H17. 9.27 松山地方裁判所 平成16年(ワ)第248号 遺言無効確認請求事件

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判           決 主         文 1 原告らと被告らとの間において、訴外亡Eが平成14年10月9日になした別紙1記載(省略)の遺言が無効であることを確認する。 2 訴訟費用は被告らの負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 原告Aら4名の請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は,原告Aら4名が,被告Bら3名に対し,別紙1記載の自筆証書遺言(以下「本件遺言書」という。)は訴外亡Eによって作成されたものではないから,自筆証書遺言の形式要件を欠き,仮にEが自筆したものであるとしても,当時のEの痴呆症(以下「認知症」という。)の進行からすれば,意思能力を欠くものであって,いずれにせよ無効であるとして,遺言の無効確認を求める訴えである。 これに対し,被告Bら3名は,本件遺言書はE自身によって作成されたものであるから自筆証書遺言の形式要件を充足する,本件遺言書作成当時のEの認知症の程度は,遺言をすることができないようなものではなかったから当然有効であるとして原告Aら4名の請求を争う。 第3 事実(争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)及び争点(争点及び争点に関する両当事者の主張) 1 争いのない事実等(〈〉内に主な証拠等を記載する。) (1) 原告Aら4名と被告Bは,いずれもEの子であり,被告C及び被告Dは被告Bの子である。〈争いがない〉 (2) Eは,平成14年10月22日に死亡した。〈争いがない〉 (3) Eは,(2)の当時,別紙2記載(省略)の各不動産(以下「本件不動産」という。)を所有していた。〈争いがない〉 なお,(2)の当時,Eには本件不動産以外に相続対象となる財産はない。〈被告B〉 (4) 本件遺言書は,平成16年1月16日,松山家庭裁判所で検認された。本件遺言書には,遺言の日付である平成14年10月9日,E名の署名,押印のほか,本件不動産を被告Bら3名に譲り渡すなどとする旨の肉筆による記載がある。本件遺言書については,前記(第2)したとおり,原告Aら4名と被告Bら3名の間でその有効性について紛争が生じている。〈争いがない,甲3,20〉 (5) 平成11年11月ころから平成14年10月ころまでのEの入通院状況等 ア Eは,平成11年11月28日に自宅で転倒して脚を骨折し,F病院に入院の上手術を受けた。Eは,その後リハビリ目的の転院を希望し,平成12年2月5日,G病院に転院して引き続き入院した。〈争いがない,甲10〉 イ Eは,平成12年2月5日から平成14年4月20日までの間,G病院に入院し,歩行訓練などを受けた。この入院の際には,Eに認知症の症状が認められ,G病院のH医師は,I(ケアハウス)に対する診療情報提供において,「痴呆症状(徘徊)のため帰宅できない状態が続いていた,日常生活は見守りをしておれば殆ど自立している状態であり,精神状態も落ち着いております。」と記載し,G病院の看護師も,看護記録にEの認知症にかかる症状を記録している。〈甲10〉 この入院期間中である平成12年10月ころに入院費等が支払われていないことがあり,病院を訪れた原告Aは,Eに支給されている年金を入院費等の支払に回すよう依頼する趣旨の文書をEに書かせたが,その字は容易に判別することは困難と言ってよい状態である。〈甲7,原告A〉 また,この入院期間である平成14年2月ころ,被告Bは,Eの代理として訴外J夫婦にあてた手紙(同月7日付け)に字体に荒れがあるEの直筆の書面を添えた上で,Eの文字が判読可能であるか尋ねるなどしている。〈甲13,14〉 ウ その後Eは,平成14年6月3日から同年9月17日までの間,G病院に再度入院した。H医師は,Eが退院するに際し,デイケアサービスでの歩行訓練等を実施するとともに,認知症については症状が進行するようであれば心療内科等の受診が必要になる旨退院療養計画書で指摘するほか,K内科に対する診療情報提供書には,脳梗塞後遺症とともに認知症を挙げている。また,看護サマリーにも看護上の問題として,Eに意味不明な言動がある,認知症の症状の進行を防ぐため声をかけることが重要であると指摘されている。〈甲11〉 エ K内科等でのEなどの状況 (ア) Eは,平成14年9月17日にG病院を退院して自宅に戻ると共に,翌18日からはK内科に通院してデイケアサービスを受け始めた。K内科のL医師は,MクリニックにEの頭部のMRIの画像診断を依頼した。診断の結果(平成14年9月25日)は,右前大脳動脈基始部(水平部分)の動脈硬化による狭窄が顕著で,多数の梗塞が両大脳白質と両大脳基底核に認められる,脳動脈硬化性痴呆と考えられるというものである。〈争いがない,甲12,証人L医師〉 (イ) K内科のN,O両担当者が平成14年8月30日にEに対して行った調査では,認知症について軽度との判断がされ,日常の意思決定,意思伝達能力はあると判断された。〈甲12〉 (ウ) 本件遺言書の作成日である平成14年10月9日,EはK内科へ行って昼食を摂り(10という評価がされている。),点眼などを受けたほか,入浴をした。〈甲12〉 オ Eの死亡後の状況等 (ア) 原告A,被告Bらは,平成14年11月30日にEの四十九日法要をした後,遺産分割協議を行った。原告Aらは,法定相続を基本にした提案をしたが,被告Bは法定相続は受け入れられない,Eの面倒をみた分だけ被告Bの相続分を増やしてほしい旨主張したため,合意に至らなかった。この際,被告Bは,本件遺言書の存在を原告Aらに話していない。〈原告A,被告B〉 (イ)  原告Aらは,Eの遺産についての遺産分割調停を申し立てたが,第1回,第2回の期日を被告Bは欠席した。この間も被告Bが本件遺言書の存在を原告Aらに話したことはない。〈原告A,被告B〉 (ウ) 被告Bは,本件遺言書の検認期日(平成16年1月16日)において,本件遺言書は,Eが生存中にE自身から預かり,仏壇に保管していた,預かったのは平成14年10月になってからであった旨陳述した。〈甲6,被告B〉 (エ) L医師は,平成16年1月24日付けでEに関する診断書を作成した。診断書の内容は,病名を血管性痴呆,症状を見当識障害があり,歩行は介助が必要であった,痴呆は長谷川式簡易知能評価スケールで8点,書くことは不可能の状態であった,とする。〈甲8〉 なお,長谷川式簡易知能評価スケールでの8点との結果は,認知症に該当し(用いられた表と評価表との不一致が認められるが,Eの場合には影響しない。),K内科の総婦長でケアマネージャーの資格を有するPが,介護保険の申請のため,Eの自宅で平成14年9月17日に測定した結果である。この調査の際,Eは,年月日が把握できていない状態であった。Eの認知症に関してK医師が直接確認したのは主に記憶関係であるが,L医師は,Eについて,即時記憶(数十秒以内の記憶保持)はあるものの短期記憶(数日の間の記憶保持)が消失していた,数字の計算からすれば物事を順に考えることが困難な状態であったと考えるのが普通であるとする。〈甲9,証人L医師〉 2 争点及び争点に関する当事者の主張 本件の争点は,本件遺言書がEによって作成されたものであるかとの自筆証書遺言の形式要件の点及び本件遺言書作成当時Eに遺言をするだけの意思能力があったかとの実質要件の点である。 これら争点について,当事者は以下のとおり主張する。 (1) 原告Aら4名の主張 ア 以下の事情を総合的に斟酌すれば,本件遺言書はE以外の者によって偽造されたことは明らかである。 (ア) 本件遺言書に記載された文字は,Eが生前書いていた文字と全く異なる一方,「B」との文字は被告Bの文字に酷似している。実際,筆跡鑑定では,本件遺言書の筆跡とほかのE作成の文書の筆跡が同一人物のものであるとみるのは困難であると判断されている。 (イ) 本件遺言書の提出時期は以下のとおり不自然である。 Eは,平成14年10月22日に死亡し,その後,原告Aらと被告Bとの間で数回に渡り遺産分割協議を重ね,原告Aらは法定相続分による均等分割を主張したが,被告Bは,Eが入院していた3年間自分が看護をした対価を加算すべきと主張してこれを受け入れず,Eの葬儀費用の負担分21万円(葬儀費用を子で均等分したもの。)の支払も拒絶する状態であった。原告Aらは,話し合いが困難であると考え,平成15年6月16日に遺産分割の調停を申し立てたところ,被告Bは,2回の期日(同年7月25日,9月5日)に出頭しなかった。 以上のような経緯であったにもかかわらず,被告Bは,第3回調停期日(同年11月14日)に突然本件遺言書を提出し,当該遺言書については平成14年10月にEから預かって保管していた旨述べていたものであって,経緯や保管理由に照らすと不自然というほかない。 (ウ) 原告Aは,平成12年10月にG病院に入院していたEの元を訪れた際,入院費等が不払いであったことから,Eの年金が振り込まれる通帳を所持していた被告Bに対して年金を支払に回すよう依頼する文書をEに作成させた。Eは,原告Aが言うままにしか文書が書けない上,その文字の乱れは著しく,平成の年号さえも書き誤るような状態であった。また,その2年後の段階でも,デイケアサービスで通院していたK内科では,書字,書くことは不可能の状態であったとの診断が下されている。このような経緯からすれば,Eは,平成14年10月当時,本件遺言書に記載されたような字を書くだけの能力を失っていたことは明らかである。 (エ) 被告Bは,本件遺言書が作成された際のEの様子などについて,Eが時間をかけながら,自らの意思で作成した旨供述するが,その内容は,当時のEのK内科への通院状況や,筆記の能力などの客観的な事実に全く反するものであって信用できるものではない。 イ 仮に遺言書を作成したのがEであるとしても,本件遺言書作成の際にEには意思能力がなかったものである。L医師が平成14年9月17日に実施した長谷川式簡易知能検査では,8点という認知症に該当する結果があるほか,遺言を自らの意思に従って記載することが困難であったことは,上記したEの入院等の状況,L医師の診断書から明らかである。 (2) 被告Bら3名の主張 ア 本件遺言書はEによって作成されたものである。Eの病状や体調には変化があり,その時期によって,また,その際使用する筆記具,用紙により筆跡が影響を受けることは容易に考えられ,原告Aら4名の主張は根拠が弱いものである。また,原告Aら4名が指摘する文字の違いについても,むしろ,作成者が同一,すなわちEであることを示しているというべきである。 イ 本件遺言書作成当時のEの判断力は鮮明であり,意思能力上の問題は一切なかった。前記したとおりEが作成したものであることが明らかな本件遺言書に記載された内容からすれば,意思能力があったことは明らかであるし,原告Aら4名が主張するような点は些末な事項というほかなく,自分の遺産をだれに渡すのかという重要な事項については,複雑な思考能力が要求されるものではない。 第4 当裁判所の判断 1 争点についての判断 (1) 証拠によれば,以下の事実が認められる(〈〉内に主な証拠等を記載する。)。 ア 本件遺言書の筆跡は,Eが作成したと原告Aが主張する甲第4号証の1ないし4及び第7号証,被告Bが同様にEが作成したと主張する乙第2号証の各筆跡とは別である。〈鑑定人Qの鑑定結果〉 イ 原告Aは,平成12年10月ころに甲第7号証をEに作成させる際,Eの話ではG医院に対して入院費等を支払っていない理由について要領を得なかったことから,原告Aの発言をそのままEに書かせた。Eは,甲第7号証を病室で書いたが,その際に特段急がせたなど事情はない。Eは,自分が受給していた年金がどのように処理されているかなどについて十分な理解をしていない状態であった。また,Eは,本件遺言書作成の直前である平成14年9月ころに原告Aに会った際,既に死亡していた自分の夫と原告Aを間違えた。Eは,原告Aから息子であると説明を受けると一,二分は理解したようになるが,しばらくすると原告Aを自分の亡き夫と間違い始める状態であった。〈原告A〉 (2) 以上の事実に,前記(第3の1(5))認定した各事実を併せて考えると,本件遺言書はE以外の人物によって作成されたものというべきである。これは,本件遺言書に記載された文字は,証拠上Eが作成したと認められる甲第7号証の筆跡とは別のもので,その他,当事者双方がそれぞれEが作成したものと主張する過去の書類の筆跡とも一致しないことのみでも明らかであるし,加えて,脳血管性の認知症により,はいかい等の症状は本件遺言書作成の2年以上前から発現し,そのころから既に字に乱れが生じ,本件遺言書作成直前の段階では,時間の感覚を喪失する,自分の息子を亡くなった夫と間違え,それを指摘しても極短時間しか認識できないなどの状態に至っていたEが,突如として別紙1記載の遺言書のような文字で日付などを正確に記載したとするのはあまりに不自然であることからも明らかである。 一方,これに反し,被告Bは,Eは近所の人ともあいさつを交わしていた,本件遺言書は,Eが後の紛争を心配して作成すると言い出した,本件遺言書を作成時にEは被告Bの目の前で長い時間をかけて作成した旨供述するところである。しかし,被告Bの供述は,それ自体上記した点から不自然であるほか,前記(第3の1(5)オ)認定した本件遺言書を被告Bが明らかにした時期,それに至るまでの遺産分割協議上の被告Bの主張内容との関係でも不自然であり,更には,被告Bが供述するEの本件遺言書作成当日の行動は,前記(第3の1(5)エ(ウ))認定した事実に客観的に反するものであるから,これを採用することはできない。 なお,前記(第3の1(5)エ(イ))認定ではEの認知症の程度が軽度であるが,上記認定に影響するものではない。 2 結論 以上のとおり,本件遺言書については,遺言者たるEが,自筆証書遺言の形式要件である「その全文,日附及び氏名を自書し」(民法968条1項)た事実はなく,自筆証書遺言の様式性を具備していないものであるから,本件遺言書作成当時のEの意思能力について判断するまでもなく,自筆証書遺言として無効であることは明らかである。 第5 結語 したがって,原告Aら4名の請求は理由があるから認容し,訴訟費用の負担については民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して被告Bら3名の負担とすることとし,主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結の日・平成17年7月25日) 松山地方裁判所民事第1部 裁 判 官   竹 尾 信 道

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