H17. 7.14 甲府地方裁判所 平成16年(わ)第363号 逮捕監禁致傷被告

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判示事項の要旨:  暴力団の組長である被告人が,組員である共犯者とともに,暴力団組織を脱退しようと身を隠すなどした被害者を約9日間にもわたって監禁するとともに,その間,被害者に対し,脅迫や暴行を加えて傷害を負わせたという逮捕監禁致傷の事案 主       文        被告人を懲役3年に処する。        未決勾留日数中200日をその刑に算入する。 理       由 (犯罪事実)  被告人は,A(以下「A」ともいう。)(当時31歳)が,被告人が組長をしていた暴力団組織を脱退しようと身を隠すなどしたことに腹を立て,Aに対し制裁を加えるため同人を逮捕監禁しようと企て,B(以下「B」ともいう。),C(以下「C」ともいう。),D(以下「D」ともいう。),E(以下「E」ともいう。),F及びGと共謀の上,平成16年8月23日午前2時30分ころ,山梨県甲府市○丁目○番○号○○号室において,Aに対し,被告人が「生き地獄を見せる。」などと怒号して脅迫し,E及びDが紙製粘着テープでAの目隠しをし,両手首,両足首を緊縛し,BがAの背中付近を木刀で殴打するなどした上,Aの身体を毛布でくるんでロープで縛り,普通乗用自動車のトランクに入れ,同市○丁目○番○号に所在するD名義(当時 )の家屋に連行し,引き続き,手錠等でAの手足を緊縛し,BらがAの行動を監視するなどして,同市○○番地B方及び同県山梨市○○番地○○号室に連行し,よって,同月31日午後5時ころまでの間,Aがその場から脱出することを不能ならしめ,もって同人を不法に逮捕監禁し,その際,上記一連の暴行により,同人に全治約10日間を要する両手関節部,両下腿挫傷及び腰部挫傷の傷害を負わせたものである。 (事実認定の補足説明)  被告人は,共犯者と共謀して被害者に対し逮捕監禁行為を行ったこと及びその結果被害者に傷害を負わせたこと自体は認めつつも,○○号室(以下「組事務所」という。)において,自分が被害者に対し「生き地獄を見せる。」などと言ったことはないし,Bに被害者を木刀で殴打しろと指示したこともなく,Bが被害者を木刀で殴打したかどうかは見ていないので分からない旨供述し,弁護人も同様の主張をするので,以下この点につき補足的に説明すると,本件被害者である証人Aは,①組事務所に連れて行かれた後,被告人から怒った声で「生き地獄を見せる。」と言われて脅された,②さらに,ガムテープで目隠しされた後,被告人がBに対し「○○,木刀持ってこい。」と木刀を持ってくるように命じ,その後自分は誰かに木刀で腰のあたりを殴ら れた旨供述している。また,被告人の共犯者であり,当時被告人が組長をしていた暴力団組織の組員であった証人Bも,①被告人が組事務所で被害者に対し「生き地獄を見せてやる。」と言った,②組事務所で,被告人の指示を受け木刀を持ってきた後,被告人に「しめろ。」と言われたので被害者の背中を木刀で殴打した旨供述している。両証人の供述内容は,脅迫行為と殴打行為の先後関係などの点で若干齟齬する部分はあるものの,問題とされている行為の存在やその内容については概ね合致しているし,関係証拠によって認められる本件逮捕監禁行為の動機や,被害者を組事務所に連れてくるまでの経過,その後の逮捕・監禁行為などとの整合性という面からも両証人が供述するような行為があったとみてあながち不自然な点はない。また,両証人の供 述内容を個別にみても,証人Aについては,その供述内容が具体的で迫真性に富む上,分からない点は分からないと述べたり,被告人の妻から預かった金を持ち逃げしたことなど自己に非がある点についても正直に話すなどしているし,本件の被害者であるとの立場を考慮しても,暴力団組織の組長であった被告人を相手に,殊更虚偽や記憶にない供述をしてまでこれを陥れようとするとは考え難く,その供述内容は基本的に信用性は高いと言うことができるし,証人Bについても,被告人にとって不利益な事実について供述する際に多少言いよどむ場面はあるものの,被告人が組長をしていた暴力団組織の組員であったという同証人の立場を踏まえると,そのような供述態度をもって供述内容の信用性を疑わせるものと評価するのは相当でなく,むしろ,組長 である被告人の面前でありながら,被告人の脅迫行為や,被告人の指示に従って自らが木刀で被害者を殴打したという事実を一貫して認める同証人の供述の信用性は高いと言える。確かに,弁護人が指摘するように,組事務所に居合わせた共犯者C,D,Eは,「生き地獄をみせる。」旨の被告人の脅迫行為については,捜査段階において,いずれも,記憶がない旨ないしは曖昧な供述をしているが,証人A及び同Bが一致して前記脅迫行為の存在を供述していることや,前記共犯者らが被告人が組長をしている暴力団組織の組員ないし関係者という立場にあることなどに鑑みれば,これら共犯者の前記各供述が,前記脅迫行為の存在を認める証人A及び同Bの前記各供述の信用性に影響を及ぼすものではない。  以上によれば,判示のとおり,被告人が,被害者に対し,「生き地獄を見せる。」などと怒号して脅迫した事実及び被告人の指示を受けてBが木刀で被害者の背中付近を殴打した事実を優に認定することができる。 (累犯前科)  被告人は, 平成13年9月25日甲府地方裁判所で逮捕監禁罪により懲役1年10月に処せられ,平成13年10月23日その刑の執行を受け終わり, その後犯した恐喝未遂罪により平成14年7月23日甲府地方裁判所で懲役1年に処せられ,平成15年6月25日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は,検察事務官作成の前科調書及び上記の前科に係る判決書謄本によってこれを認める。 (法令の適用)  被告人の判示所為は包括して刑法60条,221条に該当するから,同法10条により逮捕監禁罪(同法220条)の刑と傷害罪の刑(行為時においては平成16年法律第156号(刑法等の一部を改正する法律)による改正前の刑法204条に,裁判時においてはその改正後の刑法204条によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)とを比較し,重い傷害罪について定めた懲役刑(ただし,短期は逮捕監禁罪の刑のそれによる。)に従って処断することとし,前記の各前科があるので同法59条,56条1項,57条により3犯の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中200日をその刑に算入し,訴訟費用 は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件は,暴力団の組長である被告人が,組員である共犯者と共謀の上,被害者をガムテープ,手錠,ロープ等で緊縛したり,車のトランクに押し込むなどしながら,場所を転々としつつ約9日間にもわたって監禁するとともに,その間,被害者に対し,脅迫や木刀で殴打するなどの暴行を加え,その結果,被害者に対し,両手関節部,両下腿挫傷及び腰部挫傷の傷害を負わせたという逮捕監禁致傷の事案である。 2 本件は,暴力団組織を無断で脱退すべく身を隠すなどした被害者に制裁を加える目的で,組長である被告人の指示の下,組員である共犯者らにより組織的に敢行されたものであるが,暴力団特有の粗暴な行動傾向 が如実に現れた犯行であり,その短絡的かつ身勝手な動機に酌量の余地はない。 その犯行態様は,被告人の指示を受けた共犯者らにおいて被害者をガムテープ,手錠,ロープ等で緊縛したり,簀巻き状態にした上,車のトランクに押し込んで移動したりしながら, 組事務所や民家等に約9日間にもわたって監禁し,その間,悪辣な言葉で脅しつけたり,被害者に対し一方的に暴行を加えたというのであって,粗暴かつ執拗で悪質である。また,犯行の発覚を免れるべく,監禁先を転々とするなど,その手口も巧妙である。 もとより被害者においてこれほどの制裁を受けなければならないような落ち度はなく,生き地獄を見せてやるなどと脅迫された上,暴行を受けたり,緊縛されるなどし,その後もいつ解放されるか全く分からない状況で四六時中監視され続けた結果,約9日間もの長期間にわたって監禁され,傷害を負わされた被害者の肉体的苦痛はもちろん ,当初は殺されるかもしれないという恐怖に晒されていたと述べるとおり,その精神的苦痛も甚大なものであったと認められる。しかるに,いまだ被害者に対しては何らの慰謝の措置も講じられておらず,当然のことながら被害者の処罰感情には厳しいものがある。 このように,本件の犯情はまことに悪質であるところ,被告人は,組長として共犯者らに指示をしたほか,自らも積極的に被害者に対し脅迫や暴行を加えるなどし,文字どおり本件犯行において主導的・中心的な役割を果たしていたものであり,本件に対する責任は共犯者間で最も重い。 それにもかかわらず,被告人は,公訴事実の一部についてではあるものの,不合理な弁解をし,責任を転嫁する態度も一部に示しているのであって,真摯な反省悔悟の情を認めることはできない。 また,被告人には逮捕監禁罪や傷害罪等の同種の犯罪を含む多数の前科前歴があり,同種の逮捕監禁罪につき服役したことがあるにもかかわらず,前刑の執行終了後約1年ほどで本件犯行に及んでいることからすると,被告人の規範意識は著しく希薄であるといわざるを得ず,粗暴 傾向は顕著といわなければならない。 以上の点からすると,被告人の刑事責任は重大である。 3 他方,被害者が必死の思いで警察に連絡したことで事件が警察の知るところとなり,その後,共犯者が被害者の居場所を警察に通報したことで 被害者が 警察に救出され,それ以上の大事には至らなかったこと, 被告人の養女が情状証人として出廷し,今後は被告人の更生を支えるとともに被告人を監督する旨約束していること,被告人は,当公判廷において,一部において不合理な弁解はするものの,被害者に対する謝罪の弁を述べるとともに,今後は暴力団とは縁を切り正業に就く旨述べていることなど,被告人にとって酌むべき事情も認められる。 4 そこで,以上の諸事情を総合考慮し,被告人を主文のとおりの刑に処するのを相当と判断した 。 (検察官佐藤方生,国選弁護人清水毅各出席) (求刑 懲役3年)   平成17年7月14日      甲府地方裁判所刑事部          裁判長裁判官   川  島  利  夫             裁判官   矢  野  直  邦             裁判官   肥  田     薫

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