H17.10.20 東京高等裁判所 平成16年(行コ)第14号 各建築不許可処分取消請求

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1 都市計画に関する基礎調査の結果が客観性,実証性を欠くために土地利用,交通等の現状の認識及び将来の見通しが合理性を欠くにもかかわらず,そのような不合理な現状の認識及び将来の見通しに依拠して都市計画が決定されたと認められるときなど,都市計画法第6条第1項が定める基礎調査の結果が勘案されることなく都市計画が決定された場合は,当該都市計画の決定は,都市計画法(平成9年法律第50号による改正前のもの)第13条第1項第14号,第6号の趣旨に反して違法となる。 2 都市計画道路を11mから17mに拡幅するという内容に変更する都市計画の変更決定が,都市計画に関する基礎調査の結果が客観性,実証性を欠くものであったために,不合理な現状の認識及び将来の見通しに依拠してされたものであり,都市計画法(平成9年法律第50号による改正前のもの)第13条第1項第14号,第6号の趣旨に反して違法であるとして,都市計画法第53条第1項に基づき上記変更決定による都市計画道路の区域内に建築物を建築することの許可を申請した者に対してされた不許可処分が取り消された事例           主         文  1 原判決を取り消す。  2 被控訴人が控訴人Aに対して平成9年8月11日付け伊東市経由熱土第71号をもってした建築不許可処分を取り消す。  3 被控訴人が控訴人B,同C,同D,同E及びFに対して平成10年5月12日付け伊東市経由熱土第71号をもってした建築不許可処分を取り消す。  4 訴訟費用は,第1審及び第2審とも,被控訴人の負担とし,控訴人ら補助参加人らの当審における参加によって生じた費用は被控訴人の負担とし,被控訴人参加人の参加によって生じた費用は,第1審及び第2審とも,被控訴人参加人の負担とする。           事 実 及 び 理 由 第1 控訴の趣旨    主文第1項から第3項までと同旨 第2 事案の概要  1 本件は,都市計画法(平成10年法律第79号による改正前のもの。以下「法」という。)第21条第1項に基づいてされ,平成9年3月25日付け静岡県公報で告示がされた都市計画変更決定(静岡県告示第313号。以下,この決定を「本件変更決定」という。)に関し,本件変更決定により定められた都市計画道路の区域内において建築物の建築をしようとした控訴人らが,被控訴人に対し,法第53条第1項に基づき,上記都市計画道路の区域内において上記建築物の建築をすることの許可申請をしたところ,被控訴人から,法第54条の許可基準に合致していないとして,これを不許可とする決定を受けたため,その取消しを求めた事案である。控訴人らが提起した次の二つの訴えが原審において併合され,審理,判断された。   (1) 控訴人Aが,所有する土地上に鉄筋コンクリート造の建築物を建築することを計画したが,その敷地の一部が本件変更決定により定められた都市計画道路の区域内に位置するため,被控訴人に対し,平成9年7月11日,法第53条第1項に基づき,上記都市計画道路の区域内において上記建築物の建築をすることの許可申請をしたところ,被控訴人から,同年8月11日,上記建築許可申請に係る建築物の建築が本件変更決定による都市計画施設に関する都市計画に適合しないとして,これを不許可とする決定を受けたため,その取消しを求めて提起した訴え(原審平成9年事件)   (2) 控訴人B,同C,同D,F及び控訴人Eの5名(以下「Bほか4名」という。)が,それぞれ所有し又は共有する土地上に共同して1棟の鉄筋コンクリート造の建築物を建築することを計画したが,その敷地の一部が本件変更決定により定められた都市計画道路の区域内に位置するため,共同して,被控訴人に対し,平成10年4月13日,法第53条第1項に基づき,上記都市計画道路の区域内において上記建築物の建築をすることの許可申請をしたところ,被控訴人から,同年5月12日,上記建築許可申請に係る建築物の建築が本件変更決定による都市計画施設に関する都市計画に適合しないとして,これを不許可とする決定を受けたため,その取消しを求めて共同して提起した訴え(原審平成10年事件)  2 原判決は,控訴人らの請求はいずれも理由がないとして棄却したので,これを不服とする控訴人らが控訴を提起した。なお,原審平成10年事件の原告であったFは原審の口頭弁論終結前に死亡したが,同人の選任した訴訟代理人がいたので,訴訟手続は中断しなかった。原審平成10年事件についてはその訴えを提起した上記5名のうちFを除く4名が本件控訴を提起し,Fの相続人であるB,E,G及びHがその訴訟上の地位を承継して控訴人の地位にあるものとして控訴状の当事者の表示の訂正等がされた。  3 前提となる事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり改め,当審における当事者の主張を4のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1から3まで(原判決3頁17行目から21頁13行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。   (1) 原判決4頁14行目の「右建築許可申請は,法54条の許可基準に合致していないとして,」を「上記建築許可申請に係る建築物の建築が本件変更決定による都市計画施設に関する都市計画に適合しないことを理由に,」に,同5頁3行目の「右建築許可申請は,法54条の許可基準に合致していないとして,」を「上記建築許可申請に係る建築物の建築が本件変更決定による都市計画施設に関する都市計画に適合しないことを理由に,」にそれぞれ改める。   (2) 原判決5頁7行目を「(1) 被控訴人は,本件変更決定をするに当たり,法第6条第1項による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき,都市施設が土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して適切な規模で必要な位置に配置されるように,新たな都市計画を定めたということができるか。」に改める。   (3) 原判決5頁17行目の「(柱書とも言うが以下「本文」で統一する。)」を削除する。   (4) 原判決8頁8行目の「既決定の」を「原計画決定で定められていた」に改める。  4 当審における当事者の主張   (1) 控訴人らの主張    ア 被控訴人に認められる裁量は専門的・技術的考慮に基づくものであり,都市計画決定に際して基礎調査等による予測がされ,これを勘案することが法第6条で定められたことにかんがみれば,本件変更決定が被控訴人に認められた裁量の範囲を逸脱しているか否かに関する裁判所の審理,判断は,被控訴人の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって,被控訴人の判断に際して用いられた資料,あるいは当該資料作成の基礎となった手法等につき,科学的観点から見て不合理な点があれば,被控訴人の行った処分は違法と判断されるべきである。    イ 被控訴人が本件変更決定の根拠とした資料である都市計画道路網計画調査業務委託報告書(以下「道路網計画」という。)及び「都市計画道路伊東大仁線都市計画変更資料作成業務委託報告書」(以下「計画変更資料」という。)は,将来総人口予測,将来交通量予測,交差点解析等を行うについて採った方法が不合理であると共に,結果においても伊東大仁線沿線の現況を反映していないことはもちろん,上位計画等とも矛盾を生じた著しく不合理なものとなっている。   (2) 被控訴人の主張    ア 都市計画法(平成9年法律第50号による改正前のもの。以下同じ。)第13条第1項の規定内容は一般的抽象的であり,都市計画は様々な利益を衡量し,これらを総合して政策的,技術的な裁量によって決定せざるを得ないから,このような判断については,技術的な検討を踏まえて政策として都市計画を決定する行政庁の広範な裁量権の行使にゆだねられた部分が大きく,都市施設をはじめとして,多くの都市計画決定は,これを決定する権限を有する行政庁が,その決定についてゆだねられた裁量権の範囲を著しく逸脱し,あるいは,それを明らかに濫用したと認められる場合に限って違法となると解すべきである。    イ 本件変更決定は,法第21条第1項所定の「その他都市計画を変更する必要が生じたとき」に当たるものとしてされた。昭和32年に原計画決定が決定されてから平成9年に本件変更決定がされるまでの間に,我が国が飛躍的な高度経済成長を遂げ,人口が増加し,モータリゼーションの進展により自動車保有台数が増加するとともに車両が大型化し,自動車交通量が激増した。また,地震発生時の緊急避難路としての機能を発揮させるためにも,本件変更区間の拡幅整備が必要である。さらに,伊東市が数次にわたって行っている道路網計画においても都市計画道路伊東大仁線は伊東市中心市街地の骨格路線とされており,今後も伊東市が存在する限り,伊東市中心市街地の骨格路線として使用されることが明らかである。昭和62年には,国道135号バイパスが4車線で供用されたことから,同バイパスと主要な地方道である県道伊東修善寺線(都市計画道路伊東大仁線と一部重複)を相互に往来する車両の円滑な交通を図るため,連絡道路となる本件変更区間の拡幅整備がこの地域における幹線道路網整備のために欠かせない課題となっている。以上のように,原計画決定以後,社会環境が大きく変化し,増大した交通量や防災上,道路網整備上の必要に対応する必要が生じたことからすれば,「その他都市計画を変更する必要が生じたとき」に当たる。伊東大仁線は,道路法が適用される道路であり,具体的な道路の構造(幅員,形状等)は,道路法の委任を受けた道路構造令において,道路の区分ごとに定められている。伊東大仁線は,計画交通量が1日当たり4000台以上1万台未満であり,道路構造令第3条所定の第4種第2級の道路であって,同令第27条第2項により右折車線を設ける必要があり,そのため,被控訴人は,道路構造令の規定に基づき幅員を11メートルから17メートルに変更した。被控訴人は,その際,伊東市中心市街地地区更新基本計画(以下「基本計画」という。),道路網計画,計画変更資料を本件変更決定の基礎資料として参酌した。 第3 当裁判所の判断  1 原審平成10年事件は,Bほか4名が,構造上の共用部分を含む不可分一体の1棟の建築物を建築することを計画し,法第53条第1項に基づく建築の許可申請をしたところ,被控訴人からこれを不許可とする決定を受けたため,その取消しを求めて提起した訴えであるから,固有必要的共同訴訟に当たるものと解するのが相当である(最高裁平成6年(行ツ)第83号同7年3月7日第三小法廷判決民集49巻3号944頁参照)。したがって,前記の経過によれば,原審平成10年事件については,Fの相続人であるB,E,G及びHがFの本件訴訟上の地位を承継し,その結果,B,E,同G及び同H並びに同C及び同Dが控訴人の地位にあるものというべきである。  2(1) 前記引用に係る原判決の認定事実(前記訂正部分を含む。)によれば,原計画決定は都市計画施設として伊東大仁線のうち起点伊東市東松原町から終点伊東市広野2丁目までの延長1320メートルを幅員11メートルとすることを定めていたが,本件変更決定はそのうち起点伊東市東松原町から約180メートル区間(本件変更区間)については幅員17メートルに拡幅するという内容に変更するものであり,Aの許可の申請に係る建築物及びBほか4名の許可の申請に係る建築物は,いずれもその全部又は一部が本件変更決定による都市計画施設(都市計画道路)の区域内に建築が予定されているものである。A及びBほか4名は,法第53条第1項に基づき,それぞれ建築の許可を申請したが,被控訴人は,申請に係る各建築物の建築が本件変更決定による都市計画施設に関する都市計画に適合しないことを理由に,いずれの申請に対してもこれを不許可とした。控訴人らは,本件訴えをもって上記各不許可処分の取消しを請求するものであり,本件変更決定が違法であることを理由として上記各不許可処分の取消しを請求することができるものというべきである(最高裁昭和53年(行ツ)第62号同57年4月22日第一小法廷判決民集36巻4号705頁参照)。   (2) 都道府県知事は,市又は人口,就業者数その他の事項が政令で定める要件に該当する町村の中心の市街地を含み,かつ,自然的及び社会的条件並びに人口,土地利用,交通量その他建設省令で定める事項に関する現況及び推移を勘案して,一体の都市として総合的に整備し,開発し,及び保全する必要がある区域を都市計画区域として指定し(法第5条第1項),都市計画区域について,おおむね5年ごとに,都市計画に関する基礎調査として,建設省令で定めるところにより,人口規模,産業分類別の就業人口の規模,市街地の面積,土地利用,交通量その他建設省令で定める事項に関する現況及び将来の見通しについての調査を行い(法第6条第1項),都市計画に関する基礎調査の結果に基づき,当該都市の発展の動向,当該都市計画区域における人口及び産業の将来の見通し等を勘案して,市街化区域と市街化調整区域との区分を定め(法第7条第1項,都市計画法第13条第1項第1号),市街化区域及び市街化調整区域に関する都市計画を決定するものとされる(法第15条第1項第1号,第18条第1項)。そして,都市計画は,国土計画又は地方計画に関する法律に基づく計画及び道路,河川,鉄道,港湾,空港等の施設に関する国の計画に適合するとともに,当該都市の特質を考慮して,都市計画法第13条第1項各号所定の基準に従って,土地利用,都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを,一体的かつ総合的に定めなければならず(都市計画法第13条第1項本文),同項各号の基準を適用するについては,法第6条第1項による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき,かつ,政府が法律に基づき行う人口,産業,住宅,建築,交通,工場立地その他の調査の結果について配慮することとされている(同項第14号)。     上記各規定によれば,都道府県知事は都市計画を決定するについて一定の裁量を有するものといい得るが,その裁量は都市計画法第13条第1項各号の定める基準に従って行使されなければならないのであって,それが上記の基準に照らして,著しく逸脱するものであるときは,当該決定は,同条項各号の趣旨に違反し,違法となるといわざるを得ない。これを都市施設(法第11条第1項第1号)を都市計画に定めるについていうならば,同項第6号の定める基準に従い,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して適切な規模で必要な位置に配置されるように定めることを要するのであり,しかも,この基準を適用するについては,同項第14号により法第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づくことを要するとされている(都市計画法第13条第1項第14号)。都市計画法第13条第1項第14号,第6号の趣旨は,法第6条第1項により,都市計画に関する基礎調査として,建設省令で定めるところにより,人口規模,産業分類別の就業人口の規模,市街地の面積,土地利用,交通量その他建設省令で定める事項に関する現況及び将来の見通しについての調査が行われることを受け,都道府県知事が,都市計画に都市施設を定めるに当たっては,上記基礎調査の結果に基づいて土地利用,交通等の現状を正しく認識し,かつ,将来を的確に見通し,現状の正しい認識及び将来の的確な見通しを勘案して適切な規模で必要な位置に配置するようにしなければならないこととし,もって,客観的,実証的な基礎調査の結果に基づく土地利用,交通等についての現状の正しい認識及び将来の的確な見通しを踏まえて,合理的な判断がされ,都市施設が適切な規模で必要な位置に配置されることを確保しようとするにあるものと解される。したがって,法は,上記基礎調査の結果が客観性のある合理的なものでなければならず,かつ,その基礎調査の結果に基づいて土地利用,交通等の現状が正しく認識され,かつ,将来の見通しが的確に立てられ,これらが都市計画において勘案されることを要するものとしているというべきである。そうすると,当該都市計画に関する基礎調査の結果が客観性,実証性を欠くために土地利用,交通等の現状の認識及び将来の見通しが合理性を欠くにもかかわらず,そのような不合理な現状の認識及び将来の見通しに依拠して都市計画が決定されたと認められるとき,客観的,実証的な基礎調査の結果に基づいて土地利用,交通等につき現状が正しく認識され,将来が的確に見通されたが,都市計画を決定するについて現状の正しい認識及び将来の的確な見通しを全く考慮しなかったと認められるとき又はこれらを一応考慮したと認められるもののこれらと都市計画の内容とが著しく乖離していると評価することができるときなど法第6条第1項が定める基礎調査の結果が勘案されることなく都市計画が決定された場合は,客観的,実証的な基礎調査の結果に基づいて土地利用,交通等につき現状が正しく認識され,将来が的確に見通されることなく都市計画が決定されたと認められるから,当該都市計画の決定は,都市計画法第13条第1項第14号,第6号の趣旨に反して違法となると解するのが相当である。     ところで,法は,都市計画区域が変更されたとき,第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査又は第13条第1項第14号に規定する政府が行う調査の結果都市計画を変更する必要が明らかとなったとき,遊休土地転換利用促進地区に関する都市計画についてその目的が達成されたと認めるとき,その他都市計画を変更する必要が生じたときは,遅滞なく,当該都市計画を変更すべきことを定めているが(法第21条第1項),同項により都市計画が変更される場合においても変更の結果新たな都市計画が定められることになるのであるから,当該都市計画についても,その内容は,都市計画法第13条第1項各号の定める基準に従って定められなければならないというべきである。したがって,都道府県知事が,従前の都市計画を変更して新たに都市計画施設を都市計画に定めるに当たっては,同項第6号の定める基準に従い,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して適切な規模で必要な位置に配置されるように定めることを要するのであり,しかも,この基準を適用するについては,同項第14号により法第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づくことを要するのであって(都市計画法第13条第1項第14号),前記のとおり,都市計画に関する基礎調査の結果が客観性,実証性を欠くために土地利用,交通等の現状の認識及び将来の見通しが合理性を欠くにもかかわらず,そのような不合理な現状の認識及び将来の見通しに依拠して都市計画が決定されたと認められるとき,客観的,実証的な基礎調査の結果に基づいて土地利用,交通等につき現状が正しく認識され,将来が的確に見通されたが,都市計画を決定するについて現状の正しい認識及び将来の的確な見通しを全く考慮しなかったと認められるとき又はこれらを一応考慮したと認められるもののこれらと都市計画の内容とが著しく乖離していると評価することができるときなど法第6条第1項が定める基礎調査の結果が勘案されることなく都市計画が決定された場合は,客観的,実証的な基礎調査の結果に基づいて土地利用,交通等につき現状が正しく認識され,将来が的確に見通されることなく都市計画が決定されたと認められるから,当該都市計画の変更は都市計画法第13条第1項第14号,第6号の趣旨に違反して違法となると解するのが相当である。   (3) 被控訴人は,都市計画法第13条第1項の規定内容が一般的抽象的であること,様々な利益を衡量し,これらを総合して政策的,技術的な裁量によって都市計画を決定せざるを得ないことを理由に,このような判断については,技術的な検討を踏まえた政策として都市計画を決定する行政庁の広範な裁量権の行使にゆだねられた部分が大きく,都市施設をはじめとして,多くの都市計画決定は,これを決定する権限を有する行政庁が,その決定についてゆだねられた裁量権の範囲を著しく逸脱し,あるいは,それを明らかに濫用したと認められる場合に限って違法となると主張する。しかしながら,前記のとおり,都道府県知事は,都市計画を決定するについて一定の裁量を有するものといい得るが,その裁量は都市計画法第13条第1項各号の定める基準に従って行使されなければならないのであり,これを都市施設を都市計画に定めるについていうならば,同項第6号の定める基準に従い,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して適切な規模で必要な位置に配置されるように定めることを要するのであり,しかも,この基準を適用するについては,同項第14号により法第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づくことを要するのであって(都市計画法第13条第1項第14号),客観的,実証的な基礎調査の結果に基づいて土地利用,交通等につき現状が正しく認識され,将来が的確に見通されることなく都市計画が決定されたと認められる場合には,当該都市計画の決定は,同項第14号,第6号に違反し,違法となると解するのが相当であるところ,都市計画に関する基礎調査の結果が客観性,実証性を欠くためにこれに基づく土地利用,交通等の現状の認識及び将来の見通しが合理性を欠くにもかかわらず,そのような不合理な現状の認識及び将来の見通しに依拠して都市計画が決定されたと認められるときや,客観的,実証的な基礎調査の結果に基づいて土地利用,交通等につき現状が正しく認識され,将来が的確に見通されたが,その正しい認識及び的確な見通しを全く考慮しなかったと認められるとき又はこれらを一応考慮したと認められるもののこれらと都市計画の内容とが著しく乖離していると評価することができるときなど法第6条第1項が定める基礎調査の結果が勘案されることなく都市計画が決定された場合は,当該都市計画の決定は,上記と同様の理由で違法となると解するのが相当である。被控訴人の前記主張は,上述したことに反する限度において採用することができない。     そこで,以下,上記の観点から本件変更決定が違法であるかどうかについて判断する。   (4) 判断の前提となる事実の認定については,原判決の「事実及び理由」欄中の「第3 当裁判所の判断」の1(原判決21頁15行目から32頁末行目まで)に記載するとおりであるから,これを引用する。   (5) 被控訴人は,本件変更決定が法第21条第1項所定の「その他都市計画を変更する必要が生じたとき」に当たるものとしてされたと主張し,その理由として,昭和32年に原計画決定が決定されてから平成9年に本件変更決定がされるまでの間に,我が国が飛躍的な高度経済成長を遂げ,人口が増加し,モータリゼーションの進展により自動車保有台数が増加するとともに車両が大型化し,自動車交通量が激増したこと,地震発生時の緊急避難路としての機能を発揮させるためにも,本件変更区間の拡幅整備が必要であること,伊東市が数次にわたって行っている道路網計画においても都市計画道路伊東大仁線は伊東市中心市街地の骨格路線とされており,今後も伊東市が存在する限り,伊東市中心市街地の骨格路線として使用されることが明らかであること,昭和62年には,国道135号バイパスが4車線で供用されたことから,同バイパスと主要な地方道である県道伊東修善寺線(都市計画道路伊東大仁線と一部重複)を相互に往来する車両の円滑な交通を図るため,連絡道路となる本件変更区間の拡幅整備がこの地域における幹線道路網整備のために欠かせない課題となったことを挙げ,以上のように,原計画決定以後,社会環境が大きく変化し,増大した交通量や防災上,道路網整備上の必要に対応する必要が生じたことからすれば,「その他都市計画を変更する必要が生じたとき」に当たること,伊東大仁線は,平成22年における計画交通量が1日当たり4000台以上1万台未満であり,道路構造令第3条所定の第4種第2級の道路であって,同令第27条第2項により右折車線を設ける必要があり,そのため,道路構造令の規定に基づき幅員を11メートルから17メートルに変更したものであること,その際,基本計画,道路網計画,計画変更資料を本件変更決定の基礎資料として参酌したこと,以上のとおり主張する。     しかしながら,前記のとおり,法第21条第1項により都市計画が変更される場合においても変更の結果新たな都市計画が定められることになるのであるから,当該都市計画についても,その内容は,都市計画法第13条第1項各号の定める基準に従って定められなければならないというべきである。したがって,被控訴人が,本件変更決定により,従前の都市計画を変更して新たに都市計画を定めるに当たっても,法第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して適切な規模で必要な位置に配置するように定めることを要するのであり,法第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づかずに,上記のように抽象的に社会環境が大きく変化したことを挙げるだけでは,都市計画法第13条第1項第6号の定める基準に従って新たに都市計画を定めたとするには不十分であるといわざるを得ない。そこで,被控訴人が,本件変更決定により,従前の都市計画を変更して本件変更区間を幅員17メートルに拡幅することを内容とする新たな都市計画を定めるに当たり,都市計画法第13条第1項第6号の趣旨に従い,法第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して適切な規模で必要な位置に配置するように定めたかどうかについて,被控訴人が本件変更決定の基礎資料として参酌したとする前記の資料に即して更に検討する。    ア 証拠(甲8の2,22,27,60,73,74,78,81,85,86,乙9)によれば,本件変更決定の直接の資料である計画変更資料は,道路網計画で策定したマスタープランにおける平成22年における伊東市の将来予測の総人口を基礎として,将来交通量予測結果に基づき,平成22年における伊東大仁線の利用交通量は1日当たり4100台から1万3000台であり,国道135号バイパスから大樋上耕地線までの区間距離による加重平均は1日当たり8000台であり,110メートル区間は1日当たり4100台であるとしていること,被控訴人は,この数値を根拠に,伊東大仁線が道路構造令第3条所定の第4種第2級の道路に当たり,同令第27条第2項により右折車線を設ける必要があるなどとして,幅員を11メートルから17メートルに変更したものであること,道路網計画は,伊東市の将来予測総人口を25に分割したゾーンに割り振り,伊東大仁線沿線地区に該当するゾーンの人口が平成22年の伊東市内予測総人口に占める割合を求め,これを基に将来ゾーン別発生集中交通量予測を行って上記の数値を求めたのであるが,各ゾーンに割り振った基準は,平成22年における可能収容人口と平成2年現在の現実の人口との差である当該ゾーンの可能収容残容量であること,しかし,各ゾーンの可能収容人口は,各ゾーンの予想される用途と面積のみに基づいて算出されていることから,その予測自体必ずしも確度の高いものとはいい難いこと,伊東大仁線沿線地区を含む旧市内地区の人口は,昭和50年ころをピークに平成7年にかけて大幅に減少しているところ,予測人口の増加分を上記のとおり各ゾーンの可能収容残容量に応じて配分するという手法では,旧伊東地区のように人口が減少している地域ほど残容量が大きくなってしまうことになり,そのような手法を採用した結果として,人口減少傾向が続いている伊東大仁線沿線地区が属するゾーンの交通量の伸び率が他の地区の増加率と対比しても高くなっていること,また,上記可能収容人口の基礎となった上記道路網計画上の伊東市の平成22年における総人口の将来予測については次のような問題があったこと,すなわち,道路網計画の上位計画である第5次基本計画(平成3年度から同7年度を対象に立てられた。)は平成12年度の将来人口を8万5000人に設定していたものの,これには第5次基本計画が平成22年度に10万人都市を目指すという目標を設定していたことから平成12年度の将来人口を8万5000人に設定していたという事情があったのであり,また,平成2年3月に策定された基本計画(平成元年度伊東市中心市街地地区更新基本計画)も平成12年度の将来人口を8万5000人に設定していたものの,基本計画は,中心市街地が交通渋滞,商業活動の停滞,建築物の老朽化等々の問題を抱え,昭和63年12月15日に伊東市松原地区において大火事(松原大火)が発生したことから,公共的見地から都市の安全性を高め,再開発手法を基にした出湯のまちにふさわしい観光都市を形成するための方向付けを行う目的で策定されたものであったという事情があったこと,これに対し,やはり上位計画に当たる国土利用計画では平成17年度についてであるが将来人口を7万9500人に設定していたこと,以上のような事情があったにもかかわらず,道路網計画は,第5次基本計画及び基本計画が平成12年度の将来人口として設定していた8万5000人という数値をそのまま平成22年度の将来人口として設定したものであること,したがって,道路網計画の平成22年度の将来人口予測は過大に設定されてしまっているといわざるを得ないこと,また,道路網計画は,同年における就業人口を求めてこれを就業率で除して求めた推計値を平成22年度の将来人口予測の支えとしているが,そのような手法による将来人口予測が有力な方法であるとして一般に採用されているものであることを認めるに足りる証拠はないこと,伊東市は,伊東大仁線沿線地区に当たる松原地区及び岡地区の昭和75年度(平成12年度)の将来人口について,昭和60年と比較して減少するとの予測を行い,実際にも,前記のとおり,伊東大仁線を含む旧市内地区の人口は,平成7年にかけて大幅に減少しているのであって,道路網計画が採ったゾーン別の可能収容残容量を基に平成22年の利用交通量を推計した方法が前提としていることとは異なっていること,本件変更決定以前に法第6条の定める基礎調査の1つである交通量調査が行われた平成3年以降,それまで伊東大仁線沿線にあった市役所,商工会議所及び銀行といった市の重要施設が伊東大仁線沿線外へと移転し,本件変更決定以前に伊東大仁線沿線の就業人口が大きく減少し,これらの施設への来所者もなくなったことから,沿線交通量が減少したであろうことは容易に把握することができたこと,以上の事実が認められ,この認定に反する証拠はない。      以上によれば,本件変更決定の直接の資料である計画変更資料が援用した道路網計画で策定したマスタープランにおける将来交通量の予測は,その基礎的数値として平成22年における伊東大仁線沿線地区に当たるゾーンの可能収容人口の残容量を採用しているが,可能収容人口の残容量を用いて交通量の予測をすることの合理性自体明らかとはいえないばかりか(当該ゾーンの可能収容人口の残容量と人口の増加との関連性を解明するに足りる証拠もない。),結果的に現実に人口減少傾向が見られるゾーンほど可能収容人口の残容量が多くなり,それに対応して将来予測される交通量も増加するという予測手法の構造自体合理性を欠くものといわざるを得ないし,また,交通量予測の基本となる伊東市の平成22年における総人口の予測について,過大に設定されてしまっているという問題があり,合理性に疑いのあるものといわざるを得ない。したがって,上記道路網計画で策定したマスタープランにおける将来交通量の予測結果は,合理的な推計方法に基づかないものであるといわざるを得ず,被控訴人が,平成22年における伊東大仁線の110メートル区間の利用交通量を1日当たり4100台であると推計して,この数値を根拠に,伊東大仁線が道路構造令第3条所定の第4種第2級の道路で,同令第27条第2項により右折車線を設ける必要があると判断したことも,合理性を欠くものといわざるを得ない。    イ 証拠(甲45の2,75,81,84,86)によれば,計画変更資料は,交差点解析を根拠に,伊東大仁線から国道135号バイパスへの流入部では,右左折混用車線で処理可能な交通量を超過する交通量が見込まれるとし,右折,左折の2車線を設ける必要があるとしていること,上記の交差点解析は,国道135号バイパスと伊東大仁線の交差点の信号サイクルを60秒に設定し,青信号の時間として,国道135号バイパスにつき30秒,国道135号バイパスの宇佐美から川奈方面へ向かう車線の右折につき5秒,伊東大仁線につき15秒をそれぞれ設定し,これらの条件で算定を行った結果,上記のとおり,右折,左折の2レーンを設ける必要があると結論付けていること,しかしながら,交差点解析を行う場合,歩行者の歩行速度は毎秒1メートルとし,若干の余裕を見込んで歩行者が安全に横断することができる青信号の時間を設定する必要があるのに,計画変更資料の交差点解析においては,上記のとおり,伊東大仁線の青信号の時間が15秒と設定され,その結果幅員16メートルの国道135号バイパスを歩行者が安全に横断することができる時間より短く設定されているので,この設定条件の下では歩行者が幅員16メートルの国道135号バイパスを安全に横断することができなくなってしまっていること,交差点解析の条件設定は,歩行者が安全に道路を横断することができる信号サイクルとなるように,例えば信号サイクルの時間を60秒より長くして有効青時間を長くし,その分を伊東大仁線の必要青時間に割り振ると,その割り振り方を工夫することにより,右折車線を設けなくても,交通量が交通容量を上回らないこととなる可能性があること,しかも,上記交差点解析は,目標年次である平成22年の計画交通量である1日当たり4100台を基準とすることなく,平成12年の計画交通量である1日当たり8200台を基準としていること,以上の事実が認められ,この認定に反する証拠はない。      上記認定事実によれば,計画変更資料が右折車線を設置する必要があると結論付けた根拠となった交差点解析は,その条件設定が合理性を欠くものであったといわざるを得ないのみならず,上記交差点解析の基礎となった計画交通量について,目標年次である平成22年の計画交通量を基準とせずに,平成22年の計画交通量の約2倍に当たる平成12年の計画交通量のみを解析の基準としている点においてもその合理性を肯定することは困難というほかなく(この合理性を認めるに足りる証拠も提出されていない。),したがって,計画変更資料の交差点解析をもって右折車線の設置の必要性の根拠とすることはできないというべきである。     以上,ア及びイを踏まえて検討すると,確かに,前記引用に係る原判決の認定事実(前記訂正部分を含む。)によれば,伊東大仁線のうち110メートル区間だけが未整備で幅員2.5メートルから4メートルの一方通行となっており,国道135号線バイパスが4車線で供用開始となった昭和62年7月ころ以降は同バイパスと国道135号線の間に相当する110メートル区間の整備が特に優先度の高いものとされてきたのであって,110メートル区間を整備して伊東大仁線を国道135号線バイパスに接続することを都市計画の内容とすること自体にはうなずける面がある。しかしながら,本件変更決定により原計画決定を変更する以上,変更の結果定められることになる新たな都市計画の内容は,都市計画法第13条第1項第6号の定める基準に従って定められなければならないのであり,110メートル区間を整備して伊東大仁線を国道135号線バイパスに接続することを所与の前提として道路構造令の規定だけを根拠に本件変更決定が必要であるということはできない。なお,原計画決定は都市計画施設として伊東大仁線のうち起点伊東市東松原町から終点伊東市広野2丁目までの延長1320メートルを幅員11メートルとすることを定めていたが,本件変更決定はそのうち起点伊東市東松原町から約180メートル区間(本件変更区間)については幅員17メートルに拡幅するという内容に変更するものであり,6メートルに及ぶ拡幅を行うことを内容とする点において実質的にも重要な変更であることを否定することはできない。したがって,被控訴人は,本件変更決定により,110メートル区間を整備して伊東大仁線を国道135号線バイパスに接続すること,かつ,起点伊東市東松原町から約180メートル区間(本件変更区間)については幅員17メートルに拡幅することを内容とする都市計画を新たに定めるについて,これらは,法第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して適切な規模で必要な位置に配置するように定めたものであることを主張立証することを要する。そして,上記の拡幅の根拠は右折車線の設置と歩道の拡幅とにあるから,これらを必要とする合理性が問題となるところ,上記ア及びイのとおり,被控訴人が本件変更決定をするに当たって勘案した土地利用,交通等の現状及び将来の見通しは,都市計画に関する基礎調査の結果が客観性,実証性を欠くものであったために合理性を欠くものであったといわざるを得ない。そうである以上,本件変更決定は,そのような不合理な現状の認識及び将来の見通しに依拠してされたものであるから,法第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき,都市施設が土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して適切な規模で必要な位置に配置されるように定めることを規定する都市計画法第13条第1項第14号,第6号の趣旨に反して違法であるというべきである。  3 以上によれば,本件変更決定は違法であるから,被控訴人がAの許可申請に対して当該申請に係る建築物の建築が本件変更決定による都市計画施設に関する都市計画に適合しないことを理由にした不許可処分及びBほか4名の許可申請に対して同様の理由でした不許可処分は,いずれも違法である。よって,上記各不許可処分の取消しを求める控訴人らの請求は理由があり,控訴人らの請求はすべて認容すべきである。 第4 結論    よって,控訴人らの本件控訴は理由がある。これと異なり,控訴人らの請求をいずれも棄却した原審の判断は,不当であるからこれを取り消し,控訴人らの請求をすべて認容することとして,主文のとおり判決する。  東京高等裁判所第21民事部  (裁判長裁判官 浜野 惺  裁判官 高世 三郎  裁判官 長久保 尚善)

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