H17.10. 6 名古屋高等裁判所 平成17年(ネ)第182号 会員資格保証金返還請求控訴事件

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判示事項の要旨: 株式会社が経営する預託金会員制のゴルフクラブに入会するために,同社に対し会員資格保証金を預託してその会員資格を取得した控訴人が同クラブを退会するにあたり,同社の会社分割により新たに設立され同クラブの名称を用いてゴルフ場の経営をしている被控訴人に対し,同保証金の返還及びこれに対する遅延損害金の支払を請求し,認められた事案 主        文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,3200万円及びこれに対する平成16年5月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 4 この判決の第2項は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人 主文同旨 2 被控訴人 (1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,A株式会社(A)が経営するBゴルフ倶楽部という名称の預託金会員制のゴルフクラブ(以下「本件クラブ」という。なお,そのゴルフ場を以下「本件ゴルフ場」という。)に入会するため,同社に対し,会員資格保証金3200万円(本件保証金)を預託してその会員資格を取得した控訴人が,Aの会社分割(いわゆる物的分割)により設立され,本件クラブの名称を用いて本件ゴルフ場の経営をしている被控訴人に対し,①会社分割によりAの上記保証金返還債務を承継した,②仮にこれを承継しないとしても,商法26条1項の類推適用により,上記返還債務を負う,あるいは,③法人格否認の法理から上記返還債務を免れないとして,本件保証金3200万円及びこれに対する遅延損害金(返還期日の翌日である平成16年5月19日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合)の支払を求めた事案である。 原審は,控訴人の上記主張をいずれも認めず,控訴人の本件請求を棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴した。 2 前提事実は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」2のとおりであるから,これを引用する。 3 争点 (1) 被控訴人は,Aの会社分割により本件保証金返還債務を承継したか否か。 (2) 被控訴人は,本件クラブの名称を続用して本件ゴルフ場を経営していることから,商法26条1項の類推適用により,本件保証金返還債務を負担するか否か。 (3) 被控訴人は,法人格否認の法理に照らして,本件保証金返還債務を負担するか否か。 4 争点に対する当事者の主張 (1) 会社分割による本件保証金返還債務の承継について〔争点(1)〕 ア 控訴人 原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」3(1)のとおりであるから,これを引用する。 イ 被控訴人 原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」4(1)のとおりであるから,これを引用する。 (2) 商法26条1項の類推適用について〔争点(2)〕 ア 控訴人 原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」3(2)のとおりであるから,これを引用する。 イ 被控訴人 原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」4(2)のとおりであるから,これを引用する。 (3) 法人格否認の法理の適用について〔争点(3)〕 ア 控訴人 原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」3(3)のとおりであるから,これを引用する。 イ 被控訴人 原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」4(3)のとおりであるから,これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,Aの会社分割(いわゆる物的分割)に際して作成された商法374条に基づく分割計画書の記載から,被控訴人が本件保証金返還債務を承継したということはできないが,被控訴人は,本件クラブの名称を続用して本件ゴルフ場を経営しており,同法26条1項の類推適用により,Aの控訴人に対する本件保証金返還債務を負うものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 2 会社分割による本件保証金返還債務の承継について〔争点(1)〕 (1) 一般にゴルフ場の経営形態については,基本的に,①社団法人制(ゴルフクラブに入会する会員が,ゴルフ場を経営する社団法人の構成員になる形態),②株主会員制(ゴルフクラブに入会する会員が,ゴルフ場を経営する株式会社の株主となり,同時にクラブの会員となって施設を利用する権利を取得する形態),③預託金会員制(ゴルフクラブに入会する会員が,ゴルフ場を経営する会社に預託金を預託する形態)などがある。そのうち,預託金会員制のゴルフ場の場合には,ゴルフ会員は,ゴルフ場経営会社に対して,会則に従ってゴルフ場施設を利用し得る権利を有するとともに年会費納入等の義務を負担し,また,入会の際に預託した預託金(保証金)を会則に定める据置期間の経過後に退会に伴って返還請求することができるという契約上の地位を有することになる(弁論の全趣旨)。 Aは,本件ゴルフ場及びその付帯施設等を所有し,上記預託金会員制によってBゴルフ倶楽部という名称で本件クラブを経営していたものである(但し,本件ゴルフ場の運営管理は,株式会社Bゴルフ倶楽部に委託していた。)。そして,本件クラブに入会し,その会員となって本件ゴルフ場等の施設を利用するためには,Aに入会金を支払うとともに会員資格保証金(ゴルフ場が正式に開場した日から起算して満5年を経過した日以降,退会手続を終了したのち,その返還を請求できる。控訴人入会当時の本件クラブの会則第7条5項)を預託する必要があり,控訴人は,入会金とともに上記会員資格保証金である本件保証金をAに預託して,本件クラブの会員となった(甲1,3,弁論の全趣旨)。 (2) 商法の定める会社分割は,会社の営業の全部又は一部を他の会社に承継させる組織法上の行為である。そして,その方法は,既存の会社(分割会社)がその営業の全部又は一部を新たに設立する会社(新設会社)に承継させる新設分割(商法373条)と,すでに存在する他の会社(承継会社)に分割会社の営業の全部又は一部を承継させる吸収分割(同法374条ノ16)とがあり,また,会社の分割に際して新設会社又は承継会社に発行させる株式の割当については,分割をする会社(分割会社)に割り当てる物的分割と,これを分割会社の株主に割り当てる人的分割とがある(同法374条2項2号,374条ノ17第2項2号)。 ところで,会社分割において分割の対象となるのは,営業の全部又は一部に限定されており,この「営業」とは,営業用財産である物及び権利だけでなく,これに得意先関係,仕入先関係,販売の機会,営業上の秘訣,経営の組織等の経済的価値のある事実関係も含めた一定の営業目的のために組織化され,有機的一体として機能する財産をいうものと解され(なお,営業譲渡についての最高裁昭和40年9月22日大法廷判決・民集19巻6号1600頁,最高裁昭和41年2月23日大法廷判決・民集20巻2号302頁参照),これによる権利義務の承継は包括承継の性質を有する。そして,新設会社又は承継会社に承継される具体的な権利義務の内容は,分割計画書(新設分割の場合)又は分割契約書(吸収分割の場合)の記載によって定めることになる(同法374条ノ10第1項,374条ノ26第1項)。 (3) そこで,本件についてみるに,争いのない事実のほか,証拠(甲6ないし10,12,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 ア 被控訴人は,平成15年1月8日,Aが新設分割することによって設立された会社(新設会社)であり,その発行した株式がAに割り当てられている(物的分割)。 イ Aが会社分割に当たって作成した「分割計画書」(乙1)の第5項には,「設立会社が分割をなす会社より承継する債権債務雇用契約,その他の権利義務に関する事項」として,「被控訴人は分割に際し,別紙添付書類「承継権利義務明細表」記載のとおりの資産・負債及び契約をAより承継する。被控訴人が債務を承継するに当たっては,重畳的債務引受をなすものとし,Aは引き続き連帯してその債務を負うものとする。」と記載されている。 そして,上記承継権利義務明細表の第1項には,「資産及び負債」として,「被控訴人は,当社(A)から本件営業に関する資産,負債その他これに付随する一切の権利義務を承継し,その明細は下記のとおりとする。」とし,「(1) 資産及び負債の金額明細については別紙1参照」,「(2) 承継する契約上の地位 本件営業に関する不動産の賃貸借契約,業務委託契約,リース契約」と記載され,さらに,別紙1の負債の金銭明細として,「流動負債」の「短期借入金」欄に「C銀行桑名支店 1,050,000,000」と,「固定負債」の「長期借入金」欄に「C銀行桑名支店 290,000,000」,「D銀行桑名支店 1,012,000,000」,「E銀行桑名支店 708,000,000」と,「負債合計」欄に「3,060,000,000」とそれぞれ記載されている。 ウ また,Aは,会社分割により同社が所有していた本件ゴルフ場の土地,建物,建物附属設備,構築物等一切の資産を被控訴人に承継させており,A自身は,ゴルフ場を経営するための資産を有しないこととなった(甲10,乙1,弁論の全趣旨)。 (4) ところで,Aが,会社分割により分割の対象とした営業は,本件ゴルフ場に関する営業の全部であり(争いがない),控訴人のAに対する権利義務関係は,本件クラブの会員として,会則に従って本件ゴルフ場施設を利用し得る権利を有するとともに,年会費納入等の義務を負担し,また,入会の際に預託した本件保証金を(会則に定める据置期間の経過後)退会に伴って返還請求することができるという契約上の地位を有するものであり,この権利義務関係は,本件ゴルフ場に関する営業に当然含まれるものといえ,控訴人の上記契約上の地位も,会社分割により被控訴人に包括承継されたものと解する余地がある。 しかしながら,一般に,分割計画書に記載のない債務については,新設会社は当然には承継しないものと解される(もっとも,これにより,会員にとって,分割会社の会員に対する債務の履行が著しく困難となるなどの場合には,会社分割そのものの無効原因となる余地があるというべきである。)ところ,前記のとおり,本件において,新設会社が分割会社から承継する債権債務,雇用契約,その他の権利義務に関する事項を記載した分割計画書に添付された承継権利義務明細表には会員の上記契約上の地位や保証金返還債務の記載がなく,他方で承継する権利義務関係について,個別,具体的にその詳細を記載した明細を別表としていることなどにかんがみると,分割会社の意思は,後記のとおり,会員の上記契約上の地位は,新設会社に承継させないというものであったと認めるのが相当である。そうすると,Aの会社分割により本件保証金返還債務が新設会社である被控訴人に承継されたものと考えることはできない。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。 3 商法26条1項の類推適用について〔争点(2)〕 前記のとおり,Aは,本件ゴルフ場施設の運営管理を株式会社Bゴルフ倶楽部に委託し,Bゴルフ倶楽部の名称により本件クラブを経営したもので,上記名称がそのゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられていた。そして,会社分割後の新設会社である被控訴人は,その商号を「株式会社B」としているものの,Aと同様にBゴルフ倶楽部という名称をそのまま続用して本件クラブを経営し,同様に本件ゴルフ場施設の運営管理を上記株式会社Bゴルフ倶楽部に委託している(前提事実,甲10,弁論の全趣旨)。 ところで,商法26条1項は,営業の譲受人が譲渡人の商号を続用する場合に,譲渡人の営業によって生じた債務については,譲受人もまたその弁済の責めに任ずる旨を定めており,前記のとおり,会社の分割は,営業の全部又は一部とその権利義務を包括的に新設会社又は承継会社に承継させるものであるから,ゴルフ場を経営する会社(分割会社)が会社分割を行い,その用いていたゴルフクラブの名称を新設会社が続用しているときには,新設会社が,会社分割後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,会員において,同一の営業主体による営業が継続しているものと信じたり,営業主体の変更があったけれども新設会社により分割会社の債務の引受けがされたと信じたりすることは,無理からぬものというべきであり,商法26条1項の類推適用により,会員が分割会社に交付した保証金返還債務を負うものと解するのが相当である(なお,営業譲渡についての最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号367頁参照)。 そこで,本件において,上記特段の事情が認められるかどうかについて検討するに,証拠(甲3,10)及び弁論の全趣旨によれば,A及び被控訴人は,会社分割(平成15年1月8日)後,本件クラブの各会員に対し,本件クラブの「恒久的安定運営」を目的とする改革のため,会員権の株式化による株主会員制のゴルフ倶楽部の確立を目指すとの意向のもとに,同年4月15日付け「会員権の株式化についてのお願い」と題する両社連名の書面(甲10)を送付していることが認められる。しかしながら,同書面は,会社分割後3ヶ月余りも経過した後に,ようやく会員に送付されたものである(弁論の全趣旨)うえ,同書面には,株式の転換に応じない会員がどのような取扱いになるのか,あるいは,会員の保証金返還債務が新設会社に承継されるものか否かについては何ら記載がなく(甲10),むしろ,新設会社において適用される改訂後の会則第26条(経過措置)には,「改正されるまでの会則により会員である者は,本会則が改正された日から,第7条(入会資格)により会員となるまでの間,改正されるまでの会則により会員の資格を有する。」と記載されていること(甲10)が認められ,これによれば,従前からの会員も新設会社に対して会員としての権利行使(少なくともプレーをする権利について)が可能であるかのように解される。 また,Aが,本件ゴルフ場に関する営業のうち,本件クラブの会員についての契約上の地位を被控訴人に承継させないものとして会社分割を行ったことは前記のとおりであり,Aは,上記会員の契約上の地位のみを承継させないこととしたものと推認することができる(弁論の全趣旨)。すなわち,預託金会員制のゴルフクラブにおいては,保証金の据置期間を経過すると,原則として保証金返還債務の履行期が到来することになるが,多くのゴルフ場の経営会社においては,会員への保証金の返還を予定して事前の準備をしていないか不十分なため,保証金返還時期の到来にあたり,据置期間の延長等をすることにより,当面,会員からの保証金返還請求を事実上免れている(弁論の全趣旨)が,据置期間の延長等について,会員の了解が得られない場合には,会社が倒産(民事再生も含む。)するなどのケースも多々見られ,また,会社によっては,預託金会員制から株主会員制に切り替えるため,上記経営会社が株式を発行し,会員に新たに発行した株式を割り当てて,会員権と交換することによって会員権の株式化を図ることなども行われており,この場合には,ゴルフ場の経営会社が引き続きゴルフ場を経営することを前提としているために,株式との交換を了承しない会員に対する保証金返還債務が残ったままの状態となり,上記を了承しない会員が多数いる場合には,これらの会員から保証金返還請求を受けることによって,上記と同様にゴルフ場の経営状態を圧迫することになる(弁論の全趣旨)ところ,本件のように,ゴルフ場の経営会社が会社分割をし,新たに会社を設立し,会員との契約上の地位を新設会社に承継させないこととすれば,保証金返還請求を受けずに,新設会社によるゴルフ場の経営が継続できることになり(もっとも,会社分割をするためには,ゴルフ場の経営会社の資産状態が,保証金返還債務を控除した場合に債務超過となっていないことが前提となる。),物的分割の方法をとることによって,会社分割における債権者保護手続を免れる結果となる(商法374条ノ4第1項但書)。そして,分割会社はその営業の全部又は一部を新設会社に承継させる(現に,本件において,Aは,会員との契約上の地位を除く営業上の権利義務一切を被控訴人に承継させていることは前記のとおりである。)ことなどからすると,実質的に,会員が分割会社に対する保証金返還請求権を行使することによりその満足を得ることは困難であり,また,会員のゴルフ場でのプレー自体も困難となるおそれがある(もっとも,実際は,新設会社のゴルフ場を事実上利用させて貰うことにより,直ちにプレーができなくなる状態は回避されている。)。 以上で検討したところを総合して考慮すると,本件においては,商法26条1項の類推適用を拒否すべき事情があるものと認めることはできない。 したがって,本件においては,被控訴人は,商法26条1項の類推適用により,Aの控訴人に対する保証金返還債務を負うものと認められ,その余の争点(3)を判断するまでもなく,控訴人の本件請求は理由があるものといえる。 第4 結論 以上のとおり,控訴人の本件請求は理由があり,これを認容すべきところ,これと結論を異にする原判決は不当であり,本件控訴は理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第1部 裁判長裁判官     田   中   由   子 裁判官     佐   藤   真   弘 裁判官     山   崎   秀   尚

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