H17.10.27 松山地方裁判所 平成16年(ワ)第575号 貯金払戻請求事件

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判        決       主        文   1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告日本郵政公社は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成12年4月13日から支払済みまで年0.2パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告A農業協同組合は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成12年5月11日から支払済みまで年0.2パーセントの割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告らの負担とする。 4 仮執行宣言 第2 当事者の主張 1 請求原因 (1) 原告は,平成12年4月13日,自己の出捐により,被告日本郵政公社(以下「被告公社」という。)のB郵便局に次のとおりの定額郵便貯金をした(この貯金を,以下「本件郵便貯金」と,これによる原告の被告公社に対する債権を,以下「本件郵便貯金債権」と,これを証する証書を,以下「本件郵便貯金証書」という。)。  ア 預入金額     500万円  イ 名義人      原告     ウ 据置期間     6か月  エ 利率       年0.2パーセント(3年以上) (2) 原告は,被告公社に対し,遅くとも本件訴え提起時までに,本件郵便貯金の払戻請求をした。 (3) 原告は,平成12年5月11日,自己の出捐により,被告A農業協同組合(以下「被告農協」という。)のC支所に次のとおりの定期貯金をした(この貯金を,以下「本件定期貯金」と,これによる原告の被告農協に対する債権を,以下「本件定期貯金債権」と,これを証する証書を,以下「本件定期貯金証書」という。)。  ア 預入金額     300万円     イ 名義人      原告  ウ 据置期間     1年     エ 利率       年0.14パーセント(2年未満)   年0.2パーセント(2年以上)  オ 満期日      平成14年5月11日 (4) 平成14年5月11日は到来した。 (5) よって,原告は,次の金員の支払を求める。 ア 被告公社に対し,本件郵便貯金債権に基づく払戻請求として,500万円及びこれに対する預入日である平成12年4月13日から支払済みまで約定の年0.2パーセントの割合による利息。 イ 被告農協に対し,本件定期貯金債権に基づく払戻請求として,300万円及びこれに対する預入日である平成12年5月11日から支払済みまで約定の年0.2パーセントの割合による利息。 2 請求原因に対する認否(被告両名) 請求原因はいずれも認める。 3 抗弁 (1) 被告公社    ア 正当な権限者に対する貸付け及び払戻し (ア) 被告公社は,平成12年5月22日,D郵便局において,本件郵便貯金を担保にして原告の妻Eに対し50万円の貸付手続を行った。 (イ) 被告公社は,同年6月1日,D郵便局において,本件郵便貯金を担保にしてEに対し50万円の貸付手続を行った。 (ウ) 被告公社は,同月12日,D郵便局において,本件郵便貯金を担保にしてEに対し50万円の貸付手続を行った。 (エ) 被告公社は,同月16日,G郵便局において,本件郵便貯金を担保にしてEに対し50万円の貸付手続を行った。     (オ) Eは,平成13年3月30日,D郵便局において,亡失を理由に,本件郵便貯金証書の再交付請求と改印届をなした。 被告公社は,再交付された本件郵便貯金証書を,再交付請求書記載の住所(原告肩書住所地)へ郵送した。 (カ) 被告公社は,同年4月11日,D郵便局において,本件郵便貯金を担保にしてEに対し100万円の貸付手続を行った。 (キ) Eは,同月19日,H郵便局において,本件郵便貯金の払戻手続を行い,被告公社はこれに応じて本件郵便貯金から(ア)ないし(エ)及び(カ)の各貸付金及びこれに対する利息を控除した残額199万7944円を払い戻した。 (ク) Eは,(ア)ないし(キ)の際,原告の使者であることを示した。 (ケ) 原告は,(ア)ないし(キ)に先立ち,Eに原告の使者としての権限を授与した。 イ 郵便貯金法(平成14年法律第98号による改正前のもの。以下同じ)26条による正当の払渡し 仮に,Eが原告に無断でア(ア)ないし(キ)の手続を行ったものであるとしても,以下のとおり,被告公社の職員は,郵便貯金法又は同法に基づく省令に規定する手続を経て貸し付けあるいは払い戻したものであり,Eが原告の使者であると信じたことにつき善意無過失であったから,郵便貯金法26条により,正当の払渡しをしたものとみなされる。 (ア) ア(ア)ないし(エ)の際,当該郵便局の職員は,郵便貯金貸付金受領証に押された印影と本件郵便貯金証書の印影とを対照し,相違がないことを確認したほか(郵便貯金規則86条),女性が男性名義の貯金証書により貸付けの申込みをするときに該当するので(郵便貯金取扱手続7条1項),健康保険証や運転免許証により,Eが原告の妻であることを確認し(郵便貯金取扱規程4条),Eが原告の使者であると信じた。 (イ) ア(オ)の際,D郵便局の職員は,印章変更と同時に,亡失による貯金証書の再交付の請求をするときに該当するので(郵便貯金取扱手続7条1項),健康保険証により,Eが原告の妻であることを確認し(郵便貯金取扱規程4条),Eが原告の使者であると信じた。 (ウ) ア(カ),(キ)の際,当該郵便局の職員は,郵便貯金貸付受領証又は払戻受領証に押された印影と改印された印鑑とを対照し,相違がないことを確認したほか,女性が男性名義の貯金証書により貸付けの申込みをするときに該当するので(郵便貯金取扱手続7条1項),健康保険証や運転免許証によりEが原告の妻であることを確認し(郵便貯金取扱規程4条),Eが原告の使者であると信じた。 (エ) ア(ア)ないし(ク)の際,Eは原告の妻であり,原告と同居しており,また,当該郵便局において何らの疑わしい行動もとっていなかった。 (2) 被告農協 ア 正当な権限者に対する払戻し (ア) Eは,平成13年6月20日,被告農協に対し,本件定期貯金証書の喪失届を提出した。 (イ) Eは,同月28日,被告農協に対し,定期貯金証書の再発行を依頼し,被告農協は,同日本件定期貯金証書を再交付した。 (ウ) Eは,同月28日,被告農協に対し,共通印鑑届を提出し,本件定期貯金の解約手続を行い,被告農協はEに対して,本件定期貯金を払い戻した。 (エ) Eは,(ア)ないし(ウ)の際,原告のためにすること又は原告の使者であることを示した。 (オ) 原告は,(ア)ないし(ウ)に先立ち,その代理権又は使者としての権限をEに授与した。 イ 債権の準占有者に対する弁済 仮に,Eが原告に無断で本件定期貯金の払戻手続を行ったものであるとしても,以下のとおり,被告農協の職員は,善意かつ無過失で払戻手続に応じたものであるから,民法478条により,債権の準占有者に対する弁済として有効となる。 (ア) 被告農協の職員は,ア(ア)の際,Eから原告の健康保険証とEの運転免許証の提示を受け,Eが原告の代理人又は使者であると信じた。     (イ) ア(ア)ないし(ウ)の際,Eは原告の妻であり,原告と同居していた。また,Eは何らの疑わしい行動もとっていなかった。 4 抗弁に対する認否 (1) 被告公社の抗弁に対する認否 ア 抗弁(1)ア(ア)ないし(ク)は知らない。(ケ)は否認する。 イ 同(1)イ(ア)ないし(ウ)は知らない。(エ)のうち,Eが原告の妻であり,原告と同居していたことは認め,その余は知らない。 (2) 被告農協の抗弁に対する認否 ア 抗弁(2)ア(ア)ないし(エ)は知らない。(オ)は否認する。 イ 同(2)イの冒頭部分は争い,(ア)は知らない。(イ)のうち,Eが原告の妻であり,原告と同居していたことは認め,その余は知らない。 5 再抗弁 (1) 被告公社の抗弁イに対する再抗弁 被告公社のEに対する貸付け及び払戻しは,短期間に連続して行われている上,いずれも最初に貯金した住所地のB郵便局以外の郵便局で行われているのであるから,被告公社としては,当然原告本人の意思確認を行うべきであったにもかかわらず,これを怠った。したがって,被告公社が無過失であるとはいえない。   (2) 被告農協の抗弁イに対する再抗弁 被告農協は,Eに対する本件定期貯金の払戻しの際,原告本人の意思を確認すべきであるのにこれを怠ったから,無過失であるとはいえない。  6 再抗弁に対する認否(被告両名) 再抗弁事実(原告本人の意思を確認しなかったこと)は認めるが,それをもって被告らに過失があるとの主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 請求原因について 請求原因は,当事者間に争いがない。 2 被告公社の抗弁について (1) 抗弁アについて  ア 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。     (ア) 原告は,貯金時に発行された本件郵便貯金証書(略)を原告方寝室の机の中に保管していたが,Eは,平成12年5月ころから,原告に無断で同証書を持ち出し,これと手持ちの印鑑を用いて,被告公社に本件郵便貯金を担保とする貸付けを申し込んだ。       被告公社は,Eに対し,本件郵便貯金を担保として,①平成12年5月22日,D郵便局において50万円の,②同年6月1日,D郵便局において50万円の,③同月12日,D郵便局において50万円の,④同月16日,G郵便局において50万円の,それぞれ貸付手続を行った。 Eは,これらの貸付金を主にパチンコに費消した。  (イ) 原告は,平成12年7,8月ころ,(ア)の各貸付けの事実を知り,本件郵便貯金証書の保管場所を変えた。       Eは,平成13年3月30日,D郵便局において,亡失を理由に,原告名義で郵便貯金証書の再交付請求と改印届をなした。   被告公社は,再発行した本件郵便貯金証書(略)を,再交付請求書(略)記載の住所(原告肩書住所地)へ郵送した。この証書はEが受け取った。 (ウ) Eは,同年4月11日,再交付された本件郵便貯金証書(略)を原告に無断で持ち出し,被告公社に本件郵便貯金を担保とする貸付けを申し込んだ。       被告公社は,同日,D郵便局において,本件郵便貯金を担保にしてEに対し100万円の貸付手続を行った。 Eは,これをパチンコや借金の返済等に充てた。  (エ) Eは,同月19日,H郵便局において,原告に無断で本件郵便貯金の払戻手続を行い,被告公社は本件郵便貯金から(ア),(ウ)の各貸付金及びこれらに対する利息を控除した残額199万7944円を払い戻した。Eは,これをパチンコや借金の返済等に充てた。 イ 上記認定事実によれば,Eは,原告に無断で本件郵便貯金証書を持ち出して,ア(ア)の貸付けを受け,(イ)の再交付請求,改印届をなし,(ウ)の貸付けを受け,(エ)の払戻しを行ったものと認められる。したがって,Eが原告の使者としての権限を有していたということはできず,被告公社の抗弁アは理由がない。 被告公社は,原告がア(ア)の貸付手続がなされたことを知りながら平成16年に至るまで被告公社に対し何ら異議を述べておらず,上記貸付け及び払戻しがなされた後もEと同居していることなどを理由に,原告がEに対し,上記貸付け及び払戻しについて,原告の使者としての権限を与えていたと主張する。しかし,そうであるならば,何もEが亡失を理由に郵便貯金証書の再交付まで求める必要はないと解されるのであり,被告公社主張の事実が認められるとしても,Eが貸付けを受けたことに対する追認とみる余地があることは格別(被告公社はこの主張はしていない。),直ちに原告がEに対し,貸付けを受けあるいは払戻しすることにつき、使者としての権限を与えていたとまでは認め難いから,被告公社の主張は理由がない。 (2) 抗弁イについて ア 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる。 (ア) Eは,前記(1)ア(ア)の①ないし④のとおり,4回にわたり,本件郵便貯金を担保とする貸付けを申し込んだが,本件郵便貯金証書(略)の名義人(原告)が男性名であったため,当該郵便局の職員は,名義人(原告)との関係を尋ねたところ,Eから妻であるとの回答を受け,Eが持参した原告の健康保険証又はEの運転免許証で氏名及び住所を確認し,Eが原告の同居の妻であると認め,貸付けに応じた。各貸付申込みの際,Eの挙動に不審な点は認められなかった。なお,上記①の貸付けを申し込んだとき,本件郵便貯金証書の印鑑欄には原告の印鑑は押されておらず,Eが担当職員からいわれて手持ちの印鑑を押捺したものである。また,Eは,各貸付けを受ける際,郵便貯金貸付金受領証に上記手持ちの印鑑を押捺し,担当職員は,これと本件郵便貯金証書に押された印影とを照合して,同一であることを確認していた。       このとき,当該郵便局の職員は,いずれも原告の意思までは確認しなかった。 (イ) Eは,前記(1)ア(イ)のとおり,平成13年3月30日,D郵便局において,亡失を理由に,原告名義で郵便貯金証書の再交付請求と改印届をなした。その際,Eが提出した郵便貯金通帳等再交付請求書及び改印届(略)に押捺された「e」の印鑑は,Eの所有する印鑑であった。同郵便局の担当職員Iは,上記再交付請求書の名義人が男性名(原告)であったため,Eに対し,原告との関係を尋ねたところ,妻であるとの回答を受け,Eが持参した原告の健康保険証により同居の妻であることを確認した。このとき,Eの挙動に不審な点は認められなかった。 また,このとき,Iは,原告の意思までは確認しなかった。 被告公社は,本件郵便貯金証書(略)を再発行し,これを再交付請求書に記載されていた原告の住所地に郵送したが,これはEが受け取った。同証書の印鑑欄には,上記改印届に用いた印鑑が押捺されていた。     (ウ) Eは,前記(1)ア(ウ)のとおり,平成13年4月11日,再交付された本件郵便貯金証書(略)を原告に無断で持ち出し,D郵便局に本件郵便貯金を担保とする貸付けを申し込んだ。その際に用いた印鑑は,上記改印届及び本件郵便貯金証書(略)の印鑑欄に押捺された印鑑であった。同郵便局の担当職員Kは,本件郵便貯金証書(略)と郵便貯金貸付金受領証(略)に押捺された印影を照合して同一であることを確認した上,Eが持参した原告の健康保険証により,Eが原告の同居の妻であることを確認し,貸付手続をした。このとき,Eの挙動に不審な点は認められなかった。 また,このとき,Kは,原告の意思までは確認しなかった。 (エ) Eは,前記(1)ア(エ)のとおり,平成13年4月19日,H郵便局において,原告に無断で本件郵便貯金の払戻手続を行い,被告公社は本件郵便貯金から(1)ア(ア),(ウ)の各貸付金及びこれらに対する利息を控除した残額199万7944円を払い戻した。その際,同郵便局の担当職員Jは,Eが持参した本件郵便貯金証書(略)の下部に「e」の印鑑を押捺してもらい,その印影が同証書の印鑑欄に押捺された印影と同一であることを確認し,さらに,Eが持参した原告の健康保険証及びEの運転免許証でEが原告の同居の妻であることを確認した上,払戻手続に応じた。このとき,Eの挙動に不審な点は認められなかった。 また,このとき,Jは,原告の意思までは確認しなかった。 イ(ア) 郵便貯金法又は同法に基づく省令に規定する手続を経て郵便貯金を払い戻したときは,正当の払戻しをしたものとみなされる(郵便貯金法26条)。  (イ) 郵便貯金法に基づく郵便貯金規則86条によれば,郵便貯金の払戻請求を受けた郵便局は,貯金証書の受領証欄又は払戻金受領証に押された印影と貯金証書又は通帳の印鑑とを対照し,相違がないことを認めた上,貯金証書又は通帳の持参人に払戻金を交付するものとし,郵便貯金取扱規程3条によれば,郵便貯金の取扱に関し,利用者が提出する書類の記名調印については,貯金局長の定めるところによりこれを確かめなければならない旨が定められている。また,同規程4条によれば,郵便貯金の払戻しその他の請求,預金者に対する貸付けの申込み又は印章変更その他の届出を受けた場合において,その請求,申込み又は届出をする者(これらを併せて,以下「請求人等」という。)が正当の権利者であることを確かめるときは,貯金局長の定めるところによりこれを確かめなければならない旨が定められている(略)。     (ウ) 上記規程を受けて貯金局長が定めた郵便貯金取扱手続によれば,郵便貯金の払戻しその他の請求,預金者に対する貸付けの申込み又は印章変更その他の届出を受けた場合の確認方法として,下記①ないし⑦に掲げる事項のいずれにも該当しないと認めたときは,特に請求人等に質問をし,又は証明資料の提示若しくは委任状の提出は,不要であるとし,いずれかに該当すると認めたときは,請求人等の挙動その他請求,申込み又は届出を受けたときの状況等に応じて適切な質問をすることとし,質問によっても正当の権利者であることの確認ができないときは,運転免許証,健康保険証等正当の権利者であることを認めるに足りる書類の提示を求め,また,請求人等が単に「預金者の知人」,「預金者から頼まれた者」の場合には,委任状の提出も併せて求めるものとし,請求人等が,預金者の家族,使用人,職場の同僚等であって,一般に預金者の使者又は代理人たる関係にあると認められる者であるときは,預金者からの請求,申込み又は届出として取り扱って差し支えないとされている(略)。 記     ① 取扱者が預金者又はふだん預入れ等をする者を知っている貯金の通帳若しくは貯金証書により,その預金者又はふだん預入れ等をする者以外の者による払戻しの請求,貸付けの申込み又は印章変更の届出をするとき。     ② 男性が女性名義の,又は女性が男性名義の通帳若しくは貯金証書により払戻しの請求,貸付けの申込み又は印章      変更の届出をするとき。 ③ 年少者がその者に不相応な金額の払戻しの請求又は貸付けの申込みをするとき。      ④ 請求人又は申込人が印章変更の届出と同時に,又はその直後に高額の払戻し若しくは全額に近い金額の払戻しの請求又は高額の貸付けの申込みをするとき。 ⑤ 請求人等が払戻金の受領証,貸付金受領証若しくは改印届書の住所氏名を誤記し,又は過去に払戻しの請求若しくは貸付の申込みをしているにもかかわらず,払戻金の受領証若しくは貸付金受領証の記載方法を尋ねる等不自然な点が認められるとき。 ⑥ 印章変更及び住所移転の届出と同時に,亡失による通帳若しくは貯金証書の再交付の請求をするとき,又は郵便貯金全払請求書により証書払の請求をするとき。      ⑦ その他①から⑥までに準ずる疑わしいと認めるに足りる事由があるとき。 (エ) 上記郵便貯金取扱規程及び同取扱手続によれば,前記①ないし⑦の事由があるときでも,運転免許証,健康保険証等正当の権利者であることを認めるに足りる書類の提示を求め,これによって,請求人等が預金者の家族,使用人等であって,一般に預金者の使者又は代理人たる関係にあると認められる者であるときは,払戻しに応じてもよいことになる。これは,大量の郵便業務の迅速処理や預金者自身の便益確保という要請と預金者の静的な安全確保という要請との調和を図り,預金者の家族や使用人等,一般に預金者の使者又は代理人となることが比較的容易に予想される者による請求手続に関しては,上記の調査以上に,預金名義人の意思を確認するなどの調査をする義務を免除した趣旨であると解されるものであって,合理性を有するものと認められるから,上記取扱規程及び取扱手続によるのが相当でないとすべき特段の事情がない限り,これによって処理した払戻手続は正当であり,かつ過失がないものと認めるのが相当である。 (オ) そして,この理は,郵便局が後に貸付金と貯金とを差し引き計算した上で払戻しをする前提で,貯金を担保にして預金者に貸付けをする場合にも妥当すると解すべきである(郵便貯金取扱規程4条参照)。この場合には,当該貸付けは,実質的に払戻行為の一態様とみるのが相当だからである。 ウ これを本件についてみるに,アで認定したところによれば,次のようにいうことができる。 (ア) Eが,前記(1)ア(ア)の①ないし④記載のとおり,4回にわたり,本件郵便貯金を担保とする貸付けを申し込んだ際,前記認定事実によれば,Eの挙動に不審な点はなく,また,被告公社は,原告の意思を確認しなかったものの,郵便貯金貸付金受領証と本件郵便貯金証書(略)に押された印影を照合し,同一であることを確認した上,Eが持参した原告の健康保険証又はEの運転免許証により,Eが原告の同居の妻であると認めて貸付けに応じたものであって,郵便貯金取扱規程及び同取扱手続に従った扱いをしたものということができる。 もっとも,前記認定事実によれば,①の貸付けの際,本件郵便貯金証書の印鑑欄には原告の印鑑は押されておらず,Eが担当職員からいわれて手持ちの印鑑を押捺したものであるから,これと郵便貯金貸付金受領証の印影が一致していることを確認したとしても,印鑑照合の意味は乏しいといわざるを得ない。しかし,前記のとおり,郵便貯金取扱規程及び同取扱手続によれば,請求人等が,預金者の家族等一般に預金者の使者又は代理人たる関係にあると認められる者であるときは,預金者からの請求,申込み又は届出として取り扱って差し支えないとされていることに照らすと,原告の健康保険証又はEの運転免許証により,Eが原告の同居の妻であると認めて貸付けに応じたことについて,確認に欠けるところはなかったというべきである。 (イ) Eが,平成13年3月30日,亡失を理由に,原告名義で郵便貯金証書の再交付請求と改印届をなし,本件郵便貯金証書(略)の再交付を受けたことについて,前記認定事実によれば,Eの挙動に不審な点はなく,また,被告公社は,原告の意思までは確認しなかったものの,Eが原告の妻であることをEの申告及び同人の持参した健康保険証により確認した上,本件郵便貯金証書(略)を再発行し,これを再交付請求書に記載されていた原告の住所地に郵送したものであって,郵便貯金取扱規程及び同取扱手続に従った扱いをしたものということができる。 (ウ) Eが,平成13年4月11日,本件郵便貯金証書(略)を用いて,被告公社から100万円の貸付けを受けたことについて,前記認定事実によれば,Eの挙動に不審な点はなく,また,被告公社は,原告の意思までは確認しなかったものの,本件郵便貯金証書(略)と郵便貯金貸付金受領証(略)に押捺された印影を照合して同一であることを確認した上,Eが持参した原告の健康保険証により,Eが原告の同居の妻であることを確認し,貸付手続をしたものであって,郵便貯金取扱規程及び同取扱手続に従った扱いをしたものということができる。 (エ) Eが,平成13年4月19日,本件郵便貯金の払戻手続を行い,被告公社から199万7944円の払戻しを受けたことについて,前記認定事実によれば,Eの挙動に不審な点はなく,また,被告公社は,本件郵便貯金証書(略)の印鑑欄の印影と,その下部にEが押した印鑑の印影とが同一であることを確認し,さらに,Eが持参した原告の健康保険証及びEの運転免許証でEが原告の同居の妻であることを確認した上,払戻手続に応じたものであって,郵便貯金取扱規程及び同取扱手続に従った扱いをしたものということができる。 エ 以上によれば,本件の貸付け及び払戻しは,いずれも郵便貯金法26条により正当な払戻しとみなされるというべきであり,被告公社の抗弁イは理由がある。 3 被告農協の抗弁について (1) 抗弁アについて    ア 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。     (ア) 原告は,本件定期貯金証書を寝室の机の中に保管していた。しかし,原告は,Eが2(1)ア(イ)のとおり,本件郵便貯金を担保にして被告公社から貸付けを受けていることを平成12年7,8月ころ知り,本件定期貯金証書(略)の保管場所を変えるに至った。     (イ) Eは,平成13年6月20日,知人のB町議会議員Lとともに被告農協C支所を訪れ,原告名義で本件定期貯金証書の喪失届(丙1)を提出した。喪失届の保証人欄には,Lが署名押印した。上記原告の氏名は,Eが記載したものであり,その横に押捺された「e」の印影は,Eが所持していた三文判によるものであった。 被告農協の担当職員は,Eが提出した原告の健康保険証(略)及びEの運転免許証(略)により,Eが原告と同居する妻であることを確認し,それらの写しをとった。 (ウ) Eは,同月28日,Lとともに再度被告農協を訪れ,喪失届後本件定期貯金証書を発見できなかったとして,被告農協に対し,原告名義の再発行依頼書(略)により定期貯金証書の再発行を依頼し,被告農協は,同日,Eから原告名義の受取書(略)を徴求の上,本件定期貯金証書(略)を再交付した。 再発行依頼書及び受取書の原告の氏名は,Eが記載したものであり,その横に押捺された「e」の印影は,喪失届に押捺されたのと同じ印鑑によるものであった。受取書の保証人欄には,Lが署名押印した。 また,Eは,上記印鑑を届出印とする共通印鑑届(略)を原告名義で作成し,被告農協に提出した。 (エ) Eは,同月28日,本件定期貯金の解約手続を行い,被告農協は,本件定期貯金300万円及び利息の払戻手続をして,Eが同日被告農協に開設したE名義の普通貯金口座に入金した。 (オ) Eは,上記喪失届の提出,再発行の依頼,本件定期貯金の払戻しについて,いずれも原告に無断で行った。     (カ) Eは,上記口座に入金された金員のうち50万円をLに貸し,残りは自己の借金の返済,買物,パチンコ等に費消した。 イ 以上認定の事実によれば,Eは,原告に無断で,被告農協に対し原告名義で本件定期貯金証書(略)の喪失届を提出し,再発行を依頼し,さらに本件定期貯金の解約手続を行ったものと認められる。したがって,上記行為について,Eが原告の使者としての権限を有していたということはできず,被告農協の抗弁アは理由がない。 被告農協は,原告が被告公社からの2(1)ア(ア)の貸付手続がなされたことを知りながら,平成16年に至るまで被告公社に対し何ら異議を述べていないこと,これに加え,本件訴えを提起した後である平成16年12月27日現在においても,Eと同居していることなどを理由に,原告がEに対し,本件定期貯金の払戻しについても,原告の使者としての権限を与えていたと主張する。しかし,上記事実が認められるからといって,直ちに原告がEに対し,本件定期貯金の払戻しについて,原告の使者としての権限を与えていたとはいえないから(なお,2(1)イの説示参照),被告農協の主張は理由がない。 (2) 抗弁イについて ア Eが被告農協に対し,本件定期貯金証書の喪失届を提出し,再発行を依頼し,本件定期貯金の解約手続を行った経緯は,(1)アで認定したとおりである。また,被告農協が払戻手続を行う際,原告に意思確認をしなかったことは,当事者間に争いがない。 イ (1)アで認定した事実によれば,Eは,原告の代理人又は使者であると少なくとも黙示的に詐称して被告農協に前記喪失届を提出し,再発行を依頼し,さらに本件定期貯金の解約手続を行ったものと認めるのが相当であるところ,ある者が債権者の代理人又は使者と詐称して債務者から弁済を受けた場合にも民法478条の規定の適用があるというべきであり,金融機関が過失なくして上記詐称代理人・使者を債権者の代理人・使者であると信じ,定期預貯金の解約・払戻しに応じた場合には,その払戻しは,民法478条により,有効な弁済となると解するのが相当である。 これを本件についてみるに,(1)アで認定した事実によれば,被告農協は,健康保険証及び運転免許証により,Eが原告と同居している妻であることを確認し,Eが原告から代理人又は使者としての地位を与えられていると信じた上で,本件定期貯金の解約・払戻手続を行ったと認められるところ,同居の妻が夫の代理人又は使者として預貯金の払戻手続を行うことは一般に広く行われているものと解せられる上,当時,Eの挙動に不審な点があったことを認めるに足りる証拠はなく,保証人となったLは,当時B町の町会議員であって,被告農協のC支所長とは旧知の間柄で(略),その挙動に不審な点があったことを認めるに足りる証拠もない。これらを総合すれば,被告農協において,Eの求めに応じ,本件定期貯金の解約手続をとったことに過失があるということはできないと解するのが相当である。 以上によれば,被告農協の解約・払戻手続は,民法478条により有効な弁済と認められるというべきであるから,被告農協の抗弁イは理由がある。 4 結論 以上の次第で,原告の本件請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 松山地方裁判所民事第2部 裁判官   坂   倉   充   信

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