H17.11.18 札幌地方裁判所 平成14年(ワ)第1087号 損害賠償請求事件

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H17.11.18 札幌地方裁判所 平成14年(ワ)第1087号 損害賠償請求事件」(2005/11/29 (火) 14:34:39) の最新版変更点

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肝硬変患者であった67歳の男性が死亡したのは,被告法人の開設する病院の医師(相被告)が,定期的な検査を怠り肝がんの発見が遅れたためであるなどとして,死亡した男性の配偶者及び子である原告らが,被告医師に対して不法行為に基づき,被告法人に対して不法行為(使用者責任)又は診療契約上の債務不履行に基づき,損害賠償を請求した事案につき,被告医師の注意義務違反を認定し,その違反による肝がんの発見の遅れと男性の死亡との間に因果関係が認められるとして,損害賠償請求の一部を認容した事案 主       文 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して,1878万2430円及びこれに対する平成12年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告B,原告C及び原告Dに対し,連帯して,それぞれ579万4143円及びこれに対する平成12年1月19日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用はこれを2分し,その1を被告らの負担とし,その余を原告らの負担とする。 5 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求の趣旨    被告らは,連帯して,原告Aに対し,3273万3793円,原告Bに対し,1051万1264円,原告Cに対し,1051万1264円,原告Dに対し,1051万1264円及びこれらに対する平成12年1月19日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要    本件は,亡E(昭和7年5月30日生)の配偶者及び子である原告らが,亡Eが死亡したのは,被告Fの開設する病院の医師である被告Gが,肝硬変患者であった亡Eに対する定期的な検査を怠り肝がんの発見が遅れたためであるなどと主張して,被告Gに対して不法行為に基づき,被告Fに対して不法行為(使用者責任)又は診療契約上の債務不履行に基づき,損害賠償を請求した事案である。 1 前提となる事実(証拠を掲記しない部分は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告Aは,亡Eの配偶者であり,原告B,原告C及び原告Dは,亡Eの子である。 イ 被告Fは,総合病院H病院(以下「被告病院」という。)を開設する医療法人である。被告Gは,被告病院に勤務する内科の医師であり,亡Eの担当医であった。 (2) 診療経過の概要  亡Eは,平成2年8月15日に被告病院の内科を受診し,B型肝炎ウイルスによる代償性の肝硬変であると診断され,以後,毎月1回程度,被告病院の内科を継続的に受診していた。診療経過は,別紙診療経過一覧表中の年月日欄,診療経過欄及び検査,処置,投薬欄(いずれも下線部分を除く。)記載のとおりであり(なお,別紙診療経過一覧表中,年月日欄,診療経過欄及び検査,処置,投薬欄のうち太字でない部分は当事者間に争いのない事実であり,太字の部分は,当裁判所が証拠欄記載の証拠により認定した事実である。),平成11年以降の診療経過の要旨は以下のとおりである。 ア 亡Eは,平成11年中の被告病院の受診の際,3月29日に肝機能検査を,5月25日に胃カメラを受け,7月30日に肝機能検査,NH3検査及びAFP検査(AFP値92.8ng/ml(以下,AFP値については,単位を省略する。),乙A1)を受け,11月4日にも同様の検査(AFP値768.3,乙A1)を受けたが,この間の8月30日及び10月4日の受診の際にはAFP検査は行われなかった。亡Eは,12月13日の受診の際に,1週間前から左半身が麻痺したような感じで頭痛があると訴え,被告Gから言われて被告病院の耳鼻科を受診し,12月22日にMRI検査を受けた結果,転移性骨腫瘍の疑いがあるとされ,同日,I病院を受診し,同月25日,同病院にて超音波検査(エコー)を受けた。  同病院の医師が被告Gに宛てた12月25日付け診療情報提供書(甲A1)には,肝右葉S7,S8全体が,びまん性の肝細胞がん(9.7×7.4㎝)に冒され,S5にも広がっている旨の記載がある。 イ 亡Eは,平成11年12月28日に,被告病院の内科を受診し,同月初旬から微熱,腹満感の増強がある,頭痛で眠れないこともあるなどと訴え,同日から被告病院の内科に緊急入院した。同日,穿刺液検査,血液検査等が行われ,AFP値は3318.5であった。 ウ 被告Gは,平成12年1月14日,原告Aらに対し,亡Eの病状につき,「肝細胞癌の末期で肝臓の右葉すべてが癌化している。右頬の痛みも癌の骨転移である。脳転移の可能性もある。もう手の施しようがないので,検査もやらず,痛みの緩和を図るしかない。」との説明を行った。 エ 亡Eは,平成12年1月19日午前3時01分に67歳で死亡した。 2 争点 (1) 争点1・被告Gの過失(検査の不履行及び肝がん発生の徴候の看過)について (原告らの主張) ア 検査の不履行について  肝硬変患者は,肝がんになる危険性が高いことから,医師としては定期的な検査により早期発見,早期治療に努めることが必要であるとされており,具体的には,3か月に1回は腹部超音波検査を行い,月に1回はいわゆる腫瘍マーカー(AFPあるいはPIVKA-Ⅱ)の検査を行うなどして早期に発見し,外科的切除術等により早期治療に努めることが必要であり,このような検査方法及び検査の頻度については,平成11年当時において,既に一般的な医療水準になっていた。そして,このような検査の頻度に関しては,B型肝炎に由来する肝硬変とC型肝炎のそれとでは差異はない。  AFP値が200以上になれば,肝がんの可能性が極めて高いと認められるが,その数値に臨床上の意味は全くなく,これを超えて初めてCT,MRI等の検査が行われたのでは,完全な治療は期待できない。したがって,早期発見の見地からいえば,一般的には,20以下を正常範囲,それを超えるものを異常値としており,被告病院においても同様の基準が採用されている。  しかし,被告Gは,亡Eが,平成2年8月以降,被告病院に毎月1回程度通院していたにもかかわらず,腹部超音波検査は年1回程度,腫瘍マーカーのうち,PIVKA-Ⅱ検査については,平成2年10月26日に1度実施しただけであり,AFP検査についても,おおむね3か月に1回程度しか実施しなかった。 イ 肝がん発生の徴候の看過について  亡Eの平成10年12月24日の検査におけるAFP値は2.7と正常値(20以下)であったが,およそ7か月後の平成11年7月30日に行われた次の検査におけるAFP値は92.8と前回の30倍以上の異常高値となっていたのであるから,被告Gは,遅くとも亡Eの次の受診日である同年8月30日の時点で,超音波検査やCT検査を実施して肝がんを発見し,適切な治療を行うべきであった。  しかし,被告Gは,前記AFP値を認識していたのに,あるいは,見過ごしていたため,肝がんの発生を疑わず,同日の時点においても,腹部超音波検査やCT検査等を行わなかった。すなわち,被告Gは,検査に現れた亡Eの肝がん発生の徴候を看過し,その後の適切な処置を執らなかった。 (被告らの主張) ア 検査の不履行について  亡Eの肝がんは,いわゆる体積倍加日数(ダブリングタイム,腫瘍の体積が2倍になるのに必要な時間)が10日ないし11.6日という異例の速さで進行していたものであり,被告病院での発見の遅れもこれが主な原因になっている。したがって,被告Gに,原告らの主張するような頻回の検査を行う義務はない。原告らの主張する検査の頻度は,C型肝炎ウイルスによって肝硬変になった患者に対する肝がんの検査基準であり,B型肝炎ウイルスによる肝硬変とそれによるがん化との相関関係はないか,あっても低度であって,亡EがB型肝炎ウイルスによる肝硬変であったことから直ちに,C型肝炎ウイルスによる場合と同様の頻回の検査をすべきことにはならない。AFP検査を月1回,超音波検査を3か月に1回行うとの基準は,体積倍加日数を90日ないし120日と想定して,肝がんを2㎝以下で発見するために設定されたものであり,本件のように体積倍加日数がおよそ10日ないし11日で,AFP値が増加する急速発育型の肝がんを発見することを想定していない。B型肝炎ウイルスの保有者は,感染した時点で既に肝がんに関してハイリスクグループに属し,肝炎の進行度にかかわらず頻回の検査を行うべきとされるが,機械的な検査を長期間繰り返すことは,患者の負担となり,やがて通院しなくなることは明白であって,どこの病院でも血液検査や年二,三回のAFP,年2回程度の超音波検査を行い,それにより異常が認められたときに更なる検査を行っているのが実情である。  亡Eの場合,平成2年に来院する10年前の検診でB型肝炎であると言われたのにそのまま治療や検査はしておらず,その後も平成2年から10年間にわたり,検査をしても肝がんは発生しなかったのであるから,今後10年間発生しないことも予想され,C型肝炎ウイルスによる肝硬変のように,年数を経れば経るほど頻回に検査をすべきということにもならない。 イ 肝がん発生の徴候の看過等について  一般に,病気の進行には個体差があり,他事例の統計と比較するよりは,より相関関係があるとされる患者自身の過去の症状経過を参考にする方がよいとされている。本件については,以下のとおり,肝がんではなかった平成2年10月26日の亡Eの肝機能の数値(以下「平成2年の検査値」という。)が,平成11年7月30日のそれとほぼ合致しており,被告Gが,平成2年の検査値を基に,平成11年7月30日のAFP値の上昇を肝がんの徴候ではないと判断したことに過失はない。 平成2年の検査値 平成11年7月30日の検査値   AFP  122.2   GOT   29   GPT   30   LDH  308   AFP   92.8   GOT   19   GPT   15   LDH  337  また,平成11年10月4日に超音波検査を行っていれば,肝がんを発見できたと思われるが,これは結果論であって,このとき超音波検査をすべきであったとは必ずしもいえない。被告Gが,同年夏に亡Eに超音波検査を勧めたが,亡Eの都合により断られている経過もある。  したがって,被告Gには,亡Eの肝がん発生の徴候を看過した過失はない。 (2) 争点2・因果関係(延命の可能性)について (原告らの主張)  被告Gは,B型肝炎ウイルスによる代償性肝硬変である亡Eに対する必要な検査を怠り,また,肝がん発生の徴候を看過し,そのため,亡Eは,早期発見による早期治療を受けることができず,死亡するに至ったものである。  殊に,被告らの主張によれば,平成11年8月30日ころの時点における亡Eの肝がんの長径はおおむね10㎜程度であったというのであるから,その時点において,超音波検査等を行えば,肝がんの発見は可能であった。  したがって,どんなに遅くとも,その次の受診日である同年10月4日の時点において治療としての肝切除やエタノール注入療法等が行われるべきであった。また,被告らの主張によれば,同日の時点での亡Eの肝がんの大きさは19.7㎜であったというのであり,亡Eの肝機能及び肝予備能は自覚的にも他覚的にも非常に良好に保たれていたのであるから,肝切除を含めたあらゆる治療の適応があった。  すなわち,この時点で適切な治療が行われていれば,亡Eが,延命した可能性は高く,例えば,肝切除術が行われていれば,亡Eの生存率は,1年が97.3%,2年が94.2%,3年が89.7%,5年が75.5%,6年目が68.5%,7年目が61.2%,8年目が54.7%,10年目が40.4%であり,再発しない可能性すら20%はあったのである。 (被告らの主張)  亡Eは,肝硬変になっていて,予備能が少ないことから,平成11年10月4日の時点で,亡Eに肝切除術を施したとしても,本件のように急速進行度のがんの部位を特定し,その部位のみを切除することはきわめて困難であり,正常肝まで切除することになれば,肝硬変も影響して肝機能を損ない,かえって死期を早める結果となる。また,肝動脈塞栓術を行うにしても,本件のような急速進行がんの場合,広範な部位を塞栓しなければ効果はなく,逆に,広範囲で塞栓すると肝機能を損ない死期を早めてしまう。加えて,エタノール注入療法は,本件のように急速かつ広範に進行するがんには適応がない。  以上から,本件には,上記いずれの方法も適応がなかったものである。 (3) 争点3・損害について (原告らの主張) ア 逸失利益  亡Eは,死亡当時,社団法人J市シルバー人材センターから年間64万6928円の収入を得ていた。また,亡Eは,老齢基礎年金(年間80万2632円)と退職共済年金(年間251万9900円)の合計332万2532円の年金を受給していた。  亡Eの死亡時の年齢は67歳であり,平成11年簡易生命表による平均余命は,15.16年であるから,労働収入については平均余命の約半分である8年分(係数6.46321276)を,年金収入については平均余命である15年分(係数10.37965804)を,ライプニッツ方式により中間利息を控除し,さらに30%を生活費として控除して逸失利益を求めると,2706万7586円になる。  原告らは,上記損害賠償請求権を,原告Aが2分の1,その余の原告らが各自6分の1ずつ相続した。 イ 葬儀費用  原告Aは,亡Eの葬儀費用を負担した。被告らの負担すべき金額としては,120万円が相当である。 ウ 慰謝料  被告Gは,被告病院の耳鼻科から,平成12年1月6日に亡Eの頬の痛みを緩和するため,放射線治療を実施することについて提案を受けたにもかかわらず,同月12日に一方的にこれを断ったり,家族の強い希望や承諾があるにもかかわらず,亡Eの死亡の2時間くらい前に極少量のモルヒネを使用しただけであって,亡Eの疼痛を十分に緩和したとはいえない。  また,被告Gは,亡Eが入院時に既に肝細胞がんの末期状態であったことがはっきりしていたにもかかわらず,原告らに対し,医師として亡Eの病状の説明を全く行わず,原告らの強い求めによって,入院後2週間以上経過してからようやく亡Eの病状の説明をした。このことによって,亡Eは,原告ら家族から手厚い看護等十分な配慮を受ける機会を喪失した。このように,被告らの亡Eに対する対応は著しく不誠実である。  亡Eは,疼痛を十分に緩和されず,また,原告ら家族から手厚い看護等十分な配慮を受ける機会を喪失したまま,被告Gの過失により死亡したものであって,その精神的苦痛に対する慰謝料としては,3000万円が相当である。  原告らは,上記慰謝料請求権を,原告Aが2分の1,その余の原告らが各自6分の1ずつ相続した。 エ 弁護士費用  原告らは,本件訴訟の提起及び追行を原告ら代理人らに委任したが,その費用のうち,被告らが負担すべき金額としては,上記各金員の合計5826万7586円のおよそ1割である600万円が相当であり,これを原告らの相続分に応じて配分すると,原告Aについては300万円,その余の原告らは各自100万円となる。 (被告らの主張)  原告らが原告ら代理人らに本件訴訟に関する委任をしたことは認め,その余は否認ないし争う。  亡Eの疼痛緩和の点について,被告Gは,平成12年1月6日に被告病院の耳鼻科から,亡Eの治療法として,痛みを緩和するための放射線療法しかないとの連絡を受けた。しかい,WHOの指針によれば,まず,非ステロイド系消炎鎮痛剤を使用することとなっていて,これにより痛みがなくなれば,モルヒネや放射線療法を行うべきではないとされている。被告病院では,この方針に則って,鎮痛剤であるペンタゾミンを投与し,これにより疼痛を消滅させている。したがって,亡Eの痛みが緩和されていなかったというのは事実に反している。  また,原告らに対する説明の点については,亡Eは平成11年12月28日に入院して,被告Gによる原告らへの病状説明は平成12年1月14日に行われた。これは,同月13日の超音波検査の結果,肝巨大細胞がんがあることを認識した上でされているものであり,同月14日の説明は,この検査結果と入院時から同月13日までの検査,診断の結果を踏まえた確定診断に基づいてされたもので,特に説明が遅れたものではない。 第3 争点に対する判断 1 上記前提事実のほか,証拠(甲B1ないし4,6ないし16,18ないし21,23ないし25,甲C4の1及び2,甲C5,6,乙A3,原告B,被告G)(なお,上記証拠中,後記認定に反する部分は,採用しない。)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる(なお,括弧内の証拠番号等は,掲記事実を認めた主要証拠等である。)。 (1) 平成11年当時,亡Eは,B型肝炎ウイルスによる代償性の肝硬変に罹患しており,肝がん(特に,肝細胞がん)発生の危険性の高い状態にあった。  もっとも,B型肝炎ウイルス感染によるがん化は,B型肝炎ウイルスが宿主の遺伝子内に組み込まれることにより起こり,そのウイルス感染直後にも起こり得るものであり,B型肝炎ウイルス患者は当初から肝がん発症のリスクを有しているとされていた。(甲B2,3,8,9,13,14,16,18ないし20,25,原告B,前提事実) (2) 平成11年当時,肝がんを早期に発見するための検査方法としては,血液中のAFP(α-フェトプロテイン)やPIVKA-Ⅱの量の検査及び腹部超音波検査などの画像診断が重要であると認められていた。  このうち,AFP検査は,原発性肝細胞がんと卵黄嚢腫瘍に特異性の高い腫瘍マーカーで,血清AFP値の正常値は20以下とされているものの,それが200以下の微量のAFPは,肝炎,肝硬変などでも高頻度で見られる。一方,200以上の場合,成人では,原発性肝細胞がんの可能性が非常に高いとされているが,200以上を示す原発性肝細胞がんは40から50%にすぎず,また,AFP値とがんの腫瘍径の間には一定の関係はない。もっとも,同一症例においては,AFPが全くの陰性の症例を除いて,腫瘍径とAFP値は正の相関を示すため,定期的に検査し,その経過を観察することが重要であるとされていた。  PIVKA-Ⅱは,ビタミンK欠乏により誘導される異常プロトロンビン前駆体蛋白のことであり,健常人では血清中のPIVKA-Ⅱはほとんど検出されず,1ml中0.06AU以下で,原発性肝細胞がんの約50%がこれ以上の陽性を示すとされていた。  腹部超音波検査は,無侵襲,簡便な方法として,早期肝がんの検出に優れた検査方法であり,平成11年当時では,機器の進歩により,5㎜前後の病変も検出可能となっていた。もっとも,腫瘍の部位や性質等の諸条件によっては,病変を発見しにくいこともある。  以上のとおり,各検査はいずれも早期がん発見のために万能のものではないため,これらの諸検査を定期的に実施し,肝細胞がんの発生が疑われる場合には,さらに詳細な画像診断を行い,最終的には組織生検を行うなどして確定診断を行う必要があるとされていた。(甲B1ないし4,7ないし9,11,13ないし16,18ないし20,23ないし25,原告B,被告G,弁論の全趣旨) (3) 被告病院において,亡Eに対して,平成10年12月24日にAFP検査が行われた後,平成11年7月30日にAFP検査が行われるまで約7か月間,AFP及びPIVKA-Ⅱの検査はいずれも行われなかった。  また,亡Eに対する腹部超音波検査については,被告病院において,平成10年10月29日に実施された後,平成11年12月25日にI病院において行われるまでの間,実施されていなかった。(前提事実) (4) 被告病院における平成10年12月24日のAFP検査の結果,亡EのAFP値は2.7であったところ,平成11年7月30日の同検査の結果では,AFP値は92.8と上昇したが,被告Gは,遅くとも亡Eの次の受診日である同年8月30日にはこの数値を認識していた。そして,同年11月4日の同検査の結果ではAFP値は768.3とさらに上昇した。  亡Eは,同年12月13日の受診の際に,1週間前から左半身が麻痺したような感じで頭痛があると訴え,被告Gから言われて被告病院の耳鼻科を受診し,同月22日にMRI検査を受けた結果,転移性骨腫瘍の疑いがあるとされ,同日,I病院を受診し,同月25日,同病院にて超音波検査を受け,その結果,肝右葉S7,S8全体が,びまん性の肝細胞がん(9.7×7.4㎝)に冒され,S5にも広がっていることが発見された。  亡Eは,同月28日に,被告病院の内科を受診し,同月初旬から微熱,腹満感の増強がある,頭痛で眠れないこともあるなどと訴え,同日から被告病院の内科に緊急入院した。同日,穿刺液検査,血液検査等が行われたが,AFP値は3318.5であった。  亡Eに対しては,その後も被告病院において生化学検査,細胞診,CT検査等が行われ,平成13年1月13日に行われた腹部超音波検査の結果,長径が15㎝を超えると思われる肝細胞がんの巨大塊が発見された。(乙A3,被告G,前提事実) (5) 当時,肝がんに対する治療法として,肝切除やエタノール注入療法等があったが,亡Eについては,肝がんが発見された時点では,その進行度や進行速度に照らし,有効な治療はできない状態にあり,亡Eは,平成12年1月19日午前3時01分に肝臓の腫瘍の破裂により67歳で死亡した(甲B3,6,10,12,21,乙A3,原告B,被告G,前提事実)。 (6) 亡Eの肝臓の機能は,B型肝炎ウイルスによる肝硬変と診断されて以来,末期がんとなった最期の二,三週間を除けば,チャイルド分類によると,一番状態のよいA(甲B14参照)の代償性肝硬変であり,臨床病期でいうとⅠ(甲B6,21参照)と判定され,平成11年11月4日の時点においても,肝機能,肝予備能は良好に保たれていた(甲B25,被告G)。 (7) 亡Eは,死亡当時,社団法人J市シルバー人材センターに登録しており,同センターから平成11年分として64万6928円の収入を得ていた(甲C4の1,2)。また,亡Eは,同年分として老齢基礎年金を80万2632円,退職共済年金を257万2534円支給されていた(甲C5,6)。 2 上記認定事実及び前提事実に基づき,各争点につき検討する。 (1) 争点1(被告Gの過失)について ア 検査の不履行について (ア) 亡Eは,B型肝炎ウイルスによる代償性の肝硬変であり,肝がん(特に,肝細胞がん)発生の危険性の高い状態にあったのであるから,医師として,肝がんの発生につき,注意を怠ってはならない患者であったというべきである。  したがって,被告らは,亡Eに対して,肝がん発生の早期発見のため,AFP,PIVKA-Ⅱの検査及び腹部超音波検査などの画像診断を定期的に実施する必要があったというべきである。  そして,昭和62年ころの無治療の肝がんの自然経過から発育速度を検討した報告から,当時の腹部超音波検査で確実に検出される2㎝から根治治療が期待される3㎝までの腫瘍径の発育期間が平均3か月の経過をたどる例が90%以上という結果を得られていたことや,ダブリングタイムの計算の研究をはじめとする報告からも,発育速度の速い肝がんでもほとんどの例で3か月に1回の腹部超音波検査で腫瘍径2㎝から3㎝の早期肝がんとして診断され得ること等を根拠として,平成11年当時,肝がんのハイリスクグループに対しては,少なくとも3か月に1度の腹部超音波検査を行うことが一般的となっており,また,AFP及びPIVKA-Ⅱの腫瘍マーカー検査についても,肝がんのハイリスクグループに対しては,1から2か月毎に行われることが一般的となっていたことが認められる。(甲B1,3ないし9,13ないし16,20,23ないし25,原告B)  これらのことからすれば,被告Gは,亡Eに対して,平成11年当時の医療水準として,AFP及びPIVKA-Ⅱの腫瘍マーカー検査については,少なくとも2か月に1度,腹部超音波検査については,3か月に1度の頻度で行う注意義務を負っていたと認められる。 (イ) そこで,平成11年当時,前記の検査が亡Eに対して行われているかにつきみるに,腫瘍マーカーの検査については,平成10年12月24日にAFP検査が行われた後,平成11年7月30日にAFP検査が行われるまで約7か月の間行われておらず,腹部超音波検査については,平成10年10月29日に実施された後,平成11年12月25日にI病院において実施されるまで約14か月の間実施されていなかったのであって,被告Gは,前記注意義務に違反したというべきである。 (ウ) 被告らは,この上記3か月に1度という腹部超音波検査の頻度につき,かかる頻度での検査は必要ないと主張し,被告Gは,陳述書(乙B12)において,肝がんのダブリングタイムを90日とした場合,見落としを考慮しても,年2回の超音波検査で平成11年当時に発見可能であった腫瘍径5㎜から2㎝になる間にかなりの確率で肝がんを発見できると陳述している。  しかしながら,肝がんの発育速度については,症例によって差があるところ,上記被告Gの見解は,発育速度が速い肝がんについて考慮されておらず,採用できない。  また,被告らは,原告らの主張する検査の頻度は,C型肝炎ウイルスによって肝硬変になった患者に対する肝がんの検査基準であり,B型肝炎ウイルスによる肝硬変とそれによるがん化との相関関係はないか,あっても低度であって,亡EがB型肝炎ウイルスによる肝硬変であったことから直ちにC型肝炎ウイルスによる場合と同様の頻回の検査をすべきことにはならないと主張し,被告Gは,C型肝炎ウイルスによる肝硬変については,現在,年4度の超音波検査,2か月に1度のAFP検査を行うべきだと言われているが,亡EのようなB型肝炎ウイルスによる肝硬変患者については,C型肝炎ウイルスによる患者の場合と同様の頻回の腫瘍マーカー検査や腹部超音波検査をすべきということにはならないと陳述する。  しかし,確かに,B型肝炎ウイルスによるがん化の機序とC型肝炎ウイルスによるがん化の機序は異なることが認められるものの(甲B9,25,乙B12,原告B,被告G),亡EのようなB型肝炎ウイルスによる肝硬変患者の肝がん発生の危険性が高いことには変わりはないのであって,C型肝炎ウイルスによる肝硬変との間で,検査頻度につき異なる基準を設けることが妥当するほどの肝がん発生の危険性に差があることを認めるに足りる証拠はなく,上記被告Gの見解は採用できない。  次に,被告らは,亡Eは,少なくとも平成2年の来院時の10年前からB型肝炎ウイルスの検診でB型肝炎であると言われたが,そのまま治療,検査はしておらず,その後平成2年から10年間にわたり,検査をしても肝がんは発生しなかったのであるから,C型肝炎ウイルスによる肝硬変の患者と違って,頻回に検査をすべきということにはならないと主張する。  しかし,B型肝炎ウイルスによる肝硬変の場合,C型肝炎ウイルスによる肝硬変の場合と異なり,時が経つほど肝がん発生の危険性が高まるとは認められないものの,逆にその危険性が低くなるとも認めることはできないのであって(甲B9,乙B10),平成11年当時においても,亡Eが肝がんの発生の危険性は依然高い状態であったというべきであり,被告らの主張は採用できない。  さらに,被告らは,B型肝炎ウイルスによる肝硬変の患者に対しては,どこの病院でも血液検査や年二,三回のAFP,年2回程度の超音波検査を行って,これにより異常が認められたときに更なる検査を行っているのが実情であると主張するが,この主張を事実と認めるに足りる証拠はなく,かかる主張を認めることはできない。  被告らは,被告Gが平成11年夏に亡Eに超音波検査を勧めたが,断られた経過があると主張し,被告Gは,その本人尋問において超音波検査を同年6月28日に勧めたとその主張に沿う供述をしている。  しかし,このような事実があったことを裏付ける証拠はないし,医師は,患者から必要な検査を断られた場合,患者に対して,その検査の重要性や検査を受けないことによるリスク等を十分に説明すべきであるところ,被告Gが亡Eに対して,そのような説明を行ったとも認められない上,一度検査を断られたことが亡Eのその後の受診等の機会に検査を行わないことを正当化する事由となるものでもない。 イ 肝がん発生の徴候の看過について (ア) 亡EのAFP値は,平成10年12月24日の検査では2.7と正常値であったが,約7か月後の平成11年7月30日では92.8と前回の30倍以上の異常値となっていたところ,被告Gは,平成11年7月30日の次の受診日である同年8月30日までには,この数値を認識していたのであるから,亡Eに対しては,前記のとおり,腹部超音波検査は,平成10年10月29日以降行われていなかったことも考慮すれば,被告Gには,この時点において,肝がん発生の可能性を疑い,速やかに腹部超音波検査,CT検査等を実施する注意義務があったというべきである。  しかしながら,被告Gは,平成11年11月4日にAFP検査等を行うまでの間,肝がんの発生を想定した検査を何ら行っていないのであるから,被告らは上記注意義務に違反したというべきである。 (イ) この点,被告らは,平成2年の亡Eについての検査値を基に,その当時の検査値と平成11年7月30日の検査値が似ており,平成2年のときには,肝がんでなかったのだから,平成11年7月30日の検査によるAFP値の上昇を肝がんの徴候でないと判断したことに過失はないと主張する。  しかしながら,当時においても依然肝がん発生の危険性の高かった亡Eについて,単に過去の検査値と似ているからといって,平成11年7月30日の検査によるAFP値の上昇が肝がんの発生によるものではないとした判断に合理性があるとは認められず,被告らの主張は採用できない。 (2) 争点2(因果関係)について ア 原告らは,被告Gが平成11年8月30日の時点で亡Eの肝がん発生の徴候を看過せず,腹部超音波検査を行っていれば,肝がんを発見することが可能であり,その後,肝がんの大きさが2㎝を超える前に治療を開始することが可能であったとして,亡Eの延命の可能性が十分にあったと主張する。  しかし,上記主張は,亡Eの肝がんの大きさが平成11年8月30日の時点で10㎜程度に過ぎなかったことを前提にするものであるが,その事実を認めるに足りる証拠はない。  この点,被告Gは,その陳述書において,平成11年12月25日にI病院において行われた腹部超音波検査において発見された亡Eの肝がんの大きさが9.7㎝×7.4㎝であったこと,平成12年1月13日に被告病院で行われた腹部超音波検査においては,15㎝であったことを前提に,亡Eの肝がんについて,ダブリングタイムを約10日であると計算し,そのダブリングタイムを前提に,平成11年9月1日の時点で亡Eの肝がんの大きさは6.7㎜であったと計算している。しかしながら,上記両検査が,同一の機器による検査でないことからすれば,10日というダブリングタイムの正確性には疑問が残る上,そもそも被告Gは,同一症例におけるがんの発育速度が一定であること前提として平成11年9月11日時点の肝がんの大きさを計算していると認められるが,同一症例でのがんの発育速度が一定であるとの事実を認めることはできない(甲B9,15,20,原告B)。  以上によれば,平成11年8月30日の時点で亡Eの肝がんが10㎜程度に過ぎなかったことを前提とする原告らの亡Eの延命可能性についての主張は採用できないというべきである。 イ もっとも,当時,腹部超音波検査によって5㎜前後の肝がんが発見可能とされていたことや,3か月に1度という腹部超音波検査が必要とされる頻度が,ダブリングタイムの計算の研究をはじめとする報告から発育速度の速い肝がんでもほとんどの例で3か月に1回の腹部超音波検査で腫瘍径2㎝から3㎝の早期肝がんとして診断され得ることが根拠とされていることに照らせば,被告らが,亡Eに対して,平成11年当時において,AFP及びPIVKA-Ⅱの腫瘍マーカー検査については,少なくとも2か月に1度,腹部超音波検査については,3か月に1度の頻度で行うとの注意義務を尽くしていれば,亡Eにつき,肝がんを早期の状態で発見し得る高度の蓋然性があったと認められる。  仮に,亡Eについて,早期の状態で肝がんが発見されていた場合,亡Eの肝臓の機能が良好に保たれていたことなどから見て,肝切除術も適切な治療法として実施可能であったと認められ,そして,この肝切除術がされた場合の延命の効果については,がんの大きさ等によって異なるものの,亡Eにつき3㎝の以下の状態で発見されていたとすると,長期にわたる延命につながる可能性が高かったことが認められる。(甲B12,21,25,原告B)  また,腫瘍の大きさが3㎝以下で個数が3個以下の肝がんに治療の適応があるとされるエタノール注入療法も,3㎝以下の大きさの肝がんが発見されていた場合,亡Eに対して,有効な治療法として実施可能であったと認められ,かつ,長期の延命の効果が期待できたことが認められる(甲B12,21,25,原告B)。 ウ 以上に対し,被告らは,3か月に1度という腹部超音波検査の頻度は,亡Eのがんのようにダブリングタイムがおよそ10日ないし11日で,AFP値が増加する急速発育型の肝がんを発見することを想定していないとして,被告らが前記注意義務を果たしていても亡Eについては早期の状態での肝がんの発生を発見することはできなかったかのように主張する。  しかしながら,前記のとおり,被告Gの計算による約10日というダブリングタイムの正確性には疑問が残るものであり,また,がんの発育速度は時期によって異なるのであるから,被告らの主張はその前提を欠くというべきである上,3か月に1度という検査頻度は発育速度の速いがんについても考慮されてのものであるから,被告らの主張は採用できない。   また,被告らは,亡Eの肝臓は肝硬変になっていて予備能が少なく,肝切除術は適当でなく,エタノール注入療法は本件のように急速かつ広範に進行するがんには適応がないと主張する。   しかし,亡Eは肝硬変に罹患していたものの,前記のとおり,平成11年11月4日の時点においても,肝機能,肝予備能は良好に保たれていたことが認められる。また,被告らは,約10日というダブリングタイムを前提に亡Eのがんが急速に進行するがんであったと主張しているが,約10日というダブリングタイムの正確性には疑問が残るものであり,また,がんの発育速度は時期によって異なることは前記のとおりであるし,急速に進行するがんについても早期に発見された場合であれば,肝切除術及びエタノール注入療法の適応があると認められる(甲B12,21,25,原告B)。  また,被告らは,亡Eの肝がんが,多発性の肝がんもしくは肝臓全体が無数の小さい腫瘍結節により置換された形態を示すびまん型の肝がんが合同・融合した可能性があり,そうであれば治療不可能であったと主張するが,亡Eのがんが多発性もしくはびまん型のがんであったことを認めるに足りる証拠はない。また,多発性のがん,または,びまん型のがんであっても早期に発見されれば,エタノール注入療法の適応になることが認められる(甲B10,12,21)。   したがって,被告らの主張を容れることはできない。 エ 以上によれば,被告らが,亡Eに対して,平成11年当時において,AFP及びPIVKA-Ⅱの腫瘍マーカー検査については,少なくとも2か月に1度,腹部超音波検査については,3か月に1度の頻度で行うとの注意義務を尽くしていれば,亡Eが,その死亡日である平成12年1月19日後においてもなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性があったと認められ,上記被告らの注意義務違反と亡Eの死の因果関係は肯定されるというべきである。 (3) 争点3(損害)について ア 逸失利益について 亡Eは,平成11年分の年金として合計337万5166円の年金を受け取っており,平成12年1月19日の死亡時は満67歳であり,平成11年簡易生命表による平均余命は15.56年とされていた(当裁判所に顕著な事実)。他方,平成10年及び平成11年の症例についての報告である「第15回全国原発性肝癌追跡調査報告」(甲B21)によれば,亡Eのような臨床病期Ⅰの患者について,肝細胞がんに対する肝切除術を行った場合の生存率は,腫瘍が1個でその大きさが2㎝以下のときは7年生存率が61.2%,8年生存率が54.7%とされ,腫瘍が1個でその大きさが2㎝を超え5㎝以下のときには6年生存率が54.5%,7年生存率が47.3%とされ,エタノール注入療法を行った場合には,6年生存率は52.3%,7年生存率が47.9%とされていた。  以上を総合考慮すると,本件において,亡Eが平均余命である15.56年の間生存したと認めることはできず,亡Eが年金を受け取ることができたのは7年間であったとするのが相当である。  また,亡Eは,平成11年当時,社団法人J市シルバー人材センターに登録し収入を得ていたが,本件において,亡Eの肝がんが早期に発見され,肝切除術,エタノール注入療法等の治療が行われたとしても,その治療のための入院期間や,治療後どの程度労働能力が回復するのか等の事実については,本件の全証拠によっても確定することができないから,亡Eの就労可能性自体を否定することはできないものの,就労による収入についての逸失利益の算定は不可能といわざるを得ず,この点は,後記の慰謝料算定の一事情として考慮するのが相当である。  そこで,亡Eの逸失利益を,死亡当時の年金による年収額337万5166円を基礎に,生活費として50%を控除し,7年のライプニッツ係数5.7863を用いて計算すると,以下の計算式により,その逸失利益は976万4833円であると認められる。 337万5166円×0.5×5.7863=976万4861円 イ 亡Eの慰謝料  亡Eが,適切な時期に治療を受けられずに,死亡することとなったこと,平成11年12月28日の被告病院への入院以降,その死亡までの期間疼痛が持続していたこと,原告らによる看護状況,亡Eの年齢や病態及び上記就労可能性の存在等,本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡Eの慰謝料は2200万円と認めるのが相当である。  なお,被告らは,亡Eの疼痛を消滅させている旨主張するが,亡Eにおいては,平成11年12月28日の被告病院入院以降,強い疼痛が消失したり発生したりの繰り返しであり,疼痛が一時的に消失することもあったが,自制できる疼痛はほとんど持続していたことが認められる(乙A3)のであって,この事実も上記のように慰謝料の増額事由として考慮するのが相当である。  また,亡Eは,同月25日,I病院において,肝細胞がんと診断とされ,同月27日には,被告病院の耳鼻咽喉科医師から,亡Eに肝がんからの転移性骨腫瘍の疑いがあるとの連絡が被告Gにされていたと認められるが(乙A2,3),その一方で,平成12年1月14日まで,亡Eはもとより,原告ら家族に対しても,亡Eが肝がんに罹患したことの説明はなく(原告B),その間,原告らは,亡Eが肝がんに罹患していることを知り得なかったために,亡Eらとより多くの時間を過ごすなど,亡Eの生活がより充実したものとなるようにできる限りの手厚い配慮をすることができなかったものであり,この点も亡Eの慰謝料の増額事由として考慮した。 ウ 葬儀費用  亡Eの葬儀費用は原告Aが負担したものと認められるが,本件と相当因果関係の認められる葬儀費用の額は,120万円と認めるのが相当である(弁論の全趣旨)。 エ 原告らの相続分 亡Eの逸失利益976万4861円及び慰謝料2200万円の合計3176万4861円のうち,原告Aの相続分(2分の1)は1588万2430円,その余の原告らの相続分(各6分の1)は,それぞれ529万4143円である。 その結果,被告F及び被告Gに対して,原告Aは,1708万2430円(葬儀費用を含む。)の,その余の原告らは,それぞれ529万4143円の不法行為に基づく(被告Fに対しては使用者責任に基づく)各損害賠償請求権を取得した。 オ 弁護士費用 本件提訴のために要した弁護士費用のうち,本件訴訟の経過に鑑み,原告Aについて170万円,その余の原告らについてそれぞれ50万円の限度で本件不法行為と因果関係ある損害と認める。 カ 合計 以上アないしオによれば,原告静の損害は1878万2430円,その余の原告らの損害は各579万4143円となる。 3 よって,被告G及びその使用者であった被告Fに対する原告らの請求は,主文1項及び2項の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結の日 平成17年6月17日) 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官    笠    井    勝    彦 裁判官    栗    原         保 裁判官    矢    澤    雅    規 (別紙)

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