H17. 6.27 大阪地方裁判所 平成16年(わ)第5897号等 詐欺(変更後の訴因 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反),同法違反被告事件

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H17. 6.27 大阪地方裁判所 平成16年(わ)第5897号等 詐欺(変更後の訴因 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反),同法違反被告事件」(2005/08/01 (月) 10:38:12) の最新版変更点

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判示事項の要旨:  いわゆるマルチまがい商法を行っていた会社の実質的経営者であった被告人が,部下らと共謀の上,資金繰りが破綻しているのを隠して,出資金の2倍の配当金が得られるなどと申し向けて組織的に詐欺を行い,延べ33人から合計1億0611万8000円を詐取したという組織的犯罪処罰法違反の事案 主        文 被告人を懲役8年に処する。 未決勾留日数中200日をその刑に算入する。 理        由 (犯罪事実)  被告人は,東京都新宿区a丁目b番c号(平成13年7月10日から同年11月19日までは同都新宿区d丁目e番f号,同月20日から平成14年9月9日までは同都千代田区g丁目h番i号)に本店を置くグランドキャピタル株式会社(以下「グランドキャピタル社」という。)を中心とするグループ会社で構成されるグランドキャピタルグループの会長で実質的経営者としてその業務全体を統括掌理していた者であり,同グループは,前記本店や全国のサロンと称される支店を拠点とし,表向きは宝石,貴金属,健康食品の販売及び輸出入等を事業目的としながら,実際は同社を主宰者とする宝飾品等の連鎖販売取引を仮装し,その商品代金名下に金員の出捐を受けて利益を図ることを共同の目的とする多数の構成員等からなる継続的結合体であって,被告人の指揮命令に基づき,あらかじめ,同グループの経営企画室長であったBにおいて,法的手続,商品企画に関する調査等において被告人の補佐をするなどの,同グループの営業本部長であったCにおいて同グループの営業部門を統括するなどの,同グループの管理部長であったDにおいて,同グループの会員管理等を行う管理部門を統括するなどの,グランドキャピタル株式会社GCC事業本部管理部長であったEにおいて,同社の管理部門を統括するなどの,任務分担をそれぞれ定めた上,さらに,グランドキャピタルグループの事業説明会の開催計画の策定,会場の手配,同説明会における説明,契約書類等の作成,顧客管理及び出納管理等の任務分担を定め,これに従って一体として行動する組織により,全国各地で事業説明会を開催して新規会員を勧誘し連鎖販売代金名下に金員を出捐させることを反復して行っていた団体であるが,被告人は,B,C,D及びEらと共謀の上,グランドキャピタルグループの活動として,同説明会への参加者らを欺いて,宝飾品又は現実には存在せず製造の実現可能性もない「ペルーインカ帝国3000年記念金貨コイン」の連鎖販売取引名下に金員を詐取しようと企て,それぞれが前記任務分担に従って行動し,詐取した金員をグランドキャピタルグループが取得するものとして,上記組織により,真実は出捐を受けた金員を,従前のグランドキャピタルグループへの出捐金に対する配当金や紹介料等の支払い,グランドキャピタルグループ所属の従業員の給料など同グループの運営経費,被告人の遊興費等に費消することを予定し,かつ,他に資金を調達する確実な見込みもなく,配当金を支払うための資金繰りが破綻に瀕しているのに,これらの事情を秘匿した上,グランドキャピタルグループの資金繰りが順調であって,約定に従った金員を確実に交付することができる旨を装い, 第1 平成14年7月6日ころから同年8月2日ころまでの間,別表(略)1記載のとおり,4回にわたり,鹿児島県指宿市j町kのFホテルほか3か所において,V1(54歳)ほか3名に対し,「グランドキャピタル社では,今度,ペルーにグランドキャピタルペルーという会社を設立し,ペルーインカ帝国3000年記念金貨コインを発行することになりました。コースは100万円,500万円,1000万円の3コースです。100万円のコースの方には毎月1枚金貨をお送りし,1年経ったら,その金貨1枚を12万円で買い取りますので,1年後には144万円になります。このペルー金貨についてはペルーに銀行を開設し,そこでお金を運用して利益を上げるので,会員には絶対に損はさせません。また,金貨自体も非常に価値の高い物ですし,手元に置いて値上がりを待つこともできます。皆さん是非入会してください。」などと虚偽の事実を申し向け,V1ほか3名をして,それぞれ約定どおりの金員を確実に受け取れる旨誤信させ,よって,同年7月23日から同年8月29日までの間,4回にわたり,新潟市j丁目k番地GビルのH郵便局ほか3か所から,グランドキャピタル社名義の東京都新宿区d丁目m番n号のI郵便局の郵便貯金口座(以下「本件郵便貯金口座」という。)又は同区o丁目p番q号の株式会社J銀行新宿支店の普通預金口座(以下「本件銀行口座」といい,本件郵便貯金口座と合わせて「グランドキャピタルの口座」という。)に振込入金させる方法で,前記「ペルーインカ帝国3000年記念金貨コイン」の連鎖販売代金名下に現金合計422万円を交付させて,その利益をグランドキャピタルグループに帰属させ, 第2 平成14年7月10日ころから同月12日ころまでの間,別表(略)2記載のとおり,6回にわたり,福島県郡山市r丁目s番t号Kのグランドキャピタル株式会社東北支社(以下「東北支社」という。)ほか3か所において,V2(54歳)ほか5名に対し,「今回のキャンペーンは,「3か月で2倍」です。コースは150万円,500万円の2コースがあります。150万円のコースですと,それで宝石1個を購入していただくと同時に,皆様には宝石の販売委託契約を我が社と結んでいただきます。その契約に基づいて,3か月にわたって105万円ずつ合計315万円を我が社から皆様の口座に振り込みますので,最終的に,最初の2倍の金額が皆様のお手元に届くことになります。」,「今回だけ特別です。明日までに入金された方だけに限られます。」,「我が社は相変わらず順調に高い収益を上げ続けています。」などと虚偽の事実を申し向け,V2ほか5名をして,それぞれ約定どおりの金員を確実に受け取れる旨誤信させ,よって,同年7月11日から同月12日までの間,8回にわたり,福島県郡山市u番地のL郵便局ほか4か所から,グランドキャピタルの口座に振込入金又は前記グランドキャピタル社本店事務所で現金を交付させる方法で,連鎖販売代金名下に現金合計3255万円を交付させて,その利益を前記グランドキャピタルグループに帰属させ, 第3 平成14年7月5日ころから同年7月22日ころまでの間,別表(略)3記載のとおり,23回にわたり,グランドキャピタル東北支社ほか7か所において,V3(62歳)ほか22名に対し,「グランドキャピタル社は,宝石貴金属の販売や貸金業その他の事業を展開している会社で,皆さんから預かったお金をこれらの事業に運営して,かなりの収益を上げています。グランドキャピタル社で宝石販売の委託契約をすれば,宝石購入代金に応じて1年後には合計で宝石購入代金の2倍の配当金が入ります。」又は「3か月後には合計で宝石購入代金の2倍の配当金が入ります。」などと虚偽の事実を申し向け,前記V3ほか22名をして,それぞれ約定どおりの金員を確実に受け取れる旨誤信させ,よって,同月5日から同月26日までの間,24回にわたり,福島県喜多方市vの株式会社M銀行N支店ほか21か所から,グランドキャピタルの口座に振込入金又はグランドキャピタル社本店事務所で現金を交付させる方法で,連鎖販売代金名下に現金合計6934万8000円を交付させて,その利益をグランドキャピタルグループに帰属させ, もって,それぞれ団体の活動として,詐欺の罪に当たる行為を実行するための組織により,人を欺いて財物を交付させた。 (法令の適用) 罰      条  いずれも刑法60条,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条1項9号(刑法246条1項),平成16年法律第156号による改正前の刑法(以下「改正前刑法」という。)12条1項(刑法6条,10条) 併合罪加重  刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い別表(略)第3番号11の罪の刑に改正前刑法14条(刑法6条,10条)の制限内で加重) 未決勾留日数の算入  刑法21条 訴訟費用の不負担  刑訴法181条1項ただし書 (量刑事情に関する被告人の主張についての判断)  なお,被告人は,(1)グランドキャピタルグループを発足させた当時は,配当金は,金融業や卸問屋等を営むなどして資産運用することで約定どおりの配当金を支払っていくことができると思っており,当時は,破綻するであろうとの認識がなかった,(2)自分が予想した以上に上位会員が金を集め,急激に会員が増えたのでマルチまがい商法をやめようと思ったことがあり,平成13年8月ころにもマルチまがい商法をやめることを考えたが,いずれの際も,上位会員の反対でやめられなかったと主張するので,以下検討する。  まず,(1)についてであるが,被告人は,出捐金が1年後には2倍になるという約定で金を集めるいわゆる2倍商法を開始したところ,その約定を履行しようと思えば,資産を1年で2倍以上に増やすような運用をする必要があるが,そのような資産運用が当時の経済状況の下では不可能に近いことは認識できたはずである上,貸金業か卸売業等で資産運用することを考えていたと言うが,あらかじめ貸金業等を開始するための準備などは何らしていなかったもので,計画と言うに値しない単なる被告人の思い,希望の域を出るものでなかったと見るべきである。被告人は同様の商法を行っていたOの営業方法を真似て自分でも何とかなると思ったと言うが,当時,同社は営業を開始したばかりであり,実績のないことは被告人も認識していたと認められる。また,被告人は,グランドキャピタルグループを立ち上げる当初からaaという偽名を名乗り,グランドキャピタル社の代表取締役に自らは就任せず,bbを代表取締役として登記していることなども認められる。  以上からすると,被告人は,収益の挙がる運用を試みることなく2倍商法を展開し,収益が成り立たずにいずれ破綻することは認識していたと認められ,このことをもって量刑上有利に斟酌すべきではない。  次に,(2)について見ると,被告人の予想に反して上位会員の活動により入金額が激増したため,被害が拡大したと言うが,上位会員を勧誘し,加入させ,ロイヤリティなどの報酬を与えたのは他ならぬ被告人であり,仮に被告人の予想以上に金が集まった結果,収支の著しい悪化を招いたとしても,それは自ら招き,またある程度予想された事態であると言うべきである。  さらに,被告人が上位会員の意向をできる限り尊重していたことは確かであり,上位会員の意向であれば,少々のわがままでも聞き入れていた節が窺われる。しかし,関係各証拠によれば,被告人がグランドキャピタルグループの営業,人事,財務全般を完全に掌握していたことが認められ,実際,被告人の意に添わない会員については,除名するなどしているのであり,被告人がその要求を拒絶することは可能であったと認められる。被告人が上位会員の意見を採り入れたのは,そうすることが組織を維持し,さらに新規会員を獲得し,出捐金を増加させるのに得策だと判断したからであり,被告人が重要事項に関する意思決定を専権として行っていたことを否定することにはならない。  また,平成13年8月ころマルチまがい商法をやめるか普通のマルチ商法に転換することを考えた際も,上位会員の反対でやめられなかったとの主張についても,グランドキャピタルグループ立上げ以来,2倍商法といわれるマルチまがい商法を行っており,その商法の性質上,一定時期が来れば到底配当をなし得ない状態になることは容易に予測し得たのであり,そして,そのような段階でやめるといえば,既に入会している会員からマルチまがい商法を中止することに苦情を言われることも当然予測できたことである。したがって,上位会員の反対があったことをもって,同商法を継続したことについてのやむを得ない事情と見ることはできない。  結局,被告人の主張は,上位会員の活動も被害拡大の原因となっていることを指摘する限りでは相当であるが,上位会員を利用して,これとの共生的関係を築き,不法利益を享受していた被告人にとって,有利に斟酌すべき事情にはならない。 (量刑事情) 1 事案の概要   本件は,被告人が,連鎖販売取引を装いつつ,実際は,その商品代金名下に金員の出捐を受けて利益を図ることを目的とするグランドキャピタル株式会社を中心とするグランドキャピタルグループという組織を利用して,配当金を支払うための資金繰りが破綻に瀕しているのに,これを隠して,約定どおりの配当金を確実に支払うことができるように装って,宝石販売の委託契約をすれば出捐金が元本保証で2倍の配当金が得られるなどと申し向けて組織的に詐欺を行い,延べ33人から合計1億0611万8000円を詐取したという組織的犯罪処罰法違反の事案である。 2 犯行の経緯   まず,グランドキャピタルグループによる一連のマルチまがい商法がなされた経緯を見ると,被告人は,マルチ商法会社の従業員として働いた後,平成12年に独立したが,半年余りで倒産し,そのころ,2倍商法をしている会社を知って,自分でもマルチまがい商法を行うことを決め,平成13年2月ころグランドキャピタル社を設立し,当初から2倍商法と称して,安価な宝石を高額の商品とし,商品販売代金の名目で金員を受け取り,この金員を1年後には2倍にすると約束し,受け取った金員を12か月に分割して配当金等の名目で金員を支給し,13か月後に残額を支払うという契約システムで会員を募集し始めた。   さらに,被告人は,様々なマルチ商法を次々と渡り歩く者,いわゆるマルチネットワーカーを会員に取り込み,同会員を新規会員の獲得に当たらせるとともに,会員が新規会員を紹介すると,「商品販売報酬」等の名目で,同人が紹介した会員がさらに新規会員を紹介すると,「商品販売差益」,「ロイヤリティ」などの名目で,会員に順次報酬が支払われる契約システムを構築し,会員の新規会員獲得意欲をあおり,グランドキャピタルグループの会員と同グループへの出捐金の増加を図った。   また,会員勧誘に際しては,収益事業を営む実態がなかったにもかかわらず,グランドキャピタルグループがグランドキャピタル社を中核として多数の関連会社を有し,その事業で得た莫大な利益を原資として配当を行っているなどと,虚偽の説明をし,さらに,関連企業が多数あるかのように装うため,実体のないペーパーカンパニーを設立するなどした。その後,被告人は,平成13年6月ころには,実業を営んで資産を運用する意思を完全に放棄し,グランドキャピタルグループは,会員から受け取った金員を別の会員の配当に回すだけという実態になったが,被告人は,さらに会員の募集を続け,そのために全国各地の一等地のビル内にサロンと称する豪華な調度品を揃えた支店を次々と開設するとともに,説明会に著名人を招待して,講演させ,グランドキャピタルグループが豊富な資産を有するように見せかけるなどして,次々と新規会員を獲得していった。   平成13年12月28日,グランドキャピタルグループと同様の2倍商法を展開していたPグループが破綻したことで,グランドキャピタルグループの信用不安が起こり,新規獲得会員が減少し,資金繰りが悪化し,破綻寸前にまでなったが,被告人は宝石に換えて,絵画や健康食品などを名目上の商材とし,契約内容を変更するなどして,次々と新たな2倍商法を行うことで何とか破綻を免れた。そして,被告人は,平成14年6月末には,会員への支払も滞って苦情が殺到するなど,財務が破綻する状況に陥り,部下の共犯者らに指示し,実現不可能な「ペルーインカ帝国3000年記念金貨コイン」を商材にしたキャンペーン等を行い,本件各犯行を敢行したものである。 3 犯行の態様   各犯行は,全国に設置された豪華なサロンと呼ばれる12もの支店を利用し,また,全国各地の高級ホテルで著名人を交えた事業説明会を行うなど,組織的かつ計画的に広域にわたって行われたものである。第1の事実については,元Q大統領を説明会に呼んだり,金鉱山を背景にグランドキャピタル社の看板が写った写真を載せたパンフレットを示しながら,さもペルーインカ帝国3000年記念金貨コインの製造が現実にできるかのように見せかけ,巧みに多額の金銭を詐取している。また,第2及び第3の事実についても,支店などの説明会において,事業が順調に推移しているかのように装って申し込ませたり,期間限定,人数限定で早い者勝ち,今回限りであるなどと特別であることを殊更に申し向け,被害者の心理を巧みに突いたりするなど巧妙な方法を用いている。一連のキャンペーンでは,契約プログラムや商材について,被害者が飛びつきやすいように上位会員の意見を採り入れたり,営業トークについても被告人やCらが相談して練ったものにするなどしており,態様は極めて悪質である。 4 共犯者間の役割分担   ここで,共犯者間における量刑の均衡の重要性に鑑み,被告人並びに共犯者であるB,C,D,Eのそれぞれが本件犯行に果たした役割について見ておく。   まず,共犯者4名についてみると,Bは,平成13年7月ころ,グランドキャピタルグループに入社し,本件当時は,経営企画室長として,登記や契約書類などに関する法律的な諸手続を行っていたほか,著名人との折衝,顧問弁護士との打合せ,同グループが扱う商材に関する調査,ペルーにおける金貨等の製造や銀行営業の可能性の実地踏査など企画調査を担当し,被告人の指示を的確に実行することで同グループの運営に寄与したものであり,犯情悪質である。   Cについて見ると,平成14年1月初めころにグランドキャピタルグループに入社し,そのマルチまがい商法に加わり,それまでの浄水器販売などで培った営業能力を買われ,6月には同グループ営業本部長として営業のトップという役割を任され,各地の説明会において巧みな弁舌で被害者を次々と欺罔していったのであり,その他にも販売システムなどについて首謀者である被告人の相談に乗るなどしており,一連のマルチまがい商法による被害拡大に直接かつ大きく寄与していることが明らかで,その果たした役割は,D,Eに比べると大きなものといえる。   Dは,設立初期からグランドキャピタルグループの一連のマルチまがい商法に関与し,同グループの管理部長として,業務,書類,現金等の管理,会員の管理業務として,会員への対応,会員名簿等の内部資料の作成,管理などをしていたのであり,会員から得た金銭を配当に回すことが中心業務であったグランドキャピタル社において,会員等の管理,対応は重要業務というべきであり,Eと同様に罪責は重い。   Eについては,平成13年9月ころ入社し,その後平成14年2月以降,東京都内の同社GCC事業部に配属され,何らの資金運用もしていない会社であることを認識しつつ,6月にはGCC事業本部の管理部長の肩書きを与えられ,D同様に会員からの苦情への対応等を行っており,果たした役割は重要であり,Dと同様に罪責は重い。   そして,被告人は,本件犯行の首謀者であり,グランドキャピタル社の立上げからマルチまがい商法の確立,いわゆる商材と呼ばれる物の選定,グループの規模の拡大,人材の登用,配置,いわゆるマルチネットワーカーに対する勧誘などの重要な事項を行い,営業,人事,財務等の全般にわたって,グランドキャピタルグループを完全に一人で掌握した上,部下である上記共犯者らに指示していたものである。なお,既に判示検討したとおり,被告人においても,上位会員からの要望を尊重していたことは認められるが,新規会員の獲得や新規キャンペーンに協力してもらうことがグランドキャピタルグループにとって必要だったからであって,被告人の首謀者たる地位を制約するものとはいえない。そして,被告人は,グランドキャピタルグループによる一連のマルチまがい商法によって得た多額の金員を自己の個人的遊興費に被告人の供述するだけで900万円は費消しているほか,高級マンションに居住し,高級ホテルに宿泊し,著名人らと豪華な会食を頻繁に行い,高級腕時計などのぜい沢品を買い漁ることなどに費消している。これらによれば,共犯者中,被告人が最も犯情悪質で刑責が重いことは明らかである。 5 関与した動機など   被告人は,前記のとおり,本件以前にもマルチまがい商法をしていたが,他社の2倍商法を知り,簡単に多額の金を集められることから,同様の商法を起こして金銭を得ようと考え,グランドキャピタルグループを立ち上げ,事業欲や虚栄心などを満足させるとともに,破綻に瀕した後も,同グループを延命させるため,さらに金を集めたのであり,それらの動機に酌量すべき点はない。   また,被告人は,本件犯行後,これを反省するどころか,さらにCらとともにアメリカの架空の大学の学位取得を商材としたものなど複数のマルチまがい商法を主宰者の立場で主導的に行っており,被告人には,この種事犯に対する罪障感のなさや常習性がうかがわれる。 6 本件被害結果   次に,被告人らによる本件犯行がもたらした被害について見ると,起訴された分だけでも約1億円という非常に多額に上っている。これらの一部は,被害者が老後の生活資金や娘の結婚資金などとして蓄えておいたものや退職金なども含まれ,借金をしてまで捻出した者や,81歳の高齢者の被害者もおり,これらの被害者の受けた被害は,単に金銭的なものに止まらず,精神面でも大きく,影響は甚大である。しかも,その大半は被害回復がなされていない。多くの被害者が被告人らの厳重処罰を望んでいることは無理からぬものがある。もっとも,本件犯行の被害者の中には,以前に同様の被害に遭いながら,その損害を取り戻そうとしてであれ,再び本件で被害に遭った者などもおり,また,出捐した金員が3か月で2倍あるいは1年間で1.44倍になることは昨今の経済情勢を考えれば困難であることは容易に想像がつくところであり,やや軽率であったことは否めないが,被告人は積極的かつ巧妙に利殖意欲をあおって詐欺商法を敢行したのであるから,その刑責を減ずる事情と見るべきではない。   本件のような組織的で規模の大きいマルチまがい商法は,多数の被害者と莫大な被害額が生じ,社会的影響が大きく,この種の犯罪を禁圧する一般予防の見地からも,厳しく処罰する必要があり,特に首謀者については,その要請が強いといえる。   以上からすると,被告人の刑事責任は非常に重いといわざるを得ない。 7 被告人に有利な情状   しかしながら,被告人は,本件犯行を認め,公判廷で反省の弁を述べ,今後は二度とこのような違法行為を繰り返さず,地道に働くと誓って更生の意欲を示していること,75万円をグランドキャピタル社の破産管財人に被害弁償したり,被害者に謝罪文を送付するなど慰謝の努力をしていること,被害者の一部が被告人に対する寛大な処罰を求めていること,被告人には最近の前科はないこと,社会復帰した後の被告人を監督すると誓う者がいることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。   そこで,これらの諸事情を考慮し,主文の刑を量定した。 (求刑 懲役10年)  平成17年6月27日    大阪地方裁判所第9刑事部  裁判長裁判官   米 山 正 明  裁判官   丸 山   徹      裁判官   森 嶌 正 彦

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