認められる。 以上の事実を総合すれば,被告人は,自ら犯行現場までは赴かず,実行行為そのものを行っていない犯行についても必要不可欠な役割を果たしたと言えるのであるから,結局,被告人は,実行犯グループと相互に利用・補充し合い,自己の犯行を行ったと認められる。よって,被告人と実行行為者との間の共謀の事実は優に認められるのであって,被告人は正犯としての刑責を負う。 イ 住居侵入,強盗致死,強盗傷人について  (ア) 前記認定事実を前提にすると,被告人と実行犯グループとの間に上下関係や命令服従の関係があったとは認められないこと,Hとの間で,奪取額の15パーセントを自らの分け前として取得する約束があり,本件犯行に参加した者が被告人を含め9名であったことから,人数による等分以上の割合で分け前を期待できる立場にあったこと,被告人が当時金銭的に困っていたこと,被告人は本件犯行において必要不可欠なCD宅の情報をHを通じて,或いは自ら実行犯グループに伝えていることが認められる。 以上によれば,被告人は,自ら犯行現場には赴かず,実行行為そのものを行っていないとしても,Hを通じて又は自ら実行行為者との間で意思疎通を図り,犯行を行う上で必要不可欠な役割を果たしたのであるから,結局,被告人は,実行犯グループと相互に利用・補充し合い,自己の犯行を行ったと認められる。よって,被告人と実行行為者との間の共謀は優に認められるのであって,被告人は正犯としての刑責を負うべきである (イ) なお,分け前の点につき,被告人は,当公判廷において,内心はもらうつもりはなかった旨供述するが,同様に生活に困窮していた中で敢行された判示第1ないし第5の犯行においては分け前を期待して参加し,犯行後分け前を現実に取得していること,Hに対して,分け前を断る発言は特にしていないことからすれば,分け前をもらうつもりはなかったとする被告人の供述は信用することができない。 仮に,被告人が本件犯行による分け前をもらうつもりはなかったとしても,被告人は,HにCD宅の情報を提供するなどして協力することにより,H経営のエステ店から継続的に相応の収入を得ることを期待していた旨供述しており,本件犯行による経済的利益を期待していたと認めることができるのであって,この事実は,被告人の本件犯行に積極的に係わることについての動機として十分と言える。 2 判示第6の住居侵入,強盗致死,強盗傷人については,弁護人はさらに,責任主義の観点から,法定刑が死刑と無期懲役刑しか予定されていない強盗致死罪に問うためには,加重結果について相当高度の過失が要求されると解すべきであるところ,被告人にはCDの死亡の結果について予見可能性及び結果回避可能性が非常に乏しかったのであるから,強盗致死罪ではなく,強盗致傷罪の幇助犯の限度で責任を問われるべきである旨主張するが,強盗致死罪のような結果的加重犯について,重い結果の発生についての予見可能性を必要とするものではないから,被告人は,強盗の認識があった以上は,その加重結果である被害者死亡の結果についても刑事責任を負う。 3 以上により,弁護人の主張はいずれも採用することができない。 (量刑の理由) 本件は,被告人が,中国人の窃盗グループと共に,青森県内,盛岡市内及び秋田県大館市内に所在する多数の会社事務所に侵入して現金等を窃取するなどし(判示第1ないし第5),別の中国人強盗グループと共に,青森県弘前市内の会社経営者宅に侵入して現金約260万円及び貴金属等約205点を強取し,その際,同所で就寝中であった経営者夫婦を死傷させた(判示第6)事案である。 本件各犯行は,金品を奪う中国人グループを中心とする犯罪集団による組織的犯行で,いずれの犯行においても,侵入等に用いるバールを用意し,また,人が寝静まり,あるいは不在となっている可能性が高い時間帯を狙って敢行したものであって,特に判示第6の犯行については,侵入に用いるバールの他,家人を緊縛,目隠し等するための布粘着テープやビニール紐等を予め用意した上で侵入し,寝室で寝ていた経営者夫婦をいきなりビニール紐で緊縛し,口や鼻といった呼吸に必要な箇所を,機密性の高い布粘着テープで覆った上,現金等の財物のありかを執拗に聞き出しており,その犯行態様は被害者らの生命に危険が及ぶ可能性が高いもので悪質である。本件犯行により,被告人らは,判示第1ないし第5の犯行では総額4600万円余り,判示第6の犯行では総額900万円余りの多額の金品を取得すると共に,判示第6の犯行では,1名の人命を奪い,1名を負傷させており,被告人らが惹起した結果は重大である。本件各被害者にはこのような被害を受ける落ち度はなく,特に被害者CDは,自ら会社を興して発展させたものであり,会社経営が安定し,家族とのくつろぎの時間をようやく持てるようになった矢先の惨事で,人生半ばで命を奪われることとなった無念さは察するに余りあり,妻CEを初めとする遺族らの憤りが大きいのももっともである。そして,その妻CEも,就寝中に緊縛され,殺されるかもしれないとの思いの中,金品の所在場所を執拗に聞かれ,その場所を実際に示すよう指示されるなど,その味わった恐怖は容易に推察できる。 被告人は,本件各犯行時は暴力団組長であり,金銭的に余裕がなかったことから,安易に中国人犯罪組織と組んで本件各犯行を敢行しており,その動機は短絡的で身勝手であり,自己中心的である。被告人は,判示第1ないし第5の各犯行においては,中国人窃盗グループを東京から青森まで呼び寄せ,宿泊場所や車,運転手を手配し,自らも運転して犯行現場に赴くなどし,判示第6の犯行においては,被害者宅を紹介して,防犯体制等の情報を提供し,滞在場所を手配しているのであって,いずれの犯行においても,必要不可欠な役割を果たしている。被告人は,判示第1ないし第5の犯行により総額約400万円以上の分け前を取得している。いずれの被害者についても,また,遺族らについてもその被害感情は大きいにもかかわらず,被告人からの被害弁償は全くなされていない。さらに,被告人は,判示第6の犯行において,Hとの連絡に使用していたプリペイド式携帯電話を投棄したり,Hと口裏合わせをするなど証拠隠滅工作を行っており,犯行後の情状も芳しくない。 以上によれば,被告人の刑事責任は重大であって,被告人が,いずれの犯行についても実行行為自体は行っていないこと,判示第6については結局分け前を取得していないこと,被告人は,本件各犯行について反省の情を示していることなどの被告人にとって有利な事情を最大限考慮したとしても,主文掲記のとおりの刑を科すのが相当であると判断した。 (求刑 懲役15年) 平成17年9月28日宣告 青森地方裁判所刑事部         裁判長裁判官  髙 原   章             裁判官  室 橋 雅 仁             裁判官  香 川 礼 子

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