H17.11.10 東京地方裁判所 平成17年合(わ)第329号等 強盗殺人等

「H17.11.10 東京地方裁判所 平成17年合(わ)第329号等 強盗殺人等」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

H17.11.10 東京地方裁判所 平成17年合(わ)第329号等 強盗殺人等」(2005/12/14 (水) 17:25:01) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

判示事項の要旨: パチスロにのめり込み金策に窮した被告人が,ゴールデンウィークを利用して上京していた女性に声をかけ,同人からキャッシュカードなどを窃取した後,殺害して金品を強取し,さらにその遺体を遺棄した等の事件。 平成17年11月10日宣告 窃盗,強盗殺人,死体遺棄,横領,詐欺,窃盗未遂,詐欺未遂被告事件 平成17年合(わ)第329号,同年刑(わ)第2605号 主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中110日をその刑に算入する。 理由 (認定事実) 第1 犯行に至る経緯   被告人は,高等学校を卒業後,平成12年4月に理学療法士になるための専門学校に入学し,同年夏ころから一人暮らしを始めたが,1年で専門学校を中退し,平成13年6月には前年秋ころからしていた診療助手のアルバイトも辞めると,毎日のようにパチスロをする生活を送るようになり,その元手を消費者金融からの借入れで賄うようになった。そのうちに,被告人は,借入金の返済をしなかったことから新たな借入れができない状態となって同年夏ころに実家に戻り,借入金は被告人の父親が肩代わりをして返済し,被告人も実家が経営する新聞販売店の手伝いなどをするようになった。しかし,被告人は,集金した売上金を無断で持ち出して家出をすると,仕事を転々としつつ稼いだ金員のほとんどをパチスロにつぎ込む生活を送るようになり, その後,平成15年7月ころに実家に戻り新聞配達店の仕事を再開したものの,仕事が好きになれず,副主任の立場に置かれたことでプレッシャーを感じたことや,忙しくて自分の時間をもてず,パチスロもできないことなどに次第に我慢ができなくなり,平成16年2月ころ,店の金庫に保管中の売上金を再度無断で持ち出して家を出ると,知人の部屋に居候をしながら漫画喫茶や風俗店等でアルバイトをして暮らしていた。 第2 罪となるべき事実  1(平成17年6月24日付け追起訴状記載公訴事実第1)  被告人は,平成16年6月1日,居候中の東京都新宿区内A方において,同人の財布から同人所有に係る現金20万円を抜き取り窃取した。  2(平成17年6月24日付け追起訴状記載公訴事実第2)  被告人は,平成17年3月に同せいを解消した女性から多額の借財をしており,同女からその返済を懇願されていたが,これを返済して同女と交際し直したいとの思いから,金員を得たいと考えていたところ,東京都中央区内株式会社B(代表取締役C)から,千葉県松戸市内アパートDa号室を備品付きで賃借して入居し,同室の備品を同社のため預かり保管中であったことをいいことに,平成17年4月19日,同室において,リサイクルショップE代表Fに対し,ほしいままに,同室の備品であるビデオ一体型テレビ等7点(時価合計8万7300円相当)を代金1万4000円で売却し,もって横領した。  3(平成17年6月24日付け追起訴状記載公訴事実第3)  被告人は,上記2の犯行で得た金員をパチスロに費消してしまい,金員を得ようと考えて,友人のG(当時22歳)から借用名下にノートパソコンを詐取しようと企て,平成17年5月1日午前10時ころ,東京都杉並区内同人方において,同人に対し,真実は借用後直ちに入質処分するつもりであるのにその情を秘し,「俺がホームページを作るからノートパソコンを貸してくれ。」などと言ってノートパソコン1台の借用方を申し込み,同人をして使用後に返還を受けられるものと誤信させ,よって,同日午後零時40分ころ,同所において,同人から,同人所有に係るノートパソコン1台(時価10万円相当)の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。  4(平成17年6月8日付け起訴状記載公訴事実第1)  被告人は,前記3記載の詐取に係るノートパソコンを2万円で入質して得た金員もパチスロにつぎ込んで費消してしまい,さらに,平成17年5月2日には前記3の被害者から執ようにノートパソコンの返還を求められ,警察に言うなどと迫られたことから,ノートパソコンを質屋から受け戻すための金員等を早急に入手する必要に迫られ,その金策に窮した末,女性に声をかけて親しくなり金員をせびり取ろうなどと考え,同日午後10時30分ころ,東日本旅客鉄道株式会社H駅東口付近において,I(当時19歳)に声をかけ,同女を千葉県松戸市内アパートDa号室の被告人方まで連れ帰り,同女と性交をして親しくなり金員をせびり取ろうとしたが,同女から性交を拒絶されたことから,これに対する憤激の情も相まって,同女が寝入った隙に キャッシュカード等を窃取しようと企て,同月3日午前6時ころ,上記被告人方において,上記Iの所有又は管理に係るキャッシュカード1枚,携帯電話機1台及び自動車運転免許証1枚(時価合計約5万1050円相当)を窃取した。  5(平成17年6月24日付け追起訴状記載公訴事実第4別紙一覧表番号1)  前記4記載の窃取に係るI名義のキャッシュカードを使用して金員を窃取しようと企て,別紙一覧表(省略)番号1記載のとおり,平成17年5月3日午前6時23分ころ,千葉県松戸市内のCDコーナーにおいて,同所に設置されたbキャッシュディスペンサーに同キャッシュカードを挿入するなどして作動させたが,同キャッシュカードが提携外銀行のカードであったため,その目的を遂げなかった。  6(平成17年6月8日付け起訴状記載公訴事実第2)  被告人は,前記5の犯行で金員を入手できなかったことから,全く思い通りに事が運ばないことに強くいらだち,前記Iを殺害して同女から金品を強取しようと企て,平成17年5月3日午前7時ころ,前記被告人方において,殺意をもって,同女の背後からその頸部を自己の右腕で締め付け,よって,そのころ,同所において,同女を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した上,同女所有に係る現金約1万2000円及び財布等134点(時価合計約2万9180円相当)を強取した。  7(平成17年6月24日付け追起訴状記載公訴事実第4別紙一覧表番号2及び3)    被告人は,前記4記載の窃取にかかるI名義のキャッシュカードを使用して金員を窃取しようと企て,別紙一覧表番号2及び3記載のとおり,平成17年5月3日午前9時4分ころから同日午前9時5分ころまでの間,前後2回にわたり,千葉県松戸市内郵便局において,同所に設置された現金自動預払機に同キャッシュカードを挿入するなどして作動させたが,暗証番号が合致しなかったため,その目的を遂げなかった  8(平成17年6月24日付け追起訴状記載公訴事実第4別紙一覧表番号4ないし6)    被告人は,前記4記載の窃取にかかるI名義のキャッシュカードを使用して金員を窃取しようと企て,別紙一覧表番号4ないし6記載のとおり,平成17年5月3日午後零時55分ころから同日午後零時56分ころまでの間,前後3回にわたり,前記千葉県松戸市内郵便局において,同所に設置された現金自動預払機に同キャッシュカードを挿入するなどして作動させたが,暗証番号が合致しなかったため,その目的を遂げなかった。  9(平成17年6月24日付け追起訴状記載公訴事実第5)  被告人は,前記Iを殺害した後,同女が生存しているように装い,同女の母であるJ(当時50歳)から金員を詐取しようと企て,平成17年5月3日午後7時20分ころから同日午後8時10分ころまでの間,千葉県松戸市内において,前記4記載の窃取に係る携帯電話機を使用して青森県八戸市内J方に電話をかけ又は同女から上記携帯電話機に電話を受けた際,同女に対し,「Iさんが店のレジから8000円を盗んじゃったんですよ。店の者が警察に連れて行ってしまったんです。私としては8000円を返してくれれば告訴を取り下げてもいいと思ってるんですよ。Iさんが店にキャッシュカードを置いていったので,そのキャッシュカードで8000円を下ろして弁償に充てることができれば告訴を取り下げるんですけど。ただ,Iさんが警 察にいて連絡を取ることができないので,キャッシュカードの暗証番号を教えていただけますか。」などとうそを言って上記Jから暗証番号を聞き出し,後記10の犯行により前記I名義の銀行口座に残高がないことを知ってこれを上記Jに伝えたところ,同女から同銀行口座に振込入金する旨言われるや,同女に対し,「分かりました。では,Iさんの口座に8000円を振り込んでください。」などと言い,上記Jをして,前記Iが窃盗事件を起こしており,上記金額を振り込めば同女が警察から釈放される旨誤信させたが,後記11記載のとおり,Kから現金5万円を詐取できたため,上記J及び上記Kに上記及び後記11記載のうそが発覚するのをおそれ,上記Jに電話をかけて現金8000円の振込入金を中止させ,その目的を遂げなかった。  10(平成17年6月24日付け追起訴状記載公訴事実第4別紙一覧表番号7)    被告人は,前記4記載の窃取にかかるI名義のキャッシュカードを使用して金員を窃取しようと企て,別紙一覧表番号7記載のとおり,平成17年5月3日午後7時56分ころ,千葉県松戸市内コンビニエンスストアにおいて,同所に設置された現金自動預払機に同キャッシュカードを挿入するなどして作動させたが,口座残高がなかったため,その目的を遂げなかった。  11(平成17年6月24日付け追起訴状記載公訴事実第6)  被告人は,前記IがK(当時20歳)に保管を依頼していた金員を同女から詐取しようと企て,平成17年5月3日午後8時15分ころ,千葉県松戸市内において,前記4記載の窃取に係る携帯電話機を使用して川崎市内アパートLに在室していた同女に電話をかけ,同女に対し,「警察の者ですが,Iさんがバイトをしていてレジのお金を盗ったんです。相手の方はお金を返してくれれば訴えるとは言っていない。Iさんは荷物の中に7万円くらい入っていると言っているが見て下さい。」などとうそを言い,上記Kから前記Iが保管していた現金がある旨言われるや,上記Kに対し,「店の人はそのお金を直接持って来てくれれば訴えることはしません。Iさんは明日の昼には出れます。今から持って来てくれますか。」などとうそを言い,上記Kを して,前記Iが窃盗事件を起こしており,同女が保管していた現金を持参すれば同女が警察から釈放される旨誤信させ,よって,同日午後9時50分ころ,東京都荒川区内東日本旅客鉄道株式会社M駅南口N橋上において,上記Kから,前記Iが保管していた現金5万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。  12(平成17年6月8日付け起訴状記載公訴事実第3)  被告人は,前記Iの死体の処置に窮し,平成17年5月6日午後10時45分ころ,前記被告人方先路上において,同女の死体をトラベルバッグに入れて普通乗用自動車に積載し,同所から千葉県柏市内先路上まで運搬した上,同日午後11時10分ころ,同所先の水田内にこれを投げ捨て,もって死体を遺棄した。 (量刑の理由)  1 本件は,被告人が,(1)友人方に居候中に同人の現金を窃取し,(2)賃借中の部屋に備え付けられていた備品を売却して横領し,(3)友人から借用名下にノートパソコン1台を詐取し,さらに,(4)H駅で声をかけ自宅に連れ帰った女性からキャッシュカード等を窃取した上,(5)このカードを用いて数度にわたり現金自動預払機等から金員を窃取しようとしたが目的を遂げず,(6)その女性を自宅で殺害して金品を強取し(以下「被害女性」という場合には,上記(4)及び(6)の被害者を指す。),その後,被害女性の携帯電話機を利用して,(7)被害女性が盗みをして警察に連れて行かれたなどとうそをついて同女の母親から被害弁償名下に金員を詐取しようとしたが,この犯行の間に上記と同様のうそをついて被害女性の友人から被害弁償名下に金員を詐取することに 成功したため,上記うそが露見して自己の犯行が発覚することをおそれて被害女性の母親に対する詐欺の犯行を遂げず,(8)上記のとおり被害女性の友人から金員を詐取し,(9)被害女性の遺体を遺棄したという各事案である。  2 まず,判示第2の1の犯行についてみると,被告人は,パチスロなどをする遊興費欲しさから,居候をさせてもらっていた友人方において,同人の財布から現金20万円を窃取したものであり,その犯行動機はあまりに身勝手で,同人の被告人に対する信頼を裏切る卑劣な犯行といえる上,被害金額も少なくなく,態様は悪質である。  3 次に,判示第2の2の犯行についてみると,被告人は,平成17年3月まで同せいしていた女性から借入れを繰り返し,また,同女のバッグを無断で質入れしたり,同女名義で消費者金融から借入れをさせたりしてパチスロ等に費消していたため,同女に返済すべき金額が合計100万円を超えていたところ,同女と再びやり直すために,パチスロで大もうけをして一括してこれを返済しようと考えて,その元手を得るために,当時被告人が賃借していた部屋内の備品を売却して横領したものである。多額の返済をせざるを得なくなった原因が被告人の収入に見合わないパチスロによる浪費にあるのは明らかであり,その経緯に酌量の余地はなく,また,その返済資金を借財の原因となったパチスロでもうけようなどと考えた点も,安易かつ思慮浅薄とい わざるを得ない。その犯行態様も,入居してわずか1か月も経過していない部屋内の備品を,何らのちゅうちょもなく売却したものであって,短絡的かつ悪質である。  4 さらに,判示第2の3の犯行についてみると,被告人は,判示第2の2の犯行により入手した金員もパチスロに費消すると,所持金がない状態の中で,何とかパチスロをするための元手を得ようと考えて,バンド仲間である友人宅に行って金員を借りようとしたものの,これが難しいと知ると,目に付いたノートパソコンを詐取することを思いつき,実行したものである。被告人は,当初から入質する意図であるのにこれを秘し,バンドのホームページを作ろうなどともっともらしい理由をつけてこれを信用した同人をだましており,本件は友人の被告人に対する信頼を裏切る卑劣なものといえる。  5(1) 被告人は,判示第2の3の犯行により入手したノートパソコンを入質して得た金員を増やそうとしてパチスロをしたもののうまく行かず,同年5月2日に別の友人から金員を借り入れようとしてこれにも失敗し,さらに,判示第2の3の被害者から執ようにノートパソコンの返還を求められ,警察に言うなどと迫られたことから,ノートパソコンを質屋から受け戻すための金員等を早急に入手する必要に迫られるようになった。そこで被告人は,今度は女性に声をかけて親しくなり,金員をせびり取ろうなどと考えた上,被害女性に声をかけ,被告人宅まで連れ込んだ後に同女と性交しようとしたが,これを拒絶されて憤慨し,こうなったら何としてでも金員を入手しようと考えて,同女が寝入った隙にかばんの中の財布からキャッシュカード等を窃取 し(判示第2の4),これを用いて現金自動預払機等から金員を窃取しようとした(判示第2の5,7,8及び10)ものである。被告人は,金員を得る目的で被害女性に声をかけ,思い通りにならないとみるや,何らのちゅうちょなく前記各犯行に及んでいるのであるから,その犯行動機は身勝手極まりなく,前記一連の犯行と併せ考えても,被告人の財産犯の犯罪傾向は顕著であるということができる。また,その犯行態様をみても,被告人は,判示第2の4の犯行の際,キャッシュカードの暗証番号を推測するために,被害女性の運転免許証を見て生年月日を確認し,判示第2の5,7及び8の各犯行では,あらかじめ購入したマスクを着用して防犯カメラに顔が写らないようにするなど,いずれも冷静で周到といえる。  (2) 被告人は,判示第2の5の犯行後,被害女性と性交をして親しくなり金員を入手できると考えた当初のもくろみが外れ,窃取したキャッシュカードでも金員を入手できなかったことから,全く思い通りにならないことに強くいらだつとともに,前夜知り合ったばかりの被害女性と自分との関係は薄く,窃取した被害女性の携帯電話機の電子メール送信履歴を確認しても自分に直接つながるような内容のものはなかったことから,被害女性を殺害しても警察に捕まらないのではないか,いっそ同女を殺してでも金を奪おう,同女なんかいなくなっても誰も困らないなどと一方的に考え,判示第2の6の犯行に及んだものである。被告人が金に困窮するに至った原因は,自らの無計画な生活態度を何ら改めることなくパチスロにのめり込んだことにあるのであ って,この点に酌むべき事情はなく,その後もパチスロを止めることなく,一かく千金を夢見てその元手を入手するために次々と犯罪行為に及び,ついには被害女性を殺害してまで金品を強取するに至ったというのであり,その犯行動機は結局のところ,いくらかの金銭を得たいということに尽きるのであって,あまりに身勝手で愚かしい限りであり,厳しく責められるべきである。  また,判示第2の6の犯行態様は,柔道経験のある被告人が,その技をかけるようにして,眠っていた被害女性の背後から頸部に右腕を巻き付け,左手で頭部を前方に押し出すようにして締め付け,目を覚ました同女が足をばたつかせて必死に抵抗し,被告人とともにベッドから落ちると,同女の背後から覆い被さった状態で,身体の上に自己の体重を乗せて押さえ込み,同女の頭部を床に押し付けたり,上体を反らせたりして頸を締め続け,ついに同女を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害したものであって,強固な殺害意思に基づく冷酷な犯行である。  (3) そして,被告人は,被害女性を殺害して金品を強取した後,判示第2の4の犯行で窃取した同女の携帯電話機を用い,同女が警察に捕まったなどとうそをついて同女の母親からキャッシュカードの暗証番号を聞き出し,さらに同人から金員を詐取しようとする一方(判示第2の9),生前に被害女性から聞いた話から同女の所持金が最低でも7万円はあるはずだと考え,その在りかはどこかと考えを巡らせて,同女の携帯電話機に何度も電話をかけてきた同女の友人が預かっているのかもしれないと当たりをつけ,同人に同様のうそをついてその管理に係る金員を詐取している(判示第2の11)。被告人は,すでに自ら被害女性を殺害していたにもかかわらず,平然と同女が生きているかのように装って,同女の家族や友人に電話をして,被害女性の安否 を気遣う親族や友人の心情を逆手に取って金員を詐取し,あるいは詐取しようとしたものであり,非情というほかはない。しかも,被害女性の母親と友人が互いに連絡を取って上記各犯行が発覚することとなることを防ぐため,被害女性の友人に母親は動揺しているので連絡をしないよう告げるなどしており,この点においても冷静でこうかつといえる。  (4) さらに,被告人は,トラベルバッグを購入した上,その中に被害女性の遺体を押し込んで自宅から運び出し,これを水田内に投げ捨てて遺棄して判示第2の12の犯行に及んでいる。このような犯行態様は,被害者の尊厳を更に傷つけるものであって,そこには自らの行為に対する悔悟の念や,被害女性に対するれんびんの情など全くうかがうことができない。  (5) 被告人の犯行によって,まだ19歳と若い被害女性の命が奪われたのであり,生じた結果は極めて重大で,二度と取り返しがつかないものである。被害女性は,親元を離れて自立した生活を始めたばかりであり,5月の連休を利用して上京し,その後は実家に戻って家族と共に休暇を過ごすはずであったにもかかわらず,被告人の身勝手極まりない犯行によって,突如として命を絶たれ,その将来のすべてを奪われたのであるから,被害女性の無念さは多大であったと推察される。  被害女性の姉らは,母の日に一緒に母や祖母に贈るプレゼントを用意して被害女性の帰りを待っていたのであり,また被害女性も,母親や姉からの手紙を最後まで大切に持ち歩いていたのであるから,家族のつながりは非常に強かったと認められ,それだけに,理不尽にも被害女性を奪われた遺族の受けた衝撃は甚大である。被害女性の母親は,「本当に犯人がにくい!本当に生きたままのIをかえしてほしい,被告人にはこの世に存在すべきでないくらいの重い罪の裁きを願う次第です。」旨述べ,被害女性の姉も「私たちはあなたを一生何があっても許すことは決してできません。」などと述べてその悲しみの深さを語っており,被告人に対しては,しゅん烈な処罰感情を示している。  以上の事実からすれば,被告人の刑事責任は,誠に重大である。  6 しかしながら,他方,被告人は,捜査・公判段階を通じて事実を認め,生涯償っていきたい旨述べて反省の態度を示していること,判示第2の1の被害者に示談金として10万円を,判示第2の2の被害者に賠償金として50万円を,被害女性の遺族に見舞金として300万円をそれぞれ支払ったこと,判示第2の3の被害者に被害品が還付されていること,被告人の父親が当公判廷に証人として出廷し,被告人共々,被告人が犯した罪の重さを生涯背負ってお詫びしていきたい旨述べていること,被告人にはこれまで前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。  7 そこで,被告人の量刑であるが,以上のような諸事情を総合考慮して無期懲役刑を選択することとするが,被告人のために酌むべき前記の諸事情その他諸般の事情を最大限考慮しても,酌量減軽をすべき余地はなく,被告人については,無期懲役刑に処するのが相当である。  よって,主文のとおり判決する。 (検察官大林潤公判出席) (求刑 無期懲役) 平成17年11月10日 東京地方裁判所刑事第7部 裁判長裁判官   小 川 正 持     裁判官   水 上   周     裁判官   川 尻 恵理子

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。