H17. 7.26 大阪高等裁判所 平成17年(ネ)第438号 損害賠償請求控訴事件

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大学院生が暴力団関係者らに暴行を受け殺害されたことにつき,警察官の権限不行使が違法な職務執行になるとして,県に対する損害賠償請求を認めた事例           主          文  1 本件控訴を棄却する。  2 控訴費用は,控訴人の負担とする。           事 実 及 び 理 由 第1 控訴の趣旨  1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。  2 被控訴人の請求を棄却する。  3 訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要    本件は,亡Aが暴力団関係者らに殺害された(以下,亡Aが殺害された事件を「本件事件」という。)のは,控訴人が管理運営する兵庫県警察の警察官らが違法に適切な対応を怠ったことに原因があるとして,亡Aの母である被控訴人が,控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償及びこれに対する亡Aが死亡した日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。    原審は,被控訴人の請求のうち,9736万6153円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして被控訴人の請求を一部認容した。    これに対し,控訴人は,原判決を不服として敗訴部分について控訴した。控訴人が控訴の理由として主張する主な点は,①兵庫県神戸西警察署(以下「神戸西署」という。)署員らはそれぞれの場面で適正に権限を行使し,その行使に著しい不合理がないのに,原判決が上記権限行使を怠り,その権限の不行使は著しく不合理で違法性を帯びるとしたことは誤りであること,②上記権限不行使の違法性と亡Aの死亡との間に因果関係が認められないのに,これを認めた原判決は過りであることである。  1 争いのない事実等(認定に供した証拠は末尾に掲記)   (1) 当事者等    ア 亡A(昭和50年1月24日生,死亡当時27歳)は,本件事件当時,a大学大学院b研究科博士課程の1回生であった(甲29)。    イ 被控訴人は,亡Aの母であり,昭和55年以来,腎不全にり患している(甲29)。亡Aの父であるBは,被控訴人に対し,亡Aの相続財産一切を譲渡した。    ウ 控訴人は,兵庫県警察を管理運営する地方公共団体である。    エ Cは,亡Aの友人である。   (2) 加害者ら    ア Dは,本件事件当時,c組d組傘下e組組長及びd組組長秘書の地位にあった。    イ Eは,本件事件当時,e組若頭の地位にあった。    ウ Fは,本件事件当時,e組本部長の地位にあった。    エ Gは,本件事件当時,e組若頭補佐の地位にあった。    オ Hは,本件事件当時,e組組長秘書の地位にあった。    カ Iは,本件事件当時,e組幹部の地位にあった。    キ Jは,本件事件当時,Dの愛人であった。   (3) 神戸西署    ア 本件事件の捜査に関与した主な警察官ら     (ア) Kは,本件事件当時,神戸西署の地域第一課長であった。       地域課長の主な職務内容は,警察署の地域警察に関する企画及び立案,各課との連絡及び調整,地域警察官に対する全般的な指揮監督などである(乙8)。     (イ) L警部補は,本件事件当時,神戸西署地域第一課の司令担当係長であった(乙8)。     (ウ) M巡査部長は,本件事件当時,神戸西署地域第一課の司令担当主任であった(乙8)。     (エ) N警部補は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,パトカーによる警ら活動等に従事していた(甲25)。     (オ) O警部補は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,パトカーによる警ら活動等に従事していた(甲23)。     (カ) P巡査部長は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,パトカーによる警ら活動等に従事していた(甲19)。     (キ) Q巡査長は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,パトカーによる警ら活動等に従事していた(甲20,乙5)。     (ク) R巡査長は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,パトカーによる警ら活動等に従事していた(甲26)。     (ケ) S巡査長は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,パトカーによる警ら活動等に従事していた(甲24)。     (コ) T巡査部長は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,f交番勤務に当たっていた(甲17の1,乙6)。     (サ) U巡査部長は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,g交番勤務に当たっていた(甲21,乙7)。     (シ) V巡査は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,h交番勤務に当たっていた(甲18,乙4)。     (ス) W巡査は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,g交番勤務に当たっていた(甲22)。     (セ) X警部補は,本件事件当時,神戸西署刑事課に所属していた(乙8)。    イ 神戸西署地域課の勤務体制(乙4~8)     (ア) 神戸西署地域課は,地域第一課から第三課があり,それぞれの課が,3交替制で,午前9時から翌日午前9時までの24時間を担当することになっている。そして,平成14年3月3日午前9時から翌4日午前9時までは,地域第一課が担当であった。     (イ) 神戸西署地域第一課に所属する自動車警ら班員は8名おり,通常は,警察官が二人一組で,警ら用無線自動車神戸西1号,同3号,同10号及び同11号(以下,「神戸西1号」,「神戸西3号」,「神戸西10号」及び「神戸西11号」という。)に乗車し,管轄区域内の巡回等に当たっている。    (ウ) 神戸西署管轄区域内の交番及び駐在所は,4つのブロックに区分されており,g交番,h交番,f交番及びi交番は第2ブロックに属している。       第2ブロックでは,通常,h交番勤務員3名,f交番勤務員2名,g交番勤務員2名及びi交番勤務員2名の合計9名の警察官が勤務をしている。ただし,本件事件当時は,h交番勤務員1名が警察学校に入校中であり,f交番勤務員1名が公休中であり,i交番勤務員1名が刑事課への転用勤務となっていたので,第2ブロック内で勤務する警察官は合計6名であった。     (エ) 地域課が担当する24時間のうち,16時間が勤務時間で,残りの8時間は休憩時間とされているところ,休憩時間8時間のうち夜間に4時間を超えない範囲で仮眠時間が割り振られている。神戸西署地域課では,午後11時から翌午前3時までの間に仮眠を取る警察官のグループと,午前3時から午前7時までの間に仮眠を取る警察官のグループに分かれている。       平成14年3月3日の第2ブロックの管轄区域内の警察官の仮眠時間については,f交番勤務のT巡査部長及びh交番勤務のV巡査が3日午後11時から4日午前3時まで仮眠を取ることになっており,g交番勤務員を含むほかの4名の警察官は,4日午前3時から午前7時まで仮眠を取ることになっていた。   (4) 亡Aの死亡に至る経緯    ア 亡A及びCは,平成14年3月4日(以下,特に断らない場合は同日をいう。)午前3時10分ころ,神戸市j区h町g所在の県営g団地1号棟前路上(以下「第1現場」という。)で,同団地1号棟から出てきたDから車両の停止位置で因縁をつけられ,いきなり暴行を加えられた。      ほかの加害者らは,Dの側にいたJから電話連絡を受けて第1現場に駆け付け,亡A及びCに暴行を加えるとともに,Gが運転してきた乗用車トヨタ・チェイサー(以下「チェイサー」という。)の後部座席に亡Aを押し込んだ。    イ 警察官らは,亡A及びg団地の居住者等から110番通報を受け,同時36分ころから,第1現場に臨場し始め,後記神戸西3号の中に逃げ込んだCを保護した。Gらは,神戸西3号に保護されたCを車外に引き出そうとした。    ウ 警察官らは,これを阻止するとともに,Gから事情聴取をするために,Gに交番に来るように説得したが,Gが,警察官やパトカーを引き上げたら,後で必ず交番に出頭すると確約したので,午前4時15分ころ,警察官全員で第1現場を引き上げ,亡Aは,警察官らに保護されることなく,チェイサーの後部座席に残された。    エ 亡Aは,加害者らによって,神戸市j区h町kに所在する空き地(以下「第2現場」という。)及び神戸市j区h町q所在のmの建物内(以下「第3現場」という。)にら致されて激しい暴行を受け,午前7時ころ,神戸市j区h町n所在のo北方約700メートル先の地点(以下「第4現場」という。)に遺棄されて死亡した。  3 争点及び当事者の主張   (1) 権限不行使の違法性     警察官らの対応に国家賠償法1条1項の違法性が認められるか。   (被控訴人の主張)    ア 警察官の権限不行使の違法性      警察は,警察法上,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕,交通の取締りその他公共の安全と秩序の維持に当たることを責務とし(同法2条1項),警察官は,その目的を達するために必要な手段として,刑事訴訟法,警察官職務執行法(以下「警職法」という。)等の関係各法令により権限を与えられている。警察官に与えられた上記諸権限は,危険防止の責務を合目的に履行するための手段であり,権限不行使が合理性を欠く場合には,危険防止責務のし意的な不履行であり,作為義務違反として違法性を帯びるというべきである。      そして,具体的状況において警察官に権限を行使すべき作為義務が認められるか否かは,①危険の切迫性,②予見可能性,③結果回避可能性,④補充性の各要素を総合考慮して決せられるべきものである。    イ ①危険の切迫性     (ア) 危険の切迫性の判断基準       暴行傷害事件における危険の切迫とは,被害者の生命身体に対する具体的な危険が差し迫っていたことと定義される。そして,生命に対する侵害は,身体に対する侵害の結果として生じるものであり,また,危険の切迫性とは,警察官の作為義務を検討するための考慮要素であるから,生命に対する侵害の危険性と身体に対する侵害の危険性を区別する必要はない。     (イ) 亡Aは,午前3時過ぎころ,暴力団組長であるDから暴行を受け,午前3時15分ころには,Jがほかの暴力団組員に加勢を求めたことにより,数分以内に多数の暴力団組員によって暴行を受けることが避けられない状態となった。       そして,亡Aは,午前3時25分以降は,Dに加勢した加害者らから執ような暴行を受けて意識を失い,午前3時33分ころには,場所を変えて暴行を加えることを企図した加害者らによって,チェイサーに監禁されたものである。       以上のとおり,亡Aには,午前3時過ぎころ,Dによる身体的加害行為による危険が切迫し,Jがほかの加害者らに加勢を求めた午前3時15分ころには,複数の暴力団組員によって重大な身体的加害行為を受ける危険が差し迫った。そして,亡Aは,午前3時25分以降は,Dに加勢した加害者らから現実に身体的加害行為を受け,午前3時33分ころには,生命侵害の危険が切迫したものである。    ウ ②予見可能性     (ア) 予見可能性の判断基準       本件における予見可能性の有無は,警察官らにおいて,亡Aの生命身体に対する危険が切迫していたことを知り得る状態にあったか否かを基準として判断されることとなる。そして,上記のとおり,被害者の生命に対する危険と身体に対する危険とは別個に予見可能性の対象となるものではない。     (イ) 亡Aによる110番通報がされた時点(午前3時20分ころ)       警察官らは,午前3時19分,本件事件の目撃者である女性からの通報を受理し,午前3時20分ころには,亡Aが暴力団組員の男性から殴られ,女性から脅されている旨の亡Aからの110番通報を受理している。そして,警察官らは,亡Aからの110番通報においては,Dが怒号をあげ,Jが「ほんまに殺されるよ。」と,ば声を発している状況をも傍受している。       以上のとおり,警察官らは,上記各通報により,亡Aの生命身体に対する危険が切迫していることを認識し得たものである。       なお,亡Aによる110番通報の内容は,第1現場に臨場した警察官らに伝達されていない。しかし,それは,警察内部における情報伝達に不備があったに過ぎず,警察官らが亡Aの生命身体に対する危険の切迫を予見し得たことを否定する根拠にはならない。     (ウ) 110番の続報がされた時点(午前3時30分過ぎころ)       警察官らは,亡Aから110番通報を受けた後も,「7から8人のけんか。」,「連れ去られよる。」という内容の110番通報をたて続けに受理している。したがって,警察官らは,この時点で,事態は当初の通報時点から悪化の一途をたどっており,第1現場における暴行事件が大規模で,被害者の生命身体に重大な侵害を負わせる危険が切迫していることを現実に認識するとともに,被害者が加害者らによって自動車内に監禁され,連れ去られそうになっていることを認識し得たものである。     (エ) 警察官らが第1現場に滞在していた間(午前3時36分から午前4時15分ころまでの間)       警察官らは,第1現場到着後,Cが上半身裸で血まみれになって逃走し,明らかに暴力団組員風の男4名がCを追跡してくる状況を現認し,また,Cを保護した後も,暴力団組員風の男たちが警察官の制止にひるむことなくパトカーのドアをこじ開けようとし,Cを奪回しようとする状態を目の当たりにしている。そして,警察官らは,Cの事情聴取を実施し,Cのほかに亡Aが被害を受けていること,亡Aが付近の自動車に監禁されている可能性があることの指摘を受けた。       したがって,警察官らは,第1現場において,亡Aが複数の暴力団組員から強度の暴行を加えられ,Cと同程度の負傷を負って付近の自動車内に監禁されていることを容易に認識し得たものである。       なお,第1現場においては,U巡査部長及びQ巡査長が,Cからの事情聴取の結果を他の警察官らに報告しなかったため,大部分の警察官は,被害者として亡Aが存在することすら認識していなかった。しかし,この点は,第1現場における警察官らの相互連絡の不備によるものに過ぎず,警察官らにおいて,亡Aの生命身体に対する危険発生の予見可能性を否定する根拠にはならない。     (オ) 警察官らが第1現場を撤収した後       警察官らは,第1現場を撤収した直後,亡Aの自宅及び亡Aの携帯電話に電話をかけ,亡Aがいまだ帰宅していない事実を確認している。そして,警察官らは,午前4時30分ころには,交番に出頭したG以外の氏名不詳の3名(I,H及びF)が第1現場付近に見当たらず,第1現場の路上に駐車されていたチェイサー,乗用車トヨタ・アリスト(以下「アリスト」という。)及び乗用車トヨタ・セルシオ(以下「セルシオ」という。)が第1現場からなくなっていることに気づくに至った。       したがって,警察官らは,遅くとも午前4時30分ころには,加害者らが更なる暴行を加えるため,亡Aを自動車に積み込んでら致した可能性があることを明確に認識していた。現に,U巡査部長は,午前4時30分ころ,g交番に到着したK警部に対し,亡Aの所在が不明で,加害者らにら致された可能性があるとの報告を行っている。    エ ③結果回避可能性     (ア) 結果回避可能性は,当該権限を行使することにより結果発生を防止し得たことをいい,その前提として,権限の根拠となる法律上の規定(権限根拠規定)が存在し,具体的状況において当該権限を行使し得た(権限行使可能性)にもかかわらず,権限行使を怠ったこと(権限行使のけ怠)が必要とされている。     (イ) 第1現場到着の遅延      a 権限根拠規定        警察官が110番通報を受理した後に現場へ急行することは,格別の権限規定を要するものではない。また,警察用自動車は,緊急走行に際し,法令の規定により停止しなければならない場合にも停止することを要せず(道路交通法39条2項),優先通行が認められ(同法40条),左寄り通行,横断禁止,追越し禁止等の規定の適用を受けないものとされているから(同法41条1項),現場へ一刻も早く到着し得るよう法律上の権限を付与されている。      b 権限行使可能性        警察官は,格別の権限規定を要さずに現場へ急行することができるのであるから,通報を受理すれば直ちに権限行使が可能となるものである。        警察官らは,午前3時19分に,事件の発生及び発生場所を明らかにした通報を受理したのであるから,この時点で,第1現場へ急行することが可能となった。      c 権限行使のけ怠       (a) 警察官らは,午前3時19分に事件の通報を受理した後,17分を経過した午前3時36分まで第1現場へ臨場しなかった。        警察白書によると,平成13年度のリスポンスタイム(通信指令課が110番通報を受理してから警察官が現場に到着するまでの所要時間)は,全国平均で6分22秒である。そして,本件においては,第1現場が幹線道路に面していたこと,事件発生当時,道路がスムーズに流れており,パトカーの走行に何らの障害もなかったこと,第1現場から徒歩1分も要さない場所にg交番勤務員2名がいたことにかんがみると,警察官らは,平均的なリスポンスタイムよりも大幅に早く第1現場に到着し得たことが明らかである。       (b) K警部は,神戸西署の勤務体制により,g交番勤務員が仮眠時間中であったとして,直ちにg交番勤務員に出動要請をしていない。しかし,客観的に,g交番勤務員が早期に第1現場に臨場することが可能であった以上,神戸西署の勤務体制をもって,警察官らの第1現場臨場の遅延を正当化することはできない。地理的条件に即応して最も早期に現場に臨場し得るよう勤務体制を整えることがブロック制運用の趣旨に沿うのであり,g交番勤務員2名がそろって仮眠を取ることは,ブロック制運用の趣旨を無視したものというほかない。       (c) f交番から第1現場までの距離は約6キロメートルであり,仮に,時速40キロメートルで走行しても,約9分で第1現場に到着することができる。f交番の警ら用小型自動車(以下「ミニパト」という。)が第1現場に到着するのに,事件の通報から17分という長時間を要したことは全く不可解であるといわなければならない。       (d) したがって,本件において,警察官らが,第1現場への急行を怠り,現場到着が著しく遅延したことは明らかである。      d 権限行使による結果回避可能性        本件において,警察官らは,亡Aがチェイサーに監禁されるまでに第1現場に到着していれば,容易に亡Aを保護し,亡Aの生命身
大学院生が暴力団関係者らに暴行を受け殺害されたことにつき,警察官の権限不行使が違法な職務執行になるとして,県に対する損害賠償請求を認めた事例           主          文  1 本件控訴を棄却する。  2 控訴費用は,控訴人の負担とする。           事 実 及 び 理 由 第1 控訴の趣旨  1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。  2 被控訴人の請求を棄却する。  3 訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要    本件は,亡Aが暴力団関係者らに殺害された(以下,亡Aが殺害された事件を「本件事件」という。)のは,控訴人が管理運営する兵庫県警察の警察官らが違法に適切な対応を怠ったことに原因があるとして,亡Aの母である被控訴人が,控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償及びこれに対する亡Aが死亡した日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。    原審は,被控訴人の請求のうち,9736万6153円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして被控訴人の請求を一部認容した。    これに対し,控訴人は,原判決を不服として敗訴部分について控訴した。控訴人が控訴の理由として主張する主な点は,①兵庫県神戸西警察署(以下「神戸西署」という。)署員らはそれぞれの場面で適正に権限を行使し,その行使に著しい不合理がないのに,原判決が上記権限行使を怠り,その権限の不行使は著しく不合理で違法性を帯びるとしたことは誤りであること,②上記権限不行使の違法性と亡Aの死亡との間に因果関係が認められないのに,これを認めた原判決は過りであることである。  1 争いのない事実等(認定に供した証拠は末尾に掲記)   (1) 当事者等    ア 亡A(昭和50年1月24日生,死亡当時27歳)は,本件事件当時,a大学大学院b研究科博士課程の1回生であった(甲29)。    イ 被控訴人は,亡Aの母であり,昭和55年以来,腎不全にり患している(甲29)。亡Aの父であるBは,被控訴人に対し,亡Aの相続財産一切を譲渡した。    ウ 控訴人は,兵庫県警察を管理運営する地方公共団体である。    エ Cは,亡Aの友人である。   (2) 加害者ら    ア Dは,本件事件当時,c組d組傘下e組組長及びd組組長秘書の地位にあった。    イ Eは,本件事件当時,e組若頭の地位にあった。    ウ Fは,本件事件当時,e組本部長の地位にあった。    エ Gは,本件事件当時,e組若頭補佐の地位にあった。    オ Hは,本件事件当時,e組組長秘書の地位にあった。    カ Iは,本件事件当時,e組幹部の地位にあった。    キ Jは,本件事件当時,Dの愛人であった。   (3) 神戸西署    ア 本件事件の捜査に関与した主な警察官ら     (ア) Kは,本件事件当時,神戸西署の地域第一課長であった。       地域課長の主な職務内容は,警察署の地域警察に関する企画及び立案,各課との連絡及び調整,地域警察官に対する全般的な指揮監督などである(乙8)。     (イ) L警部補は,本件事件当時,神戸西署地域第一課の司令担当係長であった(乙8)。     (ウ) M巡査部長は,本件事件当時,神戸西署地域第一課の司令担当主任であった(乙8)。     (エ) N警部補は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,パトカーによる警ら活動等に従事していた(甲25)。     (オ) O警部補は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,パトカーによる警ら活動等に従事していた(甲23)。     (カ) P巡査部長は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,パトカーによる警ら活動等に従事していた(甲19)。     (キ) Q巡査長は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,パトカーによる警ら活動等に従事していた(甲20,乙5)。     (ク) R巡査長は,本件事件当時,神戸西署地域第一課に所属し,パトカーによる警ら

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